説明

焼結物の焼成方法

【課題】大型のロータリーキルンであっても、バーナー側から確実にキルン内の焼点付近まで融着防止材を到達させることができる融着防止材の供給手段を備えた焼結物の焼成方法を提供する。
【解決手段】バーナーから、焼成原料の溶融温度より高い溶融温度の灰成分を含有する燃料粉体を吹き込むことを特徴とする焼結物の焼成方法であり、特に該燃料粉体が、燃料と融着防止材の混合物であることを特徴とする前記焼結物の焼成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結物の焼成方法に関し、特に、石炭灰を主原料としロータリーキルンを用いて人工骨材を製造するに際し、被焼成物の融着を防止して焼成可能な人工骨材の焼成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭を燃焼させると、その質量の約1割に相当する石炭灰が発生する。近年の石炭炊き火力発電所の増加により、石炭灰の発生量が増加しており、その有効な利用方法が求められている。
【0003】
石炭灰に必要に応じて他の成分を添加し、造粒等の前処理を施した後焼成すると、適度の強度を持った焼結物となり、コンクリート用の骨材等として活用可能となる。そこで、石炭灰からそれら人工骨材を製造し、有効利用を図る試みが種々行われてきている。
【0004】
しかし、低吸水率の良好な品質の人工骨材を焼成するためには、焼成原料が溶融する直前まで焼成温度を上げる必要があり、そのため被焼成物同士が融着するという現象が生じる。融着を回避するためには、焼成原料より融点の高い融着防止材を焼点付近の被焼成物に添加し、該被焼成物の表面を被覆することが有効である。
【0005】
そこで、特許文献1では、回転窯における人工軽量骨材の焼成に際し、回転窯内の焼点部近傍に融着防止材を効果的に添加するため、融着防止材に空気を混合して流動化させ、この融着防止材と空気との混合流動体を、軽装充填状態、すなわち圧密等を行なわずに容器等に充填した状態の融着防止材の嵩密度の15%以上の嵩密度、つまり比較的に高い濃度の状態で、供給管を介してキルンバーナー側から回転窯内に連続的に供給する方法が提案されていた。
【0006】
【特許文献1】特開平6−279079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年製造コスト低減のための量産化の要請に伴い焼成に用いるロータリーキルンが大型化する傾向があり、バーナー側の壁部から焼点までの距離が増大している。このため特許文献1の方法によれば、融着防止材を到達させるため供給管を深く挿入しなければならず、水冷管では高温環境に持ちこたえられず、高性能の耐火材で被覆する必要が生じ、設置及びメンテナンスのコストが増大することになる。また、単純にノズルから気流により吹込む方法もあるが、大型キルンで焼点までの距離が遠い場合には、高速の気流で吹込む必要があり、この気流が二次空気流へ、延いてはバーナーによるフレームの形成に影響を与える可能性がある。したがって、大型のキルンであっても、バーナー側から確実にキルン内の焼点付近まで融着防止材を到達させることができる融着防止材の供給手段を備えた焼結物の焼成方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行った結果、ロータリーキルンのメインバーナーから、融着防止機能を有する粉体を吹き込むことにより、大型のキルンであっても確実に焼点付近まで到達させることが可能で、被焼成物の融着を効果的に防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、ロータリーキルンによる焼結物の焼成において、バーナーから、焼成原料の溶融温度より高い溶融温度の灰成分を含有する燃料粉体を吹き込むことを特徴とする。ここで、焼成原料及び灰成分の溶融温度は、焼成原料と同一配合とした原料粉末、及び燃料として用いる石炭を灰化して得た灰分と融着防止材とを実操業と同一配合となるようにした灰成分粉末を、それぞれペレット化し、電気炉で加熱してペレットが溶融する温度をそれぞれ求め、該温度をそれぞれの溶融温度とする。灰成分とは、ロータリーキルン内の燃焼条件で燃料粉体を燃焼させたときに灰分として残留する成分をいう。
