説明

熱可塑性樹脂組成物、その成形品および燃料系用部品

【課題】単層であっても燃料バリア性に優れた成形品(特に燃料系用部品)を安価に、かつ簡便に得ることができる熱可塑性樹脂組成物、および燃料バリア性に優れ、安価であり、かつ簡便に製造できる成形品ならびに燃料系用部品を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂(A)と、結晶化度が26%以上であるエチレン・α−オレフィン共重合体を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性して得られた変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)とを含む熱可塑性樹脂組成物;該熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品;および、該熱可塑性樹脂組成物を用いた燃料系用部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物、該組成物を成形してなる成形品、および該組成物を用いた燃料系用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や二輪車に用いられる燃料系用部品(燃料タンク等)には、安全性の観点から、高い耐衝撃性が求められている。また近年、大気中へのガソリン蒸気の揮発による環境汚染を防止する観点から、高い燃料バリア性も求められている。
【0003】
ポリアミド樹脂は、高い燃料バリア性に加え、熱的性質や耐薬品性に優れることから自動車部品等の用途に広く使用されている。しかし、靭性に劣るという欠点があり、燃料系部品に要求される耐衝撃性が不充分であるのが現状である。
【0004】
ポリアミド樹脂の耐衝撃性を改善する方法としては、各種ゴム成分を添加する方法がよく知られている。しかし、各種ゴム成分を添加した場合、ポリアミド樹脂が有している燃料バリア性が著しく低下する。
【0005】
そこで、耐衝撃性と燃料バリア性を両立するために、燃料タンクとしては、燃料バリア性に優れるポリアミド樹脂やエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる内層と、耐衝撃性に優れる高密度ポリエチレン(HDPE)からなる外層とを有する積層体からなる燃料タンクが主流になりつつある(例えば、特許文献1、2)。
しかし、該積層体には、成形が煩雑である、設備コストが高くなる等の問題がある。
【特許文献1】特開2006−95748号公報
【特許文献2】特開2005−206806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、単層であっても燃料バリア性に優れた成形品(特に燃料系用部品)を安価に、かつ簡便に得ることができる熱可塑性樹脂組成物、および燃料バリア性に優れ、安価であり、かつ簡便に製造できる成形品ならびに燃料系用部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく検討した結果、ポリアミド樹脂に添加するゴム成分として特定の結晶化度を有するエチレン・α−オレフィン共重合体の変性物を使用することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と、結晶化度が26%以上であるエチレン・α−オレフィン共重合体を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性して得られた変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)とを含むことを特徴とする。
【0009】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレン・オクテン共重合体であることが好ましい。
前記変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)は、エチレン・α−オレフィン共重合体の100質量部を、不飽和カルボン酸またはその誘導体の0.1〜0.5質量部で変性して得られたものであることが好ましい。
前記エチレン・α−オレフィン共重合体の結晶化度は、26〜34%であることが好ましい。
【0010】
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものである。
本発明の燃料系用部品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、単層であっても燃料バリア性に優れた成形品、特に燃料系用部品を安価に、かつ簡便に得ることができる。
本発明の成形品ならびに燃料系用部品は、燃料バリア性に優れ、安価であり、かつ簡便に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(ポリアミド樹脂(A))
ポリアミド樹脂(A)は、アミノ酸、ラクタム、またはジアミンおよびジカルボン酸を主たる構成単位とするポリアミドである。
アミノ酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等が挙げられる。
ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。
【0013】
ジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環族ジアミン、芳香族ジアミンが挙げられ、具体的には、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2−メチルオクタメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等が挙げられる。
【0014】
ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸が挙げられ、具体的には、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等が挙げられる。また、ジカルボン酸の代わりにシュウ酸エステル、アジピン酸エステル等のジカルボン酸エステルを使用することができる。
ポリアミド樹脂(A)は、前記構成単位のホモポリマーであっても、コポリマーであってもよく、各々を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0015】
ポリアミド樹脂(A)としては、150℃以上の融点を有する耐熱性および強度に優れたものが好ましく、具体的には、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンオキサミド(ナイロン62)、ポリノナメチレンオキサミド(ナイロン92)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、これらの混合物等が挙げられる。
ポリアミド樹脂(A)としては、成形性、機械特性、燃料バリア性、経済性の点から、ナイロン6またはナイロン66が好ましい。
【0016】
(変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B))
