説明

焼成バインダー用重合体溶液およびその製造方法

【課題】電子材料等の形成に用いたときに、その電気特性に悪影響を及ぼさない焼成バインダー用重合体溶液を製造できる方法を提供する。
【解決手段】重合体(P)と溶剤を含み、25℃における粘度が1000mPa・s以上である、焼成バインダー用重合体溶液を製造する方法であって、単量体および重合開始剤を含む混合物を、加熱下で重合反応させて前記重合体(P)を得る重合工程を有し、前記混合物のうちの固形分に含まれる金属の総量を200ppb以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼成バインダー用重合体溶液の製造方法、および該製造方法により得られる焼成バインダー用重合体溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、導体部やセラミック成形体を製造する方法として、重合体(バインダー成分)を含む重合体溶液を焼成バインダーとして用いる方法が知られている。具体的には、金属や無機フィラーを該焼成バインダーに分散したスラリーを用いて、各種の加工方法でパターンまたは成形体を作製し、焼成してフィラーを焼結させるとともにバインダー中の重合体成分を熱分解して除去する。この方法に使用される焼成バインダーに求められる性能としては、加工時の作業性を満足する物性を有するとともに、重合体成分が良好な熱分解性を有することが必要である。
【0003】
前記パターンまたは成形体を作製するための加工方法としては、例えばスクリーン印刷による方法、スラリーをドクターブレード等によりシート状に成形する方法、ディップ法による方法等が用いられ、これらの加工方法に適したスラリーを調製するために、焼成バインダーは比較的高粘度であることが求められる。
【0004】
特許文献1には、低固形分で高粘度を発現するバインダーとして、アルキル(メタ)アクリレート60〜99.4質量%、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を2個以上有する化合物0.1〜2質量%、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート0.5〜10質量%、およびその他共重合可能な化合物(a−4)(これらの合計は100質量%)を重合して得られるアクリル系重合体が、有機溶剤中に溶解している焼成材用アクリル系バインダー組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−183331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子材料等の製造においては、使用する材料に含まれる金属不純物が、得られる電子材料等の電気特性の低下の一因となり得る。
近年、電子材料等はより高性能化され、本発明者等の知見によれば、焼成バインダーとして用いられる重合体溶液中の微量な金属不純物も、電子材料等の電気特性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0007】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、電子材料等の形成に用いたときに、その電気特性に悪影響を及ぼさない焼成バインダー用重合体溶液を製造できる、焼成バインダー用重合体溶液の製造方法、および該製造方法により得られる焼成バインダー用重合体溶液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、焼成バインダー中の金属不純物を低減する方法について種々検討したが、焼成バインダーとして用いられる重合体溶液は、粘度が比較的高いという特殊な事情があるため、一般的な重合体溶液の金属除去方法を直ちに適用することは難しい。
例えば、重合体溶液中の金属除去の一般的な方法として、ゼータ電位による吸着作用を有するフィルターで濾過する方法があるが、焼成バインダーとして用いられる重合体溶液をこの方法で濾過すると、濾過の操作性が悪くて濾過時間が長くかかり、実用的でない。
そこで、さらに鋭意研究した結果、重合体溶液を製造するための重合工程で使用される単量体含有液中の金属含有量を低減させることにより、重合工程後の処理が簡便で実用的な方法により、焼成バインダーとして用いられる重合体溶液中の金属含有量を良好に低減できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の焼成バインダー用重合体溶液の製造方法は、重合体(P)と溶剤を含み、25℃における粘度が1000mPa・s以上である、焼成バインダー用重合体溶液を製造する方法であって、単量体および重合開始剤を含む混合物を、加熱下で重合反応させて前記重合体(P)を得る重合工程を有し、前記混合物のうちの固形分に含まれる金属の総量を200ppb以下とすることを特徴とする。
