説明

無線通信装置及び無線通信方法

【課題】通信に用いるADC、DACの数を減らすことで、演算負荷を低減することができる無線通信装置を提供する。
【解決手段】複数のアンテナと、動作/停止の切替が可能な複数のデジタルアナログ変換器及びアナログデジタル変換器と、アナログデジタル変換器、またはデジタルアナログ変換器の動作/停止を決定するADC/DAC制御回路と、デジタルアナログ変換器により生成されたアナログ信号を無線区間の周波数に変換して送信し、無線区間の信号を受信し、周波数変換してアナログデジタル変換器に出力する回路と、アナログデジタル変換器により生成されたデジタル信号から、受信データを復調する回路と、送信を行うデジタル信号を生成しデジタルアナログ変換器に出力する回路とを備え、ADC/DAC制御回路は、無線通信装置の通信状態に基づいて動作させるアナログデジタル変換器またはデジタルアナログ変換器の数を決定して動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指向性制御によるビームを用いる通信システムにおいて、チャネル情報の取得方法とビームフォーミング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2.4GHz帯または5GHz帯を用いた高速無線アクセスシステムとして、IEEE802.11g規格、IEEE802.11a規格などの普及が目覚しい。これらのシステムでは、マルチパスフェージング環境での特性を安定化させるための技術である直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式を用い、最大で54Mbpsの物理層伝送速度を実現している。
【0003】
ただし、ここでの伝送速度とは物理レイヤ上での伝送速度であり、実際にはMAC(Medium Access Control)レイヤでの伝送効率が50〜70%程度であるため、実際のスループットの上限値は30Mbps程度であり、情報を必要とする通信相手が増えればこの特性は更に低下する。一方で、有線LANの世界ではEthernet(登録商標)の100Base−Tインタフェースをはじめ、各家庭にも光ファイバを用いたFTTH(Fiber to the home)の普及から、100Mbpsの高速回線の提供が普及しており、更なる伝送速度の高速化が求められている。
【0004】
そのための技術として、IEEE802.11nにおいて、空間多重送信技術としてMIMO(Multiple input multiple output)技術が導入され、オプションで4素子のアンテナ数までサポートされた。さらに、IEEE802.11acでは、マルチユーザMIMO(MU−MIMO)通信方法が検討され、サポートするアンテナ素子数は8素子まで増大している(例えば、非特許文献1参照)。アンテナ素子数が増えるほど、それに対応するアナログ・デジタル変換器(以下、ADCと称する)とデジタル・アナログ変換器(以下、DACと称する)が増加し、待機電力と信号処理の負荷が増大する問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】IEEE, "Proposed specification framework for TGac," doc.: IEEE 802.11-09/0992r21, Jan. 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6に従来の無線通信装置の構成を示す。図6において、1−0は送信信号生成回路、1−1−1〜1−1−NはDAC、1−2−1〜1−2−NはADC、1−3−1〜1−3−Nは無線信号送受信回路、1−4−1〜1−4−Nは送受信アンテナ、1−5は受信信号復調回路である。Nは無線通信装置の入出力のポート数である。ここでは、アンテナ数は入出力ポート数と同数であるものとして、図6は記載されているが、アンテナ切り替え器等を用いて、アンテナ数をNより多くしてもよい。
【0007】
無線通信装置から通信相手への送信を考える。無線通信装置は、1つ以上の通信相手を決定し、送信ウエイトを用いる場合には予め推定したチャネル情報を用いて決定した送信ウエイトを用い、変調方式と符号化率を選択し、必要なパイロット信号や制御信号、ガードインターバルなどを挿入した後、DACへ送信データを出力する。DACは入力されたデジタルデータをアナログ信号に変換し、無線信号送受信回路へ出力し、無線信号送受信回路は、入力されたアナログ信号を適切な周波数にアップコンバートし、アンテナを介して送信を行う。
【0008】
通信相手から、信号を受信する場合には、アンテナ1−4−1〜1−4−Nを介して、無線信号送受信回路において、適切な周波数にダウンコンバートし、ADCにおいて入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、受信信号復調回路へ出力する。受信信号復調回路では、入力された信号から、同期、チャネル推定、復調を行い、通信相手から送信されたデータを復調する。
【0009】
無線通信装置から通信相手への送信と、通信相手からの受信について、例を示す。通信相手となる通信装置数がK(Kは1以上の整数)であるとし、送信において、通信相手との間の伝搬環境の情報を示すチャネル行列を用いて信号に重み付けすることを仮定する。通信相手kに対するチャネル行列をHと表すものとすると、チャネル行列H〜Hを用いて、Dirty paper coding、Tomlinson-Harashima precoding、Block diagonalization algorithm、Successive optimization algorithm、Zero forcing、Minimum Mean squre error algorithm、Eigenvector precoding、QR decomposition、などの方法により送信ウエイトW〜Wを決定できる。通信相手kのある周波数チャネルにおける受信信号yは、
