説明

熱可塑性エラストマーの発泡成形方法及び発泡成形体

【課題】 表面外観が良好で、発泡セルの均一な、柔軟性に優れた発泡成形体が得られる熱可塑性エラストマーの発泡成形方法を提供する。
【解決手段】 下記熱可塑性エラストマーを、下記工程(A)〜(C)で成形することを含む発泡成形方法。
[熱可塑性エラストマー]
o−ジクロロベンゼン溶剤を用いた昇温溶出分別法により分別される(a)20℃未満の溶出成分が20〜80質量%で、(b)20℃以上80℃未満の溶出成分が10〜70質量%で、(c)80℃以上の溶出成分が1〜50質量%〔ただし、(a)、(b)及び(c)の合計量は100質量%〕のプロピレン系ブロック共重合体又はランダム共重合体
[工程]
(A)窒素0.1〜5重量%を、熱可塑性エラストマーに溶解する工程
(B)窒素が溶解した熱可塑性エラストマーを、金型キャビティ内に充填する工程
(C)充填終了時又は充填直後に、キャビティー容積を拡大する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーの発泡成形方法及び発泡成形体に関する。より詳しくは、本発明は、軟質材である熱可塑性エラストマーの優れた柔軟性や弾性回復性のさらなる機能を高めるため、熱可塑性エラストマーを、不活性ガスを利用して発泡成形体に成形する方法、及びその発泡成形方法により得られる、低コストで弾力性に優れた発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
エラストマー発泡体は、そのクッション性を活用し、住宅用建築の内装材や床材、カーペット、カーテン、壁紙、ラグナック等のインテリア内装材として広く使用されている。このような内装材は、従来、化学発泡剤を用いてエラストマーを発泡して得られる発泡成形体が良く知られている。しかし、化学発泡剤を使用すると、その残留物(例えば、化学発泡剤の分解物等)によって成形体が着色するという問題があった。また、化学発泡剤の分解温度等が限定されるため、成形時の温度条件の幅が狭くなるという問題があった。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリブテン成分、ポリプロピレン成分及びプロピレン−エチレンランダム共重合体成分を含むブロック共重合体を使用した発泡体が開示されている。具体的には、実施例において、化学発泡剤(ADCA(アゾジカルボンアミド))を使用して共重合体を発泡させ、これに気泡調整剤(ケイ酸カルシウム)や架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート)を加えて発泡体を形成している。しかし、これらの化学発泡剤、気泡調整剤、架橋助剤は、上記の問題に加え、さらに、これらを共重合体中に均一に分散させることが難しいという問題があった。その結果、発泡セルの大きさを均一にすることや、発泡体中へ発泡セルを均一に分散することが困難となり、発泡体の外観性等に課題を残していた。
【0004】
一方、不活性ガス等を使用した物理発泡を用いる方法も報告されているが、樹脂に対する溶解度が低く、充分な発泡倍率が得られない問題があった。具体的には、超臨界流体の二酸化炭素を使用して樹脂を発泡させる方法が報告されている(特許文献2参照)。しかし、このような二酸化炭素を使用して発泡体は成形可能であるが、微細なセルを有する発泡体を、高倍率で、セル径を均一に、効率良く成形することは難しいのが現状であった。
また、バッチ式により熱可塑性エラストマーの発泡体を製造する方法が報告されている(特許文献3参照)。しかし、この方法では、成形サイクルが非常に長く、生産面での課題が残っていた。
また、ポリオレフィン系樹脂50〜99重量%と、このポリオレフィン系樹脂と完全に相溶しない熱可塑性エラストマー50〜1重量%とからなる樹脂成分の発泡体が開示されているが(特許文献4参照)、この発泡体は、マトリックス樹脂がポリオレフィン系樹脂なので、柔軟性に劣るという問題があった。
【特許文献1】特開平7−41637号公報
【特許文献2】特開2000−290417号公報
【特許文献3】特開2000−226465号公報
【特許文献4】特開2003−206369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、表面外観が良好で、発泡セルの均一な、柔軟性に優れた発泡成形体が得られる熱可塑性エラストマーの発泡成形方法及びその方法により得られる発泡成形体を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、特定のポリオレフィン系熱可塑性エラストマーを、特定の不活性ガスを利用して発泡成形することにより、弾力性のある発泡成形体に効率良く成形できることを見出し、本発明を完成させた。
