説明

熱可塑性エラストマー組成物

熱可塑性およびエラストマー性という特徴を有するポリマー組成物が提供される。水性および溶剤ベースの接着剤との適合性が優れているという特徴もあるこれらのポリマー組成物は、少なくとも1種の熱可塑性エラストマーおよび少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマーを含む。本発明の組成物は、スポーツ用品(特に運動靴)を含む、柔軟性を必要としかつ接着剤を用いて製造される製品に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物の分野、特に少なくとも1種の熱可塑性エラストマーを含む組成物に関する。本発明のポリマー組成物は、スポーツ用品および特に運動靴を含む、柔軟性を必要としかつ接着剤を用いて製造される製品に有用である。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーは、溶融加工性という利便性および再利用面での環境上の利点とともに、望ましい諸性質を示す高価な材料である。幾つかの種類の熱可塑性エラストマーが知られている。商業上重要なものとなった2種類があり、それはエーテルとアミドのブロックコポリマー(コポリエーテルアミド)ならびにエーテルとエステルのブロックコポリマー(コポリエーテルエステル)である。
【0003】
コポリエーテルアミドおよびコポリエーテルエステルは、広い温度範囲にわたって一定の柔軟性を維持することおよび非常に低温であっても靭性を維持することなど、独特の動的機械的性質を示す。そのため、価格が高いにもかかわらず、これらの材料はスポーツ用品および運動靴の業界において特別の有用性が見出されている。例えば、コポリエーテルアミドは、底板、シャンクなどの靴の部品、および低いヒステリシスおよび実質的に理想的な弾性回復性が必要とされる他のさまざまな構成材において広く使用されている。
【0004】
熱可塑性エラストマーで作られた部品を含む複合構造体では、熱可塑性エラストマーは典型的にはその構造体の他の構成材に接着剤で固定される。例えば、運動靴の製造では、通常は溶剤ベースの接着剤がコポリエーテルアミドを含む部品に塗布される。密着力は一般には十分である。しかし、特に熱可塑性エラストマーで作られた部品には一定のたわみおよび屈曲が求められることがよくあるので、密着力が不良になってしまうのは珍しくない。密着力の不良は製品の重大な欠陥である。したがって、熱可塑性エラストマー部品の密着力を改良することは重要な目標である。
【0005】
さらに重要な点として、環境への関心が推進力となって、業界では徐々に溶剤ベースの接着剤を廃止し、水性接着剤またはホットメルト接着剤を代わりに使用するようになっている。このような状況で、コポリエーテルアミドおよびコポリエーテルエステルを他の基材に付着させるのはいっそう難しくなっている。実際のところ、コポリエーテルアミドの場合、水性接着剤では十分な密着力を実現することはとてもできない。
【0006】
上述のことを考えれば、熱可塑性エラストマーの望ましい動的機械的性質を維持するとともに、その経済効率および密着力(特に水性接着剤による密着力)を改良することが継続的に必要とされていることが理解されるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
意外なことに、マレイン酸化(maleated)エチレンコポリマーと熱可塑性エラストマーとの配合物は、重要な機械的性質を損なうことなく優れた接着強さを示すことが今や見出された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、第1の態様では、本発明は、少なくとも1種の熱可塑性エラストマーおよび少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマーを含むポリマー組成物を提供する。
【0009】
別の態様では、本発明は、本発明のポリマー組成物を含む物品を提供する。
【0010】
さらに別の態様では、本発明は、本発明のポリマー組成物を含む物品が接着剤によって第2物品に取り付けられている複合物品を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下の定義は、特定の場合において限定されていない限り、本明細書全体で使用される用語に適用される。
【0012】
本明細書で使用される「マレイン酸化エチレンコポリマー」は、エチレンとマレイン酸官能基(すなわち、α,β−ジカルボン酸部分)を所有する残基とを含むコポリマーを指す。α,β−ジカルボン酸部分は、無水物の形態であってよく、あるいはまた、中和されていないもの、中和されたもの、または少なくとも1種の好適なカチオンによって部分的に中和されたものであってもよい。
【0013】
