説明

熱収縮性ポリエステル系フィルムおよび熱収縮性ラベル

【課題】熱収縮性ポリエステル系フィルムからなるラベルを熱収縮させる際に上部が折れこむ問題を低減させると共に、環境問題にも対応したラベルに好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供すること。
【解決手段】少なくとも実質同一組成であるA層およびB層からなる多層熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、A層とB層の極限粘度[η]が異なり、80℃の温水中に10秒浸漬して引き上げたときの主収縮方向の熱収縮率が30%以上で、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下であり、熱処理により収縮する際に片面側にカールしながら収縮をする、熱収縮性ポリエステル系フィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステルラベルの収縮仕上り性を改善すると共に、ペットボトルのリサイクルにも役立つ熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペットボトル容器などの胴ラベルや、ガラス容器などのキャップシール用の熱収縮フィルムとしてポリスチレン、ポリエステル系のフィルムが主として用いられている。熱収縮性ポリスチレン系フィルムは、熱収縮性ポリエステル系フィルムに比べると安価で収縮処理が比較的容易に行なえることから主に汎用タイプとして使用されている。一方、熱収縮性ポリエステル系フィルムはポリスチレン系フィルムに比べ、耐熱性に優れ、フィルムの光沢が良く、収縮後の締め付け応力が高いなどの特徴から主に高品位を要求される用途で使用されている。
【0003】
一方、環境問題や資源の有効活用の観点から、ペットボトルなどのポリエステル再生原料をリサイクルする動きが活発であり、熱収縮性ポリエステル系フィルムにあってはその利用が可能なものの一つである。例えば、特許文献1には、ポリエチレンテレフタレート製容器由来の樹脂と非晶性ポリエステル樹脂からなる熱収縮性フィルム材料の発明が記載されている。
【0004】
しかし、熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ラベル品質に優れリサイクルの点からも熱収縮性ポリスチレン系フィルムに勝るものの、ラベルの収縮条件によっては収縮速度が速いことによりラベル上部が折れこむといった問題が残っている。
【特許文献1】特開2004−196918
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムからなるラベルを熱収縮させる際に上部が折れこむ問題を低減させる一方で、リサイクル原料の有効活用やそのフィルムからなる再生原料のリサイクルを容易にした、ラベルに好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得た本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、少なくとも実質同一組成であるA層およびB層からなる多層熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、A層とB層の極限粘度が異なり、80℃の温水中に10秒浸漬して引き上げたときの主収縮方向の熱収縮率が30%以上で、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下であり、熱処理により収縮する際に一方向にカールしながら収縮をすることを特徴としている。
【0007】
上記フィルムのA層とB層の極限粘度の差を0.02dl/g以上とすることが好ましい実施形態であり、前記A層とB層の極限粘度差はリサイクル原料の使用比率を変えることで制御することができる。前記リサイクル原料としてはペットボトルを主原料としたリサイクル原料を用いることが好適である。
【0008】
前記熱収縮性ポリエステル系フィルムは収縮時にカールする面を筒状ラベルの外面側にすることによりラベルの折れこみを防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ボトルなどの胴ラベル、キャップシール用ラベルとして用いた際、ラベルの折れこみによる不良が低減し、しかもその原料としてペットボトル再生原料が使用できるばかりか、その製造により発生した屑のリサイクルも容易であるため、環境問題や資源の有効活用の点からも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、実質同一組成であるA層およびB層を表裏層とした2層以上の多層熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、A層とB層の極限粘度に差をつけることにより収縮時に表裏の収縮速度差、収縮率差を生じさせ特定の面にカールさせながら容器に密着させることにより折れこみによる不良を低減する。
