説明

焼結体および焼結体を用いた切削工具

【課題】高い強度や硬度を維持しつつ、被加工材との反応性が小さい焼結体、および耐摩耗性に優れた切削工具を提供する。
【解決手段】立方晶型窒化硼素と、立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の少なくともいずれかとを含む焼結体であって、前記立方晶型窒化硼素の含有量が35体積%以上93体積%以下である焼結体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体および焼結体を用いた切削工具に関し、より特定的には、立方晶型窒化硼素を含む焼結体および前記焼結体を用いた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
立方晶型窒化硼素(cubic boron nitride、以下cBNともいう)は、ダイヤモンドに次ぐ高い硬度および熱伝導率を有している。さらにダイヤモンドと比較して、鉄系金属との反応性が低いという特徴も有している。したがって、立方晶型窒化硼素を含有する焼結体は、加工能率向上の利点から、鉄系難削材切削において加工用工具材料として広く用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、立方晶型窒化硼素を体積%で80〜40%含有し残部が周期律表第4a、5a、6a族遷移金属の炭化物、窒化物、硼化物、硅化物もしくはこれ等の混合物または相互固溶体化合物を主体としたものからなり、この化合物が焼結体組織中で連続した結合相をなすことを特徴とする高硬度工具用焼結体が開示されている。
【0004】
特許文献2には、立方晶系窒化硼素結晶およびカーバイドを含む研磨体において、二つの塊体が強く結合して複合体を形成し、上記塊体の一つが焼結カーバイド塊体であり、上記塊体の他の一つが金属結合媒体によりまたは金属結合媒体なしに相互に結合した立方晶系窒化硼素結晶70容量%以上および残余が製造時に導入された材料よりなる塊体よりなることを特徴とする研磨体が開示されている。
【0005】
特許文献3には、立方晶チッ化ホウ素粒子及び第2相から成るかたまりを硬質の凝結体に結合したものを有する研磨成形体であって、該成形体の立方晶チッ化ホウ素の含有率が少なくとも80重量%である研磨形成体において、近接する立方晶チッ化ホウ素粒子が互いに結合されて交互成長した物質を形成しており、前記第2相が主としてチッ化アルミニウム及び2ホウ化アルミニウムからなることを特徴とする研磨形成体が開示されている。
【0006】
上記の立方晶型窒化硼素を含む焼結体は、ダイヤモンドに比較して、鉄系金属との反応性が低いものの、切削時に被加工材とある程度の反応は生じる。そのため、工具摩耗が進行して工具寿命にいたることになる。また、鉄系難削材に添加される元素(例えばステンレス鋼に添加されるクロムやニッケル、焼入鋼に添加されるモリブデン、クロム等)との反応が生じる。他にも、たとえば難削材として代表的な耐熱合金を加工する場合には、耐熱合金を構成する成分(ニッケル、クロム、コバルト、チタン等)との反応が生じ、切削時に焼結体の摩耗が進行する原因となる。
【0007】
そこで、立方晶型窒化硼素の高い硬度を生かしながら、被加工材との反応性を低下させることにより、加工時の焼結体の摩耗を抑制できる技術が研究されている。
【0008】
たとえば、特許文献4には、立方晶窒化硼素粉末を20〜80体積%と結合相となるAl23、AlN、Si34、B4C、SiCまたはそれらの混合物あるいはそれらの相互化合物を主体とした粉末と、金属状AlまたはSiまたはその両者よりなる粉末0.1重量%以上とを混合し、これを粉末状もしくは型押成形後、超高圧装置を用いて高圧、高温下で焼結することを特徴とする焼結体組織中で連続した結合相を有する高硬度工具用焼結体の製法が開示されている。
【0009】
特許文献5には、立方晶窒化硼素を体積で20%以上、70%未満含有し残部がSi34を主体としたものからなり、該残部のSi34はα型Si34とβ型Si34を所定の体積割合で含み、かつ該残部が焼結組織中で連続した相をなし、更に焼結体中の焼結粒の大部分が5μm以下の微細粒子より成ることを特徴とする高硬度工具用焼結体が開示されている。
【0010】
特許文献6には、立方晶窒化硼素を30〜85体積%含有し、残部が窒化珪素と窒化アルミニウムと希土類金属酸化物との混合物もしくは化合物からなることを特徴とする立方晶窒化硼素質焼結体が開示されている。
【0011】
特許文献7には、平均粒径0.5〜6μmの立方晶窒化ホウ素粉末10〜50体積%と、平均粒径0.1〜1μmのβ−サイアロン粉末50〜90体積%とを混合し、放電プラズマ焼結によって焼結したことを特徴とする高硬度高密度立方晶窒化ホウ素系焼結体が開示されている。
【0012】