具体的には、成形機内の溶融した熱可塑性エラストマーに特定の不活性ガスを注入し、この不活性ガスが溶解した熱可塑性エラストマーを金型キャビティー内に充填し、充填終了時又は充填直後に、キャビティー内の容積を拡大することで、熱可塑性エラストマーを、独立気泡の比率が高く、かつ、高発泡倍率の発泡成形体に成形できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の発泡成形方法及び発泡成形体が提供される。
1.下記熱可塑性エラストマーを、下記工程(A)〜(C)で成形することを含む発泡成形方法。
[熱可塑性エラストマー]
o−ジクロロベンゼン溶剤を用いた昇温溶出分別法により分別される
(a)20℃未満の溶出成分が20〜80質量%で、
(b)20℃以上80℃未満の溶出成分が10〜70質量%で、
(c)80℃以上の溶出成分が1〜50質量%
〔ただし、(a)、(b)及び(c)の合計量は100質量%〕
のプロピレン系ブロック共重合体又はランダム共重合体
[工程]
(A)窒素0.1〜5重量%を、前記熱可塑性エラストマーに溶解する工程
(B)前記窒素が溶解した熱可塑性エラストマーを、金型キャビティ内に充填する工程
(C)充填終了時又は充填直後に、キャビティー容積を拡大する工程
2.下記熱可塑性エラストマーを、下記工程(A)〜(C)で成形することを含む発泡成形方法。
[熱可塑性エラストマー]
α−オレフィンに基づく単量体単位を80〜98モル%含み、環状オレフィンに基づく単量体単位を2〜20モル%含み、
ガラス転移温度が30℃以下で、引張弾性率が200MPa以下であるα−オレフィン−環状オレフィン共重合体
[工程]
(A)窒素0.1〜5重量%を、前記熱可塑性エラストマーに溶解する工程
(B)前記窒素が溶解した熱可塑性エラストマーを、金型キャビティ内に充填する工程
(C)充填終了時又は充填直後に、キャビティー容積を拡大する工程
3.前記工程(C)において、金型全体又はその一部を開き、キャビティー容積を拡大することを含む1又は2に記載の発泡成形方法。
4.前記工程(C)において、キャビティーを圧縮した後、金型全体又はその一部を開き、キャビティー容積を拡大することを含む1又は2に記載の発泡成形方法。
5.前記熱可塑性エラストマーの代わりに、前記熱可塑性エラストマーを99〜60重量%含み、ポリプロピレン系樹脂を1〜40重量%含む熱可塑性エラストマー組成物を用いる1〜4のいずれかに記載の発泡成形方法。
6.前記熱可塑性エラストマーの代わりに、前記熱可塑性エラストマーに対し、多孔質核剤を0.1〜50重量%含有する熱可塑性エラストマー組成物を用いる1〜4のいずれかに記載の発泡成形方法。
7.前記熱可塑性エラストマーの代わりに、前記熱可塑性エラストマーに対し、無機充填剤を0.1〜50重量%含有する熱可塑性エラストマー組成物を用いる1〜4のいずれかに記載の発泡成形方法。
8.1〜7のいずれかに記載の発泡成形方法で成形された発泡成形体。
9.二層以上の多層構造からなる発泡成形体であって、前記多層構造の少なくとも一層が1〜7のいずれかに記載の発泡成形方法で成形された発泡成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、表面外観が良好で、発泡セルの均一な、柔軟性に優れた発泡成形体が得られる熱可塑性エラストマーの発泡成形方法及びその方法により得られる発泡成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の発泡成形方法では、熱可塑性エラストマーを、下記工程(A)〜(C)で成形することを含む。
(A)窒素0.1〜5重量%を、熱可塑性エラストマーに溶解する工程
(B)窒素が溶解した熱可塑性エラストマーを、金型キャビティ内に充填する工程
(C)充填終了時又は充填直後に、キャビティー容積を拡大する工程
【0010】
本発明では、工程(A)における熱可塑性エラストマーとして、o−ジクロロベンゼン溶剤を用いた昇温溶出分別法により分別される(a)20℃未満の溶出成分が20〜80質量%で、(b)20℃以上80℃未満の溶出成分が10〜70質量%で、(c)80℃以上の溶出成分が1〜50質量%〔ただし、(a)、(b)及び(c)の合計量は100質量%〕のプロピレン系ブロック共重合体又はランダム共重合体(以下、プロピレン系共重合体という)を好適に用いることができる。
【0011】
好ましくは、溶出成分(a)は、25〜70質量%であり、溶出成分(b)は、25〜55質量%であり、溶出成分(c)は、5〜40質量%である。
【0012】
このプロピレン系共重合体において、溶出成分(c)は、好ましくは、ホモポリプロピレン成分、エチレン−プロピレンランダム共重合体成分、エチレン−ブテン−プロピレン三元ランダム共重合体成分である。
