説明

熱可塑性樹脂組成物の溶液製造方法

【課題】 高分子量を有する熱可塑性樹脂に高濃度の無機微粒子を混合する工程での溶融
粘度の上昇の懸念がなく、製品熱可塑性樹脂組成物の製造工程からの抜き出しを容易に行うことが可能であり、しかも透明に優れた熱可塑性樹脂組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 高分子鎖の繰返し単位に酸素原子を含有する熱可塑性樹脂、無機微粒子及び該熱可塑性樹脂を溶解した有機溶媒を含有する有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物から有機溶媒を除去することにより熱可塑性樹脂組成物を製造する方法において、該有機溶媒が下記(1)〜(3)を満足するものを必須成分として含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(1)溶解度パラメーター(δ)が18〜25[単位は(MPa)1/2
(2)大気圧における沸点が90℃以上
(3)分子構造中に酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる少なくとも一つの原子を有し、1級アミノ基又は2級アミノ基を有さない有機化合物である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機微粒子を高濃度で含有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、これに無機微粒子を含有させて熱可塑性樹脂組成物とすることにより、機械的強度、表面硬度、成形収縮率、線膨張係数等の物理的性質が改善されるため、該樹脂に無機微粒子を含有させることは広く行われている。かかる熱可塑性樹脂組成物を製造する場合、従来は樹脂ペレットと無機微粒子とを2軸押出機に代表される溶融混練装置を用いて強いせん断下溶融状態で混合分散する方法が当業者の間で汎用的であった。しかしながら、この方法による無機微粒子の分散粒径は通常サブミクロンレベル以上であるという限界があった。最近、さらに微細な分散粒径を達成することにより従来にない優れた機械的特性、光学的特性、難燃性などを得るために、いわゆるナノコンポジットと呼ばれる数10nm以下の分散粒径を目指す技術開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、機械的特性、耐水性等が改善された有機―無機複合材料として、第2の有機重合体のマトリックスとその中に微分散された金属酸化物粒子と該金属酸化物粒子を該第2の有機重合体の中に均一に微分散させるための特定の界面改質剤とを含有する有機―無機複合材料が記載され、シリカ等の金属酸化物粒子を芳香族ポリカーボネート樹脂(以下PC樹脂と略記する場合がある)等の有機重合体マトリックスに微分散させて有機−無機複合材料を得るに当たり、クロロホルム、ジクロロメタン又はテトラヒドロフラン(THF)等のPC樹脂の良溶媒として当業者に常用されている有機溶媒中での混合を示している。
【0004】
又、特許文献2には、透明性、機械的物性、難燃性に優れたPC樹脂組成物として、ポリカーボネートと、界面活性剤の存在下ゾル−ゲル法によって得られた表面処理されたシリカ粒子からなり、特定の全光線透過率のPC樹脂組成物が記載されており、シリカ粒子がポリカーボネート樹脂と表面処理されたシリカ粒子をTHF等の有機溶媒に溶解させた溶液状態で混合した後、溶媒を除去して樹脂組成物を得る方法が開示されている。
【0005】
又、特許文献3には、高剛性、低熱膨張、耐摩傷性の樹脂材を提供することを目的とし、疎水化処理がなされた微粒子シリカである特定の改質シリカ組成物をPC樹脂等の透明樹脂と溶液混合して透明樹脂組成物を得る方法が開示されている。そして、該透明樹脂溶液としては、透明樹脂の種類によって溶媒を適宜選択することができること、例えば、メチルメタクリレートなどを単量体主成分に含む(メタ)アクリル系高分子材料の場合には、アセトン、アニリン、キシレン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、トルエン、そしてメチルエチルケトンなどの芳香族系やケトン系の有機溶媒を好ましく使用することができ、透明性樹脂溶液と改質シリカ組成物を混練後、溶媒を除去することで透明樹脂組成物を調製することができることが記載されている。
【0006】
一方、特許文献4には、熱可塑性樹脂への分散性が改良された無機微粒子である表面被覆された繊維状酸化アルミニウムフィラーを、熱可塑性樹脂の重合時の反応系へ添加することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法(以下、重合添加法と記載する場合がある)が開示されている。
【特許文献1】特開2000−327930号公報
【特許文献2】特開2004−107470号公報
【特許文献3】特開2003−201114 号公報
【特許文献4】特開2004−149687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や2に記載の溶媒を使用した場合には無機微粒子の凝集が避けられないため、得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性が不十分であることが判明した。例えば、クロロホルムやジクロロメタンなどの塩素系溶媒は無機微粒子を均一分散させる力が弱いので、PC樹脂を溶解した状態で無機微粒子を分散させると凝集を生じたり該溶液の濃縮段階で無機微粒子が再凝集する問題があった。また溶媒としてTHFを使用した場合には、実用的な機械的強度の確保に必要な高分子量PC樹脂の溶解度が不十分であるため溶液の濃縮段階でPC樹脂が先に析出し、その結果、得られる熱可塑性樹脂組成物は無機微粒子が再凝集したものとなる。また、特許文献1に開示された方法は、別途調製された無機微粒子をPC樹脂と混合しているのではなく、PC樹脂の溶液中でシリカ微粒子を生成させるいわゆるin−situ合成法であるため、無機微粒子の性質(例えば粒径・アスペクト比・微粒子が互いに連結しあう度合いなどの形状、結晶性や緻密性などの材質など)を十分に制御できないので、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融流動性や透明性は満足できるものではなかった。
【0008】
又、特許文献3には、透明樹脂が(メタ)アクリル系高分子材料である場合の溶媒について記載されているが、透明樹脂の高分子鎖は炭素原子の連鎖で構成されており、高分子鎖の繰返し単位に酸素原子を含有する熱可塑性樹脂である場合の溶媒については記載されていない。
特許文献4に記載の重合添加法によれば、確かに均質で微細な分散が可能であるが、無機微粒子の存在により重合反応が阻害され機械的強度を満足する十分な高分子量が達成困難となる問題を生じる場合があり、また仮に十分な高分子量が達成されたとしても高濃度の無機微粒子を添加した場合には溶融粘度が極端に上昇するため、均質な重合反応進行に必要な攪拌が不十分になったり重合反応装置からの熱可塑性樹脂組成物の抜き出しや移送が困難となるといった問題を生じる。かかる問題を生じない程度の低分子量の段階で熱可塑性樹脂組成物を重合反応装置から単離しこれをマスターバッチとして利用して高分子量の熱可塑性樹脂とともに溶融混練して希釈する方法も考えられる。しかしながら、該マスターバッチは可及的に高濃度であればあるほど製造コスト的に望ましいが、そうであればあるほど前記溶融粘度が極端に上昇する問題が生じやすくなる。したがって、該マスターバッチを高濃度化すればするほどより低分子量段階で単離せざるを得ず、最終的に得る熱可塑性樹脂組成物の平均分子量を十分に高められないという本質的な限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
こうした従来技術の問題点に鑑み、本発明者らは、高分子鎖の繰返し単位に酸素原子を含有する熱可塑性樹脂を前提とし、十分な高分子量を有する熱可塑性樹脂に高濃度の無機微粒子を混合する工程での溶融粘度の上昇を懸念する必要のない溶液混合法により透明な熱可塑性樹脂組成物を製造する方法について鋭意検討した結果、高分子鎖の繰返し単位に酸素原子を含有する熱可塑性樹脂、無機微粒子及び有機溶媒を含有する有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物から有機溶媒を除去することにより熱可塑性樹脂組成物を製造する方法において、有機溶媒としてシクロヘキサノン、安息香酸エステル類、ジメチルスルホキシドなどに代表される比較的高い沸点を有しかつ大きな溶媒和能力を有する特定の不活性溶媒を必須成分として使用することにより上記課題を解決することを見出した。更に好ましくは、有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物から有機溶媒を除去する工程を、ベント口を有する多軸スクリュー型押出機を用いて剪断を加えながら行うことにより、非常に優れた無機微粒子の分散状態を達成可能であることを見出した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、高分子鎖の繰返し単位に酸素原子を含有する熱可塑性樹脂、無機微粒子及び該熱可塑性樹脂を溶解した有機溶媒を含有する有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物から有機溶媒を除去することにより熱可塑性樹脂組成物を製造する方法において、該有機溶媒が下記(1)〜(3)を満足するものを必須成分として含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0011】
(1)溶解度パラメーター(δ)が18〜25[単位は(MPa)1/2]
(2)大気圧における沸点が90℃以上
(3)分子構造中に酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる一つの原子を有し、1級アミノ基又は2級アミノ基を有さない有機化合物である、に存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、高分子量を有する熱可塑性樹脂に高濃度の無機微粒子を混合する工程での溶融粘度の上昇を懸念する必要のない溶液混合法により熱可塑性樹脂組成物を製造可能であるため、製品熱可塑性樹脂組成物の製造工程からの抜き出しを容易に行うことが可能であり、しかも特定の有機溶媒を使用することにより透明な熱可塑性樹脂組成物を製造することが可能であり、工業上極めて有用である。
【0013】
本発明の方法により得られる熱可塑性樹脂組成物は、製造時の着色が極めて抑制され、しかも溶融流動性や成形表面平滑性などの熱可塑化成形性、透明性、機械的強度、寸法安定性、成形表面の硬度やハードコートなどの無機薄膜密着性に優れる特徴を有する、無機微粒子を高濃度に分散した熱可塑性樹脂組成物となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されない。
