説明

熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物の製造方法

【構成】 熱可塑性飽和ノルボルネン系重合体の水素添加反応中または水素添加反応後に反応液を吸着剤で処理して、熱可塑性飽和ノルボルネン系重合体を得る。
【効果】 重合触媒に由来する遷移金属原子の含量が1ppm以下の熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物を得ることができる。この重合体水素添加物は透明性に優れ、金属膜等との密着性がよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物の製造方法に関し、さらに詳しくは、熱可塑性ノルボルネン系重合体を溶剤と水素添加触媒の存在下に水素添加して熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物を製造するに際し、水素添加反応中または水素添加反応後に吸着剤で処理することを特徴とする該熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、光学材料としては光線透過率の高い材料が要求されており、特にレンズの材料としては、厚さ3mmの射出成形品としたときに波長400〜700nmの全範囲において光線透過率が90%以上となるものが好ましいとされている。すなわち、可視光線の一部において光線透過率が劣るとレンズが着色し、また、強い光源の近くで用いる場合にその波長の光エネルギーが吸収され、熱に変換され高温になるため、ある程度耐熱性の高い材料であっても融解する危険性が生じる。
【0003】従来から光学材料に用いられる樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート(PC)が知られている。この内、PMMAは透明性に優れており、厚さ3mmの射出成形品での光線透過率については波長430nmで90%、700nmで91%に達しているが、耐熱性、耐湿性の点で問題があった。また、PCは耐熱性、耐湿性はPMMAよりも優れているが、波長430nmでの光線透過率が高々86%程度であり、さらに複屈折が大きいという問題があった。
【0004】近時、熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物は耐熱性、耐湿性、低複屈折性に優れた光学材料として注目されている。しかし、従来法で製造した熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物で厚さ3mmの成形品を射出成形すると波長700nmの光線透過率は90%以上になるものの、430nmでの光線透過率は90%未満のものしか得られていなかった。さらに、熱可塑性飽和ノルボルネン系重合体水素添加物製の基板に金属膜を蒸着した情報媒体光学素子を作製しても、高温高湿状態などでフクレが発生するなど、金属膜と基板の接着性が必ずしも充分でない場合があり、その改善が望まれていた。
【0005】後述のように、本発明者らは重合触媒残渣である遷移金属原子を低濃度にすることにより熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物の透明性や金属膜との接着性が改善されることを見いだした。しかし、従来から用いられていた重合体を貧溶媒で洗浄する方法、非溶媒で重合触媒を析出させる方法や、水酸基を有する化合物の存在下で重合反応液を活性アルミナ、ゼオライトなどの吸着剤で処理する方法(特開平3−66725号)で重合触媒を除去しても、処理後の重合体中の重合触媒残渣である遷移金属原子の濃度は2ppm程度以上であり、熱可塑性ノルボルネン系重合体の水素添加物においても、各遷移金属原子の濃度が2ppm程度未満のものは得られていなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物の透明性、金属膜との接着性の問題を鋭意研究の結果、熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物中に微量残存する重合触媒由来の遷移金属原子が透明性及び金属膜との接着性に悪影響を及ぼしていること、熱可塑性ノルボルネン系重合体を溶剤と水素添加触媒の存在下に水素添加して熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物を製造するに際し、熱可塑性ノルボルネン系重合体の水素添加反応中、または水素添加反応後に反応液を吸着剤で処理することにより、反応液中から該遷移金属が容易に除去でき、透明性、金属膜との接着性のよい熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物を得ることができることを見いだした。
【0007】
