無菌環境維持装置
【課題】生体由来材料に変性を来たすことなく従来よりも短時間で無菌室内を無菌環境化することが出来る無菌環境維持装置を提供する。
【解決手段】無菌室10と、無菌室10に連通するバッファ室と、バッファ室に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部と、バッファ室内の滅菌物質を活性化させる滅菌物質活性化部とを具え、滅菌物質活性化部は、波長が7.5〜10.0μmの赤外線を出射する赤外線照射部6を具え、赤外線の照射によって滅菌物質を活性化し、バッファ室内で活性化した滅菌物質を無菌室10に供給する。
【解決手段】無菌室10と、無菌室10に連通するバッファ室と、バッファ室に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部と、バッファ室内の滅菌物質を活性化させる滅菌物質活性化部とを具え、滅菌物質活性化部は、波長が7.5〜10.0μmの赤外線を出射する赤外線照射部6を具え、赤外線の照射によって滅菌物質を活性化し、バッファ室内で活性化した滅菌物質を無菌室10に供給する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータやクリーンベンチの如く、その内部空間を無菌環境に維持することが出来る無菌環境維持装置と無菌作業台に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無菌環境とは、ある作業を行なう場合、その作業に必要な物質以外の混和を回避するための限りなく無塵無菌に近い環境であり、無菌作業台とは、無菌環境維持装置を有し、該無菌環境維持装置によって無菌環境に維持された無菌室で作業を行なうための装置であり、代表的なものとして細胞調製用等のアイソレータ、クリーンベンチ、安全キャビネット等がある。
【0003】
アイソレータとは、無菌室とその周囲環境との生物学的な隔離状態を維持しながら無菌室内での作業が可能な無菌作業台であり、図18に示す一例の如く、前面扉(101)を閉じた状態でグローブ(102)(無菌室における作業を可能にする作業手段)を介した作業により無菌室の隔離状態が維持できる構造になっている。
【0004】
クリーンベンチとは、無菌室内の気流制御によって無菌室の無菌状態が維持される無菌作業台であり、作業時において無菌室の前面扉が半開状態(無菌室における作業を可能とする作業手段)であっても、前記気流により無菌状態が維持される。
【0005】
安全キャビネットとは、無菌室内の気流制御によって無菌室の無菌状態が維持される無菌作業台であり、作業時において無菌室の前面扉が半開状態(無菌室における作業を可能とする作業手段)であっても、前記気流により無菌状態が維持され、更に、その気流は無菌室内の物質が周囲へ拡散しないように制御されている。
【0006】
従来、アイソレータにおいては、図16に示す如くキャビネット(1)内に、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)が形成され、無菌室(10)には、吸気口(11)及び排気口(12)をそれぞれ塞ぐ様に、微粒子捕集を目的とするHEPAフィルター(3)(3)が設置されている。
又、無菌室(10)には、過酸化水素発生器(2)(滅菌物質発生部)から滅菌物質である過酸化水素を供給する過酸化水素供給管(21)(滅菌物質供給部)が接続され、排気口(12)の近傍位置には過酸化水素除去フィルター(40)が設置されている。
更に、無菌室(10)には、温度、湿度、過酸化水素濃度等を検知するセンサーユニット(90)が配備され、その検知信号が制御装置(70)へ供給され、該制御装置(70)によって過酸化水素発生器(2)等が制御されている。
【0007】
上記アイソレータにおいては、無菌室(10)内における1つの作業が終了した後、次の作業に際して、過酸化水素発生器(2)から無菌室(10)内に過酸化水素ガスを噴霧して、無菌室(10)内に過酸化水素ガスを充満させ、無菌室(10)内を滅菌することが行なわれている(特許文献1参照)。この様に、滅菌物質を無菌室(10)に供給することによって無菌室(10)を無菌環境化することが出来る。
そして、滅菌行程の終了後は、吸気口(11)からHEPAフィルター(3)を経て空気を取り入れつつ、無菌室(10)内の過酸化水素ガスをHEPAフィルター(3)を経て排気口(12)から排出し、無菌室(10)内の過酸化水素ガスを空気によって置換する、ガス置換処理が施される。
【0008】
アイソレータにおいては、図17に示す如く、過酸化水素の噴霧による滅菌行程の後、
ガス置換による無害化処理を実施する必要があり、過酸化水素噴霧時間とガス置換時間の合計が滅菌に要する時間(滅菌時間)となる。
【0009】
アイソレータにおいて繰り返し滅菌作業を行なう場合、滅菌時間の短縮が必要とされる。即ち、アイソレータにおいて、扱う試料が異なる作業を連続して行なう場合、試料の混和を回避するため、作業と作業の間に滅菌作業を行なう必要があるが、アイソレータにおける連続作業を効率的に行なうためには、滅菌時間の短縮が必要である。
そのためには、滅菌物質を滅菌室内に必要量だけ均一に拡散させる時間の短縮、滅菌物質が被滅菌物の滅菌を完了するのに要する時間の短縮、更には滅菌物質が分解されて無害化されるのに要する時間の短縮が必要である。
【0010】
そこで、赤外線を被滅菌物に直接照射して、赤外線による加熱によって滅菌を行なうことが提案されている(特許文献2)。
又、過酸化水素水を用いた食品用容器の滅菌において、容器に過酸化水素水を接触させた後、紫外線と赤外線を同時に照射して、赤外線による加熱によって水分乾燥を促し、残留する過酸化水素を除去して、結果的に滅菌時間の短縮を図ることが提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2002−360672号公報
【特許文献2】特許第3650925号公報
【特許文献3】特開昭63−110124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、アイソレータで実施する滅菌作業の対象物は、滅菌室の内壁、滅菌室内に設置された各種器具、更には培地等の生体由来の材料が収容された容器等であって、生体由来材料には、高温に晒されると失活するものも多いため、赤外線による加熱によって滅菌を行なう方法では、生体由来材料に変性を来たす虞がある。
ここで、生体由来材料とは、細胞を含む生物そのもの、或いは生物を構成する物質、又は、生物が産生する物質、を含有する材料を意味する。失活とは、本来の能力を失い、本来の働きが果たせなくなった状態を意味する。また、変性とは、本来の状態(形状や性質等)から変化することを意味する。
【0012】
そこで本発明の目的は、生体由来材料に変性を来たすことなく従来よりも短時間で無菌室内を無菌環境化することが出来る無菌環境維持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る第1の無菌環境維持装置は、生体由来材料を対象とする作業を行なうための無菌室と、無菌室内に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部と、無菌室内の滅菌物質を活性化させる滅菌物質活性化部と、無菌室内の温度を前記生体由来材料が変性することのない温度に調整する温度調整部とを具えている。
温度調整部による温度調整は、例えば滅菌物質活性化部の動作を制御することによって実現することが出来る。
【0014】
上記第1の無菌環境維持装置においては、無菌室内で滅菌作業を行なう際、滅菌物質供給部から無菌室内に滅菌物質を供給すると共に、滅菌物質活性部によって無菌室内の滅菌物質を活性化させる。無菌室内で被滅菌物は活性化した滅菌物質による滅菌作用を受ける。この結果、被滅菌物が滅菌されるのに要する時間が短縮されることになる。但し、滅菌物質活性部による滅菌物質の活性化に伴って滅菌室内の生体由来材料の温度が上昇する虞があるため、無菌室内の温度を生体由来材料が変性することのない様、温度調整部によって温度を調整する。これによって、生体由来材料の変性が防止される。
【0015】
本発明に係る第2の無菌環境維持装置は、生体由来材料を対象とする作業を行なうための無菌室と、無菌室に連通するバッファ室と、バッファ室に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部と、バッファ室内の滅菌物質を活性化させる滅菌物質活性化部とを具え、バッファ室内で活性化した滅菌物質が無菌室に供給される。
【0016】