【0009】
本発明によれば、焼成原料の溶融温度より溶融温度が高く、被焼成物を被覆し融着を防止する機能を持つ灰成分が、バーナーにより吹込まれた燃料粉体の燃焼により生じるので、大型のキルンであっても確実にキルン内の焼点付近まで該融着防止機能を持つ灰成分を到達させることが可能で、被焼成物の融着を効果的に防止することができる。
【0010】
また、本発明では燃料粉体を、燃料に融着防止材を加えたものとすることができる。ここで燃料としては、微粉炭、粉砕オイルコークス、粉砕した可燃性廃棄物等の粉体状の燃料が用いられる。この燃料粉体とは別に、灰分を生じない重油等の液体燃料を混焼することは差し支えない。
【0011】
したがって、本発明においては、例えば焼成原料の溶融温度より高い溶融温度の灰分を当初から含有している石炭を選び、それを単独で燃料粉体として用いても良いし、石炭に焼成原料の溶融温度より高い溶融温度を示す融着防止材を加えて燃料粉体としても良い。多くの場合、燃料としての石炭に含有されている灰分のみでは、被焼成物の融着を防止するには量的に不足であるので、後者の方法を採用することが望ましい。
【0012】
そして、本発明において、前記融着防止材を、シリカ質物質又はアルミナ質物質とすることができる。融着防止材に求められる性状としては、それ自体の溶融温度が被焼成物の溶融温度や、炉内雰囲気温度より高いことが必要であり、シリカ又はアルミナはその条件にかなっている。したがって、純粋に近いシリカ質物質(例えば珪石粉等)やアルミナ質物質(アルミナ粉末等)を融着防止材として用いることができる。
【0013】
さらに、本発明においては、前記焼成原料の溶融温度と前記灰成分の溶融温度の差が30℃以上であることが好ましい。この差が小さいと、炉内温度の変動により、適切な融着防止効果が得られなくなる場合もある。
【0014】
また、本発明の焼成方法が対象とする代表的な焼結物としては、石炭灰を主原料とする人工骨材を挙げることができる。本発明を適用することにより、絶乾密度が1.5以上、且つ24時間吸水率が6%以下という高品質の人工骨材を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、焼成原料の溶融温度より溶融温度が高く、融着防止材となり得る灰成分が、バーナーにより吹込まれた燃料粉体の燃焼により生じるので、大型のキルンであっても確実にキルン内の焼点付近まで該融着防止材となり得る灰成分を到達させることが可能で、被焼成物の融着を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を石炭灰を主原料として人工骨材を焼成する場合の実施の形態を例として説明するが、本発明はこの記述内容に限定されるものではない。
【0017】
本発明の主原料として用いる石炭灰は、石炭火力発電所から排出されるもので、微粉炭ボイラーから飛散し電気集塵機等で回収されるフライアッシュ、循環流動層ボイラーから回収されるPFBC灰等を用い、粒度調整のされていない原粉のままで用いることができる。
【0018】
この石炭灰に、必要に応じて結合材及び/又は粘結材を加える。結合材とは、成形物の強度を保つための添加材料で、各種セメント、各種石膏若しくは珪酸ソーダ等の無機バインダー、又はメチルセルロース等の水溶性高分子材料などを用いることができる。一方、粘結材とは、成形時に成形補助材となる添加材料で、カオリンやベントナイト等の粘土質無機物質や、パルプ廃液中に含まれるリグニン等が用いられる。
【0019】
上記の原料を混合後、造粒する。造粒は所定範囲の粒径となるように成形できれば方法は問わず、パンペレタイザーを使用した転動造粒、加圧成形機を使用したプレス造粒、ヘンシェルミキサー(三井造船株式会社製、登録商標)等を使用した攪拌造粒等を用いることができる。
【0020】
次に、造粒された原料をロータリーキルンを用いて焼成して、人工骨材を製造する。ロータリーキルンを用いることで、連続した大量生産が可能で、均質な焼成物を得ることができる。
