説明

熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体

【課題】機械的特性及び圧縮永久歪が共に改善された熱可塑性エラストマー組成物、及び該熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体を提供すること。
【解決手段】(A)ビニル芳香族化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部、(B)ポリプロピレン0.5〜20質量部及び(C)軟化点95〜145℃のポリフェニレンエーテル樹脂5〜100質量部を含有する熱可塑性エラストマー組成物、音響用部材用である前記熱可塑性エラストマー組成物、並びに該熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル芳香族化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体、ポリプロピレン及びポリフェニレンエーテル樹脂を含有する熱可塑性エラストマー組成物、音響用部材用である前記熱可塑性エラストマー組成物、並びにその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体を水素添加した水添ブロック共重合体に、軟化剤としてオイルを添加して所定の硬度とした熱可塑性エラストマー組成物が数多く開発されてきた。
具体的には、数平均分子量10万の水添ブロック共重合体100質量部に、動粘度(40℃)が100mm2/sec以上である非芳香族系ゴム用軟化剤150質量部とポリプロピレン12.5質量部を配合した熱可塑性エラストマー組成物(特許文献1参照)、重量平均分子量25万以上の水添ブロック共重合体100質量部に、動粘度(40℃)が350〜400mm2/sec且つ分子量分布(Mw/Mn)が1.8以下である非芳香族系ゴム用軟化剤60〜170質量部とポリプロピレン12.5〜20質量部配合した熱可塑性エラストマー組成物(特許文献2参照)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−169666号公報
【特許文献2】特開2002−225303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2には、熱可塑性エラストマー組成物の圧縮永久歪を改善する目的で、さらにポリフェニレンエーテル樹脂を配合することができると記載されているが、ポリフェニレンエーテル樹脂を実際に配合した熱可塑性エラストマー組成物は開示されていない。そこで、本発明者がさらに検討したところ、ある特定のポリフェニレンエーテル樹脂を用いなければ、ポリフェニレンエーテル樹脂を充分に分散させて得られた熱可塑性エラストマー組成物の機械的特性が低下し、かつ圧縮永久歪が増大することが判明した。
そこで、本発明の課題は、機械的特性及び圧縮永久歪が共に改善された熱可塑性エラストマー組成物、音響用部材用である前記熱可塑性エラストマー組成物、及び前記熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記問題に着目し、鋭意検討した結果、(A)ビニル芳香族化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体、(B)ポリプロピレン及び(C)軟化点95〜145℃のポリフェニレンエーテル樹脂を特定割合で含有し、好ましくは175〜275℃で溶融混練してなる熱可塑性エラストマー組成物であれば、機械的特性に優れ、圧縮永久歪が低減されることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[7]に関する。
[1](A)ビニル芳香族化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部、
(B)ポリプロピレン0.5〜20質量部及び
(C)軟化点95〜145℃のポリフェニレンエーテル樹脂5〜100質量部
を含有する熱可塑性エラストマー組成物。
[2]さらに(D)非芳香族系軟化剤0.5〜250質量部含有する、上記[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3]前記(A)成分が、ポリスチレン−水添ポリブタジエン−ポリスチレンのトリブロック共重合体、ポリスチレン−水添ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体及びポリスチレン−水添ブタジエン/イソプレン共重合体−ポリスチレンのトリブロック共重合体から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4]前記(A)成分の重量平均分子量が30万〜70万である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[5]175〜275℃で溶融混練してなる、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[6]音響用部材用である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[7]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、機械的特性及び圧縮永久歪が共に改善された熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体を提供することができる。また、機械的特性及び圧縮永久歪が改善されているため、高温での繰り返し耐久性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[熱可塑性エラストマー組成物]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(A)ビニル芳香族化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部、(B)ポリプロピレン0.5〜20質量部及び(C)軟化点95〜145℃のポリフェニレンエーテル樹脂5〜100質量部を含有する。
