説明

焼結部品の製造方法とその方法で製造された焼結部品

【課題】焼結部品の軸穴の縁などに設ける2段面取りの面取り部は機械加工して設けているが、その方法ではコストが高くつくので、2段面取りの面取り部を金型成形によって金型の寿命低下を抑えながら安価に設置できるようにすることを課題としている。
【解決手段】圧粉体の成形工程において、面取りを施す部品の縁部に内径面6とのなす角がθ1の第1斜面4aと、内径面6とのなす角がθ1よりも大きいランド4cを金型で成形して圧粉体7に形成し、次いで、圧粉体を焼結し、その後、焼結体の前記ランド4cを金型で潰して内径面6とのなす角がθ2(θ2<θ1)で、前記第1斜面4aと前記内径面6にそれぞれ連なる第2斜面4bを形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉末冶金法で製造される焼結部品、特に、本体部の内径面或いは外径面と端面などとの交差部にそれぞれ面取り部が施された焼結部品とその部品を安価に製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金法で製造される焼結部品の一例を図7、図8に示す。例示の焼結部品1は、本体部2の中心に軸穴3を設けており、その軸穴3に対する軸の挿入の円滑化、軸穴3の開口縁による軸の傷つき防止、軸穴3の開口縁の欠け防止などを目的として軸穴3の開口縁に面取り部4を施して提供される。
【0003】
軸穴の開口縁に形成する面取り部4は、通常、部品の端面と軸穴の内径面の双方に対して45°の傾き角を持つ図8の鎖線枠拡大図のC面取りが機械加工して設けられる。
【0004】
穴などの縁の鋭いエッジを除去する面取り加工は、一般に利用されている技術であって、面取り部4が一つの平面で形成されるC面取りのほかに、下記特許文献1に開示された2段面取りなども知られている。2段面取りは、鈍角に交差する2つの平面(面取りした面)で形成されるものである。
【特許文献1】特開平5−8110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械加工での面取りは、加工コストが高くつく。また、その面取りがC面取りの場合、
軸穴に軸を圧入するときの抵抗が大きく、高い挿入圧が必要になることがある。
【0006】
これに対し、特許文献1が開示している2段面取りは、軸穴の開口縁に適用すると面取りした面の傾きが軸穴の奥側できつくなるため、軸穴に対する軸の挿入抵抗を低減する効果がある。しかしながら、この2段面取りも機械加工して施すので、加工コストの問題は解消されない。
【0007】
なお、焼結部品の軸穴の縁に設ける面取り部を、原料粉末を成形する圧粉成形工程において金型で成形して設けることは、金型の耐久性確保が難しいため行われていない。例えば、図8の面取り部4を金型で成形しようとすると、先端に設ける面取り部4の成形部を45°の角度で尖らせた金型が必要になり、その金型の先端のエッジが欠け易くなって実用に耐える金型を作れない。この問題があることから、従来は面取り部を機械加工して設けており、そのために、上述したコストアップの問題が生じていた。
【0008】
この発明は、金型の寿命低下を抑えながら焼結部品の軸穴の縁などに2段面取りの面取り部を金型成形によって安価に設置できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、内径面又は外径面とそれに隣接した面との交差部に面取り部が設けられ、その面取り部が前記面に連なる第1斜面と、前記内径面又は外径面と第1斜面とにそれぞれ連なる第2斜面の2つで構成され、前記第1斜面と前記内径面又は外径面とのなす角θ1と、前記第2斜面と前記内径面又は外径面とのなす角θ2がθ2<θ1の関係を有する焼結部品の製造方法に以下の構成を加えた。即ち、圧粉体の成形工程において、前記第1斜面を金型で成形して圧粉体に形成し、次いで、圧粉体を焼結し、その後、サイジング工程において前記第2斜面を金型で成形して形成するようにした。
【0010】