変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)は、結晶化度が26%以上であるエチレン・α−オレフィン共重合体を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性して得られた変性物であり、エチレン・α−オレフィン共重合体単位と不飽和カルボン酸またはその誘導体単位を有する。
【0017】
原料のエチレン・α−オレフィン共重合体の結晶化度は、燃料バリア性に優れる点から、26%以上であり、燃料バリア性と耐衝撃性のバランスに優れる点から、26〜34%が好ましい。結晶化度が26%以上であれば、ポリアミド樹脂(A)に変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)を添加した際の燃料バリア性の低下が抑えられる。
原料のエチレン・α−オレフィン共重合体の結晶化度は、X線回折装置を用いたX線回折法により求める。
【0018】
結晶化度が26%以上であるエチレン・α−オレフィン共重合体としては、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンの少なくとも1種以上との共重合体が好ましい。
炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセン、これらの組み合わせ等が挙げられる。
α−オレフィンとしては、機械強度の向上の点から、炭素数3〜12のα−オレフィンが好ましく、結晶化度が26%以上であるエチレン・α−オレフィン共重合体を容易に得ることができる点から、1−オクテンが特に好ましい。
【0019】
原料のエチレン・α−オレフィン共重合体の質量平均分子量は、燃料バリア性および耐衝撃性を効果的に発現できる点から、7万〜15万が好ましい。
原料のエチレン・α−オレフィン共重合体の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された、ポリスチレン換算の質量平均分子量である。
【0020】
不飽和カルボン酸またはその誘導体は、構造が本質的に異なるために均一に混ざり合わないポリアミド樹脂(A)とエチレン・α−オレフィン共重合体との界面接着性を改善するために、エチレン・α−オレフィン共重合体に導入される成分である。
【0021】
不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、シトラコン酸、グルタコン酸、これらカルボン酸の金属塩、マレイン酸水素メチル、イタコン酸水素メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、マレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸等が挙げられる。
不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好ましく、マレイン酸または無水マレイン酸が特に好ましい。
【0022】
エチレン・α−オレフィン共重合体に導入される不飽和カルボン酸またはその誘導体は、耐衝撃性の点から、エチレン・α−オレフィン共重合体の100質量部に対して、0.1〜0.5質量部が好ましく、0.1質量部超0.3質量部以下がより好ましい。
【0023】
エチレン・α−オレフィン共重合体を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性する方法としては、二軸押出し機を用い、ラジカル開始剤の存在下で、エチレン・α−オレフィン共重合体を不飽和カルボン酸またはその誘導体でグラフト化処理する、リアクティブプロセッシングにより導入する方法が好ましい。
ラジカル開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、レドックス系開始剤等が挙げられる。
【0024】
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)と、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)とを含むものである。
変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の含有量は、耐衝撃性と燃料バリア性とのバランスに優れる点で、ポリアミド樹脂(A)と変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)との合計100質量部のうち、15質量部超35質量部以下が好ましい。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂を含んでいてもよい。
他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂等が挙げられる。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤を含んでいてもよい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0027】
フェノール系酸化防止剤としては、トリエチレングリコール−ビス[3−t−ブチル−(5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6−(1H,3H,5H)−トリオン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等が挙げられる。
【0028】
リン系酸化防止剤としては、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリト−ル−ジ−ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビスフェニレンホスファイト、ジ−ステアリルペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、トリフェニルホスファイト、3,5−ジーブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステル等が挙げられる。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で他の添加剤を含んでいてもよい。
他の添加剤としては、カップリング剤(イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物等)、可塑剤(ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物等)、結晶核剤(タルク、カオリン有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトン等)、モンタン酸ワックス類、金属石鹸(ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等)、離型剤(エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物等)、着色防止剤(次亜リン酸塩等)、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤等が挙げられる。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で充填材を含んでいてもよい。
