説明

無線タグの検査方法、検査装置および検査システムならびにプログラム

【課題】 無線タグの通信性能を短時間でより高精度に検査する。
【解決手段】 複数の無線タグのそれぞれに対して質問器から設定用質問信号を1つ以上の第2送信信号強度で送信し、設定用質問信号に応じて複数の無線タグからそれぞれ送信される応答信号の質問器における受信信号強度を示す複数の第1のRSSI値を第2送信信号強度ごとに取得し、複数の第1のRSSI値のうち所定の割合の数が含まれるようなRSSI値の範囲を第2送信信号強度ごとに設定し、被検査無線タグに対して質問器から検査用質問信号を第2送信信号強度で送信し、検査用質問信号に応じて被検査無線タグから送信される応答信号の質問器における受信信号強度を示す第2のRSSI値を第2送信信号強度ごとに取得し、第2のRSSI値とRSSI値の範囲との比較を第2送信信号強度ごとに行い、比較の結果に基づいて被検査無線タグの通信性能を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線タグの検査方法、検査装置、および検査システム、ならびにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物流などの分野において、質問器と応答器との間で無線通信を行うことによって、応答器が有するIC(Integrated Circuit:集積回路)に記憶されているID(IDentification:識別)情報を読み書きする、RFID(Radio Frequency IDentification:無線識別)と呼ばれる技術が知られている。当該RFID技術における応答器は、一般に無線タグ、(無線)ICタグ、RF(ID)タグなどと呼ばれているが、以下、無線タグと称することとする。また、当該RFID技術における質問器は、一般にRFIDリーダなどと呼ばれている。
【0003】
RFID技術を用いた物流システムなどの信頼性を確保するためには、少なくとも使用前に、各無線タグが所定の通信性能を有する良品か否かを検査する必要がある。例えば、各無線タグに対してRFIDリーダから閾値となるような所定の送信信号強度で質問信号を送信し、無線タグから送信される応答信号をRFIDリーダが受信できるか否かによって、良品か否かを検査する検査方法が一般に知られている。また、特許文献1においては、このような検査方法を基にしつつ、複数の無線タグを同時に検査する方法も開示されている。
【0004】
このようにして、RFIDリーダから所定の送信信号強度で送信された質問信号に応じてRFIDリーダが受信可能な応答信号を送信することができるか否かによって、各無線タグが良品であるか不良品であるかを検査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−181477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来から知られている一般的な検査方法は、RFIDリーダにおける応答信号の受信の可否によって無線タグの良否のみを判定する、定性的な検査方法である。そのため、無線タグに高い信頼性が求められるような用途では、定量的な検査結果を得るため、例えば、RFIDリーダの送信信号強度を変化させ、RFIDリーダが応答信号を受信できる最低レベルの送信信号強度を測定している。このようにして、従来の検査方法を用いても、無線タグの通信性能をより高精度に検査することは可能である。
【0007】
しかしながら、このような高精度な検査方法では、1つの無線タグに対して質問信号の送信および応答信号の受信を複数回行うこととなる。そのため、各無線タグに対する検査時間が長くなり、また、検査時間が長くなることによって、各無線タグのコストの上昇を招くこととなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決する主たる本発明は、質問器から第1の送信信号強度で送信された質問信号に応じて前記質問器が受信可能な応答信号を送信することができる複数の無線タグのそれぞれに対して、前記質問器から検査対象である被検査無線タグの通信性能の判定条件を設定するための設定用質問信号を1つ以上の第2の送信信号強度で送信し、前記設定用質問信号に応じて前記複数の無線タグからそれぞれ送信される前記応答信号の前記質問器における受信信号強度を示す複数の第1のRSSI値を前記第2の送信信号強度ごとに取得し、前記複数の第1のRSSI値のうち所定の割合の数が含まれるようなRSSI値の範囲を前記第2の送信信号強度ごとに設定し、前記被検査無線タグに対して前記質問器から検査用質問信号を前記第2の送信信号強度で送信し、前記検査用質問信号に応じて前記被検査無線タグから送信される前記応答信号の前記質問器における受信信号強度を示す第2のRSSI値を前記第2の送信信号強度ごとに取得し、前記第2のRSSI値と前記RSSI値の範囲との比較を前記第2の送信信号強度ごとに行い、前記比較の結果に基づいて前記通信性能を判定することを特徴とする無線タグの検査方法である。
