説明

無機顔料用高分子分散剤

【課題】塩基性無機顔料の微分散性を向上可能な無機顔料用高分子分散剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される構成単位(a)を全構成単位中5〜40重量%、下記一般式(2)で表される構成単位(b)を全構成単位中35〜90重量%、及び、下記一般式(3)で表される構成単位(c)を構成単位(b)に対する重量比(構成単位(c)/構成単位(b))が0.05〜0.85で含有する共重合体からなる無機顔料用高分子分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機顔料用高分子分散剤、それを用いた分散方法及びスラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性無機顔料に使用される分散剤として、特許文献1は、ポリカルボン酸タイプやポリマレイン酸タイプの分散剤に言及している。しかしながら、同文献には、具体的な構造は開示されていない。また、非水系におけるセラミックス成形用バインダーとして、特定比率のポリオキシエチレン鎖を有しない(メタ)アクリル酸エステル及びポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリル酸エステルからなる共重合体(特許文献2)、及び、セラミックス製造用スラリー組成物用にポリオキシアルキレン誘導体とマレイン酸からなる共重合体(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−114569号公報[0013、要約]
【特許文献2】特開平6−72759号公報[請求項1]
【特許文献3】特開2007−261911号公報[請求項1、要約]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ファインセラミック分野などにおいては、ナノスケールの微細構造を制御することで、小型化、高速化、低消費電力、高効率化、高容量化を実現する試みがなされており、非水系における塩基性無機顔料のナノ分散技術への要求も高く、分散剤の性能のさらなる改善が求められている。
【0005】
本発明は、塩基性無機顔料の微分散性を向上可能な無機顔料用高分子分散剤、それを用いた分散方法及びスラリー組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(1)で表される構成単位(a)を全構成単位中5〜40重量%、下記一般式(2)で表される構成単位(b)を全構成単位中35〜90重量%、及び、下記一般式(3)で表される構成単位(c)を構成単位(b)に対する重量比(構成単位(c)/構成単位(b))が0.05〜0.85で含有する共重合体からなる無機顔料用高分子分散剤に関する。
【化1】

[前記式(1)及び(2)中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は同一又は異なり水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Mは水素原子又は陽イオンを示し、X1は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、X2は炭素数2〜12のアルキレン基を示し、aは1〜20の整数を示す。
前記式(3)中、R7、R8及びR9は同一又は異なり水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、X3は酸素原子又はNHを示し、R10及びR11は炭素数1〜30の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基若しくはアルケニル基又はアリール基を示す。]
【0007】
本発明は、その他の態様において、本発明における無機顔料用高分子分散剤を用いて塩基性無機顔料を非水系溶媒中で分散させることを含む分散方法であって、前記非水系溶媒の溶解度パラメータと前記無機顔料用高分子分散剤の構成単位(c)が由来するモノマーの溶解度パラメータとの差(Δsp)が2.0(MPa)1/2以上である分散方法に関する。
【0008】
本発明は、さらにその他の態様において、非水系溶媒、塩基性無機顔料、及び本発明における無機顔料用高分子分散剤を含有するスラリー組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明における無機顔料用高分子分散剤によれば、例えば、非水系溶媒中で塩基性無機顔料を微細に分散させることができ、好ましくは、非水系溶媒中における塩基性無機顔料の微分散性の向上という効果が奏され得る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、一般式(1)で表される構成単位(a)、一般式(2)で表される構成単位(b)、及び一般式(3)で表される構成単位(c)を含有する共重合体において、各構成単位を所定の割合で存在させることにより、非水系溶媒中において塩基性無機顔料の良好な微分散性を実現できる(すなわち、塩基性無機顔料を一次粒子径の状態又はそれに近い状態に分散できる)という知見に基く。非水系溶媒中の塩基性無機顔料の微分散性が向上するメカニズムの詳細は不明であるが、以下のことが推定される。まず、高分子分散剤(共重合体)中の構成単位(a)が主として塩基性無機顔料表面へ強く吸着することで、高分子分散剤が塩基性無機顔料表面から脱離することが抑制される。そして、高分子分散剤中の構成単位(c)が主として非水系溶媒中への再溶出を抑制するために、高分子分散剤が塩基性無機顔料表面を被覆して被覆層を形成することができる。さらに、この被覆層(吸着層)における構成単位(b)が、主として塩基性無機顔料粒子間に強い立体的斥力をもたらすため、結果として、無機顔料粒子同士の凝集を抑制するために微分散性が向上する。但し、これらは推定であって、本発明は、このメカニズムに限定されない。
【0011】
すなわち、本発明は、一つの態様において、下記一般式(1)で表される構成単位(a)を全構成単位中5〜40重量%、下記一般式(2)で表される構成単位(b)を全構成単位中35〜90重量%、及び、下記一般式(3)で表される構成単位(c)を構成単位(b)に対する重量比(構成単位(c)/構成単位(b))が0.05〜0.85で含有する共重合体である無機顔料用高分子分散剤(以下、本発明における高分子分散剤ともいう)に関する。本発明における高分子分散剤の一実施形態としては、実質的に前記共重合体からなる無機顔料用高分子分散剤、又は、前記共重合体からなる無機顔料用高分子分散剤が挙げられる。本発明における高分子分散剤のその他の実施形態としては、前記共重合体と溶媒(好ましくは非水系溶媒)とを含む無機顔料用高分子分散剤が挙げられる。本発明における高分子分散剤によれば、好ましくは、非水系溶媒中における塩基性無機顔料の分散性の向上、より好ましくは微分散性の向上という効果が奏され得る。