[熱可塑性樹脂]
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、高分子鎖の繰返し単位に酸素原子を含有するものであり、さらに好ましくは、高分子鎖の繰り返し単位中、高分子主鎖を構成する原子として酸素原子を含有するものであり、特に好ましくは高分子鎖の繰り返し単位中、高分子主鎖を構成する原子として酸素原子を含有するものであり、かつ線状高分子であり、透明性の点から可視光波長領域(波長400〜650nm程度の範囲)における透明性や無色性に優れるものが好ましい。好ましい熱可塑性樹脂は、ASTM−D1003規格による全光線透過率(光路厚さ3.2mm)が85%以上である熱可塑性樹脂(以下、透明熱可塑性樹脂ということがある)であり、例えばビスフェノールAを単量体として用いる芳香族ポリカーボネート樹脂、ビスフェノール類と芳香族ジカルボン酸を必須成分とする芳香族ポリエステルであるポリアリレート樹脂(以下PAR樹脂と略記する場合がある)が例示される。また、ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下PET樹脂と略記する場合がある)、シクロヘキサンジカルボン酸とシクロヘキサンジメタノールとのポリエステル(以下PCC樹脂と略記する場合がある)、生分解性を特徴とする脂肪族ポリエステル類などのポリエステル樹脂、半結晶性芳香族ポリアミド樹脂(例えばヘキサメチレンジアミンにテレフタル酸とイソフタル酸を混合して重合したポリアミド樹脂など)など、結晶化条件によっては透明材料となるものも使用可能である。ポリフェニレンエーテル樹脂は非晶性の透明樹脂であり、通常褐色の着色があるが使用可能である。本発明においては、複数種の異なる熱可塑性樹脂を混合して用いてもよい。熱可塑性樹脂の中でも、その高分子主鎖の繰返し単位にカルボニル基を含有するものが好ましく、さらに好ましくはカルボニルオキシ基を含有するものである。かかる樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂やPAR樹脂が挙げられる。
【0015】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂とは、1種以上のビスフェノール類、場合によりこれと3価以上の多価フェノール類と、ビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類との反応により製造される重合体である。本発明に使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、その製造方法に制限はなく、例えば(a)ビスフェノール類のアルカリ金属塩と求核攻撃に活性な炭酸エステル誘導体(例えばホスゲン)とを原料とし生成ポリマーを溶解する有機溶剤(例えば塩化メチレン)とアルカリ水との界面にて重縮合反応させる界面重合法、(b)ビスフェノール類と求核攻撃に活性な炭酸エステル誘導体(例えばホスゲン)とを原料としピリジン等の有機塩基中で重縮合反応させるピリジン法、(c)ビスフェノール類とビスアルキルカーボネートやビスアリールカーボネート等の炭酸エステル(好ましくはジフェニルカーボネート等のビスアリールカーボネート)を原料とし溶融重縮合させる溶融重合法、(d)二酸化炭素をビスフェノール類と重縮合する方法等の公知のいずれの方法によって製造されたものでもよい。芳香族ポリカーボネート樹脂は、単独でも複数種の併用であってもよく、複数種のビスフェノール類を共重合したものでもよい。本発明で用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、通常、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定される重量平均分子量Mwが15000〜100000、靭性や成形容易性から好ましくは20000〜80000、更に好ましいのは35000〜65000の範囲のものである。前記GPC測定によるMwは、与えられた芳香族ポリカーボネート樹脂のクロロホルム溶液をテフロン(登録商標)性メンブレンフィルターで濾過し、40℃のクロロホルムを溶媒とするGPC測定を行い、単分散分子量を有するポリスチレンを標準試料とした検量線による換算分子量を採用する。
【0016】
前記PAR樹脂とは、芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸、イソフタル酸等)又はその誘導体(例えばジメチルテレフタレートやジメチルイソフタレート等の芳香族ジカルボン酸ジエステル類)と前記ビスフェノール類とを原料とする全芳香族ポリエステルである。好ましい重合体は、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸とビスフェノールAとが重縮合したポリエステル構造である。よく知られた登録商標名としては、ユニチカ社製Uポリマーが好適な具体例である。ポリアリレート樹脂は単独でも複数種の併用であってもよく、前記芳香族ポリカーボネート樹脂や後述するポリエステル樹脂との優れた相溶性やエステル交換反応による相溶化が可能なので、これら樹脂とのブレンドも可能である。ポリアリレート樹脂の分子量には特に制限はないが、通常、40℃のクロロホルム溶媒によるGPC(単分子量分散ポリスチレンを対照)で測定される重量平均分子量Mwが8,000〜200,000、機械的物性と溶融流動性の点で好ましくは10,000〜100,000、更に好ましいのは15,000〜80,000の範囲のものである。
【0017】
前記芳香族ポリアミド樹脂とは、高分子主鎖構造中に芳香環とアミド結合(−NHCO−)を含み加熱溶融できる重合体であり、酸素等に対する高いガスバリヤ性を特徴とするので、本発明で述べるような無機微粒子との樹脂組成物とすることでガスバリヤ性が更に向上する。好ましい芳香族ポリアミド樹脂としては通常の成形条件で非晶質成形体を与えるものが好ましく、具体的にはテレフタル酸及び/又はイソフタル酸とヘキサメチレンジアミンとから得られるポリアミド、テレフタル酸及び/又はイソフタル酸とアジピン酸とヘキサメチレンジアミンとから得られるポリアミド、共重合成分として1,3−フェニレンジオキシジ酢酸を含む共重合ポリアミド、共重合成分として二量体化脂肪酸を含む共重合ポリアミドなどが挙げられる。ポリアミド樹脂は、単独でも二種以上混合物であってもよい。ポリアミド樹脂の分子量には特に制限はないが、通常、25℃の濃硫酸中で測定した相対粘度が0.5〜5.0の範囲のものが好ましく用いられ、靭性および成形性の点からさらに好ましいのは0.8〜4.0の範囲のものである。
【0018】
前記ポリエステル樹脂とは、1)芳香族ポリエステル類:ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールとの縮合反応により得られる芳香族環を分子鎖中に有するポリエステルである。本発明に適する芳香族ポリエステル樹脂としてはポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリ1,3−プロピレンテレフタレート等が挙げられる。2)脂肪族ポリエステル類:ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールとの縮合反応により得られる芳香族環を分子鎖中に有さないポリエステルである。本発明への使用に適する脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリ4−ヒドロキシブチレート、ヒドロキシブタン酸とヒドロキシ吉草酸の共重合体、ポリブチレンスクシネート、ポリブチレンアジペート、アジピン酸とテレフタル酸の混合ジカルボン酸と1,4−ジヒドロキシブタンとのポリエステル、ポリカプロラクトン等の生分解性を有するポリエステル、シクロヘキサンジメタノールとシクロヘキサンジカルボン酸とのポリエステル(本発明では以下「PCC」と略記する場合がある。)等が挙げられる。これらポリエステル樹脂は、芳香族ポリエステル類又は脂肪族ポリエステル類であるを問わず単独でも複数種の併用であってもよい。あるいは相溶性に優れる前記芳香族ポリカーボネート樹脂とのブレンドも可能であり、好適な市販のポリエステル樹脂ブレンド材料として前記PCC樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂の相溶ポリマーアロイ材料でガラス転移点が100℃程度である日本ジーイープラスチックス社製の登録商標ザイレックス(Xylex)が例示される。前記ポリエステル樹脂の分子量は、フェノールとsym−テトラクロロエタンの重量比1:1の混合溶媒を使用し、濃度1g/dLとし30℃で測定した極限粘度[η]が、0.2〜3.5dL/gの範囲のものである。極限粘度がこの範囲よりも小さい場合には、靭性が極端に低下し、逆にこの範囲よりも大きい場合には、溶融粘度が大きすぎて成形に支障を来すため好ましくない。該極限粘度[η]は、好ましくは0.5〜3.0dL/g、更に好ましくは0.8〜2.5dL/gである。本発明に好ましいポリエステル樹脂はASTM規格D648で荷重455kPa(4.6kgf/cm2)とする荷重たわみ温度が50〜130℃の範囲であり、前記例示の全てのポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂ブレンド材料を含む)はこれに該当する具体例である。本発明においてポリエステル樹脂ブレンド材料を用いる場合、脂肪族ポリエステル類の割合が大きければ大きいほど耐光性の点で優れる場合がある。これは紫外線を吸収するベンゼン環等の芳香環の含有量が減少するためである。同じ理由で脂肪族ポリエステル類は耐光性の点で芳香族ポリエステル類よりも優れる場合がある。
【0019】
前記ポリフェニレンエーテル樹脂とは、ベンゼン環残基が酸素原子を介して結ばれた重合体であり、加熱溶融できるものである。これらはフェノール類またはその反応性誘導体を原料として、公知の方法、例えば酸化カップリング触媒を用いた酸素又は酸素含有ガス(例えば空気)による酸化カップリング重合で製造される重合体である。このフェノール類および重合触媒等の具体例は、例えば特開平4−239029号公報等に詳述されているが、代表的なフェノール類としてはフェノール、o−クレゾール、2,6−キシレノール、2,5−キシレノール、2,3,6−トリメチルフェノール等のメチルフェノール類等が挙げられ、これらフェノール類は単独または2種以上を組み合わせて用いることもできる。最も一般的なポリフェニレンエーテル樹脂としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、またはこれを主構造とする共重合体が挙げられる。ポリフェニレンエーテ系樹脂は、単独でも複数種の併用であってもよい。本発明に用いられるポリフェニレンエーテル樹脂の分子量は、通常、0.6g/dL濃度のクロロホルム溶液の25℃での極限粘度[η]が0.2〜0.6dL/gの範囲内で選ばれ、靭性および成形性の点から0.35〜0.55dL/gの範囲で選ぶのが好ましい。