本発明の他の特徴については、添付図面及び本明細書の記載により明らかとなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無線タグの通信性能を短時間でより高精度に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態における無線タグの検査システム全体の構成を示すブロック図である。
【図2】無線タグ9の具体的な構成の一例を示す透過平面図である。
【図3】無線タグ9の具体的な構成の一例を示す透過側面図である。
【図4】V0配置の場合における良品サンプルについてのRSSI値の測定データの一例を示す図である。
【図5】V90配置の場合における良品サンプルについてのRSSI値の測定データの一例を示す図である。
【図6】V0配置の場合の3個の測定ポイントにおける良品サンプルについてのRSSI値の測定データの度数分布を示す図である。
【図7】V90配置の場合の3個の測定ポイントにおける良品サンプルについてのRSSI値の測定データの度数分布を示す図である。
【図8】V0配置の場合の3個の測定ポイントにおける閾値範囲の一設定例を示す図である。
【図9】V90配置の場合の3個の測定ポイントにおける閾値範囲の一設定例を示す図である。
【図10】V0配置の場合の3個の測定ポイントにおける良品サンプルについてのRSSI値の測定データの正規確率プロットである。
【図11】V90配置の場合の3個の測定ポイントにおける良品サンプルについてのRSSI値の測定データの正規確率プロットである。
【図12】V0配置の場合の3個の測定ポイントにおける閾値範囲の他の設定例を示す図である。
【図13】V90配置の場合の3個の測定ポイントにおける閾値範囲の他の設定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0012】
===検査システム全体の構成===
以下、図1を参照して、本発明の一実施形態における無線タグの検査システム全体の構成について説明する。
【0013】
図1に示されている検査システムは、無線タグ9の通信性能を検査するためのシステムであり、例えば判定部1、RFIDリーダ(質問器)2、アンテナ3、および記録部6からなる検査装置部分と、遮蔽体4とを含んで構成されている。
【0014】
判定部1から出力される制御信号CNTは、RFIDリーダ2に入力され、RFIDリーダ2から出力されるRSSI(Received Signal Strength Indicator/Indication:受信信号強度表示)値は、判定部1に入力されている。また、RFIDリーダ2から出力される質問信号Txは、遮蔽体4の内部に配置されたアンテナ3を介して送信され、アンテナ3を介して受信される応答信号Rxは、RFIDリーダ2に入力されている。なお、アンテナ3としては、例えば円偏波パッチアンテナ(マイクロストリップアンテナ)が用いられる。さらに、判定部1から記録部6には、判定結果RESとともにRSSI値が入力されている。
【0015】
遮蔽体4の内側は、例えば電波吸収材41で覆われている。また、遮蔽体4の上部には、アンテナ3と無線タグ9との間で無線通信を行うための開口部が設けられており、当該開口部の周囲には、無線タグ9を遮蔽体4に固定するための固定具42が設けられている。
【0016】
===検査システム全体の動作の概略===
次に、本実施形態における検査システム全体の動作の概略について説明する。
【0017】
RFIDリーダ2は、制御信号CNTに従って、アンテナ3から質問信号Txを送信し、質問信号Txは、無線タグ9まで電波(電磁波)として伝達される。また、無線タグ9は、質問信号Txを受信すると、質問信号Txに応じて応答信号Rxを送信し、応答信号Rxは、アンテナ3まで電波として伝達される。さらに、RFIDリーダ2は、アンテナ3を介して応答信号Rxを受信すると、応答信号Rxの受信信号強度を示すRSSI値を判定部1に出力する。そして、判定部1は、当該RSSI値と予め設定された判定条件との比較の結果に基づいて無線タグ9が所定の通信性能を有する良品か否かを判定し、記録部6は、当該判定結果RESとともにRSSI値を記録する。