【0013】
このようなプロピレン系共重合体は、特開平07−118354号公報、PCT/JP03/14317、特開平05−009214号公報に記載の方法で製造することができる。
【0014】
このようなプロピレン系共重合体の市販品としては、発泡成形体の柔軟性、耐熱性、表面外観等の観点から、出光TPO(商品名)が好適である。
【0015】
また、工程(A)では、熱可塑性エラストマーとして、上記以外に、α−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1等)に基づく単量体単位を80〜98モル%、好ましくは85〜95モル%含み、環状オレフィン(例えば、ノルボルネン等)に基づく単量体単位を2〜20モル%、好ましくは3〜18モル%含み、ガラス転移温度が30℃以下、好ましくは25℃以下で、引張弾性率が200MPa以下、好ましくは150MPa以下であるα−オレフィン−環状オレフィン共重合体を好適に用いることができる。この共重合体は、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよい。
このような共重合体は、特開平05−097933号公報等に記載の方法に基づいて製造することができる。
【0016】
また、工程(A)では、熱可塑性エラストマーの代わりに、この熱可塑性エラストマーを99〜80重量%、好ましくは80〜60重量%含み、ポリプロピレン系樹脂(例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等)を1〜40重量%、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%含む熱可塑性エラストマー組成物を用いてもよい。
【0017】
また、工程(A)では、熱可塑性エラストマーの代わりに、この熱可塑性エラストマーに対し、多孔質核剤を、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%、特に好ましくは0.1〜10重量%含有する熱可塑性エラストマー組成物を用いてもよい。細孔容積の大きな多孔質核剤を上記の範囲で用いることにより、発泡セル径を均一微細にすることができるため、発泡セル径をより制御することができるようになる。
このような多孔質核剤としては、例えば、多孔質シリカ、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、繊維状活性炭等が好適例として挙げられる。
【0018】
また、工程(A)では、熱可塑性エラストマーの代わりに、この熱可塑性エラストマーに対し、無機充填剤を、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%、特に好ましくは0.1〜10重量%含有する熱可塑性エラストマー組成物を用いてもよい。
このような無機充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、ナノ分散した層状珪酸塩、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、無水シリカ、ウィスカー、ガラス繊維等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、平均粒径が10μm以下のタルク、ナノ分散した層状珪酸塩である。
【0019】
また、これらの組成物には、さらに、必要に応じて、熱安定剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤、結晶核剤等の添加剤を加えることができる。
【0020】
また、本発明では、工程(A)における発泡剤として窒素を用いる。窒素は、エラストマーに溶解しても逃げ難く、また、メルトフロントから発泡ガスが破泡しずらいため、成形体の表面で問題になり易いシルバー等の発生が抑えられ易い点からも好適である。さらに、本発明では、超臨界流体の窒素を使用することが、発泡の均一性と表面外観の良い発泡成形体が製造可能であることから、特に好ましい。ここで、超臨界流体の窒素とは、気体と液体の両方の性質を兼ね備えた状態の窒素を意味する。
【0021】
尚、本発明では、発泡剤として二酸化炭素を用いることは、エラストマーに二酸化炭素を溶解しても、発泡ガスとしての保持力が弱いこと、成形体表面が冷却固化する前に、発泡セルの破泡が起こり易く、セルの均一性が得られ難いこと、シルバーが発生し易いこと等の理由からから好ましくない。
【0022】
