熱交換器
【課題】 フィンに切り起こし片を適切に形成することによって、熱交換効率を向上する。
【解決手段】 冷媒を流す冷媒管11と、該冷媒管11に、管軸方向に間隔をあけて並設された複数の板状のフィン12と、を備えており、フィン12の板面に沿って流れる空気と前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器において、前記フィン12が、板面の一部を切断して折曲することにより形成される切り起こし片15と、切り起こし片15の形成に伴ってフィン12を貫通するように形成される開口16とを、空気の流れ方向に複数備えており、前記切り起こし片15を、フィン12の両面に交互に突出するように折曲する。
【解決手段】 冷媒を流す冷媒管11と、該冷媒管11に、管軸方向に間隔をあけて並設された複数の板状のフィン12と、を備えており、フィン12の板面に沿って流れる空気と前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器において、前記フィン12が、板面の一部を切断して折曲することにより形成される切り起こし片15と、切り起こし片15の形成に伴ってフィン12を貫通するように形成される開口16とを、空気の流れ方向に複数備えており、前記切り起こし片15を、フィン12の両面に交互に突出するように折曲する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒管に複数のフィンを並設している熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱交換器、例えば、冷蔵庫等に用いられるエバポレーターは、冷媒を流す冷媒管に、管軸方向に沿って複数のフィンを間隔をあけて並設し、フィンの板面に沿う方向に空気を送ることによって、空気と冷媒との間で熱交換を行う(例えば、特許文献1参照)。この熱交換の効率を向上するため、従来から、冷媒管やフィンの熱伝達を大きくする試みが色々となされている。
【0003】
フィンの熱伝達を大きくする方法として、フィンを部分的に張り出し加工することによって波形に形成し、空気に触れる表面積を増大させることが考えられる。また、他の方法として、フィンの一部を切断し、折曲することによって切り起こし片を形成し、該切り起こし片に、流動する空気を直接当てるようにすることも考えられる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−133644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、エバポレーターに用いられるフィンは、厚さが約0.15mmと非常に薄い。そのため、上記の如く張り出し加工によって波形に成形すると、フィンを破る可能性があり、波を高く形成するのは困難である。したがって、表面積の増大にも限度があり、さほど熱交換の効率向上は見込めない。
【0006】
また、フィンに切り起こし片を形成する方法では、切り起こし片の向きや角度によっては、空気の流れが阻害され、空気の滞留を招いたり、空気が切り起こし片にほとんど当たらずに高速で通り抜けたりする。このような状態になると、空気とフィンとの間で十分に熱交換がなされなくなる。
【0007】
本発明は、フィンに切り起こし片を適切に形成することによって、熱交換の効率向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、冷媒を流す冷媒管と、該冷媒管に管軸方向に間隔をあけて並設された複数の板状のフィンと、を備えており、フィンの板面に沿って流れる空気と前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器において、前記フィンが、板面の一部を切断して折曲することにより形成される切り起こし片と、切り起こし片の形成に伴ってフィンを貫通するように形成される開口とを、空気の流れ方向に複数備えており、前記切り起こし片が、フィンの両面に交互に突出するように折曲されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記切り起こし片が、空気の流れ方向の上流側から下流側へ、徐々にフィンの板面から離れるように傾斜していることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、同じ形状のフィンを同じ向きに並設して備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明において、フィンの板面に沿って流れる空気は、フィンの一方の面に突出した切り起こし片により流れが抑制され、当該切り起こし片の上流側にある開口を経てフィンの他方の面に流れる。他方の面に流れた空気は、次の切り起こし片によって流れが抑制されると共に、その上流側に隣接する開口を経て、再度一方の面側に流れる。
