説明

無線局識別装置、無線局識別方法、無線局識別プログラム

【課題】受信信号に基づき発信元の無線局を迅速且つ確実に識別する。
【解決手段】受信機3が、無線局からの無線信号を受信し、受信機3が受信したときの無線信号の受信周波数を検出するA/D変換器4と、特徴ベクトル波形抽出部5が、デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出し特徴ベクトル波形抽出部5、無線局同定処理部7が、既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部8から検出された受信周波数に一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出する特徴データ生成部6と、候補ベクトル波形と特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出し、この類似度に基づき無線局を同定する無線局同定処理部7を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線局から送信された電波を受信して得られた受信信号に基づき発信元の無線局の同定を行う無線局識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電波などの信号を発信する無線局の識別を行う無線局識別装置では、一般に、受信信号から抽出された特徴ベクトル波形を、予めデータベースに登録された教師ベクトル波形(教師データ)と逐次比較することにより、送信元無線局を特定している。
また、無線局識別装置では、一般に、受信信号における発信時の立ち上がり時の周波数変動波形を示す特徴ベクトル波形を用いて無線局の識別を行う。
【0003】
ここで、無線局識別装置により実測された特徴ベクトル波形の特色について説明する。
特徴ベクトル波形は、無線局から送信された信号の送信周波数により異なり、送信周波数を変えることにより、実測される波形も変化することが知られている(特徴ベクトル波形の周波数変化)。また、特徴ベクトル波形は年月の経過に伴って変化することが知られている(特徴ベクトル波形の経年変化)。
【0004】
ここで、特徴ベクトル波形の周波数変化について、図4に基づき説明する。
図4では、同一の無線機からの送信信号の送信周波数を変化させた場合に実測される特徴ベクトル波形を示している。ここで、図4の横軸は時間を、縦軸は周波数を示すものとする。
また、図4の[1]、[2]および[3]の波形は、それぞれ、送信周波数(f−4MHz)、送信周波数(f)、送信周波数(f+4MHz)の特徴ベクトル波形を示している。つまり、[1]の波形は[2]よりも4MHz周波数の低い波形を示し、[3]の波形は[2]よりも周波数が4MHz高い波形を示すものとする。
【0005】
また、図4では、[1]〜[3]それぞれの送信周波数で送信された信号を5回ずつ実測した特徴ベクトル波形を示しており、これらの実測結果を重畳して表示している。
これにより、図4では、同一の送信周波数の特徴ベクトル波形同士は、ほぼ同一の波形パターンを描いていることが示されている(このため各送信周波数の特徴ベクトル波形が太線状に示されている)。その一方で、異なる送信周波数の特徴ベクトル波形同士を比較した場合、波形のピークの位置や大きさが異なっており、これは、特徴ベクトル波形は送信周波数により異なることを示している。
【0006】
次に、特徴ベクトル波形の経年変化について、図5に基づき説明する。
図5に示す波形は、実測された特徴ベクトル波形(横軸:時間、縦軸:周波数)を示し、それぞれ、初めに測定された特長ベクトル波形([1]初回測定)、初回測定から1年10ヵ月後に測定された特長ベクトル波形([2]1年10ヵ月後測定)、および初回測定から3年後に測定された特長ベクトル波形([3]3年後測定)を示している。
【0007】
また、図5では、[1]〜[3]各測定時(測定日)に5回ずつ計測された特徴ベクトル波形を重畳して表示している。
ここで、同一測定日に測定された特徴ベクトル波形同士をそれぞれ比較すると、それぞれほぼ同一のパターンを描いていることが示されている(このため各測定時の特徴ベクトル波形が太線状に示されている)。その一方で、測定日の異なる特徴ベクトル波形同士を比較した場合、波形におけるピークの位置や大きさが異なっており、特徴ベクトル波形は短期間には変化量は小さいが、例えば、1年10ヶ月、3年などの期間を経ることにともない、特定される特長ベクトル波形は変化するということが示されている。
尚、図4および図5は、それぞれ異なる無線機からの信号の測定結果を示したものである。
【0008】
上述のように、特徴ベクトル波形と教師ベクトル波形との受信周波数(=無線局の送信周波数)が相互に大きく異なる場合には、無線局識別装置における無線局の識別性能(同定性能)が低下してしまうという不都合があった。
