説明

無機質焼成体

【課題】本発明は、ガラス質含有材料を多く含む無機質焼成体用基材の表面が釉薬によって浸蝕されずに良好な釉面を持つ、1200℃以下の低火度で焼成された無機質焼成体を提供するものである。
【解決手段】 水硬性無機質材料としての高炉スラグとガラス質含有材料を原料として含む無機質焼成体用基材の表面を、性状の異なる釉薬を二重掛けで施釉して、1200℃以下の低火度で焼成して得られる無機質焼成体であって、下塗りに施釉される釉薬の釉薬組成物は、Bを含まず、少なくとも可塑性材料と、非可塑性材料と、媒溶性材料とを含み、全固形分に対して、前記可塑性材料は25〜55質量%であり、前記非可塑性材料は5〜20質量%であり、前記媒溶性材料は40〜60質量%であることを特徴とする無機質焼成体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス質含有材料を多く含む無機質焼成体用基材の表面に釉薬が施釉された無機質焼成体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からケイ酸質原料、石灰質原料、あるいはセメント等の水硬性無機質材料を用いて板状に成形して硬化して無機質焼成体用基材となし、その後焼成することで得られた無機質板は、耐久性に優れており、さらに優れた美感や質感を有し、高級感のある外壁板等の建築板として有用である。
例えば、特開2005−194143号公報には、水硬性無機質材料としてスラグ及び消石灰を使用して板を成形したのち硬化し、その後焼成することが開示されており、さらに特開2005−194144号公報には、スラグ及び消石灰を含む原料で3層形状の焼成体を製造する方法が開示されている。
次に、無機質焼成体用基材には焼成前に、さらに、施釉することが行われるが、スラグやガラス質含有材料等のガラス質を多く含む基材に対しては、一般的に使用されているフリット釉を施釉すると、フリット中のB成分や比較的低温域で生成する溶融粘性の低いガラス相などによって無機質焼成体用基材が浸蝕される懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−194143号公報
【特許文献2】特開2005−194144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、ガラス質含有材料を多く含む無機質焼成体用基材の表面が釉薬によって浸蝕されずに良好な釉面を持つ、1200℃以下の低火度で焼成された無機質焼成体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するために、
本請求項1に記載の無機質焼成体は、水硬性無機質材料としての高炉スラグとガラス質含有材料を原料として含む無機質焼成体用基材の表面を、性状の異なる釉薬を二重掛けで施釉して、1200℃以下の低火度で焼成して得られる無機質焼成体であって、下塗りに施釉される釉薬の釉薬組成物は、Bを含まず、少なくとも可塑性材料と、非可塑性材料と、媒溶性材料とを含み、前記可塑性材料は、蛙目粘土、木節粘土、カオリン、タルクの中から選択される1つ以上の材料であり、前記非可塑性材料は、珪石、焼きカオリン、陶石、蝋石、セルベン、シャモット、ジルコンの中から選択される1つ以上の材料であり、前記媒溶性材料は、長石、石灰石、ドロマイト、亜鉛華、炭酸リチウムの中から選択される1つ以上の材料であり、全固形分に対して、前記可塑性材料は25〜55質量%であり、前記非可塑性材料は5〜20質量%であり、前記媒溶性材料は40〜60質量%であることを特徴とする。
【0006】
また、本請求項2に記載の無機質焼成体は、請求項1に記載の無機質焼成体において、上塗りに施釉される釉薬がフリットを含むマット釉からなることを特徴とする。
【0007】