【0020】
<無機微粒子>
無機微粒子としては、シリカ(珪石粉末、石英ガラス、ガラスビーズ、珪藻土、湿式又は乾式の合成品等。湿式合成品としてはコロイダルシリカ、乾式合成品としてはフュームドシリカが挙げられる。)、アルミナ(α−アルミナ、γ−アルミナ、ベーマイト、ディアスポア(Diaspore)バイヤーライト(Bayerite)、非晶性アルミナ等)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化アンチモン等の金属酸化物類、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩類、亜硫酸カルシウム、亜硫酸バリウム等の亜硫酸塩類、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩類、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の多価金属の水酸化物、モンモリロナイト、ベントナイト、合成雲母、フッ素化合成雲母、合成スメクタイト(ルーセンタイト)、フッ素化合成スメクタイト、合成サポナイト等の陽イオン交換能を有する層状珪酸塩類、パイロフィライト、カオリン、タルク、アタパルジャイト、セリナイト、雲母(フロゴバイト、マスコバイト等)等の各種の層状珪酸塩、珪酸カルシウム(合成非晶性、ゾノライト、ワラストナイト等)、珪酸亜鉛、珪酸ジルコニウム等の珪酸塩類、アスベスト類(クリソタイル、アモサイト、アンソフィナイト等)、ハイドロタルサイト等の陰イオン交換能を有する層状塩、ゼオライト類、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム等のチタン酸塩類、ホワイトカーボンなどが例示される。
【0021】
好ましいのは、シリカ類、アルミナ類、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の無色性(可視光波長領域にほとんど吸収を持たない性質による)に優れた金属酸化物類、硫酸バリウム等の水溶性がほとんどなく結晶性に優れた硫酸塩類、モンモリロナイト、合成雲母、フッ素化合成雲母、合成スメクタイト(ルーセンタイト)、フッ素化合成スメクタイト、合成サポナイト等の陽イオン交換能を有する層状珪酸塩類であり、中でもシリカ類、アルミナ類、硫酸バリウム等の化学的安定性に優れたもの、合成スメクタイト(ルーセンタイト)、フッ素化合成スメクタイト、合成サポナイト等の粒径の小さな陽イオン交換能を有する層状珪酸塩類が更に好ましい。
【0022】
これらの無機微粒子には、必要に応じて、分散剤である有機物による表面処理を施してもよい。その手段として、以下1)〜3)に例示のような分散剤を無機微粒子の表面に反応又は吸着させる。
1)金属アルコキシド類:シランカップリング剤(アルキル基やアリール基を珪素原子に結合したアルコキシシラン類)やチタネート系カップリング剤等。
【0023】
2)酸性化合物:ラウリン酸、ステアリン酸、りんご酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸等のカルボン酸類、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸等のスルホン酸類、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、4−ヒドロキシフェニルホスホン酸等のホスホン酸類、リン酸モノエチルエステル、リン酸モノブチルエステル、リン酸ジエチルエステル、リン酸ジブチルエステル、リン酸フェニルエステル等のリン酸エステル類。
【0024】
3)酸アミド類:前記酸性化合物にアンモニア又は1級アミン類がアミド結合したもの。かかる表面処理により、前記熱可塑化組成樹脂や後述する特定の有機溶媒への分散性が改良される。
無機微粒子は、その1次粒子の長径の数平均は通常3〜1000nmであり、得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性の点でその上限は好ましくは500nm、更に好ましくは300nm、最も好ましくは100nmであり、一方その下限は熱可塑性樹脂組成物の機械的物性や寸法安定性を改良するフィラー効果の点で好ましくは4nm、更に好ましくは5nmである。ここでいう1次粒子とは、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察画像における粒子であって、それ以上小さな構成単位粒子が認められない粒子、もしくは結晶格子に由来する格子状画像が単結晶であることを示す粒子、をいう。かかる1次粒子の長径の数平均は、原料として使用する無機微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)による観察画像において、無作為に選んだ少なくとも100個の1次粒子の像の長径から算出する。
【0025】
無機微粒子を得る手段に制限はなく、例えば、天然又は合成鉱物の粒子を機械的手段(ビーズミル、オングミル、ナノマイザー等)で粉砕する方法、コロイド粒子やナノ粒子の化学合成法、あるいはこれら機械的及び化学合成的手段の複合が可能である。機械的手段を用いて無機微粒子を製造する場合には、その1次粒子の大きさを小さくするために、通常、前記分散剤を併用することが好ましい。化学合成的手段として以下が例示される。
【0026】
1)ゾル−ゲル法・・・テトラメトキシシランやテトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類、テトライソプロポキシチタンやテトラブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン類、テトライソプロポキシジルコニウムやテトラブトキシジルコニウム等のテトラアルコキシジルコニウム類などの金属アルコキシド類、四塩化珪素、四塩化チタン、四塩化ジルコニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどの金属塩類、もしくはかかる金属アルコキシド類の数量体を原料とし、加水分解及び縮合反応によりM−O−M結合(但しMは金属アルコキシド類が含有する金属元素を表す)を形成して金属酸化物類を合成する方法。ここで、前記金属アルコキシド類のアルコキシ基の一部がアルキル基やアリール基で置換された分子である前記シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤を併用してもよい。かかるゾル−ゲル法の反応溶媒は、水または水を高濃度で溶解する親水性有機溶媒が好ましく、かかる親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等の脂肪族エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等の脂肪族ケトン類、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等が使用可能である。
【0027】
2)析出法・・・中和反応等のイオン反応により目的とする無機微粒子を析出させる方法である。例えば、水酸化バリウムと硫酸を水中で混合すれば、直ちに硫酸バリウムの微粒子が得られる。従って、好ましい反応溶媒は、水や低級アルコール類などのプロトン性溶媒を含有するものであり、水又は水を含有する前記親水性有機溶媒が通常使用される。かかる析出法の原料として、金属元素の水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩等のアルカリ性塩類、金属元素のカルボン酸塩類等を用いることができる。析出法は、イソオクタンなどの疎水性有機溶媒中の逆ミセル中で行う(いわゆる逆ミセル法)ことで、ナノ粒子合成にも応用できる。
【0028】
3)水熱法・・・金属化合物を高温高圧の水存在下で金属酸化物に変換する方法である。天然鉱物の多くはかかる条件下で生成する。水熱法の原料としては、四塩化珪素、四塩化チタン、四塩化ジルコニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウムなどの金属塩類が使用される。
尚、後述の本発明の製造法で得られる熱可塑性樹脂組成物における無機微粒子の分散粒子における短径の数平均は、通常3〜100nmであり、該熱可塑性樹脂組成物の透明性の点でその上限は好ましくは70nm、更に好ましくは50nm、最も好ましくは30nmであり、一方その下限は熱可塑性樹脂組成物の機械的物性や寸法安定性を改良するフィラー効果の点で好ましくは4nm、更に好ましくは5nmである。ここでいう分散粒子とは、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察画像において、他の粒子と接触しない状態で観察される粒子である。かかる分散粒子の短径の数平均は、製造された熱可塑性樹脂組成物の透過型電子顕微鏡(TEM)による観察画像において、無作為に選んだ少なくとも100個の分散粒子の像の短径から算出する。
【0029】
<有機溶媒>
本発明の製造方法で用いる有機溶媒は、単独でも複数種類の混合溶媒でもよいが、下記(1)〜(3)の3条件を同時に満たすもの(以下「必須溶媒」と記述する場合がある。)を少なくとも1種必ず含有するものである 。
(1)溶解度パラメーター(δ)が18〜25[単位は(MPa)1/2]
(2)大気圧における沸点が90℃以上
(3)分子構造中に酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる少なくとも一つの原子を有し、1級アミノ基又は2級アミノ基を有さない有機化合物である
ここでいう溶解度パラメーター(δ)は、J.Brandrup,E.H.Immergut編;Polymer Handbook,3rd Edition(1989年、米国、John Wiley & Sons社刊、ISBN:0−471−81244−7)VII/535〜VII/539ページにアルファベット順記載の表にある各種溶媒の数値である。表に記載のない溶媒の数値は、同刊行物のVII章に記載の方法で決定する。使用する有機溶媒が上記溶解度パラメータを満足する溶媒を含有せず、含有される溶媒の溶解度パラメーターが前記範囲に満たないと無機微粒子を分散させる力(つまり溶媒和する力)が小さくなり、一方前記範囲を超えると後述する重要な熱可塑性樹脂(例えばPC樹脂、PET樹脂、PCC樹脂など)を溶解することが困難となるので、いずれの場合も本発明の目的を達成できなくなる。従って、溶解度パラメーターの下限値は好ましくは18.5、更に好ましくは19.0、最も好ましくは19.5であり、その上限値は好ましくは24.5、更に好ましくは24.0、最も好ましくは23.5である。