【0021】
ロータリーキルンを用いた焼成は、好ましくは800〜1500℃、より好ましくは1150〜1350℃にて行なうが、所望とする焼結物の品質(例えば、絶乾密度、吸水率等)を勘案し、適宜調整すると良い。なお、焼成温度が800℃未満であると、十分に焼結した焼結物が得られず、1500℃を超えると、焼成原料が過度に溶融し運転に支障を来たすため、好ましくない。
【0022】
燃料としては、微粉炭、粉砕オイルコークス、粉砕した可燃性廃棄物等の粉体状の燃料を用いる。燃焼性の点からは、微粉炭の使用が好ましいが、コストの低減のためには適宜可燃性廃棄物を併用することが望まれる。特に、廃木材粉砕物、廃畳粉砕物等のバイオマス系の燃料を用いると、COの排出低減にもつながり、より好ましい。
【0023】
ここでは微粉炭を燃料とする場合を例にとると、その元となる石炭は通常20質量%以下の灰分を含有する。これを竪型ミル、ボールミル等の粉砕機を用いて、90μm残分20質量%以下程度まで粉砕し、ロータリーキルンに設置されている石炭吹込用バーナーで吹込み燃焼させる。このときの燃え殻は、微粉炭からの灰分となる。この灰分の化学組成は、石炭の産地により異なるが概ねSiO 50〜70質量%、Al 10〜30質量%、CaO 5質量%以下、Fe 10質量%以下等である。この微粉炭の灰分について、前述の方法で求めた溶融温度が、焼成原料の溶融温度より高ければ、該微粉炭のみを燃料粉体としてバーナーから吹込むことにより、燃料として機能するとともに、灰分が融着防止材として機能することが期待できる。
【0024】
また、この微粉炭にシリカ質物質、アルミナ質物質等の融着防止材を混合し、混合物すなわち燃料粉体の灰成分の化学組成を調整することにより、該灰成分の溶融温度を引き上げ、焼成原料の溶融温度との差を適切に調整することができる。該溶融温度差は、30℃以上であることが好ましい。この差が小さいと、炉内温度の変動により、適切な融着防止効果が得られなくなる場合もある。シリカ質物質、アルミナ質物質としては、それぞれ純度が高い方が望ましく、珪石粉末、アルミナ粉末、水酸化アルミニウム粉末等が用いられる。また、融着防止材の粒子径については、バーナーからの吹込みに障害がないことが求められ、概ね平均粒子径で10〜1000μmが好ましい。融着防止材の平均粒子径が10μmより小さいと、バーナーから吹込まれた後、そのまま窯尻側まで飛散してしまう確率が高く、溶融温度上昇の効果が得られなくなる。一方、融着防止材の平均粒子径が1000μmよりも大きいと、バーナーからの吹込みに障害があると共に、送入管路等の磨耗が著しく、これら消耗部位や部品の交換が頻繁となり、好ましくない。
【0025】
微粉炭と融着防止材の混合は、バーナー吹込み前に適宜公知の混合機等を用いて行なうことができる。また、バーナーへ微粉炭を圧送する管路へ、エジェクター等を介して融着防止材を添加し、混合、吹込みを一度に行なわせることも可能である。融着防止材の混合量は、灰成分の溶融温度を適切に調整できる量とすべきであるが、通常は焼成原料に対し灰成分として5質量%が適正な混合量であり、10質量%以下であることが好ましい。10質量%を超えると、焼結物の品質に悪影響を与え、また、燃料の燃焼性も阻害することが多い。
【0026】
以上、燃料が微粉炭でる場合を例に説明したが、その他の燃料、例えば可燃性廃棄物粉体等を用いる場合にも、大略同様の形態で実施可能である。さらに、燃料粉体とは別に、灰分を生じないか、極めて微量である重油、廃油、廃溶剤等の液体燃料を混焼することは差し支えない。
【0027】
ロータリーキルンでの焼成時間は、経済性の観点から概ね15〜120分とするのが適当であるが、所定品質の焼結物が得られるように適宜調整すると良い。また、焼成時のロータリーキルン内の酸素分圧は、一般的な焼成範囲である3〜12%に調整すれば良いが、この範囲に特に限定されるものではない。
【0028】
以上に述べてきたような手法に従い、前記石炭灰を主成分とした造粒原料を焼成することにより、融着等のトラブルを生じることなく、絶乾密度が1.5以上、且つ24時間吸水率が6%以下という高品質の人工骨材を焼結物として得ることができる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明にかかる焼結物の焼成方法の実施例を説明する。