【0011】
なお、本発明は後述するように複数種のモノマーから構成されるポリエステルからなり、主構成成分と1種以上の副次構成成分からなるが、実質同一組成であるとは、比較する各層での主構成成分及び副次構成成分の種類が同一で、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分において同じ種類の構成成分の配合量を各層で比較した場合に、配合量の差が全ての構成成分において3モル%以下であることをさす。
【0012】
実質同一組成で極限粘度の異なるシートをそれぞれ同一延伸条件で延伸した場合、極限粘度の高いシートは分子量が高く、極限粘度(分子量)の低いシートに比べ延伸応力が高く、その結果収縮時の収縮応力も高くなり、熱収縮速度が速くなる。2層構成にした場合は極限粘度の高い面にカールしながら収縮が行なわれる。
【0013】
3層以上とする場合は、表裏層に極限粘度の異なる層を形成することにより同様な効果を得ることができる。A層とB層以外に他の層、例えば中間層を設けてもよい。他の層を設ける場合には、A層およびB層と実質的に同一組成であることが好ましく、極限粘度は収縮時のカールを阻害しない範囲、例えば中間層においてはA層とB層の中間的な値とすることが好ましい。
【0014】
したがってラベルの外側が極限粘度の高い面となるように作成されたラベルを用いることにより収縮時の折れこみによる不良を低減させることができる。
【0015】
ここで、特定の面にカールさせながら収縮させる方法としては、表裏層の原料組成を替えることでも達成できるが、その製造時に発生した屑は表裏層の混合体となることから表裏どちらの層とも組成が異なりそのまま単純に自己回収して再利用することはできない。しかし、本発明の熱収縮フィルムは極限粘度は異なるものの、組成は実質同一であるためその再生原料は任意の割合で各々の層で再利用することができる点が優れている。
【0016】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、80℃の温水中における主収縮方向の熱収縮率が30%以上でなければならない。この熱収縮率が30%に満たないものは、ラベルとしてボトルなどの容器に被覆収縮させた時に容器に密着しない部分が発生し不良となるためである。より好ましいい主収縮方向の熱収縮率は40%以上であり、さらに好ましくは50%以上である。
【0017】
また、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下でなければならない。この収縮率が10%を超えるものは容器に被覆収縮させた時にラベルのタテヒケが大きく、それにより外観が悪いばかりかラベルの位置が安定しないためである。より好ましい主収縮方向と直交する方向の熱収縮率は8%以下であり、さらに好ましくは6%以下である。
【0018】
本発明においては、A層とB層の極限粘度差が、0.02dl/g以上であることが好ましい。この値が0.02dl/g未満の場合は収縮速度の差が小さく、折れこみ防止効果が小さいからである。より好ましくは0.03dl/g以上であり、さらに好ましくは0.04dl/g以上である。粘度差の上限は特にないがその差が多くなると製膜されたフィルムの印刷や製袋時のカールが大きくなり加工性が低下する恐れがあるため0.25以下とすることが好ましく、より好ましくは0.20以下である。
【0019】
フィルムのカール量は後述の評価方法で5%〜100%が好ましく、10%〜100%がより好ましい。なお、本発明においてフィルム又はラベルが収縮時に片面側にカールするとは、後述の評価方法においてカール量が5%以上であることをさす。
【0020】
A層とB層の極限粘度の差をつけるためには、各層を構成する一部または全てにおいて極限粘度の異なる原料を使用すればよい。極限粘度の異なる原料はバージン原料でももちろん構わないが、環境問題、資源の有効活用の観点からバージン原料とは極限粘度が異なるリサイクル原料を用いることが好ましい。ここでいうリサイクル原料は、熱収縮性ポリエステル系収縮フィルムを生産する際に発生する屑からなる再生原料、ポリエチレンテレフタレートフィルムを生産する際に発生する屑からなる再生原料、ペットボトルなどのポリエチレンテレフタレート容器の再生原料をいう。ポリエチレンテレフタレート容器の再生原料にあっては、マテリアル再生原料、ケミカル再生原料があるが一方のみを用いても混合して用いても構わない。
【0021】
熱収縮性ポリエステル系収縮フィルムを生産する際に発生する屑からなる再生原料は、一般に溶融押出し工程での熱劣化等で元の原料よりも極限粘度が低下している。したがって再生原料を製造する際の粘度低下を制御し、A層とB層への添加率を変えることにより極限粘度に差をつけることができる。また、ポリエチレンテレフタレートフィルムを生産する際に発生する屑からなる再生原料、ペットボトルなどのポリエチレンテレフタレート容器の再生原料は、フィルムを構成するポリエチレンテレフタレートと極限粘度が異なるものを選定し、A層とB層のポリエチレンテレフタレート原料の使用比率を変えて置き換えることで極限粘度に差をつけることができる。これらの再生原料は1種類で使用しても良く、2種類以上を混合使用しても構わない。また、上記再生原料を製造する際の粘度低下を抑制する方法としては、例えば原料の水分率を制御する方法、低温押出しする方法、酸化防止剤を添加する方法などを用いることができる。