【数1】

と表すことができる。
【0010】
〜xは通信相手1〜Kへの送信信号ベクトル、nは雑音ベクトルを表す。yはM×1ベクトル、HはM×N行列、WはN×L行列、xはL×1ベクトル、nはM×1ベクトルであり、Mは通信相手kのADCの数、Lは通信相手kに対する空間ストリーム数、である。マルチユーザMIMO通信の場合、(1)式の2行目右辺第2項は、ユーザ間干渉(他通信相手への信号)であるため、受信側か送信側で削除できるようにWは決定される。
【0011】
次に、K’個(K’は1以上の整数)の通信相手からの信号を通信装置で受信する場合を示す。通信装置のある周波数チャネルにおける受信信号yU,kは、
【数2】

と表せる。
【0012】
U,kは、上り回線のチャネル行列(N×M行列)、xU,1〜xU,K’は通信相手1〜K’からの送信信号(xU,kはLk’×1ベクトル)、WU,1〜WU,K’は通信相手1〜K’における送信ウエイト(WU,kはM×L行列)、nU,kは雑音ベクトル(N×1ベクトル)を表す。L’は通信相手から送信される信号の空間ストリーム数である。通信装置は、受信した信号のうち既知信号を用いて、HU,1U,1〜HU,K’U,K’を推定し、Zero forcing、Minimum mean squre error、Maximum likelihood detection、Maximum Likelihood sequence estimation、Bell Labs Space-Time技術などにより、受信した信号を復号できる。
【0013】
(1)式における送信ウエイトW〜Wの決定、および、(2)式における受信信号の復号には、Hu,1〜Hu,K’、またはHU,1U,1〜HU,K’U,K’が必要となり、Nが空間ストリーム数の和より大きい場合には、送受の演算負荷が大きくなる問題がある。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、通信に用いるアナログデジタル変換器(ADC)、または、デジタルアナログ変換器(DAC)、またはその両方の数を減らすことで、送信ウエイトの演算または、受信の復号処理に必要なチャネル行列のサイズを低減し、演算負荷を低減することができる無線通信装置及び無線通信方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、複数のアンテナと、少なくとも一つは動作/停止の切替が可能な複数のデジタルアナログ変換器及びアナログデジタル変換器と、アナログデジタル変換器、またはデジタルアナログ変換器の動作/停止を決定するADC/DAC制御回路と、前記デジタルアナログ変換器により生成されたアナログ信号を無線区間の周波数に変換して送信し、無線区間の信号を受信し、周波数変換して前記アナログデジタル変換器に出力する無線信号送受信回路と、前記アナログデジタル変換器により生成されたデジタル信号から、受信データを復調する受信信号復調回路と、送信を行うデジタル信号を生成し前記デジタルアナログ変換器に出力する送信信号生成回路とを備えた無線通信装置であって、前記ADC/DAC制御回路は、当該無線通信装置の通信状態に基づいて動作させる前記アナログデジタル変換器または前記デジタルアナログ変換器の数を決定して動作を制御することを特徴とする。
【0016】
本発明は、前記通信状態は、通信相手となる通信装置の数、同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、変調方式と符号化率からなる通信モード、パケット誤り率、送信をするために記憶しているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶しているデータビット数のうち少なくとも一つであることを特徴とする。
【0017】
本発明は、前記ADC/DAC制御回路は、前記通信状態として、通信に用いる同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、変調方式と符号化率からなる通信モードを用い得られた閾値と、現在動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数とを比較し、空間ストリームの数がこれを上回る場合に、動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を増やすことを特徴とする。
【0018】
本発明は、前記ADC/DAC制御回路は、前記通信状態として、通信に用いる同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、変調方式と符号化率からなる通信モードを用い得られた閾値と、現在動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数とを比較し、空間ストリームの数がこれを下回る場合に、動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を減らすことを特徴とする。
【0019】
本発明は、前記ADC/DAC制御回路は、前記通信状態として、パケット誤り率、送信をするために記憶して貯めているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶して貯めているデータビット数のうち、少なくとも一つが予め定めた値を上回る場合に、動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を増やすことを特徴とする。
