説明

焼き菓子及びこれを用いた複合菓子

【課題】水分含有量が10〜15重量%の範囲における水分活性が0.60未満であり、風味に優れ、しっとりとしたソフトな食感の1年規模での長期流通が可能な焼き菓子、該焼き菓子と水分活性が0.60未満の食品とを組合せた長期流通が可能な複合菓子を提供すること。
【解決手段】二糖類以下の糖質を25〜45重量%、穀類粉末及び/又は澱粉を5〜25重量%、水分を10〜15重量%含有し、二糖類以下の糖質としてグリセリンを1〜7重量%含有することで、風味に優れ、しっとりとしたソフトな食感の1年規模の長期流通が可能な焼き菓子を得ることができる。該焼き菓子と水分活性が0.60未満の食品とを組合せることで、食感に多様性を持たせ、より食感が向上した長期流通が可能な複合菓子を得ることができる。食品として生チョコレート様組成物を用いることによって、高級感のあるこれまでにない食感の長期流通が可能な複合菓子を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味及び食感に優れた1年規模の長期流通が可能な高水分の焼き菓子、及び前記焼き菓子と長期保存が可能な食品とを混合した複合菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フィナンシェやロールケーキ生地のような比較的水分を多く含有する焼き菓子が人気となっている。これらに類似した食感の流通商品としては、センターにクリームを入れた「エンゼルパイ」(登録商標、森永製菓株式会社)、「チョコパイ」(株式会社ロッテ製)等が挙げられ、昔から非常に人気が高い。また洋生菓子としてはフォンダンショコラやパウンドケーキ等が挙げられ、高級菓子として非常に人気がある。しかし、前記焼き菓子はいずれも水分が高いため日持ちがせず、長くても3ヶ月程度である。
【0003】
保存期間の指標として近年注目されているのが水分活性である。食品中の水分は自由水と結合水に分類され、自由水が菌やカビ等の増殖に密接に関与しており、自由水の量を示す値が水分活性である。水分活性を0.70未満に抑えれば、一般細菌、食中毒菌、酵母菌、カビ、好塩性細菌の増殖を防止することは可能であるが、耐乾性カビや耐浸透圧性酵母、Aspergills ecbinulatus、Monascus bisporusといった種類のカビの増殖を防止するためには、水分活性を0.60未満に抑える必要がある(非特許文献1)。また、一般的な食品の水分含有量と水分活性の関係は図1のように表される(非特許文献2)。図1によると、水分含有量が高くなるほど水分活性は大きくなる関係にあり、水分含有量が高い食品ほど長期的に保存させることが困難であることは明確である。そのため水分含有量が高い人気のある菓子類を長期的に流通させることが出来れば、菓子市場の更なる拡大につながる。
【0004】
焼き菓子においてもこれまでに長期保存を目的として水分活性を下げる提案が幾つかなされてきた。例えば、ゲル化剤と乳蛋白質と水とで構成される複合体を焼き菓子類生地に混練し、該生地を焼成することにより水分含有量が9.3〜15重量%条件下における水分活性を0.60〜0.75にしたものや(特許文献1)、卵を乾燥卵換算で重量比5%以上30%以下の範囲で配合したコーンを用い、ケーキと組合せ焼成後の水分活性が0.80以下である組合せ菓子があるが(特許文献2)、いずれも水分活性0.60未満には至っていない。また、小麦粉100重量%に対し10〜50重量%の糖アルコール類と10〜30重量%の澱粉糖類を併用した生地を焼成したロールケーキが提案されており、実施例において保存期間は6ヶ月以上と記載されているが、具体的な水分活性値は記載されていない(特許文献3)。更には、水分活性0.5〜0.9であって、乾燥固形分の粗蛋白含量が15〜95重量%のパフを含むクリスピーな食感のソフトな焼き菓子が提案されているが、これはパフを含む焼き菓子全体の水分活性であり、また、パフを除いた焼き菓子のみでの水分活性は実施例において水分13重量%条件下で0.70と記載されている(特許文献4)。
【0005】
水分活性が0.60以下の焼き菓子として、膨張剤及び酵母から選ばれる1種又は2種、穀類粉末、小麦グルテン、グリセリン、糖類、及び油脂成分を原料として使用した焼き菓子があり、実施例1〜7はいずれも水分活性が0.60以下であることが記載されているが、実施例の配合に基づいて作製した場合、水分値が非常に低くなる(特許文献5)。
【0006】