また、各無線局について異なる受信周波数で特徴ベクトル波形を収集し登録しなければならないため、登録作業の手間がかかるといった不都合がある。
【0009】
これに対する関連技術として、周波数チャネルごとに無線機(無線局)を識別する無線局同定処理を行い、この無線局同定処理結果を利用して、周波数チャネルごとに無線局数や信号の発射(発信)履歴、送信回数、合計送信時間、周波数チャネル利用率などを調査する電波監視装置が開示されている(特許文献1)。
【0010】
また、他の関連技術として、受信信号中で検知された周波数の揺らぎを無線機の特徴ベクトルとして抽出し、この特徴ベクトルを既知の無線機における既知特徴ベクトルとして記憶したデータベースを備え、新規に抽出された特長ベクトルを既知特長ベクトルとの類似度に基づいて未知の無線機の機種または固体を同定する無線機同定装置が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−201834号公報
【特許文献2】特開2006−211250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1に記載の関連技術では、無線機(無線局)の識別処理を行った後に、実測時間および周波数に基づいて、この識別処理結果をスクリーニングすることはできるが、特徴ベクトル波形と教師ベクトル波形との受信周波数(=無線局の送信周波数)が相互に大きく異なる場合に、無線局識別装置における無線局の識別性能(同定性能)が低下するのを抑制することができないという不都合がある。
【0013】
また、上記特許文献2に記載の関連技術では、特徴ベクトル波形と予め登録された教師ベクトル波形との測定日時が異なる場合には、上述のように、無線局から送信される信号の特徴ベクトル波形が経年変化してしまうため、無線局の識別性能(同定性能)が低下してしまうという不都合がある。
【0014】
更に、登録時点では、特徴ベクトル波形の経年変化度合いは予測困難なため、年月の経過に伴い、例えばデータベースに予め登録された教師ベクトル波形それぞれの有効性に差異が生じてしまい、教師データに基づく基地局識別性能が低下してしまうという不都合があった。
【0015】
また、教師ベクトル波形が予め登録されたデータベース中では、有効性の高いものと低いものとが混在することとなり、また、教師ベクトル波形の有効性を区別できないため、教師ベクトル波形の有効性を維持するためのメンテナンスが困難になるといった不都合がある。
【0016】
更に、特徴ベクトル波形の経年変化に応じて教師ベクトル波形の有効性を維持するため新たな教師ベクトル波形や多くの異なる周波数の教師ベクトル波形を登録する場合には、教師ベクトル波形(教師データ)の登録数が増大してしまい、これにより、基地局同定などを実行する場合などに要する処理時間や処理負荷が増大してしまうといった不都合が生じ得る。
【0017】
[発明の目的]
本発明は、上記関連技術の有する不都合および上記他の不都合を改善し、受信信号に基づき発信元の無線局を迅速且つ確実に識別する無線機識別装置、無線機識別方法、および無線機識別プログラムを提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明に係る無線局識別装置は、無線局からの無線信号を受信する受信部と、前記無線信号に含まれる特徴ベクトル波形に基づいて前記無線信号を送出した前記無線局を同定する識別処理部とを備えた無線局識別装置において、前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信周波数を検出すると共に当該無線信号をデジタル信号に変換する受信周波数検出部と、前記デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出する特徴ベクトル波形抽出部と、既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部と、前記検出された受信周波数に予め設定された一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を前記データベース部から候補ベクトル波形として抽出する候補ベクトル抽出部とを備え、前記識別処理部が、前記候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出すると共に当該類似度に基づき前記無線局を同定する処理を行う無線局同定処理手段を有する構成をとっている。
【0019】