本明細書で使用される「約」という用語は、量、大きさ、配合、パラメーター、および他の数量や特性が、正確でなくまた正確である必要がないことを意味するが、しかし希望に応じておおよそであり、さらに/またはより大きいかより小さいものであってよく、許容範囲、換算係数、丸め、測定誤差など、および当業者に知られている他の因子を表す。一般に、量、大きさ、配合、パラメーターあるいは他の数量または特性は、明示的に「約」または「おおよそ」と記載されているかどうかにかかわらずそうである。
【0014】
1つの実施形態では、本発明は、少なくとも1種の熱可塑性エラストマーおよび少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマーを含むポリマー組成物を提供する。
【0015】
本発明に使用する好適な熱可塑性エラストマーとしては、コポリエーテルアミド、コポリエーテルエステルなどがあるが、これらに限定されない。コポリエーテルアミドは、例えば、米国特許第4,230,838号明細書、米国特許第4,332,920号明細書および米国特許第4,331,786号明細書に記載されているように当該技術分野において周知である。これらのポリマーは、次の一般式で表される、硬質のポリアミドセグメントおよび柔軟なポリエーテルセグメントの規則的な線状鎖(linear and regular chain)を含んでなる。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、「PA」は、鎖を制限する4個〜20個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸(aliphatic carboxylic diacid)の存在下で、4個〜14個の炭素原子を含有する炭化水素鎖を有するラクタムまたはアミノ酸から形成される、またはC6〜C9の脂肪族ジアミンから形成される、線状の飽和脂肪族ポリアミド配列である。前記ポリアミドは、300から15,000ダルトンの間の平均分子量を有する。上式で、「PE」は、線状または分枝状脂肪族ポリオキシアルキレングリコール類、その混合物またはそれらから得られるコポリエーテルから形成される、ポリオキシアルキレンを表す。ポリオキシアルキレングリコール類は好ましくは6000ダルトン以下の分子量を有する。繰り返し単位の数である「n」は、ポリエーテルアミドコポリマーの固有粘度が約0.8から約2.05となるほど十分であることが好ましい。こうしたポリエーテルアミドの調製は、ジカルボキシルポリアミド(そのCOOH基は鎖の末端に位置する)と、鎖の末端でヒドロキシル化されているポリオキシアルキレングリコールとを、一般式Ti(OR)4(式中、「R」は、1個〜24個の炭素原子を有する線状または分枝状脂肪族炭化水素ラジカルである)を有するテトラ−アルキルオルト−チタネートなどの触媒の存在下で反応させる工程を含む。ポリエーテルアミドブロックコポリマーの軟らかさは、一般にポリエーテル単位の相対量が増加するにつれて増大する。本発明の目的のため、エーテル:アミドのモル比は、90:10から10:90、好ましくは80:20から60:40まで変化してよく、ショアD硬さ(shore D hardness)は約70より小さく、好ましくは約60より小さい。
【0018】
コポリエーテルエステルについては、米国特許第3,651,014号明細書;米国特許第3,766,146号明細書;および米国特許第3,763,109号明細書などの特許で詳細に説明されている。それらは、エステル結合によって頭−尾結合された長連鎖単位および短連鎖単位の多数の繰り返しを含んでなり、長連鎖単位は次式で表され、
【0019】
【化2】

【0020】
短連鎖単位は次式で表される。
【0021】
【化3】

【0022】
式中、「G」は、分子量が約400から約6000ダルトンでありかつ炭素対酸素の比が約2.0〜4.3であるポリ(アルキレンオキシド)グリコールから末端ヒドロキシル基を除去した後に残る、二価ラジカルを表す。「R」は、約300ダルトン未満の分子量を有するジカルボン酸からヒドロキシル基を除去した後に残る、二価ラジカルを表す。「D」は、約250ダルトン未満の分子量を有するジオールからヒドロキシル基を除去した後に残る、二価ラジカルを表す。短連鎖エステル単位の量は、好ましくはコポリエーテルエステルの約15から約95重量パーセントである。好ましいコポリエーテルエステルポリマーは、ポリエーテルセグメントがテトラヒドロフランの重合によって得られ、ポリエステルセグメントがテトラメチレングリコールとフタル酸との重合によって得られるものである。コポリエーテルエステルブロックコポリマーの軟らかさも一般に、ポリエーテル単位の相対量が増加するにつれて増大する。本発明の目的のため、エーテル:エステルのモル比は、90:10から10:90、好ましくは80:20から60:40まで変化してよく、ショアD硬さは約70より小さく、好ましくは約60より小さい。
【0023】
