説明

熱処理炉

【課題】炉体にレンガを用いない熱処理炉を提供する。
【解決手段】被処理体Wを加熱して処理する熱処理炉2において、炉体5の天井部5c、床部5d、及び、側壁5a、5bを、金属製の炉殻層31と、炉殻層31の内側に設けた断熱層32と、断熱層32の内側に設けたセラミックファイバー層33とによって構成した。また、被処理体Wを載せる複数本のレール20A〜20Dを設け、各レール20A〜20Dは、支持部材55、55によって両端部が支持されることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の浸炭処理や窒化処理などに用いられる熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材の熱処理に使用される熱処理炉の炉体は、耐火性を有するレンガ層を備え、レンガ層の外側に断熱材が設けられた構成となっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、従来の熱処理炉にあっては、炉体にレンガを用いると炉壁が厚くなり、炉内の容積を広くできない問題があった。また、シーズニング時にはレンガに吸着されていた酸素が高温により炉内に放出されるため、炉内雰囲気を安定させるまでに時間がかかり、シーズニング時間を短縮することが難しい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−79761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、炉体にレンガを用いない熱処理炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明によれば、被処理体を加熱して処理する熱処理炉であって、炉体の天井部、床部及び側壁が、炉殻層と、前記炉殻層の内側に設けた断熱層と、前記断熱層の内側に設けたセラミックファイバー層とによって構成され、前記炉体内に、被処理体を載せる複数本のレールを設け、前記各レールは、支持部材によって両端部が支持されたことを特徴とする、熱処理炉が提供される。
【0007】
また、前記レールは耐熱鋼製であっても良い。リジェネバーナを用いた加熱器を備えても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炉体を金属製の炉殻層と、断熱層と、セラミックファイバー層とによって構成したことにより、レンガを用いた場合と比較して、炉体の厚さを薄くすることができる。従って、炉体の容積を広くすることができる。炉体を大型化することなく、リジェナバーナを用いた加熱器を備えることができる。さらに、シーズニングの際、炉体にレンガを用いた場合よりも雰囲気を安定させ易くなり、シーズニングに要する時間を短縮することができる。また、レールを耐熱鋼製とし、レールの両端部を支持するようにしたことにより、レンガによる支持が不要になり、レールの下方の温度分布が良好になる。また、リジェナバーナを用いた加熱器にすることにより、電気ヒータより昇温や降温の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】浸炭処理装置の概略断面図である。
【図2】熱処理炉の断面図である。
【図3】図2におけるA−A線による概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。図1に示すように、鋼材である被処理体Wの浸炭処理を行う熱処理装置1は、本発明にかかる熱処理炉2と、油槽室3とを備えている。
【0011】
熱処理炉2の炉体5の前側壁5aには、被処理体Wを搬入させるための搬入口10が設けられている。また、搬入口10を開閉するシャッター11が設けられている。搬入口10の前方には、被処理体Wを載置するテーブル12が設けられている。炉体5の後側壁5bには、被処理体Wを搬出させるための搬出口15が設けられている。また、搬出口15を開閉するシャッター16が設けられている。炉体5と油槽室3は、搬出口15を介して連通するようになっている。炉体5内には、被処理体Wを載せるための4本のレール20A、20B、20C、20Dと、炉体5内の雰囲気を攪拌するファン21と、炉体5内の雰囲気を加熱する加熱器22A、22B、22C、22Dとが設けられている。また、図示はしないが、炉体5内に浸炭ガスや窒素ガスなどを供給する供給路と、炉体5内から排気を行う排気路が設けられている。
【0012】
