説明

熱化学ナノリソグラフィーの構成要素、システム、および方法

本明細書には、改良されたナノリソグラフィー構成要素、システム、および方法を記載する。本システムおよび方法は、概して、表面における化学的変化を熱により誘導するために、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを使用する。また、一定のポリマー組成物も開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年5月29日に出願された「Thermochemical Nanolithography of Multi-Functional Materials」と題する米国仮特許出願第61/182,190号の恩典を主張し、この仮出願は、参照により、あたかも以下に全て記載されたかのように、本明細書にそのまま組み込まれる。
【0002】
連邦政府の資金提供を受けた研究の記載
本発明は、助成金番号DMR-0120967、DMR-0820382およびDMR-0706031(いずれも米国国立科学財団によって交付されたもの)ならびに米国エネルギー省によって交付された助成金番号DE-FG02-06ER46293の下に、米国政府の資金提供を受けてなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明のさまざまな態様は概してナノリソグラフィーに関する。より具体的には、本発明のさまざまな態様は、化学ナノリソグラフィー技術を実施するためのシステムおよび方法、そのような技術を実施するために使用される構成要素、ならびにそれによって形成されるパターン形成された材料に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
ナノリソグラフィーは将来の技術にとって不可欠であると認識されている。しかし、現在存在する多くのリソグラフィー技術には、解像度、書き込み速度、および特定基材上にパターン形成させることができる材料の化学的多様性に関して、著しい制約がある。走査型プローブ顕微鏡(SPM)を使用するリソグラフィー技術は、ナノスケール構造物の低コストおよび/または並列製作に応用できる可能性を持つことから、ますます一般的になりつつある。SPMに基づく技術は、その大部分が、押し込みによる、または材料の配置および/もしくは除去による、ナノ構造物の直接書き込みに使用されると共に、他のリソグラフィープロセスのためのマスクとして通常のレジスト露出に使用されてきた。例えば、ディップペンナノリソグラフィー(DPN)は興味深い可能性をいくつか提供するが、これは環境/雰囲気に対して厳密な制御を必要とし、基材の選択、パターン形成速度およびトポグラフィー変化制御に制約がある。
【0005】
最近になって、SPMチップは、さまざまな物理的および化学的プロセスを開始し実行するための力源、熱源および/または電源として作用できることが証明された。これらのチップは、本質的に単純で信頼性が高く、ナノスケールの空間解像度でパターンを作製するための自由度を有する。実際、そのような技術には、約10ナノメートル(nm)程度の空間解像度でトポグラフィーナノパターンを作製する能力がある。これに対して、化学的パターン形成を達成することは、化学反応を空間的に限局するのが困難であることと、反応物および生成物と基材および必要であればスタンプとの相互作用を制御する必要があることから、約100nm以下の解像度でさえ、今なお難題である。さらに言えば、これら2つの概念(すなわちトポグラフィーナノパターン形成と化学的ナノパターン形成)を組み合わせることは、より一層難題であった。
【0006】
したがって、当技術分野においては、改良されたリソグラフィー技術が今なお必要とされている。これら改良された技術の開発によって有意義な新しい機会が広がるだろう。バイオテクノロジー領域はそのような機会のほんの一例である。ナノバイオテクノロジーの最前線では、個々のタンパク質、ナノ粒子、および他の複雑なナノ構造物の表面での位置決めを操作し制御しようという挑戦がなされている。この目標を達成すれば、単分子検出能を持つタンパク質チップやナノエレクトロニクスデバイスの開発が容易になり、また複雑な細胞-細胞相互作用や細胞-マトリックス相互作用(例えば免疫シナプス、フォーカルコンタクトなど)の基礎研究を支援することが容易になるだろう。
【0007】
無機ナノスケール物体のパターン形成は進歩したが、難題は依然として存在し、特にタンパク質およびDNAナノリソグラフィーについてはそうである。多くのタンパク質ナノパターン形成技術は100nm未満のフィーチャーを作成することができず、約50nm程度の解像度を達成できるものはさらに少ない。また、同じ表面上に複数のタンパク質種を独立してパターン形成させるための確立されたタンパク質ナノパターン形成技術は、ごくわずかしかない。さらにまた、空気中での変性、酸化、および脱水は、多くの潜在的タンパク質ナノパターン形成技術を複雑にする一般的な短所であることから、生物活性はとりわけ繊細な問題である。これらの問題点は、タンパク質をパターン形成させることができる表面の選択にも制約を課す。例えば、金上に直接化学吸着させたタンパク質は変性しがちである。
【0008】
したがって、新しいタンパク質またはDNAナノパターン形成技術は、50nm未満の解像度を得ること、高い書き込み速度を達成すること、コストを下げること、単一表面上に共存することができる複数種の官能基を作成すること、生物学的機能を保存すること、およびさまざまな基材と適合することを目標にすべきである。
【発明の概要】
【0009】
概要
本発明のさまざまな態様は、現在存在するナノリソグラフィー技術に付随する上述の欠陥を克服することができる組成物ならびにリソグラフィーシステムおよび方法を提供する。
【0010】
本発明のいくつかの態様による表面修飾方法は、表面上の第1の位置に第1の官能基を有する表面を供給する工程、原子間力顕微鏡チップを特定温度まで抵抗加熱する工程、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを第1の位置と隣接(または接触)する位置に位置決めする工程、および表面が第1の位置の少なくとも一部に第2の官能基を含むように、表面上の第1の位置の少なくとも一部から第1の官能基を除去する工程を含む。いくつかの例では、加熱前後の第2の官能基の空間的位置の極めて小さな変化だけで、この官能基の変化を達成することが可能である。
【0011】
本方法の実施に際して、第1の官能基は、テトラヒドロピラニルカルバメート、アミンN-オキシド、テトラヒドロピラニルエーテル、トリフェニルメチルエーテル、テトラヒドロピラニル炭酸エステル、S-テトラヒドロピラニルカルボニル、またはエチルジスルフィドであることができる。また、第2の官能基はアミン、アルコール、フェノール、またはチオールであることができる。
【0012】
いくつかの例では、本方法は、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを第1の位置と隣接(または接触)する位置に位置決めする工程を中断する工程を、さらに含むことができる。これらの例では、所望であれば、本方法は、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、表面上の第2の位置を加熱するのに有効な、該第2の位置と隣接(または接触)する位置に再位置決めする工程も含むことができる。第2の位置は同じ官能基または異なる官能基(すなわち、それぞれ第1の官能基または第3の官能基)を持つことができる。所望であれば、この方法は、表面が第2の位置の少なくとも一部に第2の官能基またはさらに別の(すなわち第4の)官能基を含むように、第2の位置の少なくとも一部から同じ基または異なる基を除去する工程も含むことができる。抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、表面上の第2の位置と隣接(または接触)する位置に再位置決めする前に、原子間力顕微鏡チップを異なる温度に抵抗加熱することが可能である。
【0013】
別の状況において、本方法は、第1の位置から第2の位置までの表面が加熱されるように、第1の位置から第2の位置までの間、常に、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを表面と隣接(または接触)するように維持し続けながら、抵抗加熱した原子間力顕微鏡を表面上の第2の位置に移動させる工程をさらに含むことができる。第1の位置から第2の位置までの表面の少なくとも一部は、第1の官能基または第3の官能基を持つことができる。そのような状況において、本方法は、第1の位置から第2の位置までの区域にわたる表面の少なくとも一部において表面が第2の官能基または第4の官能基を含むように、第1の位置から第2の位置までの全ての表面の少なくとも一部から第1の官能基または第3の官能基を除去する工程を、さらに含むことができる。
【0014】
表面に対する移動するチップの速度は50マイクロメートル毎秒を上回ることができる。いくつかの例において、移動速度は1ミリメートル毎秒を上回ることができる。
【0015】
第1の位置と第2の位置との間の距離は、1ナノメートルから、その表面上の最も離れた2点間の距離に相当する距離まで、どの距離であってもよい。いくつかの例において、距離は約15ナノメートル以下であることができる。
【0016】
本方法では、第2の官能基または第4の官能基を別々に官能化することも可能である。
【0017】
生物学的材料、ナノスケール物体(すなわち約100ナノメートル以下の平均最長寸法を持つもの)、またはマイクロスケール物体(すなわち約10マイクロメートル以下の平均最長寸法を持つもの)を、第2の官能基または第4の官能基上に、それらが別々に官能化されているかどうかとは関わりなく、配置することも可能である。
【0018】
いくつかの例では、表面がポリマーから形成される。このポリマーは、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップをそのポリマーの第1の位置と隣接(または接触)する位置に位置決めする前に、架橋することができる。ポリマーは、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップをそのポリマーの第1の位置と隣接(または接触)する位置に位置決めする前に、基材上に配置することができる。架橋基を含む表面修飾を基材が含む場合は、ポリマーへの共有結合が形成されることができる。例えば、表面修飾の架橋基は、紫外線に対する感受性を持つベンゾフェノン部分であることができる。
【0019】
本発明の他のいくつかの態様によれば、表面を修飾する方法は、第1の位置に組成物の前駆体を備える表面を供給する工程、原子間力顕微鏡チップを特定温度まで抵抗加熱する工程、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、第1の位置を加熱するのに有効な、第1の位置と隣接(または接触)する位置に位置決めする工程、および第1の位置にある組成物の前駆体の少なくとも一部を組成物そのものに変える工程を含むことができる。組成物は、例えば、金属、導電性ポリマー(例えばポリ(p-フェニレンビニレン)など)、グラフェン、またはセラミック(例えば酸化グラフェン、還元型酸化グラフェンなど)であることができる。
【0020】
一定の例において、この方法は、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを第1の位置と隣接(または接触)する位置に位置決めする工程を中断する工程も含むことができる。そのような例において、本方法は、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、表面上の第2の位置を加熱するのに有効な、該第2の位置と隣接(または接触)する位置に再位置決めする工程も含むことができ、ここで、第2の位置は、前記組成物の前駆体(または別の組成物の前駆体でもよい)を含む。第2の位置にある前記組成物(または前記別の組成物)の前駆体の少なくとも一部を前記組成物(または前記別の組成物)に変えることもできる。
【0021】
別の例において、本発明は、第1の位置から第2の位置までの間のいずれかの表面の全部または一部が加熱されるように、第1の位置から第2の位置までの間、常に、抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを表面と隣接(または接触)するように維持し続けながら、抵抗加熱した原子間力顕微鏡を表面上の第2の位置に移動させる工程も含むことができ、ここで、第1の位置から第2の位置までの表面の少なくとも一部は、前記組成物(または別の組成物)への前駆体を含む。これらの例において、本方法は、第1の位置から第2の位置までの表面の少なくとも一部から前記組成物(または前記別の組成物)の前駆体の少なくとも一部を前記組成物(または前記別の組成物)に変える工程を、さらに含むことができる。
【0022】
この方法における移動の速度も、50マイクロメートル毎秒を上回ることができる。いくつかの例では、移動速度が1ミリメートル毎秒を上回ることができる。
【0023】
また、第1の位置と第2の位置の間の距離は、1ナノメートルから、その表面上の最も離れた2点間の距離に相当する距離まで、どの距離であってもよい。いくつかの例において、距離は約15ナノメートル以下であることができる。
【0024】
この方法では、前記組成物(または前記別の組成物)を個別に官能化することもできる。
【0025】
生物学的材料、ナノスケール物体、またはマイクロスケール物体を、前記組成物(または前記別の組成物)上に、それらが個別に官能化されているかどうかとは関わりなく、配置することも可能である。
【0026】
本発明のいくつかの態様によれば、表面を修飾するためのシステムは、原子間力顕微鏡と、原子間力顕微鏡チップと、原子間力顕微鏡チップと電気的に連絡している抵抗加熱器とを含むことができる。抵抗加熱器は、原子間力顕微鏡チップが第1の位置と隣接(または接触)する位置に位置決めされた時に表面上の第1の位置に熱を伝達するのに十分な熱を原子間力顕微鏡チップに与えるように構成されることができる。
【0027】
いくつかの例において、そのような伝達された熱は、表面が第1の位置の少なくとも一部に第2の官能基を含むように、第1の位置の少なくとも一部から第1の官能基を除去するのに有効であることができる。これらの例において、第1の官能基は、テトラヒドロピラニルカルバメート、アミンN-オキシド、テトラヒドロピラニルエーテル、トリフェニルメチルエーテル、テトラヒドロピラニル炭酸エステル、S-テトラヒドロピラニルカルボニル、またはエチルジスルフィドであることができる。また、第2の官能基は、アミン、アルコール、フェノール、またはチオールであることができる。
【0028】
他の例において、伝達された熱は、第1の位置の少なくとも一部にある組成物の前駆体を組成物そのものに変換するのに有効であることができる。これらの例において、組成物は、金属、導電性ポリマー、グラフェン、またはセラミックであることができる。
【0029】
いくつかの態様によれば、組成物は、式:Yn-Pn-Gnによって表されるポリマーを含むことができ、ここで、nは正の整数であり、Yは架橋性官能基であり、Pはポリマーの主鎖であり、Gは保護官能基である。保護官能基は、熱による脱保護温度を上回る温度の熱にさらされた時に化学的に反応して異なる官能基を形成するように構成されることができる。ポリマーは、ひとたび架橋すれば、熱による脱保護温度より高い温度で軟化することはない。
【0030】
いくつかの例では、Y:Pの比が約99:1と高い。別の例では、この比が約1:1と低い。
【0031】
いくつかの状況において、Gは、テトラヒドロピラニルカルバメート、アミンN-オキシド、テトラヒドロピラニルエーテル、トリフェニルメチルエーテル、テトラヒドロピラニル炭酸エステル、S-テトラヒドロピラニルカルボニル、またはエチルジスルフィドであることができる。
【0032】
また、いくつかの状況では、前記異なる官能基が、アミン、アルコール、フェノール、またはチオールである。
【0033】
ポリマーの他の変形物には、Pが少なくとも2つの構成要素を含むコポリマーであるポリマーが含まれる。これらの状況において、YおよびGはPの異なる構成要素上に存在することができる。例えば、Yはシンナメート基であることができ、Gはテトラヒドロピランカルバメート基であることができる。
【0034】
ある例では、ポリマーが次の式で表される。

