説明

無機黒色顔料、該無機黒色顔料を用いた塗料及び樹脂組成物、農業用マルチフィルム

【課題】 本発明は、有害な元素を含有せず、しかも、優れた赤外線反射性を有し、且つ、優れた透過性を有した無機黒色顔料を提供する。
【解決手段】 FeとCoとAlを含有し、更に、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Sn、Zr、Si及びCuから選ばれる一種以上の金属を含有する複合酸化物からなる黒色顔料であって、該無機黒色顔料の一次平均粒子径が0.02〜2.0μmである無機黒色顔料であって、可視光領域から赤外線領域波長300〜2500nmにおける平均反射率が10%以上であり、且つ、可視光領域から赤外線領域波長300〜2500nmにおける平均透過率が10%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用ハウスや作物栽培時に地面を覆い、作物の生育に好適な環境を図る農業用マルチフィルムに関し、有害な元素を含有せず遮光性及び保温性を有し、しかも、優れた赤外線反射性を有し、且つ透過性を有する無機黒色顔料及び該無機黒色顔料を用いた農業用マルチフィルムを提供する。
【背景技術】
【0002】
農業用マルチフィルムは、一般的に、地温の保温性、土壌水分の調節、病虫害や雑草の防除、雨による地固め防止などを図るために、ビニルフィルムやポリフィルムのようなプラスチックフィルムからなる農業用マルチフィルムが使用されている。
【0003】
しかしながら、一般的に使用されているビニルフィルムやポリフィルムのようなプラスチックフィルムからなる農業用マルチフィルムでは、作物を覆ったフィルム内の温度が上昇しすぎ、高温になるため、裾などを開ける等の温度調節が必要となる。
【0004】
そこで、可視光を遮蔽することにより雑草の育成を抑制し、且つ、透過性を高めることにより、土中の急激な温度変動を抑制し、作物の生育に必要な根元付近の温度維持でき、作物にとって好適な環境を図ることが強く望まれている。
【0005】
従来より、有害な元素を含有せず、しかも、優れた赤外線反射性を有する熱遮蔽性の赤外線反射用黒色顔料が知られている(特許文献1)。また、光合成を行う波長が600〜700nm程度の光の透過を抑制して、雑草の生育を抑制する機能に対し、マグネタイトを用いた黒色農業用マルチフィルムが知られている(特許文献2)。また、一方の面が黒色層で他方の面が白色層である他層のポリオレフィン系樹脂からなる農業用マルチフィルムが知られている(特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開2007−189986号公報
【特許文献2】特開平7−118441号公報
【特許文献3】特開2007−197570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
有害な元素を含有せず、しかも、優れた赤外線反射性を有し、且つ、高い透過性を有する塗料を得ることができる無機黒色顔料は、現在最も要求されているところであるが、未だ得られていない。
【0008】
即ち、特許文献1には、FeとCoとAlを含有し、更に、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Sn、Zr、Si及びCuから選ばれる一種以上の金属元素を含有する複合酸化物が記載されているが、二次凝集粒子径に関する規定がなく、日射透過率に関し、十分な効果を有するとは言い難いものであった。
【0009】
また、特許文献2には、Feを含む黒色顔料が記載されているが、Feは赤外線を吸収し、日射反射率が低く、地中の温度が急激に上昇するため、作物の好適な環境とは言い難いものであった。
【0010】
また、特許文献3には、黒色層にカーボンブラックであり、白色層に二酸化チタンを用いた多層の農業用マルチフィルムが記載されているが、白色層の濃度数値若しく厚みの調整が必要であり、使用条件に制約があるため十分な効果を有するとは言い難いものであった。
【0011】
そこで、本発明は、有害な元素を含有せず、しかも、黒色顔料であって優れた赤外線反射性及び高い透過性を有する無機黒色顔料を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0013】
即ち、本発明は、FeとCoとAlを含有し、更に、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Sn、Zr、Si及びCuから選ばれる一種以上の金属元素を含有する複合酸化物からなる無機黒色顔料であって、該無機黒色顔料の一次平均粒子径が0.02〜2.0μmであり、且つ、二次平均粒子径のうちD99が0.08〜8.0μmである無機黒色顔料である(本発明1)。