【0030】
尚、有機溶媒は、単一溶媒でも混合溶媒でも良いが、溶媒が複数種の混合溶媒である場合、該混合溶媒の溶解度パラメータも上記溶解度パラメータを満足するのが上記と同様の理由から好ましく、前記溶解度パラメータを満足する溶媒の全溶媒に対する割合は、溶媒種により特定されないが、混合溶媒が前記溶解度パラメータを満足する割合で混合されるのが好ましい。ここで、有機溶媒が複数種類の混合溶媒である場合は、各有機溶媒(通常は前記Polymer Handbookの表にある溶媒から選ばれる)の溶解度パラメーターにそれぞれのモル分率を掛けた積の総和の数値を用いる。
【0031】
前記有機溶媒の第二要件である大気圧における沸点について説明する。ここでいう沸点は、有機溶媒が複数種類の混合物である場合は、その有機溶媒混合物の成分のうち最も高い沸点を有するものの沸点である。これが90℃に満たないと、得られる熱可塑性樹脂組成物における無機微粒子の分散性が低下する場合がある。この理由として、シリカや層状珪酸塩などの無機微粒子の表面に水素結合等により吸着されている水などの低分子を溶液混合の過程で除去する効果が不十分となること、溶媒分子の熱運動による無機微粒子の分散効果が低下することなどが推測されるので、該沸点は好ましくは110℃以上、更に好ましくは130℃以上、最も好ましくは150℃以上である。一方、その上限値は使用する熱可塑性樹脂や有機溶媒自身の熱分解などの熱による好ましくない副反応が問題とならず、かつ蒸留除去(沸点未満の条件における揮発除去も含む。必要に応じ減圧してもよい)できる限りにおいて制限はないが後述する押出機型装置における蒸留除去性から、50mmHgの減圧度における沸点として、通常300℃、好ましくは250℃、更に好ましくは220℃である。
【0032】
前記有機溶媒の第三要件である分子構造中に酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる少なくとも一つの原子を有し、1級アミノ基又は2級アミノ基を有さない有機化合物を含有する点について説明する。分子構造中に酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる少なくとも一つの原子を有る有機化合物は、好ましくは酸素原子又は窒素原子(以下、合わせてヘテロ原子と記載する場合がある)を有する有機化合物で、該ヘテロ原子が孤立電子対を正帯電中心に供与する性質(例えば水素結合性や遷移金属原子への配位結合性など)に起因する強い溶媒和能力を有するので、無機微粒子を有機溶媒中で分散安定化する能力が高い。しかし、1級アミノ基(−NH2)又は2級アミノ基(−NHR、但しRは任意のアルキル基又はアリール基である)として窒素原子が分子構造中に含まれている場合、この2つの官能基は求核反応性が強いので熱可塑性樹脂と望ましくない副反応を起こし該樹脂を劣化させる場合がある。例えば、熱可塑性樹脂としてPC樹脂やポリエステル樹脂を用いる場合、高分子主鎖中のカルボニル基への求核反応による低分子量化や分解が顕著となる場合がある。従って、前記ヘテロ原子は、1級アミノ基又は2級アミノ基ではない化学構造で分子構造中に含まれる必要がある。又、前記ヘテロ原子は、1級アミノ基及び2級アミノ基を同時に有さない化学構造で分子構造中に含まれる必要がある。こうした化学構造例として、エーテル結合や3級アミノ基などの炭素原子との単結合のみを有する化学構造、ケトン基、アルデヒド基、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合などのカルボニル基を有する化学構造、ヘテロ原子を含有する芳香環(ピリジン環やピロール環など)などが挙げられる。
【0033】
前記3条件を満たす必須溶媒の具体例として、以下のものが挙げられる。これらは複数種類を併用してもよい。カッコ内に、溶解度パラメーター(δ)[単位は(MPa)1/2
]及び大気圧における沸点をこの順に示した 。
1)ケトン類、アルデヒド類・・・4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(1
8.8、166℃、別称はジアセトンアルコール)、メチルシクロヘキサノン(19.0
、3−及び4−異性体は169−171℃、2-異性体は162−163℃)、ベンズア
ルデヒド(19.2、178−179℃)、シクロヘキサノン(20.3、156℃)、シクロペンタノン(21.3、130−131℃)、アセトフェノン(21.7、202℃)など。
【0034】
2)エステル類・・・ジブチルセバケート(18.8、3mmHgにおいて178−179℃)、ジブチルフタレート(19.0、340℃)、ブチルラクテート(19.2、185−187℃)、ジプロピルフタレート(19 .8、318℃)、マレイン酸ジエチル(20.3、225℃)、ジエチルフタレート(20.5、222℃)、エチレングリコールジアセテート(20.5、186−187℃)、エチルラクテート(20.5、154℃)、ε−カプロラクトン(20.7、10mmHgにおいて96−97.5℃)、安息香酸メチル(21.5、198℃)、サリチル酸メチル(21.7、222℃)、ジメチルフタレート(21.9、282℃)、マロン酸ジメチル(22.5、180−181℃)、エチルシアノアセテート(22.5、208−210℃)など。
【0035】
3)エーテル類・・・トリプロピレングリコール(18.8、273℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(19.0、12mmHgにおいて90−91℃)、ジベンジルエーテル(19.2、295〜298℃)、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(19.4 、231℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(19.4、743mmHgにおいて171℃)、ジクロロエチルエーテル(20.1)、テトラエチレングリコール(20.3、314℃)、1,4−ジオキサン(20.5、100−102℃)、ジプロピレングリコール(20.5)、ジフェニルエーテル(20.7、259℃)、プロピレングリコールジメチルエーテル(20.7、96℃ )、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(20.7、202℃)、1,3−ジオキサン(20.7、105−106℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(21.5、135℃)、トリエチレングリコール(21.9、285℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテル(22.3、265℃)、エピクロロヒドリン(22.5、115−117℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(23.3、124-125℃)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(23.5、247℃)など。
【0036】
4)ヘテロ原子を含有する芳香環を有する化合物・・・ピリジン(21.9、115℃)、キノリン(22.1、17mmHgにおいて113−114℃)など。
5)アミド類・・・N,N−ジエチルアセトアミド(20.3、182−186℃)、N,N−ジエチルホルムアミド(21.7、176−177℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(22.1、164.5−166℃)、N−アセチルピペリジン(22.9)、N−メチル−2−ピロリドン(23.1、10mmHgにおいて81−82℃)、N−アセチルピロリドン(23.3)、N−ホルミルピペリジン(23.5、222℃)、N−アセチルモルホリン(23.7)、N,N−ジメチルホルムアミド(24.8、153℃)など。
【0037】
6)ニトリル類・・・カプロニトリル(19.2、198−200℃)、バレロニトリル(19.6、139−141℃)、イソブチロニトリル(20.1、107−108℃)、プロピオニトリル(22.1、97℃)など。
7)エーテル結合を含有しないヒドロキシ化合物・・・ノニルフェノール(19.2)
、2−エチル−1−ヘキサノール(19.4、183−186℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(19.8、197℃、別称:ヘキシレングリコール)、1−ドデカノール(20.1、260−262℃)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(20.3)、3−メチル−1−ブタノール(20.5、1 30℃、別称:イソアミルアルコール)、2,2−ジメチル−1,3−ブタンジオール(20.5)、m−クレゾール(20.7、203℃)、2,5−ヘキサンジオール(21.1、216−218℃)、n−オクチルアルコール(21.1、196℃)、2−メチル−1−プロパノール(21.5、108℃、別称:イソブチルアルコール)、2−エチル−1−ブタノール(21.5、146℃)、n−ヘキシルアルコール(21.7、156.5℃)、2,4−ペンタンジオール(22.1、201−202℃)、n−ペンタノール(22.3、136−138℃、別称:アミルアルコール)、ネオペンチルグリコール(22.5)、2,3−ブタンジール(22.7、183−184℃)、2,2−ジメチル−1,2−ブタンジオール(22.9)、n−ブタノール(23.3、118℃)、シクロヘキサノール(23.3、160−161℃)、1,5−ペンタンジオール(23.5、242℃)、1,3−ブタンジオール(23.7、203−204℃)、ベンジルアルコール(24.8、205℃)、1,4−ブタンジオール(24.8、230℃)、ジエチレングリコール(24.8、245℃)など。
【0038】
8)その他・・・トリフェニルホスファイト(19.0、360℃)、N,N−ジメチルアニリン(19.8、193−194℃)、2−ニトロプロパン(20.3、120℃)、ニトロベンゼン(20.5、210−211℃ )、1−ニトロプロパン(21.1、131−132℃)、ヘキサメチルホスホラミド(21.5、740mmHgにおいて230−232℃)、ニトロエタン(22.7、114−115℃)、ジプロピルスルホン(23.1)、ジメチルスルホキシド(24.6、189℃)など。
【0039】
