説明

熱交換器用伝熱管およびその製造方法

【課題】 熱交換効率に優れ、かつ小径の伝熱管及び熱交換器を提供する。
【解決手段】 管内面の突起の底部の幅W2と前記管内面の突起の幅W1との比W2/W1が0.5〜4.0である伝熱管。前記管外面に形成される断面略三角形の螺旋溝の深さHgが0.01〜0.50mm、頂角αgが30〜130°であり、管内面に形成される突起の幅W1が0.10〜0.5mm、高さHfが0.10〜0.40mm、頂角αfが5〜60°、ねじれ角βfが0〜50°である伝熱管。伝熱管の内径dが5〜10mmである伝熱管。管内面の突起を形成した後、管外面の溝を形成する伝熱管の製造方法。管外面の溝を形成した後、管内面の突起を形成する伝熱管の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱交換器用伝熱管とその製造方法に関するものであり、さらに具体的には、管の外面に冷媒が液膜状で流下して、管内を流れる冷水あるいは冷却水と熱交換する流下液膜式の熱交換器に用いられる伝熱管とその製造方法に関すものである。
【背景技術】
【0002】
例えば吸収式冷凍機などの蒸発器では、伝熱管を多列状かつ上下方向へ多段になるように水平に設置し、上下方向に隣合う伝熱管相互の端部を連通させ、蒸発器内を減圧状態に保ち、伝熱管内に水を流しながら当該伝熱管に対して上方の凝縮器から供給される冷媒(水)を滴下ないし散布する。そして、冷媒が伝熱管群の表面を流下して蒸発する際の潜熱により、管内の流水を冷却するように構成されている。
【0003】
他方吸収器では、伝熱管を多列状かつ上下方向へ多段になるように水平に設置し、上下方向に隣り合う伝熱管相互の端部を連通させ、伝熱管内に冷却媒体(水)を流しながら、当該伝熱管に対して再生器から冷却用の熱交換器を経て供給される吸収液(臭化リチュウム水溶液)が滴下ないし散布される。そして、吸収液は伝熱管群の表面を流下する際に蒸発器で蒸発した冷媒蒸気を吸収した後、再生器へ送られる。吸収器の伝熱管内の冷却媒体は、冷媒蒸気の吸収により温度上昇する吸収液を冷却した後、凝縮器の伝熱管へ送られるように構成されている。
【0004】
前述のような構造の蒸発器や吸収器は、吸収式冷凍機内で占める容積比率が大きく、その小型化のためには蒸発器や吸収器で使用される伝熱管をより高性能化することが必要である。
【0005】
蒸発器や吸収器に使用する伝熱管として、伝熱管の外面に螺旋溝を有し内面に螺旋突起を有する伝熱管の例がある(例えば、特許文献1)。また、伝熱管の外周に凸部と凹部が繰り返し形成された螺旋状のフィンが形成され、さらに凸部の頂部と凹部の底部の間に段差を有する伝熱管の例がある(例えば、特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】実開昭63−54976号公報
【特許文献2】特開2000−283678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、熱交換器の小型化が要求されており、それに伴い伝熱管の外径が10mm以下のような小径化の必要が出てきた。しかし、図9に示す従来の製造方法では管外面の溝と管内面の突起を同時に形成させているため、材料が溝付プラグの凹部の方に流れ込まないので突起が形成されない、管外面の溝深さ及び管内面の突起高さをそれぞれ独立に調整できない、管外面と管内面で必要となる押圧力が異なるため工具の摩耗を早める、などの問題が発生し、熱交換効率、製造コストに悪影響を及ぼす問題が出てきた。
【0008】
本願発明の目的は、熱交換器用伝熱管について、小径でかつ熱交換効率に優れる伝熱管及び前記伝熱管を安価に提供できる製造技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載発明は、管外面に管軸に対してねじれ角を持つ断面略三角形の螺旋溝を有すると共に管内面に管軸に対してねじれ角を持つ螺旋突起が形成された熱交換器用の伝熱管であって、前記管内面の突起の底部の幅W2と前記管内面の突起の幅W1との比W2/W1が0.5〜4.0であることを特徴とする熱交換器用伝熱管である。
【0010】
請求項2記載発明は、請求項1記載の伝熱管であって、前記管外面に形成される断面略三角形の螺旋溝の深さHgが0.01〜0.50mm、頂角αgが30〜130°であり、管内面に形成される突起の幅W1が0.10〜0.5mm、高さHfが0.10〜0.40mm、頂角αfが5〜60°、ねじれ角βfが0〜50°であることを特徴とする熱交換器用伝熱管である。
【0011】