【0022】
本発明においてフィルム全体の極限粘度は、0.60dl/g以上であることが好ましい。フィルム全体の極限粘度を0.60dl/g以上にすることにより、フィルムの機械的強度や耐破れ性が向上し、印刷加工や溶剤接着加工時に破断などの不良が低減できるからである。フィルム全体の極限粘度を0.60dl/g以上にするためには、例えば、高分子量のポリエステル原料を使用することや、再生原料を製造する際の粘度低下を制御することで達成できる。本発明においてはA層とB層で極限粘度が異なるが、フィルム全体として極限粘度が0.60dl/g以上であれば構わない。なお、フィルムの好ましい極限粘度は0.63dl/g以上である。なお、フィルム全体の極限粘度の上限は特に制限はないが、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.85以下である。
【0023】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フイルムは、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分から形成されるエステルユニットを主たる構成ユニットとして有する。フイルムの耐破れ性、強度、耐熱性等を考慮すれば、熱収縮性ポリエステル系フイルムの構成ユニット100モル%中、エチレンテレフタレートユニットが50モル%以上となるように選択することが好ましい。従って、多価カルボン酸成分100モル%中、テレフタル酸成分(テレフタル酸またはそのエステルからなる成分)を50モル%以上、多価アルコール成分100%モル中、エチレングリコール成分を50モル%以上、とすることが好ましい。エチレンテレフタレートユニットは、55モル%以上がより好ましく、60モル%以上がさらに好ましい。
【0024】
エステルユニットにおいて多価アルコール成分を形成するための多価アルコール類としては、上記エチレングリコールの他に、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、1, 4−ブタンジオール、1, 6―ヘキサンジオール、3−メチル−1, 5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1, 5−ペタンジオール、2, 2−ジエチル−1, 3−プロパンジオール、1, 9−ノナンジオール、1, 10−デカンジオ−ル等の脂肪族ジオール、1, 4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、ダイマージオール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール化合物またはその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、等も併用可能である。
【0025】
また、多価カルボン酸成分を形成するための多価カルボン酸類としては、上述のテレフタル酸およびそのエステルの他に、芳香族ジカルボン酸、それらのエステル形成誘導体、脂肪族ジカルボン酸等が利用可能である。芳香族ジカルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタレン−1, 4−もしくは−2, 6−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。またこれらの芳香族ジカルボン酸やテレフタル酸のエステル誘導体としてはジアルキルエステル、ジアリールエステル等の誘導体が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シュウ酸、コハク酸等や、通常ダイマー酸と称される脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。さらに、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の多価カルボン酸を、必要に応じて併用してもよい。
【0026】
この他、多価アルコール類、多価カルボン酸類ではないが、ε−カプロラクトンに代表されるラクトン類も一部使用してもよい。ラクトン類は、開環して両端にエステル結合を有するユニットとなるものであり、1つのラクトン類由来のユニットが、カルボン酸成分であり、かつ、アルコール成分であると考えることができる。よって、ラクトン類を用いる場合、1, 4−シクロヘキサンジメタノール成分量や、他の多価アルコール成分の量は、多価アルコール成分量に、ラクトン類由来のユニット量を加えた量を100モル%として計算する。また、各多価カルボン酸成分の量を計算する際も、多価カルボン酸成分量に、ラクトン類由来のユニット量を加えた量を100モル%とする。