用いたロータリーキルンは、長さ70mで有効内径3.0mのキルンである。主原料である石炭灰は、国内の火力発電所より入手した石炭灰A、Bの2種類で、その性状を表1に示す。
これらの石炭灰と普通セメントを9:1で混合後パンペレタイザーで粒径5〜20mmに造粒し、焼成原料とした。ロータリーキルンへの焼成原料送入量は、主原料として石炭灰AB使用時共10t/hrとし、焼成温度は、石炭灰A使用時が1,240℃、石炭灰B使用時が1,260℃とした。燃料として用いた石炭は、豪州炭で灰分10質量%、発熱量6600kcal/kgのものであった。この石炭を粉砕機で微粉とし、微粉炭用バーナーで前記ロータリーキルンに吹込み燃焼させた。
【0030】
(表1)

【0031】
融着防止材として、珪石粉末又はアルミナ粉末を、微粉炭バーナー直前の管路で添加し、微粉炭と混合させた状態で吹込んだ。燃料から発生する灰分はいずれの水準も約350kg/hrと見込まれるため、灰成分として原料送入量の5質量%すなわち500kg/hrとするため、融着防止材の添加量は、150kg/hrとした。
【0032】
比較例として、従来用いられていた融着防止材吹込み方法であるバーナー側からノズルを用いて融着防止材を吹込む方式を試みた。実施例は実施例1〜4の4水準、比較例は比較例1〜4の4水準の焼成を行った。得られた人工骨材については、絶乾密度と24時間吸水率に関しJIS A
1135「構造用軽量粗骨材の比重及び吸水率試験」に準拠して測定を行った。これらの試験条件と結果を表2に示す。
【0033】
(表2)

【0034】
表2のデータから明らかなように、本発明に係る焼結物の焼成方法で焼成した実施例1〜4においては、被焼成物が融着を起こすことなく、良好な絶乾密度及び24時間吸水率の人工骨材が得られた。一方、従来の融着防止材吹込み方法を用いた焼結物の焼成方法による比較例1〜4においては、バーナーの火炎を正常に保つためには融着防止材を焼点近傍まで到達させることができず、被焼成物が一部融着を起こした。したがって、得られた人工骨材は融着により表面が損傷を受けており、良好な吸水率のものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の焼結物の焼成方法は、石炭灰を主原料とした人工骨材の焼成に有用であり、その他、ロータリーキルンを用いた各種焼結物の焼成に有効に活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリーキルンによる焼結物の焼成において、バーナーから、焼成原料の溶融温度より高い溶融温度の灰成分を含有する燃料粉体を吹き込むことを特徴とする焼結物の焼成方法。
【請求項2】
前記燃料粉体が、燃料と融着防止材の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の焼結物の焼成方法。
【請求項3】
前記融着防止材が、シリカ質物質又はアルミナ質物質であることを特徴とする請求項2に記載の焼結物の焼成方法。
【請求項4】
前記焼成原料の溶融温度と前記灰成分の溶融温度の差が30℃以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の焼結物の焼成方法。
【請求項5】
前記焼結物が石炭灰を主原料とする人工骨材であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の焼結物の焼成方法。
【請求項6】
絶乾密度が1.5以上、且つ24時間吸水率が6%以下の人工骨材を得ることを特徴とする請求項5に記載の焼結物の焼成方法。

【公開番号】特開2007−254198(P2007−254198A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79567(P2006−79567)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)