また、特許文献5に記載の焼き菓子で使用されているグリセリンは、水と自由な割合で混和可能な液体で、沸点が290℃と高く、体温で蒸発しないこと、保水力が高いことから、保湿剤として化粧品に用いられることが多い。あるいは、食品にも利用されており、カステラ、イカの燻製、豚まんの皮等のしっとりした食感や柔らかさを持続させる目的で使用されることもある。
【0007】
その他のグリセリンを用いた焼き菓子として、穀物粉100部に対し、1.0〜7.0重量%のグリセリンを含有した焼き菓子(特許文献6)や、加糖乾燥粒状食品を含有する焼き菓子で、焼き菓子製造用生地と前記粒状食品の双方にグリセリンを含む保湿性糖類を配合した焼き菓子が提案されているが(特許文献7)、いずれも水分含有量が10%未満と低水分である。
【0008】
このように、高水分の焼き菓子を日持ちさせる提案は数多くなされてきたが、1年規模での長期流通を成功させるものについては未だ至っておらず、それに伴い1年規模での長期流通が可能な高水分の焼き菓子を用いた複合菓子も知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−081516号公報
【特許文献2】特許第3113976号公報
【特許文献3】特開昭58−162232号公報
【特許文献4】特開2009−027956号公報
【特許文献5】特開2009−148253号公報
【特許文献6】特開2010−104259号公報
【特許文献7】特開平04−144633号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】食品包装便覧、社団法人日本包装技術協会 P228, 229(1988)
【非特許文献2】久保田昌治、他2名、「光琳選書6 食品と水」、株式会社光琳、2008年9月、p.6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、水分含有量が10〜15重量%の範囲における水分活性が0.60未満であり、風味に優れ、しっとりとしたソフトな食感を有し、且つ1年規模での長期流通を行った場合でも風味及び食感を良好に維持することができる焼き菓子、及び該焼き菓子と水分活性0.60未満の食品とを組み合わせた1年規模での長期流通が可能な複合菓子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに二糖類以下の糖質、穀類粉末及び/又は澱粉の量に着目し、更に前記二糖類以下の糖質としてグリセリンを使用してその量を調整することによって、得られる焼き菓子の水分値が10〜15重量%という高含水の範囲でありながら水分活性が0.60未満に抑えられ、風味に優れ、且つしっとりとしたソフトな食感を有することを発見し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、二糖類以下の糖質を25〜45重量%、穀類粉末及び/又は5〜25重量%含有し、前記二糖類以下の糖質としてグリセリンを1〜7重量%含有することを特徴とする水分値が10〜15重量%の焼き菓子に関する。
【0014】
また、本発明は、前記焼き菓子と水分活性が0.60未満の食品とを組み合わせた複合菓子に関する。
【0015】
また、本出願人はこれまでに、1年規模の長期保存が可能な水分活性0.60未満の生チョコレートの様な食感と優れた風味を有する、生チョコレート様組成物とその製造方法を見出している(特願2010−043350号)。したがって、本発明は、前記水分活性が0.60未満の食品が、二糖類以下の糖質を40〜70重量%、ハードバターを5〜25重量%、及び水分を8〜18重量%含有し、前記二糖類以下の糖質として、直鎖状多価アルコールを5〜25重量%含有する生チョコレート様組成物である複合菓子に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、風味に優れたしっとりとしたソフトな食感を有し、常温、常湿条件下で1年規模での長期流通を行っても風味及び食感が維持できる焼き菓子、及び前記焼き菓子を用いた1年規模での長期流通が可能な複合菓子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、一般的な食品の水分含有量と水分活性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によって得られる焼き菓子は、二糖類以下の糖質を25〜45重量%、穀類粉末及び/又は5〜25重量%、水分を10〜15重量%含有し、前記二糖類以下の糖質としてグリセリンを1〜7重量%含有することが特徴である。
【0019】