上記第2の無菌環境維持装置においては、無菌室内で滅菌作業を行なう際、滅菌物質供給部からバッファ室内に滅菌物質を供給すると共に、滅菌物質活性部によってバッファ室内の滅菌物質を活性化させる。活性化された滅菌物質は、バッファ室から無菌室に流入し、無菌室内に充満する。無菌室内で被滅菌物は活性化した滅菌物質による滅菌作用を受ける。この結果、被滅菌物が滅菌されるのに要する時間が短縮されることになる。ここで、滅菌物質活性部による滅菌物質の活性化はバッファ室で実施されるので、滅菌室内の生体由来材料が温度上昇する虞がなく、よって生体由来材料が変性する虞はない。
【0017】
具体的構成において、前記滅菌物質活性化部は赤外線照射部を具え、該赤外線照射部は、滅菌物質の活性化に有効であり且つ前記生体由来材料の温度上昇を最小限度に抑制することの出来る特定波長の赤外線を出射するものである。
【0018】
該具体的構成によれば、赤外線照射部による赤外線の照射により、滅菌物質は分子運動が活性化され、滅菌物質の被滅菌物に対する滅菌作用が強まることになり、この結果、被滅菌物が滅菌されるのに要する時間が短縮されることになる。
【0019】
ここで、赤外線照射部から出射される赤外線は、滅菌物質の活性化に有効であり且つ前記生体由来材料の温度上昇を最小限度に抑制することの出来る特定の波長を有しているので、滅菌物質は分子運動が活性化されるが、生体由来材料の温度上昇は最小限度に抑制され、これによって生体由来材料の変性が防止される。
【0020】
例えば生体由来材料が容器の中に封入されており、生体由来材料が培地等の水分を含むものであって、滅菌物質が過酸化水素のガス又は微小液体粒子、或いはオゾンのガス又は微小液体粒子である場合には、過酸化水素やオゾンに吸収され易い波長帯の内、容器の周囲に存在する水蒸気に吸収され易い赤外線の波長帯5〜7.5μmを除く波長帯として、7.5〜10μmの波長を有する赤外線が用いられる。
これによって、生体由来材料の温度上昇を引き起こす無菌室の温度上昇が最小限度に抑制され、更には、必要に応じて温度調整を行なうことにより、生体由来材料に変性を来たす虞のない温度、例えば35℃以下に抑えられる。
【0021】
又、前記滅菌物質として、過酸化水素とオゾンの混合物を採用した場合、過酸化水素とオゾンの混合によって活性酸素種の発生量が増加し、この結果、過酸化水素若しくはオゾン単体の場合よりも滅菌性能が向上する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る無菌環境維持装置によれば、生体由来材料に変性を来たすことなく従来よりも短時間で無菌室内を無菌環境化することが出来る。又、該無菌環境維持装置を用いた無菌作業台によれば、上記の効果を有しつつ、無菌室内で作業を行なうことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明をアイソレータに実施した形態につき、図面に沿って具体的に説明する。
図1は、図18に示す無菌作業台に相当する本発明の第1のアイソレータの構成を表わしている。図1に示す如く、キャビネット(1)内に、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)が形成され、無菌室(10)には、吸気口(11)及び排気口(12)をそれぞれ塞ぐ様に
HEPAフィルター(3)(3)が設置されている。
無菌室(10)には、内気循環ファン(8)が設置されると共に、排気側のHEPAフィルター(3)の出口には排気ファン(図示省略)が配備されている。又、無菌室(10)の側壁には、無菌室(10)における作業を可能にする作業手段となるグローブ(102)が連結されている。
排気口(12)とHEPAフィルター(3)との間には、活性炭等からなるオゾン・過酸化水素除去フィルター(4)が設置されている。
【0024】
キャビネット(1)には、過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)が配備されている。無菌室(10)には、過酸化水素発生器(2)から滅菌物質である過酸化水素を供給する過酸化水素供給管(21)が接続されると共に、オゾン発生器(5)から滅菌物質であるオゾンを供給するオゾン供給管(60)が接続されている。又、無菌室(10)には、赤外線照射器(6)が設置されている。
更に、無菌室(10)には、湿度、過酸化水素濃度、オゾン濃度等を検知するセンサーユニット(9)と、無菌室(10)内の温度を測定する放射温度計(91)とが配備され、それらの検知信号が制御装置(7)へ供給されて、過酸化水素発生器(2)、オゾン発生器(5)、赤外線照射器(6)、内気循環ファン(8)等の動作が制御されている。
【0025】
斯くして、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)、HEPAフィルター(3)(3)、内気循環ファン(8)、オゾン・過酸化水素除去フィルター(4)、過酸化水素供給管(21)、オゾン供給管(60)、赤外線照射器(6)、センサーユニット(9)、及び放射温度計(91)によって、本発明に係る第1の無菌環境維持装置が構成され、該無菌環境維持装置に対して、作業手段となるグローブ(102)を連結すると共に、過酸化水素発生器(2)及びオゾン発生器(5)を装備することによって、本発明に係る第1のアイソレータが構成される。
【0026】
赤外線照射器(6)は、図3及び図4に示す如く、セラミックヒータ(61)と、該セラミックヒータ(61)から発せられる赤外線を反射するリフレクター(62)と、該セラミックヒータ(61)から発せられる赤外線を7.5〜10μmの波長帯に制限して通過させるバンドパスフィルター(63)とを具えている。
これによって、図5に示す如く赤外線照射器(6)から無菌室(10)の中央部へ向けて一定角度範囲の赤外線照射エリアが形成されることになる。
【0027】
上記の7.5〜10μmの波長帯は、過酸化水素やオゾンの分子運動を活性化することに有効な波長帯(5〜10μm)の内(「改訂4版 化学便覧 基礎編II」社団法人日本化学会編)、水に対する吸収率が高い波長帯(5〜7.5μm)を除く帯域として規定されている(「赤外線光学」久野治義著、社団法人電子情報通信学会編参照)。
尚、過酸化水素やオゾンを活性化するのに有効な他の波長帯は公知のところである(「改訂4版 化学便覧 基礎編II」社団法人日本化学会編)。
【0028】
又、図3に示す如く、赤外線照射器(6)には、必要に応じて赤外線出射方向をスイングさせるためのモータ(64)が配備される。
これによって、図6に示す如く赤外線照射器(6)が一定角度範囲で揺動し、照射エリアの拡大が図られる。
【0029】
オゾン発生器(5)は、図7に示すオゾンミスト発生器によって構成することが可能である。該オゾンミスト発生器においては、制御基盤(59)による制御の下、純水タンク(51)内の純水(52)を水封キャップ(53)から電解槽(54)内へ供給し、該電解槽(54)内のオゾン発生電極(56)によってオゾン水を生成し、該オゾン水に対して超音波発振子(57)から超音波振動を与えることにより、オゾンミスト(58)を発生させるものである。該オゾンミスト(58)はオゾン供給管(60)から外部へ供給される。
【0030】
又、オゾン発生器(5)は、図8に示すオゾンガス発生器によって構成することも可能である。該オゾンガス発生器においては、酸素供給源(501)から供給器(502)を経て放電式オゾン発生器(503)へ酸素を供給し、放電式オゾン発生器(503)にて放電によってオゾンガスを発生させ、このオゾンガスを加湿器(505)へ供給して純水(504)により加湿し、加湿されたオゾン(506)を得る。
【0031】
過酸化水素発生器(2)は、図9に示す過酸化水素ミスト発生器によって構成することが出来る。該過酸化水素ミスト発生器においては、制御基盤(28)による制御の下、過酸化水素水タンク(22)内の過酸化水素水(23)を水封キャップ(24)から過酸化水素水槽(25)に供給し、該過酸化水素水槽(25)内の過酸化水素水に対して超音波発振子(26)から超音波振動を与えることにより、過酸化水素ミスト(27)を発生させるものである。
【0032】
又、過酸化水素発生器(2)は、図10(a)(b)に示す過酸化水素気化器によって構成することも可能である。該過酸化水素気化器においては、送風ファン(202)の運転によって吸気口(201)から送風ダクト(207)へ取り込んだ空気を、送風ダクト(207)の出口に設置されているエレメント(205)を経て排気口(206)から排出する一方、過酸化水素水槽(204)からポンプ(203)によって過酸化水素水を汲み上げ、エレメント(205)に滴下することにより、該エレメント(205)を通過する空気流によって過酸化水素水を気化させる。そして、気化した過酸化水素ガスが過酸化水素供給管(21)から外部へ供給される。