前記必須溶媒のうち好ましいものは、前記溶解度パラメーターの好ましい範囲に該当するものであるが、中でも、化学的安定性や熱可塑性樹脂への相溶性、蒸留除去の容易さから特に好ましいのは、シクロヘキサノンやアセトフェノン等のケトン類、安息香酸メチルやサリチル酸メチル等の芳香族カルボン酸のエステル類、ピリジン等のヘテロ原子を有する芳香環を有する化合物、ジメチルスルホキシドなどである。
【0040】
尚、前記必須溶媒に併用して混合すると好適な有機溶媒として、塩素系有機溶媒が例示できる。これは、PC樹脂やポリエステル樹脂などの良溶媒であるので、熱可塑性樹脂の溶解度を向上させるのに有効であるためである。かかる塩素系有機溶媒は、蒸留除去可能である限りにおいてその溶解度パラメーターや沸点に制限はなく、具体例としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、sym−テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタンなどの塩素化脂肪族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン(オルト、メタ、パラの各異性体)、トリクロロベンゼン、クロロナフタレンなどの塩素化芳香族炭化水素類などが挙げられる。これらのうちジクロロメタンは、PC樹脂溶解性が優れること、比較的毒性が小さいこと、並びに蒸留除去が容易な点で、PC樹脂組成物を製造する場合に併用すると好ましい結果を与える場合がある。
【0041】
<製造>
本発明の有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、無機微粒子(B)及び有機溶媒(C)の3者を必須成分として含有する混合物である。前記(A)と(B)の重量混合比については、得られる熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性(つまり溶融状態での流動性)が極端に損なわれない限りにおいて制限はないが、通常前記(A)及び(B)の重量の和に対する前記(B)の重量の割合(以下「無機含有量」と記す)は1〜95重量%である。この無機含有量が前記下限値に満たない場合でも本発明の製造方法を適用できるが、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度は無機微粒子を添加しない場合とほぼ同等なので、例えば従来技術である重合添加法によっても製造可能であり本発明の効果が十分に表れない。一方、前記無機含有量が前記上限値を超えると得られる熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性は極度に低下しほとんど溶融流動しなくなるので製造に支障を来たす恐れがある。従って、前記無機含有量は好ましくは5〜80重量%、更に好ましくは10〜70重量%である。
【0042】
有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を調製するに当たり、前記(A)及び(B)の重量の和(以下「全固形分重量」と記す)と有機溶媒の重量の和に対する全固形分重量の割合(以下「全固形分濃度」と記す)は、有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物が流動性を有する限りにおいて制限はないが、有機溶媒を蒸留等の手段により除去する前の状態において通常0.1〜70重量%であり、生産性及び環境負荷低減(つまり最小限の有機溶媒を使用すること)の点で、その下限値は好ましくは1重量%、更に好ましくは5重量%であり、成分の混合の均質性や流動性の点でその上限値は、好ましくは60重量%、更に好ましくは50重量%である。
【0043】
本発明の有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を調製するための原料の混合方法・混合順序に制限はないが、通常、混合容器にまず有機溶媒(C)を入れ、ここに熱可塑性樹脂(A)及び無機微粒子(B)を任意の順序又は同時に加え、前記(A)を溶解する。このとき攪拌を加えることが溶解速度を高めたり均質な溶解や分散を達成する点で好ましい。前記(A)の溶解の完了は、(A)の固形分が消失することで確認する。前記(A)は予め有機溶媒に溶解しておきこれを混合容器に入れてもよい。混合温度は、前記(A)の溶解及び前記(B)の均質分散が達成可能な限り制限はないが、通常0℃以上有機溶媒の還流温度以下の範囲であり、その下限は前記(A)の溶解及び前記(B)の均質分散の点で好ましくは20℃、更に好ましくは40℃である。混合時間は、前記(A)の溶解及び前記(B)の均質分散が達成可能な限り制限はないが、(A)及び/又は(B)を(C)に投入開始時点からの時間として通常1分〜48時間であり、(A)の溶解及び(B)の均質分散を十分なものとするためにその下限は好ましくは5分、更に好ましくは10分であり、生産性の点でその上限は好ましくは24時間、更に好ましくは12時間である。前記攪拌は、イカリ翼、ヘリカル翼、ダブルヘリカル翼などの攪拌翼、フルフライトスクリュや2軸スクリュなどのスクリュ類、シグマ型やローラー型などのブレード類、マグネチックスターラー、ビーズミルやジェットミルなどの各種ミル類、ロール、ニーダーなど、任意の攪拌機構を使用可能である。前記混合容器は、バッチ式のフラスコや釜、流通式のパイプリアクター、短軸又は2軸押出機などの押出機、ブラベンダーやラボプラストミルなどのミキサー類など、任意の容器を使用してよい。
【0044】
無機微粒子(B)の均質分散性の点で、前記(B)は予めゾル液としておくことが好ましい。ここでいうゾル液とは、無機微粒子が溶媒中に均質に分散したものであって、23℃において少なくとも24時間静置しても重力により沈殿を生じない状態をいう。好ましいゾル液の性質は、市販のヘーズ計(濁度計)のC光での測定、例えば、スガ試験機製ヘーズコンピューター(形式HZ−2)のダブルビーム法C光での測定で光路長1mmの石英セル中における全光線透過率が60%以上、更に好ましくは70%以上である。かかるゾル液は、前記(A)を溶解していない前記(C)に加えても、前記(A)を溶解した前記(C)(つまり溶液)に加えてもよく、いずれの場合も、滴下・分注・一括のいずれの加え方でもよい。ゾル液の溶媒は有機溶媒、水、含水有機溶媒のいずれでもよく、前記必須溶媒を用いると必須溶媒の総使用量を節約できたり熱可塑性樹脂及び/又は無機微粒子の混合溶液中での溶解性や分散性が改善されるなどの点で好適な場合がある。ゾル溶媒は前記(A)を溶解する有機溶媒と同じでも異なっていてもよいが、両者溶媒は均一混合可能であることが望ましい。ゾル溶媒は必ずしも熱可塑性樹脂の良溶媒である必要はないが、前記必須溶媒を用いることが混合後の熱可塑性樹脂の溶解性を保つ点で好ましい。ゾル液を加えることで前記(A)が析出する場合には、ゾル溶媒は添加しながら連続的に蒸留除去するようにすると好ましい場合があるが、たとえかような析出を起こしてもゾル溶媒が蒸留除去されるにつれて前記(A)は再溶解可能な場合もある。ゾル液を添加しながらゾル溶媒を連続的に除去する場合、通常、混合容器(装置)内部の液温の上限はゾル溶媒の沸点よりも50℃高い温度(この上限は好ましくは30℃高い温度)とする。これよりも高温であると、ゾル液が急激に濃縮されるので無機微粒子が均質分散せずに凝集する場合があったり、突沸が起きる場合がある。
【0045】
本発明において、有機溶媒を除去して樹脂組成物を取得する方法としては、蒸留又は蒸発、貧溶媒への投入による沈殿(必要に応じ遠心分離や静置工程を入れる)が挙げられる
が、好ましくは蒸留である。蒸留の際、必要に応じて減圧してもよい。減圧蒸留により不要な加熱を避けることができ、これにより成分の熱劣化や副反応を防止又は抑制できる場合がある。蒸留の際の加熱温度は、大気圧の場合、通常は有機溶媒の沸点よりも5〜50℃高い温度に設定する。貧溶媒への投入による沈殿を行う場合、該貧溶媒としてはn−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、トルエン等の疎水性炭化水素類が好適であり、熱可塑性樹脂の種類によってはアセトンやメチルエチルケトンなどの低級ケトン類やジエチルエーテルなどの中程度の親水性を有する有機溶媒を単独使用若しくは併用してもよい。又、水、メタノールやエタノール等の低級アルコール類のような水素結合性を有する親水性溶媒を用いると無機微粒子が溶出してその添加量が減少する場合がある。PC樹脂組成物の製造の場合、好ましい貧溶媒は、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類に、必要に応じてアセトンやメチルエチルケトンなどの低級ケトン類を混合したものである。
【0046】
又、フラスコや釜のようなバッチ式製造容器において蒸留する場合、その中で完全に有機溶媒を蒸留除去すると、熱可塑性樹脂組成物が固化または非常に高粘度となり有効な攪拌や表面更新ができなくなるばかりか、製造容器からの取り出しが困難となる場合があるので、かかる場合は適当な濃縮度で該製造容器から液状で抜き出し、別途押出機や乾燥機などを使用して蒸留を完結させてもよい。通常、有機溶媒を完全に蒸留除去する段階は、得られる熱可塑性樹脂組成物はかなり高粘度となるので、この段階はベント口を有する押出機やミキサ類など溶融状態で混練して十分に流動させて表面更新できる装置で減圧することが望ましく、この目的で最適な装置は2軸押出機に代表されるベント口を有する多軸スクリュー型押出機である。この場合、ベント口から有機溶媒を減圧蒸留することが好ましい。この減圧度は、通常300mmHg以下、好ましくは100mmHg以下、更に好ましくは50mmHg以下である。有機溶媒の減圧蒸留除去の最終段階(特に前記必須溶媒の除去の段階)に2軸押出機などの多軸押出機のスクリュー混練により強い剪断を加えると、無機微粒子の分散状態が非常によくなる場合がある。この理由は定かでないが、無機微粒子表面に最後まで溶媒和して凝集を防いでいた高沸点の前記必須溶媒分子が強い剪断の助けを借りて最終的に除去されるとともに、熱可塑性樹脂マトリックスに分散される機構が考えられる。
【0047】
有機溶媒を蒸留又は蒸発により除去する製法の他の例示として、薄膜蒸発法、温水造粒法、スプレードライ法などが挙げられる。
