説明

無機質繊維積層体及びその製造方法

【課題】 有機物を一切使用せず且つ焼成工程を経ることなく、無機バインダーのマイグレーションを防止することができ、しかも金型を用いずに大型の無機質繊維積層体を製造する方法、及びその方法により得られる無機質繊維積層体を提供する。
【解決手段】 無機繊維のブランケット又はマットを積層した後、無機バインダー液を含浸させるか、またはブランケット又はマットに無機バインダー液を含浸させた後、そのブランケット又はマットを積層する。この無機バインダー液が含浸されている湿潤状態の積層体を、凍結させた後、融解・乾燥する。得られる無機質繊維積層体は、有機物を含まず、全体に分散含有された無機バインダーにより相互に結合固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機バインダーを使用し且つ有機物を使用せずに、無機繊維のブランケット又はマットの積層体内に無機バインダーを均一に担持して、高品質の無機質繊維積層体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、無機繊維を用いた無機質繊維成形体は、融点が高く、溶融金属にも濡れにくいため、バーナータイルや炉の内張材、或いはタンディシュなどとして使用されている。この無機質繊維成形体を製造する方法として、水にセラミックファイバーを分散させたスラリーに、アルミナゾルやシリカゾルなどの無機バインダーを懸濁させ、金型を用いてファイバーを脱水しながら成形した後、乾燥する方法がある。
【0003】
しかし、無機バインダーとして使用するコロイド粒子は、乾燥時に成形体表面に移動(マイグレーション)し易いとう問題があった。即ち、濡れた状態の成形体を乾燥すると、水の蒸発によって表面の水が減少し、これに伴って成形体内部から水が表面に移動して蒸発し、最終的に乾燥する。その際、無機バインダーのコロイド粒子も水と一緒に移動するため、無機バインダーが成形体表面に濃縮される結果、成形体表面は硬くなるが、内部は柔らかくなってしまう。
【0004】
このマイグレーションを防止する方法が、従来から種々検討されてきた。例えば、米国特許第3224927号明細書などに記載されるように、セラミックファイバーと無機バインダーのスラリーにカチオン性澱粉を添加することにより、無機バインダーであるコロイダルシリカのコロイド粒子を凝集させて繊維に固定する方法がある。しかし、この方法では、得られる成形体中に有機物が含まれるため、炉などに取り付けて加熱したときに有機物が燃焼し、煙と異臭が発生する。そのため、煙を嫌う工業炉向けには最終的に焼成工程が必要となり、焼成時間がかかるうえコストアップの原因となっていた。
【0005】
また、特開昭58−104059号公報や、特開昭60−33244号公報には、セラミックファイバーと無機バインダーであるコロイダルシリカのスラリーに、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)などの凝結材を加えた後、高分子凝集剤のポリエチレンオキサイドを添加して、コロイダルシリカを繊維に定着させる方法が記載されている。しかし、この方法においても、高分子凝集剤を加えるので、これを除去するための焼成工程が必要であった。また、凝結剤に含まれる塩素や硫黄が炉内でガス化するため、これを処理する必要もある。
【0006】
また、特開平4−59675号公報には、セラミック繊維を寒天やゼラチンなどのゲル化剤の溶液中に分散させたスラリーを調整し、このスラリーを加熱又は冷却することによってゲル化固化せしめ、得られたゲル体を乾燥後焼成する無機繊維質多孔材料の製造方法が記載されている。しかし、この方法では、ゲル化剤として寒天やゼラチンなどの有機物を使用するので、やはり最終的に焼成工程が必要となる。
【0007】
特開平1−242737号公報には、SiやAlなどのアルコキシドを加水分解し、これにゲル化促進剤として(NH)COを添加して調整した溶液を、繊維成形体の成形用バインダーとして用いる方法が記載されている。しかし、使用する金属アルコキシドが高価であるうえ、ゲル化時間はコロイドの濃度、温度、pHに対して敏感なため制御が難しく、ゲル化が短時間に起きると成形ができなくなり、逆に時間が長すぎると成形効率が低下するという問題があった。
【0008】
また、特開昭59−187700号公報には、無機質繊維とベントナイトなどの無機質充填剤を水に分散させたスラリーに、硫酸アルミニウムのような水溶性アルミニウム塩を添加して混合し、次いで撹拌しながらpH7〜10になるまでアルカリを添加してアルミニウム塩を加水分解させ、形成された水酸化アルミニウムを含むスラリー状原料混合物を脱水成形し、乾燥する方法が記載されている。しかし、この方法は、無機質充填剤が必要なうえ、面倒なpH調整を行う必要があった。