【課題を解決するための手段】かくして本発明によれば、重合触媒由来の遷移金属原子の含量の少ない熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物の製造方法が提供される。
【0008】(熱可塑性ノルボルネン系重合体)本発明の熱可塑性ノルボルネン系重合体は、モノマーを重合する際の重合触媒を不純物として含有するものである。ポリマーの具体例としては、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーの付加型重合体、ノルボルネン系モノマーとオレフィンの付加型重合体などが挙げられる。
【0009】ノルボルネン系モノマーとして、例えば、ノルボルネン、およびそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、例えば、5−メチル−2−ノルボルネン、5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等、これらのハロゲン等の極性基置換体;ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン等;ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、およびハロゲン等の極性基置換体、例えば、6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナルタレン、6−エチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−クロロ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−シアノ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−ピリジル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−メトキシカルボニル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン等;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物;シクロペンタジエンの3〜4量体、例えば、4,9:5,8−ジメタノ−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9−トリメタノ−3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタアントラセン;等が挙げられる。
【0010】(重合方法)ノルボルネン系モノマーの開環重合は、通常、本質的に遷移金属化合物と周期律表第I〜IV族金属の有機金属化合物とから成る触媒を用いて行われる。遷移金属化合物としては、チタン、モリブデン、タングステン等の遷移金属の、ハロゲン化物、オキシハライド、酸化物等が挙げられ、具体的には、TiCl4、TiBr4、WBr4、WCl6、WOF4、MoBr2、MoCl5、MoOF4などが挙げられる。また、第I〜IV族金属の有機金属化合物としては、有機アルミニウム化合物、有機スズ化合物などが挙げられ、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム、エチルアルミニウムセスキクロリド、テトラブチルスズ、ジエチルスズジイオジド、n−ブチルリチウム、ジエチル亜鉛、トリメチルホウ素などが挙げられる。
【0011】ノルボルネン系モノマーを付加型重合させる、またはノルボルネン系モノマーとオレフィンを付加型重合させる場合も、公知の遷移金属触媒を用いて、公知の方法で開環重合すればよい。通常は、マグネシウム化合物に担持されたチタン化合物またはバナジウム化合物、およびアルキルアルミニウム化合物とから形成される触媒を用いる。マグネシウム化合物に担持されたチタン化合物またはバナジウム化合物としては、少なくともマグネシウム、チタンおよびハロゲンを含有する複合体であり、その製造方法は例えば特開昭48−16986号、特開昭51−20297号、特開昭52−87489号、特開昭53−2580号などに開示されている。バナジウム化合物としては、VCl4、VOBr2、VO(OCH32Cl、VO(OC373、VO(OC49)Cl2などやこれらの混合物などが例示される。アルキルアルミニウム化合物としては、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムジハライドなどやこれらの混合物などが例示される。
【0012】目的に応じた分子量まで重合が進行した後、重合を停止する。重合を停止するには、重合触媒を不活化し、その後、重合触媒を除去する。重合触媒を不活化するには、例えば、水、アルコールなどの触媒不活化剤を重合反応液に加えればよい。これにより重合触媒は析出するが、還流すれば析出した重合触媒が硬く大きな塊となるので、除去がしやすくなる。重合触媒を除去するには、例えば、不活化し析出した重合触媒を遠心によって除去する、濾過によって除去する、あるいは反応を停止させた重合反応液を大量の貧溶媒で洗浄すればよい。または、水酸基を有する化合物の存在下で重合反応液を活性アルミナ、ゼオライトなどの吸着剤で処理してもよい。これらの方法による除去では、通常、重合触媒に由来する遷移金属原子が重合体に対して2〜10ppm程度残留する。