【0018】
なお、本実施形態の検査システムにおいて、アンテナ3と無線タグ9との間の距離hは、質問信号Txおよび応答信号Rxが電波として伝達されるよう、当該電波の波長に対して十分に長いものとする。また、質問信号Txおよび応答信号Rxのうち直接波以外の信号は、電波吸収材41に吸収されて遮蔽されるため、それぞれの直接波の信号のみが伝達されることとなる。
【0019】
本実施形態の検査システムを用いた無線タグの検査方法は、大別して、検査対象である無線タグ9(以下、被検査無線タグと称する)が所定の通信性能を有する良品か否かを実際に判定する判定工程、および、当該判定工程における判定条件を予め設定しておく事前工程からなる。以下、一例として、無線タグ9の具体的な構成を示すとともに、本実施形態の検査システムを用いて無線タグ9の通信性能を検査する検査方法について、事前工程、判定工程の順に説明する。
【0020】
===無線タグの構成===
以下、図2および図3を参照して、無線タグ9の構成について説明する。なお、図2は、無線タグ9のアンテナ面に垂直な方向から見た透過図(透過平面図)であり、図3は、無線タグ9のアンテナ面に平行な方向から見た透過図(透過側面図)である。
【0021】
図2および図3に示されている無線タグ9は、アンテナ素子(エレメント)91a、91b、92a、92b、ICチップ93、およびポッティング材(封止材)94を含んで構成されている。
【0022】
ICチップ93は、少なくとも、アンテナ素子91a、91b、92a、および92bが接続される電極AないしDを有している。また、ICチップ93は、例えば、無線タグ9の厚みを抑えるためにベアチップの状態で実装され、ポッティング材94で封止されている。なお、図2においては、ICチップ93を覆っているポッティング材94は、図示されていない。
【0023】
アンテナ素子91aおよび91bは、それぞれ給電側素子および接地側素子として電極AおよびCに接続され、合わせてダイポールアンテナ91を構成している。一方、アンテナ素子92aおよび92bは、それぞれ給電側素子および接地側素子として電極BおよびDに接続され、合わせてダイポールアンテナ92を構成している。そして、ダイポールアンテナ91および92は、互いに略直交するように配置され、合わせてクロスダイポールアンテナを構成している。
【0024】
なお、本実施形態の検査システムにおいて、無線タグ9は、図1および図2が無線タグ9を同一の方向から見た図となるように、すなわち、質問信号Txのうち直接波の信号をクロスダイポールアンテナのアンテナ面に略平行な方向から受信するように設置される。また、図2におけるV0の方向、すなわち、アンテナ素子91aおよび92aの略中間の方向から質問信号Txを受信するように無線タグ9を設置した状態をV0配置と称することとし、図2および図3におけるV90の方向、すなわち、V0の方向と略直交する方向から質問信号Txを受信するように無線タグ9を設置した状態をV90配置と称することとする。
【0025】
===事前工程===
次に、本実施形態の検査システムを用いた無線タグの検査方法における事前工程について説明する。
【0026】
事前工程では、判定工程における検査対象である被検査無線タグと同一の構成であり、判定工程において良品であると判定されるべき所定の通信性能を有する複数の無線タグ(以下、良品サンプルと称する)が用いられる。なお、前述したように、事前工程は、判定工程における判定条件を予め設定しておく工程であるため、当該良品サンプルは、従来から知られているような方法によって選別されている。
【0027】
例えば、本実施形態の検査システムを用いて、前述したように、無線タグに対してRFIDリーダ2から閾値となるような(第1の)送信信号強度S1で質問信号Txを送信し、当該無線タグから送信される応答信号RxをRFIDリーダ2が受信できるか否かによって、良品サンプルを選別することができる。また、前述したように、RFIDリーダ2の送信信号強度S1を変化させ、RFIDリーダ2が応答信号Rxを受信できる最低レベルの送信信号強度SLを測定することによって、良品サンプルを選別してもよい。
【0028】