本発明に使用できる糖質としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等の二糖類、異性化糖、オリゴ糖等、これらの糖類を主成分として含有する砂糖、水飴類等のニ糖類以下の糖類が挙げられる。また、前記糖質としては、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、マンニトール、グリセリン等の糖アルコール等も挙げられる。本発明の焼き菓子では、前記糖質のうち二糖類以下の糖質の含有量が25〜45重量%であり、かつ前記二糖類以下の糖質としてグリセリンの含有量が1〜7重量%であることが大きな特徴の一つである。二糖類以下の糖質の含有量が25重量%未満では、得られる焼き菓子の水分活性が高くなり1年規模での長期流通が困難になる。一方、二糖類以下の糖質の含有量が45重量%を越えると、得られる焼き菓子の水分活性は低いものの非常に甘くなり風味として好ましくない他、食感がソフトではなくなる傾向にある。また、グリセリンも同様に含有量が1重量%未満では、得られる焼き菓子の水分活性が高くなり、含有量が7重量%を超えると、得られる焼き菓子の風味が好ましくない他、食感が生っぽくなる。また、グリセリンの代わりに水分活性を下げる効果のある糖アルコールを使用すると、しっとりとした食感は得られない。
【0020】
二糖類以下の糖質及びグリセリンの適切な含有量の範囲は水分含有量によって異なが、水分活性、風味等を考慮すると、二糖類以下の糖質は30〜40重量%の範囲が好ましい。また、前記二糖類以下の糖質として使用するグリセリンは3〜5重量%の範囲が好ましい。
【0021】
本発明の焼き菓子には、前記二糖類以下の糖質に加えて、食品に添加できる三糖類、四糖類、オリゴ糖、多糖類等の糖類も含有することができる。これらの食品に添加できる糖類の含有量としては、焼き菓子の風味、食感に悪影響を与えなければよく、特に限定はない。
【0022】
また、本発明の焼き菓子に使用する穀類粉末は、小麦粉、ライ麦粉、そば粉、米粉、コーンフラワー、あわ粉、きび粉、はと麦粉、ひえ粉等が挙げられる。澱粉としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉等の地下澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉、うるち米澱粉、もち米澱粉等の地上澱粉、架橋澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の加工澱粉が挙げられる。前記穀類粉末及び/又は澱粉のうち、これらの1種又は2種以上を混合して使用することができる。本発明の焼き菓子中の穀類及び/又は澱粉の含有量は合計量で5〜25重量%である。穀類粉末及び/又は澱粉の含有量のより好ましい範囲は7〜20重量%であり、12〜17重量%がより好ましい。
【0023】
また、本発明の焼き菓子の水分含有量は10〜15重量%である。水分含有量が15重量%を超えると、得られる焼き菓子の水分活性が高くなるため長期的な日持ちがしない。一方、水分含有量が10重量%未満ではソフトな食感が得られない。より好ましい水分含有量の範囲は12〜14重量%である。
【0024】
更に、本発明の焼き菓子では、必要により、油脂、チョコレート原料、乳化剤、乳製品、卵、安定剤、膨張剤、呈味成分、保存料、塩、酸味料、抗菌剤、着色料、フレーバー、酸化防止剤等の任意成分を加えることができる。
【0025】
油脂としては、バター、マーガリン、ショートニング、ラード、コーン油、オリーブ油、綿実油、ナタネ油、大豆油、ヤシ油、ゴマ油、ヒマワリ油、ベニバナ油等の各種植物性及び動物性の油脂、ココアバター、ココアバター代替油等が挙げられる。ココアバター代用脂とは、チョコレートの物性改良や製造コストの節約を目的として、ココアバターの一部又は全部に代えて用いられるもので、主にCBEと称される1、3位飽和、2位不飽和のトリグリセリド型油脂に富むものと、CBRと称されるラウリン系もしくは高エライジン酸タイプのものがある。ココアバター代用脂の油脂原料としては、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サンフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂及び乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂を例示することができ、上記油脂類若しくは2種以上の混合した油、又はそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂を用いることができる。