【0012】
従って、請求項1の発明によれば、フィンの両面側を蛇行するように円滑に空気を流動させることができ、その空気の流速が、直線的に流れる場合に比べて遅くなるため、空気をフィンに長く触れさせることができ、その間に適切に熱交換を行うことができる。これにより、熱交換の効率が向上する。
【0013】
請求項2の発明によれば、空気の流れを過度に抑制することがなく、より円滑に空気を流動させることができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、各フィンの周りで略均一に空気が流動するようになり、熱交換効率が安定する。また、フィンの種類を少なくできるので、コスト低減にも繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る熱交換器の正面図、図2は、同熱交換器の部分斜視図である。この熱交換器10は、主として冷蔵庫に用いられるエバポレーターであり、直管部11Aと曲管部11Bとを組み合わせて蛇行する冷媒管11と、冷媒管11の直管部11Aに、間隔をあけて並設された複数のフィン12とを備えている。冷媒管11およびフィン12は、熱伝導性の高いアルミニウムや銅によって形成される。
【0016】
フィン12は、長方形の薄板材である。フィン12の上下中央部には、前後2本の冷媒管11が貫通し、固定されている。フィン12には、複数の切り起こし片15が形成されている。
【0017】
図3は、フィンの正面図(一部断面図)であり、図4は、フィンの側面図である。切り起こし片15は、フィン12の上段、中段、下段の上下3カ所に形成され、更に、中段には、2本の冷媒管11を避けるように、前後3カ所に形成されている。全ての切り起こし片15は、長方形状であり、下辺がフィン12の板面に接続されている。切り起こし片15は、フィン12に対して約45°の角度で傾斜している。
【0018】
図3において、上段の切り起こし片15Uは、フィン12の右側に突出し、中段の切り起こし片15Mは、同左側に突出し、下段の切り起こし片15Lは、同右側に突出している。すなわち、各切り起こし片15U,15M,15Lは、フィン12の両面に交互に突出している。
【0019】
フィン12には、切り起こし片15を形成することによって、左右に貫通する開口16が形成されている。
【0020】
図3に示すように、エバポレーター10には、矢印Xのように、下方から上方へ空気が流れる。前記切り起こし片15は、空気の流れ方向Xに関してみれば、上流側から下流側へ向けて徐々にフィン12の板面から離れるように傾斜している。
【0021】
[本実施形態の作用]
以下、本実施形態の作用を、主として、図3の中央に配置されたフィン12Bに着目して説明する。同図において、一番左側のフィンに12A、中間のフィンに12B、右側のフィンに12Cの符号を付している。
【0022】
フィン12Bの左側を流れる空気は、フィン12A下段の切り起こし片15Lと、フィン12B中段の切り起こし片15Mとによって、流れが変向及び抑制され、フィン12B中段の切り起こし片15Mの流れ方向X上流側にある開口16Lを経て、フィン12Bの右側に流れる(矢印b1)。
【0023】
更に、フィン12C中段の切り起こし片15Mと、フィン12B上段の切り起こし片15Uとによって、空気の流れが変向及び抑制され、フィン12B上段の切り起こし片15Uの流れ方向X上流側にある開口16Mを経て、フィン12Bの左側に再び戻る(矢印b2)。その後、そのまま上方に流れるか、又は、フィン12A上段の切り起こし片15Uに変向され、開口16Uを経てフィン12B右側へ流れ、フィン12Bから上方へ抜け出る。
【0024】
したがって、空気は、開口16を経てフィン12の両面側を蛇行するように流れる。このように空気が蛇行することによって、直線的に流れる場合に比べて流速が遅くなり、その間にフィン12との間で適切に熱交換がなされるようになっている。
【0025】
なお、空気の流れは、全てが上記のように開口16を経て蛇行するのではなく、各フィン12間をそのまま通り抜ける流れも生じる。この場合も、各フィン12間へ突出する切り起こし片15によって蛇行しながら流動する。
【0026】
切り起こし片15は、空気の流れ方向Xの上流側から下流側へ、徐々にフィン12の板面から離れるように傾斜しているので、空気の流れが過度に抑制されることもなく、空気を円滑に蛇行させることができる。
【0027】
