説明

熱伝導性エラストマー材料

【課題】従来品に比べ、熱伝導性、制振性、および緩衝性のすべてに優れた熱伝導性エラストマー材料を提供すること。
【解決手段】熱伝導性エラストマー材料1は、マトリクスとなる樹脂組成物3に対して、熱伝導性を付与するための熱伝導性フィラー5を充填した構造になっている。この熱伝導性エラストマー材料1は、100重量部の熱可塑性エラストマーに対し、熱可塑性エラストマーに対する重量比で300〜1000重量部の軟化剤を配合することにより、樹脂組成物3となる部分が形成されており、さらに、熱伝導性フィラー5としては、熱伝導性エラストマー材料1全体に対する体積比で10〜40体積%のピッチ系炭素繊維が配合されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性、制振性、緩衝性に優れた熱伝導性エラストマー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱伝導性のある樹脂組成物としては、熱可塑性樹脂に対して金属系のフィラーを配合したもの(例えば、特許文献1参照。)、熱可塑性樹脂に対してセラミック系のフィラーを配合したもの(例えば、特許文献2参照。)、熱可塑性樹脂に対して有機繊維系のフィラーを配合したもの(例えば、特許文献3参照。)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−328155号公報
【特許文献2】特開平2−311553号公報
【特許文献3】特開平9−255871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、金属系のフィラーが配合された熱伝導性組成物は、一般に、比重が高くて比較的硬いものになるため、制振性や緩衝性に優れた材料とすることは難しい、という問題がある。
【0005】
また、セラミック系のフィラーが配合された熱伝導性組成物は、金属系のフィラーが配合されたものに比べれば、比重を小さくすることができるが、熱伝導率を向上させるには、相応にフィラーの充填量を増大させる必要がある。そのため、熱伝導性組成物を加熱して溶融させても流動性に乏しく、成形性が悪い、という問題がある。また、成形品が脆くなりやすい、という問題もある。
【0006】
さらに、有機繊維系のフィラーが配合された熱伝導性組成物は、軽量ではあるものの、その熱伝導率は最大でも1.0W/(m・K)程度しかなく、熱伝導性能が悪い、という問題がある。
【0007】
つまり、上記のような従来技術では、熱伝導性、制振性、および緩衝性のすべてを改善することは難しい、という問題があった。そのため、例えばモーターやチョークコイルなど、発熱だけでなく振動や振動に伴う騒音を発生する電子部品の場合、熱伝導性、制振性、および緩衝性のすべてに優れた材料で、熱対策や防振対策を行いたい、というニーズがあるが、上記のような従来品では、そのようなニーズに応えることが困難であった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、従来品に比べ、熱伝導性、制振性、および緩衝性のすべてに優れた熱伝導性エラストマー材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
本発明の熱伝導性エラストマー材料は、100重量部の熱可塑性エラストマーに対し、前記熱可塑性エラストマーに対する重量比で300〜1000重量部の軟化剤と、全体に対する体積比で10〜40体積%のピッチ系炭素繊維が配合されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の熱伝導性エラストマー材料において、前記熱可塑性エラストマーは、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、およびスチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)の中から選ばれる一種または二種以上の混合物であると好ましい。
【0011】
また、本発明の熱伝導性エラストマー材料において、前記軟化剤は、パラフィン系プロセスオイル、およびナフテン系プロセスオイルの中から選ばれる一種または二種の混合物であると好ましい。
【0012】
また、本発明の熱伝導性エラストマー材料において、前記ピッチ系炭素繊維は、真密度が1.5〜2.3g/cm3、繊維軸方向の熱伝導率が500W/(m・K)以上、繊維径が5〜15μmであると好ましい。
【0013】
また、本発明の熱伝導性エラストマー材料において、前記熱伝導性エラストマー材料は、JIS A硬度が0〜30、且つ、熱伝導率が1W/(m・K)以上であると好ましい。