上記の焼結体は、立方晶型窒化硼素とともに、鉄系金属との反応性の低いα型またはβ型の結晶構造を有する窒化珪素やサイアロンを含む。これらの焼結体は、被加工材との反応性を低くすることができるが、硬度や強度が不十分である。
【0013】
したがって、高い硬度を維持しつつ、被加工材との反応性が小さい立方晶型窒化硼素を含む焼結体が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭53−77811号公報
【特許文献2】特公昭52−43846号公報
【特許文献3】特公昭63−20792号公報
【特許文献4】特公昭61−32275号公報
【特許文献5】特公昭62−13311号公報
【特許文献6】特許第2825701号明細書
【特許文献7】特開2008−121046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高い強度や硬度を維持しつつ、被加工材との反応性が小さい焼結体、および耐摩耗性に優れた切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の焼結体は、立方晶型窒化硼素と、立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の少なくともいずれかとを含む焼結体であって、立方晶型窒化硼素の含有量が35体積%以上93体積%以下である。
【0017】
本発明の焼結体は、高硬度の立方晶型窒化硼素を上記の範囲で含むことで、高い硬度を有することができる。さらに、本発明の焼結体は、被加工材との反応性の低い立方晶型サイアロン粒子および立方晶型窒化珪素の少なくともいずれかを含むことで、切削時の被加工材との反応によって生じる摩耗を抑制することができる。
【0018】
本発明の焼結体において好ましくは、さらに第1化合物を含み、第1化合物は、第4族元素、第5族元素、第6族元素およびアルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、硼素および炭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物である。
【0019】
前記第1化合物は、焼結体中で、立方晶型窒化硼素粒子間、立方晶型サイアロン粒子間、立方晶型窒化珪素粒子間およびこれらの粒子間の結合力を向上させる。したがって前記第1化合物を含む焼結体は、優れた耐欠損性を有することができる。
【0020】
本発明の焼結体において好ましくは、さらに第2化合物を含み、第2化合物は、コバルト化合物、アルミニウム化合物およびタングステン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0021】
前記第2化合物は、焼結体中で、立方晶型窒化硼素粒子間、立方晶型サイアロン粒子間、立方晶型窒化珪素粒子間およびこれらの粒子間の結合力を向上させる。したがって前記第2化合物を含む焼結体は、優れた耐欠損性を有することができる。
【0022】
本発明の焼結体において好ましくは、立方晶型窒化硼素は平均粒径が0.5μm以上5μm以下の粒子である。
【0023】
立方晶型窒化硼素の平均粒径が0.5μm以上5μm以下である焼結体は、優れた耐欠損性を有することができる。
【0024】
本発明の切削工具は、上記の焼結体よりなる。
上記の焼結体は、高い強度および硬度を維持しつつ、被加工材との反応性が小さいため、切削工具に用いた場合、耐摩耗性に優れた切削工具を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高い強度を維持しつつ、被加工材との反応性が小さい焼結体、および耐摩耗性に優れた切削工具を得ることをができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明者らは、高い強度と優れた耐摩耗性の両方の特性を兼ね備えた切削工具材料を得るべく研究開発を行った結果、立方晶型窒化硼素とともに、従来のα型またはβ型の結晶構造を有するサイアロンまたはα型またはβ型の結晶構造を有する窒化珪素よりも硬度が高い、立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の少なくともいずれかを用いて焼結体を作製することで、高い硬度と強度を維持したまま、被加工材との反応性が低い焼結材を得ことができることを見出した。
【0027】
<焼結体>
[実施の形態1]
本発明の一実施の形態において、焼結体は立方晶型窒化硼素と、立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の少なくともいずれかとを含む。
【0028】