図3に示すように、各フィン12は、全て同じ形状で、同じ向きに並設されている。これにより、空気が各フィン12の周りを略均一に流れ、安定した熱交換を行うことができる。また、フィン12を1種類で構成できるので、コスト低減も可能になる。
【0028】
[本実施形態のシミュレーション解析]
本願出願人は、本実施形態のフィン12について、コンピュータ上でシミュレーションを行い、性能について解析した。シミュレーションの条件は、次の通りである。
【0029】
(1)本実施形態のフィン12の有効性を検証するため、図7の(A)〜(F)に示す形状も比較例として解析対象にした。(A)〜(F)のフィン12は、それぞれ以下の形状である。
(A)は、切り起こし片や凹凸のない平滑な形状である。
(B)は、上中下段にそれぞれ山(波)17を張り出し加工し、表面積を増大したものである。
(C)は、同じく山を張り出し加工したものであるが、(B)よりも山が高いものである。
(D)は、空気の流れ方向に関して上流側から下流側へ、徐々にフィン12から離れるように傾斜した切り起こし片15を、フィン12の一方側に突出したものである。
(E)は、空気の流れ方向に関して上流側から下流側へ、徐々にフィン12に近づくように傾斜した切り起こし片15を、フィン12の一方側に突出したものである。
(F)は、フィン12に直交する切り起こし片15を、フィン12の一方側に突出したものである。
【0030】
(2)上記(A)の形状を基本モデルとし、これに対する比較として(B)〜(F)および本発明を評価した。
【0031】
(3)図5及び図6に示すように、1枚のフィン12を、上下が貫通した仮想の箱(キャビネット)20内に設置し、キャビネット20の下方から送風する場合を想定した。
【0032】
(4)フィン材質は、A1050(熱伝導率:231W/mK)、寸法は、縦28×横60×厚さ0.15(mm)とした。フィンピッチは、5mm相当とした。
【0033】
(5)銅管(冷媒管)11は、外径8.35mmの銅ブロック(熱伝導率:395W/mK)とし、2本配置した。また、80℃に温度を固定した。
【0034】
(6)雰囲気温度を25℃とし、キャビネット20内への風速を0.5m/s(入口温度25℃)とした。流れ場は、平滑フィンについては層流モデルとした。時間依存性を定常解析とし、流れ場(速度/圧力)と温度場について解析を行った。流体領域は、空気層とし、熱放射は無視した。
【0035】
(7)シミュレーションの解析結果より、キャビネット20の下部(入口)と上部(出口)との熱流量を求め、その差分を総熱流量とした。
【0036】
図8は解析結果を示す表であり、図9は解析結果を示すグラフである。各比較例および本発明のフィン12は同じ寸法であるが、フィン12の表面積は、平滑フィン(比較例A)に比べて波形フィン(比較例B、C)が増大し、その他は同じとなっている。
【0037】
以下、比較例(A)の平滑フィンと、その他フィン(B)〜(F)との比較を説明する。比較例(B)は、比較例(A)と比べて、面積比が1.03と、3%増加し、総熱量比が1.05と5%増加している。また、比較例(C)は、比較例(A)と比べて、面積比が12%増加し、熱量比が8%増加している。
【0038】
比較例(B)(C)は、解析結果からそれなりの効率向上が認められた。しかし、比較例(B)と比較例(C)との面積比の増加に比べ、熱量比の増加の割合は低くなっている。したがって、山17の高さを一層高くしたとしても、それほど熱量比の増加は望めないと考えられる。また、薄板材であるフィン12に、張り出し加工によって高い山17を形成するには、加工上限界があり、熱交換の効率向上も低レベルで限界に達する。
【0039】
比較例(D)は、比較例(A)と比べて熱量比にほとんど差がなかった。これは、図7の(D)に示すように、空気の流れが切り起こし片15に遮られてフィン12の左右両側に分かれ、比較的高速でまっすぐに抜けてしまい(矢印y1、y2)、各切り起こし片15の間では、空気の滞留Zが生じるためと考えられる。つまり、高速で流れる空気は、フィンに触れる時間も短くなるため適切に熱交換がなされず、滞留した空気では、熱交換が促進されないものと考えられる。
【0040】
比較例(E)は、比較例(A)と熱量比が略同等である。この場合も、比較例Dと同じく、フィン12の左右両側を高速で空気が流れ(y1,y2)、各切り起こし片15の間で滞留Zが生じている。
【0041】
比較例(F)についても、比較例(A)と熱量比が略同等である。この場合も、比較例(D)と同じく、フィン12の左右両側を高速で空気が流れ(y1,y2)、各切り起こし片15の間で滞留Zが生じている。
【0042】