【0027】
エチレンテレフタレートユニット以外のユニットを構成する好ましい成分としては、エチレンテレフタレートユニットによる高結晶性を低下させて、低温熱収縮性や溶剤接着性を確保することのできるものが好ましい。このような結晶性低下成分としては、多価カルボン酸成分では、イソフタル酸、ナフタレン−1, 4−もしくは−2, 6−ジカルボン酸が、多価アルコール成分では、ネオペンチルグリコール、1, 4−シクロヘキサンジメタノール、1, 4−ブタンジオール、1,3-プロパンジオールが好ましいものとして挙げられ、ネオペンチルグリコール、1, 4−シクロヘキサンジメタノール、1, 4−ブタンジオール、1,3-プロパンジオールが特に好ましい。これらの結晶性低下成分の併用によって、フイルムの熱収縮特性と、耐破れ性および溶剤接着性を、バランス良く向上させることができる。特に、溶剤接着性の観点からは、少なくとも表面層となる層に、これらの好ましい成分の少なくとも1種から構成されるユニットを含むポリエステルを原料の一部として用いることが望ましい。原料ポリエステルの構成ユニット100モル%中、これらの結晶性低下成分を含むユニットは、10モル%以上とすることが好ましく、12モル%以上がより好ましく、15モル%以上がさらに好ましい。上限は50モル%以下が好ましく、45モル%以下がより好ましく、40モル%以下がさらに好ましい。
【0028】
熱収縮性ポリエステル系フイルムを構成するポリエステルは常法により溶融重合することによって製造できるが、ジカルボン酸類とグリコール類とを直接反応させ得られたオリゴマーを重縮合する、いわゆる直接重合法、ジカルボン酸のジメチルエステル体とグリコールとをエステル交換反応させたのちに重縮合する、いわゆるエステル交換法等が挙げられ、任意の製造法を適用することができる。また、その他の重合方法によって得られるポリエステルであってもよい。重合触媒としては、慣用の種々の触媒が使用でき、例えばチタン系触媒(チタニウムテトラブトキシド等)、アンチモン系触媒(三酸化アンチモン等)、 ゲルマニウム系触媒(二酸化ゲルマニウム等)、コバルト系触媒(酢酸コバルト等)等があげられる。
【0029】
また、熱収縮性フィルムの易滑性を向上させるために、例えば、二酸化チタン、微粒子状シリカ、カオリン、炭酸カルシウムなどの無機滑剤、また例えば、長鎖脂肪酸エステルなどの有機滑剤を添加してもよい。また、必要に応じて、安定剤、着色剤、酸化防止剤、静電防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を添加してもよい。
【0030】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フイルムを製造するには、以下の方法が望ましい。まず、チップ状のPETボトルリサイクル原料とそれ以外のポリエステル原料を用意し、これらをホッパドライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥する。その後、適宜混合して、押出機から、200〜300℃の温度でフイルム状に押し出す。あるいは、未乾燥のチップをベント式押出機内で水分を除去しながら同様にフイルム状に押し出す。多層構成の積層フイルムにする方法には、共押出しすればよい。PETボトルリサイクル原料は、公知の方法で洗浄、粉砕されたチップ状のものを用いるとよい。
【0031】
押出しに際してはTダイ法、チューブラ法等、既存のどの方法を採用しても構わない。押出後は、キャスティングロールで急冷して未延伸フイルムを得る。なお、「未延伸フイル ム」には、製造工程でのフイルム送りのために必要な張力が作用したフイルムも含まれる。上記押出機とキャスティングロールの間に電極を配設し、電極とキャスティングロールとの間に電圧を印加し、静電気的にフイルムをロールに密着させることが、フイルムの厚み斑抑制の観点から好ましい。
【0032】
上記未延伸フイルムに対して延伸処理を行う。延伸処理は、上記キャスティングロール等による冷却後、連続して行ってもよいし、冷却後、一旦ロール状に巻き取り、その後行ってもよい。なお、最大収縮方向がフイルム横(幅)方向であることが、生産効率上、実用的であるので、以下、最大収縮方向を横方向とする場合の延伸法の例を示す。最大収縮方向をフイルム縦(長手)方向とする場合も、下記方法における延伸方向を90°変える等、通常の操作に準じて延伸することができる。
【0033】
熱収縮性ポリエステル系フイルムを、テンター等を用いて横方向に延伸する際、延伸工程に先立って、フイルム表面温度がTg+0℃〜Tg+60℃の範囲内のある温度になるまで加熱し、Tg−20℃〜Tg+40℃の範囲内の所定温度で、2.3〜7.3倍、好ましくは2.5〜6.0倍に延伸する。その後、50℃〜110℃の範囲内の所定温度で、0〜15%の伸張あるいは0〜15%の緩和をさせながら熱処理し、必要に応じて40℃〜100℃の範囲内の所定温度でさらに熱処理をして、熱収縮性ポリエステル系フイルムを得る。
【0034】