【0010】
前記重合工程の後、前記焼成バインダー用重合体溶液を容器に充填する充填工程を有し、前記重合工程と前記充填工程との間に、前記焼成バインダー用重合体溶液中の金属を除去する金属除去工程を含まないことが好ましい。
本発明は、本発明の製造方法により得られる、金属含有量が100ppb以下である焼成バインダー用重合体溶液を提供する。
本発明は、熱による解重合を促進する単量体から導かれる1種以上の構成単位と、極性基を有する単量体から導かれる1種以上の構成単位とを含んでなる重合体(P’)と溶剤とを含み、25℃における粘度が1000mPa・以上であり、金属含有量が100ppb以下である焼成バインダー用重合体溶液を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法は、重合工程後に金属除去処理を行う必要が無く、高粘度でありながら、金属不純物が充分に除去された焼成バインダー用重合体溶液を、実用的な方法で製造できる。
本発明によれば、金属含有量が充分に低く、電子材料等の形成に用いたときに、その電気特性に悪影響を及ぼさない焼成バインダー用重合体溶液が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における焼成バインダー用重合体溶液は、重合体(P)と溶剤を含む。
<重合体(P)>
重合体(P)は、単量体を重合して得られる重合体であり、単量体として、少なくとも、熱による解重合を促進する単量体の1種以上と、極性基を有する単量体の1種以上を用いることが好ましく、さらに、その他の共重合可能な単量体の1種以上を用いてもよい。
すなわち重合体(P)は、熱による解重合を促進する単量体から導かれる1種以上の構成単位と、極性基を有する単量体から導かれる1種以上の構成単位とを含んでなる重合体(P’)が好ましい。
【0013】
重合体(P)は、窒素雰囲気下で焼成性が良好なことから、(メタ)アクリレート系重合体が好ましい。焼成性が良好であるとは、熱分解性が良好で、焼成後の残渣が少ないことを意味する。
本明細書において、(メタ)アクリレート系重合体とは、重合させる単量体全体の50モル%以上が、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルである重合体を意味する。また、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味し、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0014】
重合体(P)の質量平均分子量(Mw)は5,000〜500,000が好ましく、10,000〜100,000がより好ましい。該質量平均分子量が上記範囲の下限値以上であると焼成バインダー用重合体溶液において該溶液中に金属や無機フィラー等を安定に分散させるのに必要な粘度が得られ、上限値以下であると重合体(P)の溶剤への溶解性に優れる。
本明細書における質量平均分子量(Mw)は、分子量既知の標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定することによって得られるポリスチレン換算分子量である。
【0015】
<溶剤>
焼成バインダー用重合体溶液に含まれる溶剤は公知のものを用いることができる。例えば、下記の溶剤が挙げられる。
エーテル類:鎖状エーテル(例えばジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、「TGME」と記すこともある。)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ターピネオール等)、環状エーテル(例えばテトラヒドロフラン(以下、「THF」と記すこともある。)、1,4−ジオキサン等。)等。
エステル類:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等。
ケトン類:アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等。
アミド類:N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等。
スルホキシド類:ジメチルスルホキシド等。
芳香族炭化水素:ベンゼン、トルエン、キシレン等。
脂肪族炭化水素:ヘキサン等。
