説明

熱収縮性ポリエステル系フィルム及びその製造方法、熱収縮性蓋材

【課題】熱収縮性ポリエステル系フィルムが本来有している透明性を損なうことなく、密封包装時に防曇性が優れ、かつ常温常湿雰囲気下での帯電防止性能に優れることはもとより、低湿度雰囲気下でも帯電防止性や滑性等の加工適性に優れ、温常湿雰囲気下での帯電防止性能にも優れるポリエステル系フィルム及び熱収縮性ラベルを提供することを目的とする。
【解決手段】フィルムを10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を80℃の温水中に10秒浸漬して引き上げたときの主収縮方向の収縮率が20%以上でかつフィルム片面に防曇性を有する塗布液を塗布した事を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくは防曇性に優れ蓋材用途に好適であり、かつ冷蔵食品等の食品用の蓋剤としても使用可能な熱収縮性ポリエステル系フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、包装品の、外観向上のための外装、内容物の直接衝撃を避けるための包装、ガラス瓶またはプラスチックボトルの保護と商品の表示を兼ねたラベル包装等を目的として、熱収縮プラスチックフィルムが広範に使用されている。これらの目的で使用されるプラスチック素材としては、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器、ポリエチレン容器、ガラス容器などの各種容器において、ラベルやキャップシールあるいは集積包装の目的で使用されている。
【0003】
しかし、ポリ塩化ビニル系フィルムは収縮特性には優れるが、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、ダイオキシンの原因となるなどの問題を抱えている。また、熱収縮性塩化ビニル系樹脂フィルムをPET容器などの収縮ラベルとして用いると、容器をリサイクル利用する際に、ラベルと容器を分離しなければならないという問題がある。
【0004】
一方、ポリスチレン系フィルムは、収縮後の仕上がり外観性が良好な点は評価できるが、耐溶剤性に劣るため、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない。また、ポリスチレン系樹脂は、高温で焼却する必要がある上に、焼却時に多量の黒煙と異臭が発生するという問題がある。
【0005】
これらの問題のないポリエステル系フィルムは、ポリ塩化ビニル系フィルムやポリスチレン系フィルムに代わる収縮ラベルとして非常に期待されており、PET容器の使用量増大に伴って、使用量も増加傾向にある。また様々なラベルや包装体へと使用されている。
【0006】
しかし、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムも、その特性においてさらなる改良が求められていた。上記従来のフィルムは防曇性が不足するという問題点がある。特に冷蔵食品において 生麺タイプのカップ麺等は中身が見えるように蓋材を透明にしている商品がある。それらは店頭で冷蔵庫内に展示されている時に防曇性が劣ると透明の蓋が曇り 中身が見えにくくなるという問題がある。
さらに長く、安定した防曇性の改善を目的とし、ポリグリセリン系などのより防曇効果の高い防曇剤などを使用した方法が開示されている。(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2004−8038号公報
【0007】
一方で防曇剤の添加量を増やすことも検討されているがフィルムのベタツキ、ブロッキング、ブリード白化、フィルム製膜工程での汚れが問題となる場合があり好ましくない。
【0008】
また、ポリグリセリン系の防曇剤は樹脂との相溶性、ブリード性などに問題があり、練り込みによる場合、防曇性分子量が高くなれば良好な防曇性が得られるとは限らない。
【0009】
また防曇性をもたせる為にフィルムに防曇性を持つ塗布液を塗布する事も検討したが、両性型のベタイン型やアミノ酸型等の界面活性剤はPL未登録の為に食品包装用途には好ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の様な事情に着目してなされたものであり、その目的は熱収縮性ポリエステル系フィルムが本来有している透明性を損なうことなく、蓋材として密封包装時に防曇性が優れた熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題を解決し得た熱収縮性ポリエステル系フィルムとは、フィルムを10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を80℃の温水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大熱収縮方向の収縮率が20%以上である。該熱収縮性ポリエステル系フィルムは、熱収縮性ポリエステル系フィルムの熱収縮率が80℃で20%未満であると、フィルムの熱収縮力が不足して、容器等に被覆収縮させたときに、容器に密着せず、外観不良が発生するため好ましくない。