本発明での使用に好適なある特定の熱可塑性エラストマーは市販されている。そのようなものには、PEBAX(商標)コポリエーテルアミド(Arkema Group of Paris,France(以下、「Arkema」と呼ぶ)から入手可能)、およびHytrel(登録商標)コポリエーテルエステル(E.I.du Pont de Nemours & Co.of Wilmington,DE)(以下、「DuPont」と呼ぶ)から入手可能)がある。
【0024】
本発明のポリマー組成物は、少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマーも含む。マレイン酸官能基は、グラフト、直接共重合、またはグラフトと直接共重合の組合わせによって、マレイン酸化エチレンコポリマーに含有させることができる。
【0025】
直接共重合させられたマレイン酸化エチレンコポリマーに関しては、ジポリマー(dipolymers)および4種以上のコモノマーのコポリマーが本発明に使用するのに好適である。ただし、ターポリマーが好ましい。エチレン、酢酸ビニルまたはアクリル酸エステルおよびα,β不飽和ジカルボン酸のターポリマーがより好ましく、エチレン、アクリル酸エステルおよびα,β不飽和ジカルボン酸のターポリマーがさらにより好ましい。
【0026】
好ましいターポリマーの例として、エチレン、アクリル酸メチル、および無水マレイン酸のコポリマーがある。好ましいターポリマーは、エチレンコポリマーの全重量を基準にして、約60重量%から約85重量%のエチレン、約15重量%から約39重量%のアクリル酸エステル、および約1重量%から約8重量%のα,β不飽和ジカルボン酸を含む。より好ましいターポリマーは、エチレンコポリマーの全重量を基準にして、約70重量%から約85重量%のエチレン、約15重量%から約29重量%のアクリル酸エステル、および約1重量%から約3重量%のα,β不飽和ジカルボン酸を含む。
【0027】
好適なアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、n−ブチルアクリレートおよびイソブチルアクリレートがあるが、これらに限定されない。好適なα,β不飽和ジカルボン酸モノマーとしては、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ならびに無水マレイン酸のエステルおよび半エステル(マレイン酸水素エチル(ethyl hydrogen maleate)など)があるが、これらに限定されない。マレイン酸ならびにそのエステルと半エステルが好ましい。
【0028】
本発明での使用に好適なある特定の直接共重合させられたマレイン酸化エチレンコポリマーは市販されている。Lotader(商標)3200(Arkemaから市販されている)は、エチレン、ブチルアクリレート、および無水マレイン酸のターポリマーの例である。
【0029】
マレイン酸官能基をグラフトさせることができる基幹として使用するのに好適なエチレンコポリマーとしては、エチレンとアルカン酸ビニル(vinyl alkanoate)のコポリマー、好ましくはエチレン/酢酸ビニルコポリマーがあるが、これらに限定されない。あるいはまた、コポリマーは、エチレンとアクリル酸エステル(acrylate ester)のコポリマー、例えば、エチレン/アクリル酸エチルコポリマー、エチレン/アクリル酸メチルコポリマーおよびエチレン/ブチルアクリレートコポリマーであってよい。同様に、コポリマーは、エチレンとメタクリル酸エステル(エチレン/メタクリル酸メチルなど)のコポリマーであってよい。
【0030】
さらに、グラフトの基幹は、エチレンと一酸化炭素のコポリマーであってよく、任意選択的に上述のモノマーの1つをさらに含む。例えば、エチレン/一酸化炭素、エチレン/アルキルアクリレート/一酸化炭素、およびエチレン/酢酸ビニル/一酸化炭素コポリマーなどでよい。エチレン/アルキルアクリレート/一酸化炭素コポリマーの場合、好ましいアルキル基は1個〜4個の炭素原子を含んだ直鎖または分枝状の基である。エチレン/ブチルアクリレート/一酸化炭素(E/nBA/CO)コポリマーが特に好ましい。
【0031】
より好ましいグラフトの基幹コポリマーは、エチレン/アルキルアクリレート/一酸化炭素、エチレン/酢酸ビニル/一酸化炭素、エチレン/酢酸ビニル(EVA)、およびエチレン/アクリレートコポリマーなど、高極性のものである。EVAコポリマーおよびエチレン/酢酸ビニル/一酸化炭素コポリマーの酢酸ビニル含量は、それぞれのコポリマーの全重量を基準にして、約15重量%より多く、約40重量%未満であることがさらにより好ましい。同様に、エチレン/アルキルアクリレートまたはエチレン/アルキルアクリレート/一酸化炭素コポリマーのアルキルアクリレート含量も、それぞれのコポリマーの全重量を基準にして、約15重量%より多く、約40重量%未満であることが好ましい。エチレン/アルキルアクリレート/一酸化炭素コポリマーの場合、一酸化炭素含量は、約5〜約15重量%の範囲内であることが好ましい。
【0032】