脂環式炭化水素:シクロヘキサン等。
溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
使用時の揮発を防止するため、沸点が100℃以上の溶剤が好ましい。
【0016】
本発明における焼成バインダー用重合体溶液の、25℃における粘度は1000mPa・s以上である。1000mPa・s以上であると、該焼成バインダー用重合体溶液に、金属や無機フィラー等を分散させたスラリーを用いてパターンや成形体を形成する際に、良好な操作性が得られやすい。好ましくは2000mPa・s以上であり、4000mPa・s以上がより好ましい。
該粘度の上限値は、特に限定されないが、充填や移液時の操作性の点からは100,000mPa・s以下が好ましく、50,000mPa・s以下がより好ましい。
焼成バインダー用重合体溶液の粘度は、重合体の種類によって変化し、溶剤の含有量によっても調整することができる。
本明細書における粘度の値は、測定温度25℃にて、E型粘度計により測定した値である。
【0017】
<単量体>
熱による解重合を促進する単量体としては、炭素数1〜8のアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、具体的な例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは2種以上を併用することができる。
これらのうち、イソブチルメタクリレート(実施例の(m−1)、(n−1))、メチルメタクリレート、ノルマルブチルメタクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
重合させる単量体全体のうち、熱による解重合を促進する単量体が占める割合は10〜95質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。
【0018】
極性基を有する単量体における極性基は、極性を持つ官能基または極性を持つ原子団を有する基であり、具体例としては、ヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基等が挙げられる。これらのうち、腐食性や焼成時の残渣が少ない点でヒドロキシ基、カルボキシル基が好ましい。
極性基を有する単量体としては、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸が好ましい。これらは2種以上を併用することができる。
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートの具体的な例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のモノヒドロキシ含有(メタ)アクリレート;1,2−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,2−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,2−ジヒドロキシ 5−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、1,2,3−トリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,2,3−トリヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,1−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,1−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1,2−トリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,1,2−トリヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の、1分子中にヒドロキシ基を2個以上含有する(メタ)アクリレートが挙げられる。これらのうちで、炭素数2〜8のアルキル基にヒドロキシル基を1個以上含有する(メタ)アクリレートが好ましい。
極性基を有する単量体として、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート(実施例の(m−2)、(n−2))、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシフェニルメタクリレート、メタクリル酸等が好ましい。