窒素は、熱可塑性エラストマーに対し、0.1〜5重量%、好ましくは0.2〜2重量%、より好ましくは0.2〜1重量%溶解させる。0.1重量%未満では、充分な発泡力が得られず、目的の発泡成形体を得ることが困難となる。一方、5重量%を超えると、溶解しきらない超臨界流体が肥大セルを形成し、発泡セルの均一性の悪化や膨れを招く。
【0023】
窒素を熱可塑性エラストマーに溶解する方法としては、例えば、射出成形機のスクリュー内に溶融した熱可塑性エラストマーを充満させ、このスクリュー内に、窒素を、好ましくは10〜20MPa、より好ましくは15〜20MPaの圧力で注入する方法等が挙げられる。
【0024】
工程(B)において、窒素が溶解した熱可塑性エラストマーを充填する際の金型温度は、通常の水冷温度(例えば、20〜60℃)でも良いが、成形体の外観を向上させるには、金型温度を高め(例えば、80〜120℃)に設定することが好ましい。このような温度に設定すると、スワールマークが出難くなるので、良好な表面外観が得られ易くなる。
また、確実な表面外観を得るには、充填前に金型温度を90〜120℃に上昇させ、充填完了時に20〜50℃まで急冷させる急加熱−冷却システムを利用すると、より効果的である。さらに、充填時に金型内へのカウンタープレッシャーをかけることも効果的である。
また、工程(B)では、エラストマーの温度を180〜240℃に設定することが好ましい。
【0025】
工程(C)において、キャビティー容積を拡大する方法としては、例えば、金型開閉機構を利用し、金型全体又はその一部を開く方法や、キャビティーを圧縮した後(金型のクリアランスを狭くした後)、金型全体又はその一部を開く方法が挙げられる。具体的には、金型全体又はその一部を後退(コアバック)させたりすることによってキャビティー容積を拡大する。このような金型開閉機構を活用することにより、成形体の発泡倍率を向上させ、セル径を均一に制御でき、より効果的に均一な高発泡体を成形することが可能となる。
【0026】
本発明の方法で得られる発泡成形体は、発泡倍率が、好ましくは1.2〜5倍である。発泡倍率が1.2倍未満では、成形体が柔軟性に乏しくなる恐れがあり、5倍を超えると、著しい発泡セルの肥大化や連泡が起こり、柔軟性や物性の低下が大きくなる恐れがある。発泡倍率は、工程(B)においてエラストマー温度や金型温度を制御したり、工程(C)において金型開閉機構を利用することにより制御することが可能である。
【0027】
また、本発明の方法により、二層以上の多層構造からなる発泡成形体であって、この多層構造の少なくとも一層が上記方法で成形された発泡成形体(多色成形体)を得ることができる。具体的には、射出成形機を2台使用し(又は、シリンダーを2機搭載する射出成形器を使用し)、まず、内面層としてポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレン等)樹脂層を設け、次いで、表面層を本発明の方法により成形することにより、表面層が柔軟性を有し、内面層が剛性や衝撃等の物性の高い2色成形体を製造することができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実験方法]
(1)成形材料
出光TPO(商品名、グレード:R110MP、M142E、T310ES、J−5710)と、プロピレン、エチレン及びノルボルネンを共重合して得られたα−オレフィン−環状オレフィン共重合体(EPO)と、出光PP(商品名、グレード:E−250G(ブロックポリプロピレン)、J3003GV(ホモポリプロピレン))を用いた。また、無機充填剤として、平均粒径10μm以下のタルクを70wt%含むポリプロピレンマスターバッチ(浅田製粉製、HMB−50J)を用いた。
尚、EPOは、特開平05−097933号公報に記載の方法に基づいて製造した。
【0029】
各材料のo−ジクロロベンゼン溶剤を用いた昇温溶出分別法により分別される成分量と、溶出成分(c)の成分名を表1に示す。尚、表中の「ホモ」はホモプロピレン成分を意味し、「ランダム」はエチレン−プロピレンランダム共重合体成分を意味する。
【表1】

【0030】
昇温溶出分別法の条件は、以下の通りである。
[昇温溶出分別クロマトグラフ(TREF)]
温度135℃に調節したTREFカラムに試料溶液を導入し、次いで、速度5℃/hrにて徐々に0℃まで降温し、試料を充填剤に吸着させた。その後、カラムを速度40℃/hrにて135℃まで昇温し、溶出曲線を得た。以下に、測定装置及び測定条件を示す。
(測定装置)
TREFカラム:GLサイエンス社製シリカゲルカラム(4.6φ×150mm)
フローセル:GLサイエンス社製、光路長1mm、KBrセル
送液ポンプ:センシュウ科学社製、SSC−3100ポンプ
バルブオーブン:GLサイエンス社製、MODEL554オーブン
TREFオーブン:GLサイエンス社製
二系列温調器:理学工業社製、REX−C100温調器