請求項3記載発明は、請求項1又は2記載の伝熱管であって、前記伝熱管の内径dが5〜10mmであることを特徴とする熱交換器用伝熱管である。
【0012】
請求項4記載発明は、請求項1乃至3記載のいずれかの伝熱管の製造方法であって、管内面の突起を形成した後、管外面の溝を形成することを特徴とする伝熱管の製造方法である。
【0013】
請求項5記載発明は、請求項1乃至3記載のいずれかの伝熱管の製造方法であって、管外面の溝を形成した後、管内面の突起を形成することを特徴とする伝熱管の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の伝熱管とその製造方法によれば、内面の突起と外面の溝を同時に加工しないため、管外面の溝深さ及び管内面の突起高さをそれぞれ独立に調整可能となり、かつ管外面と管内面で必要となる押圧力を独立に調整可能であるため、工具の摩耗を抑制し、熱交換効率に優れ、かつ小径の伝熱管を提供できる。依って、産業上顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は上記の課題を解決するためなされたものであり、管の外面に管軸に対してねじれ角を持つ断面略三角形の螺旋溝を有すると共に管の内面に管軸に対してねじれ角を持つ螺旋突起が形成された熱交換器用の伝熱管であって、前記螺旋突起の底部の幅W2と前記螺旋突起の幅W1との比W2/W1が0.5〜4.0とすることで熱交換性能の向上と圧力損失の増加のバランスをとり、機器の効率を向上させることができる。
【0016】
本発明について詳細に説明する。図1および図2に本発明の伝熱管1を示した。管外面に断面略三角形の溝2が形成され、管内面には従来よりも幅の狭い突起3が形成されている。
【0017】
本発明の伝熱管の内径dを5〜10mmとしたのは、圧力損失と小型化の観点からである。内径dが5mm未満では熱交換器に組み込んだ状態での性能測定において熱交換性能の向上よりも圧力損失の増加の方が大きくなって結果として機器の効率が低下するという問題が起きる。10mmを超えると曲げ加工時に扁平や割れが生じやすくなるため曲げ半径を小さくできない。このため熱交換器の小型化に対応できないという問題が起きる。好ましくは6〜9mmである。
【0018】
管外面に形成される断面略三角形の螺旋溝は深さHgを0.01〜0.5mmとしたのは、熱交換性能と加工性の観点からである。0.01mm未満では熱交換性能が劣るという問題が起きる。0.5mmを超えると加工時に管が変形してしまうという問題が起きる。好ましくは0.05〜0.4mmである。
【0019】
頂角αgを30〜130°としたのは、溝の形成と熱交換性能の観点からである。30°未満では所定の溝の深さのものが形成できないという問題が起きる。130°を超えると熱交換性能が劣るという問題が起きる。好ましくは60〜100°である。
【0020】
管外面の突起のねじれ角βhは50°以下が好ましい。50°以下であれば突起の形成がより安定して可能となる。好ましくは5〜45°である。
【0021】
管内面の突起の幅W1は0.10〜0.50mmの範囲内にすることが突起形成の観点から望ましい。管内面の突起の幅W1を0.10〜0.50mmとしたのは、0.10mm未満では突起形成時に材料が溝付プラグの凹部に入らず突起を形成できないという問題が起きる。0.50mmを超えると管の外面に凹みができるようになり、外面の溝形成時に悪影響を及ぼすという問題が起きる。好ましくは0.15〜0.40mmである。
【0022】
管内面の突起高さHfを0.10〜0.40mmとしたのは、熱交換性能と突起形成の観点からである。0.10mm未満では熱交換性能が劣るという問題が起きる。0.40mmを超えると突起の形成が安定して行えないという問題が起きる。好ましくは0.15〜0.35mmである。
【0023】
管内面の突起の頂角αfが5〜60°としたのは、突起形成と熱交換性能の観点からである。5°未満では突起の形成が安定してできないという問題が起きる。60°を超えると熱交換性能が劣るという問題が起きる。好ましくは10〜50°である。
【0024】
管内面の突起のねじれ角βfが50°以下としたのは、突起形成の観点からである。50°を超えると突起の形成が安定してできないという問題が起きる。好ましくは5〜45°である。
【0025】
管内面の底部の幅W2と管内面の突起の幅W1との比W2/W1を0.5〜4.0としたのは、圧力損失と熱交換性能の観点からである。0.5未満では熱交換性能は向上するが圧力損失が増加してしまい機器の効率が低下してしまうという問題が起きる。4.0を超えると圧力損失の増加率は小さくなるが熱交換性能が劣るため機器の効率が低下するという問題が起きる。好ましくは1.0〜3.5である。