以下、本発明の熱可塑性エラストマー組成物が含有する各成分について詳細に説明する。
【0009】
((A)水添ブロック共重合体)
(A)成分である、ビニル芳香族化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)に特に制限は無いが、熱可塑性エラストマー組成物の機械的特性及び圧縮永久歪の観点から、好ましくは10万〜70万、好ましくは30万〜70万、より好ましくは30万〜45万、さらに好ましくは33万〜42万、特に好ましくは35万〜42万である。また、後述する(D)成分のブリードアウトを抑制する観点からは、重量平均分子量は30万以上が好ましい。なお、(A)成分の重量平均分子量が70万以下であれば、混練性の悪化によって加工性が著しく低下することが少ない。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、単分散ポリスチレンを基準としてポリスチレン換算で求めた値である。
【0010】
前記ビニル芳香族化合物単位を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレンなどが挙げられる。ビニル芳香族化合物単位を含有する重合体ブロックにおけるビニル芳香族化合物単位の含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは実質的に100モル%である。その他の構造単位としては、後述する共役ジエン化合物単位などが挙げられる。
また、前記共役ジエン化合物単位を構成する共役ジエン化合物としては、例えば1,3−ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックにおける共役ジエン化合物単位の含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは実質的に100モル%である。その他の構造単位としては、前記ビニル芳香族化合物単位などが挙げられる。
(A)成分としては、具体的には、ポリスチレン−水添ポリブタジエン−ポリスチレンのトリブロック共重合体(以下、SEBSと略す。)、ポリスチレン−水添ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体(以下、SEPSと略す。)、ポリスチレン−水添ブタジエン/イソプレン共重合体−ポリスチレンのトリブロック共重合体(以下、SEEPSと略す。)などが好ましく挙げられ、SEEPSがより好ましい。
(A)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】
SEBSにおいては、ポリスチレンブロックの含有率に特に制限は無いが、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは20〜65質量%である。また、ポリブタジエンブロックの水素添加率に特に制限は無いが、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70〜100モル%である。
SEPSにおいては、ポリスチレンブロックの含有率に特に制限は無いが、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは10〜40質量%である。また、ポリイソプレンブロックの水素添加率に特に制限は無いが、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70〜100モル%である。
【0012】
SEEPSにおいては、ポリスチレンブロックの含有率に特に制限は無いが、好ましくは10〜70質量%、より好ましくは20〜40質量%である。また、ブタジエン/イソプレン共重合体ブロックの水素添加率に特に制限は無いが、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70〜100モル%である。
共役ジエン化合物単位が2種以上の共役ジエン化合物から構成される場合、その混合割合に特に制限は無いが、ブタジエンとイソプレンの2種から構成される場合、ブタジエンとイソプレンとの含有割合[ブタジエン/イソプレン]は、モル比で、好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは30/70〜70/30、さらに好ましくは40/60〜60/40である。
【0013】
SEBS、SEPS及びSEEPSは市販品を使用してもよいし、公知の方法、例えばリチウム開始剤を用いてビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物とをアニオン重合した後、ラネーニッケルなどの公知の水素添加触媒によって水素添加する方法により製造することもできる。
【0014】
((B)ポリプロピレン)
(B)成分のポリプロピレンは、熱可塑性エラストマー組成物の成形性を高める効果を有する。
(B)成分のポリプロピレンに特に制限は無いが、成形性の観点からは、JIS K7210[190℃、21.18N(2.16kgf)]に従って測定したメルトフローレート(以下、MFRと略称する。)が、0.1〜100g/10分であるポリオレフィンを使用することが好ましく、0.5〜50g/10分であるポリオレフィンを使用することがより好ましい。このようなポリプロピレンは市販されており、市販品としては、例えば「ノバテック(登録商標)BC05B」(商品名、日本ポリプロ株式会社製)、M1600(商品名、サンアロマー株式会社製)などがあり、これらを使用してもよい。