【0014】
また、本発明は、前記無機黒色顔料の可視光反射率が10%以下であり、且つ、日射反射率が15%以上である無機黒色顔料である(本発明2)。
【0015】
また、本発明は、前記無機黒色顔料の可視光透過率が10%以下であり、且つ、日射透過率が10以上である無機黒色顔料である(本発明3)。
【0016】
また、本発明は、前記いずれかに記載の無機黒色顔料を塗料構成基材中に配合したことを特徴とする塗料である(本発明4)。
【0017】
また、本発明は、前記いずれかに記載の無機黒色顔料を用いて着色したことを特徴とする樹脂組成物である(本発明5)。
【0018】
また、本発明は、前記いずれかに記載の無機黒色顔料を用いてフィルム状に成形してなることを特徴とする農業用マルチフィルムである(本発明6)。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る無機黒色顔料は、黒色であって、しかも、赤外線反射性及び透過性に優れているので農業マルチフィルム用黒色顔料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0021】
先ず、本発明に係る無機黒色顔料について述べる。
【0022】
本発明に係る無機黒色顔料は、FeとCoとAlを含有し、更に、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Sn、Zr、Si及びCuから選ばれる一種以上の金属を含有する複合酸化物からなる無機黒色顔料である。
【0023】
本発明に係る無機用黒色顔料中のFeの含有割合は、黒色顔料中の全金属元素に対して、10〜90モル%が好ましい。本発明に係る無機黒色顔料中のCoの含有割合は、黒色顔料中の全金属元素に対して、1.0〜70モル%が好ましい。本発明に係る無機黒色顔料中のAlの含有割合は、黒色顔料中の全金属元素に対して、1.0〜70モル%が好ましい。
本発明に係る無機黒色顔料のFe、Co及びAl含有量が前記範囲外の場合、黒色度(L)が30より大きくなるため好ましくない。
より好ましくは、Feの含有割合は、黒色顔料中の全金属元素に対して10〜80モル%、更に好ましくは10〜50モル%であり、Coの含有割合は、黒色顔料中の全金属元素に対して3.0〜60モル%、更に好ましくは5.0〜50モル%であり、Alの含有割合は、黒色顔料中の全金属元素に対して3.0〜68モル%、更に好ましくは5〜65モル%である。
【0024】
本発明に係る無機黒色顔料中のFeとCoとAlの含有量の合計量は、黒色顔料中の全金属元素に対するモル比で20〜98モル%が好ましく、より好ましくは30〜95モル%、更により好ましくは40〜95モル%である。本発明に係る無機黒色顔料のFe、Co及びAl含有量が前記範囲外の場合、黒色度(L)が30より大きくなるため好ましくない。
【0025】
本発明に係る無機黒色顔料の結晶構造は、スピネル型が好ましい。
【0026】
本発明に係る無機黒色顔料には、不可避的に各種原料由来の不純物が混入しているが、例えば、Crの含有量は1wt%以下であり、殊に、Cr6+の含有量は10ppm以下である。
【0027】
本発明に係る無機黒色顔料の一次平均粒子径は0.02〜2.0μmである。無機黒色顔料の一次平均粒子径が2.0μmを超える場合には、粒子サイズが大きすぎるため、着色力が低下する。一次平均粒子径が0.02μm未満の場合には、ビヒクル中への分散が困難となる場合がある。好ましくは0.025〜1.5μm、より好ましくは0.040〜1.20μmである。
【0028】
本発明に係る無機黒色顔料の二次粒子径(凝集粒子径)において、粒子径のD99が0.08〜8.0μmである。本発明において、無機黒色顔料の全体積を100%として粒子径に対する体積の累積割合を求めたときに体積の累積割合が99%となる点の粒子径をD99として示す。無機黒色顔料の二次粒子径のD99が8.0μを超える場合には、粒子サイズが大きすぎるため、着色力が低下する。二次粒子径のD99が0.08μm未満の場合には、ビヒクル中への分散が困難となる場合がある。好ましくは0.5〜7.5μm、より好ましくは0.60〜7.0μm、更により好ましくは0.65〜6.5μmである。
【0029】
本発明に係る無機黒色顔料のBET比表面積値は1.0〜100m/gが好ましい。BET比表面積値が1.0m/g未満の場合には、粒子が粗大であったり、粒子及び粒子相互間で焼結が生じた粒子となっており、着色力が低下する。より好ましくは1.5〜75m/g、更により好ましくは1.8〜60m/gである。