まず、RFIDリーダ2は、本実施形態の検査システムに被検査無線タグの場合と同様に設置される良品サンプルに対して、(設定用)質問信号Txを(第2の)送信信号強度S2で送信し、当該良品サンプルから送信される応答信号Rxの受信信号強度を示す(第1の)RSSI値を判定部1に出力する。なお、送信信号強度S2は、少なくとも、良品サンプルから送信される応答信号RxをRFIDリーダ2が受信できるよう、上記の最低レベルの送信信号強度SL以上にする必要がある。当該質問信号Txの送信および応答信号Rxの受信をすべての良品サンプルについて行うことによって、判定部1は、良品サンプルの個数分のRSSI値のデータを取得することとなる。
【0029】
なお、後述するように、送信信号強度S2は、判定工程における質問信号Txの送信信号強度と共通であり、求められる検査速度や信頼性に応じて、1つまたは複数の送信信号強度S2が用いられる。また、複数の送信信号強度S2が用いられる場合には、判定部1は、当該複数の送信信号強度S2ごとに良品サンプルの個数分のRSSI値のデータを取得することとなる。
【0030】
ここで、一例として、V0配置およびV90配置の場合における、同一の約200個の良品サンプルについてのRSSI値の測定データを、それぞれ図4および図5に示す。
【0031】
図4および図5において、横軸および縦軸の単位は、例えばdBmであるが、横軸および縦軸の具体的な値は、アンテナ3の利得やアンテナ3と無線タグ9との間の距離hなどによって変動する。また、図4および図5においては、横軸の値(送信信号強度S2)を18から30まで0.5ずつ変化させた25個の測定ポイントのデータが示されているが、以下、一例として、左端(S2=18)、中央(S2=24)、および右端(S2=30)の3個の測定ポイントを用いる場合について説明することとする。
【0032】
次に、判定部1は、良品サンプルについてのRSSI値の測定データから、判定工程における判定条件となるRSSI値の範囲(以下、閾値範囲と称する)を送信信号強度S2ごとに設定する。
【0033】
ここで、図4および図5の上記3個の測定ポイントにおける度数分布は、それぞれ図6および図7のようになり、これらの度数分布は、良品サンプルについてのRSSI値の測定データが比較的狭い範囲に集中していることを示している。そのため、一例として、当該測定データのすべてが閾値範囲に含まれるように、測定データの最小値MINを閾値範囲の下限値として設定することができる。このように送信信号強度S2(=18、24、30)ごとに設定される閾値範囲の下限値は、図8(V0配置)および図9(V90配置)の長破線のようになる。
【0034】
また、通信距離が必要以上に長い無線タグを使用することが不都合な用途などでは、さらに測定データの最大値MAXを閾値範囲の上限値として設定してもよい。このように送信信号強度S2ごとに設定される閾値範囲の上限値は、図8および図9の短破線のようになる。
なお、統計的手法を用いて閾値範囲を設定することもできる。
【0035】
ここで、図4および図5の3個の測定ポイントにおける正規確率プロットは、それぞれ図10および図11のようになり、これらの正規確率プロットは、良品サンプルについてのRSSI値の測定データが略正規分布に従っている(図10)、または比較的正規分布に近い(図11)ことを示している。そのため、測定データの平均値および標準偏差をそれぞれAVEおよびσとすると、一例として、当該測定データの約99.7%が閾値範囲に含まれるように、AVE−3σないしAVE+3σを閾値範囲として設定することができる。このように送信信号強度S2ごとに設定される閾値範囲は、図12(V0配置)および図13(V90配置)のようになる。
【0036】
===判定工程===
次に、本実施形態の検査システムを用いた無線タグの検査方法における判定工程について説明する。
【0037】
前述したように、判定工程では、事前工程において予め設定された判定条件(閾値範囲)を用いて、被検査無線タグが所定の通信性能を有する良品か否かを実際に判定する。
【0038】
まず、RFIDリーダ2は、被検査無線タグに対して(検査用)質問信号Txを送信信号強度S2で送信し、当該被検査無線タグから送信される応答信号Rxの受信信号強度を示す(第2の)RSSI値を判定部1に出力する。
【0039】
次に、判定部1は、取得した被検査無線タグについてのRSSI値と、予め設定された閾値範囲との比較を送信信号強度S2ごとに行い、当該比較の結果に基づいて被検査無線タグが良品か否かを判定する。例えば、3個の測定ポイントのうち2個以上の測定ポイントについて、被検査無線タグについてのRSSI値が閾値範囲に含まれる、すなわち、閾値範囲の下限値以上かつ上限値以下である場合にのみ、当該被検査無線タグを良品であると判定する。