(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.5〜20質量部である必要がある。(A)成分100質量部に対して0.5質量部未満であると、熱可塑性エラストマー組成物に一見完全に混合されている(D)成分が、混練後、熱可塑性エラストマー組成物をカットする際にブリードアウトする恐れがあり、さらに成形性の向上が見込めない。また、(A)成分100質量部に対して20質量部を超えると、熱可塑性エラストマー組成物の硬度が高くなりすぎる。この観点から、(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは3〜15質量部、より好ましくは5〜15質量部、さらに好ましくは8〜15質量部である。
【0015】
(B)成分であるポリプロピレンには、熱可塑性エラストマー組成物の加工性及び耐熱性を向上させる目的で、スチレン系樹脂を併用することができる。
該スチレン系樹脂は、公知の製造方法で得られたものを使用でき、ラジカル重合法、イオン重合法のいずれの方法で製造してもよい。スチレン系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜250,000、さらに好ましくは100,000〜250,000であり、分子量分布は5以下のものが好ましく、3以下のものがより好ましい。
該スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン単位含有量60質量%以上のスチレン−ブタジエンブロック共重合体、ゴム補強ポリスチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリp−t−ブチルスチレンなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
(B)成分とスチレン系樹脂を併用する場合、(B)成分とスチレン系樹脂の合計に対するスチレン系樹脂の含有量が、5〜15質量%であることが好ましい。
【0016】
((C)軟化点95〜145℃のポリフェニレンエーテル樹脂)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、(C)成分として軟化点95〜145℃のポリフェニレンエーテル樹脂を含有させることにより、機械的特性及び耐熱性を改善すると共に、圧縮永久歪を低減することができる。当該(C)成分による機械的特性及び耐熱性の改善効果は、特に、より高分子量の(A)成分を用いた場合に顕著となる。この正確な理由は明らかではないが、ポリフェニレンエーテル樹脂の中でも軟化点95〜145℃のものを配合することによって、全配合物を溶融混練する際の温度をより低く設定しても、ポリフェニレンエーテル樹脂が充分に軟化もしくは溶融して充分に分散するため、溶融混練温度による(A)成分の結合の開裂を抑制できるためであると推測する。一方、軟化点が145℃を超えるポリフェニレンエーテル樹脂では、溶融混練温度が低いとポリフェニレンエーテル樹脂が軟化もしくは溶融し切らず、熱可塑性エラストマー組成物内にて異物として存在し、圧縮永久歪が増大し、かつ破断強度が低下する。そこで、軟化点が145℃を超えるポリフェニレンエーテル樹脂を溶融し切るために溶融混練温度を280℃以上(比較例4参照)にすると、(A)成分が劣化し、圧縮永久歪が増大し、破断強度が低下する。
ポリフェニレンエーテル樹脂は、好ましくは下記一般式
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜5のアルキル基又はフェニル基を表す。)
で表される繰り返し単位からなる単独重合体又は該繰り返し単位を含む共重合体である。かかる一般式中、R1〜R4が表すハロゲン原子としては、例えば塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。また、R1〜R4が表す炭素数1〜5のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基などが挙げられる。
特に、R1及びR2が炭素数1〜5のアルキル基(好ましくはメチル基)であり、R3及びR4が水素原子であるポリフェニレンエーテル樹脂、つまりポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
なお、(C)成分としては、ポリスチレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水添SBR、ポリプロピレン等の熱可塑性エラストマー;安定剤などの添加剤;鉱油などの石油系炭化水素油;酸化チタン;カーボンブラックなどとの混合物であってもよい。ポリスチレンが含有される場合、ポリスチレンの含有量は、好ましくは10〜80質量%である。SBRや水添SBRが含有される場合、SBRや水添SBRの含有量は、好ましくは10質量%以下である。ポリプロピレン等のその他の熱可塑性エラストマーの含有量は、好ましくは10質量%以下である。また、安定剤などの添加剤を含有する場合、その含有量は、好ましくは0.1〜3質量%である。石油系炭化水素油を含有する場合、その含有量は、好ましくは1質量%以下であり、酸化チタンやカーボンブラックを含有する場合、その合計含有量は、好ましくは5質量%以下であり、かつ該カーボンブラックの含有量は、好ましくは2質量%以下である。
【0019】
(C)成分としては、軟化点が95〜145℃である限り、公知のポリフェニレンエーテル樹脂を使用することができる。単独重合体としては、例えばポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジフェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)などが挙げられる。また、共重合体としては、例えば2,6−ジメチルフェノールと1価のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体の如きポリフェニレンエーテル共重合体などが挙げられる。