【0030】
本発明に係る無機黒色顔料の黒色度(L)は、上限値が30.0程度である。黒色度(L)が30を越える場合には、黒色度に優れるとは言い難い。より好ましくは25.0以下である。黒色度(L)の下限値は5.0程度である。
【0031】
本発明に係る無機黒色顔料のaは−5〜+10が好ましい。aが前記範囲外の場合には、黒色度に優れるとは言い難い。より好ましくは−1〜+5である。
【0032】
本発明に係る無機黒色顔料のbは−5〜+10が好ましい。bが前記範囲外の場合には、黒色度に優れるとは言い難い。より好ましくは−1〜+5である。
【0033】
本発明に係る無機黒色顔料の赤外線反射性は、可視光領域波長250〜780nmにおける平均反射率(可視光反射率)が10%以下であることが好ましい。
また、波長300〜2500nmにおける平均反射率で示される日射反射率は15%以上が好ましい。15%未満の場合には、赤外線反射性が十分とは言い難いものである。より好ましくは18%以上である。
【0034】
本発明に係る無機黒色顔料の透過性は、可視光領域波長250〜780nmにおける平均透過率(可視光透過率)が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下である。
また、波長300〜2500nmにおける平均透過率で示される日射透過率は10%以上が好ましい。
【0035】
本発明においては、粒子表面をSi、Al、Zr、Tiから選ばれる1種又は2種以上の化合物によって被覆しておいてもよい。被覆量は無機黒色顔料に対して0.1〜10wt%が好ましい。
【0036】
次に、本発明に係る無機黒色顔料の製造法について述べる。
【0037】
本発明に係る無機黒色顔料は、各種原料を混合、焼成して得ることができる。
【0038】
また、本発明に係る無機黒色顔料は、水に可溶な各種金属原料の混合水溶液とアルカリ水溶液とにより各種金属の水酸化物の沈殿を生成させ、必要により、熟成・成長反応を行った後、この沈殿物を洗浄、乾燥後、焼成して得ることができる(湿式反応)。
【0039】
出発原料は、前記各金属元素の酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩などを用いることができる。
【0040】
出発原料の混合は、均一に混合することができれば、特に限定されるものではなく、湿式混合でも乾式混合でもよい。
【0041】
加熱焼成温度は700〜1200℃が好ましく、加熱雰囲気は大気中である。
【0042】
加熱後の粉末は、常法に従って水洗し、その後、粉砕処理を行えばよい。
【0043】
本発明においては、粗大な凝集粒子が存在すると透過性が低下する。そこで、加熱処理後の粉砕処理を十分におこない、二次粒子(凝集粒子)の大きさを制御する必要がある。
【0044】
本発明において、加熱後に行う粉砕処理では、ハンマーミル、サンドミル、アトライター、ビーズミル、バイブレーションミル、ジェットミルなど、凝集粒子を解砕できるような粉砕装置・条件を用いて行うことが好ましい。強い荷重で粉砕すると、微細な粒子が増加するため好ましくない。
【0045】
また、本発明においては、無機黒色顔料の粒子表面をSi,Al,Zr,Tiから選ばれる1種又は2種以上の化合物によって被覆しておいてもよい。表面処理方法は、湿式あるいは乾式方法等の常法に従って行えばよい。
例えば、湿式方法は湿式分散した無機黒色顔料のスラリーに、Si、Al、Zr、Tiから選ばれる1種又は2種以上の可溶性化合物を、酸又はアルカリでpH調整しながら添加・混合して被覆する方法、乾式方法はヘンシェルミキサーなどの装置中で無機黒色顔料にSi、Al、Zr、Tiから選ばれる1種又は2種以上のカップリング剤などにより被覆処理する方法である。
【0046】
次に、本発明に係る無機黒色顔料を配合した塗料について述べる。
【0047】
本発明に係る塗料中における無機黒色顔料の配合割合は、塗料構成基材100重量部に対して0.5〜100重量部の範囲で使用することができ、塗料のハンドリングを考慮すれば、好ましくは1.0〜100重量部である。
【0048】
塗料構成基材としては、樹脂、溶剤、必要により油脂、消泡剤、体質顔料、乾燥促進剤、界面活性剤、硬化促進剤、助剤等が配合される。
【0049】