【0012】
本発明における好ましい実施様態は、フィルムの少なくとも片面にアニオン系界面活性剤にグリセリンを混合した塗布液または、カチオン系界面活性剤からなる防曇性を有する帯電防止剤を塗布してなる熱収縮性ポリエステル系フィルムである。それにより熱収縮性ポリエステル系フィルムは、防曇性を良好な状態とする事が可能である。
【0013】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で1×1013(Ω/□)以下であることが好ましい。該湿度下での表面固有抵抗値を確保することにより、冬場等の低湿度雰囲気下においても優れた加工性能を付与することが可能である。
【0014】
さらに、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で1×1012(Ω/□)以下であることが好ましい。該湿度下での表面固有抵抗値を確保することにより、常湿雰囲気下および夏場等の高湿度雰囲気下においても優れた加工性能を付与することが可能である。
【0015】
さらに、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルム塗布面とフィルム非塗布面同士の動摩擦係数が、JIS K−7125法に準じた、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で0.20以上であることが好ましい。該滑性を確保することによって、さらに優れた加工性能を付与することができる。
【0016】
さらに、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは1,3-ジオキソランでの溶剤接着強度が4(N/15mm)以上であることが好ましい。該溶剤接着強度を確保することにより、ラベル用途への使用も可能である。
【0017】
さらに、本発明における製造方法としては、上記アニオン系界面活性剤にグリセリンを混合した塗布液、またはカチオン系界面活性剤のいずれかの塗布液を塗布後、乾燥することが好ましく、未延伸ポリエステル系フィルム又は1軸延伸ポリエステル系フィルム又は2軸延伸ポリエステル系フィルムの片面に、上記アニオン系界面活性剤にグリセリンを混合した塗布液、またはカチオン系界面活性剤からなる防曇性を有する帯電防止剤を含むいずれか一つの塗布液を塗布後、乾燥、延伸することが製造のしやすさとコスト面から、より好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルム及び熱収縮性蓋材は、熱収縮性ポリエステル系フィルムが本来有している透明性を損なうことなく、密封包装時に防曇性が優れ、かつ常温常湿雰囲気下での帯電防止性能に優れることはもとより、低湿度雰囲気下でも帯電防止性や滑性等の加工適性に優れるため、冬場等でも加工トラブルの発生を低減・抑止することのできる熱収縮性ポリエステル系フィルム及び熱収縮性蓋材を提供することができる為、実用価値の非常に高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムとは、公知の多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分から形成されるエステルユニットを主たる構成ユニットとする単一の共重合ポリエステル、あるいは、2種以上のポリエステルの混合物を用いて得られるものであり、10cm×10cmの正方形状に切り取った熱収縮性ポリエステル系フィルムの 80℃の温湯に10秒間浸漬したときの最大熱収縮方向の熱収縮率が20%以上である。

収縮率(%)=(加熱前寸法−加熱後寸法)/加熱前寸法 × 100
【0020】
フィルムの熱収縮率が20%未満であると、フィルムの熱収縮率が不足して、容器に被覆収縮させたときに、容器に密着せず、外観不良が発生するため好ましくない。より好ましい熱収縮率は22%以上、さらに好ましくは25%以上である。
【0021】
さらに本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で1×1013(Ω/□)以下である。該低湿度下の表面固有抵抗値を確保することにより、特に冬場等の低湿度雰囲気下においても優れた加工性能を付与することが可能である。上記表面固有抵抗値が1×1013(Ω/□)未満であると、低湿度雰囲気下において静電気障害による種々のトラブルを発生する。例えば印刷工程における、いわゆる印刷ヒゲの発生や印刷・チュービング工程でのロールへの巻き付き、ラベルカット後のラベル同士の付着、特にラベルを積み重ねた後に手めくりで1枚ずつ取って装着する際の付着による作業性の困難さやカットしたラベルの口開き性不良のトラブル、表面へのホコリ等の汚れの付着等が発生する。上記表面固有抵抗値は、1×1013(Ω/□)以下、好ましくは5×1012(Ω/□)以下、より好ましくは1×1012(Ω/□)以下である。
【0022】