【0013】(水素添加反応)熱可塑性ノルボルネン系重合体はその分子中のオレフィン系不飽和基、すなわち主鎖の二重結合および不飽和環の二重結合を飽和させることにより、熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物とすることができる。
【0014】水素添加触媒はオレフィン化合物の水素化に際して一般にしようされているものであれば使用可能であり、例えば、ウィルキンソン錯体、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウムや、ケイソウ土、マグネシア、アルミナ、合成ゼオライトなどに、ニッケル、パラジウム、白金等触媒金属を担持させた不均一触媒が挙げられる。中でも、マグネシア、活性アルミナ、合成ゼオライトを担体とした細孔容積0.5cm3/g以上、好ましくは0.7cm3/g以上、また好ましくは比表面積250m2/g以上の不均一触媒が好ましい。
【0015】水素添加反応は、水素添加触媒の種類に応じて1〜150気圧の水素圧力下、0〜280℃、好ましくは20〜230℃で行われる。例えば、活性アルミナにニッケルを担持させた触媒の場合、200〜250℃が好ましく、220〜230℃がさらに好ましい。水素添加率は、水素圧、反応温度、反応時間、触媒濃度などを変えることによって任意に調整することができる。
【0016】本発明における熱可塑性ノルボルネン系重合体の水素添加反応は、通常、不活性有機溶媒中で実施する。有機溶媒としては、炭化水素系溶媒が好ましく、その中でも生成するノルボルネン系重合体の溶解性に優れた環状炭化水素系溶媒が特に好ましい。具体例としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、n−ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、デカリン等の脂環族炭化水素、メチレンジクロリド、ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられ、これらの2種以上を混合して使用することもできる。溶媒を使用する場合は、ノルボルネン系重合体1重量部に対する溶媒の使用量は、1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。
【0017】(触媒の除去)水素添加反応終了後の触媒の除去は遠心、濾過などの常法に従って行えばよい。遠心方法や濾過方法は用いた触媒が除去できる条件であれば、特に限定されない。化による除去は簡便かつ効率的であるので好ましい。濾過する場合、加圧濾過しても吸引濾過してもよく、また、効率の点から、ケイソウ土、パーライトなどの濾過助剤を用いることが好ましい。後述のように、重合触媒に由来する遷移金属原子に対する吸着剤を濾過助剤として用いてもよい。
【0018】さらに、水素添加触媒である不均一系触媒として、粒径0.2μm以上のもの、即ち、粒径が0.2μm未満のものを実質的に含まないものを用いると、濾過による不均一系触媒の除去が容易であるので好ましい。粒径が小さすぎると濾過の際にリークしやすく、また遠心しても除去が困難になり、熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物中の重合触媒や水素添加触媒の残渣である遷移金属原子量が多くなる。また、リークしないように孔径の小さなフィルターを用いて濾過すると目詰まりを起こしやすく、作業効率が悪い。
【0019】(吸着処理)本発明においては、重合体の反応液を吸着剤で処理する。重合反応液を水素添加前に吸着剤で処理しても、重合触媒由来の遷移金属原子は除去できるが、重合触媒由来の遷移金属原子が存在しても水素添加反応には影響がほとんどないので、連続して水素添加反応を行うことが好ましく、通常、水素添加反応中、または水素添加反応後に反応液を吸着剤で処理して、重合触媒由来の遷移金属原子を除去する。