また、本発明にかかる無線局識別方法は、無線局からの無線信号を受信し、前記無線信号に含まれる特徴ベクトル波形に基づいて前記無線信号を送出した前記無線局を同定する無線局識別方法において、前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信周波数を検出し、前記デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出し、既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部から前記検出された受信周波数に予め設定された一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出し、前記候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出すると共に当該類似度に基づき前記無線局を同定することを特徴としている。
【0020】
又、本発明にかかるジョブ実行管理プログラムは、無線局からの無線信号を受信し、前記無線信号に含まれる特徴ベクトル波形に基づいて前記無線信号を送出した前記無線局を同定するための無線局識別プログラムであって、前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信周波数を検出する受信周波数検出機能と、前記デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出する特徴ベクトル波形抽出機能と、既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部から前記検出された受信周波数に予め設定された一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出する候補ベクトル抽出機能と、前記候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出すると共に当該類似度に基づき前記無線局を同定する無線局同定処理機能とを予め設定されたコンピュータに実行させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以上のように構成され機能するので、これによると、受信した信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出する手段と、受信した無線信号の受信周波数に一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出する手段とを備え、候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出し無線局を同定する処理を行う構成としたことにより受信信号に基づき発信元の無線局を迅速且つ確実に識別する無線局識別装置、無線局識別方法、および無線局識別プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による無線局識別装置における一実施形態を示す概略ブロック図である。
【図2】図1に開示した無線局識別装置における実行順序予測手段の動作処理ステップを示すフローチャートである。
【図3】図1に開示した無線局識別装置における特徴ベクトル波形の一例を示す説明図である。
【図4】図1に開示した無線局識別装置の関連技術における特徴ベクトル波形の周波数変化の一例を示す説明図である。
【図5】図1に開示した無線局識別装置の関連技術における特徴ベクトル波形の経年変化の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施形態]
次に、本発明の実施形態について、その基本的構成内容を説明する。
【0024】
次に、本発明の実施例の構成について図面を参照して詳細に説明する。
図1を参照すると、本実施形態である無線局識別装置1は、アンテナ2(受信部)を介して受信した信号(受信信号)を中間周波数信号に変換する受信機3(受信周波数検出部)と、この受信機3から送り込まれた中間周波数信号をデジタル複素包絡信号に変換するA/D変換器4(受信周波数検出部)と、A/D変換器4から送り込まれたデジタル複素包絡信号に含まれる信号の立ち上がりを検出し、特徴ベクトル波形を抽出する特徴ベクトル波形抽出部5を備えている。
また、無線局識別装置1は、特徴ベクトル波形を受け取った場合に、アンテナ2が受信した信号の受信時における周波数を示す受信周波数を受信機3から受取ると共に、時刻測定部9から信号受信時の測定時刻(年月日時分秒)を受け取り、これら情報を組み合わせて特徴データを生成する特徴データ生成部6を有する。
【0025】
更に、無線局識別装置1は、特徴データ生成部6に接続され、生成された特徴データに基づき教師データを参照することにより無線局の同定処理を行う無線局同定処理部7(識別処理部)と、無線局同定処理部7に対して教師データの提供を行うデータベース部8と、受信機3における信号受信を監視すると共に特徴データ生成部6に対して受信信号の受信時刻を通知する時刻測定部9と、特徴データに基づき生成した教師データをデータベース8に対して格納する教師データ生成部10を備えた構成となっている。
【0026】
以下、これを詳説する。
アンテナ2は、無線局から送信された、予め設定された特定の周波数の信号(受信信号)を取得する信号受信機能を有する。