本発明に使用するマレイン酸化エチレンコポリマーを製造するには、任意の公知のグラフト方法を使用できる。好適なマレイン酸化(maleation)方法の例は、米国特許第5,106,916号明細書に記載されている。マレイン酸化ポリエチレンの調製および使用に関連した追加情報は、米国特許第6,545,091号明細書に記載されている。
【0033】
しかし、簡潔に言えば、ポリマーにグラフトする好ましいモノマーは、無水マレイン酸、マレイン酸、無水マレイン酸の半エステル(マレイン酸水素エチルなど)、イタコン酸およびフマル酸である。より好ましいモノマーとしては、無水マレイン酸およびその半エステルが挙げられる。グラフトは、欧州特許出願第0,266,994号明細書に記載されているように、溶液中、分散液中、流動床中、または溶融状態(溶媒なし)で実施できる。溶融グラフト(melt grafting)は、加熱押出機、Brabender(商標)またはBanbury(商標)ミキサーあるいはその他の密閉式ミキサーまたは混練機、ロール練り機などで実施できる。グラフトは、好適な有機過酸化物などのラジカル開始剤の存在下または不存在下で実施してよい。グラフトポリマーは、グラフトポリマーを分離または利用する任意の方法で回収できる。したがって、グラフトポリマーは、沈殿した綿ぼこり状のもの、ペレット、粉末などの形態で回収できる。
【0034】
マレイン酸化エチレンコポリマー中のグラフトモノマーの好ましいレベルは、コポリマーの重量を基準にして約0.3〜3.0重量%、より好ましくは0.5〜1.5重量%の範囲内である。
【0035】
エチレンコポリマーは、ポリマーの技術分野でよく知られている方法によりオートクレーブまたは管型反応器(tubular reactor)を用いて製造できる。共重合は、米国特許第3,264,272号明細書、米国特許第4,351,931号明細書、米国特許第4,248,990号明細書、および米国特許第5,028,674号明細書ならびに国際特許出願、国際公開第99/25742号パンフレットに開示されているように、オートクレーブ中で連続プロセスとして実施できる。管型反応器によって製造されるエチレンコポリマーは、一般に当該技術分野において知られている、より普通のオートクレーブ製造のエチレンコポリマーとは区別できる。管型反応器によって製造されるエチレンコポリマーは、米国特許第3,350,372号明細書、米国特許第3,756,996号明細書、および米国特許第5,532,066号明細書に開示されているように、当業者によく知られている。ここでは、簡潔にするためにその説明は省略する。「高圧管型プロセスで得られる高柔軟性EMA(High flexibility EMA made from high pressure tubular process)」(Annual Technical Conference−Society of Plastics Engineers(2002),60th(Vol.2),1832−1836)も参照されたい。
【0036】
本発明による組成物は、ポリマー組成物の全重量を基準にして、好ましくは約60から約95重量%、より好ましくは70から90重量%、さらにより好ましくは75から85重量%の熱可塑性エラストマーを含む。
【0037】
算術計算をすれば、本発明による組成物は、ポリマー組成物の全重量を基準にして、好ましくは約5から約40重量%、より好ましくは10から30重量%、さらにより好ましくは15から25重量%のマレイン酸化エチレンコポリマーを含むことになる。
【0038】
本発明のポリマー組成物は、ポリマー組成物における普通の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線安定剤、難燃剤、可塑剤、顔料、充填剤、強化材、加工助剤なども含んでよい。こうした添加剤の好適なレベルおよびこうした添加剤をポリマー組成物に含有させる方法は、当業者に知られている。例えば、Modern Plastics Encyclopedia,McGrawHill,(NewYork,1994)を参照されたい。
【0039】
本発明のポリマー組成物は、当該技術分野において知られている任意の好適な手段で個々の成分をブレンドすることにより調製できる。例えば、個々の材料は、押出機中で溶融ブレンドするなどにより、溶融形態で互いに混合させることができる。あるいはまた、個々の材料を、二本ロール機またはバンバリーミキサーなどの高剪断混合装置で互いにブレンドすることができる。
【0040】
別の態様では、本発明は、本発明のポリマー組成物を含む物品を提供する。本発明の好ましい物品としては、底板およびシャンクなどの履物の構成材がある。そのような物品は、当該技術分野において周知の方法に従って作製できる。例えば、本発明のポリマー組成物は、押出し成形、インフレート法、射出成形、回転成形、熱成形、または望ましい形状を作り出す他の任意の技法など、標準的な熱可塑性樹脂成形方法によって成形できる。射出成形は、本発明による物品の好ましい成形方法である。
【0041】
