説明

熱交換器

【課題】専用の固定用部材を用いることなく抗菌部材を低コストで設置可能であり、抗菌部材の設置による熱交換効率の低下を防止し、設計の自由度を高く維持可能な熱交換器を提供する。
【解決手段】少なくとも面状に配列され熱交換媒体が流通する複数のチューブを含む放熱部材を備えた熱交換器において、抗菌成分を保持する吸水性シート基材を放熱部材に対し部分的に着設し、吸水性シート基材に吸水された水分を介して抗菌成分を放熱部材の表面に沿わせて拡散可能に構成したことを特徴とする熱交換器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱交換器に関し、とくに、専用の固定用部材を用いることなく抗菌部材を低コストで設置可能であり、抗菌部材の設置により熱交換効率を低下させることなく、しかも、設計の自由度を高く維持可能な熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器、とくに、空調装置において空気通路内に設けられる蒸発器等の熱交換器においては、従来から細菌やかびの発生を防止する方法が各種提案されている。例えば、特許文献1には、抗菌防かび剤を含浸させた抗菌部材を熱交換器の上端部に設け、抗菌部材の表面に発生した凝縮水により抗菌成分が溶解され、抗菌成分を含む凝縮水が熱交換器表面を流下することにより、抗菌機能を発揮させるようにした熱交換器が開示されている。
【特許文献1】特開2004−361031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に開示された熱交換器においては、抗菌部材の設置部位は熱交換器の上端部のみに限定されており、この抗菌部材の設置により熱交換器全体の設計の自由度が低下するという懸念がある。また、特許文献1に開示されている実施態様においては、抗菌部材を固定するための専用の係止爪や熱伝導板が設けられており、部品コストおよび組立コストの増加を招くおそれがあるとともに、熱交換器の小型化、軽量化が難しくなるという問題があった。
【0004】
そこで本発明の課題は、専用の固定用部材を用いることなく抗菌部材を低コストで設置可能であり、抗菌部材の設置による熱交換効率の低下がたとえ生じたとしても最小限に抑制され、設計の自由度を抗菌部材を設置しない従来技術とほぼ同水準に高く維持可能な熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る熱交換器は、少なくとも面状に配列され熱交換媒体が流通する複数のチューブを含む放熱部材を備えた熱交換器であって、抗菌成分を保持する吸水性シート基材を該放熱部材に対し部分的に着設し、前記吸水性シート基材に吸水された水分を介して前記抗菌成分を前記放熱部材の表面に沿わせて拡散可能に構成したことを特徴とするものからなる。
【0006】
このような熱交換器によれば、抗菌成分を保持する部材として、水分の吸収および放出が容易に可能な吸水性シート基材が用いられているので、一時的に吸収された水分に抗菌成分が溶出された後、速やかにその水分がシート外部へ放出されることが可能となり、抗菌成分が速やかに放熱部材の表面に沿わせて広範囲にわたって拡散される。また、水分の放出が容易であることから、吸水性シート基材内に吸水された水分に抗菌成分が溶出された後その抗菌成分含有水分が順次放出されていくので、吸水性シート基材は大きな水分保持機能を有する面積の広い部材に構成される必要はなく、熱交換性能に影響を及ぼさない部位に部分的に設置されればよい。したがって、熱交換器自体の熱交換効率の低下が防止されるか、たとえあってもその熱交換効率の低下が最小限に抑えられる。
【0007】
本発明に係る吸水性シート基材は、水分の吸収および放出が容易に可能であるため、抗菌成分の拡散をさまざまな形態で実現可能である。例えば、放熱部材の表面に膜状の水層が形成され、水層の一部が吸水性シート基材と接している場合、抗菌成分が水層へと溶出されて拡散し、抗菌成分の効果が水層全体に対して発揮される。また、放熱部材の表面に水の流路が形成されている場合、吸水性シート基材を上流に配置することにより、抗菌成分が溶出された水が放熱部材の表面に形成された流路を流れることとなり、放熱部材の表面における抗菌成分の拡散が達成される。なお、上記の流路を通過する水流は、連続的な水流であってもよいし、離散的な水流(例えば、放熱部材の表面を断続的に滴下する水滴等)であってもよい。
【0008】
本発明に係る吸水性シート基材は、上述の如く、抗菌成分の拡散をさまざまな形態で実現可能であるため、熱交換器の利用形態に応じた設置方法を選択することが可能である。また、シート形態であることから、設置スペースが小さくて済むとともに、設置部位に対応した大きさや形状への加工が容易であり、熱交換器の設計の自由度を従来の抗菌部材を設置しない場合とほぼ同様の高い水準に維持することが可能となり、吸水性シート基材の設置による製造コストの上昇や熱交換器周辺機器への影響が抑制される。