【0035】
本発明の他の局面および態様の特徴は、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて精査すれば、当業者には明白になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のいくつかの態様による、抵抗加熱器が統合されている原子間力顕微鏡(AFM)チップの走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明のいくつかの態様による、熱化学ナノリソグラフィー(TCNL)システムの略図である。
【図3】図3aは、本発明のいくつかの態様による、表面上に単一ナノスケール物体パターンを作成するためのプロセスの略図である。図3bは、本発明のいくつかの態様による、表面上に2種の官能化されたパターンを作成するためのプロセスの略図である。図3cは、本発明のいくつかの態様による、表面上に3種の官能化されたパターンを作成するためのプロセスの略図である。
【図4】本発明のいくつかの態様に従って、アミン官能基を選択的かつ共有結合的に官能化することで、ポリマー表面上にチオール、マレイミド、アルデヒド、およびビオチンのパターンを作製する方法を図示するプロセスフロー図である。
【図5】図5aは、本発明のいくつかの態様による、NHS-ビオチンを介してアミンに架橋されたCy5ストレプトアビジン、ストレプトアビジンを持つNHS-ビオチン化アミンに架橋されたビオチン化Alexa350-抗CD3、およびグルタルアルデヒド(GA)によってアミンに架橋されたAtto488フィブロネクチンの落射蛍光画像である(スケールバーは5マイクロメートル)。図5bは、本発明のいくつかの態様による、N-(p-マレイミドフェニル)イソシアネート(PMPI)を介してアミンに架橋されたチオール末端一本鎖DNAの三角形パターンのAFMトポグラフィー画像およびAFM位相画像である(スケールバーは1マイクロメートル)。図5cは、本発明のいくつかの態様による、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジル-ジチオ)プロピオネート(SPDP)およびジチオスレイトール(DTT)チオール化を使ってアミン末端三角形に架橋されたN-(7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン-3-イル)マレイミド(DACM)のオルトゴナルな官能基パターンと、NHS-ビオチンを介してアミン末端三角形に架橋されたCy5-ストレプトアビジンのパターンの落射蛍光画像である(スケールバーは10マイクロメートル)。
【図6】本発明のいくつかの態様による、抗CD3生物活性および2タンパク質同時パターン形成の落射蛍光画像であり、スケールバーは5マイクロメートルである。具体的には、図6aは、NHS-ビオチンおよびストレプトアビジンを使ってTCNLアミンパターンに結合させたAlexa350標識ビオチン化抗ヒトCD3が、FITC標識IgGの生物活性分子認識を示すことを示し、一方、図6bは、PKC-0に関して免疫染色されたJarkat細胞が、細胞-パターン接触部位上のPKC-0蓄積を観察することができるような形で、三角形抗CD3パターン上にあることを示し、図6cは、抗CD3およびICAM-1が単一表面上で近接して同時パターン形成されたことを示している。
【図7】図7aは、本発明のいくつかの態様による、ポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)ナノ構造物を製作するためのTCNLプロセスの略図である。図7bは、本発明のいくつかの態様に従って、摂氏約240〜約360度(℃)の温度範囲でTCNLによって製造されたPPVナノ構造物の蛍光画像である(スケールバーは5マイクロメートル)。図7cは、本発明のいくつかの態様に従って、約240〜約360℃の温度範囲でTCNLによって製造されたPPVナノ構造物のAFMトポグラフィー画像である(スケールバーは5マイクロメートル)。図7dは、図7cの240℃でのTCNLによって製造されたPPVナノ構造物の拡大図である(スケールバーは2マイクロメートル)。図7eは、図7dに示したPPVナノ構造物の平均プロファイルが、約70ナノメートルの線幅(半値全幅)を有することを示すグラフである。
【図8】(a)無処理PPV前駆体、(b)PPV基準試料、(c)TCNLで作成したPPVパターン、および(d)周囲条件下でアニーリングされた無処理PPV前駆体の、本発明のいくつかの態様による、ラマンスペクトルである。
【図9】図9aは、TCNL中に使用した温度の関数としてのPPV試料のラマンスペクトルの図解であり、ここで、本発明のいくつかの態様に従って、T1は約240℃、T2は約280℃、T3は約320℃である。図9bは、約300℃でのTCNLによって作成されたPPV試料から得られたラマンスペクトルと、実施例2の式1から得られたラマンスペクトルとの比較の図解であり、TCNL試料では、連続バックグラウンドが、モデルの減圧アニール試料よりもはるかに低いことを示している。
【図10】図10aは、本発明のいくつかの態様に従って約2マイクロメートル毎秒(μm/s)の速度で酸化グラフェンシートを横切ってスキャンした330℃でのTCNL後に形成された十字形還元型酸化グラフェンパターンのトポグラフィーを図解している。図10bは、図10aに示すトレンチの平均プロファイルが約25nmと狭いことを図解している。
【図11】異なる温度でのTCNLによって先に還元された数個の正方形上をスキャンした時の室温におけるAFMチップの水平力の減少を示すプロットであり、挿入図は、先に、6個の正方形領域上で、加熱したチップを4μm/sの速度で2回ラスタースキャンさせた、酸化グラフェンの室温摩擦力画像である。正方形1において、TCNL時にチップを約100℃の温度(T加熱器)に加熱したところ、明白な還元が起こらなかったのに対し、約150℃を上回る温度T加熱器では、ラスタ領域(すなわち正方形2〜6)が熱により還元された。
【図12】図12aには、本発明のいくつかの態様に従って、約1060℃のT加熱器、約0.2μm/sの線速度および120nNの荷重で、エピタキシャル酸化グラフェン(GOepi)上にTCNLによって製作されたジグザグ形ナノリボンの室温AFM電流画像(チップと基材の間のバイアス電圧を2.5Vにして取得したもの)が含まれている。図12bは、図12aの画像と同時に取得された対応するトポグラフィー画像を図示している。図12cは、電流および図12bに破線で示した横断面の高さの平均プロファイルを図示している。
【図13】図13aは、本発明のいくつかの態様による、低温(低T、約600℃のT加熱器)で還元されたTCNL-還元型酸化グラフェン正方形、高温(高T、約1200℃のT加熱器)で還元されたTCNL-還元型酸化グラフェン正方形、および減圧下約600℃における炉で還元された酸化グラフェンの4点輸送測定によって得た電流-電圧(I-V)曲線を図示している。図13bは、間にナノリボンがない2つのrGOepi正方形間(左側の曲線)および間にナノリボンがある2つのrGOepi正方形間(右側の曲線)の電流の2点輸送測定によって得たI-V曲線を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
詳細な説明
以下、図面(図面では、類似する符号は数枚の図のいずれにおいても類似するパーツを表す)を参照しながら、本発明の例示的態様を詳しく説明する。この明細書の全体を通して、さまざまな構成要素について、特定の値またはパラメータを持つとする場合があるが、これらの事項は例示的態様として提示するものである。実際には、多くの類似するパラメータ、サイズ、範囲、および/または値を実施することが可能であるから、それらの例示的態様は、本発明のさまざまな局面および概念を限定するものではない。「第1」、「第2」などの用語、「1次」、「2次」などの用語は、決して順序、量、または重要性を表すのではなく、ある要素を別の要素と識別するために使用されている。さらに用語「ある/一つの」(「a」「an」)および「その/前記」(「the」)は、量の限定を表すのではなく、指示した事項が「少なくとも一つ」は存在することを表す。
【0038】
本明細書には、抵抗加熱した原子間力顕微鏡(AFM)チップを利用して、選ばれた材料の表面上で化学反応を熱により活性化する、改良されたナノリソグラフィーシステム、材料、および方法を開示する。「熱化学ナノリソグラフィー」(TCNL)と呼ばれるそのような化学的ナノパターン形成システムおよび方法には、既存のナノリソグラフィー技術と比較して著しい利点がある。以下に詳細に説明するが、TCNLでは、50nmをはるかに下回る解像度を得ることができ、高い書き込み速度(例えば1ミリメートル毎秒(mm/s)を上回る速度)を達成することができ、かつ/または特定表面上に複数種の官能基を作成することができる。加えて、TCNLはさまざまな表面または基材に適合する。生物学的材料をパターン形成させる状況でも、TCNLには、生物学的機能または生物活性を保存することができるという利点がある。一般に、これらの利益を、多くの既存ナノリソグラフィー技術よりも低いコストで獲得することができる。
【0039】
一般に、TCNLシステムは、AFM、AFMチップ(または複数のAFMチップ)、およびAFMチップと電気的に連絡している抵抗加熱器を含む。説明の都合上、AFM計器そのもの(すなわちAFMチップが取り付けられていないもの)に言及する場合、そのAFMは、この開示が関係する分野の当業者には理解されるであろうように、AFMを稼働するのに必要な任意の必須構成部品および装置を含むものとする。そのような構成部品の例には、プローブヘッド、カメラモジュール、パターン形成される表面が移動する態様では圧電スキャナー、AFMチップの動きおよび位置を監視するための光学部品、(所望であれば)雰囲気条件(例えば湿度、圧力、温度など)を監視するためのデバイス、(所望であれば)AFMを外部の雑音から隔離するためのチャンバーまたは他の材料などが含まれる。また、AFMを稼働させるためのそのような装置の例には、AFM構成部品を制御するための制御ユニット、制御装置および/またはAFM構成部品との間で電子信号を送受信し、それを処理するためのソフトウェアを持つコンピューターなども含まれる。
【0040】
また、本明細書において使用する用語「AFMチップ」は、この開示が関係する分野の当業者には理解されるであろうように、カンチレバーと、カンチレバーの末端に位置するチップを、どちらも包含するものとする。AFMチップは、当業者に公知の任意のタイプのケイ素、窒化ケイ素、または他の複合AFMチップであることができる。
【0041】
上述のように、抵抗加熱器はAFMチップに電気的に連絡している。具体的には、抵抗加熱器をAFMチップに(例えばカンチレバーまたはAFM計器のカンチレバー保持具を介して)物理的につなぐか、抵抗加熱器がAFMチップの一部を含むことができる。例示的な態様では、抵抗加熱器がAFMチップの一部を含む。そのようなAFMチップは、この開示が関係する分野の当業者には公知である。
【0042】
加熱抵抗器が統合されているAFMチップの一タイプが、Lee et al「Electrical, Thermal, and Mechanical Characterization of Silicon Microcantilaver Heaters」Journal of Microelectromechanical Systems, 15, 1644 (2006)に記載されており、この文献は、参照により、あたかも以下に全て記載されたかのように、本明細書に組み込まれる。簡単に述べると、これらのチップは、標準的なシリコン・オン・インシュレータ(SOI)プロセスを使って製造される。このプロセスは、<100>配向を持つSOIウェハーを供給し、約4オーム・センチメートル(Ω・cm)の抵抗率を持つように、それに2×1014原子毎立方センチメートル(cm-3)の密度でn型ドーピングを行うことから始まる。カンチレバーチップは、酸化先鋭化プロセスを使って、約20nmの曲率半径と約1.5マイクロメートル(μm)の高さを持つように形成させることができる。カンチレバーは、カンチレバーの異なる部分を2段階プロセスで選択的にドーピングすることにより、電気的に活性に製造される。まず最初に、低ドーズ量ブランケットイオン注入をカンチレバー全体に実行した後、本質的に均一なバックグラウンド・ドーピング・レベル(例えば1017cm-3、リン(phosphorous)、n型)を確立するために、炉アニーリングすることができる。次に、そのカンチレバーを重イオン注入工程に供することができ、その間は、チップを取り囲む領域(例えば約8μmの幅を持つ領域)をマスクオフ(masked off)する(1020cm-3、リン、n型)。マスクされた領域は、カンチレバーの自由端にある比較的低濃度のドープ領域として役立つ。抵抗加熱器として機能するのは、この低濃度ドープ領域である。最後に、高導電性脚部(例えば約110μmの長さと約15μmの幅を持つもの)を介してカンチレバーをベースに電気的に接続することができる。カンチレバーの寸法および温度依存的抵抗率によっては、抵抗加熱器部分がカンチレバー全体の電気抵抗の約90%超を占める場合もある。そのようなAFMチップの一例を図1の走査型電子顕微鏡(SEM)像に示す。
【0043】
いくつかの例では、抵抗加熱器をAFMチップと電気的に連絡させる方法とは関わりなく、AFMチップを加熱するための電流を供給するために、AFM計器のオリジナルの/標準的なカンチレバー保持具またはチップ保持具の改造を、AFMチップが必要とするかもしれない。そのような改造には、AFMチップに(例えば電源から)特定の向きで電流を適用するための電気経路または電気回路を作製することが含まれ得る。これは、カンチレバーの両側に導線を設ける程度の簡単なことであり得る。(例えばAFMチップにおいて生成する熱をより強く制御するために)AFMチップに適用される電流を監視することを望む場合には、電圧計、マルチメータなどのデバイスを、電気回路の一部として含めることができる。さらに、AFMチップの追加保護措置を所望する場合には、AFMチップに適用される電流を制限するために、検出抵抗器などのデバイスをAFMチップと直列に置くことができる。これら随意の追加改造は、TCNLプロセス中のAFMチップの温度を監視しかつ/または制御するのに役立ち得る。これらの改造のそれぞれが加えられたAFMチップを持つTCNLシステムの一例を図2に図解する。
【0044】
TCNLシステムを製作または構築したら、それを使って表面にパターン形成することができる。そのようなプロセスは、一般に、AFMチップを所望の温度に抵抗加熱する工程、抵抗加熱したAFMチップを、第1の位置を加熱するのに有効な、表面上の第1の位置と隣接または接触する位置に位置決めする工程、および第1の位置の少なくとも一部を化学的に修飾する工程を含む。ある例では、特にAFMチップを表面と接触させる場合、化学的修飾はトポグラフィー的修飾でもあり得る。
【0045】
このプロセスは、位置決めを中断し(すなわちAFMチップを表面上の第1の位置から離し)、第2の位置において別の化学的修飾が生じるように、加熱したAFMチップを表面に対して第2の位置に再位置決めすることによって、繰り返すことができる。これにより、表面上の複数の離散した位置にパターン形成することが可能になる。
【0046】
あるいは、第1の位置から第2の位置までの間、常に、加熱したAFMチップと表面の間の継続的な近接または接触を維持しつつ、AFMチップを表面上の第2の位置へと移動させることによって、このプロセスを継続することもできる。これにより、連続的なパターン(すなわち化学的修飾)を、表面上に、第1の位置から第2の位置まで続けて形成させることが可能になる。このようにして、一次元パターンと二次元パターンの両方を表面上に形成させることができる。
【0047】
化学的修飾の原因は、AFMチップから表面の材料に伝達される熱である。熱が少なすぎると化学的修飾をもたらすことができず、熱が多すぎると(例えば、AFMチップと表面との間の近接領域または接触領域を越えた熱伝達、余分な化学的修飾もしくはさらには表面の熱的分解、またはその両方などによる)過剰な化学的修飾をもたらす可能性があり、一貫性のない熱は表面の意図的でないパターン形成をもたらす可能性がある。そこで、例示的な態様では、TCNLプロセスを開始する前に、AFMチップに対して温度較正プロセスを実行する。AFMチップは、例えば光学的温度測定、マイクロ赤外温度測定、ラマン分光法などの温度測定技術を使って較正することができる。すなわち、特定の化学的修飾に必要とされる適切な抵抗または電力レベルを見つけるために、これらの技術を使って、さまざまな電気抵抗または電力レベルにおけるAFMチップの温度を測定する。
【0048】
いくつかの例では、抵抗加熱器の位置に依存して、AFMチップそのものに温度勾配が存在し得る。そこで、上述の較正技術を使って、AFMチップ全体の温度プロファイルをマッピングすることができる。
【0049】
表面に伝達される熱の量は、AFMチップの温度の他に、AFMチップが表面に加える圧力による影響も受け得る。そこで、例示的な態様では、AFMチップのばね定数も較正される。AFMチップのばね定数を決定するための方法には、その形状またはジオメトリに依存して、さまざまな方法がある。そのような方法は、この開示が関係する分野の当業者には公知である。較正技術に関する追加情報は、次に挙げる参考文献に見いだすことができ、これらの参考文献は、参照により、あたかも以下に全て記載されたかのように、本明細書にそのまま組み込まれる:Cleveland et al.「A nondestructive method for determining the spring constant of cantilevers for scanning force microscopy」Review of Scientific Instruments, 64, 403 (1993);Hutter et al.「Calibration of atomic-force microscope tips」Review of Scientific Instruments, 64, 1868 (1993);Sader et al.「Calibration of rectangular atomic force microscope cantilevers」Review of Scientific Instruments, 70, 3967 (1999);Gibson et al.「Determination of the spring constants of probes for force microscopy/spectroscopy」Nanotechnology, 7, 259 (1996);およびGibson et al.「A nondestructive technique for determining the spring constant of atomic force microscope cantilevers」Review of Scientific Instruments, 72, 2340 (2001)。
【0050】
表面に伝達される熱の量に影響を及ぼし得るさらに別の特徴は、ばく露時間そのものである。パターン形成速度が重要である態様の場合、AFMチップが特定の位置に費やす時間が少なくなるので、化学的修飾を開始するのに必要とされるまさにその温度にAFMチップを加熱したのでは、AFMチップから表面への完全な熱伝達が達成される機会は少なくなるであろう。そこで、これらの例では、所望の化学的修飾を起こすのに十分な熱伝達を保証するために、最低化学的修飾温度よりも高い温度までAFMチップを加熱すべきであることは、当業者には理解されるだろう。AFMチップの温度が最低化学的修飾温度を上回る程度は、位置決めまたはばく露時間に依存するものである。すなわち、AFMチップが表面から同じ距離に保たれると仮定すると、または(接触させる場合は)表面におけるAFMチップの圧力が同じに保たれると仮定すると、ばく露時間が短いほど、低温で長時間ばく露した場合と同じレベルの化学的修飾をもたらすのに、高い温度が要求されるだろう。
【0051】
AFMチップから表面の材料へと熱が伝達される程度は、パターンの解像度に影響を及ぼすであろう。したがって、一般的なAFMチップジオメトリに加えて、上に列挙した因子のそれぞれが、表面の所与の領域に作製することができる特定のパターン形成形状の厚さ/細かさおよびパターン形成形状の密度に影響を及ぼすことになる。
【0052】
次に、表面そのものについて述べると、パターン形成または修飾される表面を形成させるために使用することができる組成物には、さまざまな組成物がある。実際のところ、熱によって開始される化学反応を起こすことができる任意の組成物を使って表面を形成させることができる。表面を形成する材料中に化学反応によって誘導することができる局在的変化には、局所的な弾性特性、機械的特性、トライボロジー的特性、光学的特性、濡れ特性、接着特性、電気的特性、または化学的特性の一つまたはそれ以上が含まれる。
【0053】
一般に表面は液体または固体であることができる。表面が液体である場合は、TCNLを使ってパターン形成する前に、それを容器または器に入れることができる。固体としては、表面は離散体であるか、または表面を、別の材料(例えば、表面材料そのものが極めて薄いかフレキシブルである場合に、より高い機械的安定性を提供することができるプラットホーム/基材など)上に配置することができる。
【0054】
いくつかの態様では、表面がポリマー材料から形成される。一般に表面は、基本構造Pn-Gn(式中、Pはポリマー主鎖を表し、GはTCNLによって修飾される官能基を表し、nは正の整数である)を持つポリマーから形成させることができる。官能基Gは、ポリマー側鎖の一部を形成するか、ポリマー主鎖の一部であることができる。選ばれたポリマー中に2つ以上のポリマー主鎖および/または官能基が存在し得ることに注意すべきである。TCNLの前に、スピンコーティング法、ドロップキャスティング法、ブレードコーティング法、およびスプレーコーティング法などの標準的なフィルム形成技術を使って、基材またはプラットホーム上に、ポリマーのフィルムを形成させることができる。所望であれば、ポリマーフィルムをTCNLに供する前に、基材を除去することができる。
【0055】
ポリマー主鎖Pは、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、原子移動重合、またはアニオン重合プロセスのいずれかによって重合されるビニル、アリル、4-スチリル、アクロイル、エポキシド、オキセタン、環状カーボネート、メタクロイル、アクリロニトリルなどのモノマーであるか、それらから誘導することができる。別の例において、Pは、HO(CH2xOH、H2N(CH2xNH2など(式中、xは正の整数(例えば1〜25)である)の二官能性アミンまたはアルコールと共重合させることができるイソシアネート、イソチオシアネート、またはエポキシドであるか、それらから誘導することができる。別の状況において、Pは、この開示が関係する分野の当業者には知られているであろうように適切な金属触媒を使った開環メタセシス重合によって重合させることができる歪みのある環オレフィン(例えばジシクロペンタジエニル、ノルボルネニル、シクロブテニルなど)であるか、それらから誘導することができる。さらに別の態様において、Pは、(-CH2ηSiCl3、(-CH2ηSi(OCH2CH33、または(-CH2ηSi(OCH33であるか、それらから誘導することができ、この場合は、モノマーを当業者に公知の条件下で水と反応させて、薄膜もしくはモノリシック有機修飾ゾル-ゲルガラス、または修飾シリカ被覆表面を形成させることができる(式中、ηは正の整数(例えば1〜25)である)。さらにまた、Pは、光化学的に二量化または重合させることができる重合性基であるか、それらから誘導することができる。そのような基として一つまたはそれ以上を挙げることができ、それらには、次に挙げる共役構造などがあるが、これらに限るわけではない。