延伸の方法としては、テンタ−での横1軸延伸ばかりでなく、縦方向に1.0倍〜4.0倍、好ましくは1.1倍〜2.0倍の延伸を施してもよい。このように2軸延伸を行う場合は、遂次2軸延伸、同時2軸延伸のいずれでもよく、必要に応じて、再延伸を行ってもよい。また、遂次2軸延伸においては、延伸の順序として、縦横、横縦、縦横縦、横縦横等のいずれの方式でもよい。
【0035】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フイルムの全体の厚みは特に限定されないが、例えばラベル用熱収縮性ポリエステル系フイルムとしては、全体厚が20μm以上、好ましくは25μm以上であって、300μm以下、好ましくは200μm以下とすることが推奨される。各層の厚みは特に限定されないが、A層とB層の厚みの好ましい比率の範囲は8:2〜2:8で、6:4〜4:6がより好ましい。
【0036】
上記熱収縮性ポリエステル系フイルムを熱収縮性ラベルとするには、公知のチューブ状成形装置を用いて、フイルム片端の片面の端縁から少し内側に接着用溶剤を所定幅で塗布し、直ちにフイルムを丸めて端部を重ね合わせて接着し、チューブに加工する。このチューブを所定長さに裁断して本発明の熱収縮性ラベルとすることができる。
【0037】
フイルムの接着は、フイルムの一部を溶融させる溶融接着法を採用することも可能であるが、ラベルの熱収縮特性の変動等を抑制する観点からは、溶剤を用いて行うことが好ましい。使用し得る溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、トチメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;フェノール等のフェノール類;テトラヒドロフラン等のフラン類;1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;等の有機溶剤が挙げられるが、中でも、安全性が高い点で、1,3−ジオキソランやテトラヒドロフランが望ましい。この熱収縮性ラベルは、PETボトル等の容器に装着した後、公知の熱収縮手段(熱風トンネルやスチームトンネル等)で熱収縮させて被覆させることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するもの
ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施する場合は、本発明に含まれる。また、実施例および比較例で得られたフイルムの物性の測定方法は、以下の通りである。
【0039】
(1)極限粘度
試料(チップまたはフイルム)0.1gを精秤し、25mlのフェノール/テトラクロロエタン=3/2(質量比)の混合溶媒に溶解した後、オストワルド粘度計で30±0.1℃で測定する。極限粘度[η]は、下式(Huggins式)によって求められる。
【0040】
〔数1〕
ηSP/c=[η]+k[η]2
kはいわゆるHugginsの定数であり、溶質分子間の流体力学的相互作用の尺度である。
[η]は数個の濃度が異なる溶液の粘度測定からηSP/cをcに対してプロットし、
得られた直線をc→0に補概して求める。
ηSP濃度がcの時の比粘度である。
【0041】
(2)熱収縮率
フイルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、80℃±0.5℃の温水中に、無荷重状態で10秒間浸漬して熱収縮させた後、直ちに25℃±0.5℃の水中に10秒間浸漬
し、その後、試料の縦および横方向の長さを測定し、下記式に従って求めた値である。最も収縮率の大きい方向を最大収縮方向とする。
熱収縮率(%)=(収縮前の長さ−収縮後の長さ)÷(収縮前の長さ)×100
【0042】
(3)収縮仕上り性
熱収縮フィルムの主収縮方向が円周方向となるように、接着溶剤に1,3−ジオキソランを用い、折径111mm、高さ118mmのラベルを作製した。なお、本発明のフィルムを使用の場合は、極限粘度の高い面をラベルの外側とした。
上記ラベルを350mlペットボトル(日本コカ・コーラ株式会社販売:爽健美茶)に装着し、Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式:SH−1500−L)を用い、通過時間10秒、ゾーン温度90℃で通過させた。
評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
○:ラベル上部の折れ込みなし
×:ラベル上部の折れ込みあり
【0043】
(4)温湯カール率
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、主収縮方向と直行する方向に1cmピッチに長さ1cmの切り込みを入れた後、85±0.5℃の温水中において、無荷重状態で3秒間処理して熱処理させた。該フィルムの切り込み部について下記式よりカール率を求めた。

式:カール率(%)=(L2−L1)/L2×100

L1:切り込み先端部位の角部と角部を直線で結んだ長さ(mm)