この方法は、圧粉体の成形工程において、前記第1斜面とともに、その第1斜面と前記内径面又は外径面の双方に角度をもって連なる、前記内径面又は外径面とのなす角が前記第1斜面のなす角θ1よりも大に設定されたランド、好ましくは部品の軸心に対して直角なランドを金型で成形して圧粉体に形成し、このランドを焼結後のサイジング工程において金型で潰して前記第2斜面を形成すると、圧粉体の成形工程で使用する金型の保護効果を高めやすい。
【0011】
この発明の製造方法は、貫通した軸穴を有する焼結部品を対象にしてその部品の軸穴の一端側と他端側の開口縁に前記面取り部をそれぞれ施すときなどに好適に利用でき、このときには、焼結した部品(焼結体)の軸穴の一端側の開口縁を面取りコーンのテーパ成形面で加圧して一端側の第2斜面を形成し、その後、焼結体のサイジングを実施し、このサイジング工程で軸穴矯正用の金型として段付きコアを使用し、その段付きコアのテーパ成形面で焼結体の他端側の軸穴の開口縁を加圧して他端側の第2斜面を形成すると好ましい。この手順によればサイジングを繰り返さずに済む。
【0012】
この発明の方法で製造される焼結部品は、内径面又は外径面とそれに隣接する面との交差部に面取り部が設けられ、その面取り部が、前記内径面又は外径面に隣接する面に対して鈍角に交わる第1斜面と、一端が前記第1斜面に、他端が前記端面にそれぞれ鈍角に交わる第2斜面とで構成されており、前記第1斜面と第2斜面が共に金型成形された面になっているもの、
或いは、本体部を貫通する軸穴を有し、その軸穴の一端側開口縁と他端側開口縁にそれぞれ面取り部が形成され、その面取り部が、部品の端面に対して鈍角に交わる第1斜面と、一端が前記第1斜面に、他端が前記軸穴の内径面にそれぞれ鈍角に交わる第2斜面とで構成されており、前記第1斜面と第2斜面が共に金型成形された面になっているものとなる。この発明においては、その焼結部品も併せて提供する。
【発明の効果】
【0013】
この発明の方法では、面取り部を構成する第1、第2の2つの斜面のうち、第1斜面を圧粉体の成形工程において形成し、第2斜面は圧粉体焼結後のサイジング工程において別途形成するので、第1斜面成形時の第2斜面設置領域の傾斜角度(前記内径面又は外径面と交差する面を基準にした傾き角)が第2斜面の傾斜角度よりも小さくなる。このために、第1斜面と第2斜面を同時に成形する場合と比べて粉末成形用金型の先端の強度低下が抑えられる。第2斜面の設置領域に上記のランドを設けることでこの領域の傾斜角度を0°(部品の軸心とのなす角は90°)にすることも可能である。
【0014】
また、焼結後の部品に例えば前記ランドが残されたままになると、面取りを行っていないときと同様のエッジがランドの端に生じて面取りの効果が発揮されないので、焼結後に第2斜面を設け、第2斜面成形用の金型でランドを潰して内径面又は外径面との交差部に生じるエッジの角度を鈍くする。このときの金型は、先端にテーパ成形面を有する面取りコーンや、長手途中の外周にテーパ成形面を有するサイジング金型の段付きコアなどでよく、これについても、欠けやすいエッジが形成されることを回避することができ、第2斜面の成形も金型で行うことが可能になる。
【0015】
上記の作用効果により、コスト面で不利な機械加工を行わずに面取り部を形成することが可能になり、加工費が削減されてコストが下がる。
【0016】
なお、前記ランドを部品の軸心に対して直角に形成するものは、金型の先端のランド成形面が軸直角な平面で構成されるため金型の先端に欠けやすい先鋭なエッジができず、金型先端の強化効果がより高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について説明する。図1及び図2に、この発明の方法で製造される焼結部品の一例を示す。この焼結部品1は、リング状をなす本体部2の中心に軸穴3を貫通させて設けており、軸穴3の一端側の開口縁と他端側の開口縁にそれぞれ面取り部4が設けられている。その面取り部4は、焼結部品1の端面5,5に対して鈍角に交わる第1斜面4aと、一端が第1斜面4aに、他端が端面5,5に交差して連なる面(図の部品は軸穴3の内径面6)にそれぞれ鈍角に交わる第2斜面4bとで構成されている。
【0018】