【0012】
また、本発明は、その他の態様において本発明における高分子分散剤を用いて塩基性無機顔料を非水系溶媒中で分散させることを含む分散方法であって、前記非水系溶媒の溶解度パラメータと前記高分子分散剤の構成単位(c)が由来するモノマーの溶解度パラメータとの差(Δsp)が2.0(MPa)1/2以上である分散方法に関する。さらにまた、本発明は、その他の態様において、非水系溶媒、塩基性無機顔料、及び本発明における高分子分散剤を含有するスラリー組成物に関する(以下、「本発明におけるスラリー組成物」ともいう)。
【0013】
本明細書において「微分散性」とは、塩基性無機顔料などの粒子が一次粒子径の状態又はそれに近い状態で分散することをいう。微分散性が向上することにより、塩基性無機顔料などを含有するスラリー組成物の粘度が低減でき、取扱いが容易になり、また良好な成形品を得ることが可能となる。
【0014】
[構成単位(a)]
本発明における高分子分散剤における構成単位(a)は、下記一般式(1)で表される構成単位である。構成単位(a)はカルボキシル基又はそれが中和された基を有するものであり、塩基性無機顔料表面へ強く吸着することで、該高分子分散剤(共重合体)が塩基性無機顔料表面から脱離することを抑制する働きを有すると考えられる。
【0015】
【化2】

[前記一般式(1)において、R1、R2、及びR3は同一又は異なり、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Mは水素原子又は陽イオンを示す。]
【0016】
構成単位(a)としては、カルボキシル基を有する酸性モノマー(以下、酸性モノマー(a)という)由来の構成単位や、重合後に中和可能な酸性基を付加できるモノマー由来の構成単位などが挙げられる。また、構成単位(a)は、構成単位(b)を形成する非イオン性モノマーと共重合可能なエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。構成単位(a)は、重合後にカルボキシル基を付加して得られるものであってもよい。
【0017】
前記酸性モノマー(a)としては、下記一般式(4)で表されるモノマーが挙げられ、具体的には、(メタ)アクリル酸(塩)、クロトン酸(塩)などが挙げられるが、塩基性無機顔料の微分散性向上、及び高分子分散剤への構成単位(a)の導入の容易性の観点から、(メタ)アクリル酸(塩)が好ましい。
【0018】
【化3】

[前記一般式(4)において、R1、R2、及びR3は同一又は異なり、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基が好ましく、Mは水素原子又は陽イオンが好ましい。]
【0019】
前記一般式(1)及び(4)において、Mが陽イオンである場合、陽イオンとしては、特に制限されないが、一価の陽イオンが挙げられ、具体的には、Li+、Na+、K+など一価の金属イオン、及び、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオンなどが挙げられる。電子材料用途では、金属イオンの残存による電気特性への影響からアンモニウムイオン、有機アンモニウムイオンが好ましい。
【0020】
前記一般式(1)及び(4)において、塩基性無機顔料の微分散性向上、及び高分子分散剤への構成単位(a)の導入の容易性の観点から、R1及びR2は水素原子であることが好ましく、Mは水素原子であることが好ましい。
【0021】
また、重合後にカルボキシル基を付加させる方法としては、例えば高分子化合物中に存在する中和可能でない酸性基を中和可能な官能基に変換する方法が挙げられる。この場合、中和可能でない酸性基とは、例えばエステル基やアミド基が挙げられる。これらの中和可能でない酸性基を、例えば、加水分解してカルボキシル基とすることができる。
【0022】
高分子分散剤の共重合体を構成する全構成単位中の構成単位(a)の割合は、塩基性無機顔料への吸着率を高くし塩基性無機顔料の微分散性を向上する点から、5〜40重量%であって、10〜40重量%が好ましく、10〜35重量%が好ましい。
【0023】
[構成単位(b)]
本発明における高分子分散剤における構成単位(b)は、下記一般式(2)で表される非イオン性のポリエステルモノマー由来の構成単位である。構成単位(b)は無機顔料粒子間に強い立体的斥力をもたらし、無機顔料粒子同士の凝集を抑制すると考えられる。
【0024】
【化4】

[前記式(2)中、R4、R5、及びR6は同一又は異なり水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、X1は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、X2は炭素数2〜12のアルキレン基を示し、aは1〜20の整数を示す。]
【0025】
構成単位(b)としては、ポリエステルモノマー変性メタクリルモノマー(以下、非イオン性モノマー(b)ともいう)由来の構成単位が挙げられる。該非イオン性モノマー(b)におけるポリエステルモノマーとしては、γ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトン、δ−ブチロラクトン、及びε−カプロラクトンなどが挙げられる。
【0026】
塩基性無機顔料の微分散性及び分散の安定性の観点から、非イオン性モノマー(b)としては、2−ヒドロキシエチルメタアクリレートのカプロラクトン開環重付加物が好ましい。2−ヒドロキシエチルアクリレートのカプロラクトン開環重付加物としては、ダイセル化学社製の「プラクセルFA−1」(カプロラクトン1モル付加体)、「プラクセルFA−2」(カプロラクトン2モル付加体)、「プラクセルFA−3」(カプロラクトン3モル付加体)、「プラクセルFA−4」(カプロラクトン4モル付加体)、「プラクセルFA−5」(カプロラクトン5モル付加体)、2−ヒドロキシエチルメタアクリレートのカプロラクトン開環重付加物としては、ダイセル化学社製の「プラクセルFM−1」(カプロラクトン1モル付加体)、「プラクセルFM−2」(カプロラクトン2モル付加体)、「プラクセルFM−3」(カプロラクトン3モル付加体)、「プラクセルFM−4」(カプロラクトン4モル付加体)、及び「プラクセルFM−5」(カプロラクトン5モル付加体)などが好ましい。
【0027】
高分子分散剤の共重合体を構成する全構成単位中の構成単位(b)の割合は、塩基性無機顔料の微分散性向上の観点から、35〜90重量%であって、40〜90重量%が好ましく、40〜85重量%がより好ましい。
【0028】
[構成単位(c)]