ポリフェニレンエーテル樹脂は市販品を用いてもよく、市販品としては、例えば旭化成ケミカルズ株式会社製の「ザイロン(登録商標)」シリーズ、日本GEプラスチックス株式会社製の「ノリル(登録商標)」シリーズなどがあり、軟化点が95〜145℃であるものを選択して用いればよい。市販品を用いる場合、前記のようにポリフェニレンエーテル樹脂にポリプロピレンなどが含有されていることがあり、本願発明で使用する(B)成分に含まれ得るものであるが、本発明の効果に実質的に影響を与えるほどの含有量ではないため、市販品中に含有される成分が(B)成分(場合によっては(A)成分)に該当する成分であっても、(C)成分の量に換算する。
(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して5〜100質量部である必要がある。5質量部未満であると、得られる熱可塑性エラストマー組成物の機械的特性及び圧縮永久歪の改善効果が不十分となる。一方、100質量部を超えると、硬度が高くなり過ぎて配合バランスをとりにくくなる。この観点から、(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、好ましくは10〜100質量部、より好ましくは10〜70質量部、より好ましくは10〜50質量部、さらに好ましくは15〜50質量部、特に好ましくは25〜45質量部である。
【0020】
((D)非芳香族系軟化剤)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、さらに、(D)成分として非芳香族系軟化剤を含有していてもよい。
非芳香族系軟化剤の動粘度(40℃)は、他の成分と充分に混合して組成物中に充分に分散させる観点から、好ましくは25〜1,000mm2/sec、より好ましくは25〜500mm2/sec、さらに好ましくは25〜400mm2/sec、特に好ましくは30〜400mm2/secである。なお、動粘度はJIS K2283に準じて測定した値である。
また、非芳香族系軟化剤のゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定した重量平均分子量(Mw)は、好ましくは200〜2,000、より好ましくは300〜1,000、さらに好ましくは300〜800であり、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1〜1.5、より好ましくは1〜1.3、さらに好ましくは1〜1.2である。
【0021】
上記のような(D)成分として、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイル、シリコーンオイル、植物系オイルなどを利用できる。これらの中でも、相溶性の観点から、パラフィン系オイル、シリコーンオイルが好ましく、パラフィン系オイルがより好ましい。これらは1種を単独で使用してもよいし、相溶性が良好であれば、2種以上を併用してもよい。
パラフィン系オイルとしては、例えば「ダイアナプロセスオイルPW32」(商品名、出光興産株式会社製、Mw=400、Mw/Mn=1.15、動粘度(40℃)=31mm2/S、パラフィン系オイル)、「ダイアナプロセスオイルPW380」(商品名、出光興産株式会社製、Mw=750、Mw/Mn=1.15、動粘度(40℃)=380mm2/S、パラフィン系オイル)などを利用可能である。
シリコーンオイルとしては、市販されているシリコーンオイル及び変性シリコーンオイルを使用できる。
植物系オイルとしては、例えばひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、梛子油、落花生油、木ろう、パインオイル、オリーブ油などが挙げられる。
(D)成分は、1種を単独で使用してもよいし、動粘度を調整するなどのために2種以上を併用してもよい。
(D)成分の含有量は、熱可塑性エラストマー組成物を低硬度にしながらもブリードアウトを抑制するという観点から、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜350質量部、より好ましくは5〜300質量部、より好ましくは10〜300質量部、より好ましくは50〜300質量部、より好ましくは50〜250質量部、さらに好ましくは150〜250質量部、特に好ましくは180〜250質量部である。
【0022】
(その他の成分)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造するに際し、本発明の目的が損なわれない範囲で、前記(A)〜(D)成分以外に、さらにその他の添加剤を含有させてもよい。
かかる添加剤としては、例えばセラミック、カーボンブラック、アンバー、シェンナ、カオリン、ニッケルチタンイエロー、コバルトブルー、プラマスターグレー、キノフタロン、ジケトピロロピロール、キナクリドン、ジオキサジン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどの顔料:難燃剤:老化防止剤:帯電防止剤:抗菌剤:酸化防止剤:タルク、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ガラス繊維、ガラス粉、ガラスバルーンなどの無機中空フィラー、セラミックス粉、マイカなどの無機充填剤:コルク粉末、木粉、グラファイトなどの有機充填剤:ステアリン酸などの離型剤:光安定剤:ロジン誘導体などの粘着付与剤(タッキファイヤー):「レオストマー(登録商標)B」(商品名、理研テクノス株式会社製)などの接着性エラストマー:クマロン樹脂、クマロン−インデン樹脂、フェノールテルペン樹脂などが挙げられる。