この焼結部品1は、原料粉末の圧粉成形工程、焼結工程、サイジング工程を経て製造され、その製造の過程において前記面取り部4が形成される。
【0019】
図3に、図1の焼結部品1の製造に用いる粉末成形用金型を示す。この金型10は、焼結部品の外周を成形するダイ11と、部品の端面を成形する対向配置の上パンチ12及び下パンチ13と、部品の軸穴を成形するコア14とで構成されている。
【0020】
上パンチ12と下パンチ13は、部品の端面を成形する成形面15の内周側に環状の凸部16を有している。その凸部16は、最大に突出した部分が金型の軸心と直角な平面のランド成形面16bとなっており、そのランド成形面16bの外周と成形面15との間が第1斜面用の傾斜した成形面16aでつながれている。
【0021】
図3の粉末成形用金型で成形して得られる圧粉体の軸穴開口縁の形状を図4に示す。圧粉体7に設けられた軸穴3の開口縁には、部品の端面に対して鈍角に交わる第1斜面4aと、その第1斜面4aと内径面6との間に配置されるランド4cが形成される。図を省略したが、軸穴3の他端側の開口縁部の形状も図4と同じになる。なお、第1斜面4aは、内径面6とのなす角度θ1を150°にしたが、この角度に限定されるものではない。
【0022】
圧粉成形工程を経て得られた圧粉体は焼結炉に導入して焼結し、その後に、得られた焼結体8のランド4cを金型で潰す。
【0023】
図5は、焼結体に形成された未完成面取り部を仕上げるために使用する面取りコーン17とサイジング用の段付きコア18を示している。サイジングを行う前に面取りコーン17を使用して焼結体9の一端側の軸穴開口縁を加工する。面取りコーン17はテーパ成形面17aを有しており、そのテーパ成形面17aでランド4cが形成された部分を加圧して塑性変形させ、一端側の面取り部に図6に示す第2斜面4bを形成する。その後、焼結体のサイジングを実施し、このサイジング工程で軸穴矯正用の金型として図5に示すような段付きコア18を使用し、その段付きコア18の長手途中に存在するテーパ成形面18aで焼結体8の他端側の軸穴開口縁を加圧して他端側の第2斜面4bを形成する。その第2斜面4bは、軸穴3の内径面6とのなす角度θ2を30°にしたが、その角度θ2が45°では一般的なC面取りと差がなく、2段面取りにする効果が発揮されないので、この傾き角θ2は45°以下にするのがよい。
【0024】
以上の工程を経ると、軸穴3の両端の開口縁に図6に示した2段面取りの面取り部4が形成され、完成した焼結部品1が得られる。
【0025】
なお、焼結部品の一端面側の面取り部の第2斜面と、他端面側の面取り部の第2斜面は、両方とも面取りコーンで形成することができる。
また、以上の説明は、貫通した軸穴を有する焼結部品を対象にしてその部品の軸穴の一端側と他端側の開口縁に前記第1斜面と第2斜面を有する面取り部をそれぞれ施す場合を例に挙げて行ったが、焼結部品の端面の外周縁などに縁の欠け防止などを目的として面取り部を形成するときにも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の方法で製造される焼結部品の一例を示す平面図
【図2】図1の焼結部品の軸穴開口縁に設けた面取り部を拡大して示す断面図
【図3】図1の焼結部品の製造に用いる粉末成形用金型の要部の断面図
【図4】図3の金型で成形された圧粉体の軸穴開口縁部の拡大断面図
【図5】面取り部の第2斜面を形成する面取りコーンと段付きコアの正面図
【図6】仕上げられた面取り部を拡大して示す断面図
【図7】焼結部品の従来例を示す平面図
【図8】図7の焼結部品の断面図
【符号の説明】
【0027】
1 焼結部品
2 本体部
3 軸穴
4 面取り部
4a 第1斜面
4b 第2斜面
4c ランド
5 端面
6 端面と交差する面(内径面)
7 圧粉体
8 焼結体
10 粉末成形用の金型
11 ダイ
12 上パンチ
13 下パンチ
14 コア
15 成形面
16 凸部
16a 第1斜面用成形面
16b ランド成形面
17 面取りコーン
17a テーパ成形面
18 段付きコア