立方晶型窒化硼素は、ダイヤモンドに次ぐ高い硬度および熱伝導率を有している。さらにダイヤモンドと比較して、鉄系金属との反応性が低いという特徴も有している。したがって、立方晶型窒化硼素を用いて焼結体を作製すると、高硬度で耐摩耗性に優れた焼結体を得ることができる。
【0029】
立方晶型窒化硼素の含有量は、焼結体100体積%中、35体積%以上93体積%以下である。立方晶型窒化硼素の含有量が35体積%未満であると、立方晶型窒化硼素の有する高硬度という特性を、焼結体において十分に得ることができない。一方、立方晶型窒化硼素の含有量が93体積%を超えると、焼結体は高硬度であるものの、焼結性が低下して強度が低下する。
【0030】
前記立方晶型窒化硼素は平均粒径が0.5μm以上5μm以下の粒子であることが好ましい。
【0031】
立方晶型窒化硼素粒子の平均粒径が0.5μm以上5μm以下である焼結体は、優れた耐欠損性を有することができる。
【0032】
立方晶型サイアロンは、窒化ケイ素(Si34)にアルミニウム原子(Al)と酸素原子(O)が固溶した構造を有するサイアロンのうち、立方晶の結晶構造を有するものである。立方晶型サイアロンは、α型サイアロンおよびβ型サイアロンに比べて高い硬度を有する。したがって、立方晶型サイアロンを含む焼結体は、低反応性というサイアロンの特徴を維持したまま、高い硬度を有することができる。
【0033】
立方晶型サイアロンは、たとえば、α型サイアロンまたはβ型サイアロンを衝撃圧縮法で処理することにより得ることができる。
【0034】
衝撃圧縮法は、1800℃以上3000℃以下かつ40GPa以上で処理されることが好ましい。α型あるいはβ型サイアロンを衝撃圧縮法で処理することで、α型あるいはβ型サイアロンと、立方晶型サイアロンを含む混合物が得られる。衝撃圧縮の処理により混入した部材等を酸処理で除去し、α型サイアロンおよびβ型サイアロンと、立方晶型サイアロンとの比重差を利用して、遠心分離等の方法で立方晶型サイアロンのみをとり出すことができる。
【0035】
立方晶型窒化珪素は、α型窒化珪素およびβ型窒化珪素に比べて高い硬度を有する。したがって、立方晶型窒化珪素を含む焼結体は、低反応性という窒化珪素の特徴を維持したまま、高い硬度を有することができる。
【0036】
立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の合計の含有量は、焼結体100体積%中、2体積%以上65体積%以下であることが好ましい。立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の合計の含有量を前記の範囲とすることで、切削時の被加工材との反応に起因する、焼結材の摩耗を抑制することができる。
【0037】
[実施の形態2]
本発明の一実施の形態において、焼結体は、立方晶型窒化硼素と、立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の少なくともいずれかと、第1化合物とを含む。
【0038】
立方晶型窒化硼素の含有量は、実施の形態1と同様である。
立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の含有量の合計は、焼結体100体積%中、2体積%以上60体積%以下であることが好ましい。立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の含有量の合計を前記の範囲とすることで、切削時の被加工材との反応に起因する、焼結材の摩耗を抑制することができる。
【0039】
第1化合物とは、第4族元素、第5族元素、第6族元素およびアルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、硼素および炭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物であり、該化合物の固溶体も含む。第1化合物は、焼結体中で、立方晶型窒化硼素粒子同士、立方晶型サイアロン粒子同士、立方晶型窒化珪素粒子同士、あるいは、立方晶型窒化硼素粒子と立方晶型サイアロン粒子、立方晶型窒化硼素粒子と立方晶型珪素粒子、立方晶型サイアロン粒子と立方晶型窒化珪素粒子を結合する機能を有する。したがって、第1化合物を有する焼結体は、粒子間の結合力が向上し、優れた耐欠損性を有することができる。
【0040】
第1化合物は、第4族元素、第5族元素、第6族元素およびアルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の窒化物、前記元素の硼化物、前記元素の炭化物であることが好ましい。たとえば、窒化チタン(TiN)、炭窒化チタン(TiCN)、窒化アルミニウム(AlN)を用いることが好ましい。これらの第1化合物は一種類を用いても、異なる種類を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