【0020】反応液の吸着剤処理とは、(1)水素添加反応の始めから反応液に吸着剤を添加して反応を行い水素添加反応触媒と吸着剤を同時に除去する、(2)水素添加反応の始めから反応液に吸着剤を添加して反応を行い吸着剤を除去後に水素添加反応触媒を除去する、(3)水素添加反応の途中から反応液に吸着剤を添加して反応を行い水素添加反応触媒と吸着剤を同時に除去する、(4)水素添加反応の途中から反応液に吸着剤を添加して反応を行い吸着剤を除去後に水素添加反応触媒を除去するなどの方法があり、水素添加反応後の吸着処理とは、(5)水素添加反応終了後反応液に吸着剤を添加して攪拌し水素添加反応触媒と吸着剤を同時に除去する、(6)水素添加反応終了後反応液に吸着剤を添加して攪拌し吸着剤を除去後に水素添加反応触媒を除去する、(7)水素添加反応終了後反応液を吸着剤カラムに通した後水素添加反応触媒を除去する、(8)水素添加反応終了後水素添加反応触媒の除去の方法として反応液を吸着剤カラムに通す、(9)水素添加触媒除去後に反応液を吸着剤カラムに通す、(10)水素添加触媒除去後に反応液に吸着剤を添加し充分に攪拌し吸着剤を除去する、などの方法がある。これらを組み合わせて行ってもよい。(8)の方法の変法として、例えば、吸着剤を濾過助剤として用いて水素添加触媒を除去してもよい。
【0021】これらの方法の中でも、本発明の目的である重合触媒由来の遷移金属原子の除去効率の観点から、(1)、(2)、(3)、(4)の水素添加反応中に吸着剤処理をする方法が好ましい。さらに、処理時間の長さ、操作の安全性から、(1)、(2)の方法が好ましく、中でも(1)は水素添加触媒と吸着剤を同時に除去するので作業効率がよい。
【0022】吸着剤は重合や水素添加に用いた遷移金属触媒残渣を十分に吸着できるものであれば、特に限定されないが、合成ゼオライト、天然ゼオライト、活性アルミナ、活性白土などのSiO2、Al23、またはこれらの結晶性、非晶性の混合組成物が好ましい。また、比表面積が50m2/g以上、好ましくは100m2/g以上、より好ましくは200m2/g以上、細孔容積が0.5cm3/g以上、好ましくは0.6cm3/g以上、より好ましくは0.7cm3/g以上のものである。比表面積や細孔容積が小さいと吸着能力が劣る。大きさは0.2μm以上、好ましく10μm〜3cm、より好ましくは100μm〜1cmのものである。小さすぎると除去が困難であり、大きすぎるとカラムの充填率が悪かったり、水素添加物溶液中の遷移金属触媒残渣との接触確率が小さいため、充分に吸着しない。
【0023】吸着処理としては、前述のように、(I)吸着剤充填カラムに溶液を通す方法、(II)吸着剤を添加し攪拌し濾過等により吸着剤を除去する方法、(III)水素添加反応時に吸着剤を添加する方法などがある。前述のように、(III)の水素添加反応時に吸着剤を添加する方法が最も好ましい。
【0024】(I)吸着剤充填カラムに溶液を通す方法前記(7)、(8)、(9)に相当する。
【0025】充填率をρ(g/m3)、比表面積をS(m2/g)、滞留時間をt(sec)とした時にρSt(秒/m)が109以上になるように処理すればよい。通常、Sは100〜1000m2/g程度で、ρは4〜8×105g/m3程度であるので滞留時間を30秒以上にすればよい。
【0026】この場合、多量の水素添加物溶液を処理すると吸着能が落ちるので、処理時間の延長等が必要となり、さらには飽和に達し吸着しなくなるので、吸着処理後の重合触媒残渣である各遷移金属原子の濃度が高くなり始めた時点で、新しいものに再充填するなどの必要がある。
【0027】(II)水素添加反応後に吸着剤を添加する方法前記(5)、(6)、(10)に相当する。
【0028】比表面積をS(m2/g)、吸着剤添加量をm(g)、攪拌時間をt(秒)、処理する溶液量をV(g)、水素添加物溶液濃度をcとした時にSmt/Vc(秒/m)が103以上、好ましくは104以上、より好ましくは105以上であり、Sm/Vcが1以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であり、t(秒)が100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上になるように処理すればよい。攪拌の効率によっては、攪拌時間は長くする必要があり、実際には攪拌の効率は制御が困難であるので、作業全体の効率が許す限りにおいて、長く攪拌することが好ましい。
【0029】通常、Sは100〜1000m2/g程度であるので、水素添加物溶液濃度が10%の場合、例えば、溶液1kgに対して吸着剤を10g以上添加し、100秒以上充分に攪拌すればよい。
【0030】(III)水素添加反応時に吸着剤を添加する方法前記(1)、(2)、(3)、(4)に相当する、本発明の最も好ましい態様である。
【0031】基本的には(II)の場合と同様である。ただし、特に水素添加反応の始めから吸着剤を添加する(1)、(2)の場合は、(III)における攪拌時間が水素添加反応時間になり、長時間となるので、通常、Sm/Vcのみを問題とすればよい。
【0032】(熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物)本発明の熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物は従来の熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物と同様に、耐熱性、耐熱劣化性、耐光劣化性、耐湿性、耐薬品性等に優れているのみでなく、重合触媒に由来する遷移金属原子の含量が小さい。そのため、本発明の熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物は従来のものに比較して透明性に優れ、また、例えば、後述の金属反射膜や金属記録膜などを有する情報記録媒体光学素子においては高温高湿状態でもフクレが発生しにくなど、金属膜等との密着性が良い。