18a テーパ成形面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径面(6)又は外径面とそれに隣接した面(5)とが交差したコーナ部に面取り部(4)が設けられ、その面取り部(4)が前記面(5)に連なる第1斜面(4a)と、前記内径面(6)又は外径面と第1斜面(4a)とにそれぞれ連なる第2斜面(4b)の2つで構成され、前記第1斜面(4a)と前記内径面(6)又は外径面とのなす角θ1と、前記第2斜面(4b)と前記内径面(6)又は外径面とのなす角θ2がθ2<θ1の関係を有する焼結部品の製造方法であって、
圧粉体の成形工程において、前記第1斜面(4a)を金型で成形して圧粉体(7)に形成し、次いで、圧粉体(7)を焼結し、その後、サイジング工程において前記第2斜面(4b)を金型で成形して形成することを特徴とする焼結部品の製造方法。
【請求項2】
圧粉体の成形工程において、前記第1斜面(4a)とともに、その第1斜面(4a)と前記内径面(6)又は外径面の双方に角度をもって連なる、前記内径面(6)又は外径面とのなす角が前記第1斜面(4a)のなす角θ1よりも大に設定されたランド(4c)を金型で成形して圧粉体(7)に形成し、このランド(4c)を焼結後のサイジング工程において金型で潰して前記第2斜面(4b)を形成することを特徴とする請求項1に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項3】
前記ランド(4c)を、そのランドが交差する前記内径面(6)又は外径面に対して直角に形成する請求項2に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項4】
貫通した軸穴(3)を有する焼結部品の前記軸穴(3)の一端側の開口縁と他端側の開口縁に、前記第1斜面(4a)と第2斜面(4b)を有する面取り部(4)をそれぞれ施す請求項1〜3のいずれかに記載の焼結部品の製造方法。

【請求項5】
軸穴(3)の両端の開口縁にそれぞれ前記第1斜面(4a)が形成されている圧粉体(7)を焼結し、次いで、得られた焼結体(8)の前記軸穴(3)の一端側の開口縁を面取りコーン(17)のテーパ成形面(17a)で加圧して一端側の第2斜面(4b)を形成し、その後、焼結体(8)のサイジングを実施し、このサイジング工程で軸穴矯正用の金型として段付きコア(18)を使用し、その段付きコア(18)のテーパ成形面(18a)で焼結体の他端側の軸穴の開口縁を加圧して他端側の第2斜面(4b)を形成する請求項4に記載の焼結部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造された焼結部品であって、内径面(6)又は外径面とそれに隣接する端面(5)との交差部に面取り部(4)が設けられ、その面取り部(4)が、前記端面(5)に対して鈍角に交わる第1斜面(4a)と、一端が前記第1斜面(4a)に、他端が前記内径面(6)又は外径面にそれぞれ鈍角に交わる第2斜面(4b)とで構成されており、前記第1斜面(4a)と第2斜面(4b)が共に金型成形された面になっている焼結部品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法で製造された焼結部品であって、本体部(2)を貫通した軸穴(3)を有し、その軸穴(3)の一端側開口縁と他端側開口縁にそれぞれ面取り部(4)が設けられ、その面取り部(4)が、部品の端面(5)に対して鈍角に交わる第1斜面(4a)と、一端が前記第1斜面(4a)に、他端が前記軸穴(3)の内径面(6)にそれぞれ鈍角に交わる第2斜面(4b)とで構成されており、前記第1斜面(4a)と第2斜面(4b)が共に金型成形された面になっている焼結部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−62560(P2009−62560A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229664(P2007−229664)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)
【Fターム(参考)】