重合させる単量体全体のうち、極性基を有する単量体が占める割合は5〜80質量%が好ましく、10〜60質量%がより好ましい。
【0019】
その他の共重合可能な単量体としては公知のものを適宜使用できる。
重合させる単量体全体のうち、その他の共重合可能な単量体の割合は0〜40質量%が好ましく、0〜20質量%がより好ましい。
【0020】
<重合開始剤>
重合開始剤は、熱により分解して効率的にラジカルを発生するものが好ましく、10時間半減期温度が重合温度以下であるものを選択して用いることが好ましい。重合開始剤は公知のものを適宜選択して使用できる。
【0021】
<重合工程>
本発明の製造方法は、単量体および重合開始剤を含む混合物を、加熱下で重合反応させて重合体(P)を得る重合工程を有する。
重合工程は、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、またはバルク重合法等の公知の重合方法で行うことができる。反応制御しやすい点で、溶液滴下重合法、乳化重合法、または懸濁重合法が好ましい。
前記加熱下で重合反応させる際の加熱温度(重合温度)は、重合体(P)が良好に得られればよく、単量体や重合開始剤の種類等に応じて適宜設定できる。例えば重合体(P)が(メタ)アクリレート系重合体である場合は50〜150℃が好ましく、60〜130℃がより好ましい。
前記単量体および重合開始剤を含む混合物には、必要に応じて溶剤を含有させることができる。該混合物が溶剤を含む場合、重合工程で使用した溶剤を、焼成バインダー用重合体溶液に含まれる溶剤の一部として用いることができる。このために、得ようとする焼成バインダー用重合体溶液中の溶剤と同じ溶剤を用いることが好ましい。
【0022】
重合工程において、加熱下での重合反応に供される前記混合物のうちの、固形分に含まれる金属の総量を200ppb以下とする。該固形分とは、溶剤以外の成分の合計を意味する。
本発明において、該金属の総量とは、Li,Na,Mg,K,Ca,Zn,Fe,Al,Cr,Mn,Ni,Cuの合計量を意味する。
前記混合物のうちの固形分に含まれる金属の総量とは、該固形分の合計重量を1としたときに、その中に含まれる金属の総量を重量分率(単位:ppb)で表したものである。
該固形分中の金属の総量が200ppb以下であると、重合工程を終えた時点で金属含有量が良好に低減された生成物が得られるため、該重合工程後に金属を除去する操作を行わなくても、電子材料等の形成に用いたときに、その電気特性に悪影響を及ぼさない焼成バインダー用重合体溶液を製造することができる。
該固形分中の金属の総量は100ppb以下がより好ましい。
【0023】
具体的には、重合工程において、単量体および重合開始剤からなる混合物、または単量体、重合開始剤、および溶剤からなる混合物を、加熱下で重合反応させて重合体(P)を得る場合は、単量体および重合開始剤に含まれる金属の総量を200ppb以下とする。
また、単量体、重合開始剤、およびその他の成分(溶剤を含まない)からなる混合物、または単量体、重合開始剤、その他の成分、および溶剤からなる混合物を、加熱下で重合反応させて重合体(P)を得る場合は、単量体と重合開始剤とその他の成分に含まれる金属の総量を200ppb以下とする。
前記その他の成分は、例えば連鎖移動剤、界面活性剤、乳化剤、重合禁止剤、等である。
【0024】
前記固形分中の金属の総量を前記の範囲とするために、重合工程に先立って、重合工程に用いる溶剤以外の成分(固形分となる成分)の一部または全部に対して、金属含有量を低減させる前処理を行ってもよい。
かかる前処理の方法としては、例えば蒸留、フィルター濾過、洗浄等が挙げられる。これらの操作を組み合わせてもよい。
例えば、液体である単量体を重合禁止剤の存在下で蒸留することにより、単量体中の金属含有量を効果的に低減させることができる。
【0025】
このようにして重合工程で得られた生成物に、必要に応じて溶剤を加えることにより、目的の焼成バインダー用重合体溶液が得られる。
例えば、重合工程で溶剤を用いた場合は、重合工程後の反応液に、所望の粘度となるように溶剤を加えて均一に混合することにより、目的の焼成バインダー用重合体溶液が得られる。
【0026】
<充填工程>
こうして得られた焼成バインダー用重合体溶液は、好ましくは容器に充填されて(充填工程)、製品となる。
本発明の製造方法によれば、重合工程を終えた時点で金属含有量が良好に低減された生成物が得られるため、重合工程と充填工程との間に、焼成バインダー用重合体溶液中の金属を除去する金属除去工程を含まなくても、高粘度でありながら金属不純物が充分に除去された焼成バインダー用重合体溶液を製造することができる。かかる金属除去工程を含まないと、重合工程後の処理が簡便である点で好ましい。