【0009】
本発明に係る吸水性シート基材において、抗菌成分を拡散させるための水分としては、とくに限定されないが、放熱部材表面に結露した凝縮水を利用することができる。凝縮水の流水径路を利用して抗菌成分を拡散させることにより、抗菌成分の拡散のための流路を新たに設ける必要がなくなり、熱交換器の製造コストの上昇が抑制される。
【0010】
本発明に係る吸水性シート基材は、設置形態についてはとくに限定されない。例えば、吸水性シート基材が放熱部材であるチューブ配列面に対し部分的に着設されている場合、吸水性シート基材は接着もしくは締結によりチューブ配列面上に固定されていてもよいし、チューブ配列面に固定するための固定用部材が用いられていてもよい。しかしながら、設置作業の容易性および部品コスト削減の観点から、吸水性シート基材は、専用の固定用部材を追加することなく、チューブ配列面に対し非接合的に着設されていることが好ましい。このような設置形態としては、例えば、チューブ配列面の端部近傍部位に断熱シール部材が備えられている熱交換器において、断熱シール部材とチューブとの間に吸水性シート基材を介装させる形態等が挙げられる。
【0011】
また、本発明に係る放熱部材は、上記複数のチューブのみに限定されず、例えば、チューブ配列方向端部に設けられたエンドプレート、複数のチューブの端部が接続されたヘッダ、各チューブ間に備えられたフィン等が含まれていてもよい。このようなチューブ以外の放熱部材においても、吸水性シート基材は、上述のように、専用の固定用部材を追加することなく放熱部材に対し非接合的に着設されていることが好ましい。このような設置形態としては、例えば、放熱部材としてチューブ配列方向端部にエンドプレートが設けられ、エンドプレートの表面の少なくとも一部に対しシール部材が配置されている熱交換器において、シール部材とエンドプレートとの間に吸水性シート基材を介装させる形態等が挙げられる。
【0012】
本発明に係る吸水性シート基材の設置部位はとくに限定されない。例えば、吸水性シート基材を熱交換器の下端部に配置した場合、上述の如く、チューブの表面に形成された水層を介して抗菌成分の上方への拡散を達成することが可能である。また、吸水性シート基材を熱交換器の上端部に配置し、上述の如く、チューブの表面に形成された水分の流路(例えば、断続的に滴下する水滴等)を抗菌成分の拡散径路として利用することも可能である。
【0013】
本発明に係る吸水性シート基材の素材はとくに限定されないが、水分の吸収性および放出性に優れるという観点から、不織布またはメッシュからなることが好ましい。
【0014】
上記吸水性シート基材は、例えば、少なくとも2枚の吸水性シート材が積層され、抗菌成分を保持する抗菌シートが、積層された吸水性シート材間に介装されている構成とすることができる。このような構成は吸水性シート材および抗菌シートのみで構成可能であるため、製造が容易であり、吸水性シート基材の製造コスト、加工コスト、部品コストが低減できる。
【0015】
本発明に係る抗菌成分としては、とくに限定されないが、例えば、無機系抗菌成分、有機系抗菌成分、天然系抗菌成分等が挙げられる。
【0016】
上述の無機系抗菌成分としては、とくに限定されないが、例えば、Ag、Cu、Zn、Ti等の金属イオン、もしくはそれらの金属イオンからなる化合物が挙げられる。これらの無機系抗菌成分を用いることにより、人体への影響が小さく安全性に優れた吸水性シート基材が実現可能である。また、上述の金属イオンは水への溶解度が高く、抗菌成分をチューブの表面へ速やかに拡散させることができる。
【0017】
上述の有機系抗菌成分としては、とくに限定されないが、例えば、ピリジオン、チアベンダゾール等が挙げられる。これらの有機系抗菌成分は化学的に合成可能であるため安価であり、吸水性シート基材の製造コストを低減できる。
【0018】
上述の天然系抗菌成分としては、とくに限定されないが、例えば、カテキン、キトサン、アリルイソチオシアネート、オゾン等が挙げられる。これらの天然系抗菌成分は人体および環境への影響が小さく、とくに環境負荷の少ない吸水性シート基材を実現可能である。オゾンの保持方法としては、例えば、オゾン溶解水を吸水性シート基材に吸水させて保持する方法等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る熱交換器の用途はとくに限定されないが、熱交換時において凝縮水がチューブの表面へ結露する、冷凍回路内に設けられた蒸発器に適用して好適なものであり、とくに、設置スペースの制約が厳しく高い設計の自由度が要求される、車両空調装置用の冷凍回路内に設けられた蒸発器として好適なものである。