【0026】
本発明で、管外面に形成する螺旋状の溝を断面略三角形としたのは、伝熱管の軽量化を図る為に底肉厚tの薄肉化をすることを想定したものである。本発明による製造方法では、管外面の溝を形成する時は、管外面からの押圧のみが管にかかっており、管内側に支えとなるものがないので管全体が変形し易くなっている。底肉厚部が薄肉化されると材料強度が弱くなるのでよりいっそう管全体が変形し易くなる。そこで種々の形状を検討した結果、断面略三角形のものが最も加工性が良く、底肉厚部の薄肉化を図れることがわかったからである。
【0027】
図2に示した本発明の伝熱管の断面では、管内面に形成した突起の先端部は円弧状であるが、図3に示すように先端部にフラット部があっても構わない。また、管内面に形成する突起が薄くて加工しにくい場合、突起の根元に図4のような曲面部4や図5のようなテーパー部5を設けても構わない。
【0028】
図6に本発明の伝熱管1の製造方法の一例を示す。溝付プラグ7の配置について、連結棒8を介して連結したフローティングプラグ11とフローティングダイス12により所定の位置に保持するようにしたものである。金属素管10は図示しない駆動装置により矢印の方向に移動する。金属素管10の管内には周面に螺旋状の複数の溝を施した溝付プラグ7が連結棒8を介して所定の位置に回転自在に挿入配置されている。溝付プラグ7が配置された金属素管10の外周部には、外周面が平滑なローラー9が均等に複数配置され、自転及び公転しながら溝付プラグ7が配置された金属素管10の外周面を押圧し、管内面に複数の突起3が螺旋状に形成される。溝付プラグ7が配置された位置より移動方向に間隔を空けた金属素管10の外周部には、外周面に溝が形成されたローラー6が均等に複数配置され、自転および公転しながら管内面に突起3が形成された金属素管10の外周面を押圧し、金属素管10の管外面に複数の断面略三角形の溝2が螺旋状に形成され、本発明の伝熱管1が加工できる。
【0029】
本発明の製造方法では、管内面の突起形成において素管を押圧した時、材料はすべて溝付プラグの方へ流れ込むことになるので従来の製造方法の時より幅の狭い突起の加工が可能である。また、管内面の突起形成と管外面の溝形成を分けているので個別の押圧力調整が可能となり、それぞれ最適な押圧力での加工ができるので過負荷加工状態での加工がなくなり工具の長寿命化が行えるようになった。なお、本実施例では管内面の突起形成にはローラーを使用したが、ボールを使用しても構わない。また、管内面の突起のねじれ方向と管外面の溝のねじれ方向は、本実施例に限定されるものでなく逆方向でも構わない。
【0030】
本発明では、管内面の突起形成の押圧と管外面の溝形成の押圧を分け、管内面の突起を形成した後、管外面の溝を形成するようにした製造方法とすることで、管内面の突起形成時および管内面の突起形成時および管外面の溝形成時にそれぞれ最適な押圧力での加工が可能となり、過負荷状態での加工がなくなり工具の長寿命化が可能となる。
【0031】
図7に、本願発明の製造方法の一例を示す。フローティングダイス12による縮径を行わない方法である。
【0032】
図6、7では内面突起と外面溝を一連に加工しているが、これに限らず、内面突起と外面溝を別々に加工してもかまわない。例えば、金属管の管内面の突起形成だけを行い一旦素管を巻き取り、次いで前記巻き取った管内面突起付管を管外面の溝形成だけを行うことで本発明の伝熱管1を製造できる。
【0033】
本発明の伝熱管は、熱伝導に優れる金属からなる。好ましくは、銅又は銅合金である。また、本発明の伝熱管は熱交換器に用いられるが、例えば蒸発器や吸収器の用途が挙げられる。
【実施例】
【0034】
次に本発明伝熱管と製造方法の効果を確認するため、表1に示す形状の伝熱管を加工し、加工性および熱交換効率と圧力損失について評価した。
【0035】
熱交換性能の測定は図8に示す蒸発器試験装置を使用して行った。密閉容器13内にU字状に5箇所曲げられた本発明の伝熱管1を水平に取り付け、伝熱管1の管内には上部の管端より被冷却水を流すともに、密閉容器13の上部に配置した冷媒管14より冷媒の水を一定間隔で滴下し、被冷却水と熱交換させて伝熱管1の外面で冷媒を蒸発させた。密閉容器13内は冷媒(水)の蒸発温度が約5℃になるよ0.87kPaに減圧し、冷媒流量は1リットル/分、被冷却水流速は1m/secで被冷却水の出口温度が7℃になるように被冷却水の入口温度を調整した。U字状の曲げ半径は5箇所とも15mm、直線部は314mmとした。