図2及び図3に示すように、炉体5は、例えば鋼板などの金属製の炉殻層31と、炉殻層31の内側に積層された断熱層32と、断熱層32の内側に積層された耐火性を有するセラミックファイバー層33とによって構成された3層構造になっている。断熱層32としては、シリカ系の材質、例えばマイクロサーム(日本マイクロサーム株式会社製)などを用いると良い。セラミックファイバー層33としては、例えばAl又はSiなどのセラミック材をフェルト状にしたものを用いると良い。このように、断熱層32の内側に耐火層としてセラミックファイバー層33を備えた構造にすると、断熱層32の内側に耐火層としてレンガを備えた構造と比較して、炉体5の厚さを薄くすることができる。従って、炉体5内の容積を広くすることができる。また、断熱層32の内側にセラミックファイバー層33を設けることにより、断熱層32が劣化することを防止できる。さらに、炉体5の前側壁5a、後側壁5b、左側壁5c、右側壁5d、天井部5e及び床部5fを総て断熱層32とセラミックファイバー層33とを備えた構造とすることにより、前側壁5a、後側壁5b、左側壁5c、右側壁5d、天井部5e及び床部5fにおいて均等に蓄熱され、また、炉外に放散される熱も均等になるので、炉体5内の温度分布の均一性を良好にすることができる。さらに、シーズニングの際、炉体5にレンガを用いた場合よりも炉体5内の雰囲気を安定させ易くなり、シーズニングに要する時間を短縮することができる。また、炉体5にレンガを用いた場合、レンガに微量の鉄分が含有されていることにより、浸炭処理時に炉体5内に供給されたCOが作用して、レンガ中にカーボンが蓄積されたり、スーティング現象が生じたりする問題があるが、セラミックファイバーには鉄分が殆ど含まれていないので、カーボンの蓄積やスーティングを抑制させることができる。
【0013】
シャッター11も、炉体5と同様に、炉殻層31と、炉殻層31の内側に積層された断熱層32と、断熱層32の内側に積層されたセラミックファイバー層33とによって構成された3層構造になっている。シャッター11において搬入口10に面する側の周縁部、即ち、セラミックファイバー層33の周縁部には、例えば鋼板などの金属製のシール41が設けられている。一方、前側壁5aにおいて、搬入口10の外側の周縁部、即ち炉殻層31の外面には、例えば鋼板などの金属製のシール42が設けられている。また、シール42に沿って、グラファイトパッキン43が設けられている。これらシール41、42がグラファイトパッキン43を挟んで互いに密着することにより、搬入口10が確実に閉塞されるようになっている。また、シール41によってシャッター11のセラミックファイバー層33の周縁部が保護され、セラミックファイバー層33が損傷することを防止している。
【0014】
シャッター16も、炉体5と同様に、炉殻層31と、炉殻層31の内側に積層された断熱層32と、断熱層32の内側に積層されたセラミックファイバー層33とによって構成された3層構造になっている。シャッター16において搬出口15に面する側の周縁部、即ち、セラミックファイバー層33の周縁部には、例えば鋼板などの金属製のシール45が設けられている。一方、後側壁5bにおいて、搬出口15の外側の周縁部、即ち炉殻層31の外面には、例えば鋼板などの金属製のシール46が設けられている。これらシール45、46が互いに密着することにより、搬出口15が確実に閉塞されるようになっている。また、シール45によってシャッター16のセラミックファイバー層33の周縁部が保護され、セラミックファイバー層33が損傷することを防止している。
【0015】
図2に示すように、レール20A〜20Dは、炉体5内の下部において前後方向に延設されており、また、図3に示すように、左右方向に並べて設けられている。レール20A〜20Dのうち、左右両側に位置するレール20A、20Dは、縦方向に設けられた縦部47と、縦部47から内側に向かって横方向に延びるように設けられた横部48とによって構成されている。また、レール20A、20Dの間に配置されたレール20B、20Cは、断面形状が略I字形状になっており、縦方向に設けられた縦部51と、縦部51の上縁と下縁に沿って横方向に設けられた横部52、53とによって構成されている。被処理体Wは、レール20A、20Dの横部48上面と、レール20B、20Cの横部52上面とによって支持されるようになっている。各レール20A〜20Dは、例えば耐熱鋳鋼などの金属製であり、図2に示すように、支持部材55によって両端部が支持されている。レール20A(20B、20C、20D)の前端部を支持する支持部材55は、炉体5の前側壁5aの炉殻層31に取り付けられている。レール20A(20B、20C、20D)の後端部を支持する支持部材55は、炉体5の後側壁5bの炉殻層31に取り付けられている。