【0056】
いくつかの態様において、官能基Gは、AFMチップから加熱された時に、保護基が表面から除去され、そのあとに別の官能基が残るように選択することができる。例えば、カルボン酸を得るには、Gを、tert-ブチルエステル、テトラヒドロピランエステルなどから選択することができる。アミンを生じさせるには、Gとして、テトラヒドロピラニルカルバメート、アミンN-オキシドなどを挙げることができる。アルコールまたはフェノールを所望する場合は、Gを、テトラヒドロピラニルエーテル、トリフェニルメチルエーテル、テトラヒドロピラニル炭酸エステルなどから選択することができる。TCNL後にチオールを所望する場合は、Gとして、S-tert-ブトキシカルボニル、S-テトラヒドロピラニルカルボニル、エチルジスルフィドなどを挙げることができる。
【0057】
別の例において、Gは、熱重合および架橋反応を起こす基、例えば2つのG基間(例えばフランとマレイミドの間)のディールス-アルダー反応、開環重合(例えばポリ(フェロセニルシラン)など)、開環メタセシス重合(例えばジシクロペンタジエンなど)、(例えばポリ(フェニレン-ビニレン)などの前駆体から)共役ポリマーを形成する反応、およびトリフルオロビニルエーテルの反応を起こす基などであることができる。さらに別の状況において、Gは、AFMチップの熱によって揮発または分解する基であることができる。
【0058】
上述のように、ポリマーは2つ以上の官能基Gを持つことができる。これらの官能基は、各Gが同じ温度または異なる温度で修飾されるように選択することができる。
【0059】
加えて、ポリマーは、ここにYn-Pn-Gnで表されるポリマー全体の軟化温度を制御するために、光化学的にまたは熱により架橋することができる基Yを持つこともできる。Y基の使用により、軟化温度を、所望のとおりに、化学的修飾温度より上または下になるように調整することができる。これは、ポリマーのガラス転移温度および/または結晶化度を増加または減少させることによって達成することができる。Y基とG基は側鎖を介してポリマー主鎖に結合することができ、ブロック状(これは、順序づけられていてもよいし、ランダムに配向していてもよい)に編成することができる。Y基とG基は、同じ官能性モノマー単位に由来してもよいし、異なるものに由来してもよい。いくつかの態様では、Y基を、シンナメートエステル、カルコン、トリフルオロビニルエーテル、ディールス-アルダー反応物などから選択することができる。
【0060】
実例として、TCNLを受けるための表面として使用することができる具体的ポリマーは、次のテトラヒドロピラン(THP)保護カルボン酸官能化ポリ(アクリレート)である。

