説明

熱処理による密度変化が小さい自動車部品又は電気・電子部品用ポリアミド樹脂

【課題】本発明が解決しようとする課題は、脂肪族直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性を損なうことなく、従来の脂肪族ポリアミド樹脂と比較して熱処理後の密度変化が小さいポリアミド樹脂を提供すること。
【解決手段】ジカルボン酸成分がシュウ酸からなり、ジアミン成分が脂肪族ジアミンからなるポリアミド樹脂であって、固体粘弾性測定により求めたガラス転移温度より高い温度で48時間処理後の密度変化が0.0〜+0.3%であることを特徴とする、熱処理による密度変化が小さい自動車部品又は電気・電子部品用ポリアミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品又は電気・電子部品用ポリアミド樹脂に関する。詳しくは、ジカルボン酸成分が蓚酸であるポリアミド樹脂であって、成形可能温度幅が広く、成形加工性に優れ、かつ低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性などにも優れ、特に熱処理による密度変化が小さく、高温環境下での物性および寸法安定性が要求される自動車部品又は電気・電子部品用ポリアミド樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66などに代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられている。
【0003】
一方では、自動車のエンジンルーム内部品や電気電子用部品などでは、吸水や高温環境下での物性および寸法の変化などの問題点も指摘されている。これらの現象は、一般的に結晶性ポリアミド樹脂は吸水率が高いことや熱処理すると結晶度が増加することにより密度が増加することが原因と考えられている。これらの問題に対しては、使用前に実使用時の平衡吸水率まで吸水させる方法や実使用時以上の温度で熱処理を施す方法などがある。しかし、前記処理を行うことで生産性が低下し、さらにアニール処理では成形品の寸法が変化したり、劣化したりする恐れがあり、吸水およびアニール処理を必要としない、より吸水や熱に対する物性および寸法の安定性に優れたポリアミド樹脂への要求が高まっている。
【0004】
上記の問題を解決する方法としては、耐熱性や耐水性を向上させたポリアミド樹脂が提案されている。例えば、特開2002-220461(特許文献1)には1,9−ノナンジアミンと1,9−ノナンジアミン以外の脂肪族ジアミンとテレフタル酸からなるポリアミドが開示されている。これらのポリアミドは従来のポリアミドに比べて、低吸水で高結晶状態の成形品を提供できるものの、成形品を高温下で使用した場合にさらに結晶化が促進され、密度が変化することにより物性や寸法の変化を生じる恐れがある。
【0005】
一方、ジカルボン酸成分として蓚酸を用いるポリアミド樹脂はポリオキサミド樹脂と呼ばれ、同じアミノ基濃度の他のポリアミド樹脂と比較して融点が高いこと、吸水率が低いことが知られ(特許文献2)、吸水による物性および寸法の変化が問題となっていた従来のポリアミドが使用困難な分野での活用が期待される。
【0006】
これまでに、ジアミン成分として種々の脂肪族直鎖ジアミンを用いたポリオキサミド樹脂が提案されている。例えば、WO2008072754A(特許文献3)では、ジアミン成分として1,9−ノナンジアミン及び2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94〜99:1である混合物を用いた場合のポリオキサミド樹脂が溶融重合による高分子量化が可能であり、成形可能温度幅が90℃以上と広く、溶融成形性に優れ、さらに低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性にも優れることが示されている。
しかし、先行文献においては、ポリオキサミド樹脂に関して、熱処理に対する密度の安定性についての開示はされていない。
【特許文献1】特開2002-220461
【特許文献2】特開2006−57033
【特許文献3】WO2008072754A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、脂肪族直鎖ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性を損なうことなく、従来の脂肪族ポリアミド樹脂と比較して熱処理後の密度変化が小さいポリアミド樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、蓚酸源として蓚酸ジエステルを用い、ジアミン成分が炭素数6〜12の脂肪族ジアミンを用いることにより、ポリオキサミド樹脂に見られる低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性を損なうことなく、従来のポリアミドに比較して熱処理後の密度変化が小さいポリアミド樹脂が得られることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミド樹脂は、低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性に優れ、特に熱処理後の密度変化が小さく、高温環境下での物性および寸法安定性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(1)ポリアミド樹脂の構成成分