本発明における高分子分散剤における構成単位(c)は、下記一般式(3)で表される疎水性のモノマー(疎水性モノマー(c))由来の構成単位である。構成単位(c)は、構成単位(a)及び構成単位(b)と共重合可能なエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。構成単位(c)は疎水性であり、高分子分散剤により被覆された塩基性無機顔料が非水系溶媒中へ再溶出することを抑制していると考えられる。
【0029】
【化5】

[前記一般式(3)において、R7、R8、及びR9は同一又は異なり水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、X3は酸素原子又はNHを示し、R10及びR11は炭素数1〜30のアルキル基若しくはアルケニル基又はアリール基を示す。]
【0030】
構成単位(c)としては、構成単位(a)及び構成単位(b)と共重合可能なエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーである下記一般式(5)で表される疎水性モノマー(c)に由来する構成単位が挙げられる。
【0031】
【化6】

[前記式(5)式中、R7、R8、及びR9は同一又は異なり水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基が好ましく、X3は酸素原子又はNHが好ましく、R10及びR11は炭素数1〜30の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基若しくはアルケニル基又はアリール基が好ましい。]
【0032】
前記一般式(3)及び(5)において、塩基性無機顔料の微分散性向上、及び高分子分散剤への構成単位(c)の導入の容易性の観点から、R7及びR8は水素原子が好ましく、R10は炭素数1〜22のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。R10は、具体的にはメチル基、エチル基、ブチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ラウリル基、ミリスチル基、セチル基、ステアリル基、オレイル基、ベヘニル基等が挙げられる。同様の点から、X3は酸素原子が好ましく、R11は炭素数1〜22のアルキル基又はフェニル基が好ましい。
【0033】
前記一般式(5)の疎水性モノマー(c)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのエステル化合物、ブチル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド、ラウリル(メタ)アクリルアミド、ステアリル(メタ)アクリルアミド、ベヘニル(メタ)アクリルアミドなどのアミド化合物、1−デセン、1−オクタデセンなどのα―オレフィン及びスチレンが挙げられる。中でも、分散安定性の観点から、メチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、スチレンが好ましい。
【0034】
高分子分散剤の共重合体を構成する全構成単位中の構成単位(c)の割合は、塩基性無機顔料の微分散性向上の観点から、5〜35重量%が好ましく、10〜35重量%がより好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。
【0035】
また、塩基性無機顔料の微分散性向上の観点から、全構成単位中の構成単位(c)の含有量は、構成単位(b)に対する重量比(構成単位(c)/構成単位(b))が0.05〜0.85であって、0.1〜0.8が好ましく、0.2〜0.75がより好ましく、0.2〜0.7がさらに好ましい。
【0036】
[無機顔料用高分子分散剤の調製]
本発明における高分子分散剤は、例えば、酸性モノマー(a)、非イオン性モノマー(b)、及び疎水性モノマー(c)を含むモノマー成分を溶液重合法で重合させるなど、公知の方法で得ることができる。本発明における一実施形態において、構成単位(a)の全構成単位中の割合(重量%)は、好ましくは、重合に用いる全モノマー成分における酸性モノマー(a)及び/又は重合後にカルボキシル基を付加できるモノマーの割合(重量%)と見なすことができる。また、構成単位(b)の全構成単位中の割合は、好ましくは、重合に用いる全モノマー成分における非イオン性モノマー(b)の割合(重量%)とみなすことができる。同様に、構成単位(c)の全構成単位中の割合は、好ましくは、重合に用いる全モノマー成分における疎水性モノマー(c)の割合(重量%)とみなすことができる。また、構成単位(c)の構成単位(b)に対する重量比(構成単位(c)/構成単位(b))は、好ましくは、重合に用いる全モノマー成分における疎水性モノマー(c)の非イオン性モノマー(b)に対する重量比とみなすことができる。したがって、本発明は、その他の態様において、本発明における高分子分散剤の製造方法であって、酸性モノマー(a)及び/又は重合後にカルボキシル基を付加できるモノマー、非イオン性モノマー(b)、並びに疎水性モノマー(c)を、それぞれ、前述した構成単位(a)、(b)、及び(c)の含有量で含むモノマー成分を重合させることを含むことを含む製造方法である。
【0037】
溶液重合に用いられる溶媒としては、例えば芳香族系炭化水素(トルエン、キシレン等)、低級アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン)、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等の有機溶媒を使用することができる。溶媒量(重量基準)は、モノマー全量に対し0.5〜10倍量が好ましい。
【0038】
重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、例えばアゾ系重合開始剤、ヒドロ過酸化物類、過酸化ジアルキル類、過酸化ジアシル類、ケトンぺルオキシド類等が挙げられる。重合開始剤量は、モノマー成分全量に対し0.01〜5モル%が好ましく、0.01〜3モル%がより好ましく、0.01〜1モル%がさらに好ましい。重合反応は、窒素気流下、60〜180℃の温度範囲で行うのが好ましく、反応時間は0.5〜20時間が好ましい。
【0039】
重合の際には、さらに重合連鎖移動剤を添加してもよい。重合連鎖移動剤の具体例としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、メルカプトコハク酸等のメルカプタン類;チウラムジスルフィド類;炭化水素類;不飽和環状炭化水素化合物;不飽和ヘテロ環状化合物等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