疎水性であるこのタイプのポリマーは、摂氏約120度(℃)で熱により脱保護されて、親水性の酸官能基を与えることができる。これは約170℃でさらに反応して疎水性の無水物を与える。これは、いわゆる「読み込み-書き込み-上書きプロセス」を受けることができる表面を表す。酸から無水物への変換はそれぞれ水の除去および付加によって可逆的であることに留意することが重要である。
【0061】
TCNLを受けるための表面として使用することができる別のポリマーは、次のポリ(アミド)である。

ここでは、出発表面組成物(すなわちポリ(アミド))が親水性であるが、これは、約300℃で疎水性のポリ(イミド)へと修飾することができる。この反応は酸の添加によって可逆的である。
【0062】
TCNLを受けるための表面として使用することができるさらに別のポリマーは、次のポリ(イミド)である。

この系では、ポリ(イミド)系がシス/トランス異性化を起こすので、熱処理すると、表面材料の溶解度および極性が変化する。
【0063】
TCNLを受けるための表面として使用することができるさらに別のポリマーは、次のアゾベンゼンである。

ここでは、シス/トランス異性化により、表面材料の局所的トポロジーを変化させる方法が可能になる。まず表面に紫外(UV)光を照射することにより、このアゾベンゼンはシス型になる。これは局所的加熱によりトランス型に異性化させることができる。試料全体についての照射は、熱により書き込まれた修飾を「消去する」手段になる。
【0064】
あるいは、自己集合した分子の単層または多層で、表面を形成させることができる。これらの分子は、基本構造Xn-R-Gnで表すことができ、ここで、Xは分子を基材またはプラットホームに取り付けるためのアンカー基を表し、Rは架橋基を表し、GはTCNLによって修飾される官能基を表し、nは正の整数である。これらの分子は、例えばチオール末端Xn-R-Gnと金表面との間の反応、シラン末端Xn-R-Gnとガラス表面との間の反応などの反応を含む、標準的な自己集合単層または多層形成技術によって加工することができる。
【0065】
いくつかの態様では、アンカー基Xを、ホスホン酸、ホスフィン酸、スルホン酸、カルボン酸、カルバメート、ジチオカルバメート、チオール、セレノール、ホスフィン、アミン、アミド、カルボヒドロキシム酸、スルホノヒドロキサム酸、ホスホヒドロキサム酸、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、モノ(アルコキシ)シラン、ジ(アルコキシ)シラン、トリ(アルコキシ)シランなど、または前記のいずれかの共役塩基から選択することができ;架橋基Rは、線状もしくは分岐C3〜C50脂肪族または環状脂肪族、フルオロアルキル、オリゴ(エチレングリコール)、アリール、アミンなどの基であることができ;そしてGは、ポリマー表面に関して上で議論した官能基タイプのいずれであることもできる。
【0066】
別の態様において、表面は、所望の組成物への前駆体材料であることができる。こうすることで、官能基を除去し、官能基を変化させるのではなく、前駆体から所望の組成物への変換が起こり得る。これは、還元、酸化、分子転位、または他の化学反応を伴うことができ、これらの反応は温度だけでなく、圧力および/または雰囲気環境によって調整することもできる。
【0067】
例えば、表面を酸化グラフェンで形成させ、それを還元型酸化グラフェンに変換させるか、さらにはグラフェンに変換させることができる。グラフェンの形成に関する別の例として、前駆体表面は炭化ケイ素表面であることができる。
【0068】
この前駆体変換技術を使って他の組成物も形成させることができる。一例として、前駆体表面は、一つ以上の金属アルコキシド層を含むゾル-ゲル、または例えばチタン酸鉛(PT)もしくはジルコン酸チタン酸鉛(PZT)の前駆体ゾル-ゲルフィルムであることができる。TCNLを使って、前駆体層または前駆体フィルムの、機能性セラミック化合物への、局所的ナノパターン形成熱分解および変換を誘導することにより、セラミックナノ構造物を作製することができる。
【0069】
修飾された表面は、その改良された一つまたは複数の特性(例えば弾性特性、機械的特性、トライボロジー的特性、光学的特性、濡れ特性、接着特性、電気的特性、または化学的特性)を必要とする応用に役立ち得る。例えば、導電性(例えば導電性ポリマー、金属、グラフェン、または還元型酸化グラフェン)である、パターン形成された一連の経路を持つ表面であって、その表面の非パターン形成(すなわち未修飾)部分が絶縁性であるものは、電子工学的応用に役立ち得る。別の例として、パターン形成された親水性経路を持つ表面であって、その表面の非パターン形成部分が疎水性であるものは、ナノ流体デバイスを製作するために使用することができる。さらに別の例として、パターン形成された強誘電性または圧電性ドメイン(例えばPTまたはPZT)を持つ表面であって、その表面の非パターン形成部分が非分極性であるものは、磁気または電子デバイス的応用に使用することができる。
【0070】
あるいは、化学的に修飾された表面は、その上に化学的デザインを作製し、かつ/またはその上に他の材料を位置決めするためのテンプレートとして役立つことができる。これらのデザインおよび/または他の材料は、表面の修飾部分に置くか、未修飾部分に置くことができる。
【0071】
表面上に置くことができる他の材料のタイプには、ナノスケール物体、マイクロスケール物体のためのナノスケールアンカー、またはマイクロスケール物体そのものなどがある。これらの材料は、そのサイズとは無関係に、柔らかくて伸展性の高い材料/物体(例えばタンパク質、DNA、RNA、細胞など)から伸展性が低く堅い材料(例えばナノチューブ、フラーレン、ナノ粒子など)まで、さまざまであることができる。前記他の材料の性質に関する制約はない。というのも、それらの付着力は所望のとおりに変動し得るからである。表面に追加の材料/物体を付着させるためのそのような力には、共有結合、イオン結合、水素結合、酸-塩基相互作用、πスタッキング、アレーン-パーフルオロアレーン相互作用、ファンデルワールス力、分子認識のための方法(例えばヌクレオチドにおける塩基対合、ホスト-ゲスト配位受容体、および他の部位特異的相互作用)などがある。これらの物体は、表面に直接取り付けるか、修飾された表面に取り付けられたリンカーおよび/またはエクスパンダー分子を介して取り付けることができる。
【0072】
実例として、TCNLパターン形成表面のテンプレートとしての応用例の一つでは、表面のTCNL修飾部分を官能化した後、その表面に、ある生物学的材料を、TCNL後官能基に対するその生物学的材料の親和性に基づいて取り付ける。この手法は、その生物学的材料が通常は基材のTCNL修飾部分に付着しない状況において望ましい。このようにして、追加の官能化により、表面に、TCNLを使って表面上にパターン形成されたのと同じ配置で、生物学的材料を取り付けることが可能になる。
【0073】
生物学的材料が一本鎖DNAまたはRNAである場合は、デバイス全体(すなわちDNAまたはRNAが取り付けられている表面)を、超分子ナノスタンププロセスのためのいわゆる「マスター」として使用することができる。そのようなプロセスは、ハイブリダイゼーション-接触-脱ハイブリダイゼーションサイクルに基づく。すなわち相補的なDNAまたはRNA鎖が元のマスター上の鎖とハイブリダイズする。相補鎖がターゲットである第2表面に付着することのできる化学基で5'修飾されていて、それが、オリジナルのTCNLパターン形成表面とは反対側の末端に置かれるのであれば、その5'修飾端は第2表面にくっついてサンドイッチ構造を形成するであろう。このサンドイッチ構造を加熱すると、ハイブリダイズしたDNAまたはRNA鎖が脱ハイブリダイズして、さらなるスタンピングに利用することができるオリジナルのマスター(および相補的デバイス)が残る。
【0074】
そのようなプロセスの分子認識は、1回の「プリント」サイクルで大量の情報を伝達する能力を与える。従来のスタンプ技術は、典型的には、空間的情報(すなわち、フィーチャーのサイズ、形状、および位置)しかプリントしない。これに対して、TCNLを超分子ナノスタンプ法と組み合わせたこのプロセスでは、テンプレートのパターンからの空間的状態と、係留された各鎖のDNAまたはRNA配列からの化学的情報の両方を伝達することが可能になる。別の実施では、このプロセスを別のタイプの可逆的分子認識反応(例えば受容体-受容体、抗体-抗原など)と共に使用することができる。
【0075】
2タイプ以上の生物学的材料を表面に取り付けたい場合は、各タイプの生物学的材料が特定のTCNL後官能基に対して親和性を持つように、表面のTCNL修飾部分を2タイプ以上の官能基で官能化することができるだろう。ただし、あるタイプの生物学的材料が表面のTCNL修飾部分に対する親和性を持つのであれば、官能化工程の数を一つ減らすことができるだろう。そのようなデバイスは、2タイプ以上の生物学的材料が特定の試料と相互作用することが望ましい状況(例えば2つ以上のタンパク質との相互作用が要求される細胞研究)にとって有益であることができる。
【実施例】
【0076】
以下の非限定的実施例により、本開示をさらに例証する。
【0077】
実施例1:ポリ((テトラヒドロピラン-2-イルN-(2-メタクリルオキシエチル)カルバメート)-co-(メチル4-(3-メタクリロイルオキシプロポキシ)シンナメート))ポリマーの合成
この実施例では、新しいポリマー材料であるポリ((テトラヒドロピラン-2-イルN-(2-メタクリルオキシエチル)カルバメート)-co-(メチル4-(3-メタクリロイルオキシプロポキシ)シンナメート))を合成した。このポリマーは、脱保護基と架橋基の両方を持っていた。脱保護基はTHPカルバメート官能基であり、架橋基はシンナメート官能基であった。このポリマーは次の構造を持つ。