さらに本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で1×1012(Ω/□)以下であることが好ましい。該湿度下での表面固有抵抗値を確保することにより、常湿雰囲気下および夏場等の高湿度雰囲気下においても優れた加工性能を付与することができ、前述の静電気障害による種々のトラブルを防止することができる該湿度下での表面固有抵抗値は、好ましくは1×1012(Ω/□)以下、より好ましくは5×1011(Ω/□)以下、さらに好ましくは1×1010(Ω/□)以下である。
【0023】
さらに本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいては、フィルムの少なくとも片面同士の動摩擦係数がJIS K−7125法に準じた、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で0.20以上であることが好ましい。該滑性より更に易滑性が増すと蓋材やラベルを取り付ける工程で滑りすぎて、取り付けの作業性が劣る。より好ましくは0.21以上,更に好ましくは0.22以上である。上限は好ましくは0.44以下より好ましくは0.42以下、さらに好ましくは0.40以下である。該摩擦係数が高すぎても取り付け作業性が悪化する。
【0024】
さらに本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて、防曇性を有するとは、後述の実施例記載の評価方法にて、フィルムの少なくとも片面の防曇性が6段階評価の3以下であることをさす。防曇性が3以下であると、冷蔵食品の蓋剤として使用された時、蓋の内側に水滴が付着しても購買者に中味を見せる事が可能となるので好ましい。より好ましくは2以下,更に好ましくは1である。
【0025】
本発明における好ましい実施様態は、フィルムの片面にアニオン系の帯電防止剤にグリセリンを混合した界面活性剤、又はカチオン系の界面活性剤のいずれかを塗布してなる熱収縮性ポリエステル系フィルムである。界面活性剤とは親水性基と疎水性基をもつ化合物の総称で、界面活性剤よりなる帯電防止剤は親水性基のイオン型によりアニオン型、カチオン型、両性型、非イオン型に分類できる。
非イオン型とはポリエチレングリコールや多価アルコール等の親水性基を持つものさすが、低湿度下での帯電防止性能において劣る欠点を有し、防曇性や低湿度下での帯電防止性能において劣る欠点を有する。
また両性型とはアニオン型、カチオン型、非イオン型のうちいずれか2種類の親水性基を持つものをさす。両性型は多くの場合カチオン部分として、アミン塩または第4級アンモニウム塩を親水性基として持つことから、両性型はアニオン部分の種類で一般的に分類されるが、カルボン酸又はカルボン酸塩系両性型、硫酸エステル又は硫酸エステル塩系両性型、スルホン酸又はスルホン酸塩系両性型、リン酸エステル又はリン酸エステル塩系両性型があり、防曇性や低湿度下での帯電防止性能を有しているが、PL認可された物が無く食品包装での使用ができない問題点がある。
またアニオン型とは、カルボン酸、カルボン酸塩、硫酸エステル、硫酸エステル塩、スルホン酸、スルホン酸塩、リン酸エステル、リン酸エステル塩等の親水性基を持つものをさし、衛生性が有り広く用いられているが、防曇性や低湿度下での帯電防止性能において劣る欠点を有し、単独では本発明の目的とする性能を得ることが困難である。しかし本発明者らはグリセリンを混合する事により本発明の目的とする、防曇性、低湿度雰囲気下での帯電防止性等の性能を得られることを見出した。
またカチオン型とは第1級アミン、第1級アミン塩、第2級アミン、第2級アミン塩、第3級アミン、第3級アミン塩、第4級アンモニウム、第4級アンモニウム塩等の親水性基を持つものをさし、防曇性や低湿度下での帯電防止性能においては優れている。
【0026】
前述のアニオン系の帯電防止剤にグリセリンを混合した界面活性剤、又はカチオン系の界面活性剤、ノニオン系の界面活性剤をフィルムの片面に適正量塗布することにより、本発明における好ましい範囲内の防曇性、表面固有抵抗値、動摩擦係数を制御することが可能である。
アニオン系の帯電防止剤にグリセリンを混合した界面活性剤においては、固形分換算でグリセリンの混合量をアニオン系界面活性剤量100重量部に対して1重量部以上から80重量部以下が好ましい。より好ましくは2重量部以上から70重量部以下、さらに好ましくは3重量部以上から60重量部である。グリセリンの混合比率が該値を下回ると、本発明における好ましい範囲内の防曇性、表面固有抵抗値および動摩擦係数を制御することが困難となり、該値を超えると動摩擦係数を制御することが困難となり、いずれも好ましくない。
アニオン系の帯電防止剤にグリセリンを混合した界面活性剤においては好ましい塗布量の範囲は、0.002(g/m2)〜0.050(g/m2)、より好ましくは0.003(g/m2)〜0.040(g/m2)、さらに好ましくは0.004(g/m2)〜0.030(g/m2)であり、カチオン系の界面活性剤においては好ましい塗布量の範囲は、0.001(g/m2)〜0.030(g/m2)、より好ましくは0.002(g/m2)〜0.020(g/m2)、さらに好ましくは0.003(g/m2)〜0.010(g/m2)であり、ノニオン系の界面活性剤においては好ましい塗布量の範囲は、0.001(g/m2)〜0.040(g/m2)、より好ましくは0.002(g/m2)〜0.030(g/m2)、さらに好ましくは0.003(g/m2)〜0.010(g/m2)である。