【0014】
以下、本発明の構成について、さらに詳しく説明する。
本発明の熱伝導性エラストマー材料によれば、上記のような各成分(熱可塑性エラストマー、軟化剤、ピッチ系炭素繊維)が、本発明で規定する特徴的な配合比で配合されているので、熱伝導性、制振性、および緩衝性のすべてに優れた熱伝導性エラストマー材料となる。この事実は、本件発明者らが、様々な材料を選定して、それらの配合比を変えて試験を繰り返す中で発見するに至った事項である。
【0015】
より詳しく説明すると、本発明において、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマーを利用するとよい。そして、このような熱可塑性エラストマーと上述した300〜1000重量部の軟化剤とを組み合わせることで、きわめて柔らかくて制振性や緩衝性の高い材料を得ることができる。
【0016】
この軟化剤については、その配合量が上記300重量部を下回ると、熱伝導性を確保するために必要となる量のピッチ系炭素繊維を配合した際に、最終的に得られる熱伝導性エラストマー材料が硬くなりすぎる傾向がある。したがって、この場合は、十分な制振性や緩衝性を確保することが困難になる。
【0017】
一方、軟化剤の配合量が上記1000重量部を上回ると、熱伝導性エラストマー材料が柔らかくなりすぎる傾向がある。したがって、この場合は、成形品にした際に形状維持が困難になったり、軟化剤のブリードが発生する要因になる。
【0018】
また、本発明において、ピッチ系炭素繊維としては、粉末状のピッチ系炭素繊維を用いるとよく、例えば、繊維長が10〜200μm、繊維径が5〜15μm程度のピッチ系炭素短繊維を利用するとよく、好ましくは繊維長200μm、繊維径8μmのものが好適である。
【0019】
公知の炭素系フィラーとしては、ピッチ系炭素繊維以外の炭素繊維(例えばPAN系炭素繊維)や、炭素繊維以外のもの(例えば、カーボンブラックや黒鉛)も知られているが、本発明においてはピッチ系炭素繊維を用いることが重要である。ピッチ系炭素繊維以外の炭素系フィラーでは、熱伝導性、制振性、および緩衝性のすべてにおいて、各性能を改善することは難しい。
【0020】
ピッチ系炭素繊維の配合量については、上記10体積%を下回る場合は、十分に高い熱伝導性を発現させることが難しくなる。一方、ピッチ系炭素繊維の配合量が上記40体積%を上回る場合は、最終的に得られる熱伝導性エラストマー材料が硬くなりすぎる傾向があり、十分な制振性や緩衝性を確保することが困難になる。
【0021】
したがって、これらの知見に基づいて、本発明においては上述の如き構成を採用し、その結果、従来品に比べ、熱伝導性、制振性、緩衝性を改善することができたのである。
このような本発明の熱伝導性エラストマー材料であれば、熱対策部品、振動対策部品、衝撃対策部品としての機能を兼ね備えた成形品の材料として利用することができ、特に、これら熱対策、振動対策、衝撃対策などが同時に必要な場合に、効果的な材料となる。
【0022】
例えば、デジタル家電に代表されるエレクトロニクス装置では、電子部品の高速化・高密度化に伴い、電子部品から発生する熱量も増大する傾向にあるが、本発明の熱伝導性エラストマー材料で製造された熱対策部品を利用すれば、電子部品で発生した熱を筐体や放熱機構(金属シャーシや放熱フィンなど)へ効果的に伝達することができ、電子部品の過度な温度上昇を抑制し、電子部品および電子機器自体の動作安定性や信頼性の向上を図ることができる。
【0023】
また、モーターやチョークコイルなど、発熱だけでなく振動や振動に伴う騒音を発生する電子部品に対して、本発明の熱伝導性エラストマー材料で製造された部品を適用する場合、ダンパーとして機能する形態に設計しておくことで、緩衝部品や制振部品として利用できるので、単に放熱を促すだけではなく、同時に振動や騒音を低減する効果も発揮させることができる。
【0024】
例えば、ハードディスク装置には、ディスクを回転させる「スピンドル・モーター」が組み込まれており、その回転数は4500rpm〜1万5000rpm程度のものが主流となっているが、ここから生じる振動は75Hz〜250Hz程度の振動数となる。これに対し、本発明の熱伝導性エラストマー材料であれば、振動させた際に応答倍率0dBとなる振動数が250Hz以下となる制振部品を製造できるので、ハードディスク装置の振動対策部材を製造するための材料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】板状に成形された熱伝導性エラストマー材料の斜視図。