薄膜蒸発法は、有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を蒸発面に流延して薄膜とし、残留する固形分を回収する方法である。例えば、加熱制御された円筒の内壁に有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を伝わらせるように注入しこれを重力などで流延して薄膜となし、有機溶媒を蒸留又は蒸発により除去し(この時必要に応じて減圧してもよい)、生成する固形分残渣を回転翼などで掻きとって回収する装置(例えば櫻製作所製のエバオレーターやハイエバオレーター:いずれも登録商標。)、円筒形で加熱制御された金属ドラム表面にディップフィード、サイドフィード、トップロールフィードなどの形式で有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を流延して薄膜となし、有機溶媒を蒸留又は蒸発により除去し、生成する固形分残渣を回収する装置(例えばカツラギ工業製のドラムフレーカーや減圧チャンバーを設けた真空式ダブルドラムドライヤー:いずれも登録商標。)、金属製のシームレスベルトのベルトコンベアーを加熱制御し、この上に有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を流延して薄膜となし、有機溶媒を蒸留又は蒸発により除去し、生成する固形分残渣を回収する装置、などが挙げられる。かかる薄膜蒸発法において必要に応じて用いる減圧の程度は、前記ベント口を有する多軸スクリュー型押出機の場合と同様に制御するのが好ましい。いずれの形式の薄膜蒸発法の装置においても、有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物のフィード速度と有機溶媒の蒸発速度(これは有機溶媒の沸点、装置の内温、薄膜の厚さなどにより変動する。)をバランスさせることが安定運転には肝要である。具体的には、例えば、前者速度が大きすぎると固化が不十分な残渣が蒸発表面に堆積して回収に支障を来たす場合があり、逆に前者速度が小さすぎると生産性が悪化するだけでなく装置内で過熱された滞留時間が長くなって製品の熱劣化を来たす場合がある。
温水造粒法は、後述するPC樹脂系におけるジクロロメタン併用法のように、水よりも沸点の低い有機溶媒を使用する場合に適した方法である。即ち、加熱制御された水中に有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を注入し、有機溶媒を蒸留又は蒸発により除去すると同時に残渣の固形分を生成させ、これを回収する。加熱制御された水は通常攪拌し、その容量は有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物に対して通常大過剰量使用し、連続式に流通してもよい。かかる水の流通とともに、生成する固形分を一定の平均滞留時間を設定して回収するシステムが好ましい。かかる温水造粒法における水温は、有機溶媒を蒸留又は蒸発により除去可能である限りにおいて制限はないが、例えばジクロロメタンを有機溶媒として含有する場合通常30〜100℃であり、蒸留又は蒸発の速度の制御性の点でその上限は好ましくは90℃、更に好ましくは80℃であり、一方蒸留又は蒸発の速度に依存する生産性の点でその下限は好ましくは40℃、更に好ましくは50℃である。気化した有機溶媒蒸気を効率的に除去するために、装置内部にキャリヤガス(例えば空気や窒素ガス)を流通させてもよい。温水造粒法の付随的な利点として、水溶性不純物を同時に溶解除去できることが挙げられる。この利点を積極的に利用する考えとして、有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物にある程度以上の水溶性を有する親水性有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、ジオキソラン類、ジオキサン類等の環状エーテル類、ジエチルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールやトリエチレングリコール及びそれらの末端エーテル化又は末端エステル化物等のグリコール類、酢酸エチル等のエステル類、蟻酸や酢酸などの脂肪酸、ピリジン等の含窒素芳香族、N,N−ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドン等のアミド系溶剤、ジメチルスルホキシドなど)を含有させこれを大過剰量の温水に溶解させて除去する方法がある。かかる温水造粒法における水溶化による有機溶媒や不純物の除去には、高温での蒸留又は蒸発による除去の欠点である熱劣化を防ぐ利点がある。温水造粒法で得る固形分粒子の数平均粒径は、有機溶媒の除去性とろ過や沈殿による捕集性の点で通常0.001〜10mm、好ましくは0.01〜7mm、更に好ましくは0.1〜5mmである。
【0048】
スプレードライ法は、有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を高温の気流を通じたチャンバ
ー内に噴霧し、固形分を捕集する方法である。該気流としては、空気、窒素ガス、アルゴンガスなどが例示できる。噴霧して生成する固形分の数平均粒径は通常0.1〜5000μmであり、有機溶媒の除去効率の点でその上限は好ましくは3000μm、更に好ましくは1000μmであり、一方捕集や粉体のハンドリング容易性からその下限は好ましくは1μm、更に好ましくは10μmである。
【0049】
これら薄膜蒸発法、温水造粒法、スプレードライ法などを前工程と考え、後工程として前記ベント口を有する押出機やミキサ類による溶融及びストランド化(必要であればペレット化)を付加することも可能である。かかる後工程(押出工程)で残留有機溶媒の量を必要レベルまで低減することも可能なので、該押出機やミキサ類へのフィードに支障がない限りにおいて前工程での有機溶媒の残留率に制限はないが、通常70重量%以下、フィードの円滑性やべとつきを抑制するハンドリング性において好ましくは50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下である。
【0050】
尚、沸点が90℃に満たない有機溶媒を併用する場合(以下「併用法」と略記する場合がある。)、例えば前記ジクロロメタンのように、沸点が90℃に満たないがある種の熱可塑性樹脂を非常によく溶かす有機溶媒を前記必須溶媒と併用すると、蒸留除去工程が格段に容易になるなどの好ましい効果がしばしば得られる。ジクロロメタン(以下DCMと略記する場合がある。)をPC樹脂組成物の製造に用いる好適な場合を例に、併用法を詳しく説明する。
【0051】
PC樹脂系におけるDCM併用法の利点は、PC樹脂溶液を調製する段階で、蒸留除去しにくい必須溶媒の使用量を最小限に抑制可能な点にある。無機微粒子も含んだ溶液からまずDCMが蒸留除去される。使用している必須溶媒とゾル溶媒の種類によってはDCMの除去に従いPC樹脂の溶解性は悪化する場合もあるが、必須溶媒とゾル溶媒の種類の選択によりPC樹脂の析出に至らずにDCMを除去可能であり、仮に多少のPC樹脂の析出があったとしてもDCMの除去後に溶液温度は少なくとも必須溶媒の沸点まで上昇させることができるので再溶解可能である。PC樹脂系におけるDCM併用法に用いる必須溶媒として、PC樹脂溶解性の点で好適なものは、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、1,4−ジオキサン、ピリジンであり、ここにテトラヒドロフランや1,3−ジオキソランなどの低沸点環状エーテル類や酢酸エチルなどの低沸点エステル類を補助的に併用してもよい。必須溶媒の除去段階は通常かなり高粘度となるので、ベント付き押出機など混練(蒸発表面の更新)が効きかつ必須溶媒を減圧下で蒸留除去可能な装置に投入して揮発成分除去を仕上げるのが好ましい。また、前記温水造粒法を少なくともDCMを除去する目的の前
工程として用いても良い。こうして、最小限の必須溶媒の使用で目的を達成することができる。
【0052】
併用法の具体的手順を、併用溶媒としてDCMを用いる場合を例に説明する。まず、PC樹脂のDCM溶液(以下PC−DCM溶液と略記する場合がある。)を調製する。このPC−DCM溶液におけるPC樹脂の濃度は通常1〜50重量%であり、生産性の点でその下限は好ましくは5重量%、更に好ましくは8重量%であり、一方、蒸留工程での溶液粘度を適正にする目的と無機微粒子の溶液中での分散を容易にする目的でその上限は好ましくは40重量%、更に好ましくは30重量%である。既存のホスゲン法によるPC樹脂工場で製造されるPC−DCM溶液の流用も可能である。このPC−DCM溶液に、前記必須溶媒と無機微粒子(好ましくはゾル液として)を加えて混合する。この場合、DCMと必須溶媒の和に対する必須溶媒の割合は通常1〜90重量%、蒸留又は蒸発による濃縮工程(前記温水造粒法での造粒工程も含む)の後期まで熱可塑性樹脂及び無機微粒子の混合状態を良好に保つ(すなわち、熱可塑性樹脂の結晶化などによる析出や無機微粒子の凝集を防ぐ)ためにその下限は好ましくは5重量%、更に好ましくは10重量%であり、一方、PC樹脂の溶解性をできるだけ高めてPC樹脂の析出を防止しかつ生産性を上げるためにその上限は好ましくは80重量%、更に好ましくは70重量%である。無機微粒子のゾル液はPC−DCM溶液と必須溶媒の混合物に加えるのが通常だが、該ゾル液をPC−DCM溶液に予め加えておき次いで必須溶媒と混合する方法、該ゾル液を必須溶媒に予め加えておき次いでPC−DCM溶液と混合する方法のいずれでもよい。
【0053】
PC樹脂系におけるDCM併用法において、ゾル液の使用量は、それを混合する過程で無機微粒子又はPC樹脂の著しい析出を来たさない限り制限はないが、ゾル溶媒がPC樹脂の貧溶媒である場合(例えばエタノールやイソプロピルアルコール等の低級アルコール類などの場合)にはゾル液を加えながらゾル溶媒を連続的に蒸留除去する前記方法を適用することが好ましい。ゾル溶媒がPC樹脂の貧溶媒である場合、ゾル液に分散している無機微粒子はDCMを多量に含む溶液中に添加されると凝集する場合もありえる。かかる場合にはDCMの有機溶媒に占める割合を減らすことで対処可能であり、更に、溶解度パラメーターが比較的大(すなわち20(MPa)1/2以上)の必須溶媒の使用が好ましい。
【0054】
かくして得られる本発明の熱可塑性樹脂組成物は、その機械的強度、光学的透明性、低発泡性や低着色性などの熱安定性などを極端に損なわない限りにおいて、前記必須溶媒又はその反応物(例えば必須溶媒分子どうしの反応物や熱可塑性樹脂との反応物)が残留物質として熱可塑性樹脂組成物中に含有されていてもよい。その残留許容量は、通常10重量%以下、好ましくは7重量%以下、更に好ましくは5重量%以下である。かかる残留物質の定量は、与えられた熱可塑性樹脂組成物の溶媒抽出と各種クロマトグラフィ分析(GC−MSやLC−MSなど)と、NMRやIR等の機器分析、元素分析などを併用して可能である。
【0055】
[強化乾燥工程]
前記残留物質の濃度を極力減少させることが好ましい場合、通常の乾燥温度(例えばP
C樹脂では120℃)を超えた高温での強化乾燥工程を付加してもよい。一般に、熱可塑性樹脂材料の軟化温度を高めるには、結晶化させることが好適である。これは、結晶部の融点はガラス転移点(非晶部の軟化点)よりも高温であるためである。従って、例えばペレット、顆粒状、粉体などの粒子形状の熱可塑性樹脂組成物を、好ましくはガラス転移点を超えた高温での強化乾燥工程にかける場合、互いに融着して取り扱い性が悪化することを避けるには該樹脂組成物の樹脂成分を結晶化させておくことが好ましい。