検出器:液体クロマトグラフィー用赤外検出器、FOXBORO社製、MIRAN 1A CVF
10方バルブ:バルコ社製電動バルブ
ループ:バルコ社製500μリットルループ
(測定条件)
溶媒:o−ジクロロベンゼン
試料濃度:7.5g/リットル
注入量:500μリットル
ポンプ流量:2.0ミリリットル/分
検出波数:3.41μm
カラム充填剤:クロモソルブP(30〜60メッシュ)
カラム温度分布:±2.0℃以内
【0031】
また、EPOのα−オレフィンに基づく単量体単位、環状オレフィンに基づく単量体単位、ガラス転移温度、引張弾性率は、以下のように測定した。
[単量体単位]
13C−NMR及びH−NMRの測定結果から算出した。
[ガラス転移温度]
固体粘弾性体の損失弾性率のピークトップの値から算出した。
[引張弾性率]
JIS K7161、7162−1994に準拠して測定した。
【0032】
(2)発泡成形方法
型締力180トンの超臨界発泡射出成形器(日本製鋼所製)及びφ250円盤(肉厚3mm)の金型により、超臨界射出発泡成形を行った。発泡剤(超臨界流体)としては、窒素及び二酸化炭素を用いた。
【0033】
(3)評価
マイクロセルラー発泡成形により得られた発泡成形体の表面外観、柔軟性、発泡径、発泡均一性、耐熱性について、以下のように評価した。
(表面外観)
成形体表面の目視観察により、スワールマーク及び表面凹凸の発生度合いを比較した。このとき、スワールマーク及び表面凹凸の発生のないものをA、スワールマーク及び表面凹凸の発生が顕著なものをD、その中間の発生度合いのものをその程度によりB、Cとした。
【0034】
(柔軟性)
成形体を固定台に置き、成形体表面から肉厚方向に指で押さえた時の触感により柔軟性を比較した。このとき、柔軟性が高いものをA、柔軟性の低い(硬い)ものをD、その中間を程度によりB、Cとした。
【0035】
(発泡均一性)
ゲートから成形体末端までの間を3等分して、計4箇所の発泡セル形態を目視観察により評価した。このとき、発泡セルの均一性の高いものをA、低いものをD、その中間を程度によりB、Cとした。
【0036】
(耐熱性)
得られた成形体を80℃と120℃の恒温槽に入れ、12時間後の寸法変化(収縮)を評価した。このとき、寸法変化が認められない場合をA、寸法変化の大きなものをD、その中間を程度によりB、Cとした。
【0037】
実施例1
熱可塑性エラストマーである出光TPO(R110MP;MFR(メルトフローレート)=2.5g/10分、曲げ弾性率=38MPa、ショア硬度Aスケール=68)に、発泡剤として、窒素1wt%(重量%)を17MPaの圧力で注入して、溶解して金型キャビティ内(金型温度:60℃)へ充填し、充填完了と同時に可動型を後退(コアバック)させて、キャビティー容積を1秒拡大し、発泡成形体を得た。この発泡成形体は、比較的に表面外観、発泡均一性に優れ、かつ、高い柔軟性を示した。
【0038】
実施例2
熱可塑性エラストマーを出光TPO(M142E;MFR=10g/10分、曲げ弾性率=45MPa、ショア硬度Aスケール=75(Dスケール=21))に変更した以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。その結果、実施例1と同様に、柔軟性の高い、比較的に表面外観、発泡均一性に優れた発泡成形体が得られた。
【0039】
実施例3
熱可塑性エラストマーをEPO(MFR=5.6g/10分(PE(ポリエチレン)条件:190℃)、引張弾性率=9.7MPa、ショア硬度Aスケール=71、エチレン及びプロピレン含量=84.8モル%、ノルボルネン含量=15.2モル%、ガラス転移温度=5.4℃)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。その結果、実施例1、2と同様に、柔軟性の高い、比較的に表面外観、発泡均一性に優れた発泡成形体が得られた。
【0040】
実施例4
金型温度を、金型充填前に120℃に上昇させ、充填完了と共に60℃まで急冷させた(加熱、冷却)以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。この方法により、実施例1に比べてスワールマークの発生のない、非常に表面外観の優れた発泡成形体が得られた。
【0041】
実施例1〜4で得られた発泡成形体の成形条件及び評価結果を表2に示す。尚、表中の発泡倍率は、成形体の肉厚増加率(コアバック後の成形品肉厚/初期肉厚)で示した。表3〜5についても同様である。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例5