本発明の場合、比較例(A)と面積比は同じであるが、熱量比で約1.16となり、約16%の熱交換の効率向上が認められた。本発明では、図6に示すように、切り起こし片15の下側で僅かな滞留Zがみられるが、開口16を経てフィン12の左右を空気が蛇行しているため、その間にフィン12と熱交換が適切になされているものと考えられる。
【0043】
[他の実施形態]
(1)切り起こし片15は、図10に示すように、空気の流れ方向に関して、上流側から下流側へ、徐々にフィン12の板面に近づくように傾斜させることができる。
【0044】
(2)また、切り起こし片15は、図11に示すように、フィンに直交して設けることもできる。
【0045】
(3)本発明の熱交換器は、全てのフィンに切り起こし片を形成しなくてもよく、切り起こし片を形成したフィンと平滑なフィンとを交互に並設したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係る熱交換器の正面図である。
【図2】同熱交換器の部分斜視図である。
【図3】フィンの正面図(一部断面図)である。
【図4】フィンの側面図である。
【図5】シミュレーションのモデルを示す斜視図である。
【図6】同シミュレーションのモデルを示す正面図である。
【図7】同シミュレーションの比較例のモデルを示す正面図である。
【図8】同シミュレーションの解析結果を示す表である。
【図9】同シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【図10】第2実施形態を示すフィンの正面図(一部断面図)である。
【図11】第3実施形態を示すフィンの正面図(一部断面図)である。
【符号の説明】
【0047】
10 熱交換器
11 冷媒管
12 フィン
15 切り起こし片
16 開口
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒管に複数のフィンを並設している熱交換器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱交換器、例えば、冷蔵庫等に用いられるエバポレーターは、冷媒を流す冷媒管に、管軸方向に沿って複数のフィンを間隔をあけて並設し、フィンの板面に沿う方向に空気を送ることによって、空気と冷媒との間で熱交換を行う(例えば、特許文献1参照)。この熱交換の効率を向上するため、従来から、冷媒管やフィンの熱伝達を大きくする試みが色々となされている。
【0003】
フィンの熱伝達を大きくする方法として、フィンを部分的に張り出し加工することによって波形に形成し、空気に触れる表面積を増大させることが考えられる。また、他の方法として、フィンの一部を切断し、折曲することによって切り起こし片を形成し、該切り起こし片に、流動する空気を直接当てるようにすることも考えられる。
【0004】
【特許文献1】特開平5−133644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、エバポレーターに用いられるフィンは、厚さが約0.15mmと非常に薄い。そのため、上記の如く張り出し加工によって波形に成形すると、フィンを破る可能性があり、波を高く形成するのは困難である。したがって、表面積の増大にも限度があり、さほど熱交換の効率向上は見込めない。
【0006】
また、フィンに切り起こし片を形成する方法では、切り起こし片の向きや角度によっては、空気の流れが阻害され、空気の滞留を招いたり、空気が切り起こし片にほとんど当たらずに高速で通り抜けたりする。このような状態になると、空気とフィンとの間で十分に熱交換がなされなくなる。
【0007】
本発明は、フィンに切り起こし片を適切に形成することによって、熱交換の効率向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、冷媒を流す冷媒管と、該冷媒管に管軸方向に間隔をあけて並設された複数の板状のフィンと、を備えており、フィンの板面に沿って流れる空気と前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器において、前記フィンが、板面の一部を切断して折曲することにより形成される切り起こし片と、切り起こし片の形成に伴ってフィンを貫通するように形成される開口とを、空気の流れ方向に複数備えており、前記切り起こし片が、フィンの両面に交互に突出するように折曲されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記切り起こし片が、空気の流れ方向の上流側から下流側へ、徐々にフィンの板面から離れるように傾斜していることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、同じ形状のフィンを同じ向きに並設して備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明において、フィンの板面に沿って流れる空気は、フィンの一方の面に突出した切り起こし片により流れが抑制され、当該切り起こし片の上流側にある開口を経てフィンの他方の面に流れる。他方の面に流れた空気は、次の切り起こし片によって流れが抑制されると共に、その上流側に隣接する開口を経て、再度一方の面側に流れる。