樹脂としては、溶剤系塗料用や油性印刷インクに通常使用されているアクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、ガムロジン、ライムロジン等のロジン系樹脂、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ニトロセルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂等のロジン変性樹脂、石油樹脂等を用いることができる。水系塗料用としては、水系塗料用や水性インクに通常使用されている水溶性アクリル樹脂、水溶性スチレン−マレイン酸樹脂、水溶性アルキッド樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性ウレタンエマルジョン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性ポリエステル樹脂等を用いることができる。
【0050】
溶剤としては、溶剤系塗料用に通常使用されている大豆油、トルエン、キシレン、シンナー、ブチルアセテート、メチルアセテート、メチルイソブチルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、脂肪族炭化水素等を用いることができる。
【0051】
水系塗料用溶剤としては、水と水系塗料用に通常使用されているエチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル系溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン付加重合体、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール等のアルキレングリコール、グリセリン、2−ピロリドン等の水溶性有機溶剤とを混合して使用することができる。
【0052】
油脂としては、あまに油、きり油、オイチシカ油、サフラワー油等の乾性油を加工したボイル油を用いることができる。
【0053】
消泡剤としては、ノプコ8034(商品名)、SNデフォーマー477(商品名)、SNデフォーマー5013(商品名)、SNデフォーマー247(商品名)、SNデフォーマー382(商品名)(以上、いずれもサンノプコ株式会社製)、アンチホーム08(商品名)、エマルゲン903(商品名)(以上、いずれも花王株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0054】
体質顔料としては、SiO、CaCO、Mg(OH)、Al(OH)、カオリン、雲母、ハイドロタルサイト、クレー、硫酸バリウム、タルク及び透明性酸化チタン等を用いることができる。
【0055】
本発明においては、塗料中に存在する無機黒色顔料の凝集粒子の大きさは、無機黒色顔料を含有する塗料の濃度を調整して、湿式のレーザー回折・散乱法を用いて評価すればよい。
【0056】
次に、本発明に係る無機黒色顔料を含有する樹脂組成物について述べる。
【0057】
本発明に係る樹脂組成物中における無機黒色顔料の配合割合は、樹脂100重量部に対して0.01〜200重量部の範囲で使用することができ、樹脂組成物のハンドリングを考慮すれば、好ましくは0.05〜150重量部、更に好ましくは0.1〜100重量部である。
【0058】
本発明に係る樹脂組成物における構成基材としては、無機黒色顔料と周知の熱可塑性樹脂とともに、必要により、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、体質顔料、各種安定剤等の添加剤が配合される。
【0059】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリメチルペンテン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−EPDM−スチレン共重合体、アクリル系樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ロジン・エステル、ロジン、天然ゴム、合成ゴム等を用いることができる。
【0060】
添加剤の量は、無機黒色顔料と樹脂との総和に対して50重量%以下であればよい。添加剤の含有量が50重量%を超える場合には、成形性が低下する。
【0061】
本発明に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂原料と無機黒色顔料をあらかじめよく混合し、次に、混練機もしくは押出機を用いて加熱下で強いせん断作用を加えて、無機黒色顔料の凝集体を破壊し、樹脂組成物中に無機黒色顔料を均一に分散させた後、目的に応じた形状に成形加工して使用する。
【0062】
本発明においては、樹脂組成物中に存在する無機黒色顔料の凝集粒子の大きさは、樹脂を有機溶剤などで溶解・除去して、無機黒色顔料を含有する分散液とし、該分散液の濃度を調整して、湿式のレーザー回折・散乱法を用いて評価するか、樹脂組成物の状態で電子顕微鏡を用いて凝集粒子の大きさを測定して、粒度分布を算出すればよい。