【0078】
この実施例におけるポリマーは、合成に次の化学製品を使って製造した:ジヒドロピラン(Aldrich)、2-イソシアナトエチルメタクリレート(Aldrich)、アゾビスイソブチロニトリル(Aldrich)、臭化アリル(Aldrich)、炭酸カリウム(VWR)、白金担持活性炭(10重量%、Strem Chemicals)、4-ヒドロキシベンゾフェノン(Alfa Aesar)、およびクロロジメチルシラン(Alfa Aesar)。溶媒は全て試薬用とした。使用直前に窒素下で蒸留したクロロジメチルシランを除く全ての化学製品は市販品をそのまま使用した。
【0079】
テトラヒドロピラン-2-オールの合成は、下記の反応スキームに示すように、文献の手法に従って行った。1H NMRスペクトルは、文献に報告されている値と合致した。

【0080】
以下に図解するテトラヒドロピラン-2-イルN-(2-メタクリルオキシエチル)カルバメートの合成は、次のように行った。テトラヒドロピラン-2-イル(2.80mL、28mmol)を2-イソシアナトエチルメタクリレート(3.1g、20mmol)および1滴のピリジンと混合し、1H NMRで反応が完了するまで撹拌した。その結果生じた粘稠な混合物をシリカでのカラムクロマトグラフィーで精製することにより、白色粉末(2.93g、57%)を得た。

【0081】
1H-NMR(300MHz、CDCl3)データは次のとおりだった:δ(ppm)6.09(m、1H)、5.9(ブロード、0.2H、微量配座異性体)、5.82(ブロード、0.8H、主要配座異性体)、5.57(見掛け上四重線、J=1.5Hz、1H)、5.05(ブロード、0.8H、主要配座異性体N-H)、4.83(ブロード、0.2H、微量配座異性体N-H)、


【0082】
13C-NMR(75MHz、CDCl3)データは次のとおりだった:δ(ppm)167.2、155.0、135.9、126.0、93.3、63.5、63.3、40.0、29.3、24.8、19.0、18.2。
【0083】
元素分析の結果(C12H19NO5として計算値、実測値)は、C(56.02、56.22)、H(7.44、7.36)、N(5.44、5.48)だった。
【0084】
以下に図解するメチル4-(3-メタクリロイルオキシプロポキシ)シンナメートの合成は、文献の手法に従って行った。1H NMRスペクトル特徴は、報告の値と合致した。

【0085】
以下に図解するポリ((テトラヒドロピラン-2-イルN-(2-メタクリルオキシエチル)カルバメート)-co-(メチル4-(3-メタクリロイルオキシプロポキシ)シンナメート))の合成は、次のように行った。THF(6mL)中のテトラヒドロピラン-2-イルN-(2-メタクリルオキシエチル)カルバメート(0.50g、1.9mmol)、メチル4-(3-メタクリロイルオキシプロポキシ)シンナメート(0.15g、0.48mmol)、およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(2.0mg、0.012mmol)の混合物をパスツールピペットを使ってシュレンクアンプルに加えた。次に、そのフラスコを最低4回は凍結-減圧-融解し、反応混合物を60℃で20時間加熱した。反応混合物が室温に戻ってから、それをジクロロメタン(30mL)で希釈し、ヘキサン類(300mL)に滴下した。得られた沈殿物を減圧濾過によって取り出し、減圧下で乾燥することにより、白色粉末(360mg、55%)を得た。

【0086】
1H-NMR(300MHz、CDCl3)データは次のとおりだった:δ(ppm)7.6(ブロードなd、J=16.1Hz、1H)、7.5(ブロードなs、2H)、6.9(ブロードなs、2H)、6.3(ブロードなd、J=16.1Hz、1H)、5.7-6.0(ブロードなm、5.2H)、3.3-4.2(4つのブロードな見かけ上一重線、27.2H)、0.7-2.1(数個のブロードなm、50.6H)。この1H-NMRスペクトルでは、観察されたスペクトルを、7.5ppmのピーク(2H、シンナメート基の芳香族プロトンによるもの)と比較した積分値と共に報告している。N-Hプロトンは、このポリマーのスペクトルには観察されなかった。
【0087】
13C-NMR(75MHz、CDCl3)データは次のとおりだった:

【0088】
元素分析の結果(C65H95N4O25(シンナメート:カルバメートモノマー比1:4)として計算値、実測値)は、C(58.55、57.83)、H(7.26、7.20)、N(4.20、4.12)だった。
【0089】
実施例2:ナノスケール物体を組み立てるための多官能基テンプレートのTCNL
この実施例では、TCNLを使って、任意のナノスケールおよびマイクロスケールパターンで、数ミリメートル毎秒までの線速度で、ポリマー表面上のアミン基の脱保護を熱により活性化した。次に、露出したアミンナノテンプレートを選択的かつ共有結合的に官能化して、ポリマー表面の別々の領域にチオール、マレイミド、アルデヒドまたはビオチンのパターンを作製した。これらのパターンの複数種の官能基を利用して、生物活性タンパク質やDNAなどといったナノスケール物体の、約40nmほどの小さなフィーチャーによる、ナノアレイを作製した。TCNL工程と、それに続く、保護されていないアミンを化学的に変換するための異なるプロトコールとを繰り返すことにより、別々の領域にオルトゴナルな官能基を持つ表面を生成させ、それらを後日、さらに官能化することができた。TCNLで設計したタンパク質アレイの生物活性は、蛍光抗体および細胞シグナリング実験によって確認された。最後に、将来の生物学的研究のために、特製の2タンパク質パターン形成の妥当性を実証した。特に、Tリンパ球細胞(T細胞)における免疫シナプスの空間的組織化に関する将来の対照研究のために、細胞接着タンパク質ICAM-1と細胞シグナリングタンパク質抗CD3とを、同心的正方形中に独立して集合させた。
【0090】
この実施例におけるポリマー表面は、実施例1で調製したものとした。ある典型的実験については、ポリマーのフィルムを、4-(3-クロロジメチルシリル)プロポキシベンゾフェノンで前処理したガラススライド上に、シクロヘキサノン溶液からのスピンコーティングによって調製した。具体的には、数枚の75×25平方ミリメートル(mm2)ガラススライドを25×25mm2の正方形に切断してから、ピラニア(75%濃H2SO4および25%の30%H2O2水溶液)または酸素プラズマで洗浄した。各スライドをアルゴン下の無水トルエン(約50mL)に入れ、4-(3-(クロロジメチルシリル)プロポキシ)ベンゾフェノンのトルエン溶液(約3mL、約0.28M)を、5滴の無水トリエチルアミンと共に加えた。スライドをその溶液中に終夜放置した。次にスライドをクロロホルムで洗浄した後、N2で乾燥した。ガラススライドの水接触角を測定し、それが文献値と合致する70°前後であることを見いだすことにより、ベンゾフェノンの存在を確認した。
【0091】
次にそのフィルムをUV線にばく露して、ベンゾフェノンリンカーを介してフィルムを基材に共有結合させると共に(約352nm照射)、シンナメート部分でポリマーを架橋した(約300nm照射)。約30〜約150nmの範囲の厚さを持つフィルムが調製されたが、大半の実験は、スタイラスプロフィルメータによる測定で約75±5nmの厚さを持つフィルムで実行した。
【0092】
TCNLとAFMによる特性評価(例えば撮像、摩擦、および位相測定)は、全て、同じAFM(Nanoscope Multimode IV、Veeco)で、抵抗加熱カンチレバーおよび市販のカンチレバー(Nanosensor、SSS-NCHR)を使って、空気中で行った。局所的な化学的修飾は、約160〜約240℃の範囲の温度に加熱した熱AFMプローブを使用し、約20〜約500ナノニュートン(nN)の範囲の垂直荷重での接触モードにより、約0.01〜約2mm/sの範囲で変化する速度で試料をスキャンすることによって実行した。熱プローブの温度較正は公知のプロトコールを使って実行した。
【0093】
蛍光顕微鏡撮像は、照明のためのニコンIntensilight(C-HGFIE)とニコンEM-CCDカメラ(DQC-FS)を装備したニコンTE2000倒立顕微鏡での落射蛍光顕微鏡法を使って実行した。画像はPlan Apo 60×水浸対物レンズ(ニコン、NA1.2)またはPlan Apo 100×油浸対物レンズ(ニコン、NA1.4)を使って得た。ニコン・フィルター・キューブ・セットを使って、UV領域(#96310、UV-2EC DAPIフィルターセット、励起340〜380nm、ダイクロイックミラーDM400、蛍光435〜485nm)、緑色領域(#96320、FITC/GFP HyQフィルターセット、励起460〜500nm、ダイクロイックミラーDM505、蛍光510〜560nm)、および赤色領域(#96324、Cy5 HQフィルターセット、励起620〜660nm、ダイクロイックミラーDM Q660LP、蛍光700〜775nm)で、蛍光色素を撮像した。異なる蛍光画像におけるコントラストは、標準的な画像処理により、図面ごとに異なる。蛍光パターンの均質性およびコントラストの詳細な解析は、この研究の範囲外である。
【0094】
細胞培養および免疫染色実験は次のように実行した。継代第9代のJurkat細胞(クローンE6-1、ATCC TIB-152)を、ウシ胎仔血清(FBS)(10%)、L-グルタミン(1%)、非必須アミノ酸溶液(1%)、ピルビン酸ナトリウム(1%)、および4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES、10mM)を補足したRoswell Park Memorial Institute(RPMI)-1640培地で維持した。細胞培養培地とその構成要素はMediatech, Inc.から入手した。細胞を約5%CO2雰囲気中、約37℃で維持した。Jurkat細胞を抗CD3パターン形成表面上に播種し、ICAM-1(10ミリグラム/ミリリットル(mg/mL))を含有する培地中、約37℃および約5%CO2で約40分間インキュベートした。染色用の細胞を調製するために、パラホルムアルデヒド(3%)中のTriton X-100(0.1%、EMD Chemicals)で細胞を約5分間透過処理し、リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、パラホルムアルデヒド(3%)中で約30分間インキュベートした。PBS中のウシ血清アルブミン(BSA)(1%、Calbiochem)と共に約30分間インキュベートすることにより、非特異的結合をブロックした。細胞中のPKC-uを標識するために、ポリクローナル抗PKC-u(BD Biosciences)を一次抗体として使用し、ヤギ抗マウスIgG・FITCコンジュゲート(Millipore)を二次抗体として使用した。細胞をエルバノール(elvanol)に封入してから、撮像した。
【0095】
上述のポリマー上でTCNLを使用することで、数ミリメートル毎秒までの線速度でのアミン基の選択的パターン形成が可能になった。ポリマーのTHPカルバメート基を熱により脱保護して、1級アミンを露出させた。脱保護温度Tdを上回るポリマーのバルク加熱後の質量喪失は、この機序と合致した。Tdを上回る温度(約150〜約220℃)に維持した熱いAFMチップを使ってこの脱保護を行うことにより、アミン基を露出させた。このアプローチにより、最終的には、同じ表面上に共存する多官能基ナノパターンがもたらされ、次に、それらを、所望の種類のナノスケール物体で選択的に官能化した。このアプローチを図3に概説する。TCNLを使って第1の所望のアミンパターンを書き込んだ後、そのアミンをN-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)との反応によってチオール化した(三角形、図3bおよび3c)。次に、第2のTCNLパターンを同じポリマー表面の異なる領域に作製し(菱形、図3bおよび3c)、新しい領域に新たなアミンを露出させた。次に、第1官能化工程後に得られたジチオールをジチオスレイトール(DTT)を使ってチオールに還元することにより、アミン基とチオール基の特製のパターンを持つ表面を作成した(図3b)。この官能化スキームを図4のプロセスフロー図に示す。
【0096】
あるいは、第2のTCNL適用後に、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)-ビオチンを使ってアミンパターンを変えることにより、アミン官能基をビオチン官能基へと修飾した(図3c)。この段階において、DTTで還元することにより、チオールとビオチンの同時パターン形成表面が作製された。3種の異なる官能基を表面にナノパターン形成するために、第3のTCNL適用を使って、チオール、ビオチン、およびアミンからなる三重パターン形成表面を作成した(図3c)。
【0097】
表面を所望の化学基でパターン形成した後、後に行われるタンパク質または他のナノスケール物体による官能化のために、それらを乾燥器中で保存した。この実施例では、ナノパターン形成された表面を約3週間保存した後に、2タンパク質官能化に成功した。しかし、さらに長い貯蔵時間も可能なはずである。
【0098】
単一パターンおよび複合パターンの実現性を以下に議論する。いくつかの特性評価技術により、局所的な熱的脱保護によって反応性アミンが生成される証拠が得られた。TCNLによる化学的修飾の最初の確認は、チップによって加熱された領域における摩擦の規則的な増加を示す摩擦力顕微鏡法により、インサイチューで得られた。コポリマーフィルムをTdを上回る温度でバルク加熱した場合、この摩擦の増加は水接触角の減少(親水性の増加)と合致した。パターン形成中のチップ温度がTdより低い場合、化学的変換は観察されなかった。表面の化学的実現性の直接的確認を図5に示す。
【0099】
いくつかのアミン架橋戦略を使って、基礎をなすアミンパターンとは選択的に相互作用できるが、未修飾ポリマーとは相互作用できない小分子、タンパク質または他のナノスケール物体で、TCNLパターンを官能化した。具体的には、図5aは、2つの異なる架橋機序、すなわちNHS-ビオチンおよびグルタルアルデヒド(GA)を介した、TCNLアミンパターンへの異なる蛍光標識タンパク質の結合を示す。図5aにおける単一タンパク質種の蛍光パターンは、結合したストレプトアビジン、抗CD3、およびフィブロネクチンを示す。落射蛍光顕微鏡法を使って作成された画像は、TCNLによって書き込まれたパターンおよび利用したパターン形成後官能化と合致した。このアプローチの普遍性を簡単に証明するために、図3bに、50マーの一本鎖(ss)DNAで官能化されたTCNL生成三角形アミンパターンのAFM画像を示す。表面アミンを、ジメチルスルホキシド中のN-(p-マレイミドフェニル)イソシアネート(PMPI)によってマレイミドに変換し、次に、チオール末端DNA鎖に架橋した。DNA官能化前後のAFMトポグラフィー画像およびAFM位相画像は、TCNL活性化三角形領域におけるDNAの結合と合致した。観察された約5nmの高さコントラストも、37マーのssDNAでパターンが約4nmの高さコントラストを示したDNAパターン形成に関する先の研究と合致した。本発明者らは、この特定三角形パターンについて、TCNLによって書き込まれた活性領域(辺縁部を除く)における減損高さ(depletion height)が約1nmであったことを指摘する。
【0100】
次に、図3に記載するアプローチを使って、多官能基パターンの実現性を検証した。チオールとビオチンの同時パターンを、表面をまず最初に青色蛍光色素N-(7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン-3-イル)マレイミド(DACM)と共にインキュベートし、次に赤色の蛍光を放つCy5-ストレプトアビジンと共にインキュベートすることにより、それらがそれぞれチオールパターンおよびビオチンパターンに選択的に結合するかどうかを決定するために蛍光標識した。図5cに、結果として得られたチオール(三角形)およびビオチン(菱形)の蛍光パターンを示す。DACMにはDAPIフィルターセットを使用し、Cy5-ストレプトアビジンにはCy5フィルターセットを使って、単色カメラで、2種の発蛍光団を別々に撮像した。第3の複合画像は、独立して取得した2つの画像のオーバーレイを表す。2つのチャンネルの間に観察されるクロストークは限られており、TCNLパターン上への色素の効果的な局在化と、表面へのそれらの化学的架橋の特異性とが証明されている。
【0101】
非処理ポリマー領域には、ごくわずかな非特異的バックグラウンドしか見られなかった。ポリマーの非パターン形成領域への非特異的タンパク質結合の程度を定量するために、予備的研究を実行した。