【0020】
本発明は、前記ADC/DAC制御回路は、前記通信状態として、パケット誤り率、送信をするために記憶して貯めているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶して貯めているデータビット数のうち、少なくとも一つが予め定めた値を一定時間下回る場合に、動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を減らすことを特徴とする。
【0021】
本発明は、前記ADC/DAC制御回路は、通信相手から受信される信号から動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数の増加の要請を取得し、前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を増加させることを特徴とする。
【0022】
本発明は、複数のアンテナと、少なくとも一つは動作/停止の切替が可能な複数のデジタルアナログ変換器及びアナログデジタル変換器とを備えた無線通信装置における無線通信方法であって、通信相手となる通信装置の数、同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、変調方式と符号化率からなる通信モード、パケット誤り率、送信をするために記憶しているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶しているデータビット数のいずれかの通信状態のうち少なくとも一つを推定する通信状態判定ステップと、前記通信状態から、動作させる前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数を決定するADC/DAC制御ステップと、前記決定した数の前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器を用いて受信信号のアナログデジタル変換または送信信号のデジタルアナログ変換を行うアナログデジタル変換/デジタルアナログ変換ステップとを有することを特徴とする。
【0023】
本発明は、複数のアンテナと、少なくとも一つは動作/停止の切替が可能な複数のデジタルアナログ変換器及びアナログデジタル変換器とを備えた無線通信装置における無線通信方法であって、通信相手となる通信装置の数、同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、パケット誤り率、送信をするために記憶しているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶しているデータビット数のいずれかの通信状態のうち少なくとも一つを用いて、動作させる前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数の増減を評価する通信状態判定ステップと、前記通信状態判定ステップにおいて、増加の判断がなされた場合に、動作させる前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数を増加させ、減少の判断がなされた場合に、動作させる前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数を減少させるADC/DAC制御ステップと、前記動作させる数の前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器を用いて、受信信号のアナログデジタル変換または送信信号のデジタルアナログ変換を行うアナログデジタル変換/デジタルアナログ変換ステップとを有することを特徴とする。
【0024】
本発明は、前記ADC/DAC制御ステップは、多数の空間ストリーム数を用いる特定の送信、または受信の区間のみ、前記デジタルアナログ変換器、または前記アナログデジタル変換器の数を増加させ、当該送信区間、または受信区間が終了すると、前記デジタルアナログ変換器、または前記アナログデジタル変換器の数を元に戻すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、トレーニング信号の数を低減しつつ、MIMO通信やMU−MIMO通信の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態による無線通信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】変調方式と符号化率から決定されるデータレートの関係を定義したテーブルの一例を示す図である。
【図3】図1に示す無線通信装置において、通信を行う際の動作を示すフローチャートである。
【図4】図1に示す無線通信装置において、通信を行う際の動作の変形例を示すフローチャートである。
【図5】図1に示す無線通信装置において、通信を行う際の動作の変形例を示すフローチャートである。
【図6】従来技術による無線通信装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態による無線通信装置を説明する。図1は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、図6に示す従来の装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。この図に示す装置が従来の装置と異なる点は、ADC/DAC制御回路1−6が新たに設けられている点である。Nは無線装置の入出力のポート数である。ここでは、アンテナ数は入出力ポート数と同数であるものとして、図1では記載されているが、アンテナ切り替え器等を用いて、アンテナ数をNより多くしてもよい。