【0040】
このようにして、判定部1は、良品サンプルについてのRSSI値の測定データから、閾値範囲を送信信号強度S2ごとに予め設定しておき、被検査無線タグについてのRSSI値と閾値範囲との比較を送信信号強度S2ごとに行った結果に基づいて被検査無線タグが良品か否かを判定する。また、事前工程において十分に多くの良品サンプルを用いて閾値範囲を設定した場合には、所定の通信性能を有する被検査無線タグについてのRSSI値は、十分に高い確率で閾値範囲に含まれることとなる。
【0041】
一方、無線タグ9は、ICチップ93の製造不良や静電気破壊、ICチップ93と各アンテナ素子との接続不良などによって、所定の通信性能を有しない不良品となる場合もある。また、このような不良品には、無線通信をまったく行えないものもあれば、良品と比べて通信性能が劣るものもある。無線通信をまったく行えない不良品の場合、前述したような従来から知られている検査方法によって検査することも十分に可能である。
【0042】
しかしながら、良品と比べて通信性能が劣る不良品の場合、従来の定性的な検査方法では、良品であると誤判定されることがあるか、または、通信性能をより高精度に検査するために検査時間が長くなる。本実施形態の検査システムでは、被検査無線タグについて測定されるRSSI値と、予め設定された閾値範囲との比較を行うことによって、通信性能が劣る不良品も確実に発見することができる。
【0043】
なお、通信性能が劣る不良品としては、例えば、静電気によってICチップ93の無線通信の特性が変化したものや、ICチップ93とアンテナ素子との接続抵抗値が高いことによってインピーダンスの不整合が発生しているものなどがある。また、特に電源を内蔵しないパッシブ型の無線タグの場合には、製造不良などによってICチップ93の消費電力が大きいために、低い送信信号強度でしか応答信号Rxを送信できないものも含まれる。
【0044】
さらに、図2および図3に示した無線タグ9の場合には、ICチップ93の電極AないしDのうちの何れか1箇所において接続不良が発生したとしても、ダイポールアンテナ91または92の何れか一方が正常に動作するため、検査システムの構成によっては通信性能を良品と区別することができず、このような接続不良を発見することができないことがある。
【0045】
本実施形態の検査システムでは、無線タグ9は、2つのアンテナ素子の略中間の方向から質問信号Txを受信するように設置されるため、上記の接続不良が発生した場合には、正常に動作する一方のダイポールアンテナに垂直な方向、すなわち、アンテナ3の方向に対して約45°の方向の指向性を有することとなる。そのため、応答信号Rxのうちアンテナ3に伝達される直接波の信号強度は低くなり、また、直接波以外の信号は電波吸収材41に吸収されて遮蔽されるため、応答信号Rxの受信信号強度は低くなる。したがって、このような接続不良が発生している無線タグ9を、良品と比べて通信性能が劣る不良品として発見することができる。
【0046】
ここで、一例として、V0配置およびV90配置の場合の3個の測定ポイントにおける、同一の8個の不良品サンプルについてのRSSI値の測定データを、それぞれ図8および図9に示す。当該不良品サンプルは、いずれもICチップ93の電極AないしDのうちの何れか1箇所以上において接続不良が発生している無線タグである。なお、図12および図13においても、同様に不良品サンプルについてのRSSI値の測定データが示されている。また、図9および図13において、RFIDリーダ2が応答信号Rxを受信できなかった場合のRSSI値は、−100としてある。
【0047】
図8、図9、図12、および図13に示されているように、不良品サンプルについてのRSSI値は、いずれの測定ポイントについても閾値範囲に含まれず、良品サンプルについてのRSSI値に対して有意に低くなっている。
【0048】
このようにして、本実施形態の検査システムを用いた無線タグの検査方法は、良品と比べて通信性能が劣る不良品も確実に発見することができ、特に、上記のような接続不良が発生している無線タグ9も確実に発見することができる。また、従来から知られている高精度な検査方法を用いて良品サンプルを通信性能に基づく複数のグループに分け、当該グループごとに所定の通信性能を示す閾値範囲を設定することによって、被検査無線タグの良否を判定するのみでなく、被検査無線タグを通信性能に基づくグループごとに選別することもできる。