【0102】
タンパク質ナノアレイの作成および特性評価を以下に議論する。TCNLは、加熱されたチップの近傍における高い温度勾配ゆえに、表面に極めて高い解像度の化学的パターン形成を行うことができた。そこで高い精細度で少量のタンパク質を組織化する能力を調べた。各フィーチャーにおける単一タッチダウンアプローチを使って、蛍光標識フィブロネクチンで装飾された500nmフィーチャーのアレイを作成した。単一フィーチャーのサイズは、タンパク質パターンのAFM撮像から推測した。光学顕微鏡の解像度限界未満の長さスケールを調べるために、トポグラフィーAFM撮像および位相AFM撮像を周囲条件下で使用した。再び、各フィーチャーにおいて単一タッチダウンアプローチを使用し、ただし滞留時間を短くすることにより、TCNLを使ってさらに小さな領域におけるアミンを脱保護した。AFM位相画像は、試料の局所的粘弾性に関する情報を与える。トポグラフィーは、約10nmの浅い陥凹を示した。この深さは、チップの温度、荷重、および滞留時間を変化させることにより、大きくすることも小さくすることもできた。次に、表面をフィブロネクチンまたはストレプトアビジンで官能化した。トポグラフィーデータにより、TCNLホールはタンパク質で満たされたことが明らかになった。位相画像もホールにおけるタンパク質の沈着と合致した。40nm程度の小さいフィブロネクチン位相フィーチャーおよび60nm程度の小さいストレプトアビジン位相フィーチャーが測定された。前者の値は、単一乾燥フィブロネクチン分子の以前の測定値と遜色ない値であった。フィブロネクチン官能化前後のトポグラフィー画像を比較すると共に、球状のAFMチップ(半径約15nm)による幾何学的畳み込み(geometrical convolution)を考慮して、おおよそ1〜2個のフィブロネクチン分子が表面に露出しているが、TCNL書き込み中に作製されたホールの内部には、より多くのフィブロネクチンがフィットし得ると結論した。ホールの内部におけるタンパク質のコンフォメーションが不明であるため、1スポットあたりのタンパク質の正確な数に関して、より詳細な情報は得られていない。
【0103】
生物活性2タンパク質パターンの形成および特性評価について以下に議論する。複雑な分子系では、例えば細胞接着時に形成される接着斑や、T細胞免疫シナプスの形成に際したシグナリングタンパク質および接着タンパク質のパターン形成において、タンパク質が協調的に働いて生物学的事象を開始する。ここでは、パターン形成されたタンパク質が生物活性を保っていること、そして細胞活動を開始させ得ることが示された。独立した任意のデザインで表面上に2種のタンパク質をナノパターン形成する方法が実証された。
【0104】
表面パターン形成タンパク質の生物活性を維持することは、大半の応用にとって極めて重要である。しかし、多くの潜在的タンパク質パターン形成技術は、生物活性の保存に関して理想的な条件を与えない。図6aはビオチン結合抗CD3の生物活性を示している。二次抗体抗IgG(三角形)に結合する抗CD3(三角形)の能力を検証した。別個の生物活性試験で、GA結合細胞内接着分子1(ICAM-1)が抗ICAM-1に特異的に結合することも見いだされた。抗CD3は、T細胞シグナリングおよび免疫シナプス形成を調べるために使用されるT細胞の不死化株であるJurkat細胞と相互作用した時に、特異的細胞シグナリング経路を刺激することが知られている。結合した抗CD3の生物活性を証明するための細胞アッセイでは、基礎をなす抗CD3パターンと相互作用するT細胞の内部におけるプロテインキナーゼC-u(PKC-u)の空間的相関を特に探究した。三角形状の抗CD3マイクロパターン(図6b)と相互作用する細胞におけるPKC-uの免疫蛍光細胞染色は、抗CD3マイクロパターンの三角形の形状を反映するPKC-uのハロを示した。したがって、TCNLパターン形成タンパク質の保存された生物活性については、分子的証拠も細胞的証拠も存在する。
【0105】
共存するが独立して固定された2つのタンパク質種を持つ単一表面を構築するために、図3に記載の基本的戦略に従った。図6cに、同心的なタンパク質正方形のセット(内側=抗CD3、外側=ICAM-1)と、2つの抗CD3三角形および2つのICAM-1菱形で構成された2×2アレイでパターン形成された別個の表面とを示す。図6cの最上段は、同心的パターンの中央および三角形上の結合抗CD3を示している。中段は、同心的正方形パターンの外側部分上および菱形内の結合ICAM-1を示している。下段は複合蛍光画像からなる。クロストークおよび未処理のポリマー表面への非特異的結合はごくわずかしか存在しなかった。
【0106】
結論として、この実施例では、ポリマー表面上にアミンのナノパターンを1ミリメートル毎秒までの線速度で作成するための、TCNLの使用を示した。次に、アミン基をアルデヒド、チオール、ビオチン、およびマレイミドへとさらに変換し、第2段階では、それらを使って、異なる種類のナノスケール物体(例えばタンパク質および核酸)を標準的な官能化方法で取り付けた。この新しいTCNL/共有結合的官能化(CF)/分子認識(MR)アプローチは概念的に単純明快であり、現世代の材料を使って、パターンを高解像度(少なくとも40nm)で書き込むことができ、1メートル毎秒までの速度での大面積(100cm2を上回る)のパターン形成を可能にするであろう大規模並列化が潜在的に可能である。この技術をガラス基材を使って実証したが、ポリマーは基材を平坦化することができるので、この技術は、ポリマーを架橋することができる任意の酸化物表面に適用することができる。
【0107】
さらにまた、表面に前もってパターン形成し、3週間保存した後に、バイオ/ナノ官能化を行った。これには、多重タンパク質/ナノスケール物体パターン形成を、TCNL装置やナノリソグラフィーに関する専門知識を持たない第2の実験室においてネイティブな条件下で行うことができるという利点がある。これらの特徴により、この技術は、ナノリソグラフィーに興味を持つ研究者に限らず、生化学、ナノサイエンスおよびナノバイオテクノロジーの分野においても、さまざまな研究者によって利用され得る。TCNL/CF/MRは、ナノスケールデバイスおよびバイオセンサーの開発に直接的な影響を及ぼすことができ、目的に合わせて作製されたパターンでの2つ以上のタンパク質との相互作用を要求する数多くの細胞研究にも影響を及ぼすことができる。
【0108】
実施例3:ポリ(p-フェニレンビニレン)ナノ構造物の直接TCNLパターン形成および特性評価
この実施例では、TCNLを使って、広く研究されたエレクトロルミネセント共役ポリマーであるポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)を調製した。スルホニウム塩前駆体を局所的に加熱することによるPPVの直接書き込みを、周囲条件下、100nm未満の空間解像度で達成した。局所的熱化学変換はラマン分光法、蛍光撮像法および原子間力顕微鏡法で検証した。共役ポリマーナノ構造物のこの便利な直接書き込みは、将来のナノエレクトロニクスデバイス、ナノフォトニクスデバイスおよびバイオセンシングデバイスの設計および製作にとって望ましいだろう。
【0109】
スルホニウム塩前駆体ポリ(p-キシレンテトラヒドロチオフェニウムクロリド)の溶液(H2O中、0.25重量%、Aldrich)を、ピラニア溶液中に一晩浸漬しておいたガラススライドまたはSi(111)ウェハー上にドロップキャストした。PPVへの熱による変換は、典型的には、250〜300℃の範囲の加熱温度における不活性ガス条件下または減圧下でのチオフェンと塩化水素の両方の除去を必要とする。しかしここでは、TCNLを使って、約240℃のAFMチップで、PPVを作成した。前駆体フィルムの表面にPPVパターンを作成するためのTCNLプロセスを図7aに図解する。
【0110】
ウルトラシャープ(Ultrasharp)タッピングモードAFMチップ(SSS-NCHR、Nanosensors)を使って、TCNLで書き込まれたPPVナノ構造物の高解像度トポグラフィー画像を取得した。
【0111】
蛍光撮像法は、その緑色領域における広幅放射性光ルミネセンススペクトルゆえに、PPVへの前駆体の熱による変換を追跡するのに好都合な方法である。高感度電荷結合デバイスカメラ(Cool-SNAP HQ2、Roper Scientific)を装備した倒立型ニコンTE2000による蛍光顕微鏡法を使って、PPVナノ構造物を撮像した。Plan Apo 60×水浸対物レンズ(ニコン、NA1.2)を使って画像を取得した。ニコン・フィルター・キューブ・セットを使って、緑色領域(#96320、FITC/GFP HyQフィルターセット、約460〜約500nmで励起、ダイクロイックミラーDM505、約510〜約560nmの蛍光)で、蛍光PPVナノ構造物を撮像した。この研究のラマンデータは全て、約785nmのレーザー励起波長を使って、同じ収集時間で、共焦点ラマン顕微鏡(Jobin Yvon HR800)から得た。
【0112】
図7に、TCNLによって製造したPPV線の蛍光画像およびAFMトポグラフィー画像を示す。約20μm/sの書き込み速度、約30nNの垂直荷重、約240〜約360℃の範囲のカンチレバー温度で、これらのナノ構造物を製造した。ナノ構造物は、約240℃で目に見える蛍光コントラストを示し始めた。加熱温度を約360℃に上昇させると、コントラストがより明瞭になった。対応するAFMトポグラフィー画像(図7cおよび7d)は、TCNLが約70nmという高い空間解像度でPPVナノ構造物を製作できることを明らかにしている。
【0113】
ラマン分光測定は、熱による変換のより決定的な証拠を与え、TCNLで調製されたナノ構造物の品質を際立たせた。約240、約280、および約320℃における、約30nNの垂直荷重、および約20μm/sの速度での、20×20平方マイクロメートル(μm2)TCNLパターン。ラマン測定により、周囲条件でTCNLによって形成されるPPVパターンの品質は、減圧下での前駆体ポリマーの標準的な熱的アニーリングによって調製されたPPV試料(これを本明細書ではPPV基準という)の品質に匹敵することがわかった。ラマンスペクトルは、4つの代表的試料、すなわち未処理の前駆体フィルム(図8a)、PPV基準フィルム(図8b)、TCNLパターン(図8c)、および空気中、約280℃においてホットプレートで約1時間バルク加熱した前駆体フィルム(図8d)から得た。これら4つの試料は同じ前駆体ポリマーバッチから得たものであり、厚さは約1.4μmだった。PPV基準フィルムは、前駆体フィルムを約200ミリトルの減圧下、約280℃で約5時間アニーリングすることによって調製した。前駆体フィルムがPPVに完全に変換した後のラマンスペクトルの最も際立った特徴は、大きな強度増強であり[図8aと8bを比較]、これは体積収縮によるポリマーフィルムの密度増加に起因すると考えられた。図8cにおけるTCNLパターンのラマンスペクトルは、スペクトル全体にわたって、同じ強度の増強を明瞭に示す。図8dにラマンスペクトルを示す、周囲でバルク加熱された前駆体ポリマーの場合、酸化によって生じた可能性が極めて高い大きな連続バックグラウンドと、PPVラマンピークの消失とが観察された。
【0114】
前駆体-PPV変換の別の特色は、C-C振動に関連するラマンピークの周波数の、低周波数側へのシフトである。図9aに示すように、PPV基準に関して1178cm-1付近と1594cm-1付近にある未処理前駆体ポリマーの2つのラマンピークは、変換後は、それぞれ約3cm-1および約6cm-1シフトすることがわかる。3つの異なるチップ温度で書き込まれたTCNLパターンのラマンピーク位置は、前駆体ポリマーのピーク位置とPPV基準ポリマーのピーク位置の間にあった。TCNLを実行するために使用したAFMチップ温度が上昇するにつれて、書き込まれたパターンのラマン強度が増加し、ピーク位置はPPV基準フィルムのピーク位置に向かってシフトした。
【0115】
熱化学変換の品質と程度に関して、より定量的な情報を得るために、TCNL修飾フィルムを、α%の前駆体ポリマーと(100-α)%のPPV基準から構成されるものとして、モデル化した。したがって、この複合系のラマンスペクトルは、次の関係によって見積もられる、2つの構成成分、すなわち前駆体とPPV基準[それぞれ図8aおよび8bに示すもの]の、スペクトルの線形重ね合わせであり得る。