【0026】
チョコレート原料としては、スイートチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート等、カカオマス及び/又はココアと砂糖等の糖質、粉乳、油脂等を使用し、これらを常法通りロール掛けし、所望によりコンチングしたチョコレート生地であればよく、例えばカカオマス若しくはカカオパウダーを使用した通常のダークチョコレート類、あるいは乳固形分(粉乳)や糖質(粉糖)を主成分として使用したホワイトチョコレート等の他にアーモンドペーストやヘーゼルナッツペースト等のナッツペースト等が例示できる。また、前記チョコレート原料に二糖類以下の糖質を含む場合、二糖類以下の糖質が規定の範囲の含有量になるように調整すればよい。
【0027】
乳化剤としては、モノグリセリド、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びレシチン等を必要により用いることができる。乳化剤は焼き菓子中に0.01重量%以上で風味に影響を与えない範囲内で使用するのが好ましい。
【0028】
乳製品としては、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、生クリーム、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、サワークリーム、発酵乳等が挙げられ、含有量は目的の風味によって調整すればよい。また、卵としては、全卵、卵黄、卵白、酵素処理卵等を用いることができる。これらを加えることによって、得られる焼き菓子の水分活性が減少することはないが、風味及び食感の向上を目的に使用するのが好ましい。
【0029】
膨張剤としては、食感を軽くすることを目的として、重曹や炭酸アンモニウム、ベーキングパウダー等が挙げられ、焼き菓子中に0.01重量%以上で風味に影響を与えない範囲内で使用するのが好ましい。
【0030】
呈味成分としては、ピーナッツ、アーモンド、マカダミアナッツ、カシューナッツ、栗等の種実類、小豆、えんどう豆、大豆等の豆類、エビ、カニ、鮭、ホタテ、タラコ等の魚介類、ソーセージ、ハム、ベーコン、ミンチ肉等の豆類、ニンジン、トマト、オニオン等の野菜類、イチゴ、オレンジ、レーズン、リンゴ、キウイ等の果実類、しいたけ、マッシュルーム等のきのこ類、海苔、昆布、わかめ等の藻類等の各種固形原料の他、果汁、ジャム、野菜ジュース、ワイン、醤油、ソース、洋酒等の液体原料、及び果汁パウダー、カカオパウダー、コーヒーパウダー、アーモンドプードル、カレー粉、胡椒、シナモン等の粉末原料が挙げられる。呈味成分を使用する場合は焼き菓子中に、呈味成分を好ましくは0.1〜25重量%、さらに好ましくは1〜20重量%添加する。但し、前記呈味成分に二糖類以下の糖質が含有される場合には、前記二糖類以下の糖質の含有量としてカウントするため、最終的な含有量が規定範囲内になるように、二糖類以下の糖質及び呈味成分の量を調整する必要がある。
【0031】
塩、酸味料としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等が挙げられる。風味の調整のために塩、酸味料を添加する場合、本発明の焼き菓子中に3重量%以下が好ましい。また、塩は水分活性を下げる効果があるのは既知であるが、前記添加量の範囲では大きな効果は期待できず、酸味料はpHを低くすることによって抗菌性を向上することはできる。但し、pHを低くしすぎることは風味の点であまり好ましくない。本発明の焼き菓子のpHは5.5〜7.5の範囲が好ましい。
【0032】
抗菌剤としては、甘草抽出物、緑茶抽出物、ササエキス、タンニン、リゾチーム等が挙げられ、生チョコレート様組成物中に0.01〜0.5重量%程度で風味に影響が生じない範囲で使用するのが好ましい。
【0033】
本発明の焼き菓子は、当該分野で公知の方法に従って製造される。例えば、先ず、穀類粉末及び/又は澱粉を含む粉末原料と、バターやショートニング、チョコレート等の油脂原料とを混合した混合生地を作製し、次に、グリセリンの他に牛乳や生クリームや水飴等を混ぜた液体原料を前記混合生地に添加し、攪拌して焼成用生地を得る方法や、原料の混合順序に特に制限はなく全原料を一度に混合して焼成用生地を得る、いわゆるオールインミックス法でも良く、原料が実質的に均一に混合されるのであれば、どのような混合方法を用いても良い。但し、本発明では、前記焼成用生地の水分値は、18〜22重量%に調整することが好ましい。本発明の焼き菓子のように焼成前の生地の水分値が比較的高い場合、穀類粉末や澱粉等がダマになるのを防ぐために前者の方法で行う方が好ましい。