第1化合物の含有量の合計は、焼結体100体積%中、10体積%以上60体積%以下が好ましい。
【0042】
[実施の形態3]
本発明の一実施の形態において、焼結体は、立方晶型窒化硼素と、立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の少なくともいずれかと、第2化合物とを含む。
【0043】
立方晶型窒化硼素の含有量は、実施の形態1と同様である。
立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の含有量の合計は、焼結体100体積%中、2体積%以上65体積%以下であることが好ましい。立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の含有量の合計を前記の範囲とすることで、切削時の被加工材との反応に起因する、焼結材の摩耗を抑制することができる。
【0044】
第2化合物は、コバルト化合物、アルミニウム化合物およびタングステン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、該化合物の固溶体も含む。なお、本明細書において、コバルト化合物とはコバルトを含み、アルミニウム化合物とはアルミニウムを含み、タングステン化合物とはタングステンを含む概念として使用する。第2化合物は、焼結体中で、立方晶型窒化硼素粒子同士、立方晶型サイアロン粒子同士、立方晶型窒化珪素粒子同士、あるいは、立方晶型窒化硼素粒子と立方晶型サイアロン粒子、立方晶型窒化硼素粒子と立方晶型窒化珪素粒子、立方晶型サイアロン粒子と立方晶型窒化珪素粒子を結合する機能を有する。したがって、第2化合物を有する焼結体は、粒子間の結合力が向上し、優れた耐欠損性を有することができる。
【0045】
第2化合物は、具体的にはコバルトアルミニウム(CoAl)を用いることが好ましい。
【0046】
第2化合物の含有量の合計は、焼結体100体積%中、3体積%以上30体積%以下が好ましい。
【0047】
なお、本発明の一実施の形態における焼結体は、第2化合物とともに、実施の形態2に記載の第1化合物を含有することもできる。
【0048】
<焼結体の製造方法>
実施の形態1の焼結体の製造方法は、たとえば以下である。立方晶型窒化硼素粒子を準備する。立方晶型サイアロン粒子および立方晶型窒化珪素粒子の少なくともいずれかを準備する。次に、立方晶型窒化硼素粒子と、立方晶型サイアロン粒子および立方晶型窒化珪素粒子の少なくともいずれかとを混合して混合物を得る。次に、混合物を焼結する。ここで、混合物は、得られた焼結体中の立方晶型窒化硼素が35体積%以上93体積%以下の割合となるように配合される。
【0049】
得られた焼結体は、高硬度の立方晶型窒化硼素と、被加工材との反応性の低い立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の少なくともいずれかよりなることで、高強度で、被加工材との反応性の低い焼結体である。
【0050】
実施の形態2の焼結体の製造方法は、たとえば以下である。立方晶型窒化硼素粒子を準備する。立方晶型サイアロン粒子および立方晶型窒化珪素粒子の少なくともいずれかを準備する。第1化合物を生成する原料粒子を準備する。次に、立方晶型窒化硼素粒子と、立方晶型サイアロン粒子および立方晶型窒化珪素粒子の少なくともいずれかと、第1化合物を生成する原料粒子とを混合して混合物を得る。次に、混合物を焼結する。ここで、混合物は、得られた焼結体中の立方晶型窒化硼素が35体積%以上93体積%以下の割合となるように配合される。
【0051】
得られた焼結体は、高硬度の立方晶型窒化硼素と、被加工材との反応性の低い立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素と、粒子間の結合力を高める第1化合物よりなることで、高強度で、被加工材との反応性が低く、耐欠損性に優れた焼結体である。
【0052】
実施の形態3の焼結体の製造方法は、たとえば以下である。立方晶型窒化硼素粒子を準備する。立方晶型サイアロン粒子および立方晶型窒化珪素粒子の少なくともいずれかを準備する。第2化合物を生成する原料粒子を準備する。次に、立方晶型窒化硼素粒子と、立方晶型サイアロン粒子および立方晶型窒化珪素粒子の少なくともいずれかと、第2化合物を生成する原料粒子とを混合して混合物を得る。次に、混合物を焼結する。ここで、混合物は、得られた焼結体中の立方晶型窒化硼素が35体積%以上93体積%以下の割合となるように配合される。
【0053】