また、本請求項3に記載の無機質焼成体は、請求項2に記載の無機質焼成体において、前記マット釉からなる釉面がつや消し面からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にあっては、無機質焼成体用の基材がガラス質含有材料を多く含んでいるにもかかわらず、1200℃以下の低火度で焼成されても無機質焼成体用基材の表面が釉薬によって浸蝕されずに、良好な釉面を持ち、基材の反りも少なく、しかも耐クラック性や耐経年貫入抵抗性の良好な無機質焼成体を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0010】
発明にかかる無機質焼成体は、可塑性材料と非可塑性材料と媒溶性材料とを主成分とする釉薬組成物が、無機質焼成体用基材の表面に下塗り釉薬として施釉されている。
【0011】
[可塑性材料]
可塑性材料とは、成形、つまり形を作る際に必要な性質である可塑性を与える材料で、具体的には、蛙目粘土、木節粘土、カオリン、ハロサイト、セリサイト、ベントナイト、ドロマイト、等の粘土類がある。
実施例では、可塑性材料として、蛙目粘土を使用したが、他に、木節粘土やカオリン、タルク、或いはこれらの組み合わせを使用することも可能である。
【0012】
[非可塑性材料]
非可塑性材料とは、焼成時に発生する収縮による亀裂やひずみを防止し、更にアルカリと反応してガラス相を生成することにより、機械的強さを与える材料で、具体的には、ケイ石、珪藻土、キラ、シリカフューム、シャモット等がある。
本実施例では、非可塑性材料として、珪石、陶石、焼きカオリン、ジルコンを使用したが、他に、蝋石やセルベン、シャモット、或いはこれらの組み合わせを使用することも可能である。
【0013】
[媒溶性材料]
媒溶性材料とは、焼成時に低温度でガラス相を生成し、可塑性材料、非可塑性材料を溶かし込む素地となる材料であり、具体的には長石、ドロマイト、石灰石、マグネサイト、滑石等がある。
本実施例では、媒溶性材料として、長石、石灰石、亜鉛華、炭酸リチウムを使用したが、他に、ドロマイト、或いはこれらの組み合わせを使用することも可能である。
【0014】
[その他]
本発明にかかる下塗り釉薬の釉薬組成物には、着色材料として無機顔料が添加されていてもよい。例えば、コバルト化合物(青)、マンガン化合物(褐色又は紫)、ニッケル化合物(緑、青又は赤)、ウラニウム化合物(黄、赤又は黒)、クロム化合物(赤又は緑)、鉄化合物(黄、褐赤、又は赤)、銅化合物(緑)、チタン化合物(黄)、金化合物(黄緑)、セリウム‐モリブデン化合物(明青)、セリウム‐チタン化合物(黄)、リン酸プラセオジウム(緑)、リン酸ネオジウム(バラ赤色)等の中から発現される色調を考えて適宜選ばれる。
【0015】
[組成配合]
可塑性材料と非可塑性材料と媒溶性材料との配合比率は、可塑性材料は25〜55質量%であり、非可塑性材料は5〜20質量%であり、媒溶性材料は40〜60質量%である。
可塑性材料が25質量%未満だと、耐火度が下がるので、上塗り釉薬(glaze)の基材浸蝕作用を抑制することが困難であり、55質量%より多いと、乾燥収縮が大きくなるので亀裂等の懸念があり、さらには耐火度が高くなり過ぎるために密着性(融着性)に劣り、しかも熱膨張が小さくなりすぎるため、釉飛び等の問題がある。
ここで、耐火度とは、釉薬の焼成する度合いを示すものであり、1300℃前後で焼成する高火度の釉薬と、1000℃前後で焼成する低火度の釉薬とに大きくは分類される。
釉飛びとは、釉薬の熱膨張係数が基材の熱膨張係数よりも著しく小さい場合に基材から釉薬が剥離して飛んでしまう現象をいう。
また、非可塑性材料が5質量%未満だと、乾燥収縮を低減する効果が認められず、20質量%よりも多いと、熱膨張係数が大きくなるため、反り等への影響が発生する。
また、媒溶性材料が40質量%未満だと、釉薬組成物は反応性に劣るので、基材との密着性(融着性)に劣り、60質量%より多いと、耐火度が下がるので、上塗り釉薬の基材浸蝕作用を抑制することが困難であり、さらに、熱膨張係数が大きくなるため、反り等への影響が発生する。
【0016】
上述した組成配合によって形成された釉薬組成物を、無機質焼成体用基材の下塗り釉薬(engobe)として使用する。
一方、本発明にかかる釉薬組成物が施釉される無機質焼成体用基材は、水硬性無機質材料とガラス質含有材料と骨材と補強繊維と可燃性有機成分とリジェクトとを主成分としている。