【0009】
【特許文献1】米国特許第3224927号明細書
【特許文献2】特開昭58−104059号公報
【特許文献3】特開昭60−33244号公報
【特許文献4】特開平4−59675号公報
【特許文献5】特開平1−242737号公報
【特許文献6】特開昭59−187700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記したように、金型を用いた湿式吸引成形法により無機質繊維成形体を製造する際に、無機バインダーのマイグレーションを防ぐためには、帯電して互いに反発することで安定な状態となっているコロイド粒子を凝集させるか若しくはゲル化させる等して、成形体内に固定させる必要がある。しかしながら、上記した従来の方法では、凝結材、ゲル化剤、凝集剤などの添加を必要とし、更には有機物を添加する場合には最終的に焼成工程を必要とし、あるいはpH調整など複雑な工程を必要としていた。また、従来の金型を用いた湿式吸引成形法では、大型の無機質繊維成形体を製造することが難しかった。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、凝結材、ゲル化剤、凝集剤、pH調整剤などの添加物を必要とせず、有機物を一切使用せず且つ焼成工程を経ることなく無機バインダーのマイグレーションを防止することができ、しかも無機繊維のブランケット又はマットを用いることで、金型を用いずに大型の無機質繊維積層体を製造する方法、及びこの方法により得られる無機質繊維積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、無機バインダーのマイグレーションを防ぐ方法について種々検討した結果、コロイダルシリカのようなコロイド粒子からなる無機バインダーを凍結すると、コロイド粒子が粗大化するため、無機質繊維積層体内に均一に分散した状態で担持され、通常の乾燥工程によっても無機バインダーが表面側に移行しないこと、しかも、この現象は配合された無機バインダーの濃度によらないことを見出し、本発明を完成させたものである。
【0013】
即ち、本発明が提供する無機質繊維積層体の製造方法は、無機繊維のブランケット又はマットが複数枚積層され、その全体に無機バインダー液が含浸されている湿潤状態の積層体を、凍結させた後、融解・乾燥することを特徴とするものである。
【0014】
上記本発明の無機質繊維積層体の製造方法においては、前記ブランケット又はマットを積層した後、全体に無機バインダー液を含浸させるか、ブランケット又はマットに無機バインダー液を含浸させた後、そのブランケット又はマットを積層することが好ましい。また、無機バインダー液を含浸させたブランケット又はマットと、無機バインダー液を含浸していないブランケット又はマットとを、交互に積層することもできる。
【0015】
本発明は、また、無機繊維のブランケット又はマットが複数枚積層され、その全体に分散含有された無機バインダーにより相互に結合固定されていることを特徴とする無機質繊維積層体を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バインダーなどの添加剤として有機物を一切含まず、従って有機物を除くための焼成工程を経ることなく、無機バインダーのマイグレーションを防止でき、内部まで優れた強度を有する高品質の無機質繊維積層体を製造することができる。しかも、凍結による粒子の粗大化は無機バインダーの濃度によらないので、無機バインダーの配合量を自由に決定でき、通常品から高強度品まで製品設計が容易である。
【0017】
また、従来通常行われていた湿式吸引成形によらず、凝結材、ゲル化剤、凝集剤、pH調整剤などの添加物を使用しないため、工程が簡便で制御が容易であるうえ、不純物が極めて少なく、従って耐熱性や強度などの特性に優れた無機質繊維積層体を簡単に製造することができる。更に、有機物を使用しないため高温での乾燥が可能であるうえ、焦げや変色も起こらず、高品質の無機質繊維積層体を短時間で効率よく製造することができる。
【0018】
しかも、金型を用いる面倒な湿式吸引成形によらず、所定形状のブランケット又はマットを用いて製造するため、大面積や肉厚のものなど大型品も容易に製造することができる。例えば、通常の金型を用いる湿式吸引成形では、ろ過抵抗のために厚さ100mm程度が限界であったが、本発明によれば特に厚さの制限がなく、例えば縦横1200mm×厚さ200mm程度以上のものを容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の方法では、無機繊維からなるブランケット又はマットを複数枚積層した積層体であって、その全体に無機バインダー液が含浸されている湿潤状態の積層体を、乾燥させることなく、そのまま凍結させる。湿潤状態の積層体を凍結させる方法には特に制限はなく、冷凍庫などに入れて、0℃以下の温度、好ましくは−10℃以下の温度で凍結させればよい。その後、凍結した積層体を融解・乾燥する。乾燥方法も特に制限されず、例えば、乾燥機に入れて、100℃程度以上の温度で融解・乾燥すればよいが、効率的に乾燥を行うためには110℃以上の温度が好ましい。