【0036】
熱交換効率は熱交換性能向上率ΔQと圧力損失の増加率ΔPの比ΔQ/ΔPを評価した。ΔQ/ΔP≧1では良好、ΔQ/ΔP<1では不良とした。加工性では、突起が安定して形成できるか、管が変形していないか、曲げ加工性が良好か評価した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、本願発明例は優れた特性を有している。これに対し、比較例1は外面の溝深さが小さいため熱交換性能が劣った。比較例2は外面の溝深さが大きいため管が変形し加工できなかった。比較例3は外面の溝頂角が小さいため安定した溝形成ができなかった。比較例4は外面の溝頂角が大きいため熱交換性能が劣った。比較例5は内面の突起幅が小さいため突起が形成できなかった。比較例6は 内面の突起幅が大きいため管外面に凹みが発生し、外面の突起形成時に悪影響を及ぼした。比較例7は内面の突起高さが小さいため熱交換性能が劣った。比較例8は内面の突起高さが大きいため安定した突起の形成ができなかった。比較例9は内面の突起頂角が小さいため安定した突起の形成ができなかった。比較例10は内面の突起頂角が大きいため熱交換性能が劣った。比較例11は 内面の突起のねじれ角が大きいため安定した突起の形成ができなかった。比較例12は底部の幅が小さく、W2/W1が小さいため圧力損失の増加率が熱交換性能の向上率よりも大きくなり、機器の効率が劣った。比較例13は底部の幅が大きく、W2/W1が大きいため圧力損失の増加率が小さくなったが、熱交換性能の向上率も小さくなり機器の効率が劣った。比較例14は内径が小さいため圧力損失が大きくなり、機器の効率が劣った。比較例15は内径が大きいためU字状に加工ができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の伝熱管の実施形態の一例の断面図である。
【図2】本発明の伝熱管の実施形態の一例の断面図である。
【図3】本発明の伝熱管の実施形態の一例の断面図である。
【図4】本発明の伝熱管の実施形態の一例の断面図である。
【図5】本発明の伝熱管の実施形態の一例の断面図である。
【図6】本発明の伝熱管の製造方法の実施形態の一例である。
【図7】本発明の伝熱管の製造方法の実施形態の一例である。
【図8】実施例の測定方法である。
【図9】従来の伝熱管の製造方法の実施形態の一例である。
【符号の説明】
【0040】
1 伝熱管
2 溝
3 突起
4 曲面部
5 テーパ部
6 外周面に溝が形成されたローラー
7 溝付プラグ
8 連結棒
9 外周面が平滑なローラー
10 金属素管
11 フローティングプラグ
12 フローティングダイス
13 密閉容器
14 冷媒管
d 内径
t 底肉厚
Hf 管内面の突起高さ
Hg 管外面の溝深さ
W1 管内面の突起の幅
W2 管内面の底部の幅
αf 管内面の突起の頂角
αg 管外面の溝の頂角
βf 管内面の突起のねじれ角
βh 管外面の突起のねじれ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管外面に管軸に対してねじれ角を持つ断面略三角形の螺旋溝を有すると共に管内面に管軸に対してねじれ角を持つ螺旋突起が形成された熱交換器用の伝熱管であって、前記管内面の突起の底部の幅W2と前記管内面の突起の幅W1との比W2/W1が0.5〜4.0であることを特徴とする熱交換器用伝熱管。
【請求項2】
請求項1記載の伝熱管であって、前記管外面に形成される断面略三角形の螺旋溝の深さHgが0.01〜0.50mm、頂角αgが30〜130°であり、管内面に形成される突起の幅W1が0.10〜0.5mm、高さHfが0.10〜0.40mm、頂角αfが5〜60°、ねじれ角βfが0〜50°であることを特徴とする熱交換器用伝熱管。
【請求項3】
請求項1又は2記載の伝熱管であって、前記伝熱管の内径dが5〜10mmであることを特徴とする熱交換器用伝熱管。
【請求項4】
請求項1乃至3記載のいずれかの伝熱管の製造方法であって、管内面の突起を形成した後、管外面の溝を形成することを特徴とする伝熱管の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3記載のいずれかの伝熱管の製造方法であって、管外面の溝を形成した後、管内面の突起を形成することを特徴とする伝熱管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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