熱可塑性エラストマーの出光TPO(R110MP;MFR=2.5g/10分、曲げ弾性率=38MPa、ショア硬度Aスケール=68)に、多孔質核剤としてシリカ(水澤化学工業(株)社製、P−740T(商品名))を5wt%添加したエラストマー組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。その結果、多孔質核剤を添加することによって、実施例1に比べて発泡均一性に優れた発泡成形体が得られた。
【0044】
実施例6
成形材料を、出光TPO(T310ES;MFR=1.5g/10分、曲げ弾性率=110MPa、ショア硬度Dスケール=35)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。この成形品は、実施例1〜3に比べ、やや柔軟性は劣るものの、表面外観と発泡均一性は、ほぼ同等であった。
【0045】
実施例7
成形材料を、出光TPO(J−5710;MFR=8g/10分、曲げ弾性率=270MPa、ショア硬度Dスケール=57)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。この成形体は、実施例6とほぼ同様な性能のものであった。
【0046】
実施例8
熱可塑性エラストマーである出光TPO(M142E;MFR=10g/10分、曲げ弾性率=45MPa、ショア硬度Aスケール=75(Dスケール=21))に、ホモポリプロピレンである出光PP(J−3003GV)を5重量%ドライブレンドしたエラストマー組成物を成形材料とした以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。その結果、実施例2と比較して、より耐熱性の優れた良好な発泡成形体が得られた。
【0047】
実施例9
熱可塑性エラストマーである出光TPO(M142E;MFR=10g/10分、曲げ弾性率=45MPa、ショア硬度Aスケール=75(Dスケール=21))に、無機充填剤(平均粒径10μm以下のタルクを70wt%含むポリプロピレンマスターバッチ)を5重量%ドライブレンドしたエラストマー組成物を成形材料とした以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。その結果、実施例8と比較して、さらに耐熱性の優れた良好な発泡成形体が得られた。
【0048】
実施例5〜9で得られた発泡成形体の成形条件及び評価結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
実施例10(2色成形体)
シリンダーを2機搭載する二色成形機(日本製鋼所製J−150EII−2M(商品名)、型締め力:150トン)を用い、一次材として、出光PP(E−250G;MFR=0.9、曲げ弾性率=1230MPa、ロックウェル硬さRスケール=84)を、金型(150×150×t2の平板)キャビティ内へ充填(充填時間:2秒)し、所定時間保圧(保圧時間:5秒)、冷却(冷却時間:8秒)した後、金型の一部の可動コアを2mm後退させ、キャビティー容積を拡大し、それにより形成された空間に、二次材として、発泡剤である窒素を1wt%溶解させた出光TPO(R110MP)を射出、充填(充填時間:5秒)し、完全充填完了と同時に、さらに、その可動コアを2mm後退させ、キャビティー容積を1秒拡大し、一次材の一部に、発泡層を形成した二次材を積層した発泡成形体を得た。この方法により、優れた表面柔軟性を持つ、剛性の高い2色成形体が得られた。評価結果を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
比較例1〜3
発泡剤として二酸化炭素を用い、その注入比率を、1wt%(比較例1)、3wt%(比較例2)、5wt%(比較例3)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。その結果、比較例1及び2では、可動型の後退に伴う充分な発泡力が二酸化炭素になく、所定量の発泡倍率(厚み)の成形体が得られなかった。また、この成形体は、表面平滑性が低く、凹凸の発生が激しかった。また、比較例3では、比較例1及び2に比べ、可動型後退における発泡力はやや改善されたものの、スワールマークの激しい外観の悪い成形品が得られた。さらに、発泡剤として二酸化炭素を用いたこれら比較例では、その注入比率に関係なく、実施例1の窒素の場合と比較して、成形体の発泡均一性が劣っていた。このため、比較例1〜3で得られた成形体は、各部で柔軟性が異なり、製品として適用するには不適であった。
【0053】
比較例4
可動型を後退しなかった、即ち、キャビティー容積を拡大しなかった以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。この方法では、柔軟性が非常に低く、また、発泡セルの形成及び発泡均一性に劣る成形体が得られた。