【0033】(添加剤)本発明の熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物には必要に応じて周知の添加剤、例えば、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱安定剤、水添石油樹脂、染料、顔料、無機および有機の充填剤などを配合し、樹脂組成物として使用することができる。
【0034】(成形加工)本発明の熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物は常法に従って光学素子基板に成形可能である。その成形法は、特に限定されず、通常のプラスチック成形法、例えば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の成形法が適用できる。
【0035】成形して得た光学素子基板に情報記録膜層を形成することにより、情報記録媒体光学素子が得られる。情報記録膜層としては通常金属膜が金属反射膜または金属記録膜として用いられ、情報記録媒体素子光学素子、例えば光学式記録媒体ディスクや光学式記録媒体カードが製造される。金属反射膜の形成は反射率の高い金属、例えば、ニッケル、アルミニウム、金などを蒸着させることによって行われ、また金属記録膜の場合には、光磁気記録膜として一般的なTb−Fe−Co系合金等を蒸着させることによって行われる。光学素子基板への金属膜の蒸着方法も、特に限定されず、通常の蒸着方法、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法等が適用できる。
【0036】また、公知の射出成形法、例えば特開昭60−141518号、特開昭60−225722号、特開昭61−144316号などにより、プラスチックレンズを成形することもできる。
【0037】そのほか、光学素子基板に光学素子パターンを公知の方法で接着して光学素子、例えばフレネルレンズなどを製造することができる。
【0038】
【実施例】以下に参考例、実施例、及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0039】参考例1充分乾燥し、窒素置換したセパラブルフラスコに6−エチリデン−2−テトラシクロドデセン27gに対し、1−ヘキセン、トルエンをそれぞれ3mmol、120mlの割合で加えた。
【0040】さらに、トリエチルアルミニウム3.0mmol、四塩化チタン0.60mmol、およびトリエチルアミン3.0mmolの割合で加え、25℃で攪拌下4時間、開環重合反応させた。蒸留水を140gの割合で加えて、1時間攪拌することにより水洗し、その後、アセトン・イソプロピルアルコール等量混合溶剤で開環重合体を沈澱させ、濾過後、乾燥して開環重合体を得た。
【0041】この開環重合体の分子量は24,000、Tgは146℃であった。
【0042】この乾燥開環重合体10重量部をシクロヘキサン90重量部に溶解し、原子吸光分析法により、遷移金属触媒残渣であるチタン原子の濃度を測定したところ、開環重合体水素添加物に対して37ppmであった。
【0043】参考例2参考例1で得た開環重合体10gに対しシクロヘキサンを100mlの割合で加えて溶解し、パラジウムカーボン1gの割合で加え、ステンレス製アンプル中に入れ、混合後、アンプル中の空気を水素で置換して水素圧を50kg/cm2Gとし、10℃で攪拌しつつ30分保持した。その後、120℃に昇温して18時間保持して水素添加した。蒸留水を100gの割合で加えて、1時間攪拌することにより水洗し、その後、アセトン・イソプロピルアルコール等量混合溶剤で開環重合体を沈澱させ、濾過後、乾燥して開環重合体水素添加物を得た。
【0044】この開環重合体水素添加物の水素添加率は99.7%、Tgは140℃であった。
【0045】この乾燥開環重合体水素添加物10重量部をシクロヘキサン90重量部に溶解し、原子吸光分析法により、遷移金属触媒残渣であるチタン原子およびパラジウム原子の濃度を測定したところ、開環重合体水素添加物に対して、それぞれ、9ppm、4ppmであった。
【0046】実施例1参考例1で得た重合体10gに対しシクロヘキサンを100mlの割合で加えて溶解し、パラジウムカーボン1g、活性アルミナ(比表面積320m2/g、細孔容積0.8cm3/g、平均粒径15μm、水澤化学製、ネオビードD粉末)0.3gの割合で加え、ステンレス製アンプル中に入れ、混合後、アンプル中の空気を水素で置換して水素圧を50kg/cm2Gとし、10℃で攪拌しつつ30分保持した。その後、120℃に昇温して18時間保持して水素添加した。濾過してパラジウムカーボンと活性アルミナを除去し、アセトン・イソプロピルアルコール等量混合溶剤で開環重合体を沈澱させ、濾過後、乾燥して開環重合体水素添加物を得た。