【0049】
さらに、本実施形態の検査装置部分は、被検査無線タグごとに良否を示す判定結果RESとともにRSSI値を記録する記録部6を含むことがより望ましい。この場合、RSSI値の統計情報を無線タグの製造ラインの品質管理に利用することによって、良否の判定結果RESの統計情報のみを利用した場合に比べて、品質管理の能力を向上させることができる。
【0050】
===プログラムの動作===
図1に示した本実施形態の検査装置部分のうち、判定部1の機能は、RFIDリーダ2を制御するための制御信号CNTを出力し、RFIDリーダ2から出力されるRSSI値を取得するコンピュータ(不図示)によって実現することもできる。当該コンピュータは、例えばCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)およびメモリを備え、メモリに格納されたプログラムをCPUが実行することによって、判定部1の機能を実現する。以下、検査装置の判定部1に相当する機能をコンピュータに実現させるためのプログラムの動作について説明する。
【0051】
事前工程において、まず、コンピュータは、良品サンプルに対してRFIDリーダ2から質問信号Txを送信信号強度S2で送信させ、当該良品サンプルから送信される応答信号RxのRFIDリーダ2における受信信号強度を示すRSSI値を取得し、次に、当該RSSI値から閾値範囲を送信信号強度S2ごとに設定する。
【0052】
また、判定工程において、まず、コンピュータは、被検査無線タグに対してRFIDリーダ2から質問信号Txを送信信号強度S2で送信させ、当該被検査無線タグから送信される応答信号RxのRFIDリーダ2における受信信号強度を示すRSSI値を取得し、次に、当該RSSI値と閾値範囲との比較を送信信号強度S2ごとに行い、当該比較の結果に基づいて被検査無線タグが良品か否かを判定する。
【0053】
前述したように、送信信号強度S2で送信した質問信号Txに応じて良品サンプルから送信される応答信号Rxの受信信号強度を示すRSSI値の測定データから、当該測定データを所定の割合で含むような閾値範囲を送信信号強度S2ごとに予め設定しておき、送信信号強度S2で送信した質問信号Txに応じて被検査無線タグから送信される応答信号Rxの受信信号強度を示すRSSI値と閾値範囲との比較を送信信号強度S2ごとに行った結果に基づいて被検査無線タグの通信性能を判定することによって、被検査無線タグの通信性能を短時間でより高精度に検査することができる。
【0054】
また、送信信号強度S2に対応する複数の測定ポイントのうち所定の割合以上の測定ポイントについて、被検査無線タグについてのRSSI値が閾値範囲に含まれる場合に、当該被検査無線タグを良品であると判定することによって、検査の信頼性を向上させることができる。
【0055】
また、少なくとも閾値範囲の下限値を設定し、所定の割合以上の測定ポイントについて、被検査無線タグについてのRSSI値が閾値範囲の下限値以上である場合に、当該被検査無線タグを良品であると判定することによって、所定の通信性能に満たない無線タグのみを良品でないと判定することができる。
【0056】
また、閾値範囲の上限値をさらに設定し、所定の割合以上の測定ポイントについて、被検査無線タグについてのRSSI値が閾値範囲の下限値以上かつ上限値以下である場合に、当該被検査無線タグを良品であると判定することによって、所定の通信性能を超える無線タグも良品でないと判定することができる。さらに、良品サンプルの通信性能に基づくグループごとに閾値範囲を設定することによって、被検査無線タグを通信性能に基づくグループごとに選別することもできる。
【0057】
また、判定部1は、事前工程では、RFIDリーダ2から出力される良品サンプルについてのRSSI値の測定データから閾値範囲を送信信号強度S2ごとに予め設定しておき、判定工程では、RFIDリーダ2から出力される被検査無線タグについてのRSSI値と閾値範囲との比較を送信信号強度S2ごとに行った結果に基づいて被検査無線タグが良品か否かを判定することによって、被検査無線タグの通信性能を短時間でより高精度に検査する検査装置を実現することができる。
【0058】
また、検査装置は、被検査無線タグごとに良否の判定結果RESとともにRSSI値を記録することによって、当該記録された情報を無線タグの製造ラインの品質管理に利用することができる。