さらに別の態様では、本発明は、本発明のポリマー組成物を含む物品が接着剤によって第2物品に取り付けられている複合物品を提供する。接着剤は、水性接着剤、溶剤ベースの接着剤、またはホットメルト接着剤であってよい。好ましい接着剤は、National Starch CompanyからDongsung NSC(Kyunggi、Republic of Korea)(以下、「Dongsung NSC」)を通じて市販されている。接着剤はポリウレタンを含むことが好ましい。第2物品は、接着剤との適合性もある任意の物品であってよい。第2物品はゴムを含むことが好ましい。
【0042】
本発明による複合物品は、当該技術分野において知られている任意の好適な手段で作製できる。例えば、本発明の組成物を含む物品および第2物品はどちらも接着剤と接触させてよい。あるいはまた、第2物品を接着剤と接触させて直接成形して作るときに、本発明の組成物を含む物品が予備成形されていて、少なくとも部分的に接着剤が塗布されていてよい。同様に、本発明の組成物を含む物品を接着剤と接触させて直接成形して作るときに、第2物品が予備成形されていて、少なくとも部分的に接着剤が塗布されていてよい。
【0043】
本発明のポリマー組成物は、好ましくは、スポーツ用品、特に運動靴の構成材に使用する物品を作るのに使用される。しかし、本明細書に記載する物品および方法は、スポーツ用品に使用される場合でも、別の用途に使用される場合でも、本発明の範囲に含まれると見なされると理解すべきである。本発明のポリマー組成物を加工してできる好適な物品の例としては、底板、シャンクなどがあるが、これらに限定されない。本発明のポリマー組成物は、インラインスケート、スキー靴および締め具などにも使用できるが、これらは本発明による複合物品である。
【0044】
以下の実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために示されている。現在考慮されている本発明の好ましい実施形態を記載しているこれらの実施例は、説明のためのものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0045】
1.材料
Pebax(商標)7033、Pebax(商標)6333およびPebax(商標)5533は、Arkemaによって供給されたものである。マレイン酸化エチレンコポリマーは、約1.0重量%の無水マレイン酸残基を含んでいるE/nBA/CO(重量比は60/30/10)の無水マレイン酸グラフトターポリマーである。マレイン酸化エチレン−アクリル酸メチルコポリマー(E/MA)は、約1.0重量%の無水マレイン酸残基を含んでいる無水マレイン酸グラフトE/MA(重量比は76/24)である。無水マレイン酸のグラフトは、米国特許第5,106,916号明細書に記載された方法と似た方法で二軸スクリュー押出機で行った。
【0046】
比較例1の試験片は非合金のPebax(商標)7033である。実施例1の試験片は、Pebax(商標)7033対マレイン酸化エチレンコポリマーが80:20の配合物であり、実施例2の試験片は70:30の配合物である。比較例2の試験片は、非合金のPebax(商標)5333である。実施例3の試験片は、Pebax(商標)5533が36重量%、Pebax(商標)6633が56重量%、マレイン酸化エチレンコポリマーが8重量%、およびマレイン酸化エチレン−アクリル酸メチルコポリマーが6重量%の配合物である。Pebax(商標)およびマレイン酸化エチレンコポリマーの配合物は二軸スクリュー押出機で調製した。試験片(2.54mm×15mm×3.5mm)は、約220℃〜230℃で射出成形によって作った。
【0047】
2.標準試験方法
硬さはASTM D792に従って測定した。引張弾性率、引張り強さおよび引張伸びはASTM D638に従って測定した。引裂強さはASTM D642Cに従って測定した。ロス屈曲値(Ross flex value)はASTM D1052に従って測定した。Pebax(商標)の剥離強度(peel strength)試験片およびPebax(商標)の配合物は、ポリブタジエンゴムに接着した後、Instron Corporation(Canton,MA)から入手可能な万能材料試験機を用いて、試験を行った。クロスヘッド速度は50mm/分だった。これらの測定結果は、以下の表1および2に記載してある。
【0048】
a.溶剤ベースの下塗剤
試験片を室温でまずメチルエチルケトン(MEK)で洗浄してから、溶剤ベースの下塗剤(Dongsung NSC D−PLY 160−2)を塗布し、その後、熱対流炉内において60〜65℃で乾燥させた。溶剤ベースのポリウレタン下塗剤(Dongsung NSC W−104)を試験片に塗布し、その後それをオーブン内において50〜55℃で乾燥させた。その後、水性ポリウレタン接着剤(Dongsung NSC W−01)を、下塗剤の塗布された試験片に塗布し、次に55〜60℃で乾燥させてから、トルエンで表面を脱脂し、50〜55℃でさらに乾燥させた。その後、溶剤ベースの下塗剤(Dongsung NSC D−PLY 007)を試験片に塗布し、それから水性ポリウレタン接着剤(Dongsung NSC W−01)を塗布した。その後、剥離強度を測定する前に、ポリブタジエンゴムと一緒に試験片を30kg/cm2の圧力で210秒間成形した。