添加剤を含有させる場合、その含有量は、それぞれ(A)成分100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0023】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、架橋剤や架橋助剤などを添加して部分架橋させることも可能である。
架橋剤としては、有機パーオキサイドが好ましい。有機パーオキサイドの具体例としては、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン;2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)−ヘキサン;t−ブチルパーオキシベンゾエート;ジクミルパーオキサイド;t−ブチルクミルパーオキサイド;ジイソプロピルベンゾハイドロパーオキサイド;1,3−ビス−(t−ブチルパーオキシイソプロピル)−ベンゼン;ベンゾイルパーオキサイド;1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
また、架橋助剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンジメタクリレート、ジアリルフタレート、キノンジオキシム、フェニレンビスマレイミド、ポリエチレングリコールジメタクリレート、不飽和シラン化合物などが挙げられる。
架橋剤及び架橋助剤は、1種を単独で使用してもよいし、それぞれ2種以上を併用してもよい。
架橋剤及び架橋助剤を使用する場合は、熱可塑性エラストマー組成物100重量部に対して、0.1〜5質量部の範囲で任意に使用し、架橋度を調整することができる。
なお、架橋助剤として不飽和シラン化合物を使用した場合には、さらにシラノール縮合触媒の存在下で水分と接触させて架橋を進行させることができる。
【0024】
(熱可塑性エラストマー組成物の調製方法)
(A)〜(C)成分、及び必要に応じて(C)成分、さらに上記添加剤などのその他の成分を混合し、例えば一軸混練機、二軸混練機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサーなどを用いて、好ましくは175〜275℃、より好ましくは175〜270℃、さらに好ましくは175〜255℃で溶融混練することにより、特に(C)成分が充分に軟化もしくは溶融して充分に分散され、(A)成分の結合が開裂を抑制しながら、機械的特性に優れ、かつ圧縮永久歪が低減された熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
特に、熱可塑性エラストマー組成物に(D)成分を含有させる場合、(D)成分である非芳香族系軟化剤を各成分と十分に混合するため、特に限定するわけではないが、例えば以下の方法によれば効率良く混合することができる。
「スクリュー全長/シリンダ径」が好ましくは30以上、より好ましくは50〜70であり、スクリュー全長に対する混練帯域の長さの比率が好ましくは30%以上、より好ましくは40〜70%である二軸混練機を用意する。予め、(D)成分の一部又は全部を、(A)成分、(B)成分及び(C)成分並びに必要に応じて前記添加剤へ加えて混合しておき、用意した二軸混練機のポリマー投入口からフィードするとともに、残りの(D)成分があれば、ポリマー投入口又はサイドフィード口からフィードして溶融混練することにより、(D)成分が組成物中へ十分に混入した、ブリードし難いペレットを得る。
なお、予め、(D)成分の一部又は全部を、(A)成分、(B)成分及び(C)成分並びに必要に応じて前記添加剤へ加えて混合しておくことをせず、それぞれ同時にポリマー投入口からフィードしてもよい。
【0025】
こうして得られる本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ショアA硬度が30度以下(13〜30度程度)である。該熱可塑性エラストマー組成物は、40℃における圧縮永久歪が20%以下(15〜20%)であり、70℃における圧縮永久歪が25%以下(20〜25%)である。また、23℃における破断伸び(Eb)は660%以上(660〜900%)、23℃における破断強度(Tb)は2.9MPa以上(2.9〜4.1MPa)である。
なお、いずれも実施例に記載の方法により測定及び評価したものである。
【0026】
以上のようにして得られた熱可塑性エラストマー組成物を用いて、熱可塑性エラストマー組成物に対して一般に採用される成形方法及び成形装置によって成形体を製造することができる。具体的には、押出成形、射出成形、プレス成形、ブロー成形などによって成形体を製造することができる。本発明の熱可塑性エラストマーは、圧縮永久歪が低減されており、かつ機械的特性に優れることから、シール部材や防振部材などとして有用であり、この観点からは、成形方法としては射出成形が好ましい。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0028】
<実施例1〜5、比較例1〜4>
表1又は2に示した配合量(単位:質量部)で各成分を予め混合し、次いでベント式二軸混練機を用いて、組成物中の(C)成分が溶融し切るように(比較例2を除く。)表1中に記載の溶融混練温度にて混練し、ストランド状に押し出しながらカッターにてカットし、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。
得られたペレットのショアA硬度、圧縮永久歪、機械的特性(破断強度及び破断伸び)を以下のようにして測定・評価した。結果を表1及び2に示す。
【0029】
(1)ショアA硬度
厚み2mmの試験片を3枚重ねた状態で、JIS K6253(タイプAデュロメータ)に準拠して測定した。
(2)圧縮永久歪
JIS K6262に準拠し、直径20mm、厚み10mmの試験片を用いて、25%圧縮で40℃又は70℃にて22時間圧縮して測定した。なお、圧縮永久歪は小さい方が好ましい。