【0012】
従って、請求項1の発明によれば、フィンの両面側を蛇行するように円滑に空気を流動させることができ、その空気の流速が、直線的に流れる場合に比べて遅くなるため、空気をフィンに長く触れさせることができ、その間に適切に熱交換を行うことができる。これにより、熱交換の効率が向上する。
【0013】
請求項2の発明によれば、空気の流れを過度に抑制することがなく、より円滑に空気を流動させることができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、各フィンの周りで略均一に空気が流動するようになり、熱交換効率が安定する。また、フィンの種類を少なくできるので、コスト低減にも繋がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る熱交換器の正面図、図2は、同熱交換器の部分斜視図である。この熱交換器10は、主として冷蔵庫に用いられるエバポレーターであり、直管部11Aと曲管部11Bとを組み合わせて蛇行する冷媒管11と、冷媒管11の直管部11Aに、間隔をあけて並設された複数のフィン12とを備えている。冷媒管11およびフィン12は、熱伝導性の高いアルミニウムや銅によって形成される。
【0016】
フィン12は、長方形の薄板材である。フィン12の上下中央部には、前後2本の冷媒管11が貫通し、固定されている。フィン12には、複数の切り起こし片15が形成されている。
【0017】
図3は、フィンの正面図(一部断面図)であり、図4は、フィンの側面図である。切り起こし片15は、フィン12の上段、中段、下段の上下3カ所に形成され、更に、中段には、2本の冷媒管11を避けるように、前後3カ所に形成されている。全ての切り起こし片15は、長方形状であり、下辺がフィン12の板面に接続されている。切り起こし片15は、フィン12に対して約45°の角度で傾斜している。
【0018】
図3において、上段の切り起こし片15Uは、フィン12の右側に突出し、中段の切り起こし片15Mは、同左側に突出し、下段の切り起こし片15Lは、同右側に突出している。すなわち、各切り起こし片15U,15M,15Lは、フィン12の両面に交互に突出している。
【0019】
フィン12には、切り起こし片15を形成することによって、左右に貫通する開口16が形成されている。
【0020】
図3に示すように、エバポレーター10には、矢印Xのように、下方から上方へ空気が流れる。前記切り起こし片15は、空気の流れ方向Xに関してみれば、上流側から下流側へ向けて徐々にフィン12の板面から離れるように傾斜している。
【0021】
[本実施形態の作用]
以下、本実施形態の作用を、主として、図3の中央に配置されたフィン12Bに着目して説明する。同図において、一番左側のフィンに12A、中間のフィンに12B、右側のフィンに12Cの符号を付している。
【0022】
フィン12Bの左側を流れる空気は、フィン12A下段の切り起こし片15Lと、フィン12B中段の切り起こし片15Mとによって、流れが変向及び抑制され、フィン12B中段の切り起こし片15Mの流れ方向X上流側にある開口16Lを経て、フィン12Bの右側に流れる(矢印b1)。
【0023】
更に、フィン12C中段の切り起こし片15Mと、フィン12B上段の切り起こし片15Uとによって、空気の流れが変向及び抑制され、フィン12B上段の切り起こし片15Uの流れ方向X上流側にある開口16Mを経て、フィン12Bの左側に再び戻る(矢印b2)。その後、そのまま上方に流れるか、又は、フィン12A上段の切り起こし片15Uに変向され、開口16Uを経てフィン12B右側へ流れ、フィン12Bから上方へ抜け出る。
【0024】
したがって、空気は、開口16を経てフィン12の両面側を蛇行するように流れる。このように空気が蛇行することによって、直線的に流れる場合に比べて流速が遅くなり、その間にフィン12との間で適切に熱交換がなされるようになっている。
【0025】
なお、空気の流れは、全てが上記のように開口16を経て蛇行するのではなく、各フィン12間をそのまま通り抜ける流れも生じる。この場合も、各フィン12間へ突出する切り起こし片15によって蛇行しながら流動する。
【0026】