本発明のポリアミドは、ジカルボン酸成分が蓚酸であり、ジアミン成分が脂肪族ジアミンであり、前記ジカルボン酸成分とジアミン成分とを縮合させて得られるポリアミド樹脂である。
【0011】
本発明のポリアミドの製造に用いられる蓚酸源としては、蓚酸ジエステルが用いられ、これらはアミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、蓚酸ジメチル、蓚酸ジエチル、蓚酸ジn−(またはi−)プロピル、蓚酸ジn−(またはi−、またはt−)ブチル等の脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジシクロヘキシル等の脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、蓚酸ジフェニル等の芳香族アルコールの蓚酸ジエステル等が挙げられる。
【0012】
上記の蓚酸ジエステルの中でも炭素原子数が3を超える脂肪族1価アルコールの蓚酸ジエステル、脂環式アルコールの蓚酸ジエステル、芳香族アルコールの蓚酸ジエステルが好ましく、その中でも蓚酸ジブチル及び蓚酸ジフェニルが特に好ましい。
【0013】
ジアミン成分としては炭素数6〜12の脂肪族ジアミン、好ましくは炭素数9〜12の脂肪族ジアミン、より好ましくは炭素数9〜10の脂肪族ジアミンを重合することにより低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性、特に熱処理による密度変化の小さいポリアミドが得られる。
【0014】
(2)ポリアミド樹脂の製造
本発明のポリアミド樹脂は、ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができる。本発明者らの研究によれば、ジアミン及び蓚酸ジエステルをバッチ式又は連続式で重縮合反応させることにより得ることができる。具体的には、以下の操作で示されるような、(i)前重縮合工程、(ii)後重縮合工程の順で行うのが好ましい。
【0015】
(i)前重縮合工程:まず反応器内を窒素置換した後、ジアミン(ジアミン成分)及び蓚酸ジエステル(蓚酸源)を混合する。混合する場合にジアミン及び蓚酸ジエステルが共に可溶な溶媒を用いても良い。ジアミン成分及び蓚酸源が共に可溶な溶媒としては、特に制限されないが、トルエン、キシレン、トリクロロベンゼン、フェノール、トリフルオロエタノールなどを用いることができ、特にトルエンを好ましく用いることができる。例えば、ジアミンを溶解したトルエン溶液を50℃に加熱した後、これに対して蓚酸ジエステルを加える。このとき、蓚酸ジエステルと上記ジアミンの仕込み比は、蓚酸ジエステル/上記ジアミンで、0.8〜1.5(モル比)、好ましくは0.91〜1.1(モル比)、更に好ましくは0.99〜1.01(モル比)である。
【0016】
このように仕込んだ反応器内を攪拌及び/又は窒素バブリングしながら、常圧下で昇温する。反応温度は、最終到達温度が80〜150℃、好ましくは100〜140℃の範囲になるように制御するのが好ましい。最終到達温度での反応時間は3時間〜6時間である。
【0017】
(ii)後重縮合工程:更に高分子量化を図るために、前重縮合工程で生成した重合物を常圧下において反応器内で徐々に昇温する。昇温過程において前重縮合工程の最終到達温度、すなわち80〜150℃から、最終的に220℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上280℃以下、更に好ましくは240℃以上270℃以下の温度範囲にまで到達させる。昇温時間を含めて1〜8時間、好ましくは2〜6時間保持して反応を行うことが好ましい。さらに後重合工程において、必要に応じて減圧下での重合を行うこともできる。減圧重合を行う場合の好ましい最終到達圧力は0.1MPa未満〜13.3Paである。
【0018】
(3)ポリアミド樹脂の性状及び物性
本発明から得られるポリアミド樹脂の分子量に特別の制限はないが、ポリアミド樹脂濃度が1.0g/dlの96%濃硫酸溶液を用い、25℃で測定した相対粘度ηrが1.8〜6.0の範囲内である。好ましくは2.0〜5.5であり、2.5〜4.5が特に好ましい。ηrが1.8より低いと成形物が脆くなり物性が低下する。一方、ηrが6.0より高いと溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなる。
【0019】
本発明のポリアミド樹脂は、カルボン酸成分として蓚酸を用い、ジアミン成分として炭素数6〜12の脂肪族ジアミンを用いて重合することで、上記相対粘度を増加させること、すなわち分子量を増加させることが可能である。また、実質的な熱分解の指標である1%重量減少温度(以下、Tdと略す)と融点(以下、Tmと略す)の差(Td−Tm)で表される成形可能温度範囲が、蓚酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミドと比べて拡大し、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上であることができ、さらには90℃以上も可能である。本発明のポリアミド樹脂は、Tdが好ましくは300℃以上、さらに好ましくは320℃以上であり、高い耐熱性を有することを特徴とする。
【0020】
本発明のポリアミド樹脂は熱処理後の密度変化が0.0%〜+0.3%の範囲であり、好ましくは0.0%〜+0.2%の範囲、より好ましくは0.0%〜0.1%の範囲である。熱処理後の密度変化が上記範囲内であることにより、熱処理に対する物性および寸法安定性に優れたポリアミド樹脂が得られる。