【0033】
上記アイソレータにおいては、無菌室(10)内を滅菌するために図15に示すパターン1又はパターン3の処理が実行される。
パターン1においては、滅菌処理のために過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)を同時に動作させて、滅菌ガス(過酸化水素ガス及びオゾンガス)の発生及び噴霧を実施した後、無害化処理のためにガスパージを実施する。又、滅菌処理及び無害化処理の期間を通じて、赤外線照射器(6)による赤外線照射を実施し、滅菌ガスの活性化と無害化処理の効率化を図る。
【0034】
赤外線照射においては、放射温度計(91)によって無菌室(10)内の温度分布を監視し、無菌室(10)内の温度分布において最高温度が35℃以下となる様に赤外線照射器(6)の動作を制御する。従って、赤外線照射は連続したものでなく、断続的なものとなる。斯くして、無菌室内の温度を生体由来材料が変性することのない温度に調整する温度調整部が構成される。
【0035】
パターン3においては、滅菌処理のために過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)を同時に動作させて、滅菌ガス(過酸化水素ガス及びオゾンガス)の発生及び噴霧を実施した後、無害化処理のためにガスパージを実施する。又、滅菌処理期間においては、赤外線照射器(6)による赤外線照射のオン/オフを繰り返すことによって、赤外線照射による滅菌ガス活性化の程度を調整する。
【0036】
図11及び図12は、前記制御装置(7)が滅菌処理のために実行する制御手続きを表わしている。
先ず図11に示す準備行程において、内気循環ファンをオンとし、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオンとした後、赤外線照射フラグをオンとする。次に、図12に示す赤外線照射ループをオンとする。
【0037】
赤外線照射ループにおいては、無菌室内の温度分布の測定を行なって、温度が35℃以上に達している部分が存在すれば、赤外線照射器をオフとする一方、温度が35℃未満であれば、赤外線照射器をオンとする。
その後、赤外線照射フラグを判定し、赤外線照射フラグがオンであれば、0.5秒を待
って温度測定に戻る。赤外線照射フラグがオフであれば、赤外線照射器をオフとして、赤外線照射ループをオフとする。
上記の温度分布測定に基づく赤外線照射オン/オフ制御により、生体由来材料の変性の防止を図っている。
【0038】
図11の如く、赤外線照射ループの終了後、オゾン濃度の測定を行なって、オゾン濃度が滅菌濃度未満であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返す。オゾン濃度が滅菌濃度以上であれば、滅菌行程に移行する。
ここでは、滅菌ガス濃度の代表として、オゾンガス濃度を測定しているが、過酸化水素ガス濃度を測定することも可能である。
【0039】
滅菌行程では、時間計測を開始した後、オゾン濃度の測定を行ない、オゾン濃度が滅菌濃度未満であれば、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオンとする一方、オゾン濃度が滅菌濃度以上であれば、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオフとする。
続いて時間判定を行なって、所定時間未満であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返し、所定時間以上であれば、無害化処理行程に移行する。
上記の滅菌行程によって、無菌室内は、適切な滅菌ガス濃度で適切な時間だけ曝露されることになる。尚、オゾン濃度の測定に替えて、過酸化水素濃度を測定することも可能である。
【0040】
無害化処理行程では、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオフ、排気ファンをオンとした後、オゾン濃度の測定を行なう。オゾン濃度が許容濃度以上であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返す。オゾン濃度が許容濃度未満であれば、赤外線照射フラグをオフとした後、排気ファン及び内気循環ファンをオフとして、滅菌処理を終了する。
【0041】
上記第1のアイソレータにおいては、滅菌行程にてオゾン発生器(5)及び過酸化水素発生器(2)が同時に動作して、滅菌ガスとしてのオゾン及び過酸化水素が無菌室(10)に供給され、オゾンと過酸化水素が混合されることになる。
ここで、オゾンと過酸化水素の混合ガスに対して7.5〜10μmの波長を有する赤外
線が照射されることにより、オゾン及び過酸化水素の分子運動が活性化して、混合ガスが活性化されることになる。
【0042】
図14は、過酸化水素とオゾンの反応を表わしている。過酸化水素とオゾンは、それぞれ単体として、破線で示す如く活性酸素種などが複雑に連鎖反応を起こした後、水と酸素に分解されるが、過酸化水素とオゾンが混合されることによって、活性酸素種の発生量が単体の場合よりも増大すると考えられる。特に過酸化水素とオゾンは赤外線の照射を受けて分子運動が活性化し、混合度が増大するため、大量の活性酸素種が発生する。尚、図中にアンダーラインを付した分子が波長7.5〜10μmの赤外線を吸収する。
滅菌ガスの滅菌性能は、反応性の高い活性酸素種の量に依存すると考えられており、大量の活性酸素種によって高い滅菌性能が得られることになる。
【0043】
上記の如く赤外線照射によって滅菌ガスを活性化させることにより、滅菌行程においては滅菌性能の向上を図り、無害化処理行程においては滅菌物質の分解(無害化)促進を図っている。
この結果、図15に示す様に、赤外線照射を行なわない従来技術と比較して、滅菌性能が向上すると共に、滅菌性能の向上に伴って滅菌ガスの使用量も減少するため、滅菌処理時間の短縮や無害化処理時間の短縮が図られる。
【0044】
尚、滅菌行程においては、無菌室(10)内の培地等の生体由来材料も赤外線の照射を受けるが、赤外線の波長帯が7.5〜10μmに制限されており、この波長帯では、オゾン及
び過酸化水素は選択的に活性化されるものの、水蒸気分子への吸収度は低いため、無菌室(10)の温度上昇が抑えられる。
然も上記アイソレータにおいては、無菌室(10)内の温度が35℃未満となる様に赤外線照射器(6)の動作が制御されるので、無菌室(10)内の温度は35℃未満に維持される。
従って、無菌室(10)内の培地等の生体由来材料が変性する虞はない。
【0045】
上記第1のアイソレータにおいて、無菌室(10)内の温度の上限値である35℃は、無菌室(10)内に収容される生体由来材料に変性を来たす虞のない温度の上限値の一例であって、無菌室(10)内に収容される生体由来材料の特性に応じて適宜決定する。
【0046】
本発明に係る第2のアイソレータにおいては、図2に示す如く、キャビネット(1)内に、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)と、該無菌室(10)と連絡管(14)を介して連通するバッファ室(13)とが形成され、無菌室(10)には、吸気口(11)及び排気口(12)をそれぞれ塞ぐ様にHEPAフィルター(3)(3)が設置されている。
無菌室(10)には、内気循環ファン(8)が設置されると共に、排気側のHEPAフィルター(3)の出口には排気ファン(図示省略)が配備されている。又、無菌室(10)の側壁には、無菌室(10)における作業を可能にする作業手段となるグローブ(102)が連結されている。
排気口(12)とHEPAフィルター(3)との間には、活性炭等からなるオゾン・過酸化水素除去フィルター(4)が設置されている。
【0047】
キャビネット(1)には、過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)が配備されている。バッファ室(13)には、過酸化水素発生器(2)から滅菌物質である過酸化水素を供給する過酸化水素供給管(21)が接続されると共に、オゾン発生器(5)から滅菌物質であるオゾンを供給するオゾン供給管(60)が接続されている。
又、バッファ室(13)には、赤外線照射器(6)が設置されている。
【0048】
更に、無菌室(10)には、温度、湿度、過酸化水素濃度、オゾン濃度等を検知するセンサーユニット(9)が配備され、その検知信号が制御装置(7)へ供給されて、過酸化水素発生器(2)、オゾン発生器(5)、赤外線照射器(6)、内気循環ファン(8)等の動作が制御されている。