受信機3は、アンテナ2により取得された受信信号の受信周波数を検出する共に、当該受信信号の受信周波数を示す中間周波数信号へと変換する受信信号変換機能と、この変換により生成された中間周波数信号(受信周波数)をA/D変換器4および特徴データ生成部6に対して送信する中間周波数信号送信機能を備えている。
【0027】
A/D変換器4は、受信機3から送り込まれた中間周波数信号を、デジタル信号であるデジタル複素包絡信号に変換すると共に、このデジタル複素包絡信号を特徴ベクトル波形抽出部5に送信するデジタル変換送信機能を有する。
特徴ベクトル波形抽出部5(特徴ベクトル波形抽出部)は、A/D変換器4送り込まれたデジタル複素包絡信号を解析すると共に、このデジタル複素包絡信号の立ち上がり時、つまり、OFF状態からON状態に切替えられるタイミングにおける信号の周波数の変動波形(特徴ベクトル波形)を抽出し、この特徴ベクトル波形を特徴データ生成部6に対して送信する(特徴ベクトル波形抽出機能)。
【0028】
特徴データ生成部6は、特徴ベクトル波形を受け取った場合に、受信機3から送り込まれた中間周波数信号に示される、特徴ベクトル波形の受信周波数と、時刻測定部9から送り込まれた測定時刻(年月日時分秒)を組み合わせた特徴データを生成する。
ここで、上記特徴データは、受信周波数、測定時刻、および特徴ベクトル波形を含む信号データを示すものとする。
これにより、特徴データには、特徴ベクトル波形を含む受信信号が受信機3(アンテナ2)により受信されたときの受信周波数、および受信時刻が含まれる。
このため、無線局同定処理部7は、この特徴データを受信した場合に、受信周波数及び測定時刻をキーとして、データベース部8に記憶されたデータのおける識別対象(範囲)を限定することができる。
また、これにより、無線局の識別精度を向上させることができ、更には、識別処理を迅速化することができる。
【0029】
更に、特徴データ生成部6は、生成した特徴データを無線局同定処理部7および教師データ生成部10それぞれに対して送信する特徴データ送信機能を備えている。
【0030】
無線局同定処理部7(候補ベクトル抽出部)は、特徴データ生成部6から特徴データを受け取ると、この特徴データに含まれる受信周波数と測定時刻とを、データベース部8に送信し、データベース部8から対象教師データ(候補ベクトル波形)を受け取る。
そして特徴データと対象教師データの波形類似度から無線局を同定し、同定結果を出力する。
【0031】
データベース部8は、教師データ生成部10から受け取った教師データ(図3:教師データ=有効周波数範囲+有効時刻範囲+受信周波数履歴(最新N件)+教師ベクトル波形+特徴ベクトル波形履歴(最新N件))を保存する教師データ保存機能を有している。
また、データベース部8は、無線局同定処理部7から特徴データの受信周波数と測定時刻とを受け取り、データベース部8内に保存されている教師データのうち、有効周波数範囲と有効時刻範囲に適合しているか否かを判定する教師データ判定機能を有する。
更に、データベース部8は、有効周波数範囲および有効時刻範囲に適合した教師データ(以下対象教師データという)のみを無線局同定処理部7に送信する対象教師データ送信機能を備えている。
【0032】
教師データ生成部10は、特徴データ生成部6から特徴データを受け取り格納する特徴データ蓄積手段61を備え、外部(例えば、無線局識別装置のオペレータである測定者)から登録指示を受けた場合などに、予め蓄積された特徴データを加工することにより教師データ(図3)を生成する教師データ加工生成手段62と、無線局同定処理部7から同定結果を受け取った場合に、この同定結果が示す教師データをデータベース部8から取得し、この教師データを更新する教師データ更新手段63と、生成あるいは更新された教師データをデータベース部8に格納する教師データ格納登録手段64を備えている。
【0033】
次に、教師データ生成部10(教師データ加工生成手段62)が、予め保存(蓄積)された特徴データの内容に基づき、教師データを生成する機能(教師データ生成機能)について説明する。
【0034】
教師データ生成部10の教師データ加工生成手段62は、蓄積された特徴データの特徴ベクトル波形同士を平均化する処理(波形平均化処理)を行うことにより、教師ベクトル波形を生成する。特徴ベクトル波形同士を平均化することにより、教師データにおけるS/N比を改善することができる。
【0035】
また、教師データ加工生成手段62は、特徴データ生成部6から通知された特徴ベクトル波形のうち最新のN件分(Nは予め取得された件数)の特徴ベクトル波形(1〜N)を、特徴ベクトル波形履歴(情報)として保存(記憶)する波形履歴記憶機能と、特徴データ生成部6から通知された特徴データに含まれる、最新のN件分(Nは予め取得された件数)の受信周波数を受信周波数履歴(情報)として保存(記憶)する周波数履歴記憶機能とを備えている(図3)。
【0036】