【0020】
上記の凍結工程によって、コロイダルシリカのようなコロイド粒子からなる無機バインダーの微粒子(粒径10〜20nm)は、粒径が10μm〜5mm程度にまで粗大化する。このように粗大化した無機バインダー粒子は、無機繊維のブランケット又はマットの積層体内を移動することができず、しかも凍結している積層体を加熱して融解しても粗大化した粒子径が維持される。従って、凍結している積層体を加熱・乾燥したとき、水は積層体内を表面に移動して乾燥されるが、粗大な無機バインダー粒子は内部に均一な状態で保持されるため、無機バインダーのマイグレーションを防止することができるのである。
【0021】
通常の場合、湿潤状態の積層体を完全に凍結させることにより、無機バインダーが全体に均一に分散され、全体に均一な硬さを有する無機質繊維積層体が得られる。しかし、完全(100%)に凍結させず、例えば80%だけ凍結させることも可能であり、その場合には、積層体内部がある程度の硬さを有し、且つ表面を十分に硬くすることができる。また、凍結による無機バインダー粒子の粗大化は、無機バインダー濃度に影響されない。
【0022】
上記ブランケット又はマットの積層と無機バインダー液の含浸については、複数のブランケット又はマットを積層した後、全体に無機バインダー液を含浸させる方法か、あるいは、全てのブランケット又はマットに無機バインダー液を含浸させた後、そのブランケット又はマットを積層する方法が好ましい。また、無機バインダー液を含浸させたブランケット又はマットと、無機バインダー液を含浸していないブランケット又はマットとを、交互に複数積層した後、プレスして全体に無機バインダー液を均等に含浸させることもできる。
【0023】
無機バインダー液を無機繊維のブランケット又はマット若しくはそれらの積層体に含浸させる方法としては、無機バインダー液にブランケット又はマット若しくはそれらの積層体を浸漬してディッピングするか、あるいは、無機バインダー液を又はマット若しくはそれらの積層体上にかけ流して含浸させればよい。尚、積層体中の無機バインダーの配合量は、必要とする特性に応じて任意に定めることが可能であって、無機バインダーの液濃度により制御することができる。
【0024】
ただし、無機バインダー液の含浸液量が多すぎると、積層体から無機バインダー液が溢れ出たり、凍結時に積層体の体積膨張が起こったりするため好ましくない。その場合には、無機バインダー液を含浸した積層体をプレスするか又は吸引して、余分な無機バインダー液を排出回収することにより、水の配合量がブランケット又はマットの積層体の空隙量の90%以下となるように制御することが望ましい。
【0025】
上記無機バインダーとしては、例えば、コロイダルシリカ(シリカゾル)、アルミナゾル、チタニアゾルなど、従来から湿式吸引成形による無機質繊維成形体の製造に使用されているコロイド粒子状のものを使用することができ、中でもコロイダルシリカが好ましい。また、ブランケット又はマットを構成する無機繊維としては、特に制限はないが、シリカアルミナファイバー、ムライトファイバー、アルミナファイバー、シリカファイバー、ロックウール、ガラスファイバーなどを好適に使用することができる。尚、ブランケットとマットでは、ニードリングなしのマットよりも、ニードリングしたブランケットの方が、最終的な無機質繊維積層体の強度が発現しやすいため好ましい。
【0026】
上記方法により得られる本発明の無機質繊維積層体は、有機物を含まず、積層された複数の無機繊維のブランケット又はマットが、その全体に分散含有された無機バインダーにより相互に結合固定されているため、積層面の強度に問題なく、剥がれることがない。また、金型を用いた湿式吸引成形法によらず、ブランケット又はマットを重ねることで成形できるため、これまで困難とされてきた厚さ200mm以上の無機質繊維積層体を容易に製造することができる。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
シリカアルミナファイバーのブランケット10P25t(かさ密度160kg/m、厚さ25mm)を5枚重ね合わせ、得られた積層体を10wt%のコロイダルシリカ液に浸漬して含浸させた。コロイダルシリカ液の含浸後、積層体上面よりプレスして、ブランケット全体(積層体)の密度調整を行うと同時に、コロイダルシリカ液を積層体全体に均一に行き渡らせ、余剰のコロイダルシリカ液を排出させた。