【0054】
比較例5
発泡剤である窒素の注入比率を10wt%に変更した以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。この成形体は、スワールマークの発生が激しかった。また、部分的な大気泡の形成が見られ、発泡セルの均一性が非常に低いとともに、成形体表面に膨れの発生が認められた。
【0055】
比較例6
成形材料を出光PP(E−250G)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で発泡成形体を得た。この成形品は、柔軟性の非常に低いものであった。
【0056】
比較例1〜6で得られた発泡成形体の成形条件及び評価結果を表5に示す。




































【表5】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の発泡成形方法では、均一で高発泡な成形体が製造可能なため、この成形体は、クッション性を有する移動体(例えば、自動車、航空機、船舶、車両等)や家の内装材及び外装材として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記熱可塑性エラストマーを、下記工程(A)〜(C)で成形することを含む発泡成形方法。
[熱可塑性エラストマー]
o−ジクロロベンゼン溶剤を用いた昇温溶出分別法により分別される
(a)20℃未満の溶出成分が20〜80質量%で、
(b)20℃以上80℃未満の溶出成分が10〜70質量%で、
(c)80℃以上の溶出成分が1〜50質量%
〔ただし、(a)、(b)及び(c)の合計量は100質量%〕
のプロピレン系ブロック共重合体又はランダム共重合体
[工程]
(A)窒素0.1〜5重量%を、前記熱可塑性エラストマーに溶解する工程
(B)前記窒素が溶解した熱可塑性エラストマーを、金型キャビティ内に充填する工程
(C)充填終了時又は充填直後に、キャビティー容積を拡大する工程
【請求項2】
下記熱可塑性エラストマーを、下記工程(A)〜(C)で成形することを含む発泡成形方法。
[熱可塑性エラストマー]
α−オレフィンに基づく単量体単位を80〜98モル%含み、環状オレフィンに基づく単量体単位を2〜20モル%含み、
ガラス転移温度が30℃以下で、引張弾性率が200MPa以下であるα−オレフィン−環状オレフィン共重合体
[工程]
(A)窒素0.1〜5重量%を、前記熱可塑性エラストマーに溶解する工程
(B)前記窒素が溶解した熱可塑性エラストマーを、金型キャビティ内に充填する工程
(C)充填終了時又は充填直後に、キャビティー容積を拡大する工程
【請求項3】
前記工程(C)において、金型全体又はその一部を開き、キャビティー容積を拡大することを含む請求項1又は2に記載の発泡成形方法。
【請求項4】
前記工程(C)において、キャビティーを圧縮した後、金型全体又はその一部を開き、キャビティー容積を拡大することを含む請求項1又は2に記載の発泡成形方法。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーの代わりに、前記熱可塑性エラストマーを99〜60重量%含み、ポリプロピレン系樹脂を1〜40重量%含む熱可塑性エラストマー組成物を用いる請求項1〜4のいずれか一項に記載の発泡成形方法。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーの代わりに、前記熱可塑性エラストマーに対し、多孔質核剤を0.1〜50重量%含有する熱可塑性エラストマー組成物を用いる請求項1〜4のいずれか一項に記載の発泡成形方法。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマーの代わりに、前記熱可塑性エラストマーに対し、無機充填剤を0.1〜50重量%含有する熱可塑性エラストマー組成物を用いる請求項1〜4のいずれか一項に記載の発泡成形方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の発泡成形方法で成形された発泡成形体。
【請求項9】
二層以上の多層構造からなる発泡成形体であって、前記多層構造の少なくとも一層が請求項1〜7のいずれか一項に記載の発泡成形方法で成形された発泡成形体。

【公開番号】特開2006−8782(P2006−8782A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185649(P2004−185649)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】