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明に係る熱交換器によれば、設計の自由度を維持しつつ抗菌機能の付与が可能な熱交換器を低コストで実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る熱交換器の外観を示しており、とくに、チューブ配列面の端部近傍部位に断熱シール部材が備えられている熱交換器において、断熱シール部材とチューブとの間に吸水性シート基材が非接合的に介在された構造を示している。なお、図1(A)においては熱交換器の下端部に、図1(B)においては熱交換器の上端部に、それぞれ吸水性シート基材が備えられている。
【0022】
図1において、熱交換器1には、面状に配列され熱交換媒体が流通する複数のチューブ2と、複数のチューブの端部が接続される2本のヘッダ3とが備えられており、ヘッダ3の一方には、熱交換媒体の導入路4および導出路5が設けられている。チューブ2配列面の端部近傍部位およびヘッダ3の外周面上には断熱シール部材6が備えられており、断熱シール部材6とチューブ2との間には吸水性シート基材7が非接合的に介在されている。
【0023】
図2は、本発明の一実施態様に係る熱交換器の外観を示しており、とくに、チューブ配列面の端部近傍部位に断熱シール部材が備えられ、チューブ2配列方向端部にエンドプレート11が設けられ、エンドプレート11に対しシール部材12が配置された熱交換器への適用例を示している。図2において、熱交換器1の下部に備えられた断熱シール部材6aとチューブ2下端部との間には吸水性シート部材7aが、熱交換器1の上部に備えられた断熱シール部材6bとチューブ2上端部との間には吸水性シート部材7bが、シール部材12とエンドプレート11との間には吸水性シート部材7cが、それぞれ非接合的に介在されている。その他の構成は図1(A)に示した実施態様と同様であるので、図1(A)と同一の符号を付すことにより説明を省略する。図2に示すように、吸水性シート基材7は、複数の放熱部材に対する抗菌機能の発揮を可能とすべく、複数の放熱部材のそれぞれに対して部分的に着設されていてもよい。上述の如く、吸水性シート基材7は設置部位に対応した大きさや形状への加工が容易であり、しかも省スペースであるため、熱交換器1の設計の自由度を高い水準に維持しつつ吸水性シート基材7を複数箇所へ設置することが可能であり、吸水性シート基材7の設置による製造コストの上昇や熱交換器1周辺機器への影響は最小限に抑制される。
【0024】
図3は、図1(A)に示した熱交換器のチューブ下端部近傍部位における概略縦断面を示しており、とくに、冷凍回路内において蒸発器として設けられた熱交換器の動作を示している。図3の熱交換器1において、チューブ2の下端部近傍には断熱シール部材6が備えられており、チューブ2および断熱シール部材6の間には吸水性シート基材7が介在されている。蒸発器としての熱交換器1が稼動すると、チューブ2内を流通する冷媒(熱交換媒体)の蒸発熱によってチューブ2が冷却され、チューブ2を通過する空気との間で熱交換(空気冷却)が行われるとともに、チューブ2の表面に凝縮水8が結露することがある。凝縮水8は冷却されており容易に蒸発しないため、結露する量が増加するとチューブ2の表面に凝縮水8からなる膜状の水層9が形成される。水層9が発達してその面積が広がり、水層9の下端部が吸水性シート基材7へ接触すると、吸水性シート基材7に保持されていた抗菌成分10が水層9へ溶出し、チューブ2の表面へ拡散される。抗菌成分10が不揮発性であった場合、熱交換器1が停止して凝縮水8および水層9が蒸発すると、拡散された抗菌成分10はチューブ2の表面へ残存し、熱交換器1が再度稼動して凝縮水8からなる水層9が形成されたときに再びチューブ2の表面へ拡散される。したがって、抗菌成分10として不揮発性で化学的に安定な成分を用いることにより、抗菌成分10がチューブ2の表面に維持され、チューブ2の表面全体にわたる持続的な抗菌機能の発揮が可能となる。
【0025】