このように、レール20A〜20Dを耐熱鋳鋼などによって形成すると、レール20A〜20Dを両端部だけで支持すればよく、中間部で支持する必要が無くなる。即ち、従来のようにレール20A〜20DがSiCなどのセラミックによって形成されている場合、床部に設けたレンガによってレール20A〜20D全体、又はレール20A〜20Dの中間部を下方から支持する必要があったが、レール20A〜20Dを耐熱鋳鋼によって形成した場合、両端部の支持だけで十分であり、レンガによる支持が不要になる。従って、レール20A〜20Dと支持部材55を介して炉外に逃げる熱を少なくすることができ、炉体5の断熱性を向上させることができる。また、セラミックファイバーとレンガが炉体5内に存在すると、セラミックファイバーとレンガとの蓄熱量の相違により温度分布が悪くなる問題が生じるが、レンガによるレール20A〜20Dの支持が不要になるので、そのような心配がなく、炉体5内の温度分布の均一性を良好にすることができる。さらに、レール20A〜20Dの下方の雰囲気の流れが良くなることで、温度分布の均一性がより良好になる。
【0016】
図1に示すように、加熱器22A、22Bは、レール20Aの左側に、前後に並べて設けられている。加熱器22C、22Dは、レール20Dの右側に、前後に並べて設けられている。各加熱器22A〜22Dは、略U字形状のラジアントチューブ57と、ラジアントチューブ57の端部に設けられたリジェナバーナ58とによって構成されている。即ち、リジェナバーナ58から燃焼ガスを噴射させ、ラジアントチューブ57内に燃焼ガスが供給されることにより、炉体5内が加熱されるようになっている。さらに、リジェナバーナ58内には蓄熱体が備えられており、ラジアントチューブ57の一端側から燃焼ガスを噴射させる際、他端側では蓄熱が行われる。この燃焼ガスの噴射と蓄熱を、ラジアントチューブ57の一端側と他端側とで交互に切り換えて行い、蓄熱を利用して熱効率を向上させることができるようになっている。また、ラジアントチューブ57内に冷風を供給することにより、ラジアントチューブ57を迅速に冷却させ、炉体5内を降温させることができる。これにより、電気ヒータよりも降温を迅速に行うことができる。
【0017】
図1に示すように、油槽室3には、被処理体Wを載置させる載置台61と、油槽62とが備えられている。また、被処理体Wを油槽室3内から搬出するための搬出口63が形成されており、搬出口63を開閉するシャッター64が設けられている。搬出口63の後方には、被処理体Wを載置するテーブル65が設けられている。
【0018】
次に、以上のように構成された熱処理装置1を用いた被処理体Wの処理について説明する。先ず、熱処理装置1の操業開始時には、熱処理炉2において、加熱器22A〜22Dの加熱により、炉体5内の昇温とシーズニングを行う。炉体5は断熱層32によって高い断熱性を有するので、昇温を効率的に行うことができる。また、炉体5全体が断熱層32とセラミックファイバー層33とを備えた構造になっているので、炉体5内の温度分布を均一にすることができる。また、セラミックファイバー層33から炉体5内に放出される酸素や水蒸気の量が少ないので、炉体5内の雰囲気を迅速に安定させることができる。従って、昇温とシーズニングに要する時間を短縮することができる。さらに、リジェナバーナ58を用いた加熱器22A〜22Dを使用することにより、電気ヒータを用いて加熱する場合と比較して効率的に加熱することができるので、昇温とシーズニングに要する時間を大幅に短縮することができ、また、加熱に要するコストを削減できる。炉体5内の温度は約850℃程度にする。
【0019】
炉体5内の昇温とシーズニングを行ったら、被処理体Wを熱処理炉2に搬入させる。先ず、被処理体Wをテーブル12に載置して、搬入口10を開口させ、被処理体Wを図示しないプッシャーによって前方から後方に押して、搬入口10を通過させて炉体5内のレール20A〜20D上に被処理体Wを移動させる。そして、プッシャーを炉体5から退出させ、シャッター11によって搬入口10を閉じる。
【0020】
被処理体Wを熱処理炉2に搬入させたら、炉体5内を約950℃程度に昇温させる。そして、被処理体Wが十分に予備加熱されたら、炉体5内に浸炭ガスを供給して、浸炭処理を行う。続いて拡散処理を行った後、炉体5内を降温させながら降温処理を行う。そして、炉体5内を約850℃程度にして、均熱処理を行う。このように浸炭、拡散、降温、均熱などの熱処理を行う間も、炉体5全体が断熱層32とセラミックファイバー層33とを備えた構造になっているため、炉体5内の雰囲気の温度分布を良好に維持することができる。従って、処理むらを防止できる。また、リジェナバーナ58を用いた加熱器22A〜22Dにより、電気ヒータを用いて加熱する場合よりも温度を良好に調節することができる。従って、熱処理炉2における熱処理の時間を短縮することができる。