更に、教師データ加工生成手段62は、この特徴ベクトル波形履歴情報の受信周波数(受信周波数履歴)に基づいて、受信周波数の正規分布を求め、分布確率が一定の値より小さくなる周波数範囲を除外した周波数範囲を、有効周波数範囲(図3)として設定する(有効周波数範囲設定機能)。
また、教師データ加工生成手段62は、上記保存された特徴データの測定時刻のうち最新の測定時刻を中心に過去と将来の一定期間(例えば最新測定時刻以前6ヶ月、および最新測定時刻以降6ヶ月)を有効時刻範囲(図3)として設定するものとする(有効時刻範囲設定機能)。
【0037】
次に、教師データ生成部10の教師データ更新手段63が、無線局同定処理部7による無線局の同定結果に基き、データベース部8に記憶された教師データを更新する機能(教師データ更新機能)について説明する。
【0038】
まず、教師データ更新手段63は、測定した特徴データの特徴ベクトル波形および受信周波数を、教師データに対応して設定された特徴ベクトル波形履歴と受信周波数履歴に対してそれぞれ追加する。
次に、教師データ更新手段63は、特徴ベクトル波形同士の平均を新たに求め直し、教師ベクトル波形(情報)を更新すると共に、受信周波数の正規分布を新たに求め直し、有効周波数範囲を更新する(有効周波数範囲の更新設定)。
また、教師データ更新手段63は、特徴データの測定時刻が最新の場合、この測定時刻を中心とした過去一定期間、および測定時刻以降の一定期間を新たな時刻範囲として、有効時刻範囲を更新設定する。
【0039】
これにより、特徴ベクトルの有効周波数範囲、および有効時刻範囲を教師データとして自動的に設定することができる。このため、多くの受信周波数で特徴ベクトル波形を測定する必要がなくなり、教師データの登録作業に係る、測定者の負荷を軽減することができる。
【0040】
また、教師データ中に有効時刻範囲を設定することにより、有効期限の過ぎた教師データをデータベース部8における一般的な動作処理により容易に区分することでき、このため、データベース部に登録されたデータのメンテナンス性を大幅に向上させることができる。
【0041】
上記有効周波数範囲の更新設定では、正規分布の代わりに受信周波数履歴の受信周波数のうち最小値と最大値から一定の周波数幅を拡大した値として自動設定してもよい。また、有効周波数範囲、有効時刻範囲ともに、例えば、測定者が所望の値を直接入力することにより設定してもよい。
【0042】
更に、有効時刻範囲の期限が過ぎた教師データは、データベース部8における一般的な機能を利用して、測定者が容易に削除したり別ディレクトリに移動したりできるため、データベース部8には、有効時刻範囲が有効である教師データ群が常時保持された状態とすることができる。
【0043】
尚、特徴ベクトル波形抽出の手法の関連技術としては、FFT処理を利用した技術(特開平09−211039)や、FM検波処理を利用した技術(例えば、特開2006−211250)などが開示されている。
【0044】
また、波形類似度の算出を行うための関連技術としては、ユークリッド距離や相関係数を利用した手法が広く知られている。
本実施形態では、これらの手法を利用することにより、教師データ作成時に、教師データに無線局名称、コメントを付加する設定としてもよい。これにより、教師データの作成、更新が行われた後に、測定者が、教師データの生成された経緯を、調べることが可能となる。
【0045】
[実施形態の動作説明]
次に、本実施形態の動作について、その概略を説明する。
まず、受信機3が、無線局からの無線信号を受信し、A/D変換器4が、受信機3が受信したときの無線信号の受信周波数を検出し(受信周波数検出工程)、特徴ベクトル波形抽出部5が、デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数変動を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出し(特徴ベクトル波形抽出工程)、無線局同定処理部7が、既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部8から検出された受信周波数に一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出すると共に(候補ベクトル抽出工程)、候補ベクトル波形と特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出し、この類似度に基づき無線局を同定する(無線局同定処理工程)。
【0046】