得られた焼結体は、高硬度の立方晶型窒化硼素と、被加工材との反応性の低い立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素と、粒子間の結合力を高める第2化合物よりなることで、高強度で、被加工材との反応性が低く、耐欠損性に優れた焼結体である。
【実施例】
【0054】
<実施例1〜9、比較例1〜4>
(立方晶型サイアロン粒子の準備)
β型サイアロン粒子をステンレス製容器に充填し、爆薬の爆発による衝撃圧縮法により、約40GPaの圧力および2000℃〜2500℃の温度で処理した。衝撃圧縮法による処理後に、ステンレス製容器および混入した部材等を酸溶解し、粉末を回収した。回収した粉末をX線回折で分析すると、立方晶型サイアロンおよびβ型サイアロンが含まれていた。
【0055】
回収した粉末を遠心分離法を用いて、立方晶型サイアロン粒子とβ型サイアロン粒子とに分離した。
【0056】
(立方晶型窒化珪素粒子の準備)
β型窒化珪素粒子をステンレス製容器に充填し、爆薬の爆発による衝撃圧縮法により、約40GPaの圧力および2000℃〜2500℃の温度で処理した。衝撃圧縮法による処理後に、ステンレス製容器を酸溶解し、粉末を回収した。回収した粉末をX線回折で分析すると、立方晶型窒化珪素およびβ型窒化珪素が含まれていた。
【0057】
回収した粉末を遠心分離法を用いて、立方晶型窒化珪素粒子とβ型窒化珪素粒子とに分離した。
【0058】
(焼結体の作製)
次に、焼結体が、表1に示す焼結体組成(体積%)になるように、原料粉末である、立方晶型窒化硼素粒子、立方晶型窒化珪素粒子、立方晶型サイアロン粒子、β型窒化珪素粒子、β型サイアロン粒子、およびその他の成分として窒化チタン(TiN)粒子とアルミニウム(Al)粒子の混合粒子(TiN:Alの質量比4:1)を超硬合金製のポットおよびボールを用いてボールミル混合を行った。次に、混合粉末を超硬製容器に充填し、5GPaの圧力を加えながら1400℃で20分間焼結し、表1に示す焼結体を得た。
【0059】
なお、焼結体の組成比率の同定は、焼結体を切り出し、イオンエッチング法を用いた断面加工装置:クロスセクションポリッシャ(CP加工)により表面を平坦に処理した試料を、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により観察して行った。SEM観察による反射電子像では、組成それぞれの原子番号に依存して濃淡が生じる。それぞれの色の部分の組成はエネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)により同定した。そしてその像を画像分析することにより、それぞれの組成の含有量を同定した。
【0060】
(性能評価1)
得られた焼結体をISO型番SNGA120412形状の切削用チップに加工し、以下の条件で切削試験を行い、工具寿命までの加工時間評価を行った。工具寿命は、欠損あるいは摩耗(逃げ面摩耗量0.2mmを超えた時点)として判定を行った。
【0061】
被削材:インコネル718(登録商標) 外径旋削
切削速度:320m/min
切込み量:0.2mm
送り量:0.15mm/rev
クーラント:あり
結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
(評価結果1)
実施例1〜3は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を45〜60体積%および、立方晶型窒化珪素または立方晶型サイアロンを55〜40体積%含む焼結体であった。実施例1〜3は加工時に欠損がなく、立方晶型窒化珪素および立方晶型サイアロンを含まない比較例2〜4に比べて、工具寿命の向上効果が顕著であった。
【0064】
実施例4〜6は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を60体積%、立方晶型窒化珪素または立方晶型サイアロンを10〜20体積%、ならびにチタン(Ti)系化合物およびアルミニウム(Al)系化合物(サイアロンを除く)を合計20〜30体積%含む焼結体であった。実施例4〜6は、加工時に欠損がなく、立方晶型窒化珪素および立方晶型サイアロンを含まない比較例2〜4に比べて、工具寿命の向上効果が顕著であった。
【0065】
実施例7〜8は、立方晶型窒化硼素(平均粒径0.3または7μm)を60体積%、立方晶型窒化珪素または立方晶型サイアロンを20体積%、ならびにTi系化合物およびAl系化合物(サイアロンを除く)を合計20体積%含む焼結体であった。実施例7〜8は、加工時に欠損がなく、立方晶型窒化珪素および立方晶型サイアロンを含まない比較例2〜4に比べて、工具寿命の向上効果が顕著であった。
【0066】