【0028】
ADC/DAC制御回路1−6は、通信に用いるADCの数NADCと、DACの数NDACを制御する。NADCとNDACの範囲は、最小ADC数NMinADCと、最小DAC数NMinDACにより制限され、NADCとNDACはそれぞれ、NMinADC≦NADC≦N、NMinADC≦NADC≦Nとして制御される。また、常にNADC=NDACとなるように制御することもできる。NADCおよびNDACは「通信状態」に基づいて制御される。
【0029】
「通信状態」として、通信相手の数を用いることができる。通信相手の数とは、送信時に空間的に多重する通信相手数K、受信時に空間的に多重されている通信相手数K’、通信装置と通信しうるアクティブな通信相手数、一定時間内でのKまたはK’の最大値、一定時間内でのKまたはK’の平均値などを用いることができる。通信相手の数に応じて、対応するNADCおよびNDACの表を予めADC/DAC制御回路1−6内に記憶することで、NADCおよびNDACを決定することができる。例えば、NADC=整数(K×E)としたり、NDAC=整数(K’×E)とするように決定できる。ここで、整数(A)は、Aから四捨五入や小数点以下切り捨てや小数点以下切り上げにより得られる整数を抽出する関数であり、Eは1以上の数である。
【0030】
また、「通信状態」として、通信に用いる空間ストリーム数を用いることができる。空間ストリーム数としては、例えば、送信時の空間ストリーム数の総和L=L+L+・・・+L、や、受信時の空間ストリーム数の総和L’=L’+L’+・・・+LK’’、一定時間内でのLまたはL’の最大値、一定時間内でのLまたはL’の平均値を用いることができる。空間ストリーム数に対して、対応するNADCおよびNDACの表を予め有することで、NADCおよびNDACを決定することができる。例えば、NADC=整数(L’×E)としたり、NDAC=整数(L×E)とするように決定できる。または、NADCおよびNDACが空間ストリーム数より十分大きいか判定し、判定値より空間ストリームが多い場合にNADCおよびNDACを増やすことができる。
【0031】
閾値として、
【数3】

または、
【数4】

を用いる。この閾値よりNADCとNDACが下回っているか判定し、この閾値以下のNADCおよびNDACとなっていれば、NADC=整数(Γ)またはNADC=整数(Γ)と設定したり、NADC=NADC+D、またはNDAC=NDAC+D、と設定したり、NADC=P×NADC、またはNDAC=P×NDAC、と設定したりすることで、NADCとNDACを増やすことができる。ここで、αとαは1以上であり、βとβは0以上の数として設定され、DとPは1以上の整数で与えられる。αやβを大きく設定することで、空間ストリームに対するアンテナの数を増やし、ダイバーシチの効果を高めることができる。
【0032】
また、同様の閾値をNADCとNDACを下げるか否かの判定に用いることができ、
【数5】

または、
【数6】

を用いる。この閾値よりNADCとNDACが上回っているか判定し、この閾値以上のNADCおよびNDACとなっていれば、NADC=整数(Γ)またはNADC=整数(Γ)と設定したり、NADC=NADC−D、またはNDAC=NDAC−D、と設定したり、NADC=NADC/P、またはNDAC=NDAC/P、と設定したりすることで、NADCとNDACを減らすことができる。または、ここで、α’とα’は1以上であり、β’とβ’は0以上の数として設定され、Γ<Γ’、Γ<Γ’と設定される。αやβを大きく設定することで、空間ストリームに対するアンテナの数を増やし、ダイバーシチの効果を高めることができる。
【0033】
また、(5)式と(6)式で用いるLとL’は、(3)式と(4)式で用いたものと同じ定義である必要はなく、送信時の空間ストリーム数の総和L=L+L+・・・+L、や、受信時の空間ストリーム数の総和L’=L’+L’+・・・+LK’’、一定時間内でのLまたはL’の最大値、一定時間内でのLまたはL’の平均値などを用いることができる。また、(3)〜(6)式におけるLまたはL’として、空間ストリーム数の代わりに同一タイミング・同一周波数で多重を行う通信相手数を用いることもできる。
【0034】
また、「通信状態」として、変調方式と符号化率から決定されるデータレートを用いることができる。図2にIEEE802.11nの場合の変調方式と符号化率から決定されるデータレートの関係を定義したテーブルを示す。これは、MCS Indexに対する変調方式、畳み込み符号の符号化率、最小感度、データレートを表すテーブルである。MCS Indexが高くなるにつれ、データレートも大きくなるのが分かる。ここでMCS Indexが2の場合で見ると(QPSK,R=3/4)、最小感度が−77dBmとなっており、あと3dB高ければMCS Indexが高く設定できることが分かる。すなわちNADCまたはNDACを2倍にすれば、データレートを1.3倍高くすることができる。このような場合に、より高次の変調方式・符号化が使えるように、NADCまたはNDACを増やすことができる。
【0035】
また、十分に高い変調方式・符号化率となっている場合に、NADCまたはNDACの増加を行わないこともできる。予めMCS Indexが5以上ではNADCまたはNDACの数を変えないように定めることもできる。また、要求されているスループットが低く、求められるMCS Indexに対し、信号電力が十分大きい場合に、NADCやNDACを下げていくこともできる。上記変調方式と符号化率は、もっともスループットの悪い通信相手へのビットレートでもよいし、全ての通信相手へのビットレートの平均を用いてもよい。