特に水硬性無機質材料として、スラグ等のガラス質を多く含む原料を基材の原料として使用する場合には、B等を含む上塗り釉薬が直接基材に施釉された際に、基材が浸蝕されて基材表面が凸凹になってしまう危険性がある。
これに対して、Bやフリットが添加されていない本発明にかかる釉薬を下塗り釉薬としてまず施釉し、その上から、さらに上塗り釉薬を施釉すれば、基材が浸蝕される危険性が減少すると共に、上塗り釉薬と基材との密着性、融着性が向上する。
【0017】
[無機質焼成体用基材]
本発明の釉薬組成物が施釉される無機質焼成体用基材は、セメントや高炉スラグ、消石灰等の水硬性無機質材料と、シラスやフライアッシュ、ガラス粉等のガラス質含有材料と、珪石粉やシャモット、陶石粉、パーライト、粘土類等の骨材と、無機繊維や有機繊維等の補強繊維と、発泡ポリスチレンビースや発泡ポリプロピレンビーズ、ポリビニルアルコール樹脂等の可燃性有機成分、焼成体の粉砕物やタイルセルベン等のリジェクトとからな る。
本発明にかかる釉薬組成物が施釉される無機質焼成体用基材の原料として最も好ましいものは、水硬性無機質材料としての高炉スラグと消石灰、ガラス質含有材料としての軟化温度が900℃以下の低融点ガラス粉末、骨材としての珪石粉、陶石粉とタイルセルベン、補強繊維としてのワラストナイトとビニロン繊維、可燃性有機成分としての発泡ポリプロピレンビーズとポリビニルアルコール樹脂、リジェクトとしてのタイルセルベンである。
その他、適宜必要な材料、例えば、無機顔料等が添加される。
上述の原料から、無機質焼成体用基材を製造するために、水硬性無機質材料15〜35質量%、ガラス質含有材料1〜15質量%、骨材5〜45質量%、補強繊維15〜35質量%、可燃性有機成分0.2〜10質量%、リジェクト5〜50質量%、さらに添加水5〜20質量%を加えて混合し、原料混合物とする。
次に、前記原料混合物をプレス成型機によりプレス成型し、無機質焼成体用基材とする。
プレスは下盤と枠部とからなるキャビティ(窪み)内に原料混合物を散布混入し、枠部の上から、上盤にて圧縮プレスする。
上盤には型板が貼着されており、型板は金型であることが、好ましく、エンボス柄などが形成されていてもよい。
そして、得られた無機質焼成体用基材の上に施釉を行う。
【0018】
[施釉方法]
次に本発明に係る釉薬組成物の施釉方法について説明する。
まず、上述した無機質焼成体用基材の上に、本発明の釉薬組成物を下塗り釉薬として施釉する。
無機質焼成体用基材は、乾燥させておくことが好ましい。
施釉方法としてはスプレー掛け、流し掛け、浸し掛け、塗り掛け等の公知の方法が適用される。
施釉量は、100〜250g/mが適当な量である。
さらに続いて、上塗り釉薬を施釉する。
上塗り釉薬として特に限定はないが、1200℃以下の低火度焼成なので、フリット釉をはじめ、低火度の釉薬が好ましい。
施釉方法は下塗り釉薬と同様であり、施釉量は、200〜600g/mが適当な量である。
この後、例えば、温度1150℃、3時間の焼成工程を経て、本発明の無機質焼成体となる。
【0019】
(実施例1)
以下に本発明の実施例とその比較例について説明する。
水硬性無機質材料である高炉スラグ24質量%、消石灰2.7質量%、ガラス質含有材料であるEガラス10質量%、骨材である珪石粉17.5質量%、陶石粉10質量%、補強繊維であるワラストナイト25質量%、ビニロン繊維0.3質量%、可燃性有機成分であるポリビニルアルコール樹脂0.5質量%、リジェクトであるタイルセルベン10質量%、さらに添加水を適量加えて混合し、原料混合物とした。
次に、前記原料混合物をプレス成型機により、圧力15MPaでプレス成型し、無機質焼成体用基材とした。
そして、この無機質焼成体用基材の上に、表1、表2に示す実施例1〜5、比較例1〜5の釉薬組成物を下塗り釉薬として施釉した。
さらに、フリットを含むマット釉を上塗り釉薬として施釉した。
ここで、マット釉とは、つや消し面を有する釉薬である。
焼成は、1150℃、3時間行った。
得られた無機質焼成体の諸物性を表1、表2の下段に示す。
上塗り釉薬の表面状態については、目視にて評価した。