【0028】
次に、コロイダルシリカを含浸させた湿潤状態の積層体を冷凍庫に入れ、−10℃で10時間以上保持して完全に凍結させた。凍結した積層体を冷凍庫から出し、乾燥機に入れて110℃で2日以上乾燥することにより、無機繊維質積層体を得た。
【0029】
その後、機械加工により900×600×100mmのボード状とした。得られたボード状の無機質繊維積層体は、密度が280kg/m、曲げ強度が0.28MPa、表面硬度が50及び内部硬度が50であった。尚、無機質繊維積層体の表面硬度及び内部の測定は、アスカーゴム硬度計C型によった(以下の実施例も同じ)。
【0030】
比較のため、凍結しなかった以外は上記と同様にして、同じ形状と寸法の無機質繊維積層体を製造した。得られた無機質繊維積層体は、無機バインダーであるコロイダルシリカのマイグレーションが起こるため、表面硬度が90及び内部硬度が20であった。
【0031】
[実施例2]
シリカアルミナファイバーのブランケット16p25t(かさ密度256kg/m、厚さ25mm)に8wt%のコロイダルシリカ液に浸漬して含浸させた後、このブランケットを8枚重ね合わせて積層体とした。得られた積層体上面をローラーによりプレスして、上下面を平坦にすると同時に、積層体の密度調整を行い、コロイダルシリカ液を積層体全体に均一に行き渡らせ、余剰のコロイダルシリカ液を排出させた。
【0032】
次に、コロイダルシリカを含浸させた湿潤状態の積層体を冷凍庫に入れ、−10℃で10時間以上保持して完全に凍結させた。凍結した積層体を冷凍庫から出し、乾燥機に入れて150℃で2日以上乾燥することにより、無機繊維質積層体を得た。
【0033】
その後、機械加工により900×600×150mmのボード状とした。得られた無機質繊維積層体は、密度が340kg/m、曲げ強度が0.45MPa、表面硬度が70及び内部硬度が70であった。
【0034】
[実施例3]
シリカアルミナファイバーのブランケット12p25t(かさ密度196kg/m、厚さ25mm)を、10wt%コロイダルシリカ液に浸漬して含浸させた。このコロイダルシリカ液を含浸したブランケットと、コロイダルシリカ液を含浸していない上記ブランケット12p25tとを、交互に5枚重ね合わせ、上下面がコロイダルシリカ液を含浸したブランケットとなるように積層した。
【0035】
得られたコロイダルシリカ液を含浸させた積層体を上面よりプレスし、未含浸のブランケットにもコロイダルシリカ液を含浸させると共に、積層体から染み出した余分のコロイダルシリカ液を回収した。
【0036】
次に、上記のごとくコロイダルシリカを含浸させた湿潤状態の積層体を冷凍庫に入れ、−10℃で10時間以上保持して完全に凍結させた。凍結した積層体を冷凍庫から出し、乾燥機に入れて110℃で2日以上乾燥することにより、無機繊維質積層体を得た。
【0037】
その後、機械加工により900×600×100mmのボード状とした。得られた無機質繊維積層体は、密度が300kg/m、曲げ強度が0.35MPa、表面硬度が55及び内部硬度が55であった。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維のブランケット又はマットが複数枚積層され、その全体に分散含有された無機バインダーにより相互に結合固定されていることを特徴とする無機質繊維積層体。
【請求項2】
無機繊維のブランケット又はマットが複数枚積層され、その全体に無機バインダー液が含浸されている湿潤状態の積層体を、凍結させた後、融解・乾燥することを特徴とする無機質繊維積層体の製造方法。
【請求項3】
前記ブランケット又はマットを積層した後、全体に無機バインダー液を含浸させるか、ブランケット又はマットに無機バインダー液を含浸させた後、そのブランケット又はマットを積層するか、若しくは無機バインダー液を含浸させたブランケット又はマットと、無機バインダー液を含浸していないブランケット又はマットとを交互に積層することを特徴とする、請求項2に記載の無機質繊維積層体の製造方法。
【請求項4】
前記積層され且つ全体に無機バインダー液が含浸されている湿潤状態の積層体を、凍結前にプレスして、積層体の密度調整をすると共に、無機バインダー液を均等に含浸させ、余分な無機バインダー液を除去することを特徴とする、請求項2又は3に記載の無機質繊維積層体の製造方法。



【公開番号】特開2008−1574(P2008−1574A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174705(P2006−174705)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】