【0063】
本発明に係る樹脂組成物はマスターバッチペレットを経由して得ることもできる。
【0064】
本発明におけるマスターバッチペレットは、塗料及び樹脂組成物の構成基材としての結合材樹脂と前記無機黒色顔料とを必要により、リボンブレンダー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機で混合した後、周知の単軸混練押出機や二軸混練押出機等で混練、成形した後切断するか、又は、上記混合物をバンバリーミキサー、加圧ニーダー等で混練して得られた混練物を粉砕又は成形、切断することにより製造される。
【0065】
結合材樹脂と無機黒色顔料の混練機への供給は、それぞれを所定比率で定量供給してもよいし、両者の混合物を供給してもよい。
【0066】
本発明におけるマスターバッチペレットは、平均長径1〜6mm、好ましくは2〜5mmの範囲である。平均短径は2〜5mm、好ましくは2.5〜4mmである。平均長径が1mm未満の場合には、ペレット製造時の作業性が悪く好ましくない。6mmを超える場合には、希釈用結合材樹脂の大きさとの違いが大きく、十分に分散させるのが困難となる。また、その形状は種々のものができ、不定形及び球形等の粒状、円柱形、フレーク状等にできる。
【0067】
本発明におけるマスターバッチペレットに使用する結合材樹脂としては、前記樹脂組成物用樹脂と同一の樹脂が使用できる。
【0068】
なお、マスターバッチペレット中の結合材樹脂の組成は、希釈用結合材樹脂と同一の樹脂を用いても、また、異なる樹脂を用いてもよいが、異なる樹脂を使用する場合には、樹脂同士の相溶性により決まる諸特性を考慮して決めればよい。
【0069】
マスターバッチペレット中に配合される無機黒色顔料の量は、結合材樹脂100重量部に対して1〜200重量部、好ましくは1〜150重量部、より好ましくは1〜100重量部である。1重量部未満の場合には、混練時の溶融粘度が不足し、無機黒色顔料の良好な分散混合が困難である。200重量部を超える場合には、無機黒色顔料に対する結合材樹脂が少ないため、無機黒色顔料の良好な分散混合が難しく、また、マスターバッチペレットの添加量のわずかな変化によって樹脂組成物中に配合される無機黒色顔料の含有量が大きく変化するため所望の含有量に調製することが困難となり好ましくない。また、機械摩耗が激しく適当ではない。
【0070】
次に、本発明に係る無機黒色顔料を配合した農業用マルチフィルムについて述べる。
【0071】
本発明に係る農業用マルチフィルム中における無機黒色顔料の配合割合は、無機黒色顔料と樹脂との総和に対し、1〜10重量%の範囲で使用することができる。1重量%未満の場合には、農業用マルチフィルムとしての効率的な栽培を行うことが困難である。10重量%を超える場合にも、農業用マルチフィルムとしての効果は有するが、必要以上に混合・配合する意味がない。
【0072】
本発明に係る農業用フィルムに用いる樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、酢酸ビニル等のオレフィン類の重合体あるいは共重合体、例えば、LLPE、LDPE等のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、酢酸ビニル含有量が25重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体が、透明性、耐候性、価格面を考慮して好ましい。
【0073】
本発明に係る農業用フィルムの製造に際しては、必要に応じて周知の滑剤、光安定剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、防霧剤、防曇剤、顔料、染料、熱安定剤等を適宜添加することができる。また、本発明においては前述した体質顔料を添加してもよい。
【0074】
本発明に係る農業用フィルムは、必要に応じて積層構造を有してもよい。
【0075】
次に、本発明に係る農業用フィルムの製造法について述べる。
【0076】
本発明に係る農業用フィルムは、本発明に係る無機黒色顔料及び樹脂を、常法に従って、たとえばリボンブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサーなどの混合機に投入し、混合後、押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダーなどを用いて溶融混練した後、インフレーション法、Tダイ法等の方法により、フィルム状に製膜して製造することができる。