充填材としては、繊維状充填材または非繊維状充填材が挙げられる。
繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ワラステナイトウィスカ、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維等が挙げられる。
【0031】
非繊維状充填材としては、珪酸塩(タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート等)、金属化合物(酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄等)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等)、硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)、水酸化物(水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等)、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラック、シリカ、黒鉛等が挙げられる。
充填材は、中空であってもよく、2種以上を併用してもよい。また、充填材は、カップリング剤(イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物等)で予備処理されていてもよい。
【0032】
以上説明した本発明の熱可塑性樹脂組成物にあっては、ポリアミド樹脂(A)と、結晶化度が26%以上であるエチレン・α−オレフィン共重合体を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性して得られた変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)とを含むため、単層であっても燃料バリア性に優れた成形品を得ることができる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物を使用することで、積層体とすることなく、燃料バリア性を発揮できるため、成形品の製造が簡便である。また、成形品の製造に、特殊な設備を必要としないため、成形品を安価に製造できる。
【0033】
また、変性前のエチレン・α−オレフィン共重合体の結晶化度が26〜34%であったり、変性前のエチレン・α−オレフィン共重合体の質量平均分子量が7万〜15万であったり、エチレン・α−オレフィン共重合体に導入される不飽和カルボン酸またはその誘導体が、エチレン・α−オレフィン共重合体の100質量部に対して、0.1〜0.5質量部であったり、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)の含有量が、ポリアミド樹脂(A)と変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)との合計100質量部のうち、15質量部超35質量部以下であったりした場合には、燃料バリア性と耐衝撃性のバランスに優れた成形品を得ることができる。
【0034】
(成形品)
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形し、必要に応じて二次加工してなるものである。
成形方法としては、射出成形、押出し成形、圧縮成形、ブロー成形等が挙げられる。
加工方法としては、熱板溶着、レーザー溶着、振動溶着等が挙げられる。
成形品の用途としては、燃料系用部品、外装部品、エンジンルーム内部品、駆動系部品電気電子部品等が挙げられ、燃料バリア性に優れることから、燃料系用部品が特に好ましい。
【0035】
(燃料系用部品)
本発明の燃料系用部品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いたものであり、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品のみからなる部品、または該成形品に他の部材を組み合わせた部品である。
燃料系用部品としては、燃料タンク、フューエルセンダーユニット、フューエルポンプ、燃料ホースに付属する部品、具体的には、各種コネクタ、フィラーキャップ、コントロールバルブ等のバルブ類、フューエルストレーナ、キャニスタ、セパレータ等が挙げられる
【0036】
以上説明した本発明の成形品ならびに燃料系用部品にあっては、本発明の熱可塑性樹脂組成物を使用しているため、単層であっても燃料バリア性に優れる。よって、積層体とすることなく、燃料バリア性を発揮できるため、成形品の製造が簡便である。また、成形品の製造に、特殊な設備を必要としないため、成形品を安価に製造できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例中の各種評価は、下記のように行った。
【0038】
(結晶化度)
原料のエチレン・α−オレフィン共重合体の結晶化度は、広角X線回折装置(理学電機(株)製、RAD−RX型)により求めた。結晶化度を表1および表2に示す。
【0039】
(質量平均分子量)
原料のエチレン・α−オレフィン共重合体の質量平均分子量は、ウォーターズ社製、アライアンスGPC V2000型(標準物質:ポリスチレン、溶媒:オルトジクロロベンゼン、測定温度:140℃、溶媒流速:1mL/min)により測定した。質量平均分子量を表1および表2に示す。
【0040】
(燃料透過係数)
手動操作式真空プレス機(東邦マシナリー社製、TMB−10)を用い、プレス温度:250℃、冷却温度:80℃の条件で、厚さ約100μmの材料フィルムを作製した。
Φ100mm、深さ10mmのステンレスカップに、CE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10vol%)の50ccを注入し、テフロン(登録商標)製パッキンを介して材料フィルムにて蓋をし、8箇所をネジで締めた。該ステンレスカップを、窒素雰囲気下にて60℃で静置し、時間ごとの質量減少から下記式(1)から燃料透過係数を算出した。
燃料透過係数=透過量[g]・フィルム厚[mm]/透過面積[m]・透過時間[day] ・・・(1)。
【0041】
(耐衝撃性)
射出成形機(東芝機械社製、IS55FP−1.5A)を用い、ISO 3167に準拠して試験片を作製し、ISO 179の方法に準拠して試験片のシャルピー衝撃強さを測定した。
【0042】
(ポリアミド樹脂(A))
(A−1):ナイロン6(宇部興産(株)製、1015B)。
(A−2):ナイロン66(宇部興産(株)製、2020B)。
【0043】
(変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B))