該下限塗布量を下回ると、本発明における好ましい範囲内の表面固有抵抗値 および 防曇性を制御することが困難となり、該上限塗布量を超えるとフィルムの溶剤接着性を阻害するので溶剤接着によりラベルを作成する際に剥離を発生する可能性があり、いずれも好ましくない。
【0027】
なお、本発明においては、必要に応じて上記アニオン系の帯電防止剤にグリセリンを混合した界面活性剤、又はカチオン系の界面活性剤、ノニオン系の界面活性剤以外の、シリカ等の粒子滑剤、ワックス成分、紫外線吸収剤等を塗布液中に混合して塗布することも可能である。
【0028】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに用いられる原料組成物中のポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、エチレンテレフタレートユニットを構成するテレフタル酸のほか、芳香族ジカルボン酸および脂環式ジカルボン酸のいずれもが用いられ得る。
芳香族ジカルボン酸としてはイソフタル酸、オルトフタル酸、5−tert−ブチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のベンゼンカルボン酸類;2,6−ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸類;4,4’−ジカルボキシジフェニル、2,2,6,6−テトラメチルビフェニル−4,4’−ジカルボン酸等のジカルボキシビフェニル類;1,1,3−トリメチル−3−フェニルインデン−4,5−ジカルボン酸およびその置換体;1,2−ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸およびその置換体等が挙げられる。
脂肪酸カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ウンデカン酸、ドデカンジカルボン酸、ブラシル酸、テトラデカンジカルボン酸、タプシン酸、ノナデカンジカルボン酸、ドコサンジカルボン酸、およびこれらの置換体、4,4’−ジカルボキシシクロヘキサンおよびその置換体等が挙げられる。
【0029】
原料組成物に含まれるポリエステルのジオール成分としては、ポリエチレンテレフタレートユニットを構成するエチレングリコールを始めとして、この他に脂肪族ジオール、脂環式ジオール、および芳香族ジオールのいずれもが用いられ得る。
脂肪族ジオールとしては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール等がある。脂環式ジオールとしては、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等がある。芳香族ジオールとしては、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルフォン等のビスゲノール系化合物のエチレンオキサイド付加物;キシリレングリコール等がある。また、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコールもジオール成分として用いられ得る。
【0030】
上記原料組成物に含有されるポリエステルは、上記酸成分およびジオール成分とからなるものであるが、ポリエステルを調整するには、熱収縮性フィルムとしての特性を改良するために1種以上の酸成分またはジオール成分を組み合わせて用いることが好ましく、組み合わされるモノマー成分の種類および含有量は、所望のフィルム特性、経済性等に基づいて適宜決定すればよい。また原料組成物には、1種もしくはそれ以上のポリエステルが含有される。含有されるポリエステルが1種である場合には、エチレンテレフタレートユニットを含有する共重合ポリエステルとする。2種以上のポリエステルを混合する場合には、共重合ポリエステルおよびホモポリエステルの所望の組成の混合物とする。一般に共重合ポリエステルは融点が低いため、乾燥時の取扱いが難しい等の問題があるので、ホモポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキセンジエチレンテレフタレート)等)と共重合ポリエステルを混合して用いることが好ましい。ただし、熱収縮性ポリエステル系フィルムとした時に、ポリエステル全体の1〜2モル%が脂肪族ジカルボン酸ユニットであることが好ましい。この範囲にコントロールすることで熱収縮の開始温度を好ましい範囲に制御することができる。
【0031】
上記原料組成物中のポリエステルは、いずれも従来の方法により製造され得る。例えば、ジカルボン酸とジオールとを直接反応させる直接エステル化法;ジカルボン酸ジメチルエステルとジオールとを反応させるエステル交換法等を用いてポリエステルが調整される。調整は、回分式および連続式のいずれの方法で行なわれてもよい。