実施例9は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を60体積%、立方晶型サイアロンを1体積%、ならびにTi系化合物およびAl系化合物(サイアロンを除く)を合計39体積%含む焼結体であった。実施例9は、工具寿命向上効果が立方晶型窒化珪素および立方晶型サイアロンを含まない比較例2〜4に比べて良好であったが、実施例1〜8に比べて小さかった。これは、立方晶型サイアロンの含有量が少なく、被削材と工具材質の反応性抑制による摩耗進行の抑制効果が現れにくいためと考えられる。
【0067】
比較例1は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を30体積%および、立方晶型サイアロンを70体積%含む焼結体であった。比較例1は、加工初期で欠損した。これは、立方晶型窒化硼素粒子の配合量が低すぎることで焼結体強度が低下し、本条件の加工に耐えられなかったためと考えられる。
【0068】
比較例2〜3は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を60体積%、β型窒化珪素またはβ型サイアロンを40体積%含む焼結体であった。比較例2〜3は、工具寿命向上効果が実施例1〜9に比べて小さかった。これはβ型窒化珪素またはβ型サイアロンを含有すると、焼結体の硬度が低下して耐摩耗性が低下したためと考えられる。
【0069】
比較例4は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を60体積%、ならびにTi系化合物およびAl系化合物(サイアロンを除く)を合計40体積%含む焼結体であった。比較例4は、工具寿命向上効果が実施例1〜9に比べて小さかった。
【0070】
(性能評価2)
上記の実施例2〜4,6〜8および比較例2〜4の焼結体を用いて、上記の性能評価1で用いた切削用チップを作製し、以下の条件で切削試験を行い、工具寿命までの加工時間評価を行った。工具寿命は、欠損あるいは摩耗(逃げ面摩耗量0.2mmを超えた時点)として判定を行った。
【0071】
被削材:インコネル718(登録商標) 外径旋削
切削速度:350m/min
切込み量:0.8mm
送り量:0.2mm/rev
クーラント:あり
結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
(評価結果2)
実施例2〜3は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を60体積%および、立方晶型窒化珪素または立方晶型サイアロンを40体積%含む焼結体であった。実施例2〜3は、長寿命で加工できることが分かる。これは、立方晶型窒化珪素または立方晶型サイアロンを含有することにより焼結体強度が向上したためと考えられる。
【0074】
実施例4および6は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を60体積%、立方晶型サイアロンを10〜20体積%、ならびにTi系化合物およびAl系化合物(サイアロンを除く)を合計30〜20体積%含む焼結体であった。実施例4および6は、耐欠損性が良好で、工具寿命が優れていることが分かる。また、立方晶型サイアロンの含有量が多い実施例6ほうが、焼結体と被削材との反応性が低下し逃げ面摩耗量が小さくなっている。
【0075】
実施例7、8は、立方晶型窒化硼素(平均粒径0.3、7μm)を60体積%、立方晶型サイアロンを20体積%、ならびにTi系化合物およびAl系化合物(サイアロンを除く)を合計20体積%含む焼結体であった。実施例7、8は、欠損が生じた。これは、立方晶型窒化硼素の平均粒径が小さすぎると切削時に焼結体内に生じた微小な亀裂が伝播して欠損に至り、立方晶型窒化硼素の平均粒径が大きすぎると焼結体強度が低下して欠損に至るためと考えられる。
【0076】
比較例2〜3は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を60体積%およびβ型窒化珪素を40体積%、またはβ型サイアロンを40体積%含む焼結体であった。比較例2〜3は加工初期で欠損した。
【0077】
比較例4は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を60体積%、ならびにTi系化合物およびAl系化合物(サイアロンを除く)を合計40体積%含む焼結体であった。比較例4は、実施例2〜4および6に比べて、耐摩耗性能が悪かった。
【0078】
<実施例10〜13、比較例5〜6>
実施例1と同様の方法で、表3に示す焼結体組成(体積%)となるように原料粉末を混合し、実施例10〜13、比較例5〜6の焼結体を得た。なお、実施例1で用いた窒化チタン粒子とアルミニウム粒子のかわりに、コバルト(Co)粒子、アルミニウム(Al)粒子および炭化タングステン(WC)粒子の混合粒子(Co:Al:WCの質量比5:4:1)を用いた。
【0079】