過酸化水素発生器(2)、オゾン発生器(5)及び赤外線照射器(6)は、上記第1のアイソレータに装備されている過酸化水素発生器(2)、オゾン発生器(5)及び赤外線照射器(6)と同じ構成である(図3〜図10参照)。
【0049】
斯くして、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)、バッファ室(13)、HEPAフィルター(3)(3)、内気循環ファン(8)、オゾン・過酸化水素除去フィルター(4)、過酸化水素供給管(21)、オゾン供給管(60)、赤外線照射器(6)、及びセンサーユニット(9)によって、本発明に係る第2の無菌環境維持装置が構成され、該無菌環境維持装置に対して、作業手段となるグローブ(102)を連結すると共に、過酸化水素発生器(2)及びオゾン発生器(5)を装備することによって、本発明に係る第2のアイソレータが構成される。
【0050】
上記アイソレータにおいては、無菌室(10)内を滅菌するために図15に示すパターン2又はパターン4の処理が実行される。
パターン2においては、滅菌処理のために過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)を同時に動作させて、滅菌ガス(過酸化水素ガス及びオゾンガス)の発生及び噴霧を実施した後、無害化処理のためにガスパージを実施する。又、滅菌処理の期間を通じて、赤外線照射器(6)による赤外線照射を実施し、滅菌ガスの活性化を図る。
【0051】
パターン4においては、滅菌処理のために過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)を同時に動作させて、滅菌ガス(過酸化水素ガス及びオゾンガス)の発生及び噴霧を実施した
後、無害化処理のためにガスパージを実施する。又、滅菌処理期間においては、赤外線照射器(6)による赤外線照射のオン/オフを繰り返すことによって、赤外線照射による滅菌ガス活性化の程度を調整する。
【0052】
図13は、前記制御装置(7)が滅菌処理のために実行する制御手続きを表わしている。
先ず図13に示す準備行程において、内気循環ファンをオンとし、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオンとした後、赤外線照射をオンとする。次に、オゾン濃度の測定を行なって、オゾン濃度が滅菌濃度未満であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返す。オゾン濃度が滅菌濃度以上であれば、滅菌行程に移行する。
【0053】
滅菌行程では、時間計測を開始した後、オゾン濃度の測定を行ない、オゾン濃度が滅菌濃度未満であれば、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオンとする一方、オゾン濃度が滅菌濃度以上であれば、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオフとする。
続いて時間判定を行なって、所定時間未満であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返し、所定時間以上であれば、無害化処理行程に移行する。
ここでは、滅菌ガス濃度の代表として、オゾンガス濃度を測定しているが、過酸化水素ガス濃度を測定することも可能である。
【0054】
無害化処理行程では、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオフ、赤外線照射をオフ、排気ファンをオンとした後、オゾン濃度の測定を行なう。オゾン濃度が許容濃度以上であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返す。オゾン濃度が許容濃度未満であれば、排気ファン及び内気循環ファンをオフとして、滅菌処理を終了する。
【0055】
上記第2のアイソレータにおいては、滅菌行程にてオゾン発生器(5)及び過酸化水素発生器(2)が同時に動作して、滅菌ガスとしてのオゾン及び過酸化水素がバッファ室(13)に供給され、オゾンと過酸化水素が混合されることになる。
ここで、オゾンと過酸化水素の混合ガスに対して7.5〜10μmの波長を有する赤外線が照射されることにより、オゾン及び過酸化水素の分子運動が活性化して、活性化されることになる。
【0056】
活性化されたオゾンと過酸化水素の混合ガス(滅菌物質)は、バッファ室(13)から連絡管(14)を経て無菌室(10)へ供給される。これによって、無菌室(10)内では、活性化されたオゾンと過酸化水素の混合ガスが高い滅菌性能を発揮する。
この結果、図15に示す様に、赤外線照射器を具えた従来技術と比較して、滅菌処理時間が短縮される。又、滅菌性能の向上に伴って滅菌ガスの使用量も減少するため、無害化処理時間の短縮も図られる。
【0057】
尚、赤外線照射によるオゾンと過酸化水素の活性化はバッファ室(13)で行なわれるので、無菌室(10)内の温度は35℃未満に維持され、無菌室(10)に収容されている培地等の生体由来材料が温度上昇によって変性する虞はない。
【0058】
上述の如く、本発明に係るアイソレータによれば、培地などの生体由来材料に変性を来たすことなく従来よりも短時間で無菌室内を無菌環境化することが出来、滅菌時間の短縮を図ることが出来る。
【0059】
本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば上記第1及び第2のアイソレータは、過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)の両方を具えているが、何れか一方のみを装備した構成も採用可能である。
又、第1のアイソレータにおいては、無菌室(10)の温度を35℃以下に抑える制御を行
なっているが、この上限値は35℃に限らず、生体由来材料に変性を来たす虞のない適切な温度を設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る第1のアイソレータの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る第2のアイソレータの構成を示す図である。
【図3】赤外線照射器の斜視図である。
【図4】赤外線照射器の分解斜視図である。
【図5】赤外線照射器による赤外線照射エリアを示す図である。
【図6】スイング式赤外線照射器の動作を示す図である。
【図7】オゾン発生器の構成を示す図である。
【図8】オゾン発生器の他の構成を示す図である。
【図9】過酸化水素発生器の構成を示す図である。
【図10】過酸化水素発生器の他の構成を示す図である。
【図11】第1のアイソレータにおける制御手続きを示すフローチャートである。
【図12】赤外線照射ループの制御手続きを示すフローチャートである。
【図13】第2のアイソレータにおける制御手続きを示すフローチャートである。
【図14】過酸化水素とオゾンの反応化学式を示す図である。
【図15】従来技術と本発明のアイソレータにおける滅菌処理及び無害化処理を比較したタイムチャートである。
【図16】従来のアイソレータの構成を示す図である。
【図17】従来の滅菌処理及び無害化処理のタイムチャートである。
【図18】無菌作業台における扉の開閉を表わす断面図である。
【符号の説明】
【0061】
(1) キャビネット
(10) 無菌室
(11) 吸気口
(12) 排気口
(13) バッファ室
(14) 連絡管
(2) 過酸化水素発生器
(3) HEPAフィルター
(4) オゾン・過酸化水素除去フィルター
(5) オゾン発生器
(60) オゾン供給管
(6) 赤外線照射器
(7) 制御装置
(9) センサーユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレータやクリーンベンチの如く、その内部空間を無菌環境に維持することが出来る無菌環境維持装置と無菌作業台に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無菌環境とは、ある作業を行なう場合、その作業に必要な物質以外の混和を回避するための限りなく無塵無菌に近い環境であり、無菌作業台とは、無菌環境維持装置を有し、該無菌環境維持装置によって無菌環境に維持された無菌室で作業を行なうための装置であり、代表的なものとして細胞調製用等のアイソレータ、クリーンベンチ、安全キャビネット等がある。
【0003】
アイソレータとは、無菌室とその周囲環境との生物学的な隔離状態を維持しながら無菌室内での作業が可能な無菌作業台であり、図18に示す一例の如く、前面扉(101)を閉じた状態でグローブ(102)(無菌室における作業を可能にする作業手段)を介した作業により無菌室の隔離状態が維持できる構造になっている。
【0004】
クリーンベンチとは、無菌室内の気流制御によって無菌室の無菌状態が維持される無菌作業台であり、作業時において無菌室の前面扉が半開状態(無菌室における作業を可能とする作業手段)であっても、前記気流により無菌状態が維持される。
【0005】
安全キャビネットとは、無菌室内の気流制御によって無菌室の無菌状態が維持される無菌作業台であり、作業時において無菌室の前面扉が半開状態(無菌室における作業を可能とする作業手段)であっても、前記気流により無菌状態が維持され、更に、その気流は無菌室内の物質が周囲へ拡散しないように制御されている。
【0006】
従来、アイソレータにおいては、図16に示す如くキャビネット(1)内に、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)が形成され、無菌室(10)には、吸気口(11)及び排気口(12)をそれぞれ塞ぐ様に、微粒子捕集を目的とするHEPAフィルター(3)(3)が設置されている。
又、無菌室(10)には、過酸化水素発生器(2)(滅菌物質発生部)から滅菌物質である過酸化水素を供給する過酸化水素供給管(21)(滅菌物質供給部)が接続され、排気口(12)の近傍位置には過酸化水素除去フィルター(40)が設置されている。
更に、無菌室(10)には、温度、湿度、過酸化水素濃度等を検知するセンサーユニット(90)が配備され、その検知信号が制御装置(70)へ供給され、該制御装置(70)によって過酸化水素発生器(2)等が制御されている。
【0007】
上記アイソレータにおいては、無菌室(10)内における1つの作業が終了した後、次の作業に際して、過酸化水素発生器(2)から無菌室(10)内に過酸化水素ガスを噴霧して、無菌室(10)内に過酸化水素ガスを充満させ、無菌室(10)内を滅菌することが行なわれている(特許文献1参照)。この様に、滅菌物質を無菌室(10)に供給することによって無菌室(10)を無菌環境化することが出来る。
そして、滅菌行程の終了後は、吸気口(11)からHEPAフィルター(3)を経て空気を取り入れつつ、無菌室(10)内の過酸化水素ガスをHEPAフィルター(3)を経て排気口(12)から排出し、無菌室(10)内の過酸化水素ガスを空気によって置換する、ガス置換処理が施される。
【0008】
アイソレータにおいては、図17に示す如く、過酸化水素の噴霧による滅菌行程の後、
ガス置換による無害化処理を実施する必要があり、過酸化水素噴霧時間とガス置換時間の合計が滅菌に要する時間(滅菌時間)となる。
【0009】
アイソレータにおいて繰り返し滅菌作業を行なう場合、滅菌時間の短縮が必要とされる。即ち、アイソレータにおいて、扱う試料が異なる作業を連続して行なう場合、試料の混和を回避するため、作業と作業の間に滅菌作業を行なう必要があるが、アイソレータにおける連続作業を効率的に行なうためには、滅菌時間の短縮が必要である。
そのためには、滅菌物質を滅菌室内に必要量だけ均一に拡散させる時間の短縮、滅菌物質が被滅菌物の滅菌を完了するのに要する時間の短縮、更には滅菌物質が分解されて無害化されるのに要する時間の短縮が必要である。
【0010】
そこで、赤外線を被滅菌物に直接照射して、赤外線による加熱によって滅菌を行なうことが提案されている(特許文献2)。
又、過酸化水素水を用いた食品用容器の滅菌において、容器に過酸化水素水を接触させた後、紫外線と赤外線を同時に照射して、赤外線による加熱によって水分乾燥を促し、残留する過酸化水素を除去して、結果的に滅菌時間の短縮を図ることが提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2002−360672号公報
【特許文献2】特許第3650925号公報
【特許文献3】特開昭63−110124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、アイソレータで実施する滅菌作業の対象物は、滅菌室の内壁、滅菌室内に設置された各種器具、更には培地等の生体由来の材料が収容された容器等であって、生体由来材料には、高温に晒されると失活するものも多いため、赤外線による加熱によって滅菌を行なう方法では、生体由来材料に変性を来たす虞がある。
ここで、生体由来材料とは、細胞を含む生物そのもの、或いは生物を構成する物質、又は、生物が産生する物質、を含有する材料を意味する。失活とは、本来の能力を失い、本来の働きが果たせなくなった状態を意味する。また、変性とは、本来の状態(形状や性質等)から変化することを意味する。
【0012】
そこで本発明の目的は、生体由来材料に変性を来たすことなく従来よりも短時間で無菌室内を無菌環境化することが出来る無菌環境維持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る第1の無菌環境維持装置は、生体由来材料を対象とする作業を行なうための無菌室と、無菌室内に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部と、無菌室内の滅菌物質を活性化させる滅菌物質活性化部と、無菌室内の温度を前記生体由来材料が変性することのない温度に調整する温度調整部とを具えている。
温度調整部による温度調整は、例えば滅菌物質活性化部の動作を制御することによって実現することが出来る。
【0014】
上記第1の無菌環境維持装置においては、無菌室内で滅菌作業を行なう際、滅菌物質供給部から無菌室内に滅菌物質を供給すると共に、滅菌物質活性部によって無菌室内の滅菌物質を活性化させる。無菌室内で被滅菌物は活性化した滅菌物質による滅菌作用を受ける。この結果、被滅菌物が滅菌されるのに要する時間が短縮されることになる。但し、滅菌物質活性部による滅菌物質の活性化に伴って滅菌室内の生体由来材料の温度が上昇する虞があるため、無菌室内の温度を生体由来材料が変性することのない様、温度調整部によって温度を調整する。これによって、生体由来材料の変性が防止される。
【0015】
本発明に係る第2の無菌環境維持装置は、生体由来材料を対象とする作業を行なうための無菌室と、無菌室に連通するバッファ室と、バッファ室に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部と、バッファ室内の滅菌物質を活性化させる滅菌物質活性化部とを具え、バッファ室内で活性化した滅菌物質が無菌室に供給される。
【0016】
上記第2の無菌環境維持装置においては、無菌室内で滅菌作業を行なう際、滅菌物質供給部からバッファ室内に滅菌物質を供給すると共に、滅菌物質活性部によってバッファ室内の滅菌物質を活性化させる。活性化された滅菌物質は、バッファ室から無菌室に流入し、無菌室内に充満する。無菌室内で被滅菌物は活性化した滅菌物質による滅菌作用を受ける。この結果、被滅菌物が滅菌されるのに要する時間が短縮されることになる。ここで、滅菌物質活性部による滅菌物質の活性化はバッファ室で実施されるので、滅菌室内の生体由来材料が温度上昇する虞がなく、よって生体由来材料が変性する虞はない。
【0017】
具体的構成において、前記滅菌物質活性化部は赤外線照射部を具え、該赤外線照射部は、滅菌物質の活性化に有効であり且つ前記生体由来材料の温度上昇を最小限度に抑制することの出来る特定波長の赤外線を出射するものである。
【0018】
該具体的構成によれば、赤外線照射部による赤外線の照射により、滅菌物質は分子運動が活性化され、滅菌物質の被滅菌物に対する滅菌作用が強まることになり、この結果、被滅菌物が滅菌されるのに要する時間が短縮されることになる。
【0019】
ここで、赤外線照射部から出射される赤外線は、滅菌物質の活性化に有効であり且つ前記生体由来材料の温度上昇を最小限度に抑制することの出来る特定の波長を有しているので、滅菌物質は分子運動が活性化されるが、生体由来材料の温度上昇は最小限度に抑制され、これによって生体由来材料の変性が防止される。
【0020】
例えば生体由来材料が容器の中に封入されており、生体由来材料が培地等の水分を含むものであって、滅菌物質が過酸化水素のガス又は微小液体粒子、或いはオゾンのガス又は微小液体粒子である場合には、過酸化水素やオゾンに吸収され易い波長帯の内、容器の周囲に存在する水蒸気に吸収され易い赤外線の波長帯5〜7.5μmを除く波長帯として、7.5〜10μmの波長を有する赤外線が用いられる。
これによって、生体由来材料の温度上昇を引き起こす無菌室の温度上昇が最小限度に抑制され、更には、必要に応じて温度調整を行なうことにより、生体由来材料に変性を来たす虞のない温度、例えば35℃以下に抑えられる。
【0021】
又、前記滅菌物質として、過酸化水素とオゾンの混合物を採用した場合、過酸化水素とオゾンの混合によって活性酸素種の発生量が増加し、この結果、過酸化水素若しくはオゾン単体の場合よりも滅菌性能が向上する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る無菌環境維持装置によれば、生体由来材料に変性を来たすことなく従来よりも短時間で無菌室内を無菌環境化することが出来る。又、該無菌環境維持装置を用いた無菌作業台によれば、上記の効果を有しつつ、無菌室内で作業を行なうことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明をアイソレータに実施した形態につき、図面に沿って具体的に説明する。
図1は、図18に示す無菌作業台に相当する本発明の第1のアイソレータの構成を表わしている。図1に示す如く、キャビネット(1)内に、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)が形成され、無菌室(10)には、吸気口(11)及び排気口(12)をそれぞれ塞ぐ様に
HEPAフィルター(3)(3)が設置されている。
無菌室(10)には、内気循環ファン(8)が設置されると共に、排気側のHEPAフィルター(3)の出口には排気ファン(図示省略)が配備されている。又、無菌室(10)の側壁には、無菌室(10)における作業を可能にする作業手段となるグローブ(102)が連結されている。
排気口(12)とHEPAフィルター(3)との間には、活性炭等からなるオゾン・過酸化水素除去フィルター(4)が設置されている。
【0024】
キャビネット(1)には、過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)が配備されている。無菌室(10)には、過酸化水素発生器(2)から滅菌物質である過酸化水素を供給する過酸化水素供給管(21)が接続されると共に、オゾン発生器(5)から滅菌物質であるオゾンを供給するオゾン供給管(60)が接続されている。又、無菌室(10)には、赤外線照射器(6)が設置されている。
更に、無菌室(10)には、湿度、過酸化水素濃度、オゾン濃度等を検知するセンサーユニット(9)と、無菌室(10)内の温度を測定する放射温度計(91)とが配備され、それらの検知信号が制御装置(7)へ供給されて、過酸化水素発生器(2)、オゾン発生器(5)、赤外線照射器(6)、内気循環ファン(8)等の動作が制御されている。
【0025】
斯くして、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)、HEPAフィルター(3)(3)、内気循環ファン(8)、オゾン・過酸化水素除去フィルター(4)、過酸化水素供給管(21)、オゾン供給管(60)、赤外線照射器(6)、センサーユニット(9)、及び放射温度計(91)によって、本発明に係る第1の無菌環境維持装置が構成され、該無菌環境維持装置に対して、作業手段となるグローブ(102)を連結すると共に、過酸化水素発生器(2)及びオゾン発生器(5)を装備することによって、本発明に係る第1のアイソレータが構成される。
【0026】
赤外線照射器(6)は、図3及び図4に示す如く、セラミックヒータ(61)と、該セラミックヒータ(61)から発せられる赤外線を反射するリフレクター(62)と、該セラミックヒータ(61)から発せられる赤外線を7.5〜10μmの波長帯に制限して通過させるバンドパスフィルター(63)とを具えている。
これによって、図5に示す如く赤外線照射器(6)から無菌室(10)の中央部へ向けて一定角度範囲の赤外線照射エリアが形成されることになる。
【0027】
上記の7.5〜10μmの波長帯は、過酸化水素やオゾンの分子運動を活性化することに有効な波長帯(5〜10μm)の内(「改訂4版 化学便覧 基礎編II」社団法人日本化学会編)、水に対する吸収率が高い波長帯(5〜7.5μm)を除く帯域として規定されている(「赤外線光学」久野治義著、社団法人電子情報通信学会編参照)。
尚、過酸化水素やオゾンを活性化するのに有効な他の波長帯は公知のところである(「改訂4版 化学便覧 基礎編II」社団法人日本化学会編)。
【0028】
又、図3に示す如く、赤外線照射器(6)には、必要に応じて赤外線出射方向をスイングさせるためのモータ(64)が配備される。
これによって、図6に示す如く赤外線照射器(6)が一定角度範囲で揺動し、照射エリアの拡大が図られる。
【0029】
オゾン発生器(5)は、図7に示すオゾンミスト発生器によって構成することが可能である。該オゾンミスト発生器においては、制御基盤(59)による制御の下、純水タンク(51)内の純水(52)を水封キャップ(53)から電解槽(54)内へ供給し、該電解槽(54)内のオゾン発生電極(56)によってオゾン水を生成し、該オゾン水に対して超音波発振子(57)から超音波振動を与えることにより、オゾンミスト(58)を発生させるものである。該オゾンミスト(58)はオゾン供給管(60)から外部へ供給される。
【0030】
又、オゾン発生器(5)は、図8に示すオゾンガス発生器によって構成することも可能である。該オゾンガス発生器においては、酸素供給源(501)から供給器(502)を経て放電式オゾン発生器(503)へ酸素を供給し、放電式オゾン発生器(503)にて放電によってオゾンガスを発生させ、このオゾンガスを加湿器(505)へ供給して純水(504)により加湿し、加湿されたオゾン(506)を得る。
【0031】
過酸化水素発生器(2)は、図9に示す過酸化水素ミスト発生器によって構成することが出来る。該過酸化水素ミスト発生器においては、制御基盤(28)による制御の下、過酸化水素水タンク(22)内の過酸化水素水(23)を水封キャップ(24)から過酸化水素水槽(25)に供給し、該過酸化水素水槽(25)内の過酸化水素水に対して超音波発振子(26)から超音波振動を与えることにより、過酸化水素ミスト(27)を発生させるものである。
【0032】
又、過酸化水素発生器(2)は、図10(a)(b)に示す過酸化水素気化器によって構成することも可能である。該過酸化水素気化器においては、送風ファン(202)の運転によって吸気口(201)から送風ダクト(207)へ取り込んだ空気を、送風ダクト(207)の出口に設置されているエレメント(205)を経て排気口(206)から排出する一方、過酸化水素水槽(204)からポンプ(203)によって過酸化水素水を汲み上げ、エレメント(205)に滴下することにより、該エレメント(205)を通過する空気流によって過酸化水素水を気化させる。そして、気化した過酸化水素ガスが過酸化水素供給管(21)から外部へ供給される。
【0033】
上記アイソレータにおいては、無菌室(10)内を滅菌するために図15に示すパターン1又はパターン3の処理が実行される。
パターン1においては、滅菌処理のために過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)を同時に動作させて、滅菌ガス(過酸化水素ガス及びオゾンガス)の発生及び噴霧を実施した後、無害化処理のためにガスパージを実施する。又、滅菌処理及び無害化処理の期間を通じて、赤外線照射器(6)による赤外線照射を実施し、滅菌ガスの活性化と無害化処理の効率化を図る。
【0034】
赤外線照射においては、放射温度計(91)によって無菌室(10)内の温度分布を監視し、無菌室(10)内の温度分布において最高温度が35℃以下となる様に赤外線照射器(6)の動作を制御する。従って、赤外線照射は連続したものでなく、断続的なものとなる。斯くして、無菌室内の温度を生体由来材料が変性することのない温度に調整する温度調整部が構成される。
【0035】
パターン3においては、滅菌処理のために過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)を同時に動作させて、滅菌ガス(過酸化水素ガス及びオゾンガス)の発生及び噴霧を実施した後、無害化処理のためにガスパージを実施する。又、滅菌処理期間においては、赤外線照射器(6)による赤外線照射のオン/オフを繰り返すことによって、赤外線照射による滅菌ガス活性化の程度を調整する。
【0036】
図11及び図12は、前記制御装置(7)が滅菌処理のために実行する制御手続きを表わしている。
先ず図11に示す準備行程において、内気循環ファンをオンとし、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオンとした後、赤外線照射フラグをオンとする。次に、図12に示す赤外線照射ループをオンとする。
【0037】
赤外線照射ループにおいては、無菌室内の温度分布の測定を行なって、温度が35℃以上に達している部分が存在すれば、赤外線照射器をオフとする一方、温度が35℃未満であれば、赤外線照射器をオンとする。
その後、赤外線照射フラグを判定し、赤外線照射フラグがオンであれば、0.5秒を待
って温度測定に戻る。赤外線照射フラグがオフであれば、赤外線照射器をオフとして、赤外線照射ループをオフとする。
上記の温度分布測定に基づく赤外線照射オン/オフ制御により、生体由来材料の変性の防止を図っている。
【0038】
図11の如く、赤外線照射ループの終了後、オゾン濃度の測定を行なって、オゾン濃度が滅菌濃度未満であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返す。オゾン濃度が滅菌濃度以上であれば、滅菌行程に移行する。
ここでは、滅菌ガス濃度の代表として、オゾンガス濃度を測定しているが、過酸化水素ガス濃度を測定することも可能である。
【0039】
滅菌行程では、時間計測を開始した後、オゾン濃度の測定を行ない、オゾン濃度が滅菌濃度未満であれば、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオンとする一方、オゾン濃度が滅菌濃度以上であれば、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオフとする。
続いて時間判定を行なって、所定時間未満であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返し、所定時間以上であれば、無害化処理行程に移行する。
上記の滅菌行程によって、無菌室内は、適切な滅菌ガス濃度で適切な時間だけ曝露されることになる。尚、オゾン濃度の測定に替えて、過酸化水素濃度を測定することも可能である。
【0040】
無害化処理行程では、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオフ、排気ファンをオンとした後、オゾン濃度の測定を行なう。オゾン濃度が許容濃度以上であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返す。オゾン濃度が許容濃度未満であれば、赤外線照射フラグをオフとした後、排気ファン及び内気循環ファンをオフとして、滅菌処理を終了する。
【0041】
上記第1のアイソレータにおいては、滅菌行程にてオゾン発生器(5)及び過酸化水素発生器(2)が同時に動作して、滅菌ガスとしてのオゾン及び過酸化水素が無菌室(10)に供給され、オゾンと過酸化水素が混合されることになる。
ここで、オゾンと過酸化水素の混合ガスに対して7.5〜10μmの波長を有する赤外
線が照射されることにより、オゾン及び過酸化水素の分子運動が活性化して、混合ガスが活性化されることになる。
【0042】
図14は、過酸化水素とオゾンの反応を表わしている。過酸化水素とオゾンは、それぞれ単体として、破線で示す如く活性酸素種などが複雑に連鎖反応を起こした後、水と酸素に分解されるが、過酸化水素とオゾンが混合されることによって、活性酸素種の発生量が単体の場合よりも増大すると考えられる。特に過酸化水素とオゾンは赤外線の照射を受けて分子運動が活性化し、混合度が増大するため、大量の活性酸素種が発生する。尚、図中にアンダーラインを付した分子が波長7.5〜10μmの赤外線を吸収する。
滅菌ガスの滅菌性能は、反応性の高い活性酸素種の量に依存すると考えられており、大量の活性酸素種によって高い滅菌性能が得られることになる。
【0043】
上記の如く赤外線照射によって滅菌ガスを活性化させることにより、滅菌行程においては滅菌性能の向上を図り、無害化処理行程においては滅菌物質の分解(無害化)促進を図っている。
この結果、図15に示す様に、赤外線照射を行なわない従来技術と比較して、滅菌性能が向上すると共に、滅菌性能の向上に伴って滅菌ガスの使用量も減少するため、滅菌処理時間の短縮や無害化処理時間の短縮が図られる。
【0044】
尚、滅菌行程においては、無菌室(10)内の培地等の生体由来材料も赤外線の照射を受けるが、赤外線の波長帯が7.5〜10μmに制限されており、この波長帯では、オゾン及
び過酸化水素は選択的に活性化されるものの、水蒸気分子への吸収度は低いため、無菌室(10)の温度上昇が抑えられる。
然も上記アイソレータにおいては、無菌室(10)内の温度が35℃未満となる様に赤外線照射器(6)の動作が制御されるので、無菌室(10)内の温度は35℃未満に維持される。
従って、無菌室(10)内の培地等の生体由来材料が変性する虞はない。
【0045】
上記第1のアイソレータにおいて、無菌室(10)内の温度の上限値である35℃は、無菌室(10)内に収容される生体由来材料に変性を来たす虞のない温度の上限値の一例であって、無菌室(10)内に収容される生体由来材料の特性に応じて適宜決定する。
【0046】
本発明に係る第2のアイソレータにおいては、図2に示す如く、キャビネット(1)内に、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)と、該無菌室(10)と連絡管(14)を介して連通するバッファ室(13)とが形成され、無菌室(10)には、吸気口(11)及び排気口(12)をそれぞれ塞ぐ様にHEPAフィルター(3)(3)が設置されている。
無菌室(10)には、内気循環ファン(8)が設置されると共に、排気側のHEPAフィルター(3)の出口には排気ファン(図示省略)が配備されている。又、無菌室(10)の側壁には、無菌室(10)における作業を可能にする作業手段となるグローブ(102)が連結されている。
排気口(12)とHEPAフィルター(3)との間には、活性炭等からなるオゾン・過酸化水素除去フィルター(4)が設置されている。
【0047】
キャビネット(1)には、過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)が配備されている。バッファ室(13)には、過酸化水素発生器(2)から滅菌物質である過酸化水素を供給する過酸化水素供給管(21)が接続されると共に、オゾン発生器(5)から滅菌物質であるオゾンを供給するオゾン供給管(60)が接続されている。
又、バッファ室(13)には、赤外線照射器(6)が設置されている。
【0048】
更に、無菌室(10)には、温度、湿度、過酸化水素濃度、オゾン濃度等を検知するセンサーユニット(9)が配備され、その検知信号が制御装置(7)へ供給されて、過酸化水素発生器(2)、オゾン発生器(5)、赤外線照射器(6)、内気循環ファン(8)等の動作が制御されている。
過酸化水素発生器(2)、オゾン発生器(5)及び赤外線照射器(6)は、上記第1のアイソレータに装備されている過酸化水素発生器(2)、オゾン発生器(5)及び赤外線照射器(6)と同じ構成である(図3〜図10参照)。
【0049】
斯くして、吸気口(11)及び排気口(12)を有する無菌室(10)、バッファ室(13)、HEPAフィルター(3)(3)、内気循環ファン(8)、オゾン・過酸化水素除去フィルター(4)、過酸化水素供給管(21)、オゾン供給管(60)、赤外線照射器(6)、及びセンサーユニット(9)によって、本発明に係る第2の無菌環境維持装置が構成され、該無菌環境維持装置に対して、作業手段となるグローブ(102)を連結すると共に、過酸化水素発生器(2)及びオゾン発生器(5)を装備することによって、本発明に係る第2のアイソレータが構成される。
【0050】
上記アイソレータにおいては、無菌室(10)内を滅菌するために図15に示すパターン2又はパターン4の処理が実行される。
パターン2においては、滅菌処理のために過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)を同時に動作させて、滅菌ガス(過酸化水素ガス及びオゾンガス)の発生及び噴霧を実施した後、無害化処理のためにガスパージを実施する。又、滅菌処理の期間を通じて、赤外線照射器(6)による赤外線照射を実施し、滅菌ガスの活性化を図る。
【0051】
パターン4においては、滅菌処理のために過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)を同時に動作させて、滅菌ガス(過酸化水素ガス及びオゾンガス)の発生及び噴霧を実施した
後、無害化処理のためにガスパージを実施する。又、滅菌処理期間においては、赤外線照射器(6)による赤外線照射のオン/オフを繰り返すことによって、赤外線照射による滅菌ガス活性化の程度を調整する。
【0052】
図13は、前記制御装置(7)が滅菌処理のために実行する制御手続きを表わしている。
先ず図13に示す準備行程において、内気循環ファンをオンとし、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオンとした後、赤外線照射をオンとする。次に、オゾン濃度の測定を行なって、オゾン濃度が滅菌濃度未満であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返す。オゾン濃度が滅菌濃度以上であれば、滅菌行程に移行する。
【0053】
滅菌行程では、時間計測を開始した後、オゾン濃度の測定を行ない、オゾン濃度が滅菌濃度未満であれば、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオンとする一方、オゾン濃度が滅菌濃度以上であれば、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオフとする。
続いて時間判定を行なって、所定時間未満であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返し、所定時間以上であれば、無害化処理行程に移行する。
ここでは、滅菌ガス濃度の代表として、オゾンガス濃度を測定しているが、過酸化水素ガス濃度を測定することも可能である。
【0054】
無害化処理行程では、オゾン発生器及び過酸化水素発生器をオフ、赤外線照射をオフ、排気ファンをオンとした後、オゾン濃度の測定を行なう。オゾン濃度が許容濃度以上であれば、1秒を待ってオゾン濃度の測定を繰り返す。オゾン濃度が許容濃度未満であれば、排気ファン及び内気循環ファンをオフとして、滅菌処理を終了する。
【0055】
上記第2のアイソレータにおいては、滅菌行程にてオゾン発生器(5)及び過酸化水素発生器(2)が同時に動作して、滅菌ガスとしてのオゾン及び過酸化水素がバッファ室(13)に供給され、オゾンと過酸化水素が混合されることになる。
ここで、オゾンと過酸化水素の混合ガスに対して7.5〜10μmの波長を有する赤外線が照射されることにより、オゾン及び過酸化水素の分子運動が活性化して、活性化されることになる。
【0056】
活性化されたオゾンと過酸化水素の混合ガス(滅菌物質)は、バッファ室(13)から連絡管(14)を経て無菌室(10)へ供給される。これによって、無菌室(10)内では、活性化されたオゾンと過酸化水素の混合ガスが高い滅菌性能を発揮する。
この結果、図15に示す様に、赤外線照射器を具えた従来技術と比較して、滅菌処理時間が短縮される。又、滅菌性能の向上に伴って滅菌ガスの使用量も減少するため、無害化処理時間の短縮も図られる。
【0057】
尚、赤外線照射によるオゾンと過酸化水素の活性化はバッファ室(13)で行なわれるので、無菌室(10)内の温度は35℃未満に維持され、無菌室(10)に収容されている培地等の生体由来材料が温度上昇によって変性する虞はない。
【0058】
上述の如く、本発明に係るアイソレータによれば、培地などの生体由来材料に変性を来たすことなく従来よりも短時間で無菌室内を無菌環境化することが出来、滅菌時間の短縮を図ることが出来る。
【0059】
本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば上記第1及び第2のアイソレータは、過酸化水素発生器(2)とオゾン発生器(5)の両方を具えているが、何れか一方のみを装備した構成も採用可能である。
又、第1のアイソレータにおいては、無菌室(10)の温度を35℃以下に抑える制御を行
なっているが、この上限値は35℃に限らず、生体由来材料に変性を来たす虞のない適切な温度を設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る第1のアイソレータの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る第2のアイソレータの構成を示す図である。
【図3】赤外線照射器の斜視図である。
【図4】赤外線照射器の分解斜視図である。
【図5】赤外線照射器による赤外線照射エリアを示す図である。
【図6】スイング式赤外線照射器の動作を示す図である。
【図7】オゾン発生器の構成を示す図である。
【図8】オゾン発生器の他の構成を示す図である。
【図9】過酸化水素発生器の構成を示す図である。
【図10】過酸化水素発生器の他の構成を示す図である。
【図11】第1のアイソレータにおける制御手続きを示すフローチャートである。
【図12】赤外線照射ループの制御手続きを示すフローチャートである。
【図13】第2のアイソレータにおける制御手続きを示すフローチャートである。
【図14】過酸化水素とオゾンの反応化学式を示す図である。
【図15】従来技術と本発明のアイソレータにおける滅菌処理及び無害化処理を比較したタイムチャートである。
【図16】従来のアイソレータの構成を示す図である。
【図17】従来の滅菌処理及び無害化処理のタイムチャートである。
【図18】無菌作業台における扉の開閉を表わす断面図である。
【符号の説明】
【0061】
(1) キャビネット
(10) 無菌室
(11) 吸気口
(12) 排気口
(13) バッファ室
(14) 連絡管
(2) 過酸化水素発生器
(3) HEPAフィルター
(4) オゾン・過酸化水素除去フィルター
(5) オゾン発生器
(60) オゾン供給管
(6) 赤外線照射器
(7) 制御装置
(9) センサーユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無菌室と、無菌室に連通するバッファ室と、バッファ室に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部と、バッファ室内の滅菌物質を活性化させる滅菌物質活性化部とを具え、
前記滅菌物質活性化部は、波長が7.5〜10.0μmの赤外線を出射する赤外線照射部を具え、赤外線の照射によって滅菌物質を活性化し、バッファ室内で活性化した滅菌物質を無菌室に供給するものである無菌環境維持装置。
【請求項2】
無菌室には、吸気口と排気口が設けられると共に、吸気口及び排気口を塞ぐ様に微粒子捕集フィルターが設置されている請求項1に記載の無菌環境維持装置。
【請求項3】
前記滅菌物質は、過酸化水素のガス又は微小液体粒子、あるいはオゾンのガス又は微小液体粒子、若しくは両者の混合物である請求項1又は請求項2に記載の無菌環境維持装置。
【請求項4】
無菌室における作業を可能とする作業手段を有し、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の無菌環境維持装置を具えた無菌作業台。
【請求項1】
無菌室と、無菌室に連通するバッファ室と、バッファ室に滅菌物質を供給する滅菌物質供給部と、バッファ室内の滅菌物質を活性化させる滅菌物質活性化部とを具え、
前記滅菌物質活性化部は、波長が7.5〜10.0μmの赤外線を出射する赤外線照射部を具え、赤外線の照射によって滅菌物質を活性化し、バッファ室内で活性化した滅菌物質を無菌室に供給するものである無菌環境維持装置。
【請求項2】
無菌室には、吸気口と排気口が設けられると共に、吸気口及び排気口を塞ぐ様に微粒子捕集フィルターが設置されている請求項1に記載の無菌環境維持装置。
【請求項3】
前記滅菌物質は、過酸化水素のガス又は微小液体粒子、あるいはオゾンのガス又は微小液体粒子、若しくは両者の混合物である請求項1又は請求項2に記載の無菌環境維持装置。
【請求項4】
無菌室における作業を可能とする作業手段を有し、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の無菌環境維持装置を具えた無菌作業台。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−91003(P2012−91003A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−279494(P2011−279494)
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2007−306704(P2007−306704)の分割
【原出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【分割の表示】特願2007−306704(P2007−306704)の分割
【原出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
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