前記強化乾燥工程の上限温度は、材料を著しく熱劣化させない限りにおいて制限はないが、通常350℃、好ましくは300℃、更に好ましくは280℃である。かかる強化乾燥工程の圧に制限はなく、大気圧、減圧、加圧いずれもが可能であるが、好ましくは大気圧又は減圧である。乾燥雰囲気は、空気、窒素ガス、アルゴンガスなど任意に選べ、揮発成分の効率的な除去などのために気流の送風を伴ってもよい。
例えばPC樹脂組成物の場合、前記貧溶媒への投入による沈殿や前記温水造粒法により、PC樹脂マトリクスの少なくとも一部を結晶化させることが可能であるので、かかる強化乾燥工程の付加に好ましい場合がある。かかるPC樹脂の結晶化は、公知のアセトンなど有機溶媒蒸気への非晶材料の暴露によっても可能である。かかるPC樹脂の結晶化により、150℃以上、好ましくは180℃以上、更に好ましくは200℃以上の高温における強化乾燥工程が可能となる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[略号一覧]
実施例及び比較例の記述において以下の略号を使用した。尚、有機溶媒については、その溶解度パラメータ(δ)と大気圧における沸点を括弧内に順に示した。
PC:芳香族ポリカーボネート
PAR:ポリアリレート
CHN:シクロヘキサノン(20.3、156℃)
CPN:シクロペンタノン(21.3、130−131)
ECL:ε−カプロラクトン(20.7、10mmHgにおいて96−97.5)
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド(24.8、153℃)
MeOBz:安息香酸メチル(21.5、198℃)
DMSO:ジメチルスルホキシド(24.6、189℃)
DCM:ジクロロメタン(19.8、40℃)
THF:テトラヒドロフラン(18.6、66℃)
sym−TCE:sym−テトラクロロエタン(19.8、130℃)
(つまり1,1,2,2−テトラクロロエタン)
[評価]
透明性・・・実施例及び比較例の熱可塑性樹脂組成物を、真空乾燥後、1mm厚みに270℃で熱プレス成形して透明性を目視観察した。透明又は半透明であって肉眼で判別できる透明感のむらが観察されない場合は○、肉眼で判別できる透明感のむらが観察される場合は×を、表1にまとめて記載した。表1には、熱可塑性樹脂組成物を調製する際の、熱可塑性樹脂組成物中の仕込み無機物量(重量%)も示した。表1において有機溶媒の欄のカッコ内の数字は混合溶媒の場合のモル比を表している。また、表1においては、できあがった有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物(即ち、熱可塑性樹脂、無機微粒子及び有機溶媒の混合物)を構成する有機溶媒(混合溶媒の場合もある)の溶解度パラメータ(艨jも示した。この艪フ考え方は、実施例1〜9及び比較例1〜6においてゾル溶媒は熱可塑性樹脂の貧溶媒なので、これのみをまず蒸留除去した状態の有機溶媒の値(混合溶媒の場合もある)を採用、実施例10から14及び比較例7においてはゾル溶媒を含んだ状態を有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物と考えるので、その状態の有機溶媒の値(混合溶媒の場合もある)を採用した。表1における沸点は、混合溶媒の場合はその構成溶媒のうち最高沸点のものの値を示している。
【0057】
[合成例]
合成例1:有機アンモニウム変性層状珪酸塩(変性SWN)の調製
コープケミカル製ルーセンタイト(層状珪酸塩の一種)のSWNを大量の水に懸濁攪拌しながら、SWNの陽イオン交換容量の1.5倍モルのトリメチルベンジルアンモニウムクロリドの水溶液を滴下して室温で6時間攪拌して、層間のナトリウム陽イオンを該アンモニウム陽イオンでイオン交換した。反応液を濾過し、濾過残渣の固体を大量の脱塩水で繰返し洗浄して乾燥した。
【0058】
合成例2:変性酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子ゾル液の調製
酢酸亜鉛2水和物(4.4g、20ミリモル)をエタノール(200mL)中で数時間還流し、0℃に冷却した。一方、水酸化リチウム1水和物(1.2g、28ミリモル)をエタノール(200mL)に溶かし、0℃に冷却し、前記酢酸亜鉛溶液(一部析出物がある)に混合した。アイスバスを外して室温で反応させたところ、目視で無色透明の反応液は330nm以下の波長に吸収帯を示したので、ZnOナノ粒子が生成したことがわかった。これを一晩室温で静置した後、テトラエトキシシラン(8.0mL、36ミリモル)と純水(1.0mL、58ミリモル)を加えて室温で攪拌して、エタノール性の変性ZnOナノ粒子ゾル液を得た。
合成例3:有機変性ベーマイトナノ粒子のTHFゾル液の調製
SASOL社製ベーマイト(代表組成式はALOOH)ナノ粒子粉体であるDISPERAL
OS1(25g。p−トルエンスルホン酸処理品、平均1次粒径は約10nm、空気中600℃灰化灰分は73%。DISPERALは登録商標。)を、THF(650g)に超音波を照射しながら時々攪拌して分散して、重力による沈殿性がほとんどないTHFゾル液(DISPERAL OS1は3.7重量%)を調製した。
合成例4:有機変性ベーマイトナノ粒子のCHN−DCMゾル液の調製
合成例3において、THF(650g)の代わりにCHN(550g)とDCM(100g)の混合溶媒を用いて同様の操作を行って、重力による沈殿性がほとんどなく非常に均質なCHN−DCMゾル液(DISPERAL OS1は3.7重量%)を調製した。
【0059】
[実施例及び比較例]
実施例1:シクロヘキサノンを有機溶媒として使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
60℃のシクロヘキサノン200gに、無機微粒子として日産化学工業製コロイダルシリカゾルであるMEK−ST(平均粒径約15nm、ゾル溶媒はメチルエチルケトン(以下、MEKと略記する場合がある)、濃度30重量%)60gを攪拌しながら加えた。次いで三菱エンジニアリングプラスチックスから市販のPC樹脂であるノバレックス7030A(ノバレックスは登録商標)42gを加えて150℃に昇温してMEKを蒸留除去しながらPC樹脂を溶解して有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物とした。PC樹脂の溶解を確認したら減圧蒸留によりシクロヘキサノンを除去した。
【0060】
実施例2:シクロヘキサノンを有機溶媒として使用した層状珪酸塩/PC樹脂組成物の調製
実施例1において、無機微粒子として合成例1で得た変性SWNを使用し、樹脂組成物における無機微粒子量(理論灰分量)が10重量%となるように仕込み、同様の操作を行った。
【0061】
実施例3:シクロヘキサノンを有機溶媒として使用したZnO/PC樹脂組成物の調製
130℃のシクロヘキサノン100mLに、無機微粒子として合成例2で得た変性ZnOナノ粒子ゾル液(390mL)を攪拌しながら滴下して加えながらゾル溶媒であるエタノールを蒸留除去した。全量滴下完了後100℃程度に冷却してトルエン(15mL)を加えて、析出物(ゾル液に含有されている酢酸リチウムが主成分と考えられる)を遠心分離(3000rpmで5分間)した。この遠心分離の沈殿物をシクロヘキサノン(60mL)と振り混ぜ、再度同条件での遠心分離を行い洗浄し、全ての上澄み液を合わせた。上澄み液の総和を165℃で還流させながら攪拌し、実施例1で使用したPC樹脂12gを加えて溶解し、蒸留により溶媒を除去した。
【0062】
実施例4:ピリジンを有機溶媒として使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
実施例1において、シクロヘキサノンの代わりにピリジンを用い、PC樹脂の溶解後の昇温温度を110℃とした他は同様の操作を行った。
実施例5:シクロヘキサノンを有機溶媒として使用したシリカ/PAR樹脂組成物の調製
実施例1において、PC樹脂の代わりにユニチカ(株)製PAR樹脂であるUポリマーU100(Uポリマーは登録商標)を用いた他は同様の操作を行った。
【0063】
実施例6:DMFとジクロロメタンの混合有機溶媒を使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
実施例1において、シクロヘキサノンの代わりにDMF/ジクロロメタンの混合溶媒
(モル比は2/8)を用い、まず室温でPC樹脂を溶解させてからジクロロメタンを大気圧で蒸留除去し、次いで大気圧下DMFの還流条件まで昇温した後、DMFを減圧蒸留除去した他は同様の操作を行った。
【0064】
実施例7:シクロヘキサノンとジクロロメタンの混合有機溶媒を使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
実施例6において、DMFの代わりにシクロヘキサノンを用いシクロヘキサノン/ジクロロメタンの混合溶媒(モル比は1/9)とした他は同様の操作を行った。
実施例8:安息香酸メチルとジクロロメタンの混合有機溶媒を使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
実施例6において、DMFの代わりに安息香酸メチルを用い安息香酸メチル/ジクロロメタンの混合溶媒(モル比は1/9)とし、ジクロロメタンの除去後大気圧下150℃まで昇温した後、安息香酸メチルを減圧蒸留除去した他は同様の操作を行った。
【0065】
実施例9:DMSOとジクロロメタンの混合有機溶媒を使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
実施例8において、安息香酸メチルの代わりにDMSOを用いDMSO/ジクロロメタンのモル比は5/5とした他は同様の操作を行った。
実施例10:ε−カプロラクトン/ジクロロメタン/THFの混合有機溶媒を使用したベーマイト/PC樹脂組成物の調製
実施例1で用いたPC樹脂(48g)をジクロロメタンに10重量%濃度で溶解し、ここにε−カプロラクトン(3g)及び合成例3で得た有機変性ベーマイトナノ粒子のTHFゾル液(324g。DISPERAL OS1の粉体として12g相当。)を混合して有機溶媒含
有熱可塑性樹脂組成物とした。これをロータリーエバポレータにより減圧濃縮し、次いで120℃で一晩真空乾燥して樹脂組成物を得た。こうして得た樹脂組成物は、東洋精機製作所製のラボプラストミル10C100(内容積60mLのセグメントミキサ搭載)を用い、40rpmの回転数で、250℃で10分間、真空でベント引きしながら溶融混練を行った。こうして得た樹脂組成物は透明感に優れ、ベーマイト量の計算値は17重量%である。
実施例11:薄膜蒸発法によるベーマイト/PC/PCC樹脂組成物の調製