【0049】
b.水性下塗剤
試験片を室温でまずメチルエチルケトン(MEK)で洗浄してから、水性ポリウレタン下塗剤(Dongsung NSC W−104)を試験片に塗布し、その後、オーブン内において50〜55℃で乾燥させた。その後、水性ポリウレタン接着剤(Dongsung NSC W−01)を、下塗剤の塗布された試験片に塗布し、次に55〜60℃で乾燥させてから、トルエンで表面を脱脂し、50〜55℃でさらに乾燥させた。その後、水性ポリウレタン下塗剤(Dongsung NSC W−104)を試験片に塗布し、それから水性ポリウレタン接着剤(Dongsung NSC W−01)を塗布した。その後、剥離強度を測定する前に、ポリブタジエンゴムと一緒に試験片を30kg/cm2の圧力で210秒間成形した。
【0050】
3.結果と考察
実施例1および実施例2の組成物は、表1に挙げられた重要な性質のそれぞれで比較例1とかなり一致している。例えば、実施例1および2の両方の試験片は、室温および−10℃で優れたロス屈曲試験結果を示した。
【0051】
表1は、溶剤ベース接着剤および水性接着剤の両方を使用した場合の、比較例1および実施例1および2の試験片のゴムに対する接着強さも含んでいる。溶剤ベースの接着剤では、ゴムに対する実施例1の試験片の接着強さは19.1〜23.3kg/cmの範囲であり、比較例1の試験片の接着強さよりはるかに優れている。水性接着剤では、実施例1の試験片の接着強さは、比較例1の試験片の接着強さと比べて改良されているのが分かる。マレイン酸化エチレンコポリマーの含量が多くなっている実施例2の試験片は、水性接着剤の場合にゴムに対する接着強さが著しく改良されているのが分かる。溶剤ベースの接着剤では、実施例2の試験片の接着強さが低くなっていることは、予想外の結果であり、この試験片の表面の性質の変化を表している可能性がある。
【0052】

【0053】
表2は、溶剤ベースの下塗剤を使用した場合の、ゴムに対する比較例2および実施例3の試験片の接着強さを含んでいる。統計学的に有意の結果を得るため、接着強さ測定用として比較例2および実施例3のそれぞれについて24の試験片を作製した。表2に示すように、実施例3の組成物は、平均接着値が10.5kg/cmであり、最小接着値が6.4kg/cmであることを示している。比較例2の組成物は、平均接着値が7.1kg/cmであり、最小接着値が0.4kg/cmであることを示している。24の試験片のうち、比較例2の7つの試験片は接着強さが2.0kg/cm未満であることを示したが、これはあまりにも低く、この組成物は意図した用途では損傷しやすいことを示している。

【0054】

【0055】
上述のように本発明の好ましい実施形態の幾つかを説明し、具体的に例示してきたが、それは本発明がそのような実施形態に限定されることを意図するものではない。添付の特許請求の範囲に示すとおり、本発明の範囲および趣旨を逸脱することなく、さまざまな変更を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の熱可塑性エラストマー、および
少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマー
を含むポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリマー組成物の全重量を基準にして、前記少なくとも1種の熱可塑性エラストマーが約60から約95重量%、好ましくは約70から約90重量%、より好ましくは約75から約85重量%の量だけ存在し、さらに前記少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマーが約5から約40重量%、好ましくは約10から約30重量%、より好ましくは約15から約25重量%だけ存在する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種の熱可塑性エラストマーがコポリエーテルアミドまたはコポリエーテルエステルを含む、請求項1または2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマーが、グラフトモノマーとエチレンコポリマーとの反応生成物であるグラフトコポリマーを含み、前記グラフトモノマーが無水マレイン酸、マレイン酸、無水マレイン酸の半エステル(マレイン酸水素エチルなど)、イタコン酸およびフマル酸からなる群から選択され、好ましくは前記グラフトモノマーが無水マレイン酸および無水マレイン酸の半エステルからなる群から選択される、請求項1、2、または3のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