すなわち、重合工程後の処理が簡便な方法で、電子材料等の形成に用いたときに、その電気特性に悪影響を及ぼさない焼成バインダー用重合体溶液を得ることができる。
なお本発明において、焼成バインダー用重合体溶液中の金属を除去する金属除去工程とは、該工程を行うことで、焼成バインダー用重合体溶液中の金属含有量が20ppb以上減少するような工程を意味する。具体的には、ゼータ電位による吸着作用を有するフィルターで濾過する工程、該重合体溶液を水、アルコール等の極性溶媒に接触させて沈殿した後に乾燥し、再度溶剤に溶解させる工程などである。
例えば、単に焼成バインダー用重合体溶液中のゴミを除去するための濾過工程などは金属除去工程には含まれないものとする。
【0027】
本発明によれば、25℃における粘度が1000mPa・s以上であって、金属含有量が100ppb以下である焼成バインダー用重合体溶液を得ることができる。
本発明において、焼成バインダー用重合体溶液の金属含有量とは、該重合体溶液の合計重量を1としたときに、その中に含まれる金属の総量を重量分率(単位:ppb)で表したものである。
該焼成バインダー用重合体溶液中の金属含有量が100ppb以下であると、電子材料等の形成に用いたときに、該電子材料の電気特性への悪影響を良好に防止できる。
該焼成バインダー用重合体溶液中の金属含有量は好ましくは60ppbであり、より好ましくは20ppbである。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、各実施例、比較例中「部」とあるのは、特に断りのない限り「質量部」を示す。測定方法以下の方法を用いた。
【0029】
<分子量の測定>
重合体の質量平均分子量(Mw)は、下記の条件(GPC条件)でゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算で求めた。
[GPC条件]
装置:東ソー社製、東ソー高速GPC装置 HLC−8220GPC(商品名)、
分離カラム:昭和電工社製、Shodex GPC K−805L(商品名)を3本直列に連結したもの、
測定温度:40℃、
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)、
試料(重合体の場合):重合体の約20mgを5mLのTHFに溶解し、0.5μmメンブレンフィルターで濾過した溶液、
試料(重合反応溶液の場合):サンプリングした重合反応溶液の約30mgを5mLのTHFに溶解し、0.5μmメンブレンフィルターで濾過した溶液、
流量:1mL/分、
注入量:0.1mL、
検出器:示差屈折計。
【0030】
検量線I:標準ポリスチレンの約20mgを5mLのTHFに溶解し、0.5μmメンブレンフィルターで濾過した溶液を用いて、上記の条件で分離カラムに注入し、溶出時間と分子量の関係を求めた。標準ポリスチレンは、下記の東ソー社製の標準ポリスチレン(いずれも商品名)を用いた。
F−80(Mw=706,000)、
F−20(Mw=190,000)、
F−4(Mw=37,900)、
F−1(Mw=10,200)、
A−2500(Mw=2,630)、
A−500(Mw=682、578、474、370、260の混合物)。
【0031】
<粘度の測定>
装置は、東機産業株式会社製、E型粘度計、RE-80型粘度計(商品名)を用いた。ローターは3°×R24を用いた。測定温度は25℃とした。
【0032】
<金属含有量の測定>
高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS−Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:Agilent Technologies製7500cs)により金属分析を行った。
測定サンプルは、単量体または重合開始剤の金属含有量を測定する場合は、測定対象物1.5gを、蒸留精製したN−メチル−2−ピロリドンで100倍希釈したサンプル溶液を用いた。
焼成バインダー用重合体溶液の金属含有量を測定する場合の測定サンプルは、測定対象物の溶液1.0gを、蒸留精製したN−メチル−2−ピロリドンで20倍希釈したサンプル溶液を用いた。
測定法は標準添加法で行った。
測定対象物中のLi,Na,Mg,K,Ca,Zn,Fe,Al,Cr,Mn,Ni,Cuのそれぞれの含有量を重量分率で求め、これらの合計値を測定対象物中の金属含有量(単位:ppb)とした。
【0033】