本発明における高分子分散剤において、構成単位(a)、構成単位(b)、構成単位(c)の配列は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでも良い。また、前記の含有量の範囲をすべて満たす範囲で、これら構成単位以外の構成単位を含んでいてもよい。
【0041】
本発明の高分子分散剤である共重合体の重量平均分子量は、塩基性無機顔料の微分散性向上の観点から、3000〜150000が好ましく、5000〜120000がより好ましく、15000〜110000がさらにより好ましい。
【0042】
以上のようにして製造される本発明における高分子分散剤は、非水系溶媒における塩基性無機顔料の微分散性に優れる。したがって、本発明における高分子分散剤は、無機顔料の分散に用いることが好ましく、非水系溶媒における無機顔料の分散に用いることがより好ましく、非水系溶媒における塩基性無機顔料の分散に用いることがさらにより好ましい。
【0043】
[分散方法]
また、本発明は、その他の態様として、分散方法であって、本発明における高分子分散剤を用いて塩基性無機顔料を非水系溶媒中で分散させる工程を含み、前記非水系溶媒の溶解度パラメータと本発明における高分子分散剤の構成単位(c)が由来するモノマー(疎水性モノマー(c))の溶解度パラメータとの差(Δsp)が2.0(MPa)1/2以上、好ましくは、3.0(MPa)1/2以上である分散方法を提供しうる。或いは、本発明は、分散方法であって、本発明における高分子分散剤を用いて塩基性無機顔料を非水系溶媒中で分散させる工程を含み、前記非水系溶媒の溶解度パラメータと本発明における高分子分散剤の構成単位(c)が由来するモノマー(疎水性モノマー(c))の溶解度パラメータとの差Δspが2.0(MPa)1/2以上、好ましくは、3.0(MPa)1/2以上となるように前記非水系溶媒を選択することを含む分散方法を提供しうる。前記分散工程は、例えば、塩基性無機顔料、本発明における高分子分散剤、及び非水系溶媒を、好ましくはジルコニアビーズと共に混合することを含む。当業者であれば、疎水性モノマー(c)の値に基づき、適切な非水系溶媒を選択できる。また、混合する塩基性無機顔料及び本発明における高分子分散剤の量は、後述するスラリー組成物における各成分の含有量の範囲内とすることができる。本発明における分散方法によれば、塩基性無機顔料を非水系溶媒に微細に分散させることができ、また、後述するスラリー組成物を製造することができる。
【0044】
[スラリー組成物]
本発明における高分子分散剤を用いれば、非水系溶媒に塩基性無機顔料が分散したスラリー組成物を得ることができる。したがって、本発明は、スラリー組成物であって、非水系溶媒、塩基性無機顔料、及び高分子分散剤を含有し、前記高分子分散剤が、本発明における高分子分散剤であるスラリー組成物を提供できる。本発明におけるスラリー組成物によれば、後述するとおり、塩基性無機顔料の微細な分散を好ましくは実現できる。
【0045】
本発明におけるスラリー組成物中の塩基性無機顔料の含有量としては、微分散性向上の観点から、5〜60重量%が好ましく、10〜50重量%がより好ましく、15〜40重量%がさらに好ましい。また、塩基性無機顔料100重量部に対する本発明における高分子分散剤の含有量は、塩基性無機顔料の粒径により異なるが、例えば、体積中位粒径(D50)が10〜500nmの塩基性無機顔料を使用する場合、塩基性無機顔料に対して、0.1〜10重量部が好ましく、0.2〜5重量部がより好ましい。
【0046】
また、本発明におけるスラリー組成物において、非水系溶媒における塩基性無機顔料の微分散性の向上の観点からは、含有される非水系溶媒と無機顔料用高分子分散剤の構成単位(c)が由来するモノマー(疎水性モノマー(c))との溶解度パラメータ差(Δsp)は2.0(MPa)1/2以上であることが好ましく、3.0(MPa)1/2以上がより好ましい。
【0047】
なお、分散液及びスラリーにおける微分散性の評価は、例えば、スラリー粘度の測定、分散された無機顔料の沈降時間などを測定することでも評価できるが、スラリー中の無機顔料の粒度分布が、その無機顔料粉体の一次粒子径に近いものであればスラリー粘度は低く沈降時間も長くなるという知見から、本発明においては、後述のとおり、スラリー中の無機顔料の粒度分布を測定することで評価できる。
【0048】
本発明は、さらにその他の態様として、スラリー組成物の製造方法であって、塩基性無機顔料、分散剤、及び非水系溶媒を、好ましくはジルコニアビーズと共に混合して、前記塩基性無機顔料を分散させる工程を含み、前記分散剤が、本発明における高分子分散剤であるスラリー組成物の製造方法を提供しうる。混合する塩基性無機顔料及び本発明における高分子分散剤の量は、前記したスラリー組成物における各成分の含有量の範囲内とすることができる。この製造方法によれば、本発明におけるスラリー組成物を製造できる。
【0049】
[非水系溶媒]
本発明で使用できる非水系溶媒は非水系(有機溶剤)であれば特に限定されないが、塩基性無機顔料の微分散性向上、及び前記高分子分散剤との相溶性の観点から、溶解度パラメータが20〜30(MPa)1/2であるものが好ましく、21〜26(MPa)1/2であるものがさらに好ましい。具体的には、キシレン(18.2)、酢酸エチル(18.2)、トルエン(18.3)、テトラハイドロフラン(18.5)、メチルエチルケトン(19.3)、アセトン(19.7)、ブチルセロソルブ(20.2)、ジメチルホルムアミド(24.7)、n−プロパノール(24.9)、エタノール(26.2)、ジメチルスルホキシド(26.4)、n−ブタノール(28.7)、メタノール(29.7)などの有機溶剤が挙げられる。( )内の数値は、溶解度パラメータである。本明細書において、モノマーの溶解度パラメータとはFedorsの方法[R.F.Fedors. Polym. Eng. Sci.,14,147(1974)]により計算された値をいう。
【0050】
また、2種以上の有機溶剤を組み合わせて、適当な溶解度パラメータを調整することができる。このような混合溶剤の溶解度パラメータは、実験的に求めることもできるが、簡便な方法として、混合溶剤の各成分の溶解度パラメータと体積分率から計算して求めることもできる。例えば、トルエンとエタノールを体積分率50:50で混合した場合、その溶解度パラメータは、(18.3)×0.5+(26.2)×0.5=22.3となる。
【0051】
本発明における高分子分散剤ともにスラリー組成物を調製する場合、非水系溶媒は、微分散性向上の観点から、構成単位(c)が由来するモノマー(疎水性モノマー(c))との溶解度パラメータ差(Δsp)が2.0(MPa)1/2以上となるようにすることが好ましく、3.0(MPa)1/2以上となるようにすることが好ましい。