(B−1):エチレン・α−オレフィン共重合体であるエチレン・オクテン共重合体(デュポンダウ社製、ENGAGE8480)の100質量部、無水マレイン酸(日本油脂社製、CRYSTAL MAN)の0.3質量部、開始剤であるα,α’−ジ−t−ブチルペルオキシジイソプロピルベンゼン(日本油脂社製、パーブチルP−40)の0.1質量部をドライブレンドし、バレル温度:220℃に加熱した脱気式押出機((株)日本製鋼所製、TEX−30α型二軸押出機)に供給し、溶融混練して、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B−1)のペレットを得た。
【0044】
(B−2)〜(B−5):エチレン・α−オレフィン共重合体として、表1に示した各種エチレン・オクテン共重合体(デュポンダウ製、ENGAGE各グレード)に変更した以外は、(B−1)と同様に行い、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B−2)〜(B−5)のペレットを得た。
【0045】
(B−6):エチレン・α−オレフィン共重合体であるエチレン・オクテン共重合体(デュポンダウ社製、ENGAGE8450)の100質量部、無水マレイン酸(日本油脂社製、CRYSTAL MAN)の0.1質量部、開始剤であるα,α’−ジ−t−ブチルペルオキシジイソプロピルベンゼン(日本油脂社製、パーブチルP−40)の0.1質量部をドライブレンドし、バレル温度:220℃に加熱した脱気式押出機((株)日本製鋼所製、TEX−30α型二軸押出機)に供給し、溶融混練して、変性エチレン・α−オレフィン共重合体ペレット(B−6)を得た。
【0046】
(B−7)〜(B−9):無水マレイン酸の配合量を表1に示した量に変更した以外は、(B−6)と同様に行い、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B−7)〜(B−9)のペレットを得た。
【0047】
(B−10):無水マレイン酸の配合量を0.5質量部に変更した以外は、(B−1)と同様に行い、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B−10)のペレットを得た。
【0048】
【表1】

【0049】
(b−1):エチレン・オクテン共重合体(デュポンダウ社製、ENGAGE8480)を未処理のまま使用した。
【0050】
(b−2):エチレン・α−オレフィン共重合体であるエチレン・ブテン共重合体(デュポンダウ社製、ENGAGE7447)を用いた以外は、(B−1)と同様に行い、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(b−2)のペレットを得た。
【0051】
(b−3)〜(b−5):エチレン・α−オレフィン共重合体として、表2に示した各種エチレン・オクテン共重合体(デュポンダウ社製、ENGAGE各グレード)を用いた以外は、(B−1)と同様に行い、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(b−3)〜(b−5)のペレットを得た。
【0052】
【表2】

【0053】
〔実施例1〕
ポリアミド樹脂(A−1)の70質量部、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B−1)の30質量部をドライブレンドし、バレル温度:250℃に加熱した脱気式押出機((株)日本製鋼所製、TEX−30α型二軸押出機)に供給し、溶融混練して、熱可塑性樹脂組成物を得た。燃料透過係数およびシャルピー衝撃強さを表3に示す。
【0054】
〔実施例2〜5、比較例1〜5〕
表3に示した変性エチレン・α−オレフィン共重合体に変更した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を得た。燃料透過係数およびシャルピー衝撃強さを表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
〔実施例6〜10〕
表4に示した変性エチレン・α−オレフィン共重合体に変更した以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を得た。燃料透過係数およびシャルピー衝撃強さを表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
〔実施例11〜14〕
ポリアミド樹脂(A−1)と、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B−1)とを、表5に示した割合で用いた以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を得た。燃料透過係数およびシャルピー衝撃強さを表5に示す。
【0059】
〔実施例15〕
ポリアミド樹脂(A−2)と、変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B−1)とを、表5に示した割合で用いた以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂組成物を得た。燃料透過係数およびシャルピー衝撃強さを表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
表3〜表5に示されるように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム成分を含有しているにもかかわらず、ポリアミド樹脂(A)自体の燃料バリア性の低下を抑制させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品は、燃料系部品として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)と、
結晶化度が26%以上であるエチレン・α−オレフィン共重合体を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性して得られた変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)と
を含む、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体が、エチレン・オクテン共重合体である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性エチレン・α−オレフィン共重合体(B)が、エチレン・α−オレフィン共重合体の100質量部を、不飽和カルボン酸またはその誘導体の0.1〜0.5質量部で変性して得られたものである、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記エチレン・α−オレフィン共重合体の結晶化度が、26〜34%である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる、成形品。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いた、燃料系用部品。

【公開番号】特開2010−111730(P2010−111730A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284158(P2008−284158)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】