説明

焼結合金の製造方法

【課題】バレル処理により表面粗さを効率よく下げることができる焼結合金の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】原料粉末を加圧して圧粉体を形成し、この圧粉体を焼結してなる焼結合金に焼入れ処理S31を施す焼結部品の製造方法において、前記焼入れ処理S21の前に第1バレル処理S2により焼結合金1の表面の凸部を除去すると共に表面の気孔を小さくし、、前記焼入れ処理S21の後にバレルを用いた精密仕上げS42により表面を平滑化する。このように焼入れ処理S21の前の比較的柔らかい状態で第1バレル処理S2を行うことにより焼結合金1の表面の凸部を除去すると共に表面の気孔を小さくし、焼入れ処理S31の後にバレルによる精密仕上げS42により焼結合金の表面を滑らかに加工して平滑化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結合金の製造方法に係わり、特に平坦面が得られる焼結合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の製造方法として、鉄系の焼結合金からなる本体部にスチーム処理またはガス軟窒化処理が施された後に、バレル研磨が施され、ロックウェル固さをHRB90以上とするとともに、両端面の表面粗さを1.3z以下とする製造方法(例えば特許文献1)や、密度が6.8〜7.0g/cm3の焼入れ組織の鉄系焼結合金からなるカムを作製し、バレル研磨を施すことによって表面を平坦に加工する方法(例えば特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−105955号公報
【特許文献2】特開2002−276642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術の製造方法では、表面硬化処理後にバレル処理を行うことにより表面を平滑に仕上げることができる。
【0005】
ところで、仕上げに機械加工を用いると、粗さは良いが生産効率に劣る問題がある。一方、仕上げにバレル処理を用いると、生産効率に優れるが粗さ確保が難しい問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、バレル処理により表面粗さを確保することができる焼結合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、原料粉末を加圧して圧粉体を形成し、この圧粉体を焼結してなる焼結合金に表面硬化処理を施す焼結部品の製造方法において、前記表面硬化処理前にバレル処理により焼結合金の表面の凸部を除去すると共に表面の気孔を小さくし、前記表面硬化処理後にバレル処理により表面を平滑化することを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の発明は、前記表面硬化処理が焼入れ処理であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3の発明は、前記表面硬化処理後のバレル処理により表面粗さ(Ra)を0.4μm以下とすることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4の発明は、前記表面硬化処理後のバレル処理により表面粗さ(Ra)を0.2μm以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、表面硬化処理前の比較的柔らかい状態でバレル処理を行うことにより焼結合金の表面の凸部を除去すると共に表面の気孔を小さくし、前記表面硬化処理後にバレル処理により表面を滑らかに加工して平滑化することができる。
【0012】
請求項2の構成によれば、焼入れ処理により焼結合金の硬度を向上することができる。
【0013】
請求項3の構成によれば、焼結合金において切削などの機械加工することなしに高い平滑面を得ることができる。
【0014】
請求項4の構成によれば、焼結合金において切削などの機械加工することなしに更に高い平滑面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1を示す製造方法のフローチャート図である。
【図2】同上、焼結合金の斜視図である。
【図3】同上、バレル処理に用いるメディアの斜視図である。
【図4】同上、表面の粗さを示す図である。
【図5】同上、焼結合金を断面にした表面側の顕微鏡写真であり、図5(A)はバレル処理前の焼結体、図5(B)は第1バレル処理後の焼結体、図5(C)は第2バレル処理後の焼結体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須条件であるとは限らない。各実施例では、従来とは異なる焼結合金の製造方法を採用することにより、従来にない焼結合金の製造方法が得られ、その焼結合金の製造方法を記述する。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例1を添付図面を用いて詳述する。図1〜図5に示すように、本発明の焼結合金の製造は、成形工程S1において原料粉末を所要形状の金型に充填し、圧粉成形して所要の密度の圧粉体を得る。鉄を主成分とした鉄系の前記原料粉末を用い、この例ではFe−Cu−C−Ni−Mo系のものを用いた。成形工程S1の後の焼結工程S11において、前記圧粉体を還元雰囲気中で、焼結して鉄系の焼結合金1を得る。この焼結合金1は、図2に示すように、略弓形片をなし、図4の「焼結体」に示すように、外周側で湾曲面をなす側面2の表面粗さ(Ra)は1.38である。また、焼結合金1の密度は6.5〜7.5g/cm3、この例では、7.0g/cm3であり、硬度は65HRAである。用いた焼結合金1は、長さ寸法が20mm程度、幅寸法が10mm程度、厚さ寸法が5mm程度である。尚、バレル処理前の焼結合金1の表面の顕微鏡写真を図5(A)に示す。
【0018】