【0036】
また、「通信状態」として、パケットエラーや、パケットエラーレート(PER)を用いることもできる。パケット通信では、パケット信号を正常に受信したか判定することができる。これを用いて、送信した信号が通信相手において正常に復調されたか、または、受信した通信相手からの信号が正常に復調されたか判定することができる。送信パケットにパケットエラーが生じた場合、または、PERが予め定めた値より大きい場合に、NADC=NADC+D、NDAC=NDAC+D、または、NADC=P×NADC、またはNDAC=P×NDAC、として、用いるADCまたはDACの数を増やすことができる。Dは1以上の整数で、NADCまたはNDACのステップサイズを表す。また、パケットエラーが予め定めた時間区間生じない、または、PERが、予め定めた時間区間、予め定めた値より小さい場合に、NADC=NADC−D、NDAC=NDAC−D、または、NADC=NADC/P、またはNDAC=NDAC/P、とし、NADCまたはNDACを下げていくこともできる。
【0037】
または、通信装置に送信するために一時的に蓄えているデータビット量、またはフィードバックされた通信相手で一時的に蓄えているデータビット量に係る情報を用いて、NADCまたはNDACを設定することができる。蓄えているデータビット量Bに対して、対応するNADCまたはNDACの表を記憶しておき、データビット量の値からNADCまたはNDACを決定することができる。または、データビット量Bがある値より大きい時に、NADC=NADC+D、NDAC=NDAC+D、または、NADC=P×NADC、またはNDAC=P×NDAC、として、NADCまたはNDACの表を大きくし、データビット量Bがある値より小さい状態が続く場合に、NADC=NADC−D、NDAC=NDAC−D、または、NADC=NADC/P、またはNDAC=NDAC/P、を下げていくこともできる。
【0038】
または、通信装置で用いることができる最大のDAC数、またはADC数を通信相手に通知し、通信相手から、NADCまたはNDACの増加の要請を受信し、NADC=NADC+D、NDAC=NDAC+D、または、NADC=P×NADC、またはNDAC=P×NDAC、として、NADCまたはNDACの表を大きくしたり、通信相手からNADCまたはNDACの増加の要請を一定時間受信しない場合に、NADC=NADC+D、または、NDAC=NDAC+D、として、NADCまたはNDACの表を大きくし、データビット量Bがある値より小さい時に、NADC=NADC−D、NDAC=NDAC−D、または、NADC=NADC/P、またはNDAC=NDAC/P、としてNADCまたはNDACを下げていくこともできる。
【0039】
次に、図3を参照して、図1に示す無線通信装置において、通信を行う際の動作を説明する。図3は、図1に示す無線通信装置において、通信行う際の動作を示すフローチャートである。まず、通信相手とのパケット通信を行う(ステップS301)と、ADC/DAC制御回路1−6は通信状態について記憶する(ステップS302)。そして、DAC/ADC数の更新判断がなされると(ステップS303)、ADC/DAC制御回路1−6に記憶された通信状態(通信装置と通信しうる通信相手全体の数、空間ストリーム数、同一周波数同一時間での通信相手多重数、選択されている変調方式・符号化率、PER、送信待ちで記憶されている送信データ量など)から、予め記憶している通信状態に対するテーブルからNADCまたはNADCを決定する(ステップS305)。
【0040】
次に、NADCまたはNDACが前回の値から更新されているか否かを判定し(ステップS306)、決定されたNADCまたはNDACが直前の通信時のものから増減している場合には、ADC、DACをオンする、またはオフする制御を行い、動作しているADCまたはDACの数をNADCまたはNDACになるように制御する(ステップS307)。一方、NADCまたはNDACが直前の通信時のものから増減していない場合、および、ADC、DACのオン、またはオフを行った後は、待機状態となり次の通信を待つ(ステップS304)。
【0041】
ここで、ステップS303のDAC/ADC数の更新判断は、一定時間ごと、または一定のパケット数の通信が終了するごとに、更新を判断してもよいし、通信状態のうちいずれかのパラメータが予め定めた閾値を超えた際に更新を判断してもよい。
【0042】
次に、図4を参照して、図1に示す無線通信装置において、通信を行う際の動作の変形例を説明する。図4は、図1に示す無線通信装置において、通信行う際の動作の変形例を示すフローチャートである。図4において、図3に示す動作と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を簡単に行う。まず、通信相手とのパケット通信を行う(ステップS301)と、ADC/DAC制御回路1−6は通信状態について記憶する(ステップS302)。
【0043】
そして、DAC/ADC数の更新判断がなされると(ステップS303)、NADCまたはNADCを、ADC/DAC制御回路1−6に記憶された通信状態(空間ストリーム数、同一周波数同一時間での通信相手多重数、PER、など)から得られる値と比較し(ステップS401)、NADCまたはNADCが小さい場合には、NADCまたはNADCを増加させる(ステップS403)。
【0044】
また、NADCまたはNADCが、通信状態から得られる値より大きい場合に、NADCまたはNADCが、ADC/DAC制御回路1−6に記憶された通信状態(空間ストリーム数、同一周波数同一時間での通信相手多重数、PER、など)から得られる値と比較し(ステップS402)、NADCまたはNADCが大きい場合には、NADCまたはNADCを低下させる(ステップS404)。ADC、DACの数を設定し、待機状態となり次の通信を待つ(ステップS304)。