【0052】
[塩基性無機顔料]
一般に、無機顔料の表面は酸点、塩基点の両方をもっている。非水系溶媒中における酸及び塩基の強度は逆滴定法で求めることが可能であり、分散させたい無機顔料が酸性であるか塩基性であるか同定することができる。逆滴定法とは、あらかじめ濃度が既知である塩基性試薬(又は酸性試薬)を一定の割合で無機顔料と混合し、十分に中和させた後に遠心分離機などで固液分離させ、その上澄み液を滴定し、減少した塩基性試薬の量(又は酸性試薬の量)から酸量(又は塩基量)を求める方法である。本発明において塩基量及び酸量は下記により求められる。
【0053】
1)塩基量の求め方
無機顔料2gを精秤(サンプル量)し、1/100N 酢酸−トルエン/エタノール(容量比48:52)溶液30mLに入れ、超音波洗浄器(Branson社製、型式1510J−MT)で1時間分散処理する。24時間静置後、無機顔料分散液溶液の一部を遠心分離機(日立社製型式CP−56G)を用いて、25,000rpm、60分の条件で固液分離する。分離した液体部10mLをフェノールフタレイン指示薬が添加されているトルエン/エタノール溶剤(容量比2:1)20mLに加えた後、1/100N 水酸化カリウム−エタノール溶液にて中和滴定する。この時の滴定量をXmL、1/100N 酢酸−トルエン/エタノール(容量比48:52)10mLを中和するのに必要な滴定量をBmL、サンプル量をSgとすると、以下の式で、塩基量が求められる。
塩基量(μmol/g)=30×(B−X)/S
【0054】
2)酸量の求め方
無機顔料2gを精秤(サンプル量)し、1/100N n−ブチルアミン−トルエン/エタノール(容量比48:52)溶液30mLに入れ、超音波洗浄器(Branson社製、型式1510J−MT)で1時間分散処理する。24時間静置後、無機顔料溶液の一部を遠心分離機(日立社製型式CP−56G)を用いて、25,000rpm、60分の条件で固液分離する。分離した液体部10mLをブロムクレゾールグリーン指示薬が添加されているトルエン/エタノール溶剤(容量比2:1)20mLに加えた後、1/100N 塩酸−エタノール溶液にて中和滴定する。この時の滴定量をXmL、1/100N n−ブチルアミン−トルエン/エタノール(容量比48:52)10mLを中和するのに必要な滴定量をBmL、サンプル量をSgとすると、以下の式で、酸量が求められる。
酸量(μmol/g)=30×(B−X)/S
【0055】
本発明において、塩基性無機顔料とは、前記定義の塩基量が前記定義の酸量よりも大きな値をもつ無機化合物であり、具体的には、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、及び、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの金属炭酸塩、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの複合酸化物を含む。
【0056】
本発明における高分子分散剤を好適に用いることができる塩基性無機顔料の平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径)、並びに、本発明におけるスラリー組成物に含まれる塩基性無機顔料の平均粒径(体積中位粒径(D50))としては、500nm以下が好ましく、200nm以下のものがより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。微分散性を維持する点から、5nm以上が好ましく、7nm以上がより好ましく、8nm以上がさらに好ましい。すなわち、前記塩基性無機顔料の平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径及び/又は体積中位粒径(D50))としては、5〜500nmが好ましく、7〜200nmがより好ましく、8〜100nm以下がさらに好ましい。なお、塩基性無機顔料の平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径)は、好ましくは粉末状の塩基性無機顔料の平均粒径をいい、以下のようにして測定される。
【0057】
塩基性無機顔料の平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径)は、粒子径R(m)の球と仮定して、窒素吸着法により測定されたBET比表面積S(m2/g)、無機微粒子の比重ρ(g/cm3)を用いて、求めることができる。すなわち、BET比表面積は単位重量当たりの表面積であるので、表面積をA(m2)、粒子の重量をW(g)とすると、
S(m2/g)=A(m2)/W(g)
=[4×π×(R/2)2]/[4/3×π×(R/2)3×ρ×106
=6/(R×ρ×106
の関係式が求められる。粒子径の単位を変換すると、
R(nm)=6000/(S×ρ)
の式となり、平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径)求めることができる。例えば、チタン酸バリウム(比重6.0)のBET比表面積が5.0(m2/g)であれば、その平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径)は、200nmとなる。
【0058】
一方、本明細書において、塩基性無機顔料の平均粒径(体積中位粒径D50)は、走査型電子顕微鏡(好適には3000〜30000倍)又は透過型電子顕微鏡(好適には10000〜300000倍)の写真を画像解析することにより求めることができるものをいう。具体的には、拡大写真等を用い、個々の粒子の最大長を少なくとも200個の粒子について測定し、該長さを直径とする球の体積を算出し、小粒径側からの累積体積頻度が50%となる粒径(D50)を体積中位粒径とする。
【0059】
なお、本発明における高分子分散剤は、微分散性に優れるため、粒子の再凝集を抑制して、塩基性無機顔料の平均粒径に近い状態で、分散できるものである。すなわち、本発明によれば、スラリー組成物製造前の塩基性無機顔料の平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径)とスラリー組成物中の塩基性無機顔料の平均粒径(体積中位粒径(D50))との比(スラリー組成物中の塩基性無機顔料の平均粒径/スラリー組成物製造前の塩基性無機顔料の平均粒径)が小さいスラリー組成物を提供できる。本発明におけるスラリー組成物は、該比を、好ましくは1〜1.9、より好ましくは1〜1.8、さらに好ましくは1〜1.7、さらにより好ましくは1〜1.5とすることができる。
【0060】