また、本実施形態の他の動作例として、受信機3が、無線局からの無線信号を受信し、A/D変換器4が、受信機3が受信したときの無線信号の受信周波数を検出し(受信周波数検出工程)、時刻測定部9が、受信機3が受信したときの前記無線信号の受信時刻を測定し、特徴ベクトル波形抽出部5が、デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数変動を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出し(特徴ベクトル波形抽出工程)、無線局同定処理部7が、既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部8から検出された受信周波数に一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を抽出する(候補ベクトル抽出工程)。
次いで、無線局同定処理部7は、抽出された既知特徴ベクトル波形から前記測定時刻の前後一定期間内に受信時刻が含まれる前記既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出し(受信時刻候補抽出工程)、候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出すると共に当該類似度に基づき前記無線局を同定する(無線局同定処理工程)設定としてもよい。
【0047】
ここで、上記受信周波数検出工程、特徴ベクトル波形抽出工程、候補ベクトル抽出工程、受信時刻候補抽出工程、および無線局同定処理工程については、その実行内容をプログラム化し、コンピュータに実行させるように構成してもよい。
【0048】
次に、無線局識別装置1の動作について、図2のフローチャートに基づいて説明する。
【0049】
まず、特徴ベクトル波形抽出部5は、A/D変換器4で変換生成されたデジタル複素包絡信号から信号立ち上がりを、周波数変動波形として検出する(ステップS101)。
ここで、特徴ベクトル波形抽出部5は、周波数変動波形を検出した場合に、この周波数変動波形を特徴ベクトル波形として抽出し特徴データ生成部6に送信する(ステップS102:特徴ベクトル波形抽出機能)。
【0050】
特徴データ生成部6は、受信機3から受信周波数(中間周波数)を受け取ると共に、時刻測定部9から測定時刻を受け取る。ここで、特徴データ生成部6は、これら(受信周波数および測定時刻)を特徴ベクトル波形に追加して特徴データを生成すると共に、この特徴データを無線局同定処理部7および教師データ生成部10に対して送信する(ステップS103:特徴データ生成送信機能)。
【0051】
ここで、教師データ生成部10は、特徴データ生成部6から特徴データが通知された場合に、この特徴データをデータベース部8に登録するか否かの判定を行う(ステップS104)。
尚、本実施形態では、無線局識別装置1のオペレータが、通知された特徴データに応じて、教師データ生成部10に対して教師データの登録指示を行うものとする。
教師データ生成部10は、教師データを登録する場合、予め保持している特徴データを加工することにより教師データを更新し、更新を行った教師データをデータベース部8に対して送信する(ステップS105)。
【0052】
一方、無線局同定処理部7は、特徴データ生成部6から送り込まれた特徴データに含まれる受信周波数と測定時刻をデータベース部8に送信する。ここで、データベース部8がこの受信周波数および測定時刻に基づいて、教師データの中から予め設定された有効受信周波数範囲、および有効測定時刻範囲に含まれる対象教師データを選出し、無線局同定処理部7は、これを受け取る(ステップS106:対象教師データを選択)。
ここで、無線局同定処理部7は、この対象教師データと上記特徴ベクトル波形との類似度を比較照合することにより無線局を同定し、この同定結果を出力する(ステップS107:無線局同定)。このとき、無線局同定処理部7は、教師データ生成部10に対して上記同定結果を通知する。
【0053】
尚、上記対象教師データは、データベース部8に格納された教師データのうち、上記ステップS3でデータベース部8に送信された受信周波数と測定時刻とがそれぞれ、予め設定された有効周波数範囲と有効時刻範囲に適合する教師データを示すものとする。
【0054】
次に、教師データ生成部10は、無線局同定処理部7から通知された同定結果情報(無線局に係る情報)に基づき、データベース部8の教師データを更新するか否かの判定を行う(ステップS108)。
尚、本実施形態では、無線局識別装置1のオペレータが、生成された同定結果に応じて、教師データ生成部10に対して教師データの更新指示、または登録指示を行うものとする。
【0055】
無線局の同定結果に基きデータベース部8に記憶された教師データを更新する場合(YES:ステップS108)、教師データ生成部10は、特徴データの同定結果に基き、この同定結果である信号(波形)に一定の割合で近似する教師データをデータベース部8から取得すると共に、この教師データを、特徴データ生成部6から送り込まれた特徴データ(ステップS2)と平均化されるように更新し、更新した教師データをデータベース部8に送信し、格納する(ステップS109)。
次いで、無線局同定処理部7は、特徴データ生成部6から送り込まれた特徴データの有無に基づき測定終了か以下の判定を行う(ステップS110)。
【0056】