【0021】
(4)ポリアミド樹脂に配合できる成分
本発明により得られるポリアミド樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で他のジカルボン酸成分を混合する事が出来る。蓚酸以外の他のジカルボン酸成分としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸、また、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸などを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。さらに、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸を溶融成形が可能な範囲内で用いることもできる。
【0022】
また、本発明から得られるポリアミド樹脂には本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を混合する事が出来る。他のジアミン成分としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらにシクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミン、さらにp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンなどを単独で、あるいはこれらの任意の混合物を重縮合反応時に添加することもできる。
【0023】
また、本発明には本発明の効果を損なわない範囲で、他のポリオキサミドや、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミドなどポリアミド類を混合することが可能である。更に、ポリアミド以外の熱可塑性ポリマー、エラストマー、フィラーや、補強繊維、各種添加剤を同様に配合することができる。
【0024】
さらに、本発明により得られるポリアミド樹脂には必要に応じて、銅化合物などの安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、結晶化促進剤、ガラス繊維、可塑剤、潤滑剤などを重縮合反応時、またはその後に添加することもできる。
【0025】
(5)ポリアミド樹脂の成形加工
本発明により得られるポリアミド樹脂の成形方法としては、射出、押出、中空、プレス、ロール、発泡、真空・圧空、延伸などポリアミドに適用できる公知の成形加工法はすべて可能であり、これらの成形法によってフィルム、シート、成形品、繊維などに加工することができる。
【0026】
(6)ポリアミド成形物の用途
本発明によって得られるポリアミドの成形物は、高温環境下での物性および寸法安定性が要求される、インテークマニホールド、エアクリーナー、レゾネーター、フューエルレール、スロットルボディおよびバルブ、エアフローメーター、ハーネスコネクター、エンジンカバー、シリンダーヘッドカバー、タイミングベルト(チェーンカバー)、タイミングチェーン(ベルト)テンショナーおよびガイド、アルタネーターカバー、ディストリビューターカバー、ブレーキマスターシリンダー、オイルポンプ、オイルフィルター、エンジンマウントなどのエンジンルーム内で使用される部品や、ラジエータコア、ラジエタータンクのトップ及びベース等のラジエタータンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、ウォータージャケットスペーサー、バルブ、サーモスタットケースなどのエンジン冷却系部品などの自動車アンダーフード部品やコネクターや結束バンド、モーターケース、ギヤおよびカムなどの電気電子部品に好適に使用できる。
【実施例】
【0027】
[物性測定、成形、評価方法]
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。なお、実施例中の密度測定、フィルム成形及び熱処理は以下の方法により行った。
【0028】
(1)フィルム成形
東邦マシナリー社製真空プレス機TMB−10を用いて、50mm×50mm×厚さ約0.15mmのシートを圧縮成形した。500〜700Paの減圧雰囲気下260℃で5分間加熱溶融させた後、10MPaで1分間プレスを行い成形した。次に減圧雰囲気を常圧まで戻したのち室温5MPaで1分間冷却固化させて試料を得た。
【0029】
(2)熱処理
ポリアミド樹脂を(1)の条件で成形したシートを500〜700Paの減圧雰囲気下、140℃で48時間処理した。
【0030】
(3)密度測定
(1)の条件で成形した試料およびそれらを(2)の方法で熱処理した試料の密度をJIS K7112の密度勾配管法により測定した。
【0031】
[実施例1]
(i)前重縮合工程:撹拌機、還流冷却器、窒素導入管、原料投入口を備えた内容積が500mlのセパラブルフラスコの内部を純度が99.9999%の窒素ガスで置換し、脱水済みトルエン200ml、2−メチル−1,8−オクタンジアミン24.9530g(0.1577モル)を仕込んだ。このセパラブルフラスコをオイルバス中に設置して50℃に昇温した後、蓚酸ジブチル31.8849g(0.1577モル)を仕込んだ。次にオイルバスの温度を130℃まで昇温し、還流下、5時間反応を行った。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は50ml/分の窒素気流下で行った。