【0059】
また、質問信号Txおよび応答信号Rxのうち直接波以外の信号を遮蔽体4によって遮蔽し、クロスダイポールアンテナを備えた無線タグ9を、質問信号Txのうち直接波の信号をアンテナ面に略平行な方向から受信するように設置することによって、ICチップ93と各アンテナ素子との接続不良を確実に発見する検査システムを実現することができる。
【0060】
また、検査装置の判定部1に相当する機能をコンピュータに実現させるためのプログラムにおいて、RFIDリーダ2からの質問信号Txの送信を制御するための制御信号CNTを出力し、応答信号RxのRFIDリーダ2における受信信号強度を示すRSSI値を取得することによって、良品サンプルについてのRSSI値の測定データから閾値範囲を送信信号強度S2ごとに予め設定しておき、被検査無線タグについてのRSSI値と閾値範囲との比較を送信信号強度S2ごとに行った結果に基づいて被検査無線タグが良品か否かを判定することができる。
【0061】
なお、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るととともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0062】
上記実施形態では、3つの送信信号強度S2に対応する3個の測定ポイントを用いる場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、1個の測定ポイントのみを用いる場合には、当該1個の測定ポイントについてのみ、被検査無線タグについてのRSSI値と閾値範囲との比較を行えばよく、検査時間を最も短くすることができる。一方、より多くの測定ポイントを用いる場合には、検査時間は長くなるが、検査の信頼性をより向上させることができる。
【0063】
上記実施形態では、被検査無線タグの一例として、一対のダイポールアンテナからなるクロスダイポールアンテナを備えた無線タグ9の場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、被検査無線タグが1つのダイポールアンテナのみを備える場合には、ICチップとアンテナ素子との接続不良が発生すると、唯一のアンテナが正常に動作しなくなるため、当該被検査無線タグをダイポールアンテナに垂直な方向から質問信号Txを受信するように設置することによって、比較的容易に接続不良を発見することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 判定部
2 RFIDリーダ(質問器)
3 アンテナ
4 遮蔽体
6 記録部
9 無線タグ
41 電波吸収材
42 固定具
91a、91b、92a、92b アンテナ素子(エレメント)
93 IC(集積回路)チップ
94 ポッティング材(封止材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質問器から第1の送信信号強度で送信された質問信号に応じて前記質問器が受信可能な応答信号を送信することができる複数の無線タグのそれぞれに対して、前記質問器から検査対象である被検査無線タグの通信性能の判定条件を設定するための設定用質問信号を1つ以上の第2の送信信号強度で送信し、
前記設定用質問信号に応じて前記複数の無線タグからそれぞれ送信される前記応答信号の前記質問器における受信信号強度を示す複数の第1のRSSI値を前記第2の送信信号強度ごとに取得し、
前記複数の第1のRSSI値のうち所定の割合の数が含まれるようなRSSI値の範囲を前記第2の送信信号強度ごとに設定し、
前記被検査無線タグに対して前記質問器から検査用質問信号を前記第2の送信信号強度で送信し、
前記検査用質問信号に応じて前記被検査無線タグから送信される前記応答信号の前記質問器における受信信号強度を示す第2のRSSI値を前記第2の送信信号強度ごとに取得し、
前記第2のRSSI値と前記RSSI値の範囲との比較を前記第2の送信信号強度ごとに行い、
前記比較の結果に基づいて前記通信性能を判定することを特徴とする無線タグの検査方法。
【請求項2】
前記第2の送信信号強度ごとに行われる前記比較の結果のうち所定の割合以上の結果について、前記第2のRSSI値が前記RSSI値の範囲に含まれる場合に、前記被検査無線タグが所定の通信性能を有すると判定することを特徴とする請求項1に記載の無線タグの検査方法。
【請求項3】
前記RSSI値の範囲は、少なくとも下限値を有し、