また、スラリー組成物における塩基性無機顔料の凝集粒子の発生度合は、D90/D50の比で定義することができ、この比が小さいほど凝集粒子が発生していないことを示す。したがって、本明細書において微分散性は、D90/D50の比を指標として評価できる。スラリー組成物における塩基性無機顔料のD90/D50は、1.0〜3.0が好ましく、1.0〜2.1がより好ましく、1.0〜1.9がさらに好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。同様に、体積粒径粒径(D90)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して90%になる粒径を意味する。
【0061】
本発明におけるスラリー組成物は、電子機器分野に用いられる成形品に用いることができる。例えば、シート、鋳込み、プレス、押出し、射出などの成形法により薄いシート状に成形する場合、本発明におけるスラリー組成物であれば、微分散性に優れるから薄く平坦性の良好なシート状成形品を容易に製造できる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
下記表1に示す高分子分散剤A〜Kを下記製造例1〜11において製造した。
【0064】
製造例1:高分子分散剤Aの製造
還流管、攪拌装置、温度計、窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコにメチルメタクリルレート4.50g、プラクセルFM−5(ダイセル化学社製;メタクリル酸のカプロラクトン5モル付加物)8.25g、メタクリル酸2.25g、エタノール9.75gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱する。槽内が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−65)0.45g、エタノール3.75gの混合物を添加した。その後、メチルメタクリルレート40.50g、プラクセルFM−5 74.25g、メタクリル酸20.25g、エタノール87.75g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.05gの混合液を3時間かけて滴下した。65℃で3hr攪拌後、冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、高分子分散剤Aのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は51.2重量%で、高分子分散剤の重量平均分子量は50000であった。なお、高分子分散剤溶液の不揮発分は、以下のようにして測定した。シャーレにガラス棒と乾燥無水硫酸ナトリウム10gを量り取り、そこに高分子分散剤(サンプル)溶液2gを入れ、ガラス棒で混合し、105℃の減圧乾燥機(圧力8kPa)で2時間乾燥する。乾燥後の重さを量り、次式より得られた値を不揮発分とした。
不揮発分={[サンプル量−(乾燥後の重さ−(シャーレの重さ+ガラス棒の重さ+無水硫酸ナトリウムの重さ))]/サンプル量}×100
【0065】
なお、高分子分散剤の重量平均分子量は、GPCにより測定した。具体的には、後述のように測定した(以下同様)。
【0066】
製造例2:高分子分散剤Bの製造
製造例1のプラクセルFM−5をプラクセルFM−2D(ダイセル化学社製;メタクリル酸のカプロラクトン重付加物)に変更した以外は、同様な操作で、高分子分散剤Bのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は44.6%で、高分子分散剤の重量平均分子量は110000であった。
【0067】
製造例3:高分子分散剤Cの製造
製造例1のプラクセルFM−5(ダイセル化学社製;メタクリル酸のカプロラクトン重付加物)をプラクセルFM−3(ダイセル化学社製;メタクリル酸のカプロラクトン重付加物)に変更した以外は、同様な操作で、高分子分散剤Cのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は45.5%で、高分子分散剤の重量平均分子量は63000であった。
【0068】
製造例4:高分子分散剤Dの製造
還流管、攪拌装置、温度計、窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコにメチルメタクリルレート2.25g、プラクセルFM−5 10.50g、メタクリル酸2.25g、エタノール9.75gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱する。槽内が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.45g、エタノール3.75gの混合物を添加した。その後、メチルメタクリルレート20.25g、プラクセルFM−5 94.50g、メタクリル酸20.25g、エタノール87.75g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.05gの混合液を3時間かけて滴下した。65℃で3hr攪拌後、冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、高分子分散剤Dのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は45.6重量%で、高分子分散剤の重量平均分子量は38000であった。
【0069】
製造例5:高分子分散剤Eの製造
製造例4のエタノールをイソプロパノールに変更した以外は、同様な操作で、高分子分散剤Eのイソプロパノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は45.5%で、高分子分散剤の重量平均分子量は63000であった。
【0070】
製造例6:高分子分散剤Fの製造
還流管、攪拌装置、温度計、窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコにステアリルメタクリレート(新中村化学社製 NK−エステル S)2.25g、プラクセルFM−3 10.50g、メタクリル酸2.25g、エタノール9.75gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱する。槽内が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.45g、エタノール3.75gの混合物を添加した。その後、メタクリル酸ステアリル20.25g、プラクセルFM−3 94.50g、メタクリル酸20.25g、エタノール87.75g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.05gの混合液を3時間かけて滴下した。65℃で3hr攪拌後、冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、高分子分散剤Fのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は47.3重量%で、高分子分散剤の重量平均分子量は48000であった。