切り起こし片15は、空気の流れ方向Xの上流側から下流側へ、徐々にフィン12の板面から離れるように傾斜しているので、空気の流れが過度に抑制されることもなく、空気を円滑に蛇行させることができる。
【0027】
図3に示すように、各フィン12は、全て同じ形状で、同じ向きに並設されている。これにより、空気が各フィン12の周りを略均一に流れ、安定した熱交換を行うことができる。また、フィン12を1種類で構成できるので、コスト低減も可能になる。
【0028】
[本実施形態のシミュレーション解析]
本願出願人は、本実施形態のフィン12について、コンピュータ上でシミュレーションを行い、性能について解析した。シミュレーションの条件は、次の通りである。
【0029】
(1)本実施形態のフィン12の有効性を検証するため、図7の(A)〜(F)に示す形状も比較例として解析対象にした。(A)〜(F)のフィン12は、それぞれ以下の形状である。
(A)は、切り起こし片や凹凸のない平滑な形状である。
(B)は、上中下段にそれぞれ山(波)17を張り出し加工し、表面積を増大したものである。
(C)は、同じく山を張り出し加工したものであるが、(B)よりも山が高いものである。
(D)は、空気の流れ方向に関して上流側から下流側へ、徐々にフィン12から離れるように傾斜した切り起こし片15を、フィン12の一方側に突出したものである。
(E)は、空気の流れ方向に関して上流側から下流側へ、徐々にフィン12に近づくように傾斜した切り起こし片15を、フィン12の一方側に突出したものである。
(F)は、フィン12に直交する切り起こし片15を、フィン12の一方側に突出したものである。
【0030】
(2)上記(A)の形状を基本モデルとし、これに対する比較として(B)〜(F)および本発明を評価した。
【0031】
(3)図5及び図6に示すように、1枚のフィン12を、上下が貫通した仮想の箱(キャビネット)20内に設置し、キャビネット20の下方から送風する場合を想定した。
【0032】
(4)フィン材質は、A1050(熱伝導率:231W/mK)、寸法は、縦28×横60×厚さ0.15(mm)とした。フィンピッチは、5mm相当とした。
【0033】
(5)銅管(冷媒管)11は、外径8.35mmの銅ブロック(熱伝導率:395W/mK)とし、2本配置した。また、80℃に温度を固定した。
【0034】
(6)雰囲気温度を25℃とし、キャビネット20内への風速を0.5m/s(入口温度25℃)とした。流れ場は、平滑フィンについては層流モデルとした。時間依存性を定常解析とし、流れ場(速度/圧力)と温度場について解析を行った。流体領域は、空気層とし、熱放射は無視した。
【0035】
(7)シミュレーションの解析結果より、キャビネット20の下部(入口)と上部(出口)との熱流量を求め、その差分を総熱流量とした。
【0036】
図8は解析結果を示す表であり、図9は解析結果を示すグラフである。各比較例および本発明のフィン12は同じ寸法であるが、フィン12の表面積は、平滑フィン(比較例A)に比べて波形フィン(比較例B、C)が増大し、その他は同じとなっている。
【0037】
以下、比較例(A)の平滑フィンと、その他フィン(B)〜(F)との比較を説明する。比較例(B)は、比較例(A)と比べて、面積比が1.03と、3%増加し、総熱量比が1.05と5%増加している。また、比較例(C)は、比較例(A)と比べて、面積比が12%増加し、熱量比が8%増加している。
【0038】
比較例(B)(C)は、解析結果からそれなりの効率向上が認められた。しかし、比較例(B)と比較例(C)との面積比の増加に比べ、熱量比の増加の割合は低くなっている。したがって、山17の高さを一層高くしたとしても、それほど熱量比の増加は望めないと考えられる。また、薄板材であるフィン12に、張り出し加工によって高い山17を形成するには、加工上限界があり、熱交換の効率向上も低レベルで限界に達する。
【0039】
比較例(D)は、比較例(A)と比べて熱量比にほとんど差がなかった。これは、図7の(D)に示すように、空気の流れが切り起こし片15に遮られてフィン12の左右両側に分かれ、比較的高速でまっすぐに抜けてしまい(矢印y1、y2)、各切り起こし片15の間では、空気の滞留Zが生じるためと考えられる。つまり、高速で流れる空気は、フィンに触れる時間も短くなるため適切に熱交換がなされず、滞留した空気では、熱交換が促進されないものと考えられる。
【0040】
比較例(E)は、比較例(A)と熱量比が略同等である。この場合も、比較例Dと同じく、フィン12の左右両側を高速で空気が流れ(y1,y2)、各切り起こし片15の間で滞留Zが生じている。
【0041】