(3)機械的特性(破断強度及び破断伸び)
「JIS K6251 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じ、DIN3号ダンベル形状の厚み2mmのサンプルを用い、23℃にて、引張り速度200mm/minで測定した。切断時の引張応力を破断強度(Tb)とし、切断時の伸びを破断伸び(Eb)とした。
【0030】
【表1】

【0031】
1):「セプトン(登録商標)4099」、SEEPS、Mw=40万、ポリスチレンブロック含有率30%、株式会社クラレ製
2):「ノバテック(登録商標)BC05B」、MFR=50(g/10分)、日本ポリプロ株式会社製
3):「ザイロン(登録商標)300H HB」、軟化点100℃、旭化成ケミカルズ株式会社製、ポリフェニレンエーテル樹脂及びポリスチレン含有
4):「ザイロン(登録商標)500H HB」、軟化点120℃、旭化成ケミカルズ株式会社製、ポリフェニレンエーテル樹脂及びポリスチレン含有
5):「ザイロン(登録商標)T0701」、軟化点140℃、旭化成ケミカルズ株式会社製、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン及びポリプロピレン含有
6):「ザイロン(登録商標)X0108」、軟化点160℃、旭化成ケミカルズ株式会社製、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン及びポリプロピレン含有
7):「PS680」、Mw=20万(Mw/Mn=2.2)、PSジャパン株式会社製
8):「ダイアナプロセスオイルPW380」、パラフィン系オイル、Mw=750、Mw/Mn=1.15、動粘度(40℃)=380mm2/sec、出光興産株式会社製
9):「ダイアナプロセスオイルPW32」、パラフィン系オイル、Mw=400、Mw/Mn=1.15、動粘度(40℃)=31mm2/sec、出光興産株式会社製
【0032】
表1に示すように、本願発明の熱可塑性エラストマー組成物(実施例1〜5)は、低硬度であり、圧縮永久歪が小さく、かつ機械的特性に優れることが分かる。
一方、(C)成分を用いなかった比較例1では、圧縮永久歪が増大し、破断強度が低くなった。また、軟化点が160℃のポリフェニレンエーテル樹脂を用いた比較例2では、実施例1〜3と比べ、圧縮永久歪が増大し、破断強度が低くなった。これは、比較例2では、ポリフェニレンエーテル樹脂の軟化点が高いため、溶融混練時に充分に軟化又は溶融できず、熱可塑性エラストマー組成物中に充分に分散しなかったためと推測される。比較例4のように、(C)成分を過剰量とし、(C)成分を全て溶解し切るために溶融混練温度を高くしたところ、破断強度が低下し圧縮永久歪が増大した。これは、(C)成分の含有量が多いことより、(C)成分を溶解し切るためには溶融混練温度を高くする必要があったため、(A)成分の結合の開裂が発生し、それが物性の低下に繋がったためと推測される。また、ポリフェニレンエーテルの代わりにポリスチレンを用いた比較例3では、高温での圧縮永久歪が大幅に増大し、かつ破断強度が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、圧縮永久歪が小さく、かつ機械的特性に優れるなどの特性を有するため、高温での繰り返し耐久性にも優れている。そのため、幅広い用途、例えばシール材、ガスケット材、防振材、衝撃吸収材、カバー材(例えばインクジェットプリンター用インクのカバー剤)、緩衝材、音響用部材(例えばスピーカーエッジ)などの用途に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニル芳香族化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つと、共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックの少なくとも一つからなるブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部、
(B)ポリプロピレン0.5〜20質量部及び
(C)軟化点95〜145℃のポリフェニレンエーテル樹脂5〜100質量部
を含有する熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
さらに(D)非芳香族系軟化剤0.5〜250質量部含有する、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、ポリスチレン−水添ポリブタジエン−ポリスチレンのトリブロック共重合体、ポリスチレン−水添ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体及びポリスチレン−水添ブタジエン/イソプレン共重合体−ポリスチレンのトリブロック共重合体から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記(A)成分の重量平均分子量が30万〜70万である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
175〜275℃で溶融混練してなる、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
音響用部材用である、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2012−246400(P2012−246400A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119740(P2011−119740)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】