【0045】
次に、図5を参照して、図1に示す無線通信装置において、通信を行う際の動作の変形例を説明する。図5は、大容量通信を行う場合のみ、ADCやDACの数を増加させ、それ以外の時間では、少数のADCとDACで運用する動作例を示している。ここで、大容量通信とは、マルチユーザMIMO送信や、マルチユーザMIMO受信、多数の空間ストリームによる通信などのことである。まず、大容量通信を行うことが決定されると(ステップS501)、ADC、またはDAC、またはその両方の数を、NADCまたはNDACまたはその両方に設定する(ステップS502)。ここで、NADCまたはNDACは、これまでに示した決定方法で得られた値としてもよいし、全てのADC、またはDACをオンにしてもよい(NADC=N、または、NDAC=N)。例えば、マルチユーザMIMO送信や多数の空間ストリーム数による送信の場合には、DACの数を切り替え、マルチユーザMIMO受信や多数の空間ストリーム数による受信の場合には、ADCの数を切り替えるようにすることもできる。
【0046】
次に、ADC、または、DAC、またはその両方の設定がされると、大容量通信を行う(ステップ503)。ここで、ステップS503には、大容量通信を行うためのチャネル情報取得、ユーザ指定、アクセス権の取得、送信禁止区間(NAV)の設定なども含まれる。そして、通信が終了すると、ADC、DAC、またはその両方を元の値に戻す(ステップS504)。ここで、元の値とは、NMinADCや、NMinDACを用いることができる。または、平常時のADC、またはDACの数も、N'ADCや、N'DACとして、前述のNADCや、NDACと同様に「通信状態」に合わせて設定することもできる。ここで、N'ADC<NADC、N'DAC<NDACである。ADC、または、DAC、またはその両方が元の数に戻ると、再び大容量通信が決定されるまで少ない数のADC、DACで通常状態として通信を行う(ステップS505)。
【0047】
以上説明したように、通信に用いるADCとDACの数を制御することで、通信装置の消費電力を低減し、通信に占めるチャネル推定のためのオーバーヘッドを減らし、送信ウエイトや受信ウエイトの演算負荷を軽減することができる。
【0048】
なお、図1における処理部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより無線通信処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0049】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0050】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
通信に用いるADCとDACの数を制御することで、通信装置の消費電力を低減し、通信に占めるチャネル推定のためのオーバーヘッドを減らし、送信ウエイトや受信ウエイトの演算負荷を軽減することができる。
【符号の説明】
【0052】
1−0・・・送信信号生成回路、1−1−1〜N・・・DAC(デジタルアナログ変換器)、1−2−1〜N・・・ADC(アナログデジタル変換器)、1−3−1〜N・・・無線信号送受信回路、1−4−1〜N・・・送受信アンテナ、1−5・・・受信信号復調回路、1−6・・・ADC/DAC制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナと、
少なくとも一つは動作/停止の切替が可能な複数のデジタルアナログ変換器及びアナログデジタル変換器と、
アナログデジタル変換器、またはデジタルアナログ変換器の動作/停止を決定するADC/DAC制御回路と、
前記デジタルアナログ変換器により生成されたアナログ信号を無線区間の周波数に変換して送信し、無線区間の信号を受信し、周波数変換して前記アナログデジタル変換器に出力する無線信号送受信回路と、
前記アナログデジタル変換器により生成されたデジタル信号から、受信データを復調する受信信号復調回路と、
送信を行うデジタル信号を生成し前記デジタルアナログ変換器に出力する送信信号生成回路と
を備えた無線通信装置であって、
前記ADC/DAC制御回路は、当該無線通信装置の通信状態に基づいて動作させる前記アナログデジタル変換器または前記デジタルアナログ変換器の数を決定して動作を制御することを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記通信状態は、通信相手となる通信装置の数、同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、変調方式と符号化率からなる通信モード、パケット誤り率、送信をするために記憶しているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶しているデータビット数のうち少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記ADC/DAC制御回路は、
前記通信状態として、通信に用いる同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、変調方式と符号化率からなる通信モードを用い得られた閾値と、現在動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数とを比較し、空間ストリームの数がこれを上回る場合に、動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を増やすことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記ADC/DAC制御回路は、