【図2】(a)は加振装置の構造を示す説明図、(b)は共振曲線の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態について一例を挙げて説明する。
[熱伝導性エラストマー材料の構成]
以下に説明する熱伝導性エラストマー材料1は、図1に示すように、マトリクスとなる樹脂組成物3に対して、熱伝導性を付与するための熱伝導性フィラー5を充填した構造になっている。図1において、熱伝導性エラストマー材料1は、板状に成形されたものが図示されているが、どのような形状に成形するかは任意である。
【0027】
樹脂組成物3は、スチレン系エラストマー(スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS);分子量25万で、スチレン含有量が30重量%のもの)に対して、炭化水素系プロセスオイル(パラフィン系プロセスオイル;40℃における動粘度が32mm2/sのもの)を配合してなる組成物(スチレン系エラストマーを100重量部として、後述する配合比でオイルを添加したもの)である。
【0028】
熱伝導性フィラー5は、粉末状のピッチ系炭素繊維(繊維径8μm、繊維長200μm、真密度が1.5〜2.3g/cm3、繊維軸方向の熱伝導率が500W/(m・K)以上)である。この熱伝導性フィラー5は、樹脂組成物3の原料とミキサーで予備混合した後に、混練機へ投入して樹脂組成物3中に分散させたものである。
【0029】
[性能評価]
次に、上記熱伝導性エラストマー材料1を構成する各成分の配合比を下記表1のように変更して複数種の試料を作製した。
【0030】
【表1】

【0031】
上記表1に示す各試料について性能を評価した。評価項目は以下の4項目とした。
(評価項目1)熱伝導率
熱伝導率は、迅速型熱伝導率計(QTM−500、京都電子工業社製)によって測定した。この熱伝導率については、◎…2.0W/(m・K)以上、○…1.0W/(m・K)以上且つ2.0W/(m・K)未満、×…1.0W/(m・K)未満、以上の3段階評価とした。
(評価項目2)硬度
硬度は、“JIS K 6253”に準拠し、タイプAデュロメータを用いて測定した。この硬度については、◎…20度以下、○…20度を超え且つ30度以下、×…30度を超える、以上の3段階評価とした。
(評価項目3)ゼロクロス
ゼロクロスは、以下のような方法で測定した。まず、試料から、厚み3mm、縦5mm、横5mmのサイズの試験片を4枚切り出した。次いで、図2(a)に示すような加振装置10を準備した。この加振装置10は、所定の周波数の振動を発生して振台11を振動させる装置である。また、400gの荷重板13を準備した。
【0032】
この振台11に4枚の試験片15を載せて、その上からさらに荷重板13を載せて、振台11と荷重板13の間に試験片15を挟み込んで固定した。4枚の試験片15は、荷重板13を4点で支持するように振台11の四隅それぞれに1枚ずつ配置した。
【0033】
次いで、加振装置10を加速度0.4Gで作動させて振台11を振動させた。このとき、2.5min/sweepという掃引条件下において、振動の周波数を5Hzから1000Hzまで変化させた。
【0034】
そして、各試験片15の上部に配置した荷重板13の振動を加速度ピックアップ17で検出し、共振曲線を作製した。なお、この振動試験は、温度23℃という条件で行った。共振曲線の一例を図2(b)に示す。
【0035】
共振曲線は、横軸を周波数(Hz)、縦軸を応答倍率(dB)として、上記加速度ピックアップ17での測定結果に基づいて描かれるグラフで、ゼロクロス点は共振曲線が0dBを示す周波数であり、この周波数以上の周波数では振動伝達を抑制する効果(防振効果)がある。
【0036】
このゼロクロスについては、◎…250Hz以下、○……250Hzを超え且つ300Hz以下、×…300Hzを超える、以上の3段階評価とした。
(評価項目4)総合判定
上記評価項目1,2を判定基準として、◎…熱伝導および硬度ともに「◎」、○…熱伝導および硬度ともに「×」を含まない、×…熱伝導または硬度のいずれかに「×」を含む、以上の3段階評価とした。
【0037】
以上の評価項目についての評価結果を、表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
上記表2に示した評価結果から、試料1〜9については、熱伝導性、制振性、および緩衝性のすべてに優れた熱伝導性エラストマー材料であることがわかる。一方、試料10については、ピッチ系炭素繊維の配合量が50体積%まで高くなったことに起因して、JIS A硬度が目標以上に高くなってしまったため、総合評価としては「×」という結果となった。
