説明

焼成鉛筆芯

【課題】滑らかな書き味と濃度向上効果を有すると同時に、替え芯ケース内やシャープペンシルの芯タンク内などでの静電気による付着を改善する焼成鉛筆芯を提供する。
【解決手段】体質材および結合材を混練、成形後600℃以上で焼成してなる焼成芯の気孔中に、含浸物質として少なくともフッ素系オイルを含浸させる。気孔率としては10〜50%の範囲が好ましく、フッ素系オイルとしては特にパーフルオロポリエーテルが良好で、さらには直鎖型のものが最も好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆跡濃度が高く書き味も良好で、かつ静電気による付着度の小さい、鉛筆やシャープペンシル用などに用いられる焼成鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来焼成鉛筆芯は、黒鉛などの体質材と樹脂などの結合材とを混練、押出、焼成して得られた焼成芯の気孔中に油脂類を含浸して完成芯としている。ここで、気孔中に含浸させる油脂類は、筆記濃度を高めると共に書き味を滑らかにするためであり、この油として例えば鯨油、ラード、菜種油、大豆油等の動植物油、またはスピンドル油、流動パラフィン等の鉱油、さらにシリコーン油、変性シリコーン油、ワックス類などがあり、これらが単独もしくは組み合わされて使用されている。この中で、シリコーン油あるいは変性シリコーン油が性能上最も好ましいものとなっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−316384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の油脂類を含浸した鉛筆芯、特にシャープペンシル芯などにおいては、書き味や濃度向上の他にしばしば静電気による芯の付着の問題が生ずる。特に冬場の乾燥したときなどは静電現象が激しく、例えば替え芯ケース内での付着や、シャープペンシルの芯タンク内での付着が挙げられ、一旦付着してしまうと、はがすのはきわめて面倒となり、しばしば替え芯ケース内から取り出せなかったり、シャープペンシルでの追従芯の繰り出しが不可となるなど使用勝手が悪くなる。この現象は、φ0.5mmやφ0.3mmなど芯径が細くなるにつれて顕著となり、これを防止する手段として、例えば替え芯ケース材の中に帯電防止剤を充填する方法などが検討されているが、その効果は十分なものではない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の焼成鉛筆芯は、気孔中に少なくともフッ素系オイルが含浸されてなることを第一の要旨とする。
【0005】
また、フッ素系オイルがパーフルオロポリエーテルであることを第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の焼成鉛筆芯は、きわめて滑らかな書き味を有し、濃度向上効果に優れ、経時安定性が良好であると同時に、替え芯ケース内やシャープペンシルの芯タンク内での静電気による芯の付着が小さく、そのため替え芯ケースから芯が取り出しやすくなり、またシャープペンシルの追従芯の繰り出しがスムーズに行われるなど種々の特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の焼成鉛筆芯は、気孔中に少なくともフッ素系オイルを含浸することを特徴とする。
【0008】
次に、本発明の焼成鉛筆芯について具体的に説明する。焼成鉛筆芯の気孔中に含浸するフッ素系オイルとしては種々挙げられ、例えばパーフルオロポリエーテルおよびその誘導体、クロロパーフルオロエーテル、パーフルオロアルキルエーテル、パーフルオロデカリン、パーフルオロブチルテトラハイドロフラン、パーフルオロアルカン、フッ素変性シリコーン、クロロトリフルオロエチレンおよびそのオリゴマー、フルオロフォスファゼン、パーフルオロアルキルエステル類、含フッ素エステル化合物、パーフルオロカルボン酸、パーフルオロアクリレートなどの一種又は二種以上が用いられるが、特に滑らかな書き味や濃度向上効果を考慮すると、パーフルオロポリエーテルが最も好ましい。またパーフルオロポリエーテルには直鎖型と側鎖型の2つのタイプがあり、いずれを用いても良いが特には直鎖型が好適である。例えば直鎖型パーフルオロポリエーテルの化学式は、CF−[(O−CF−CF−(O−CF]−O−CFで示される。
【0009】
フッ素系オイルの特徴は、毒性がなく合成油の中で最も優れた潤滑性を有し、化学的に安定で経時安定性がきわめて高い。また不活性物質であるため、金属を腐食せず、ゴム、プラスチックを膨潤、劣化、溶解せず、さらにきわめて小さい表面張力を有しているので、微細な気孔中にたやすくかつ隈なく含浸させることができるという特徴を有している。上記特徴を有するフッ素系オイルを用いることにより、鉛筆芯の含浸油として好ましい性能を有するシリコーンオイルと遜色のない滑らかな書き味と優れた濃度向上効果が得られること以外に、さらに替え芯ケースやシャープペンシルの樹脂あるいは金属製の芯タンクなどに悪影響を及ぼさず、特に静電気に対する付着の度合いすなわち付着力が小さく、鉛筆芯として好ましい性状をもたらすのである。