以下の各例で用いた単量体(m−1)、(m−2)、(n−1)、(n−2)、重合開始剤(I−1)、(I−2)、(J−1)、(J−2)は以下の通りである。また、各化合物の金属含有量を表1に示す。
単量体(m−1)および(n−1)は、いずれも下記化学式(1)で表される化合物であり、金属含有量が互いに異なる。
単量体(m−2)および(n−2)は、いずれも下記化学式(2)で表される化合物であり、金属含有量が互いに異なる。
重合開始剤(I−1)および(J−1)は、いずれも下記化学式(3)で表される化合物であり、金属含有量が互いに異なる。
重合開始剤(I−2)および(J−2)は、いずれも下記化学式(4)で表される化合物であり、金属含有量が互いに異なる。
【0034】
単量体(m−1):下記参考例1で得た。
単量体(n−1):三菱レイヨン社製、商品名:アクリエステルIB。
単量体(m−2):下記参考例2で得た。
単量体(n−2):三菱レイヨン社製、商品名:アクリエステルHP。
重合開始剤(I−1):和光純薬社製、商品名:V−601HP。
重合開始剤(J−1):和光純薬社製、商品名:V−601。
重合開始剤(I−2):和光純薬社製、商品名:V−60HP。
重合開始剤(J−2):和光純薬社製、商品名:V−60。
【0035】
【化1】

【0036】
【化2】

【0037】
【表1】

【0038】
<参考例1>
単量体(n−1)の3000部を単蒸留装置に仕込み、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル3部を添加した。蒸留釜をオイルバスで加熱し、単蒸留を行った。蒸留条件としては、蒸留釜内圧を67.0hPa、オイルバス温度を75〜95℃として実施し、留出物として単量体(m−1)の2646部を得た。
【0039】
<参考例2>
単量体(n−2)の3000部を単蒸留装置に仕込み、重合禁止剤としてハイドロキノンモノメチルエーテル3部を添加した。蒸留釜をオイルバスで加熱し、単蒸留を行った。蒸留条件としては、蒸留釜内圧を4.8hPa、オイルバス温度を75〜95℃として実施し、留出物として単量体(m−2)の2384部を得た。
【0040】
<実施例1>
窒素導入口、撹拌機、コンデンサー、滴下漏斗、および温度計を備えたフラスコに、窒素雰囲気下で、TGME(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル)を931部入れた。フラスコを湯浴に入れ、フラスコ内を撹拌しながら湯浴の温度を85℃に上げた。
その後、単量体(m−1)を1133.5部、単量体(m−2)を766.3部、TGMEを335部、および重合開始剤(I−1)を82.62部含んだ溶液を、滴下装置から一定速度で4時間かけてフラスコ内に滴下した。
次いで、TGMEを98.7部、および重合開始剤(I−1)を65.78部を含んだ溶液を滴下装置から一定速度で10分かけてフラスコ内に滴下した。フラスコ内の混合物(1)をさらに85℃に4時間保持して重合反応させた。
前記混合物(1)のうちの固形分(溶剤以外の成分)に含まれる金属の総量は23ppbである。
重合反応後、得られた反応液を50℃まで冷却した後、TGME1794部を一気にフラスコ内に供給した後、反応液を室温まで冷却し、得られた焼成バインダー用重合体溶液(P−1)を20Lのクリーンボトルに充填した。焼成バインダー用重合体溶液(P−1)の固形分濃度は39質量%、金属含有量は10ppb、粘度は4800mPa・sであった。
【0041】
<実施例2>
窒素導入口、撹拌機、コンデンサー、滴下漏斗、および温度計を備えたフラスコに、窒素雰囲気下で、TGMEを931部入れた。フラスコを湯浴に入れ、フラスコ内を撹拌しながら湯浴の温度を85℃に上げた。
その後、単量体(m−1)を1133.5部、単量体(m−2)を766.3部、TGMEを335部、および重合開始剤(I−2)を58.91部含んだ溶液を、滴下装置から一定速度で4時間かけてフラスコ内に滴下した。
次いで、TGMEを98.7部、および重合開始剤(I−2)を43.64部含んだ溶液を、滴下装置から一定速度で10分かけてフラスコ内に滴下した。フラスコ内の混合物(2)をさらに85℃の温度を4時間保持して重合反応させた。
前記混合物(2)のうちの固形分(溶剤以外の成分)に含まれる金属の総量は15ppbである。
重合反応後、得られた反応液を50℃まで冷却した後、TGME1794部を一気にフラスコ内に供給した後、反応液を室温まで冷却し、得た焼成バインダー用重合体溶液(P−2)を20Lのクリーンボトルに充填した。焼成バインダー用重合体溶液(P−2)の固形分濃度は39質量%、金属含有量は9ppb、粘度は5200Pa・sであった。
【0042】
<比較例1>