【0034】
このようにして得られた焼成用生地を任意の焼き型に充填する。型に充填した焼成用生地は、当該分野で公知の任意の焼成条件及び任意の方法で焼成される。焼成のためには、例えば、固定オーブン、連続オーブン、ダイレクトオーブン、熱風循環オーブン等いずれも使用可能である。焼成時間は、型の材質、形状、サイズによって異なるが、通常120〜300℃の範囲において3〜60分間である。
【0035】
また、本発明は、前記焼き菓子と水分活性が0.60未満の食品と組み合わせることによって、食感に多様性を持たせ、食感を向上させた常温、常湿条件化で1年規模の長期流通が可能な複合菓子とすることができる。
【0036】
前記食品としては、キャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ等の糖菓、水分を殆ど含有しないチョコレート等の油脂性食品、その他揚げ菓子、クッキー、ビスケット等の低水分焼き菓子等常温、常湿条件下で1年規模の長期保存が可能な食品が挙げられる。
【0037】
複合菓子中における前記食品の含有量は、特に制限されないが、本発明の焼き菓子のしっとりとしたソフトな食感を損ねない範囲である1〜50重量%が好ましい。
【0038】
中でも、本発明は、前記水分活性0.60未満の食品として、二糖類以下の糖質を40〜70重量%、ハードバターを5〜25重量%、及び水分を8〜18重量%含有し、前記二糖類以下の糖質として、直鎖状多価アルコールを5〜25重量%含有する生チョコレート様組成物を使用することによって、これまでにない高級感のある食感の長期流通が可能な複合菓子を提供できることを特徴とする。
【0039】
前記生チョコレート様組成物に含まれる二糖類以下の糖質は、本発明の焼き菓子と同様に、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等の二糖類、異性化糖、オリゴ糖、これらの二糖類以下の糖類を主成分として含有する砂糖、水飴類等、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、マンニトール、グリセリン等の糖アルコール等が挙げられる。前記生チョコレート様組成物中の二糖類以下の糖質の含有量は40〜70重量%であり、前記二糖類以下の糖質として直鎖状多価アルコールの含有量が5〜25重量%であることが大きな特徴の一つである。前記直鎖状多価アルコールとは、環状構造をとらず、且つ水酸基を2つ以上持つ糖アルコールのことを示し、例としてソルビトール、キシリトール、マンニトール、グリセリン、エリスリトール等が挙げられる。二糖類以下の糖質の含有量が40重量%未満では、得られる生チョコレート様組成物の水分活性が高くなり1年規模での長期流通が困難になる。一方、二糖類以下の糖質の含有量が70重量%を越えると、得られる生チョコレート様組成物の水分活性は十分に低いものの非常に甘くなり風味として好ましくない。直鎖状多価アルコールの含有量も同様な理由が当てはまる。
【0040】
なお、前記直鎖状多価アルコールは、風味や物性的な問題、及び製造コストの面からソルビトールであることが好ましい態様である。風味の点では前記直鎖状多価アルコールがキシリトールであることもまた好ましい態様であり、ソルビトールと併用することによって結晶化等の物性的な問題の解消や製造コストを削減することができ、キシリトール単独で用いるよりも好ましい。マンニトール、エリスリトール、グリセリン等のその他の直鎖状多価アルコールは単独で用いる場合、風味が悪かったり、結晶化が起こったりする等の物性的な問題があるが、ソルビトール及び/又はキシリトールと併用することによってこれらの問題は解消できる。なお、風味及び物性に影響が出ない範囲であれば、ソルビトールとキシリトール以外の直鎖状多価アルコールのうち、単独及びそれらの混合物としてのみで使用しても構わない。
【0041】