前記所定の割合以上の結果について、前記第2のRSSI値が前記下限値以上の場合に、前記被検査無線タグが前記所定の通信性能を有すると判定することを特徴とする請求項2に記載の無線タグの検査方法。
【請求項4】
前記RSSI値の範囲は、上限値をさらに有し、
前記所定の割合以上の結果について、前記第2のRSSI値が前記下限値以上かつ前記上限値以下の場合に、前記被検査無線タグが前記所定の通信性能を有すると判定することを特徴とする請求項3に記載の無線タグの検査方法。
【請求項5】
無線タグに対して質問信号を送信するとともに、前記無線タグから送信される応答信号を受信する質問器と、
検査対象である被検査無線タグの通信性能を判定する判定部と、
を有し、
前記質問器は、
第1の送信信号強度で送信された前記質問信号に応じて当該質問器が受信可能な前記応答信号を送信することができる複数の無線タグのそれぞれに対して、前記通信性能の判定条件を設定するための設定用質問信号を1つ以上の第2の送信信号強度で予め送信するとともに、前記設定用質問信号に応じて前記複数の無線タグからそれぞれ送信される前記応答信号の受信信号強度を示す複数の第1のRSSI値を出力しておき、
前記被検査無線タグに対して検査用質問信号を前記第2の送信信号強度で送信するとともに、前記検査用質問信号に応じて前記被検査無線タグから送信される前記応答信号の受信信号強度を示す第2のRSSI値を出力し、
前記判定部は、
前記複数の第1のRSSI値のうち所定の割合の数が含まれるようなRSSI値の範囲を前記第2の送信信号強度ごとに予め設定しておき、
前記第2のRSSI値と前記RSSI値の範囲との比較を前記第2の送信信号強度ごとに行った結果に基づいて前記通信性能を判定することを特徴とする無線タグの検査装置。
【請求項6】
前記判定部における前記通信性能を判定した結果とともに、前記第2のRSSI値を前記被検査無線タグごとに記録する記録部をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の無線タグの検査装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の無線タグの検査装置と、
前記質問信号および前記応答信号のうち直接波以外の信号を遮蔽する遮蔽体と、
を備え、
前記無線タグは、互いに略直交するように配置された一対のダイポールアンテナからなるクロスダイポールアンテナを備え、前記質問信号のうち直接波の信号を前記クロスダイポールアンテナのアンテナ面に略平行な方向から受信するように設置されることを特徴とする無線タグの検査システム。
【請求項8】
無線タグに対して質問信号を送信するとともに、前記無線タグから送信される応答信号を受信する質問器を備えるコンピュータに、
前記質問器から第1の送信信号強度で送信された前記質問信号に応じて前記質問器が受信可能な前記応答信号を送信することができる複数の無線タグのそれぞれに対して、前記質問器から検査対象である被検査無線タグの通信性能の判定条件を設定するための設定用質問信号を1つ以上の第2の送信信号強度で送信させる機能と、
前記設定用質問信号に応じて前記複数の無線タグからそれぞれ送信される前記応答信号の前記質問器における受信信号強度を示す複数の第1のRSSI値を前記第2の送信信号強度ごとに取得する機能と、
前記複数の第1のRSSI値のうち所定の割合の数が含まれるようなRSSI値の範囲を前記第2の送信信号強度ごとに設定する機能と、
前記被検査無線タグに対して前記質問器から検査用質問信号を前記第2の送信信号強度で送信させる機能と、
前記検査用質問信号に応じて前記被検査無線タグから送信される前記応答信号の前記質問器における受信信号強度を示す第2のRSSI値を前記第2の送信信号強度ごとに取得する機能と、
前記第2のRSSI値と前記RSSI値の範囲との比較を前記第2の送信信号強度ごとに行う機能と、
前記比較の結果に基づいて前記通信性能を判定する機能と、
を実現させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−250443(P2010−250443A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97320(P2009−97320)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(504385708)マイティカード株式会社 (11)
【Fターム(参考)】