焼成後の反りに与える影響については、500×1000mmの焼成体サイズに対して900mmスパンで反りを測定し、無釉の無機質焼成体の反り量を0として相対比較した。(プラス表記は無釉焼成体よりも凹反り傾向)
耐クラック性は、吸水4時間、炭酸化(CO濃度5%)4時間、乾燥100℃15〜16時間を1サイクルとし、10サイクル後の目視判断でクラックなし→○、クラック少々→△、クラック多→×、とした。
耐経年貫入抵抗性は、約1時間で10気圧に達せしめたあと、10気圧で1時間保持、その後室温まで自然冷却(オートクレーブによる試験)を1サイクルとし、5サイクル後の目視判断でクラックなし→○、クラック少々→△、クラック多→×、とした。
なお、経年貫入とは、無機質焼成体施工後、月日の経過によって表面等に亀裂が入ることである。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
表1に示すとおり、実施例1〜5の釉薬組成物を下塗りとして施釉した無機質焼成体は、上塗り釉薬として使用したマット釉の良好な釉面を得ることができ、反りに与える影響も小さく、しかも、耐クラック性や耐経年貫入抵抗性についても問題ないことから基材との適合性も良好な釉薬組成物が下塗りとして施釉された無機質焼成体であると言える。
【0023】
表2に示すとおり、可塑性材料である蛙目粘土の配合比率が高い比較例1は、上塗り釉薬の浸蝕抑制効果は高いが、釉薬組成物の乾燥収縮が大きいために釉面に亀裂が発生した。媒溶性材料である長石の配合比率が高い比較例2と、石灰、亜鉛華、炭酸リチウムの配合比率が高い比較例3は、釉薬組成物の耐火度が下がるために上塗り釉薬の浸蝕作用を抑制することが困難となり、さらに、比較例3はその傾向が著しかった。
非可塑性材料である珪石の配合比率が高い比較例4と、陶石の配合比率が高い比較例5は、上塗り釉薬の良好な釉面が得られるが、釉薬組成物の未溶融SiO2が増すことで550〜600℃付近の石英転移(α⇔β)による異常膨張(異常収縮)の影響で焼成後の反りが無釉の無機質焼成体と比較して著しく大きくなった。また、耐経年貫入抵抗性試験においてもわずかではあるが、亀裂の発生が認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性無機質材料としての高炉スラグとガラス質含有材料を原料として含む無機質焼成体用基材の表面を、性状の異なる釉薬を二重掛けで施釉して、1200℃以下の低火度で焼成して得られる無機質焼成体であって、
下塗りに施釉される釉薬の釉薬組成物は、Bを含まず、少なくとも可塑性材料と、非可塑性材料と、媒溶性材料とを含み、
前記可塑性材料は、蛙目粘土、木節粘土、カオリン、タルクの中から選択される1つ以上の材料であり、
前記非可塑性材料は、珪石、焼きカオリン、陶石、蝋石、セルベン、シャモット、ジルコンの中から選択される1つ以上の材料であり、
前記媒溶性材料は、長石、石灰石、ドロマイト、亜鉛華、炭酸リチウムの中から選択される1つ以上の材料であり、
全固形分に対して、前記可塑性材料は25〜55質量%であり、前記非可塑性材料は5〜20質量%であり、前記媒溶性材料は40〜60質量%であることを特徴とする無機質焼成体。
【請求項2】
上塗りに施釉される釉薬がフリットを含むマット釉からなることを特徴とする請求項1に記載の無機質焼成体。
【請求項3】
前記マット釉からなる釉面がつや消し面からなることを特徴とする請求項2に記載の無機質焼成体。


【公開番号】特開2012−56844(P2012−56844A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−283344(P2011−283344)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【分割の表示】特願2007−37107(P2007−37107)の分割
【原出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000110860)ニチハ株式会社 (182)