比較例(F)についても、比較例(A)と熱量比が略同等である。この場合も、比較例(D)と同じく、フィン12の左右両側を高速で空気が流れ(y1,y2)、各切り起こし片15の間で滞留Zが生じている。
【0042】
本発明の場合、比較例(A)と面積比は同じであるが、熱量比で約1.16となり、約16%の熱交換の効率向上が認められた。本発明では、図6に示すように、切り起こし片15の下側で僅かな滞留Zがみられるが、開口16を経てフィン12の左右を空気が蛇行しているため、その間にフィン12と熱交換が適切になされているものと考えられる。
【0043】
[他の実施形態]
(1)切り起こし片15は、図10に示すように、空気の流れ方向に関して、上流側から下流側へ、徐々にフィン12の板面に近づくように傾斜させることができる。
【0044】
(2)また、切り起こし片15は、図11に示すように、フィンに直交して設けることもできる。
【0045】
(3)本発明の熱交換器は、全てのフィンに切り起こし片を形成しなくてもよく、切り起こし片を形成したフィンと平滑なフィンとを交互に並設したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係る熱交換器の正面図である。
【図2】同熱交換器の部分斜視図である。
【図3】フィンの正面図(一部断面図)である。
【図4】フィンの側面図である。
【図5】シミュレーションのモデルを示す斜視図である。
【図6】同シミュレーションのモデルを示す正面図である。
【図7】同シミュレーションの比較例のモデルを示す正面図である。
【図8】同シミュレーションの解析結果を示す表である。
【図9】同シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【図10】第2実施形態を示すフィンの正面図(一部断面図)である。
【図11】第3実施形態を示すフィンの正面図(一部断面図)である。
【符号の説明】
【0047】
10 熱交換器
11 冷媒管
12 フィン
15 切り起こし片
16 開口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を流す冷媒管と、該冷媒管に管軸方向に間隔をあけて並設された複数の板状のフィンと、を備えており、フィンの板面に沿って流れる空気と前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器において、
前記フィンが、板面の一部を切断して折曲することにより形成される切り起こし片と、切り起こし片の形成に伴ってフィンを貫通するように形成される開口とを、空気の流れ方向に複数備えており、前記切り起こし片が、フィンの両面に交互に突出するように折曲されていることを特徴とする熱交換機。
【請求項2】
前記切り起こし片が、空気の流れ方向の上流側から下流側へ、徐々にフィンの板面から離れるように傾斜している、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
同じ形状のフィンを同じ向きに並設して備えている、請求項1記載の熱交換器。
【請求項1】
冷媒を流す冷媒管と、該冷媒管に管軸方向に間隔をあけて並設された複数の板状のフィンと、を備えており、フィンの板面に沿って流れる空気と前記冷媒との間で熱交換を行う熱交換器において、
前記フィンが、板面の一部を切断して折曲することにより形成される切り起こし片と、切り起こし片の形成に伴ってフィンを貫通するように形成される開口とを、空気の流れ方向に複数備えており、前記切り起こし片が、フィンの両面に交互に突出するように折曲されていることを特徴とする熱交換機。
【請求項2】
前記切り起こし片が、空気の流れ方向の上流側から下流側へ、徐々にフィンの板面から離れるように傾斜している、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
同じ形状のフィンを同じ向きに並設して備えている、請求項1記載の熱交換器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−349208(P2006−349208A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172392(P2005−172392)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000004732)株式会社日本アルミ (64)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000004732)株式会社日本アルミ (64)
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