説明

熱可塑性樹脂積層シートおよび成形品

【課題】 車両材料燃焼試験にて「不燃性」を達成し、熱成形が可能であり型再現性に優れる熱可塑性樹脂積層シートおよび成形品を提供することである。
【解決手段】 基層部と表層部とが積層一体化されてなる熱可塑性樹脂積層シートであって、前記基層部は熱可塑性樹脂組成物からなり、前記表層部は芳香族ポリカーボネート樹脂からなることを特徴とする熱可塑性樹脂積層シートおよび該熱可塑性樹脂積層シートを用いて作製したことを特徴とする成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂積層シートおよび成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の火災防止対策は、鉄道輸送の安全を確保するために、極めて重要な課題の一つである。火災防止対策の一環である延焼防止対策として、鉄道車両に用いられる材料は、車両の部位により不燃化、難燃化が義務づけられている。現在は昭和44年に制定された方法で行われており、燃焼性は、車両に使用できる「不燃性」「極難燃性」「難燃性」の他、車両に使用できない「緩燃性」「可燃性」の5段階にクラス分けしている。
現在、鉄道車両分野の車両内装用材料として難燃性、熱成形性に優れた塩化ビニル樹脂が使用されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、この材料の燃焼試験結果は「難燃性」であり、防災、安全上の観点から更に高度な「不燃性」を有する材料の提供が望まれている。
また、熱可塑性樹脂材料以外では、熱硬化性繊維強化プラスチック(例えば特許文献2参照)、アルミ板(例えば特許文献3参照)、メラミン樹脂アルミ化粧板(例えば特許文献4参照)などが用いられているが、複雑な熱成形が困難であるため使用部位に合わせた形状への加工が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−31824号公報
【特許文献2】特開2006−305867号公報
【特許文献3】特開2002−355922号公報
【特許文献4】特開2005−246892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両材料燃焼試験にて「不燃性」を達成し、熱成形が可能であり型再現性に優れる熱可塑性樹脂積層シートおよびその成形品を提供することである。
本発明において、従来使用している塩化ビニル樹脂では車両材料燃焼試験で、着火の程度、発煙量の点から「不燃性」の達成は困難であったが、鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂が「不燃性」を達成することのできる樹脂であることを見出した。
また、鉄道車両材料では用途上隠蔽性が必要となることが多く、隠蔽性を持たせるためポリカーボネート樹脂に加工顔料を添加したシートは、車両材料燃焼試験にて「極難燃性」となり燃焼性は低下する。これは、加工顔料に含まれる二酸化チタンの触媒効果により燃焼が促進されたものであると推測される。そのため不燃性と隠蔽性の両立できる材料が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記[1]〜[7]に記載の本発明により達成される。
[1] 基層部と表層部とが積層一体化されてなる熱可塑性樹脂積層シートであって、
前記基層部は熱可塑性樹脂組成物からなり、前記表層部は芳香族ポリカーボネート樹脂からなる熱可塑性樹脂積層シート。
[2] 前記表層部の厚さが、0.3mm以上である前記[1]項に記載の熱可塑性樹脂積層シート。
[3] 前記樹脂積層シートの総厚さが、3.3mm以上である前記[1]または[2]項に記載の熱可塑性樹脂積層シート。
[4] 前記基層部の熱可塑性樹脂組成物に用いる樹脂が、芳香族ポリカーボネート樹脂である前記[1]乃至[3]項のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂積層シート。
[5] 前記基層部の熱可塑性樹脂組成物に着色剤を含む 前記[1]乃至[4]項のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂積層シート。
[6] 前記[1]乃至[5]項のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂積層シートを用いて作製した成形品。
[7] 前記[6]項に記載の成形品が、鉄道車両用部材として用いられる成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、車両材料燃焼試験にて「不燃性」と隠蔽性が両立でき、なおかつ熱成形が可能であり型再現性に優れる熱可塑性樹脂積層シートおよび成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
基層部と表層部とが積層一体化されてなる熱可塑性樹脂積層シートであって、前記基層部は熱可塑性樹脂組成物からなり、前記表層部は芳香族ポリカーボネート樹脂層であることを特徴とする。このような構成とすることで、車両材料燃焼試験にて「不燃性」と隠蔽性が両立でき、熱成形が可能であり型再現性に優れる熱可塑性樹脂積層シートおよび成形品を提供できる。
【0008】
本発明の表層部において使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法などによって得られる。
【0009】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類などが挙げられる。これらは単独だけでなく2種類以上混合して使用してもよい。
【0010】
表層部の厚さは0.3mm以上であることが好ましく、0.5mm以上であることが特に好ましい。表層部の厚さを上記範囲とすることにより、燃焼時の熱の伝播を抑え、基材部からの燃焼ガス発生を抑えることできるため、燃焼性が向上する。
【0011】
基層部に使用される熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とその他の添加剤により構成されるものである。熱可塑性樹脂は特に限定されるものではなく、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル類、ポリエチレン樹脂,ポリプロ
ピレン樹脂などのポリオレフィン類、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂などポリスチレン類などが好適に使用できる。基層部に使用される熱可塑性樹脂組成物は、成形性、燃焼性の観点から表層部と同じポリカーボネート樹脂を用いることが特に好ましい。
【0012】
基層部に使用される熱可塑性樹脂組成物のその他の添加剤としては、隠蔽性を付与するため、着色剤などを添加することができる。使用できる着色剤は特に限定されるものでなく、染料および顔料などから選ばれる1種類以上を使用できる。
着色剤の配合量は、樹脂に対して、0.1重量部以上10重量部以下が好ましく、より好ましくは0.5重量部以上5重量部以下である。この範囲とすることにより、燃焼性と隠蔽性の両立が可能となる。
【0013】
基層部と表層部とが積層一体化されてなる熱可塑性樹脂積層シートの総厚さは、3.3mm以上であることが好ましく、3.5mm以上であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂積層シートの総厚さを上記値以上とすることにより、燃焼時の溶融滴下および変形を抑制できる。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂積層シートの製造方法としては、押出成形、共押出成形、転写成形、プレス成形などを用いることができる。ただし、これらに限定されるものではない。例えば、単層のシートをそれぞれ押出成形して作製し、その後、プレス成形することにより熱可塑性樹脂積層シートを作製することができる。また、2種以上の原料を共押出成形することにより作製することも可能である。
【実施例】
【0015】
以下、実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されない。
実施例において用いた原料を以下に記載した。なお、表1に各原料の添加量を重量部で示した。
・ポリカーボネート樹脂 E−2000F、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製
・着色剤:酸化チタン R−42、堺化学工業株式会社製
【0016】
[実施例1〜9、比較例1、2]
表2に示した配合で原料を均一に混合し、単軸押出機を用いて混練した後、ダイスを用いて押出成形することにより、着色樹脂シート(基層部)を得た。また、同様にポリカーボネート樹脂を同様に押出成形することにより、樹脂シート(表層部)を得た。
得られた着色樹脂シート(基層部)と樹脂シート(表層部)を、電熱プレス機を用いプレス成形することにより積層一体化し、熱可塑性樹脂積層シートを作製した。作製した熱可塑性樹脂積層シートを用いて、以下の評価を実施した。
【0017】
1.燃焼性
平成14年3月に施行された国土交通省令第151号「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の第8章第5節83条解釈基準に定められている、鉄道車両用材料燃焼試験にて燃焼性の確認を行った。燃焼性は、下記表1の基準により判定した。
【0018】
【表1】