図4は、図1(B)に示した熱交換器のチューブ上端部近傍部位における概略縦断面を示しており、とくに、冷凍回路内において蒸発器として設けられた熱交換器の動作を示している。図4の熱交換器1において、チューブ2の上端部近傍には断熱シール部材6が備えられており、チューブ2および断熱シール部材6の間には吸水性シート基材7が介在されている。蒸発器としての熱交換器1が稼動すると、チューブ2内を流通する冷媒の蒸発熱によってチューブ2が冷却され、チューブ2の表面に凝縮水8が結露することがある。チューブ2上端部近傍において結露した凝縮水8が吸水性シート基材7に接触すると、吸水性シート基材7に保持された抗菌成分が凝縮水8に溶出する。吸水性シート基材7はチューブ2の上端部近傍に設けられており、かつ、水分を容易に放出可能であるため、抗菌成分10を含有する凝縮水8aは重力により吸水性シート基材7から速やかに放出され、チューブ2の表面を下方へ向かって滴下し、抗菌成分10はチューブ2の表面全体へと拡散される。上述の図2の場合と同様、抗菌成分10が不揮発性であった場合、拡散された抗菌成分10は凝縮水8aの蒸発によってチューブ2の表面へ残存する。したがって、抗菌成分10として不揮発性で化学的に安定な成分を用いることにより、抗菌成分10がチューブ2の表面に維持され、チューブ2の表面全体にわたる持続的な抗菌機能の発揮が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明はあらゆる種類の熱交換器に適用可能であり、とくに、冷凍回路内に設けられた蒸発器として用いられて好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施態様に係る熱交換器の斜視図を示しており、図1(A)は吸水性シート基材が下端部に設けられた熱交換器を、図1(B)は吸水性シート基材が上端部に設けられた熱交換器を、それぞれ示している。
【図2】本発明の一実施態様に係る熱交換器の斜視図を示している。
【図3】図1(A)に示した熱交換器の概略縦断面図である。
【図4】図1(B)に示した熱交換器の概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 熱交換器
2 チューブ
3 ヘッダ
4 導入路
5 導出路
6 断熱シール部材
7 吸水性シート基材
8 凝縮水
8a 抗菌成分を含有する凝縮水
9 水層
10 抗菌成分
11 エンドプレート
12 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも面状に配列され熱交換媒体が流通する複数のチューブを含む放熱部材を備えた熱交換器において、抗菌成分を保持する吸水性シート基材を該放熱部材に対し部分的に着設し、前記吸水性シート基材に吸水された水分を介して前記抗菌成分を前記放熱部材の表面に沿わせて拡散可能に構成したことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記抗菌成分の前記放熱部材表面への拡散が、前記放熱部材表面に結露した凝縮水の媒介によってなされる、請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記チューブ配列面の少なくとも端部近傍部位に断熱シール部材が備えられており、該断熱シール部材と前記チューブとの間に前記吸水性シート基材が介在されている、請求項1または2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記放熱部材が、チューブ配列方向端部に設けられたエンドプレートを含み、該エンドプレートの表面の少なくとも一部に対しシール部材が配置され、該シール部材と前記エンドプレートとの間に前記吸水性シート基材が介在されている、請求項1〜3のいずれかに記載の熱交換器。
【請求項5】
前記吸水性シート基材が少なくとも前記熱交換器の下端部に備えられている、請求項1〜4のいずれかに記載の熱交換器。
【請求項6】
前記吸水性シート基材が少なくとも前記熱交換器の上端部に備えられている、請求項1〜5のいずれかに記載の熱交換器。
【請求項7】
前記吸水性シート基材が不織布またはメッシュからなる、請求項1〜6のいずれかに記載の熱交換器。
【請求項8】
前記吸水性シート基材が少なくとも2枚の吸水性シート材の積層構成を有し、該吸水性シート材間に前記抗菌成分を保持する抗菌シートが介装されている、請求項1〜7のいずれかに記載の熱交換器。
【請求項9】
前記抗菌成分が、Ag、Cu、Zn、Ti、ピリジオン、チアベンダゾール、カテキン、キトサン、アリルイソチオシアネート、オゾンからなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有している、請求項1〜8のいずれかに記載の熱交換器。
【請求項10】
冷凍回路内に設けられる蒸発器からなる、請求項1〜9のいずれかに記載の熱交換器。
【請求項11】
車両空調装置用の冷凍回路内に設けられる蒸発器からなる、請求項10に記載の熱交換器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−112674(P2010−112674A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287686(P2008−287686)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】