【0032】
(ii)後重縮合工程:上記操作によって得られた前重合物を撹拌機、空冷管、窒素導入管を備えた直径約35mmφのガラス製反応管に仕込み、反応管内を13.3Pa以下の減圧下に保ち、次に常圧まで窒素ガスを導入する操作を5回繰り返した後、50ml/分の窒素気流下210℃に保った塩浴に移し、直ちに昇温を開始した。1時間かけて塩浴の温度を260℃とした後、さらに2時間反応させた。塩浴から取り出し50ml/分の窒素気流下で室温まで冷却してポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミドは強靭なポリマーであった。
【0033】
[実施例2]
(i)前重縮合工程:攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口、放圧口、ポリマー取出口、および直径1/8インチのSUS316製配管によって原料フィードポンプを直結させた原料投入口を備えた5Lの耐圧容器に、シュウ酸ジブチル1048.87g(5.18616モル)を仕込み、耐圧容器内を純度が99.9999%の窒素ガスで3.0MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返した後、封圧下、系内を昇温した。20分間かけて内部温度を100℃にした後、1,9−ノナンジアミン49.26g(0.3112モル)と2−メチル−1,8−オクタンジアミン771.74g(4.8756モル)の混合物(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が6:94)を原料フィードポンプにより流速13ml/分で17分間かけて反応容器内に注入すると同時に昇温した。全量注入直後の耐圧容器内の内圧は、重縮合反応により生成した1−ブタノールによって0.35MPaまで上昇し、内部温度は168℃まで上昇した。
【0034】
(ii)後重縮合工程:注入直後から生成したブタノールの留去を開始し、内圧を0.25MPaに保持したまま、2時間かけて内部温度を235℃にした。内部温度が235℃に達した直後から放圧口より重縮合反応によって生成した1−ブタノールを20分間かけて抜き出した。放圧後、260ml/分の窒素気流下において昇温を開始し、1時間かけて内部温度を260℃にし、260℃において0.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で3MPaに加圧して10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重合物を圧力容器下部より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の重合物はペレタイザーによってペレット化した。得られた重合物は強靭なポリマーであった。
【0035】
[実施例3]
前重合工程において、1,9−ノナンジアミン9.6677g(0.0611モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン22.5581g(0.1425モル)(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が30:70)、蓚酸ジブチル41.1781g(0.2036モル)を仕込んだ以外は実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは強靭なポリマーであった。
【0036】
[実施例4]
前重合工程において、1,9−ノナンジアミン16.1129g(0.1018モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン16.1129g(0.1018モル)(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が50:50)、蓚酸ジブチル41.1781g(0.2036モル)を仕込んだ以外は実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは強靭なポリマーであった。
【0037】
[実施例5]
(i)前重縮合工程:撹拌機、空冷管、窒素導入管、原料投入口を備えた内容積が5リットルのセパラブルフラスコの内部を純度が99.9999%の窒素ガスで置換し、蓚酸ジブチル1211g(5.9871モル)を仕込んだ。この容器を20℃に保ち、攪拌しながら1,9−ノナンジアミン807.6g(5.102モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン142.5g(0.9004モル)を加え(1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンのモル比が85:15)、重縮合反応を行った。なお、原料仕込みから反応終了までの全ての操作は200ml/分の窒素気流下で行った。
【0038】
(ii)後重縮合工程:上記操作によって得られた前重合物を攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口及びポリマー取り出し口を備えた5Lの圧力容器に仕込み、圧力容器内を3.0MPa以上の加圧下に保ち、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返した後、窒素気流及び常圧下、系内を昇温した。1.5時間かけて内部温度を120℃にした。この時、ブタノールの留出を確認した。ブタノールを留出させながら5時間かけて260℃まで昇温し、2時間反応させた。その後、系内を250℃に降温し、攪拌を止め25分間静置した後に系内を窒素で3.5MPaに加圧し、重合物を圧力容器下部より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の重合物はペレタイザーによってペレット化した。得られた重合物は強靭なポリマーであった。