【0010】
フッ素系オイルを含浸させることにより、静電気に対して付着の程度が小さくなる理由は定かでない。フッ素系オイルは、シリコーンオイルと同様に優れた絶縁性を有しかつ吸水性もないため静電気に対し付着し易いように考えられるが、実際にはフッ素自体が不活性であり、他の材質との反応が生じ難いという特徴を有することから、静電気に対しても他の油脂類と比較すると付着が小さいという好ましい性状が得られたのか、およびあるいはフッ素系オイルは通常の油脂類と比較して約2倍の比重を有しているため、一旦付着しても容易にはがれ易くなるという理由も考えられる。
【0011】
本発明に用いられる焼成鉛筆芯の気孔率は任意であるが、特には10〜50%の範囲が好ましい。10%以下では含浸の効果が得られず、50%以上では含浸量が多くなって書き味が重くなり易く、また強度も劣化する。
【0012】
本発明においては、フッ素系オイルを単独で使用してもよく、またこれが最も好ましいが、他の油脂類やワックスなど従来公知の物質と併用してもよく、書き味、濃度、強度、芯径など使用用途に応じて適宜選択して用いることができる。
【0013】
本発明の焼成鉛筆芯の製造方法について簡単に述べると、黒鉛、カーボンブラック、窒化硼素、タルク、雲母などの体質材に、粘土、天然高分子物質、合成高分子物質などの結合材を加え、必要に応じて溶剤、可塑剤、耐熱性顔料などを添加して混練、押出成形する。この押出芯を、概ね600℃以上の温度で焼成し、得られた焼成芯の気孔中に、フッ素系オイルを含浸して焼成鉛筆芯とする。フッ素系オイルを含浸する方法としては、一般の油脂類と同様に、常圧含浸または減圧、加圧含浸法を用いて、温度を70〜200℃に保ち含浸を行う。充分に含浸させた後に、表面に付着した余分のフッ素系オイルを遠心分離または吹き付け洗浄等により除去する。次に本発明の実施例及び比較例を示し、更に詳細に説明する。なお、「部」は「重量部」である。
【実施例1】
【0014】
黒鉛 60部
ポリ塩化ビニル 40部
メチルエチルケトン 100部
上記成分を混練して混練物を作製し、この混練物を押出成形して押出芯を作製した後、1000℃で2時間焼成して、外径がφ0.57mmで、気孔率34%の焼成芯を得た。この焼成芯の気孔中に、パーフルオロポリエーテル(FOMBLIN M15…アウジモント社製)を90℃、4時間の常圧下で含浸させて焼成鉛筆芯とした。
【0015】
(比較例1)
焼成芯として、実施例1と同様の芯を用い、その気孔中には何も含浸しないものを用いて焼成鉛筆芯とした。
【0016】
(比較例2)
実施例1と同じ焼成芯の気孔中に、スピンドル油を実施例1と同様の工程で含浸して焼成鉛筆芯とした。
【0017】
(比較例3)
実施例1と同じ焼成芯の気孔中に、シリコーンオイルを実施例1と同様の工程で含浸して焼成鉛筆芯とした。
【0018】
上記実施例1および比較例1、2、3について書き味、濃度、替え芯ケース内の付着度、シャープペンシルの芯タンク内の付着度について試験した。結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
芯ケース付着度(替え芯ケース内の付着度)は、AS樹脂製の替え芯ケース内に20本の焼成鉛筆芯を充填させ、替え芯ケースの外面をティッシュで20回こすって静電気を起こし、このときの芯の替え芯ケース内部での付着度合いを示す。また芯タンク付着度(シャープペンシルの芯タンク内の付着度)は、ポリプロピレン製の芯タンク内に5本の芯を充填させ、芯タンクの外面をティッシュで20回こすって静電気を起こし、このときの芯タンク内部での付着度合いを示す。◎は付着なし、○は少しの衝撃ではがれる、△はかなりの衝撃ではがれる、×はきわめてはがれにくいことを示す。濃度は、JIS−S6005に基づいて測定したものであり、数値が大きいほど濃い。比較例1の芯が、含浸する前の濃度を示す。
【0021】
表1より明らかなように、本発明の焼成鉛筆芯は書き味および濃度向上ともに優れると同時に、替え芯ケースやシャープペンシルの芯タンク内での静電気による芯の付着については、完全に付着なしは無理であるが、少しの衝撃ではがれるなど付着度が小さくなり、使い勝手が良好となるなど、種々の特徴を有することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
替え芯ケースや芯タンク内での付着が小さいために、替え芯ケースからの芯の取り出しが容易となり、またシャープペンシルでの追従芯の繰り出しがスムーズに行われ、経時安定性にも優れているため、安定した使用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔中に、少なくともフッ素系オイルが含浸されていることを特徴とする焼成鉛筆芯。
【請求項2】
フッ素系オイルが、パーフルオロポリエーテルであることを特徴とする請求項1記載の焼成鉛筆芯。