以上のように、本実施形態では、識別対象の無線局を、予め登録された教師データのうち対象教師データのみに絞り込むことで、送信周波数が大きく異なる無線局や、特徴ベクトル波形が経年変化してしまった無線局を正解無線局として誤判定してしまうのを抑制し、これにより、無線局識別の正解率を有効に向上させることができる。
【0057】
また、識別対象を対象教師データのみに絞り込む設定としたことにより、類似度を照合するための処理時間が短縮され、更には、照合処理にかかる負荷を軽減することができることから、無線局同定処理に安価なコンピュータを利用することができ、これにより、安価な無線局識別装置を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、不正無線局などから送信される電波を自動監視するための電波監視装置等に有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 無線局識別装置
2 アンテナ
3 受信機
4 A/D変換器
5 特徴ベクトル波形抽出部
6 特徴データ生成部
7 無線局同定処理部
8 データベース部
9 時刻測定部
10 教師データ生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線局からの無線信号を受信する受信部と、前記無線信号に含まれる特徴ベクトル波形に基づいて前記無線信号を送出した前記無線局を同定する識別処理部とを備えた無線局識別装置において、
前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信周波数を検出する受信周波数検出部と、
前記無線信号を解析して当該無線信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出する特徴ベクトル波形抽出部と、
既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部と、
前記検出された受信周波数に予め設定された一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を前記データベース部から候補ベクトル波形として抽出する候補ベクトル抽出手段とを備え、
前記識別処理部が、前記候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出すると共に当該類似度に基づき前記無線局を同定する処理を行う無線局同定処理手段を有することを特徴とした無線局識別装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無線局識別装置において、
前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信時刻を測定時刻として保持する測定時刻保持部と、
前記測定時刻の前後一定期間内に受信時刻が含まれる前記既知特徴ベクトル波形を前記データベース部から前記候補ベクトル波形として抽出する受信時刻候補抽出部とを備えたことを特徴とする無線局識別装置。
【請求項3】
請求項1に記載の無線局識別装置において、
前記無線局が同定された場合に、前記無線局の受信周波数と特徴ベクトル波形とを関連付けて前記既知特徴ベクトル情報として前記データベース部に格納する既知登録情報更新部を備えたことを特徴とする無線局識別装置。
【請求項4】
請求項2に記載の無線局識別装置において、
前記無線局が同定された場合に、前記無線局からの無線信号の受信時刻と前記特徴ベクトル波形とを関連付けて前記既知特徴ベクトル情報として前記データベース部に格納する既知登録情報更新部を備えたことを特徴とする無線局識別装置。
【請求項5】
請求項2に記載の無線局識別装置において、
前記無線局が同定された場合に、前記無線局からの無線信号の受信周波数、受信時刻、および前記特徴ベクトル波形を関連付けて前記既知特徴ベクトル情報として前記データベース部に格納する既知登録情報更新部を備えたことを特徴とする無線局識別装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の無線局識別装置において、
無線局から送り込まれた予め設定された一定数の無線信号の周波数を記憶する受信信号周波数記憶部と、
前記記憶された受信信号の特徴ベクトル波形を平均化して特徴ベクトル平均化波形を生成すると共に当該特徴ベクトル平均化波形を前記特徴ベクトル情報として前記データベース部に格納する平均化波形登録部とを備えたことを特徴とする無線局識別装置。
【請求項7】
無線局からの無線信号を受信し、前記無線信号に含まれる特徴ベクトル波形に基づいて前記無線信号を送出した前記無線局を同定する無線局識別方法において、
前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信周波数を検出し、
前記デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出し、