【0032】
原料組成物中には、上記ポリエステルの他に必要に応じて各種の公知の添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば不活性粒子滑剤としてシリカ、チタニア、マイカ、タルク、炭酸カルシウム等の無機粒子、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、スチレンージビニルベンゼン系、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ベンゾグアナミン等の有機粒子、あるいはこれらの表面処理品等を添加することにより更に滑り性を向上させることができるが、表面凹凸の生成などによりフィルムの透明性が低下する傾向にあるため、透明性の要求に応じて添加量を適宜調整することが推奨される。また、有機系潤滑剤としてはパラフィンワックス、マイクロワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、エチレンアクリル系ワックス、ステアリン酸、ベヘニン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、硬化ヒマシ油、ステアリン酸ステアリル、シロキサン、高級アルコール系高分子、ステアリルアルコール、ステアリアン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸鉛 等を添加することが好ましい。中でも、低分子量ポリエチレンワックスの添加は層表面を平滑にすることによるスティック防止効果から滑性の向上が期待できる。上記の他に目的に応じて紫外線吸収剤;着色剤(染料等)を添加することもできる。
【0033】
上記原料組成物は、公知の方法(例えば、押し出し法、カレンダー法)によりフィルム状に成形される。フィルムの形状は、例えば平面状またはチューブ状であり、特に限定されない。延伸方法としては、例えば、ロール延伸法、長間隙延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法等の公知の方法が採用できる。これらの方法のいずれにおいても、逐次2軸延伸、同時2軸延伸、1軸延伸、およびこれらの組み合わせで延伸を行なえばよい。
上記2軸延伸では縦横方向の延伸は同時に行なわれてもよく、どちらか一方を先に行ってもよい。延伸倍率は1.0倍から7.0倍の範囲で任意に設定され、所定の一方向の倍率を3.5倍以上とすることが好ましい。
【0034】
延伸工程においては、フィルムを構成する重合体が有するガラス転移温度(Tg)以上でかつ例えばTg+80℃以下の温度で予熱を行なうことが好ましい。延伸時のヒートセットでは、例えば、延伸を行なった後に、30〜150℃の加熱ゾーンを約1〜30秒通すことが推奨される。また、フィルムの延伸後、ヒートセットを行なう前もしくは行なった後に、所定の度合で延伸を行なってもよい。さらに上記延伸後、伸張あるいは緊張状態に保ってフィルムにストレスをかけながら冷却する工程、あるいは、該処理に引き続いて緊張状態を解除した後も冷却工程を付加してもよい。得られるフィルムの厚みは6〜250μmの範囲が好ましい。
【0035】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの好ましい製造方法は、前述のアニオン系の帯電防止剤にグリセリンを混合、又はカチオン系、ノニオン系の帯電防止剤を含む塗布液を、延伸製膜した熱収縮性ポリエステルフィルムの片面上に塗布後、乾燥する方法(オフライン・コート)と未延伸ポリエステル系フィルム又は1軸延伸ポリエステル系フィルムの片面に、前述のアニオン系の帯電防止剤にグリセリンを混合、又はカチオン系、ノニオン系の帯電防止剤を含む塗布液を塗布後、乾燥、延伸する方法(インライン・コート)のいずれも可能である。上記オフライン・コートにおいては、乾燥時の温度が高いとフィルムが熱収縮を起こすので、乾燥温度は60℃以下で行うことが好ましい。上記インライン・コートにおいては、乾燥前の塗布液の塗布量が3(g/m2)を超えると
乾燥が不十分となり好ましくない。また、前述のアニオン系の帯電防止剤にグリセリンを混合、又はカチオン系、ノニオン系の帯電防止剤を含む塗布液は工程設備の錆び防止や安全性の観点からPHを5.5〜8.0の範囲内に調整しておくことが好ましい。PH調整剤としては塩化ナトリウム等を使用することが可能である。また、塗布液を塗布する方法は公知の方式を用いることができる。例としてリバースロール方式、エアナイフ方式、ファウンテン方式、グラビアロール方式、バーコート方式などが挙げられる。
【0036】