実施例1において、単量体(m−1)、(m−2)、重合開始剤(I−1)の代わりに、単量体(n−1)、(n−2)、重合開始剤(J−1)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と全く同様の操作を行い、焼成バインダー用重合体溶液(Q−1)を得た。
本例において、85℃の温度を4時間保持して重合反応させたときのフラスコ内の混合物(3)のうちの固形分(溶剤以外の成分)に含まれる金属の総量は281ppbである。
得られた焼成バインダー用重合体溶液(Q−1)の固形分濃度は39質量%、金属含有量は110ppb、粘度は4800mPa・sであった。
金属含有量が電子材料用焼成バインダーとしては多すぎるため、金属除去操作を実施した。すなわち焼成バインダー用重合体溶液(Q−1)を、ゼータプラスフィルター(商品名:Zeta Plus(登録商標)、吸着デプスフィルター カートリッジ(エレクトロニクス用) ECシリーズ 050GN、3M Purification社製)に通液した。通液流速は2.6mL/minで、全量を通液するのに33時間を要した。金属除去操作後の焼成バインダー用重合体溶液(Q−1)を20Lのクリーンボトルに充填した。
【0043】
<比較例2>
実施例2において、単量体(m−1)、(m−2)、重合開始剤(I−2)の代わりに、単量体(n−1)、(n−2)、重合開始剤(J−2)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と全く同様の操作を行い、焼成バインダー用重合体溶液(Q−2)を得た。
本例において、85℃の温度を4時間保持して重合反応させたときのフラスコ内の混合物(4)のうちの固形分(溶剤以外の成分)に含まれる金属の総量は420ppbである。
得られた焼成バインダー用重合体溶液(Q−2)の固形分濃度は39質量%、金属含有量は260ppb、粘度は5100mPa・sであった。
金属含有量が電子材料用焼成バインダーとしては多すぎるため、金属除去操作を実施した。すなわち焼成バインダー用重合体溶液(Q−2)を、前記ゼータプラスフィルターに通液した。通液流速は2.4mL/minで、全量を通液するのに35時間を要した。金属除去操作後の焼成バインダー用重合体溶液(Q−2)を20Lのクリーンボトルに充填した。
【0044】
実施例1、2、比較例1、2で得られた焼成バインダー用重合体溶液(P−1)、(P−2)、(Q−1)、(Q−2)について、該溶液中の重合体の質量平均分子量(Mw)、該溶液の粘度、該溶液の金属含有量、および比較例1、2で金属除去操作を実施したときのフィルター通液流速を下記表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果に示されるように、重合工程に供した混合物のうちの固形分(溶剤以外の成分)に含まれる金属の総量が200ppb以下である実施例1、2の(P−1)、(P−2)では、重合工程後に金属除去操作を行わなくても、金属含有量が充分に低減された焼成バインダー用重合体溶液が得られた。
一方、固形分に含まれる金属の総量が200ppbを超えた比較例1、2の(Q−1)、(Q−2)では、得られた焼成バインダー用重合体溶液中の金属含有量が多いため、ゼータ電位による吸着作用を有するフィルターで濾過したが、濾過の操作性が悪くて長時間を要し、実用的ではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(P)と溶剤を含み、25℃における粘度が1000mPa・s以上である、焼成バインダー用重合体溶液を製造する方法であって、
単量体および重合開始剤を含む混合物を、加熱下で重合反応させて前記重合体(P)を得る重合工程を有し、
前記混合物のうちの固形分に含まれる金属の総量を200ppb以下とすることを特徴とする焼成バインダー用重合体溶液の製造方法。
【請求項2】
前記重合工程の後、前記焼成バインダー用重合体溶液を容器に充填する充填工程を有し、
前記重合工程と前記充填工程との間に、前記焼成バインダー用重合体溶液中の金属を除去する金属除去工程を含まない、請求項1に記載の焼成バインダー用重合体溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られる、金属含有量が100ppb以下である焼成バインダー用重合体溶液。
【請求項4】
熱による解重合を促進する単量体から導かれる1種以上の構成単位と、極性基を有する単量体から導かれる1種以上の構成単位とを含んでなる重合体(P’)と溶剤とを含み、25℃における粘度が1000mPa・以上であり、金属含有量が100ppb以下である焼成バインダー用重合体溶液。