L2:切り込み先端部位を広げた時の角部と角部を直線で結んだ長さ(mm)

○:片面へカールあり(カール量5%以上)
×:カールなし(カール量5%未満)
【0044】
実施例1
層−Aには、ポリエステルA:35質量%、ポリエステルB:55質量%、ポリエステルC:10質量%を混合したポリエステル系樹脂を用い、層−BにはポリエステルB:55質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルD:35質量%を混合したポリエステル系樹脂を、それぞれを別々の単軸押出機によって280℃で溶融し、層比率が1:1となるようにTダイから共押出し、チルロールで冷却して、2層構造の未延伸フイルムを得た(厚み:200μm) この未延伸フイルムを88℃で10秒間予熱した後、テンターで横方向に80℃で3.9倍延伸し、続いて78℃で10秒間熱処理を行って、厚さ50μm(各層厚み:25μm/25μm)の熱収縮性ポリエステル系フイルムを得た。使用したポリエステル系樹脂の組成・内容を表1に示す。表1中、TPAはテレフタル酸を、EGはエチレングリコールを、BDは1,4−ブタンジオールを、NPGはネオペンチルグリコールを意味する。また、フイルムの特性を表2に示した。
【0045】
実施例2
層−AにはポリエステルA:35質量%、ポリエステルB:55質量%、ポリエステルC:10質量%を混合したポリエステル系樹脂を用い、層−BにはポリエステルA:21質量%、ポリエステルB:45質量%、ポリエステルC:6質量%、ポリエステルE:40%を混合したポリエステル系樹脂を用いた以外は実施例1と同様な方法で、厚さ50μm(各層厚み:25μm/25μm)の熱収縮性ポリエステル系フイルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示した。
【0046】
比較例1
ポリエステルA:35質量%、ポリエステルB:55質量%、ポリエステルC:10質量%を混合したポリエステル系樹脂を1台の単軸押出機によって280℃で溶融し、1層構造の未延伸フイルムを得た以外は実施例1と同様な方法で、厚さ50μm(単層)の熱収縮性ポリエステル系フイルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示した。
【0047】
比較例2
層−AにはポリエステルA:15質量%、ポリエステルB:75質量%、ポリエステルC:10質量%を混合したポリエステル系樹脂を用い、層−BにはポリエステルB:75質量%、ポリエステルC:10質量%、ポリエステルD:15質量%を混合したポリエステル系樹脂を用いた以外は実施例1と同様な方法で、厚さ50μm(各層厚み:25μm/25μm)の熱収縮性ポリエステル系フイルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の熱収縮性ポリエステルフィルムは、ラベルの収縮仕上り性を改善する手段としてペットボトルなどのリサイクル原料を有効活用しており、環境にやさしい熱収縮フィルムとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも実質同一組成であるA層およびB層からなる多層熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、A層とB層の極限粘度が異なり、80℃の温水中に10秒浸漬して引き上げたときの主収縮方向の熱収縮率が30%以上で、主収縮方向と直交する方向の熱収縮率が10%以下であり、熱処理により収縮する際に片面側にカールすることを特徴とする、熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
前記A層とB層の極限粘度の差が、0.02dl/g以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
前記A層とB層の極限粘度差をリサイクル原料の使用比率を変えることにより発現させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
前記リサイクル原料がペットボトルを主原料としたリサイクル原料であることを特徴とした請求項3に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
フィルム全体の極限粘度が0.60dl/g以上であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
前記請求項1から請求項5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを用いて作成した、外面側にカールすることを特徴とした熱収縮性ラベル。

【公開番号】特開2006−150664(P2006−150664A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342096(P2004−342096)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】