【0019】
2.成形性
作製した熱可塑性樹脂積層シートを用いて、真空圧空成形機と成形展開倍率2倍となる金型を用いて真空成形を行い、箱型の成形品を得た。得られた成形品について、型再現性が良好なものを○、不良なものを×として評価した。
3.隠蔽性
熱可塑性樹脂積層シートより成形展開倍率2倍にて作製した成形品について、目視にて透過しないものを○、透過するものを×として評価した。
【0020】
[比較例3]
表3の表層の原料のみを用いて、単軸押出機にて混練した後、ダイスを用いて押出成形することにより厚さ3.0mmの樹脂プレートを作製した。得られた樹脂プレートを用いて、実施例1と同様に評価した。
[比較例4]
表3の基層の原料のみを用いて、単軸押出機にて混練した後、ダイスを用いて押出成形することにより厚さ4.0mmの着色樹脂プレートを作製した。得られた樹脂プレートを用いて、実施例1と同様に評価した。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
表2、3から明らかなように、本発明に係る実施例1〜9においては、燃焼試験において、不燃性でありさらに成形品の型再現性も良好であった。これに対し、本発明から外れる比較例においては、極難燃性であり燃焼性に劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂積層シートおよびその成形品は、車両材料燃焼試験にて「不燃性」を達成できるものであり、隠蔽性に優れた鉄道車両分野の材料として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層部と表層部とが積層一体化されてなる熱可塑性樹脂積層シートであって、
前記基層部は熱可塑性樹脂組成物からなり、前記表層部は芳香族ポリカーボネート樹脂からなる熱可塑性樹脂積層シート。
【請求項2】
前記表層部の厚さが、0.3mm以上である請求項1に記載の熱可塑性樹脂積層シート。
【請求項3】
前記樹脂積層シートの総厚さが、3.3mm以上である請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂積層シート。
【請求項4】
前記基層部の熱可塑性樹脂組成物に用いる樹脂が、芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂積層シート。
【請求項5】
前記基層部の熱可塑性樹脂組成物に着色剤を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂積層シート。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂積層シートを用いて作製した成形品。
【請求項7】
請求項6に記載の成形品が、鉄道車両用部材として用いられる成形品。