【0071】
製造例7:高分子分散剤Gの製造
製造例6のステアリルメタクリレートをスチレンに変更した以外は、同様な操作で、高分子分散剤Gのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は41.3%で、高分子分散剤の重量平均分子量は37000であった。
【0072】
製造例8:高分子分散剤Hの製造
還流管、攪拌装置、温度計、窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコにメチルメタクリルレート4.50g、プラクセルFM−3 6.00g、メタクリル酸4.50g、エタノール9.75gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱する。槽内が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.45g、エタノール3.75gの混合物を添加した。その後、メチルメタクリルレート40.50g、プラクセルFM−3 54.00g、メタクリル酸40.50g、エタノール87.75g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.05gの混合液を3時間かけて滴下した。65℃で3hr攪拌後、冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、高分子分散剤Fのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は40.2重量%で、高分子分散剤の重量平均分子量は34000であった。
【0073】
製造例9:高分子分散剤Iの製造
還流管、攪拌装置、温度計、窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコにメチルメタクリルレート4.50g、プラクセルFM−5 3.75g、メタクリル酸6.75g、エタノール9.75gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱する。槽内が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.45g、エタノール3.75gの混合物を添加した。その後、メチルメタクリルレート40.50g、プラクセルFM−5 33.75g、メタクリル酸60.75g、エタノール87.75g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.05gの混合液を3時間かけて滴下した。65℃で3hr攪拌後、冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、高分子分散剤Iのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は45.1重量%で、高分子分散剤の重量平均分子量は37000であった。
【0074】
製造例10:高分子分散剤Jの製造
還流管、攪拌装置、温度計、窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコにメチルメタクリルレート1.50g、プラクセルFM−3 5.25g、メタクリル酸8.25g、エタノール9.75gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱する。槽内が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.45g、エタノール3.75gの混合物を添加した。その後、メチルメタクリルレート13.50g、プラクセルFM−3 47.25g、メタクリル酸74.25g、エタノール87.75g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.05gの混合液を3時間かけて滴下した。65℃で3hr攪拌後、冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、高分子分散剤Jのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は41.8重量%で、高分子分散剤の重量平均分子量は40000であった。
【0075】
製造例11:高分子分散剤Kの製造
還流管、攪拌装置、温度計、窒素導入管を取り付けた、セパラブルフラスコにプラクセルFM−3 12.75g、メタクリル酸2.25g、エタノール9.75gを仕込み、窒素置換し、65℃に加熱する。槽内が65℃に到達後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.45g、エタノール3.75gの混合物を添加した。その後、プラクセルFM−3 114.75g、メタクリル酸20.25g、エタノール87.75g、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)4.05gの混合液を3時間かけて滴下した。65℃で3hr攪拌後、冷却した。濃度調整のためにエタノールを添加し、高分子分散剤Kのエタノール溶液を得た。高分子分散剤溶液の不揮発分は43.4重量%で、高分子分散剤の重量平均分子量は65000であった。
【0076】
〔重量平均分子量の測定法〕
溶離液を毎分1mlの流速で流し、40℃の高温槽中でカラムを安定させた。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行った。試料の分子量は、予め作成した検量線に基づき算出した。検量線の作成には、以下の単分散ポリスチレンを標準試料として用いた。
測定装置:HLC−8120GPC(東ソー社製)
測定条件:試料溶液 0.5wt%N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液
溶離液 :60mmol/L H3PO4,50mmol/L LiBr/ DMF
カラム :α−M + α−M(東ソー社製)
検出器 :示差屈折率
検量線 :東ソー社製 5.26×102、1.02×105、8.42×106;西尾工業社製 4.0×103、3.0×104、9.0×105(数字はそれぞれ分子量)
【0077】
[分散性試験]実施例1〜10、比較例1〜3