焼結工程後の第1バレル処理S2において、焼入れ前の焼入れ後に比べて柔らかい状態で焼結合金1の表面の凸部を除去すると共に表面の気孔を小さくする。この場合、表面の比較的大きな凹凸がなくなり、また、気孔の周囲の凹凸が除去されて気孔の表面における開口部分が小さくなる。これに用いた装置は、回転バレル機(図示せず)であり、回転バレル機に前記焼結合金1とメディア3と研磨材と防錆材を投入し、回転数30rpmで約0.5時間回転処理を行った。第1バレル処理の前記メディア3は、図3に示すように、円柱の両端を斜めに切断した形状をなす斜切円柱形のものを用い、切断箇所に対応する両側の縁部3Fなどが焼結合金1の表面に当たることにより、表面の凸部を除去すると共に表面の気孔を小さくすることができる。図4の「第1バレル体」に示すように、第1バレル処理S2の後、前記側面2の表面粗さ(Ra)は0.77であり、図5(B)の顕微鏡写真により、表面の凸部を除去して凹凸が削減されると共に表面の気孔を小さくなることが確認された。但し、焼入れ前の柔らかい状態であるため、多少の凹凸は残る。尚、焼結合金1よりメディア3は小さい。
【0019】
次に、焼結体1の表面処理S3を行う。この例では表面処理S3として、表面硬化処理たる焼入れ処理S31を行い、特に浸炭焼入れを行うことにより、焼結体1の表面層を焼入硬化する。前記焼入れ処理S31の後、脱脂処理S32を行い、この後、焼き戻し処理S33を行うことにより、焼入れによって硬化した焼結体1に靭性を与える。
【0020】
表面硬化処理後S3の第2バレル処理S4は、バレルによる荒仕上げS41の後にバレルによる精密仕上げS42を行う。前記荒仕上げS41に用いた装置は、回転バレル機であり、回転バレル機に前記焼結合金1と略三角形粒状のメディアと研磨材と防錆材を投入し、回転数27rpmで10時間以上、この例では約12時間回転処理を行った。前記精密仕上げS42に用いた装置は、回転バレル機であり、回転バレル機に前記焼結合金1と斜切円柱形のメディア3と研磨材と防錆材を投入し、回転数27rpmで10時間以上、この例では約12時間回転処理を行った。このように第2バレル処理S4では、前記第1バレル処理S1に比べて、回転数を約5〜15%程度低く設定し、また、メディアも小型のものを用いている。
【0021】
このように第2バレル処理S4では、荒仕上げS41により、焼結合金1の凸部を研磨するようにして仕上げ前の表面を均し、この均らした表面を精密仕上げS42により磨き上げては平滑化する。第2バレル処理4の後の顕微鏡写真を図5(C)に示す。図4の「第2バレル体」に示すように、第2バレル処理S4の後、前記側面2の表面粗さ(Ra)は0.13となった。また、第2バレル処理S4の処理時間を短く調整しても、側面2の表面粗さ(Ra)は0.4以下にすることができた。
【0022】
尚、バレル処理は、いずれも水なども入れる湿式回転バレル研磨方法を用いた。
【0023】
このように本実施例では、請求項1に対応して、原料粉末を加圧して圧粉体を形成し、この圧粉体を焼結してなる焼結合金1に表面硬化処理たる焼入れ処理S31を施す焼結部品の製造方法において、前記焼入れ処理S21の前にバレル処理たる第1バレル処理S2により焼結合金1の表面の凸部を除去すると共に表面の気孔を小さくし、前記焼入れ処理S21の後にバレル処理たる精密仕上げS42により表面を平滑化するから、焼入れ処理S21の前の比較的柔らかい状態で第1バレル処理S2を行うことにより焼結合金1の表面の凸部を除去すると共に表面の気孔を小さくし、焼入れ処理S31の後に精密仕上げS42により表面を滑らかに加工して平滑化することができる。
【0024】
また、このように本実施例では、請求項2に対応して、表面硬化処理が焼入れ処理S31であるから、焼結合金1の硬度を向上することができる。
【0025】
また、このように本実施例では、請求項3に対応して、表面硬化処理たる焼入れ処理S31の後のバレル処理たる精密仕上げS42により表面粗さ(Ra)を0.4μm以下とするから、焼結合金において切削などの機械加工することなしに高い平滑面を得ることができる。そして、バレル処理は機械加工とは異なり、1回の処理量が多いため、1個当たりのコストを低く抑えることが可能となり、コスト削減が可能となる。
【0026】
また、このように本実施例では、請求項4に対応して、表面硬化処理たる焼入れ処理S31の後のバレル処理たる精密仕上げS42により表面粗さ(Ra)を0.2μm以下とするから、焼結合金において切削などの機械加工することなしに更に高い平滑面を得ることができる。
【0027】
また、実施例上の効果として、第2バレル処理において、バレルによる荒仕上げS41の後にバレルによる精密仕上げS42を行うから、硬化処理した表面の凸部を仕上げS41により研磨して平坦にし、さらに、精密仕上げS42により平滑に仕上げることができる。
【0028】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものでは無く、種々の変形実施が可能である。例えば、実施例では、表面硬化処理として焼入れを例示したが、スチーム処理や窒化処理などでもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 焼結合金
S1 成形工程
S2 第1バレル工程
S3 表面処理
S31 焼入れ処理(表面硬化処理)
S4 第2バレル処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末を加圧して圧粉体を形成し、この圧粉体を焼結してなる焼結合金に表面硬化処理を施す焼結部品の製造方法において、前記表面硬化処理前にバレル処理により焼結合金の表面の凸部を除去すると共に表面の気孔を小さくし、前記表面硬化処理後にバレル処理により表面を平滑化することを特徴とする焼結合金の製造方法。
【請求項2】
前記表面硬化処理が焼入れ処理であることを特徴とする請求項1記載の焼結合金の製造方法。
【請求項3】
前記表面硬化処理後のバレル処理により表面粗さ(Ra)を0.4μm以下とすることを特徴とする請求項2記載の焼結合金の製造方法。
【請求項4】
前記表面硬化処理後のバレル処理により表面粗さ(Ra)を0.2μm以下とすることを特徴とする請求項2記載の焼結合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−1953(P2013−1953A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133930(P2011−133930)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(306000315)株式会社ダイヤメット (130)
【Fターム(参考)】