実施例1で用いたPC樹脂(6g)と、シクロヘキサンジカルボン酸とシクロヘキサンジメタノールの重縮合体である脂環式ポリエステル(PCC)としてフェノールとテトラクロロエタンとの重量比1:1の混合溶媒中濃度1g/dLとした溶液の30℃での固有粘度が1.0dL/gであるもの(6g)を、ジクロロメタン中の合計樹脂濃度が10重量%となるように溶解し、ここに合成例4で得た有機変性ベーマイトナノ粒子のCHN−DCMゾル液(81g。DISPERAL OS1の粉体として3g相当。)を混合して有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物とし、その一部を1000mLのナスフラスコに入れ、大気圧下、ロータリーエバポレータに接続して勢いよく回転させて該ナスフラスコ内壁に遠心力で液膜状としながら、真空引きを開始すると同時に110℃のオイルバスに該ナスフラスコをつけて急速な蒸発を行った。その結果、薄膜状の樹脂組成物が該ナスフラスコ内壁に付着した状態で残った。これを120℃で一晩真空乾燥した後、剥がして取り出した。こうして得た樹脂組成物中のベーマイト量の計算値は17重量%である。また、本実施例の操作は、市販の薄膜蒸発装置(例えば前記櫻製作所製のハイエバオレータなど)と基本的に同様の機構による薄膜蒸発法に該当するものである。
実施例12:温水造粒法によるベーマイト/PC樹脂組成物の調製と220℃強化乾燥工程の適用
実施例10の原料仕込みにおいて、ε−カプロラクトンの代わりに同重量(3g)のシクロヘキサノンを用い、有機変性ベーマイトナノ粒子のTHFゾル液の使用量は162g(DISPERAL OS1の粉体として6g相当。)として有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物
を得た。これを、70℃のオイルバスで保温し窒素ガスを流通させたセパラブルフラスコ(内容積2L)の約7割を満たした温水中に攪拌しながら少しずつ注入し、有機溶媒の気化による除去を行いながら白色固形物を生成させた。この白色固形物は、強化乾燥工程として、PC樹脂のガラス転移点(約150℃)を超える220℃における真空乾燥を一晩行っても融着しなかった。かかる220℃の強化乾燥工程を経た白色固形物約2gを、井本製作所製の微量混練機(真空ベント引き機構を持たない)を用いて250℃で10分間溶融混練したところ、揮発成分による発泡はほとんど観察されず、透明感に優れた樹脂組成物が得られた。このことから、温水造粒法で得られるベーマイト/PC樹脂組成物はPC樹脂のガラス転移点を超える220℃における真空乾燥によっても融着はなく、かかる強化乾燥工程を経ることによりシクロヘキサノンの残留量を実質的に無視できる程度まで減少させることが可能であることがわかる。こうして得た樹脂組成物中のベーマイト量の計算値は8.5重量%である。
実施例13:スプレードライ法によるベーマイト/PC樹脂組成物の調製
実施例12の原料しこみにおいて、シクロヘキサノンの代わりに同重量(3g)のシクロペンタノンを用いた他は同一として有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を得た。これを、150℃に保温したパイプ状のガラス管中に向かって窒素気流とともに霧吹きを用いて噴霧したところ、微粉状固形物が該ガラス管中で生成した。この微粉状固形物を捕集し、120℃で一晩真空乾燥後、実施例12に記載の微量混練機を用いて250℃で10分間溶融混練して透明感に優れた樹脂組成物を得た。こうして得た樹脂組成物中のベーマイト量の計算値は8.5重量%である。
実施例14:貧溶媒中での沈殿法によるベーマイト/PC樹脂組成物の調製
実施例1で用いたPC樹脂(48g)をジクロロメタンに10重量%濃度で溶解し、ここに合成例4で得た有機変性ベーマイトナノ粒子のCHN−DCMゾル液(324g。DISPERAL OS1の粉体として12g相当。)を混合して有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物とした。次いでロータリーエバポレータによる減圧蒸留によりジクロロメタンの大半を除去した後、直ちに、約3倍容量のn−ヘキサン/アセトン(3:1体積比で混合した混合溶媒)中に攪拌しながら少しずつ注入して、白色沈殿物を生成させた。この白色沈殿物を500mLのアセトン中に浸漬して緩やかに攪拌しながら、50℃で1時間保温して、残存するシクロヘキサノンをできるだけ抽出除去した。白色沈殿物をデカンテーションと濾別により単離し、120℃で一晩真空乾燥した。この白色沈殿物の一部に、実施例12同様の220℃における強化乾燥工程を施しても、融着はなかった。真空乾燥済みの白色沈殿物は、実施例10同様にラボプラストミルによる溶融混練により透明感に優れた樹脂組成物を与えた。この樹脂組成物中のベーマイト量の計算値は17重量%である。
【0066】
比較例1:ジクロロメタンのみを有機溶媒として使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
実施例1において、シクロヘキサノンに代えて有機溶媒としてジクロロメタンのみを200g使用しその蒸留除去は大気圧で行った他は、同様の操作を行った。
比較例2:THFのみを有機溶媒として使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
実施例1において、シクロヘキサノンに代えて有機溶媒としてTHFのみを200g使用しその蒸留除去は大気圧で行った他は、同様の操作を行った。
【0067】
比較例3:sym−TCEのみを有機溶媒として使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
実施例1において、シクロヘキサノンに代えて有機溶媒としてsym−TCEのみを200g使用しその蒸留除去は大気圧で行った他は、同様の操作を行った。
比較例4:ブロモベンゼンのみを有機溶媒として使用したシリカ/PC樹脂組成物の調製
実施例1において、シクロヘキサノンに代えて有機溶媒としてブロモベンゼンのみを200g使用しその蒸留除去は大気圧で行った他は、同様の操作を行った。
【0068】
比較例5:ジクロロメタンのみを有機溶媒として使用したシリカ/PAR樹脂組成物の調製
実施例5において、シクロヘキサノンに代えて有機溶媒としてジクロロメタンのみを200g使用しその蒸留除去は大気圧で行った他は、同様の操作を行った。
比較例6:ジクロロメタンのみを有機溶媒として使用した層状珪酸塩/PC樹脂組成物の調製
実施例2において、シクロヘキサノンに代えて有機溶媒としてジクロロメタンのみを200g使用しその蒸留除去は大気圧で行った他は、同様の操作を行った。
比較例7:ジクロロメタンとTHFのみを有機溶媒として使用したベーマイト/PC樹脂組成物の温水造粒法による調製
実施例12において、シクロヘキサノンを添加せずに同様の操作を行った。得られた樹脂組成物は透明感に優れるが、目視可能なブツ(溶融しがたいゲル状成分、即ちベーマイトが凝集傾向となってこれを高濃度で含有する成分と考えられる。)が見られた。 上記実施例1〜14及び比較例1〜7の結果を併せて表1に記載した。
【0069】
尚、塩素系有機溶媒を併用した実施例6〜9では、併用しなかった実施例1に比べて有機溶媒の蒸留除去に必要とした熱量が少ないので、有機溶媒の全量が比較的高沸点のシクロヘキサノン(CHN)である実施例1で見られた副反応(若干の黄ばみと不揮発性副生成物の形成)が極めて抑制され、しかも蒸留除去の所要時間が大きく短縮される利点があった。
【0070】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の製造方法によれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性が良好で、溶融流動性や成形表面平滑性などの熱可塑化成形性、機械的強度、寸法安定性、成形表面の硬度やハードコートなどの無機薄膜密着性も優れるので、各種レンズや光拡散板などの光学部品、建材や窓などの材料として用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子鎖の繰返し単位に酸素原子を含有する熱可塑性樹脂、無機微粒子及び該熱可塑性樹脂を溶解した有機溶媒を含有する有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物から有機溶媒を除去することにより熱可塑性樹脂組成物を製造する方法において、該有機溶媒が下記(1)〜(3)を満足するものを必須成分として含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(1)溶解度パラメーター(δ)が18〜25[単位は(MPa)1/2
(2)大気圧における沸点が90℃以上
(3)分子構造中に酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる少なくとも一つの原子を有し、1級アミノ基又は2級アミノ基を有さない有機化合物である
【請求項2】
有機溶媒が、単一溶媒又は混合溶媒であり、該有機溶媒が、下記(1)〜(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(1)溶解度パラメーター(δ)が18〜25[単位は(MPa)1/2]
(2)大気圧における沸点が90℃以上
(3)分子構造中に酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれる少なくとも一つの原子を有し、1級アミノ基又は2級アミノ基を有さない有機化合物である
【請求項3】
有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物を、少なくとも熱可塑性樹脂、無機微粒子のゾル液及び有機溶媒を混合することにより得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、その高分子主鎖の繰返し単位にカルボニル基を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物が、有機溶媒として塩素系有機溶媒を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
有機溶媒含有熱可塑性樹脂組成物から有機溶媒を除去する工程を、ベント口を有する多軸スクリュー型押出機を用いて行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
該熱可塑性樹脂のガラス転移点を超えた温度での強化乾燥工程を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−143994(P2006−143994A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290567(P2005−290567)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】