【0077】
また、本発明においては、あらかじめ前述した樹脂と無機黒色顔料を所定量混合したペレットを作製しておき、該ペレットを用いて前記農業用フィルムを作製してもよい。
【0078】
<作用>
本発明において最も重要な点は、本発明に係る無機黒色顔料は、有害元素を含有することなく、優れた赤外線反射性及び透過性を有するという事実である。
【0079】
本発明に係る無機黒色顔料が優れた赤外線反射性及び高い透過性を有する理由は、未だ明らかではないが、後出する実施例及び比較例から明らかなとおり、特性の組成を有する(Fe、Co及びAlとともに、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Sn、Zr、Si及びCuから選ばれる一種以上の金属を含有する)ことによって、黒色であって日射反射率(300〜2500nm)での反射率を向上させることができ、しかも、二次粒子(凝集粒子)の大きさを制御することによって高い透過性も有することができたものである。
【0080】
また、本発明に係る無機黒色顔料は、Cr6+などの有害金属元素を含有しておらず、安全な顔料である。
【実施例】
【0081】
本発明の代表的な実施例は、次の通りである。
【0082】
粒子の一次平均粒子径は電子顕微鏡写真に示される粒子350個の粒子径をそれぞれ測定し、その平均値で示した。
【0083】
凝集粒子の二次粒子径(D99)は粒度分布測定器(HELOS&RODOS)を用いて、気流分散圧力5barで測定したときの累積分布の99%粒子径により、未分散凝集粒子径の大きさを評価した。
【0084】
比表面積値は、BET法により測定した値で示した。
【0085】
無機黒色顔料の金属元素の含有量は、「蛍光X線分析装置3063M型」(理学電機工業株式会社製)を使用し、JIS K0119の「けい光X線分析通則」に従って測定した。
【0086】
Cr6+の測定方法は、「ICP発光分光分析装置」(エスエスアイ・ナノテクノロジー(株)社製)を使用し、JIS K0102 65.2.4の「ICP 発光分光分析法」に従って測定した。
【0087】
無機黒色顔料の色相(L値、a値、b値)は、試料0.5gとヒマシ油0.5mlとをフーバー式マーラーで練ってペースト状とし、このペーストにクリアラッカー4.5gを加え、混練、塗料化してキャストコート紙上に150μm(6mil)のアプリケーターを用いて塗布した塗布片(塗膜厚み:約30μm)を作製した塗膜片について、「多光源分光測色計MSC−IS−2D」(スガ試験機株式会社製)を用いて測定を行い、JIS Z 8729に定めるところに従って表色指数(L値、a値)で示した。
【0088】
赤外線反射用黒色顔料の可視光領域及び赤外線領域での波長の反射性は、上記の色相を測定するために作製した塗膜片について、「日立分光光度計 U−4100」を用いて、JIS R3106「板ガラス類の透過率、反射率、日射熱取得率の試験方法」に従って、可視光領域波長250〜780nm及び可視光領域から赤外線領域波長300nm〜2500nmにおけるフィルムの各平均反射率を測定した。
【0089】
可視光領域での透過性は、上記の色相を測定するために作製したキャストコート紙を100μm厚みの透明PETフィルムに変更した以外は同じ条件で作製した塗膜片について、「日立分光光度計 U−4100」を用いて、JIS R3106「板ガラス類の透過率、反射率、日射熱取得率の試験方法」に従って、可視光領域波長250〜780nm及び可視光領域から赤外線領域波長300nm〜2500nmにおけるフィルムの各平均透過率を測定しした。
【0090】
実施例1
CoO、Al、MgO及びFeを、(CoO)・(MgO)1−x・n[(FeAl1―y](x=0.5、y=0.5、n=1)となるように計量、混合し、大気中、1100℃で2時間焼成した。得られた焼成品についてハンマーミルを用いて仕上げ粉砕して無機黒色顔料を得た。得られた無機黒色顔料は、一次平均粒子径(平均粒子径)が0.7μmであって、二次凝集径D99が5.9μmであり、結晶構造はスピネル型であった。
かさ密度を、JIS K 5101−12−1 静置法に記載の方法に従って測定したところ、0.40g/cmであった。1インチ径のシリンダーに顔料20gを量り取り、1トン/cmの圧力で圧縮したときの体積から算出した圧縮密度(1ton/cm2)は2.1g/cmであった。粉体pHを、JIS K 5101−17−1(煮沸抽出法)に記載の方法に従って測定したところ、8.9であった。水分量を、カールフィッシャー水分装置(京都電子 MKC−510)を用いて測定したところ、0.13wt%であった。真比重を、JIS K 5101−11−1 ピクノメータ法に記載の方法に従って測定したところ、4.8g/cmであった。吸油量を、JIS K 5101−13−1 あまに油法に記載の方法に従って測定したところ、30ml/100gであった。磁気特性のうち、外部磁場10KOeにおける飽和磁化値が10.9emu/gであった。