既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部から前記検出された受信周波数に予め設定された一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出し、
前記候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出すると共に当該類似度に基づき前記無線局を同定することを特徴とした無線局識別方法。
【請求項8】
無線局からの無線信号を受信し、前記無線信号に含まれる特徴ベクトル波形に基づいて前記無線信号を送出した前記無線局を同定する無線局識別方法において、
前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信周波数を検出し、
前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信時刻を測定し、
前記デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出し、
既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部から前記検出された受信周波数に予め設定された一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を抽出し、
前記抽出された既知特徴ベクトル波形から前記測定時刻の前後一定期間内に受信時刻が含まれる前記既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出し、
前記候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出すると共に当該類似度に基づき前記無線局を同定することを特徴とした無線局識別方法。
【請求項9】
無線局からの無線信号を受信し、前記無線信号に含まれる特徴ベクトル波形に基づいて前記無線信号を送出した前記無線局を同定するための無線局識別プログラムであって、
前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信周波数を検出する受信周波数検出機能と、
前記デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出する特徴ベクトル波形抽出機能と、
既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部から前記検出された受信周波数に予め設定された一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出する候補ベクトル抽出機能と、
前記候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出すると共に当該類似度に基づき前記無線局を同定する無線局同定処理機能とを予め設定されたコンピュータに実行させることを特徴とした無線局識別プログラム。
【請求項10】
無線局からの無線信号を受信し、前記無線信号に含まれる特徴ベクトル波形に基づいて前記無線信号を送出した前記無線局を同定するための無線局識別プログラムであって、
前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信周波数を検出する受信周波数検出機能と、
前記受信部が受信したときの前記無線信号の受信時刻を測定する受信時刻測定機能と、
前記デジタル信号を解析して当該デジタル信号の立ち上がり時に発生した周波数の変動波形を前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出する特徴ベクトル波形抽出機能と、
既知の無線機の既知特徴ベクトル波形を既知特徴ベクトル情報として予め記憶したデータベース部から前記検出された受信周波数に予め設定された一定の割合で近似する周波数の既知特徴ベクトル波形を抽出する候補ベクトル抽出機能と、
前記抽出された既知特徴ベクトル波形から前記測定時刻の前後一定期間内に受信時刻が含まれる前記既知特徴ベクトル波形を候補ベクトル波形として抽出する受信時刻候補抽出機能と、
前記候補ベクトル波形と前記特徴ベクトル波形とを比較して類似度を算出すると共に当該類似度に基づき前記無線局を同定する無線局同定処理機能とを予め設定されたコンピュータに実行させることを特徴とした無線局識別プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−44937(P2011−44937A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192194(P2009−192194)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】