【0039】
[実施例6]
前重合工程において、1,9−ノナンジアミン26.1474g(0.1652モル)、蓚酸ジブチル33.4111g(0.1652モル)を仕込んだ以外は実施例1と同様に反応を行ってポリアミドを得た。得られたポリアミドは強靭なポリマーであった。(1)の方法において温度を270℃とした以外は同様にしてフィルムを成形し、このフィルムおよび(2)の方法で熱処理したフィルムの密度を測定した。
【0040】
[実施例7]
(i)前重縮合工程:攪拌機、温度計、トルクメーター、圧力計、窒素ガス導入口、放圧口、ポリマー取出口、および直径1/8インチのSUS316製配管によって原料フィードポンプを直結させた原料投入口を備えた5Lの耐圧容器に、デカンジアミン875.0g(5.081モル)を仕込み、耐圧容器内を純度が99.9999%の窒素ガスで3.0MPaに加圧した後、次に常圧まで窒素ガスを放出する操作を5回繰り返した後、封圧下、系内を昇温した。45分間かけて内部温度を190℃にした後、蓚酸ジブチルを原料フィードポンプにより流速65ml/分で17分間かけて反応容器内に注入すると同時に昇温した。全量注入直後の耐圧容器内の内圧は、重縮合反応により生成した1−ブタノールによって0.65MPaまで上昇し、内部温度は198℃まで上昇した。
【0041】
(ii)後重縮合工程:注入直後から生成したブタノールの留去を開始し、内圧を0.5MPaに保持したまま、3時間かけて内部温度を250℃にした。内部温度が250℃に達した直後から放圧口より重縮合反応によって生成した1−ブタノールを20分間かけて抜き出した。放圧後、260ml/分の窒素気流下で、1.5時間かけて内部温度を270℃にした後、270℃において0.5時間反応させた。その後、攪拌を止めて系内を窒素で3MPaに加圧して10分間静置した後、内圧0.5MPaまで放圧し、重合物を圧力容器下部より紐状に抜き出した。紐状の重合物は直ちに水冷し、水冷した紐状の重合物はペレタイザーによってペレット化した。得られた重合物は強靭なポリマーであった。(1)の方法において温度を270℃とした以外は同様にしてフィルムを成形し、このフィルムおよび(2)の方法で熱処理したものの密度を測定した。
【0042】
[比較例1]
本発明のポリアミド樹脂に替えてナイロン9T(クラレ製、N1000D−H)を用いてT−ダイ押出成形機でフィルムを成形した。得られたナイロン9Tのフィルムは強靭なフィルムであった。このフィルムおよびそれを(2)の方法で熱処理したものの密度を測定した。
【0043】
[比較例2]
本発明のポリアミド樹脂に替えてナイロン12(宇部興産製、UBESTA 3030XA)を用いてフィルムを成形した。得られたナイロン12のフィルムは強靭なフィルムであった。このフィルムおよびそれを(2)の方法で熱処理したものの密度を測定した。
【0044】
実施例1から7、比較例1および2により得られたポリマーと熱処理による密度変化を表1に示す。実施例1〜7により得られるポリマーは比較例1および2により得られたポリマーより熱処理後の密度変化量(熱処理前後の密度差)が小さいことから、本発明のポリアミド樹脂は熱処理による密度変化が小さい。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のポリアミド樹脂は、低吸水性、耐薬品性、耐加水分解性などに優れ、溶融成形加工性に優れ、特に熱処理による密度変化が小さいので、自動車エンジンルーム内部品の製造に好適に使用できる。また、高温環境下での物性及び寸法安定性が要求される各種自動車部品、電気・電子部品などの用途にも使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分がシュウ酸からなり、ジアミン成分が脂肪族ジアミンからなるポリアミド樹脂であって、固体粘弾性測定により求めたガラス転移温度より高い温度で48時間処理後の密度変化が0.0〜+0.3%であることを特徴とする、熱処理による密度変化が小さい自動車部品又は電気・電子部品用ポリアミド樹脂。
【請求項2】
ジアミン成分が直鎖状の炭素数5〜12の脂肪族ジアミン、及び/または側鎖を有する炭素数6〜12の脂肪族ジアミンからなる請求項1に記載の自動車部品又は電気・電子部品用ポリアミド樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂からなる成形品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂からなる自動車部品又は電気・電子部品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂からなる自動車エンジンルーム内部品、ラジエータタンク部品、又は電気電子機器用コネクター。

【公開番号】特開2011−231167(P2011−231167A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100752(P2010−100752)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】