説明

熱力学サイクルによるアンモニア合成法

【課題】本発明は、窒素と水からアンモニアを合成する新規な方法を提案するものである。
【解決手段】本発明は、(1)循環物質(M)を窒素により窒化物(MN)に形成させる工程(窒化物形成工程)、(2)工程1で得られたMNと、水とにより、アンモニアと、循環物質の酸化物(MO)を得る工程(アンモニア合成工程)、更に(3)MOを分解し、循環物質(M)と酸素にする工程(分解工程)により、窒素と水を原料としてアンモニアを得る方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素と水を原料として多段の熱力学サイクルを組み合わせることによるアンモニア合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンモニア合成は、従来、ハーバーボッシュ法が確立され、肥料の原料となり化学工業のおおいな発展のみならず農業発展の原動力となったのは著名なことである。ハーバーボッシュ法は、鉄を主成分とする触媒を用いて水素と窒素とを400〜600℃、20−40MPaの高圧条件で反応しアンモニアを得るものである。工業触媒としては、鉄にアルミナと酸化カリウムを加えることで鉄の触媒性能を向上させた触媒が用いられている。(非特許文献1)また他の技術としてRu系の触媒を用いることもできることも提案されている例もある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−141399号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】触媒学会編 「触媒便覧」 講談社 2008年12月10日 p.536−539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直近の問題として資源枯渇、地球温暖化を防止する技術が求められている。ハーバーボッシュ法は、原料としていわゆる化石資源を用いるものでありまた高温高圧のプロセスであるためその製造工程でも多くのエネルギーを消費し、多量の資源を用い地球温暖化ガスを排出するものである。この技術に変えて地球上の限られた資源を有効活用し、より持続的な技術を提案することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討の結果下記手段を見出し、発明を完成したものである。本発明の概要は、窒素と水と原料としアンモニアを合成する方法であって、該方法が3以上の工程を経ることを特徴とするアンモニア合成法である。本発明を用いることで、1段反応では進行しない窒素と水からアンモニアを得る反応を、実質的に行うことができるものである。好ましくは、循環物質を窒素化し、窒素化された循環物質により、水(または水を分解して得られる水素)により、アンモニアを合成するものである。更に詳しくは、窒素と水を原料とし、以下の工程を用いることを特徴とするアンモニア合成方法である。
(1)循環物質(M)を窒素により窒化物(MN)に形成させる工程(窒化物形成工程)
(2)工程1で得られたMNと水とにより、アンモニアと循環物質の酸化物(MO)を得る工程(アンモニア合成工程)
(3)MOを分解し、循環物質(M)と酸素にする工程(分解工程)
または、
窒素と水を原料とし、以下の工程を用いることを特徴とするアンモニア合成方法。
(1)循環物質(M)を窒素により窒化物(MN)に形成させる工程(窒化物形成工程)
(2)循環物質(M)と、水とにより、循環物質の酸化物(MO)と水素を得る工程(水素製造工程)
(3)窒化物形成工程で得られたMNと、水素製造工程で得られた水素とにより、アンモニアとMを得る工程(循環物質再生・アンモニア製造工程)
(4)水素製造工程で得られたMOをMと酸素に分解する工程(循環物質・分解工程)
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、熱力学的には進行しない窒素と水からアンモニアを合成する反応を多段階の熱力学サイクルに分割して行うため、窒素と水を直接反応させる場合の平衡の制約が少なくなり、アンモニアを生成させることができる。また窒素と水を原料とし、化石資源を用いることなく再生可能エネルギーを用いることができるため温暖化ガス発生を抑制することができる。
【0008】
更に本発明に用いる循環物質(M)を再生することができるので、再度反応に用いることができる他、原料ガスも再利用することができ、循環型の反応方法を提案するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の反応概念を示す熱力学線図の1例(3段階)である。
【0010】
図中実線は窒素と水からアンモニアを生成する場合の温度とギブス自由エネルギー変化で示す。破線は物質Mと窒素から窒化物を、点線は窒化物と水からアンモニアとMの酸化物を、一点鎖線は酸化物から酸素と物質Mとを生成する際の温度とギブス自由エネルギー変化を示す。
【図2】本発明の反応概念を示す熱力学線図の1例(4段階)である。
【図3】本発明の反応概念の中、水素による窒化物の還元工程を含む熱力学線図の1例である。
【図4】本発明にかかるアンモニア合成方法が、(窒化物形成工程)、(水素製造工程)、(循環物質再生・アンモニア製造工程)および(循環物質・分解工程)を用いて構成される方法における水素製造工程を示す図である。