以下チューブ加工について説明する。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムからラベルを製造する場合、チューブ化加工を行うが、この際に溶剤を用いて接着することが多い、という観点から、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の溶剤をフィルムの片面に塗布、該塗布面にフィルムの他方の面を圧着し、主収縮方向に剥離したとき接着であることが好ましい。該チューブ加工によりチューブ状としたものを裁断してラベル状体とする。溶剤接着性が不足の場合、ラベルの熱収縮装着時、または飲料ボトル取扱い時にラベル接着部の剥離が発生する恐れがある。
【実施例】
【0037】
次に本発明の内容および効果を実施例によって説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しないかぎり以下の実施例に限定されるものではない。尚、本明細書中における特性値の測定方法は以下の通りである。
【0038】
(熱収縮率)
延伸したフィルムを10cm×10cmの正方形に、その一辺がフィルム流れ方向と平行になるように切り出し、これを80℃に加熱した水槽に10秒間浸漬した。10秒経過後、直ちに別途用意した25℃の水槽に10秒間浸漬した後引き上げ、フィルムの主収縮方向の長さを測定し、加熱収縮率を求めた。なお、最も収縮した方向を最大収縮方向とした。

収縮率(%)=(加熱前寸法−加熱後寸法)/加熱前寸法 × 100
【0039】
(防曇性)
300mlビーカーに100mlの水を入れ30℃にヒートスターラーで温調した上にフィルムを塗布層面を内面側にして被せ輪ゴムで止めた物を10℃50%RHの環境で20分放置して水滴の付き方を6段階で評価した。
1:フィルム表面が均一に濡れ水滴が認められない。
2:僅かに均一に濡れていない点がある。
3:水滴が認められるが反対側は良く見える
4:水滴の為反対が良く見えない。
5:水滴が多く反対側が見えない。
6:水滴で完全に反対側が見えない。
【0040】
(表面固有抵抗値)
タケダ理研社製固有抵抗測定器で、印加電圧500Vの条件で23℃・30RH%雰囲気下と23℃・65RH%雰囲気下でフィルムの表面固有抵抗値を測定した。
【0041】
(摩擦係数)
フィルムに塗布液を塗布した面と非塗布面で重ね合わせ動摩擦係数μdをJIS K−7125に準拠し、23℃,65%RH環境下で測定した。
【0042】
(溶剤接着強度)
延伸したフィルムの非塗布面に1,3−ジオキソランを塗布して、非塗布面と2枚を張り合わせることでシールを施した。シール部をフィルムの主延伸方向に15mmの幅に切り取り、それを(株)ボールドウィン社製 万能引張試験機 STM−50」にセットし、180°ピール試験で引張速度200mm/分で測定した。
【0043】
(透明性)
JIS K7105に準拠してヘーズを測定した。
【0044】
(実施例1)
(1)熱収縮性ポリエステルフィルムの製造
ポリエステル系樹脂 及び 未延伸フィルム極限粘度が0.72(dl/g)のポリエチレンテレフタレート36重量%、テレフタル酸100モル%とネオペンチルグリコール30モル%とエチレングリコール70モル%とからなる極限粘度が0.75(dl/g)のポリエステル54重量%、および極限粘度が0.1.20(dl/g)のポリブチレンテレフタレート10重量%を混合したポリエステル組成物を予備乾燥後、280℃で溶融しTダイから押出し、表面温度20℃のチルロール上で急冷して未延伸フィルムを得た。
【0045】
(2)塗布液の調合
アニオン系界面活性剤(パラフィンスルホン酸ナトリウム)水溶液(商品名「TB214」:松本油脂製薬(株)社製)にグリセリンを10%混合。それを{イソプロピルアルコール/水=35/65(重量比)}溶液で希釈して塗布液とした。
【0046】
(3)コートフィルムの製造
(1)で得た未延伸フィルムの片面に(2)で調合した塗布液をバーコーター方式で塗布し、フィルム温度が80℃になるまで加熱した後、テンターで横方向に3.8倍延伸後、80℃で熱固定し、固形分コート量0.005g/m2、厚み50μmの熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0047】
(実施例2)
固形分コート量0.010g/m2の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0048】
(実施例3)
固形分コート量0.030g/m2の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た以外は、実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0049】
(実施例4)
カチオン系界面活性剤(ジメチルアルキルアンモニウムクロライド)水溶液(商品名「TB744」:松本油脂製薬(株)社製)に{イソプロピルアルコール/水=35/65(重量比)}溶液で希釈して塗布液として、固形分コート量0.005g/m2とした以外は実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0050】
(実施例5)
実施例1において固形分コート量を0.008g/m2とした以外は実施例1と同様の方法にて熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0051】