(性能評価3)
得られた焼結体をISO型番CNGA120412形状の切削用チップに加工し、以下の条件で切削試験を行い、工具寿命までの加工時間評価を行った。工具寿命は、欠損あるいは摩耗(逃げ面摩耗量0.2mmを超えた時点)として判定を行った。
【0080】
被削材:マルエージング鋼 外径旋削
切削速度:180m/min
切込み量:0.2mm
送り量:0.15mm/rev
クーラント:あり
結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
(評価結果3)
実施例10は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を90体積%および立方晶型サイアロンを10体積%含む焼結体であった。実施例10は、欠損がなく、長寿命で加工できることが分かる。
【0083】
実施例11〜12は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を90体積%、および立方晶型窒化珪素を3体積%または立方晶型サイアロンを3体積%、ならびにコバルト(Co)系化合物、アルミニウム(Al)系化合物(サイアロンを除く)およびタングステン(W)系化合物を合計7体積%含む焼結体であった。実施例11〜12は、欠損がなく、長寿命で加工できることが分かる。
【0084】
実施例13は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を90体積%、および立方晶型サイアロンを1体積%、ならびにコバルト(Co)系化合物、アルミニウム(Al)系化合物(サイアロンを除く)およびタングステン(W)系化合物を合計9体積%含む焼結体であった。比較例13は、立方晶型窒化珪素または立方晶型サイアロンを含まない比較例6に比べて耐摩耗性が向上したが、実施例9〜11に比べると、耐摩耗性能が低かった。これは、立方晶型サイアロンの配合量が少なく、被削材と工具材質の反応性抑制による摩耗進行の抑制効果が現れにくいためと考えられる。
【0085】
比較例5は、立方晶型窒化硼素(平均粒径2μm)を96体積%、および立方晶型サイアロンを4体積%含む焼結体であった。比較例5は、加工初期で欠損した。これは、立方晶型窒化硼素の含有量が多すぎることで、焼結時に立方晶型窒化硼素粒子同士の結合が弱くなり、強度が低下したためと考えられる。
【0086】
比較例6は、立方晶型窒化硼素粒子(平均粒径2μm)を90体積%、ならびにコバルト(Co)系化合物、アルミニウム(Al)系化合物(サイアロンを除く)およびタングステン(W)系化合物を合計10体積%含む焼結体であった。比較例6は、実施例10〜13に比べて、耐摩耗性能が低かった。これは、立方晶型サイアロン粒子が配合されていないため、被削材と工具材質の反応性抑制による摩耗進行の抑制効果が得られにくいためと考えられる。
【0087】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶型窒化硼素と、立方晶型サイアロンおよび立方晶型窒化珪素の少なくともいずれかとを含む焼結体であって、
前記立方晶型窒化硼素の含有量が35体積%以上93体積%以下である、焼結体。
【請求項2】
さらに第1化合物を含む、請求項1に記載の焼結体であって、
前記第1化合物は、第4族元素、第5族元素、第6族元素およびアルミニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、窒素、硼素および炭素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物である、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
さらに第2化合物を含む、請求項1に記載の焼結体であって、
前記第2化合物は、コバルト化合物、アルミニウム化合物およびタングステン化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1または2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記立方晶型窒化硼素は平均粒径が0.5μm以上5μm以下の粒子である、請求項1〜3のいずれかに記載の焼結体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の焼結体よりなる切削工具。

【公開番号】特開2011−140414(P2011−140414A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1358(P2010−1358)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】