前記製造例で合成した高分子分散剤A〜Kを用い、塩基性無機顔料であるチタン酸バリウム粉A(BET比表面積5m2/g)及びチタン酸バリウム粉B(BET比表面積10m2/g)の30%スラリー組成物を以下のように調整した。なお、BET比表面積に基づく平均粒径は、チタン酸バリウム粉Aが200nmであり、チタン酸バリウム粉Bが100nmであった。
【0078】
〔実施例1〜8、比較例1〜3〕
チタン酸バリウム粉末36g、前記製造例1〜11で合成した高分子分散剤A〜K0.3gを直径1mmのジルコニアビーズ150gと一緒に、250mLの容器に入れ、トルエン/エタノール=48/52(容積比)の混合溶媒を加えて、チタン酸バリウムの固形分濃度が30%になるように調整した。次いで、容器をペイントシェーカー(浅田鉄工社製)で1時間振とうし、解砕及び分散させ、スラリー組成物を得た。このスラリー組成物の粒径を以下のように測定し、D50(体積分布で50%となる粒径)及びD90(体積分布で90%となる粒径)より分散性能を評価した。D50の値が、チタン酸バリウムの平均粒径に近く、D90/D50比が小さいものは粒径分が狭く、分散性が優れていることを示す。
【0079】
〔実施例9、10〕
前記製造例1、4で合成した高分子分散剤A、Dの添加量を0.7gに、チタン酸バリウム粉Aをチタン酸バリウム粉Bに変更した以外は、同様な操作で、スラリー組成物を得た。
【0080】
なお、実施例1〜10、比較例1、2のスラリー組成物では、高分子分散剤(共重合体)の構成単位(c)が由来する疎水性モノマー(c)の溶解度パラメータは、ステアリルメタクリレート(sp値17.7)、メチルメタクリレート(sp値18.3)及びスチレン(sp値18.9)であった。分散媒であるトルエン/エタノール混合溶剤の溶解度パラメータ(sp値)が22.4であるから、比較例3を除いた実施例及び比較例のスラリー組成物における溶解度パラメータ差(Δsp)は2.0(MPa)1/2以上であった。
【0081】
〔粒径測定方法〕
スラリー組成物における塩基性無機顔料の粒径測定に使用する粒径測定装置として、光子相関法(動的光散乱法)の原理に基づいているシスメックス社製の粒度分布測定機ゼータサイザーナノZSを使用した。塩基性無機顔料、高分子分散剤及び非水系溶媒からなる非水系スラリーを、2mLの溶剤に0.1ml滴滴下し、希釈する。この希釈液を光路長10mmの硝子セルに1.2mL採取し、測定部に入れる。また、測定パラメータとして、無機顔料粒子の屈折率、分散媒(有機溶剤)の屈折率および粘度を入力する必要がある。例えば、無機顔料がチタン酸バリウムの場合、粒子屈折率2.40を用いた。分散媒としてトルエン/エタノール=48/52(容積比)混合溶剤を使用し、分散媒屈折率1.423、サンプル粘度0.752を用いた。
【0082】
試験結果
高分子分散剤A〜Hを用いた実施例1〜10のスラリー組成物、高分子分散剤I〜Kを用いた比較例1〜3のスラリー組成物の結果を下記表1に示す。実施例1〜10のスラリー組成物は、(c)成分/(b)成分重量比が、0.05〜0.85の範囲にある高分子分散剤A〜Hを用いたものである。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
前記表2に示すとおり、実施例1〜10のスラリー組成物は、いずれもD50の値がチタン酸バリウムの平均粒径(BET比表面積に基づく平均粒径)に近く、D90/D50比も2.0以下であった。それに対して、(c)成分/(b)成分重量比が、0.05〜0.85の範囲外にあり、構成単位(a)が5〜40重量%の範囲外、かつ構成単位(b)が35〜90重量%の範囲外にある高分子分散剤I、構成単位(a)が5〜40重量%の範囲外にある高分子分散剤Jは、D90/D50比が大きく、2.8以上であった。さらに構成単位(c)を含まない高分子分散剤Jを用いた比較例3のスラリー組成物は、D50の値はチタン酸バリウムの平均粒径に近いものの、D90/D50比が大きく、2.8以上であった。したがって、実施例1〜10のスラリー組成物の分散性は、比較例1〜3のスラリー組成物の分散性よりも優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上説明したとおり、本発明は、例えば、非水系溶媒における塩基性無機顔料のナノ分散を製造工程で用いる分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位(a)を全構成単位中5〜40重量%、下記一般式(2)で表される構成単位(b)を全構成単位中35〜90重量%、及び、下記一般式(3)で表される構成単位(c)を構成単位(b)に対する重量比(構成単位(c)/構成単位(b))が0.05〜0.85で含有する共重合体からなる、無機顔料用高分子分散剤。
【化1】

[前記式(1)及び(2)中、R1、R2、R3、R4、R5及びR6は同一又は異なり水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Mは水素原子又は陽イオンを示し、X1は炭素数1〜6のアルキレン基を示し、X2は炭素数2〜12のアルキレン基を示し、aは1〜20の整数を示す。
前記式(3)中、R7、R8及びR9は同一又は異なり水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、X3は酸素原子又はNHを示し、R10及びR11は炭素数1〜30の直鎖、分岐鎖若しくは環状のアルキル基若しくはアルケニル基又はアリール基を示す。]
【請求項2】
前記共重合体の重量平均分子量が3000〜150000である、請求項1記載の無機顔料用高分子分散剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無機顔料用高分子分散剤を用いて塩基性無機顔料を非水系溶媒中で分散させることを含む分散方法であって、前記非水系溶媒の溶解度パラメータと前記無機顔料用高分子分散剤の構成単位(c)が由来するモノマーの溶解度パラメータとの差(Δsp)が2.0(MPa)1/2以上である、分散方法。
【請求項4】
非水系溶媒、塩基性無機顔料、及び請求項1又は2に記載の無機顔料用高分子分散剤を含有するスラリー組成物。
【請求項5】
前記塩基性無機顔料が、酸化マグネシウム、炭酸バリウム、酸化チタン、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸バリウム、及びジルコン酸カルシウムからなる群から選択される無機化合物である、請求項4記載のスラリー組成物。

【公開番号】特開2011−177623(P2011−177623A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42654(P2010−42654)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】