また、ハードバターとは、ココアバターとココアバター代用脂の総称を示し、その含有量は生チョコレート様組成物中において5〜25重量%である。ハードバターの含有量が5重量%未満では、液状の物性に近くなり生チョコレートの様な食感が得られず、一方、ハードバターの含有量が25重量%を超えると、食感が固くなり同じく生チョコレートのような食感が得られない。また、前記ハードバターの含有量は8〜22重量%の範囲が好ましい。ココアバター代用脂とは、チョコレートの物性改良や製造コストの節約を目的として、ココアバターの一部又は全部に代えて用いられるもので、主にCBEと称される1、3位飽和、2位不飽和のトリグリセリド型油脂に富むものと、CBRと称されるラウリン系もしくは高エライジン酸タイプのものがある。ココアバター代用脂の油脂原料としては、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サンフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂及び乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂を例示することができ、上記油脂類若しくは2種以上の混合した油、又はそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂を用いることができる。
【0042】
また、前記生チョコレート様組成物の水分含有量は8〜18重量%である。水分含有量が18重量%を超えると、得られる生チョコレート様組成物の水分活性が高くなるため長期的な日持ちがせず、また流動性が高くなり生チョコレートの様な食感が得られなくなる。一方、水分含有量が8重量%未満では水中油型の乳化が困難である。より好ましい水分含有量の範囲は11〜15重量%である。
【0043】
前記複合菓子は、前記焼き菓子と前記生チョコレート様組成物等の水分活性が0.60未満である食品とを、公知の方法に基づいて組み合わせることで作製することができる。
前記食品がキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ等の糖菓、油脂性食品又は生チョコレート様組成物等の高温条件下で保型性を持たない食品であれば、糖菓生地、油脂性食品又は生チョコレート様組成物の作製中に、予め作製した前記焼き菓子を添加してもよいし、糖菓生地、油脂性食品又は生チョコレート様組成物を、所望の形をした焼き菓子の表面上の凹部又は焼き菓子の内部の空間に充填したり、焼き菓子の表面上に張り合わせてから固化してもよい。
前記食品が低水分焼き菓子のように温度条件に関わらず保型性を持つ食品であれば、低水分焼き菓子の焼成前の生地と、前記焼き菓子の焼成前の生地とを所望の形に組み合わせてから一緒に焼成したり、予め焼成した低水分焼き菓子を前記焼き菓子の焼成前の生地中に組み合わせてから焼成したりすることができる。また、前記複合菓子は、チョコレート生地及び/又はココアパウダーや粉糖等の可食性粉末でコーティングすることもできる。特にチョコレートでコーティングすることは、生地の吸湿を防ぐ効果があるため非常に好ましい態様である。
【0044】
以上のようにして得られる複合菓子は、常温、常湿条件下で1年規模の長期保存が可能であり、本発明の焼き菓子に由来する新規な食感と味を備えた新しい菓子である。
【実施例】
【0045】
次に実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。なお、実施例中の数字は重量部、「%」は重量%を意味する。また、水分活性の測定にはnovasina社の水分活性恒温測定装置「LabMASTER−aw BASIC」(商品名)を用いた。
【0046】
(実施例1〜8の作製)
表1に示す配合に従い焼成前の生地を作製し、この生地を150℃、25分間オーブンで焼成することにより本発明の実施例1〜8の焼き菓子を得た。なお、前記焼成前の生地は、先ず、穀類粉末及び/又は澱粉を含む粉末原料とバターやショートニング、チョコレート等の油脂原料とを混合した混合生地を作製した後に、グリセリンの他に牛乳や生クリームや水飴等を混ぜた液体原料を加え、前記混合生地に添加し、攪拌することによって得た。また、焼成前の生地に含まれるチョコレートは二糖類以下の糖質の含有量が35重量%のものを用いた。
【0047】
【表1】

【0048】
また、得られた実施例1〜8の焼き菓子の各成分の含有量及び水分活性、風味、食感の結果を表2に示した。風味及び食感は30人のパネラーの試食結果に基づき評価し、30人中25人以上が良いと判断したものを「◎」、15人以上が良いと判断したものを「○」、15人未満しか良いと判断しなかったものを「×」とした。
【0049】
【表2】

【0050】
(比較例1〜8の作製)
次に表3に記載の配合となるようにした以外は、実施例1〜8と同様の方法で比較例1〜8の焼き菓子を得た。また、得られた比較例1〜8の焼き菓子の各成分の含有量、水分活性、風味及び食感の結果を表4に示した。
【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