【0040】
したがって、この結果からは、100重量部の熱可塑性エラストマーに対し、熱可塑性エラストマーに対する重量比で300〜1000重量部の軟化剤と、熱伝導性エラストマー材料全体に対する体積比で10〜40体積%のピッチ系炭素繊維が配合されていると、熱伝導性、制振性、および緩衝性のすべてに優れた熱伝導性エラストマー材料となることがわかる。
【0041】
[変形例等]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0042】
例えば、上記実施形態では、熱可塑性エラストマー、軟化剤、ピッチ系炭素繊維の配合比について、特定の配合比とされた試料を例示したが、本発明で規定した数値範囲内で配合を行えば、上記実施形態同様、熱伝導性、制振性、および緩衝性のすべてに優れた熱伝導性エラストマー材料を得ることができる。
【0043】
また、上記実施形態においては、熱可塑性エラストマーとして、スチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)を利用する例を示したが、他の熱可塑性エラストマーを利用しても本発明を実施することができる。他の熱可塑性エラストマーの具体例を挙げれば、例えば、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)などのスチレン系エラストマーが好適である。これらのスチレン系エラストマーは、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
また、上記実施形態においては、軟化剤として、パラフィン系プロセスオイルを用いる例を示したが、ナフテン系プロセスオイルを軟化剤として用いてもよい。これらのプロセスオイルについても、パラフィン系、ナフテン系を単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…熱伝導性エラストマー材料、3…樹脂組成物、5…熱伝導性フィラー、10・・・加振装置、11・・・振台、13・・・荷重板、15・・・試験片、17・・・加速度ピックアップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100重量部の熱可塑性エラストマーに対し、前記熱可塑性エラストマーに対する重量比で300〜1000重量部の軟化剤と、全体に対する体積比で10〜40体積%のピッチ系炭素繊維が配合されている
ことを特徴とする熱伝導性エラストマー材料。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーは、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンエチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEPS)、およびスチレンエチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体(SEEPS)の中から選ばれる一種または二種以上の混合物である
ことを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性エラストマー材料。
【請求項3】
前記軟化剤は、パラフィン系プロセスオイル、およびナフテン系プロセスオイルの中から選ばれる一種または二種の混合物である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱伝導性エラストマー材料。
【請求項4】
前記ピッチ系炭素繊維は、真密度が1.5〜2.3g/cm3、繊維軸方向の熱伝導率が500W/(m・K)以上、繊維径が5〜15μmである
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導性エラストマー材料。
【請求項5】
前記熱伝導性エラストマー材料は、JIS A硬度が0〜30、且つ、熱伝導率が1W/(m・K)以上である
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の熱伝導性エラストマー材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−63716(P2011−63716A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215859(P2009−215859)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】