前記マレイン酸化エチレンコポリマーのグラフトモノマーの量が、前記コポリマーの全重量を基準にして0.3〜3.0重量%の範囲内、好ましくは0.5〜1.5重量%の範囲内である、請求項4に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマーが、エチレン、アルキルアクリレート、および一酸化炭素のコポリマー;エチレンおよび酢酸ビニルのコポリマー;エチレン、酢酸ビニル、および一酸化炭素のコポリマー;またはエチレンおよびアルキルアクリレートのコポリマーである、請求項4または5に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
コポリマーの全重量を基準にして、エチレンおよび酢酸ビニルのコポリマー中またはエチレン、酢酸ビニル、および一酸化炭素のコポリマー中の酢酸ビニルの量が約15重量%より多いか、またはエチレンおよびアルキルアクリレートのコポリマー中またはエチレン、アルキルアクリレート、および一酸化炭素のコポリマー中のアルキルアクリレートの量が約15重量%より多い、請求項6に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
エチレン、アルキルアクリレート、および一酸化炭素のコポリマー中の一酸化炭素の量がコポリマーの全重量を基準にして約5〜約15重量%の範囲内である、請求項6または7に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマーが、エチレンおよびα,β不飽和ジカルボン酸の直接コポリマーを含み、前記α,β不飽和ジカルボン酸が好ましくはフマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ならびに無水マレイン酸のエステルおよび半エステル(マレイン酸水素エチルなど)からなる群から選択され、より好ましくはマレイン酸またはマレイン酸エステル、またはマレイン酸の半エステルからなる群から選択される、請求項1、2、または3のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1種のマレイン酸化エチレンコポリマーが、エチレン、酢酸ビニルまたはアクリル酸エステルおよびα,β不飽和ジカルボン酸のターポリマーを含む、請求項9に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記アルキルアクリレートが、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、n−ブチルアクリレートおよびイソブチルアクリレートからなる群から選択される1つまたは複数の化合物を含む、請求項10に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
前記ターポリマーが、ターポリマーの全重量を基準にして、約60重量%から約85重量%のエチレン、約15重量%から約39重量%のアクリル酸エステル、および約1重量%から約8重量%のα,β不飽和ジカルボン酸を含み、好ましくは約70重量%から約85重量%のエチレン、約15重量%から約29重量%のアクリル酸エステル、および約1重量%から約3重量%のα,β不飽和ジカルボン酸を含む、請求項10または11に記載のポリマー組成物。
【請求項13】
前記ターポリマーが、エチレン、アクリル酸メチル、および無水マレイン酸のコポリマーを含む、請求項10に記載のポリマー組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む物品。
【請求項15】
底板またはシャンクである、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記物品が、水性接着剤、溶剤ベースの接着剤、またはホットメルト接着剤によって第2物品に取り付けられている、請求項14または15に記載の物品。
【請求項17】
前記接着剤が水性接着剤である、請求項16に記載の物品。
【請求項18】
前記接着剤がポリウレタンを含む、請求項16または17に記載の物品。
【請求項19】
前記第2物品がゴムを含む、請求項16、17または18のいずれか一項に記載の物品。
【請求項20】
靴、運動靴、インラインスケート、スキー靴、またはスキー靴用締め具である、請求項16〜19のいずれか一項に記載の物品。

【公表番号】特表2008−523223(P2008−523223A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545659(P2007−545659)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【国際出願番号】PCT/US2005/044602
【国際公開番号】WO2006/063224
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】