【0047】この開環重合体水素添加物の水素添加率は99.7%、Tgは140℃であった。
【0048】この乾燥開環重合体水素添加物10重量部をシクロヘキサン90重量部に溶解し、原子吸光分析法により、遷移金属触媒残渣であるチタン原子およびパラジウム原子の濃度を測定したところ、開環重合体水素添加物に対して、どちらも検出限界の1ppm以下であった。
【0049】実施例2比表面積350m2/g、細孔容積0.8cm3/g、粒径約3mmの活性アルミナ(水澤化学製、ネオビードDペレット)を半径3cm、高さ100cmのカラムに充填したカラムに(充填率5.0×105g/m3)、滞留時間100秒になるように、参考例2で得た水素添加物10重量部をシクロヘキサン90重量部に溶解した溶液を通した。この溶液を用いて、原子吸光分析法により、遷移金属触媒残渣であるチタン原子およびパラジウム原子の濃度を測定したところ、開環重合体水素添加物に対して、どちらも検出限界の1ppm以下であった。
【0050】実施例3比表面積500m2/g、細孔容積1.2cm3/g、粒径1.8mmの合成ゼオライト(水澤化学製、ミズカシーブス−13X)を半径3cm、高さ100cmのカラムに充填したカラムに(充填率8.8×105g/m3)、滞留時間100秒になるように、参考例2で得た水素添加物10重量部をシクロヘキサン90重量部に溶解した溶液を通した。この溶液を用いて、原子吸光分析法により、遷移金属触媒残渣であるチタン原子およびパラジウム原子の濃度を測定したところ、開環重合体水素添加物に対して、どちらも検出限界以下の1ppm以下であった。
【0051】実施例4参考例2で得た水素添加物10重量部をシクロヘキサン90重量部に溶解した溶液300gを半径10cmの1lビーカーに入れ、実施例1で用いた活性アルミナ6gを添加し、長さ3cmのテフロン製円筒形スターラーチップを入れ、60分間、マグネチック・スターラーで100rpmで回転させた。
【0052】濾過により活性アルミナを除去した後、この溶液を用いて、原子吸光分析法により、遷移金属触媒残渣であるチタン原子およびパラジウム原子の濃度を測定したところ、開環重合体水素添加物に対して、どちらも検出限界の1ppm以下であった。
【0053】実施例5射出成形機(住友重機製、DISK5−3M型)を用いて、金型温度110℃、射出温度300℃で、実施例1〜4で得た重合体水素添加物を、それぞれ厚さ1.2mm、130mm径の光ディスク基板に成形した。これらの基板に金属アルミニウムを真空蒸着し、70℃、湿度90%で24時間高温高湿試験をしたが、金属アルミニウム膜と基板の接着にはフクレなどの異常が認められなかった。
【0054】比較例1実施例1で得た重合体水素添加物の代わりに参考例2で得た重合体水素添加物を用いる以外は実施例5と同様に光ディスク基板を成形し、金属アルミニウムを蒸着し、高温高湿試験を行ったが、金属アルミニウム膜と基板の間にフクレが認められ、接着性に問題があった。
【0055】実施例6射出成形機(住友重機製、DISK5−3M型)を用いて、金型145℃、射出温度290℃で実施例1〜4で得た重合体水素添加物を、それぞれ厚さ3mmのプロジェクションTV用レンズを成形し、射出後6分で90℃まで冷却した。分光光度計を用いて光線透過率を測定したところ、400〜700nmの全領域において90%以上、最低でもそれぞれ、90.6%、90.5%、90.2%、90.4%であった。特に実施例1で得た重合体水素添加物は400〜700nmの全範囲において最も光線透過率に優れていた。
【0056】比較例2実施例1〜4で得た重合体水素添加物の代わりに参考例2で得た重合体水素添加物を用いる以外は実施例6と同様にレンズを成形したところ、400〜450nmの領域で光線透過率は90%以下、最高でも89.0%であった。
【0057】
【発明の効果】本発明の製造方法で製造された樹脂は耐熱性、耐湿性等は従来の熱可塑性ノルボルネン系樹脂と変わらないが、透明性が向上し、厚さ3mmの射出成形品において430nmの光線透過率が90%以上であるため、透明性が要求される光学素子の材料に適している。また、重合触媒に由来する遷移金属原子の含量が1ppm以下であり、光学素子の金属膜等との密着性が良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性ノルボルネン系重合体を溶剤と水素添加触媒の存在下に水素添加して熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物を製造するに際し、水素添加反応中または水素添加反応後に反応液を吸着剤で処理することを特徴とする熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物の製造方法。