【0091】
さらに、得られた無機黒色顔料は、可視光領域波長250〜780nmにおける平均反射率が5.6%、可視光領域から赤外線領域波長300〜2500nmにおける平均反射率(日射反射率)が18%であった。
【0092】
また、得られた無機黒色顔料は、可視光領域波長250〜780nmにおける平均透過率が0.2%、可視光領域から赤外線領域波長300〜2500nmにおける平均透過率(日射透過率)が13%であった。
【0093】
<マスターバッチの製造>
黒色顔料濃度が40%になるように2軸混練機を用いて黒色顔料と酢酸ビニル濃度15%のEVA樹脂とを混ぜてマスターバッチ化して、平均長径2.5mm、平均短径2.3mmのマスターバッチペレットを得た。
【0094】
<農業フィルムの製造>
フィルム化はインフレ成膜機を用いて両外層の層厚が20μmのポリエチレン層、中間層は前記黒色顔料を40%含有するEVAマスターバッチを6%濃度に薄めて、全層厚が100μの農業フィルムを作成した。このフィルム全体での顔料の含有量は3.6%である。
【0095】
得られた農業フィルムは、可視光透過率が0.2%、日射透過率が13%であった。
【0096】
実施例2、比較例1〜3
種々の原料及び組成割合に変化させた以外は前記実施例1と同様にして無機黒色顔料を得た。
【0097】
このときの製造条件を表1に、得られた無機黒色顔料の諸特性を表2に、得られた塗膜の特性を表3に示す。なお、比較例3のマグネタイトは戸田工業(株)製 MAT−305である。
【0098】
実施例3
種々の原料及び組成割合に変化させた以外は前記実施例1と同様にして無機黒色顔料を得た。次いで、得られた無機黒色顔料を水中に湿式分散させ、70℃に保温した無機黒色顔料のスラリーに対し水ガラス1wt%を滴下しながら塩酸及び水酸化ナトリウムでpH7に調整し1時間維持した。その後、水洗・乾燥・粉砕処理した。
【0099】
実施例4
種々の原料、組成割合及び表面処理を変化させた以外は前記実施例3と同様にして無機黒色顔料を得た。
【0100】
表2における結晶構造のうち、「spinel」はスピネル型を示すものである。なお、Cr6+の含有量が「5ppm未満」とは、前記測定装置の検出限界以下であることを示す。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る無機黒色顔料は、赤外線反射性及び透過性に優れているので農業マルチフィルム用黒色顔料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeとCoとAlを含有し、更に、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、Sn、Zr、Si及びCuから選ばれる一種以上の金属元素を含有する複合酸化物からなる無機黒色顔料であって、該無機黒色顔料の一次平均粒子径が0.02〜2.0μmであり、且つ、二次粒子径のうちD99が0.08〜8.0μmであることを特徴とする無機黒色顔料。
【請求項2】
請求項1記載の無機黒色顔料において、可視光反射率が10%以下であり、且つ、日射反射率が15%以上である無機黒色顔料。
【請求項3】
請求項1記載の無機黒色顔料において、可視光透過率が10%以下であり、且つ、日射透過率が10%以上である無機黒色顔料。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の無機黒色顔料を塗料構成基材中に配合したことを特徴とする塗料。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の無機黒色顔料を用いて着色したことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の無機黒色顔料を用いてフィルム状に成形してなることを特徴とする農業用マルチフィルム。

【公開番号】特開2010−111866(P2010−111866A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235609(P2009−235609)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】