【図5】本発明にかかるアンモニア合成方法が、(窒化物形成工程)、(水素製造工程)、(循環物質再生・アンモニア製造工程)および(循環物質・分解工程)を用いて構成される方法における循環物質再生・アンモニア製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、以下の通りに特定することができる。
【0012】
窒素と水を原料とし、以下の工程を用いることを特徴とするアンモニア合成方法である。
(1)循環物質(M)を窒素により窒化物(MN)に形成させる工程(窒化物形成工程)
(2)工程1で得られたMNと、水とにより、アンモニアと、循環物質の酸化物(MO)を得る工程(アンモニア合成工程)
(3)MOを分解し、循環物質(M)と酸素にする工程(分解工程)
更に、該分解工程が下記工程を経ることもできる。
(4)分解工程(3)時にハロゲン(X)を加え、循環物質のハロゲン化物(MX)と酸素を得る工程(ハロゲン化工程)
(5)MXを循環物質(M)に分解する工程(ハロゲン物質分解工程)
熱力学サイクルの段階を多くすれば、1段当たりの反応をギブス自由エネルギー変化小さくし、反応温度を下げることが可能であるが、段数を多くすればプロセスが煩雑になり設備も多く必要で好ましくない。
【0013】
例えば、図1の実線に示すように水からアンモニアを生成する場合のギブス自由エネルギー変化は室温から2500Kという広い温度範囲で300〜400kJ/molという大きな正の値を取り、熱力学的には全く進行しない反応である。この反応を「窒化物形成工程」、「アンモニア合成工程」および「分解工程」という3段階の反応に分割することにより各段階の反応のギブス自由エネルギー変化を負または正の小さな値として反応が進行する反応条件を設定して、各段階の反応を進行させることができる。「分解工程」において、酸化物から物質Mを再生するとき、酸素を放出する段階で高温を要することが多い。循環物質(M)は一つの元素でも良いし、2種以上の元素の化合物あるいは合金でも良い。
【0014】
図2に示した例は図1における「分解工程」をさらに2段階に分割して必要な反応温度をさげる例である。酸化物を直接熱分解によって酸素を放出し物質Mを再生するのではなく、ハロゲンと反応させてハロゲン化物と酸素を得(ハロゲン化工程)、そのハロゲン化物を熱分解してMとハロゲンを再生(ハロゲン物質分解工程)するものである。
【0015】
図3は窒化物を形成させる工程、水から酸素を取り除く工程、水素を発生する工程および水素と窒化物の反応によってアンモニアを発生する工程を含む例である。1)物質Maと窒素から窒化物を生成する(窒化物形成工程)。2)窒化物と水素からアンモニアを生成し物質Mを再生する(循環物質再生・アンモニア製造工程)。3)物質Mと水から水素とMの酸化物を生成する(水素製造工程)。4)Mの酸化物から酸素と物質Mとを生成する(循環物質・分解工程)。 という4段階の工程に分割する例である。物質MとMとを別の物質とすることで、4)の工程が起こる温度を低下させることができる。各工程を経ることで、原料である窒素と水からアンモニアを得ることができ、かつ循環物質であるM、Mは各反応後再生し、反応に再使用することができる。
【0016】
また3)、4)の工程は2段階であるが、この水素と酸素を発生する工程は、もっと多くの工程に分割することができる。例えば下記3段階、4段階に分割することで反応温度を大幅に下げることができる。
【0017】
【数1】

【0018】
【数2】

該各工程は、別個に分け逐次に経ることもできる他、同時に行うこともできる。別個に分けるときは各工程で好ましい条件・触媒等を用いて行い、同時に反応する場合には各工程が有効に行いうる反応条件の範囲内で選定することができ、特に触媒を用いるときは各作用を有する触媒を単一または混合して用いることができる。
【0019】
本発明にかかる窒素は、窒素のみであっても良いが、該反応に支障がないときは他に不活性ガス、水素、アンモニアが含まれていても良い。他のガスが含まれるとき、窒素ガスは2〜100モル%、好ましくは5〜100モル%含まれるものである。また原料の水素含有ガスは水素のみであっても良いが、反応に支障がないときは、他に不活性ガス、窒素、アンモニアが含まれていても良い。他のガスが含まれるときは、水素ガスが2〜100モル%、好ましくは5〜100モル%含まれるものである。なお両原料には酸素、水蒸気は含まれない方が好ましい。
【0020】
本発明に用いる循環物質(Ma)は、窒化物形成工程に用いることができる物質であれば何れの物質であってもよく、好ましくはゲルマニウム、亜鉛のような窒化が比較的容易な金属、窒化しやすい金属(希土類金属元素、アルミニウム、マグネシウム、リチウムなど)と窒化がそれほど容易ではない金属(鉄、コバルト、マンガン、ニッケルなど)との合金が挙げられる。循環物質(Ma)は一種の物質を用いることができる他、複数種用いることもできる。
【0021】
また、水を分解し水素を得る工程(水素製造工程)に用いる循環物質(Mb)は、該窒化物形成工程に用いることができる循環物質と同一の物質から選択することもでき、一種の物質を用いることができる他、複数種用いることもできる。
【0022】
なお、発明を説明する便宜上、水素製造工程に用いる循環物質をMとして表記し、この場合において窒化物形成工程に用いる循環物質をMとして表記する。
【0023】
これらの循環物質は粉体状、粒状、成形して用いることができる他、通常触媒用担体として用いられるものに被覆して用いることができる。以下に各工程を説明するが、これらの条件は単に好ましい例示である。
【0024】