表2の結果から、実施例1〜8の焼き菓子は、いずれも水分活性が0.60未満であり、風味及び食感の良好なものであった。また、実施例1〜8の焼き菓子を37℃、湿度85%条件下に置き、加速虐待試験を行ったところ、常温、常湿条件に換算して約1年後の場合でも、いずれも風味及び食感の劣化、カビの発生等は確認されなかった。
【0054】
表4の結果から、比較例1では糖質の含有量が少ないため、比較例3ではグリセリンが含まれていないため、また比較例8では水分含有量が大きいために、いずれの焼き菓子も風味及び食感は非常に良いが、水分活性が高い結果となった。
比較例1、3及び8の焼き菓子を37℃、湿度85%条件下に置き、加速虐待試験を行ったが、比較例1と8は常温、常湿条件に換算して約2ヶ月で風味の劣化、約4ヶ月でカビの発生が確認された。比較例3はカビの発生は見られなかったが、常温、常湿条件に換算して約6ヶ月程度で著しい風味の劣化が確認された。
また、比較例2では糖質の含有量が多いため、比較例4ではグリセリン量が多いため、いずれの焼き菓子も風味、食感共に悪く、比較例5及び6で得られた焼き菓子は穀類粉末及び/又は澱粉の含有量が規定範囲外であり、比較例7で得られた焼き菓子は水分含有量が小さいためにいずれも食感が悪い結果となった。
【0055】
(参考例1〜6の焼き菓子の作製)
前記背景技術に記載の特許文献5の発明が本発明と異なることを確認するために、実施例に基づき参考例1〜6を作製した。配合は表5に記載した。表5に焼成前の水分値を同時に記載したが、この点から焼成後の水分値が必然的に10%未満となり本発明とは異なることがわかる。
【0056】
【表5】

【0057】
(実施例9〜18の複合菓子の作製)
次に風味と食感の結果が「○」であった実施例4に、水分活性が0.60未満の食品を混合した実施例9〜18の複合菓子を作製し、食感の向上効果を確認した。また、その結果を表6に示した。食感及び風味の評価は良いと判断したパネラーの人数を示した。尚、前記水分活性が0.60未満の食品のうち、生チョコレート様組成物以外は全て市販品を使用し、生チョコレート様組成物の配合は表7に記載した。
また、前記複合菓子は、キャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、ミックスドライフルーツ、チョコレートチップは、適度な多い差にカットし、前記や気化しと混練することによって得た。パフ、カットアーモンド、クッキー、柿の種に関しては、前記焼き菓子の焼成前の生地に予め混合し、その生地を焼成することによって得た。そして、生チョコレート様組成物は、前記焼き菓子中に充填することによって得た。
【0058】
【表6】

【0059】
ただし、表中、「キャンディ」:特濃ミルク(ユーハ味覚糖(株)製)、「ソフトキャンディ」:ミルクキャラメル(森永製菓製)、「グミキャンディ」:噛むシゲキックス(ユーハ味覚糖(株)製)、「クッキー」:オレオ(ヤマザキナビスコ製)、「チョコレートチップ」:(大東カカオ製)、「柿の種」:(亀田製菓製)を示す。
【0060】
【表7】

【0061】
表6に示す結果から、実施例9〜18の複合菓子はいずれも、実施例4の焼き菓子に比べて、食感及び風味の向上効果が確認でき、特に食感に関しては比較的低水分の食品と組合せると効果が大きかった。
中でも、実施例18の複合菓子は、水分が15%程度と高水分の食品の中ではとりわけ食感の向上効果が大きく、これを試食したパネラーから、センターである生チョコレート様組成物がトロッと出てくる、フォンダンショコラのような食感がある、洋生菓子のような感じ等、高級感を備えた菓子であることを示す感想も得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二糖類以下の糖質を25〜45重量%、穀類粉末及び/又は澱粉を5〜25重量%、水分を10〜15重量%含有し、前記二糖類以下の糖質としてグリセリンを1〜7重量%含有する水分活性が0.60未満であることを特徴とする焼き菓子。
【請求項2】
請求項1記載の焼き菓子と水分活性が0.60未満の食品とを組み合わせた複合菓子。
【請求項3】
前記食品が、二糖類以下の糖質を40〜70重量%、ハードバターを5〜25重量%、及び水分を8〜18重量%含有し、前記二糖類以下の糖質として、直鎖状多価アルコールを5〜25重量%含有する生チョコレート様組成物である請求項2記載の複合菓子。

【図1】
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