(実施例6)
実施例4において固形分コート量を0.005g/m2とした以外は実施例1と同様の方法にて熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0052】
(比較例1)
アニオン系界面活性剤(パラフィンスルホン酸ナトリウム)水溶液(商品名「TB214」:松本油脂製薬(株)社製)を{イソプロピルアルコール/水=35/65(重量比)}溶液で希釈して塗布液とした。その他は固形分コート量0.005g/m2とした以外は実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0053】
(比較例2)
比較例1において固形分コート量を0.003g/m2とした以外は比較例1と同様の方法にて熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0054】
(比較例3)
実施例1において、固形分コート量0.001g/m2とした以外は実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0055】
(比較例4)
実施例1において塗布液を塗布しなかった以外は実施例1と同様の方法で熱収縮性ポリエステル系フィルムを得た。
【0056】
実施例1〜6、比較例1〜4で得られたフィルムの評価結果を表に記す。表から明らかなように、実施例1〜6で得られたフィルムはいずれも熱収縮率、防曇性、動摩擦係数、溶剤接着強度、表面固有抵抗値が良好であった。本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは高品質で実用性が高く、特に収縮ラベル用や蓋材用として最適である。
【0057】
比較例1〜4で得られたフィルムは 防曇性、低湿度下(23℃、湿度30%)の表面固有抵抗値が劣った。このように比較例で得られた熱収縮性ポリエステル系フィルムは いずれも品質が劣り、実用性が低いものであった。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、冷蔵食品用の蓋材として使用する場合、熱収縮による収縮不足の発生が極めて少ない良好な仕上がりが可能であり、かつ防曇性も良好であり食品用の蓋材用途として極めて有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムを10cm×10cmの正方形状に切り出した試料を80℃の温水中に10秒浸漬して引き上げ、次いで25℃の水中に10秒浸漬して引き上げたときの最大熱収縮方向の熱収縮率が20%以上でかつ防曇性を有することを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項2】
少なくともフィルムの片面に、アニオン系界面活性剤とグリセリンの混合物または、カチオン系界面活性剤のうちのいずれか1種からなる塗布層を有することを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項3】
フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で1×1013(Ω/□)以下、かつ温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で1×1012(Ω/□)以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項4】
フィルムの片面に防曇性塗布層を有し、フィルム塗布層面とフィルム非塗布層面の動摩擦係数が、JIS K−7125法に準じた、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で0.20以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項5】
1,3-ジオキソランでの溶剤接着強度が4(N/15mm)以上である事を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項6】
未延伸ポリエステル系フィルム又は1軸延伸ポリエステル系フィルムの少なくとも片面に、アニオン系界面活性剤にグリセリンを混合した塗布液,カチオン系界面活性剤のうちいずれかの塗布液を塗布後、乾燥、延伸することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。
【請求項7】
食品容器又は飲料容器の蓋材用途に用いられる事を特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムより作成された熱収縮性蓋材。

【公開番号】特開2007−197526(P2007−197526A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16145(P2006−16145)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】