【0021】
熱処理炉2において均熱処理が終了したら、搬入口10、搬出口15を開いて、搬入口10から炉体5内に図示しないプッシャーを進入させ、被処理体Wをプッシャーによって前方から後方に押して、搬出口15を通過させて炉体5内から油槽室3に被処理体Wを移動させる。そして、被処理体Wを載せた載置台61を下降させ、被処理体Wを油槽62に浸漬させて、油焼入れを行う。その後、被処理体Wを油槽62から引き上げ、搬出口63を開いて被処理体Wを油槽室3から搬出してテーブル65に移動させる。こうして、熱処理装置1における一連の処理が終了する。
【0022】
熱処理装置1の操業終了時には、熱処理炉2において、加熱器22A〜22Dの加熱を停止させ、炉体5内の温度を降温させる。炉体5は、レンガより蓄熱量が少ないセラミックファイバー層33を用いた構造になっており、また、リジェナバーナ58を用いた加熱器22A〜22Dによって迅速に冷却することができるので、炉体5内を迅速に降温させることができる。
【0023】
かかる熱処理装置1によれば、炉体5にレンガを用いず、炉体5を金属製の炉殻層31と、炉殻層31の内側に設けた断熱層32と、断熱層32の内側に設けたセラミックファイバー層33とによって構成したことにより、レンガを用いた場合と比較して、炉体5の前側壁5a、後側壁5b、左側壁5c、右側壁5d、天井部5e及び床部5fの厚さを薄くすることができる。従って、炉体5内の容積を広くすることができる。そのため、炉体5を大型化することなく、リジェナバーナ58を用いた加熱器22A〜22Dを配設することができる。また、炉体5内に搬入可能な被処理体Wの容積を増加させることができ、処理能力を向上させることができる。
【0024】
また、レール20A〜20Dを耐熱鋼製とし、レール20A〜20Dの両端部を支持するようにしたことにより、レンガによる支持が不要になり、レール20A〜20D下方の温度分布が良好になる。シーズニングの際、炉体5にレンガを用いた場合よりも炉体5内の雰囲気を安定させ易くなり、シーズニングに要する時間を短縮することができる。
【0025】
さらに、リジェナバーナ58を用いた加熱器22A〜22Dを使用することにより、電気ヒータを用いて加熱する場合と比較して、昇温や降温を迅速に行うことができる。従って、熱処理炉2における熱処理の時間を大幅に短縮することができる。また、電気ヒータを用いて加熱する場合と比較して、効率的に加熱することができ、加熱に要するコストを削減できる。
【0026】
以上、本発明の好適な実施の形態の一例を示したが、本発明はここで説明した形態に限定されない。例えば、本実施の形態では、熱処理炉2は浸炭処理を行うものとして説明したが、本発明は、窒化処理を行う熱処理炉に適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、鋼材の浸炭処理、窒化処理などを行う熱処理炉に利用できる。
【符号の説明】
【0028】
W 被処理体
1 浸炭処理装置
2 熱処理炉
5 炉体
31 炉殻層
32 断熱層
33 セラミックファイバー層
20A〜20D レール
22A〜22D 加熱器
58 リジェナバーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理体を加熱して処理する熱処理炉であって、
炉体の天井部、床部及び側壁が、炉殻層と、前記炉殻層の内側に設けた断熱層と、前記断熱層の内側に設けたセラミックファイバー層とによって構成され、
前記炉体内に、被処理体を載せる複数本のレールを設け、前記各レールは、支持部材によって両端部が支持されたことを特徴とする、熱処理炉。
【請求項2】
前記レールは耐熱鋼製であることを特徴とする、請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
リジェネバーナを用いた加熱器を備えたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−203767(P2010−203767A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91081(P2010−91081)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【分割の表示】特願2004−265398(P2004−265398)の分割
【原出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】