前記通信状態として、通信に用いる同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、変調方式と符号化率からなる通信モードを用い得られた閾値と、現在動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数とを比較し、空間ストリームの数がこれを下回る場合に、動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を減らすことを特徴とする請求項1または3に記載の無線通信装置。
【請求項5】
前記ADC/DAC制御回路は、
前記通信状態として、パケット誤り率、送信をするために記憶して貯めているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶して貯めているデータビット数のうち、少なくとも一つが予め定めた値を上回る場合に、動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を増やすことを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項6】
前記ADC/DAC制御回路は、
前記通信状態として、パケット誤り率、送信をするために記憶して貯めているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶して貯めているデータビット数のうち、少なくとも一つが予め定めた値を一定時間下回る場合に、動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を減らすことを特徴とする請求項1または5に記載の無線通信装置。
【請求項7】
前記ADC/DAC制御回路は、
通信相手から受信される信号から動作している前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数の増加の要請を取得し、前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器、またはその両方の数を増加させることを特徴とする請求項1に記載の無線通信装置。
【請求項8】
複数のアンテナと、
少なくとも一つは動作/停止の切替が可能な複数のデジタルアナログ変換器及びアナログデジタル変換器と
を備えた無線通信装置における無線通信方法であって、
通信相手となる通信装置の数、同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、変調方式と符号化率からなる通信モード、パケット誤り率、送信をするために記憶しているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶しているデータビット数のいずれかの通信状態のうち少なくとも一つを推定する通信状態判定ステップと、
前記通信状態から、動作させる前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数を決定するADC/DAC制御ステップと、
前記決定した数の前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器を用いて受信信号のアナログデジタル変換または送信信号のデジタルアナログ変換を行うアナログデジタル変換/デジタルアナログ変換ステップと
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項9】
複数のアンテナと、
少なくとも一つは動作/停止の切替が可能な複数のデジタルアナログ変換器及びアナログデジタル変換器と
を備えた無線通信装置における無線通信方法であって、
通信相手となる通信装置の数、同一時刻同一周波数での通信で多重される通信装置の数、空間ストリームの数、パケット誤り率、送信をするために記憶しているデータビット数、通信相手が送信を行うために記憶しているデータビット数のいずれかの通信状態のうち少なくとも一つを用いて、動作させる前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数の増減を評価する通信状態判定ステップと、
前記通信状態判定ステップにおいて、増加の判断がなされた場合に、動作させる前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数を増加させ、減少の判断がなされた場合に、動作させる前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器の数を減少させるADC/DAC制御ステップと、
前記動作させる数の前記アナログデジタル変換器、または前記デジタルアナログ変換器を用いて、受信信号のアナログデジタル変換または送信信号のデジタルアナログ変換を行うアナログデジタル変換/デジタルアナログ変換ステップと
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項10】
前記ADC/DAC制御ステップは、
多数の空間ストリーム数を用いる特定の送信、または受信の区間のみ、前記デジタルアナログ変換器、または前記アナログデジタル変換器の数を増加させ、当該送信区間、または受信区間が終了すると、前記デジタルアナログ変換器、または前記アナログデジタル変換器の数を元に戻すことを特徴とする請求項8または9記載の無線通信方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate