説明

無菌納豆

【課題】 発酵食品の食品素材として納豆菌の生存する納豆を使用する場合、工場内に納豆菌による雑菌汚染が起こる。一方、納豆を殺菌すると納豆の品質が低下して食材として利用できない。
そこで、保存性が高い上に品質の低下もなく、食品産業において雑菌汚染に按ずることのない納豆関連の無菌発酵食品の食品素材としての無菌納豆を提供する。
【解決手段】 乾燥納豆に、発酵菌である納豆菌の生存栄養細胞やその胞子が残存しない殺菌を施すことによってその目的を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は納豆に関するもので、詳しくは納豆の栄養細胞や胞子が残存しない無菌納豆に
かかわる。
【背景技術】
【0002】
納豆菌は枯草菌(Bacillus subtilis)の変異株に分類され、グラム染色では陽性を示し酸素要求性は通性嫌気性であり、かつ耐熱性の芽胞を形成する。人の体内に摂取されると以下に示す生理作用を発揮するとされている。
【0003】
1.腸内において悪玉菌の増殖を抑制すると共に、発ガン促進物質(インドール、アミンなど)といった有害物質の生成を減少させる。この結果、有害物質の解毒を行う肝臓の負担が軽減される。また、脳や内臓などの生体内組織の老化防止やさまざまの病気の原因が予防される。
2.有機酸を生成し、腸を刺激して腸のぜん動運動を活発にさせる。この結果、有害物質の排泄が促進される。
3.納豆菌は血栓溶解酵素ナットウキナーゼを生産する。このナットウキナーゼにより血栓が溶解するため、心臓病や脳卒中などの病気が予防される。
【0004】
我が国の伝統的な発酵食品の一つである納豆は、上記の生理作用を持つ納豆菌を煮豆に接種し発酵させて製造される。このため、納豆は発ガン抑制作用や抗酸化作用を有するイソフラボンや骨粗しょう症に有効なビタミンK2、及び血栓溶解作用を有し動脈硬化などに有効なナットウキナーゼといった有用成分をもっている。そのため、近年納豆は健康食品として注目を集め、食品産業では納豆や納豆関連の食品を食材として用いる動きが広まっている。この具体例に抗菌納豆といった機能性食品を挙げることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら納豆は清酒や醤油と違って製造後も発酵菌である納豆菌が生存しているから、食品産業において納豆を殺菌せずに食材として使用した場合、工場内で納豆菌による雑菌汚染が起きる。その一方で納豆を殺菌すると、殺菌後の納豆は品質が落ちてしまうので食材として利用することができない。このため、現状では食品産業において納豆を食材として利用することは困難な状況にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、納豆関連の食材である乾燥納豆に、減圧湿熱殺菌やガス湿熱殺菌などの殺菌処理を行うことで、品質を落とすことなく無菌発酵食品の食品素材として利用できる無菌納豆の完成に至ったものである。
すなわち、本発明の請求項1に記載した無菌納豆は、乾燥納豆がその納豆菌の栄養細胞及び胞子が残存しない状態に殺菌されて成る。
請求項2に記載した無菌納豆は、請求項1に記載した無菌納豆において、乾燥納豆が胞子形成率の低い納豆菌による低温発酵により製造された納豆を乾燥したものから成る。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発酵菌の生存栄養細胞やその胞子が残存しないため保存性が高くなるとともに、新たな食品素材として食品産業界に広く用いられることが期待される。また、胞子形成率の低い納豆菌を利用することにより、真空湿熱殺菌の条件を通常のものより緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における乾燥納豆の殺菌処理は、加熱手段として湿熱殺菌、真空湿熱殺菌、ガス湿熱殺菌、真空加熱殺菌機による殺菌が挙げられ、製造原料の乾燥納豆には胞子形成率の低い納豆菌により製造されたものも挙げられる。
【実施例】
【0009】
実施例における乾燥納豆は、オゾン水に生納豆を所要時間浸漬して撹拌した後、80℃
で1時間乾燥させて得たもののほか、生納豆を180℃の食用油に1分間油揚げし乾燥して得たものが用いられた。以下の殺菌処理も含んで本発明はこれら実施例に限定されるものでない。
【0010】
(1)湿熱殺菌
乾燥納豆を用いてオートクレーブによる湿熱殺菌を行った。実験の際105℃から121℃、1分から20分の温度帯・時間帯で殺菌を行った。殺菌した乾燥納豆について残存胞子数の測定を行った。表1に示すとおり胞子は105℃、20分以降の条件では残存しなかった。105℃、20分の条件で殺菌した無菌納豆を出願人の研究所の官能専門スタッフ全員で試食した結果、非殺菌のものに比べて焦げ臭が出ており苦味も残った。このことから(1)の条件で乾燥納豆を殺菌した場合、無菌納豆の品質は落ちることがわかった。
【0011】
【表1】

【0012】
(2)真空湿熱殺菌
実験手法は上記(1)に準じて、乾燥納豆を空気を排除して殺菌した。殺菌後、残存胞子数の測定を行った。表2に示すとおり殺菌時間は(1)よりも10分以上短縮され、殺菌温度も(1)に比べて同じ時間(10分)で5℃低くなった。これは通常オートクレーブで殺菌を行う場合、オートクレーブ内の蒸気による置換の後も残っている空気が真空で完全に除去されることで殺菌効率が向上することに起因するものと思われる。(2)の条件で作った無菌納豆を研究所の官能専門スタッフ全員で官能評価した結果、焦げ臭及び苦味がほとんどなかった。このことから、(2)で殺菌した無菌納豆は非殺菌のものと同等の品質を有することがわかった。
【0013】
【表2】

【0014】
(3)ガス湿熱殺菌
実験手法は(2)に準ずるが、オートクレーブ内の脱気を行った後、オートクレーブ内に炭酸ガスを充填した。殺菌後、残存胞子数の測定を行った。表3に示すとおり残存胞子数は通常の湿熱よりも約1/10減少した。これは炭酸ガスが有する殺菌力に起因するものと思われる。このことから、ガス湿熱殺菌は真空湿熱殺菌には劣るものの通常の湿熱殺菌よりは効果があることが分った。
【0015】
【表3】

【0016】
(4)真空加熱殺菌機による殺菌
(2)の真空湿熱殺菌は、上記の(1)から(3)のうちで品質の劣化が最も小さく、かつ殺菌効率が最も高いことがわかった。しかし、この殺菌処理を食品産業で用いる場合、実験室レベルで使うオートクレーブではスケールの点で不十分である。そこで、実験室レベルでの真空湿熱殺菌に最も近い日阪製作所の真空加熱殺菌機を用いて上記と同様の実験を行った。実験の結果、120℃、3分の殺菌で(2)と同等の効果が得られた。
【0017】
(5)胞子形成率の低い納豆菌の利用
品質を落とすことなく無菌納豆を製造する手段としては、上記の加熱殺菌の他に耐熱性を有する胞子の形成率が低い納豆菌を納豆の製造に用いることが挙げられる。このため、胞子形成率の低い市販の納豆菌を購入しこれを用いて低温発酵により納豆菌の胞子数を抑えた納豆をつくった。この納豆を乾燥納豆の製造に利用することで、通常よりも胞子の少ない乾燥納豆を製造できる。この乾燥納豆に対し、(2)と同様の実験を行った。表4に示すとおり(2)よりも殺菌時間を5分短縮できることがわかった。無菌納豆の官能試験も(2)に準じた形で行った結果、焦げ臭及び苦味がほとんどなかった。このことから、(5)で殺菌した無菌納豆は非殺菌のものと同等の品質を有することがわかった。
【0018】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の無菌納豆は、発酵菌である納豆菌の生存栄養細胞やその胞子が残存しないため保存性が高い上、殺菌後の品質も低下しないことから、食品産業界で各種の無菌発酵食品の食品素材として広く利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥納豆が殺菌処理され納豆菌の栄養細胞及び胞子が残存しないことを特徴とした無菌納豆。
【請求項2】
乾燥納豆が、胞子形成率の低い納豆菌による低温発酵により製造された納豆を乾燥したものから成る請求項1記載の無菌納豆。

【公開番号】特開2006−6117(P2006−6117A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183608(P2004−183608)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(391037917)株式会社ヤマダフーズ (6)
【Fターム(参考)】