【0116】
図9bに、約300℃で作成されたTCNLパターンから得られたラマンスペクトル

と、式(1)から導き出される

とを図示する。約1500cm-1〜約1800cm-1の範囲で



に当てはめることにより、自由フィッティングパラメータαを見いだした。このスペクトル領域は、酸化によって引き起こされるバックグラウンドシグナルから遠く離れている。27%PPV基準および73%前駆体の配合比で、

のピーク周波数および強度が、考慮した周波数範囲において、強度とピーク位置の両方で、

と完全に重なることがわかった。しかし、ヘッド側に残留する幅広いバックグラウンドシグナルは、これら2つの例では著しく異なった。この残留する相違は、PPV基準試料の部分的酸化から生じるのだろう。PPV基準と比較したところ、TCNL試料は、低い周波数において、より小さいバックグラウンド強度を示したことから、TCNL法は、より高品質なPPV試料を作成し得ることが示唆される。この改良は、温度がチップ-表面「シールド(sealed)」接点において局所的に増加するというTCNL特異的なジオメトリに起因すると考えられた。上で見いだしたパラメータα=73%を使用することにより、厚さ約1.4μmの前駆体フィルムのうち、厚さ約320nmの前駆体が、約320℃におけるTCNLの1回の適用で、基準グレードのPPVに変換されたと見積もられた。この厚さは、チップ温度と接触時間とを制御することによって制御することができ、これはTCNLプロセスの利点である。
【0117】
要約すると、PPVナノ構造物がTCNLによって製造され、ここでは、PPVナノ構造物が、スルホニウム塩前駆体ポリマーから、周囲条件下での熱による変換によって形成された。PPV変換の成功を、ラマン分光法と蛍光撮像法の両方で検証した。さらにまた、ナノ構造物の寸法および厚さは、チップの位置および温度を変化させることによって、容易に制御された。書き込まれたナノ構造物の解像度は、前駆体フィルムの厚さを減らすことで、さらに改善することができる。この共役ポリマーのナノパターン形成は、大規模並列化すれば、将来のナノエレクトロニクスデバイス、ナノフォトニクスデバイスおよびバイオセンシングデバイスの設計および製作を容易にするだろう。
【0118】
実施例4:酸化グラフェンのTCNLによる還元型酸化グラフェンの作成
酸化グラフェン(GO)の還元型は、大規模フレキシブル導体の作成および電子ギャップを必要とするデバイスの作製にとって、グラフェンに代わる魅力的な代替物である。この実施例では、TCNLを使ったGOの局所的な熱還元によってナノスコピック解像度で還元型GO(rGO)のトポグラフィー特性および電気特性を調整するための手段を例示する。rGO領域は、初期状態のGOより最大4桁、導電性が高くなった。さまざまな導電性を持つナノリボンを最大20μmから最小約12nmまでの寸法で、酸化型エピタキシャルグラフェンフィルムに、クリーンかつ迅速かつ信頼性の高い単一工程で作成した。さらに、GOは、GOフィルム中のランダムな位置にパターン形成された多数の構造物において、100%の収率でrGOに変換された。AFMチップの摩耗または試料引裂の徴候は観察されず、「炭素骨格」がGO/rGO接合部を横切って連続的であることが示された。
【0119】
TCNLは、加熱した原子間力顕微鏡プローブチップを使って、SiC上に成長させたエピタキシャル酸化グラフェン(GOepi)のオンチップ酸化によって形成された孤立(isolated)GOおよび大面積GOフィルムの単層の選択した領域を還元することによって実行した。GOのTCNL還元を、摩擦力顕微鏡法(FFM)、導電性AFM(CAFM)、ラマン分光法、ケルビン・プローブ・フォース顕微鏡法(KPFM)、ならびに2点および4点プローブSTMを使ったUHV電子輸送測定を使って検証した。
【0120】
十字(図10)や正方形(図11)などの任意のrGOフィーチャーが、SiOx/Si基材上の孤立GO片の上で、加熱したAFMチップをスキャンすることによって、確実に得られた。トポグラフィー画像(図10A)からわかるとおり、熱還元によって9.5±1.9オングストローム(Å)のシート高が約2〜約5Å減少した。2つの効果が高さの減少をもたらすのだろう。一つはGO片表面からの酸素に富む官能基の喪失である。非加熱チップをスキャンしても高さの変化が起こらないことを考えると、この喪失は機械的な除去ではなく、主として本質的な化学変換によって引き起こされたものである。しかし、高温における摩擦化学効果を除外することはできなかった。第2に、GOのsp3炭素結合のsp2炭素結合への変換は、材料を平坦化するであろう。というのも、GOにおけるsp3炭素結合は炭素骨格を波立たせることにより、シート厚を増加させるからである。
【0121】
AFMチップの温度を制御することによってGOの可変的還元を達成できることが、摩擦測定により示された。グラフェンは低い摩擦係数を持ち、酸化物は典型的に高い摩擦係数を持つ。熱還元も、高摩擦のGOが低摩擦のグラフェンで置き換わるので、摩擦を減少させるはずである。図11は、TCNL加工中のカンチレバー温度と、先に還元された正方形の上をスキャンした室温チップにおける水平力との間の強い相関関係を示す。還元は130℃以上で始まった。温度に伴う相対的摩擦のほぼ直線的な減少によって示されるとおり、温度を上げると、還元率が増加した。
【0122】
基礎研究には孤立GO片が適しているが、さらなる技術開発には、拡張されたGOフィルムが必要だった。SiCの炭素面上に成長させた多層エピタキシャルグラフェン(EG)を酸化することにより、大面積GOepiフィルム(約15mm2を上回るもの)を得た。酸化されたフィルムは、SiC表面を完全に覆う高品質GOepi多層からなった。AFM画像はGOepiフィルム中に引裂を示さなかったことから、それらは、過酷な酸化条件に曝されてもその構造的完全性を維持することが示された。図12および13に、SiC基材からGOepiを掻き取ることによってAFMで決定した異なる厚さを持つGOepiフィルム上でTCNLを実行することによって得られた結果を示す。図12は、GOepi上に約1060℃のAFMチップ熱での単一ラインスキャンで書き込まれたジグザグrGOepiナノリボンを表す。図12aは、導電性白金AFMチップと表面上の各点との間に測定された電流の画像であり、GO表面上に電流がないことおよびrGOepiナノリボンでは約100pAの電流増強があることを示している。これらの電流値は、無視できるぐらい小さなショットキー障壁を呈する幅約12nmおよび厚さ数ナノメートルのrGOepiナノリボンと、抵抗性SiC基材(約105Ωcm1の抵抗率)とが存在することと合致した。約1000℃のチップで局所的に加熱された厚さ25nmのGOフィルムの場合、層を通る熱流は、チップの下のGOの大半を還元し、SiC界面にGOを数層だけ残すだろう。トポグラフィー画像(図12bおよび図12cの黒いグラフ)は、還元により、孤立GOシートについて先に議論した由来を持つ約1nmの浅い陥凹が作成されたことを示している。
【0123】
局所的に還元されたGOepi構造物の電気特性を、KPFMおよびUHV Omicron Nanoprobeシステムでの4点プローブ輸送測定を使ってさらに調べた。TCNL rGOepiの20×20μm2正方形のシート抵抗Rシートは、TCNL局所還元に使用した温度が増加するにつれて、元のGOepiの抵抗(427±11MΩ)より最大4桁低い値にまで減少した。面内抵抗率の同じ減少が、600℃の炉でGOepiを終夜加熱することによって作成された拡張されたrGOepiフィルムでも観察された(18±10kΩ)。さらにまた、AFMプローブの温度を変えることによって、RシートおよびI-V特性の形状を変化させることができた(図13aでは、低温および高温についてそれぞれRシート=9174kΩおよび30kΩである)。ケルビンプローブ測定により、TCNL rGOepiは、GOepiに対して、バルク還元rGO(188±96mV)と同様に、168±54mVの接触電位変化を示すことがわかった。残存酸素および構造障害の存在が、エピタキシャルグラフェンとrGOepiまたはTCNL-rGOepiとの間の導電性の大きな差をもたらした。
【0124】
AFMによる測定で長さ約25μmおよび幅約100nmの孤立TCNL-rGOepiナノリボン(図13b)も分析した。ナノリボンの各末端にある、電子ビームによってインサイチューで製作されたrGOepiの2つのミクロンサイズの正方形の上に、導電性チップを置くことにより、I-Vデータを取得した。この2点輸送測定は、チップをGO表面上の任意の位置に位置決めした時の約2ギガオームより大きい抵抗(接触点において極めて大きな障壁)と、120MΩ(ナノリボンを伴わない2つの正方形間)から20MΩ(ナノリボンによって接続された2つの正方形間)への抵抗の低下を示した。輸送は、正方形間のTCNL-rGOepiナノリボンの存在下で、絶縁性から金属性(直線的I-V曲線)へと変化した(図13b)。Rシート=(Rリボン・w・tリボン)/(L・tシート)という関係を使用し、ナノリボンの厚さを13nmと仮定すると、65kΩのシート抵抗が得られ、これは、TCNL-rGOepiのマイクロスコピック正方形について図13aに報告する測定とよく一致した。
【0125】
TCNLは、試料を汚染する可能性があるいかなる溶媒もリソグラフィーレジストも必要としない。グラフェンの電子特性は表面ドーピングによって強く変動するので、これは、とりわけ重要なことだった。したがってこの実施例は、rGO試料を製作するための優れた方法を提供する。
【0126】
上記の説明および実施例によって例証されるとおり、TCNLシステムおよび方法は、既存のナノリソグラフィー技術の利点をいくつか提供することができる。一例として、TCNLの速度は、他のAFMベースのナノリソグラフィーアプローチよりも有意に大きい。単一チップで実行されるディップペンナノリソグラフィー(DPN)と比較すると、TCNL(同様に単一のチップによるもの)は106倍以上速く、熱DPNより103倍速い。他のAFMベースの技術と比較したTCNLの別の利益は、AFMチップから表面への化学的伝達がないので、表面への書き込みおよび上書きに、単一のAFMチップを使用できることである。TCNLは、多くの異なる表面組成物上に機能し、雰囲気条件の厳密な制御を要求しない点で、有利である。
【0127】
本発明の態様は、本明細書において開示する特定の配合物、プロセス工程、および材料に限定されるわけではない。そのような配合物、プロセス工程、および材料は多少は変動し得るからである。さらにまた、本明細書において使用する用語は、例示的な態様を説明するために使用するに過ぎず、これらの用語は限定を意図するものではない。というのも、本発明のさまざまな態様の範囲は、添付の特許請求の範囲とその均等物によってのみ限定されるからである。例えば温度および圧力パラメータは使用する特定材料に依存して変動するだろう。
【0128】
したがって、この開示の態様を、例示的な態様を特に参照して詳しく説明したが、添付の特許請求の範囲に定義される本開示の範囲内で変形および変更を達成できることは当業者には理解されるであろう。したがって、本発明のさまざまな態様の範囲は、上述の態様に限定されてはならず、後述の特許請求の範囲およびそのあらゆる均等物によってのみ定義されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を修飾する方法であって、該方法が、
第1の位置に第1の官能基を備える表面を供給する工程;
原子間力顕微鏡チップを特定温度まで抵抗加熱する工程;
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、第1の位置を加熱するのに有効な、第1の位置と隣接または接触する位置に位置決めする工程;および
該表面が第1の位置の少なくとも一部に第2の官能基を備えるように、第1の位置の少なくとも一部から第1の官能基を除去する工程を含み、
第1の官能基が、テトラヒドロピラニルカルバメート、アミンN-オキシド、テトラヒドロピラニルエーテル、トリフェニルメチルエーテル、テトラヒドロピラニル炭酸エステル、S-テトラヒドロピラニルカルボニル、またはエチルジスルフィドであり、
第2の官能基が、アミン、アルコール、フェノール、またはチオールである、
方法。
【請求項2】
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを第1の位置と隣接または接触する位置に位置決めする工程を中断する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、前記表面上の第2の位置を加熱するのに有効な、該第2の位置と隣接または接触する位置に再位置決めする工程を前記方法がさらに含み、第2の位置が第1の官能基または第3の官能基を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記表面が第2の位置の少なくとも一部に第2の官能基または第4の官能基を含むように、第2の位置の少なくとも一部から第1の官能基または第3の官能基を除去する工程をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項5】
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、前記表面上の第2の位置と隣接または接触する位置に再位置決めする前に、原子間力顕微鏡チップを異なる温度に抵抗加熱する工程をさらに含む、請求項3記載の方法。
【請求項6】
第1の位置と第2の位置との間の距離が約15ナノメートル以下である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、第1の位置から第2の位置までの前記表面を加熱するのに有効な、第1の位置から第2の位置までの前記表面と隣接または接触する位置に維持し続けながら、抵抗加熱した原子間力顕微鏡を前記表面上の第2の位置に移動させる工程を前記方法がさらに含み、第1の位置から第2の位置までの前記表面の少なくとも一部が第1の官能基または第3の官能基を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記表面が第1の位置から第2の位置までの前記表面の少なくとも一部に第2の官能基または第4の官能基を含むように、第1の位置から第2の位置までの前記表面の少なくとも一部から第1の官能基または第3の官能基を除去する工程をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
移動の速度が50マイクロメートル毎秒を上回る、請求項7記載の方法。
【請求項10】
移動の速度が1ミリメートル毎秒を上回る、請求項7記載の方法。
【請求項11】
第2の官能基を官能化する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
官能化された第2の官能基上に、生物学的材料、ナノスケール物体、またはマイクロスケール物体を配置する工程をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
第2の官能基上に生物学的材料、ナノスケール物体、またはマイクロスケール物体を配置する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記表面がポリマーから形成される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを第1の位置と隣接または接触する位置に位置決めする前に、ポリマーが架橋される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ポリマーが基材上に配置され、該ポリマーへの共有結合を形成する架橋基を含む表面修飾を該基材が含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記表面修飾の架橋基が、紫外線に対する感受性を持つベンゾフェノン部分を含有する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
表面を修飾するためのシステムであって、該システムが、
原子間力顕微鏡と、
原子間力顕微鏡チップと、
原子間力顕微鏡チップと電気的に連絡している抵抗加熱器とを含み、
該抵抗加熱器が、原子間力顕微鏡チップが第1の位置と隣接または接触する位置に位置決めされた時に前記表面上の第1の位置に熱を伝達するのに十分な熱を原子間力顕微鏡チップに与えるように構成されており、
該伝達された熱が、前記表面が第1の位置の少なくとも一部に第2の官能基を含むように、第1の位置の少なくとも一部から第1の官能基を除去するのに有効であり、
第1の官能基が、テトラヒドロピラニルカルバメート、アミンN-オキシド、テトラヒドロピラニルエーテル、トリフェニルメチルエーテル、テトラヒドロピラニル炭酸エステル、S-テトラヒドロピラニルカルボニル、またはエチルジスルフィドであり、
第2の官能基が、アミン、アルコール、フェノール、またはチオールである、
システム。
【請求項19】
式:Yn-Pn-Gnによって表されるポリマーを含む組成物であって、式中、nは正の整数であり、Yは架橋性官能基であり、Pは前記ポリマーの主鎖であり、Gは、熱による脱保護温度を上回る温度で熱にばく露された時に反応して異なる官能基を形成するように構成された保護官能基であり、ひとたび架橋されると熱による脱保護温度より高い温度において軟化しない、
組成物。
【請求項20】
Y:Pの比が約99:1〜約1:1である、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
Gが、テトラヒドロピラニルカルバメート、アミンN-オキシド、テトラヒドロピラニルエーテル、トリフェニルメチルエーテル、テトラヒドロピラニル炭酸エステル、S-テトラヒドロピラニルカルボニル、またはエチルジスルフィドであり、かつ前記異なる官能基が、アミン、アルコール、フェノール、またはチオールである、請求項19記載の組成物。
【請求項22】
前記ポリマーが、Pが少なくとも2つの構成要素を含むコポリマーである、請求項19記載の組成物。
【請求項23】
YおよびGがPの異なる構成要素上にある、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
Yがシンナメート基であり、Gがテトラヒドロピランカルバメート基である、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
ポリマーが式:

によって表される、請求項24記載の組成物。
【請求項26】
表面を修飾する方法であって、該方法が、
第1の位置に組成物の前駆体を備える表面を供給する工程;
原子間力顕微鏡チップを特定温度まで抵抗加熱する工程;
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、第1の位置を加熱するのに有効な、第1の位置と隣接または接触する位置に位置決めする工程;および
第1の位置にある前記組成物の前記前駆体の少なくとも一部を前記組成物に変える工程を含み、
該組成物が、金属、導電性ポリマー、グラフェン、またはセラミックである、
方法。
【請求項27】
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを第1の位置と隣接または接触する位置に位置決めする工程を中断する工程をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、前記表面上の第2の位置を加熱するのに有効な、該第2の位置と隣接または接触する位置に再位置決めする工程を前記方法がさらに含み、第2の位置が前記組成物の前記前駆体を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
第2の位置にある前記組成物の前記前駆体の少なくとも一部を前記組成物に変える工程をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
第1の位置と第2の位置との間の距離が約15ナノメートル以下である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
抵抗加熱した原子間力顕微鏡チップを、第1の位置から第2の位置までの前記表面を加熱するのに有効な、第1の位置から第2の位置までの前記表面と隣接または接触する位置に維持し続けながら、抵抗加熱した原子間力顕微鏡を前記表面上の第2の位置に移動させる工程を前記方法がさらに含み、第1の位置から第2の位置までの前記表面の少なくとも一部が前記組成物の前記前駆体を含む、請求項26記載の方法。
【請求項32】
第1の位置から第2の位置までの前記表面の少なくとも一部に由来する前記組成物の前記前駆体の少なくとも一部を前記組成物に変える工程をさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
移動の速度が50マイクロメートル毎秒を上回る、請求項31記載の方法。
【請求項34】
移動の速度が1ミリメートル毎秒を上回る、請求項31記載の方法。
【請求項35】
導電性ポリマーがポリ(p-フェニレンビニレン)である、請求項26記載の方法。
【請求項36】
セラミックが還元型酸化グラフェンである、請求項26記載の方法。
【請求項37】
表面を修飾するためのシステムであって、該システムが、
原子間力顕微鏡と、
原子間力顕微鏡チップと、
該原子間力顕微鏡チップと電気的に連絡している抵抗加熱器とを含み、
該抵抗加熱器が、前記原子間力顕微鏡チップが表面上の第1の位置と隣接または接触する位置に位置決めされた時に該第1の位置に熱を伝達するのに十分な熱を前記原子間力顕微鏡チップに与えるように構成されており、
該伝達された熱が、第1の位置の少なくとも一部にある組成物の前駆体を該組成物に変換するのに有効であり、
該組成物が、金属、導電性ポリマー、グラフェン、またはセラミックである、
システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公表番号】特表2012−528726(P2012−528726A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513357(P2012−513357)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/036871
【国際公開番号】WO2010/138965
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(504466834)ジョージア テック リサーチ コーポレイション (17)