更に、(窒化物形成工程)、(水素製造工程)、(循環物質再生・アンモニア製造工程)および(循環物質・分解工程)を用いて構成されるアンモニア合成方法を具体的に説明する。反応式は説明の簡便性を考慮して上記(数2)を代表として説明する。
【0025】
窒化物形成工程は上述の通りの工程を用いることができ、具体的には(1)反応温度400〜600℃、好ましくは450〜550℃、圧力は0.1〜2.0MPa、好ましくは0.1〜1.0MPaである。次いで、水素製造工程を説明すると、循環物質Mと水から、水素とMの酸化物を生成する水素製造工程(R4)は、反応温度400〜700℃、好ましくは500〜600℃である。圧力は0.1〜3.0MPa、好ましくは0.1〜2.0MPaである。
【0026】
(2)循環物質Mの酸化物から、酸素を水として取出して物質Mを分解・再生する循環物質・分解工程(R3)は、温度200〜300℃、好ましくは200〜250℃、圧力は0.1〜3.0MPa、好ましくは0.1〜2.0MPaである。
【0027】
(3)上記循環物質・分解工程(R3)で生成したハロゲンと反応させて、ハロゲン化物と酸素を得るハロゲン化工程(R2)は、温度500〜700℃、好ましくは550〜650℃、圧力は0.1〜3.0MPa、好ましくは0.1〜2.0MPaである。
【0028】
(4)上記で生成したハロゲン化物を再生するハロゲン物質分解工程(R1)は、温度600〜850℃、好ましくは700〜800℃、圧力は0.1〜3.0MPa、好ましくは0.1〜2.0MPaである。
(5)循環物質再生・アンモニア製造工程は、上記窒化物形成工程で得られた窒化物と、上記工程で水から生成された水素との反応工程における条件として、反応温度400〜600℃、好ましくは450〜550℃、圧力は0.1〜2.0MPa、好ましくは0.1〜1.0MPaである。本工程における循環物質としては、Fe−希土類合金等を用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例により更に詳細に説明するが、本発明の効果を奏するものであれば以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
(1)窒化物形成工程
図5に示す反応器5に鉄−ネオジム合金を充填し、450℃、0.1MPa、で窒素ガスを導入し、窒化処理を行った。
【0031】
(2)水素製造工程
図4に水素製造工程、図5にアンモニア合成工程のプロセスフローを示す。この図は水からの水素製造を(数2)で表される4段階反応で行う時のものである。図のように各反応に対応した循環物質を充填した4つの断熱型反応器を組み合わせ、水蒸気をキャリアーおよび熱媒体として用いて各反応を行った。生成した水素と酸素は分離膜で分離された。反応が終了した後、流路を切替え、また反応器1と2、反応器3と4の反応温度を切替えることにより、反応器1、4では酸化された循環物質が分解・再生され、反応器2、3では循環物質が水蒸気により酸化され、連続的に水素が生成される。
【0032】
(3)循環物質再生・アンモニア製造工程
上記工程で得られた窒化物に、450℃、0.1MPaで水素ガスを導入した。得られたアンモニア含有ガスは分離器を通して水素と分離されることで得られた。
【0033】
本発明にかかる工程をとることで、自由エネルギー(ΔG)を、単に窒素と水との反応におけるΔGを著しく下げることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、不要な資源的・エネルギー的なものを生じ難い新規なアンモニア合成方法を提案するものであり、アンモニアは化学工業の基本的な原料、新規な燃料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素と水と原料としアンモニアを合成する方法であって、該方法が3以上の工程を経ることを特徴とするアンモニア合成法。
【請求項2】
窒素と水を原料とし、以下の工程を用いることを特徴とするアンモニア合成方法。
(1)循環物質(M)を窒素により窒化物(MN)に形成させる工程(窒化物形成工程)
(2)工程1で得られたMNと、水とにより、アンモニアと、循環物質の酸化物(MO)を得る工程(アンモニア合成工程)
(3)MOを分解し、循環物質(M)と酸素にする工程(分解工程)
【請求項3】
該分解工程が、下記工程を経ることを特徴とする請求項2記載のアンモニア合成方法。
(4)分解工程(1)時にハロゲン(X)を加え、循環物質のハロゲン化物(MX)と酸素を得る工程(ハロゲン化工程)
(5)MXを循環物質(M)に分解する工程(ハロゲン物質分解工程)
【請求項4】
窒素と水を原料とし、以下の工程を用いることを特徴とするアンモニア合成方法。
(1)循環物質(M)を窒素により窒化物(MN)に形成させる工程(窒化物形成工程)
(2)循環物質(M)と、水とにより、循環物質の酸化物(MO)と水素を得る工程(水素製造工程)
(3)窒化物形成工程で得られたMNと、水素製造工程で得られた水素とにより、アンモニアとMを得る工程(循環物質再生・アンモニア製造工程)
(4)水素製造工程で得られたMOをMと酸素に分解する工程(循環物質・分解工程)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−213492(P2011−213492A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80135(P2010−80135)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)