説明

熱可塑性樹脂組成物及び熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】耐熱性及び塗装性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ポリアミド10〜90質量部と、(B)ゴム質重合体にスチレン系単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体を共重合してなる共重合体と、からなるスチレン系樹脂であって、前記ゴム質重合体を全体の5〜50質量%、アセトン可溶分中に不飽和ニトリル単量体を30〜50質量%含むスチレン系樹脂90〜10質量部と、(C)前記(A)と前記(B)との合計100質量部に対して、不飽和カルボン酸無水物、マレイミド単量体及び芳香族ビニル単量体を含む共重合体1〜50質量部と、を含む熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び塗装性に優れた熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは結晶構造を持つエンジニアリングプラスチックスの1つとして、耐薬品性、耐熱性に富んでいるため、自動車部品や電気機器部品等をはじめとする、種々の構造部品用途として用いられている。しかし、結晶性樹脂であるために、寸法安定性が低いこと、ポリアミド特有の吸水性が高いこと、溶融粘度が低いためにバリやノズルからの樹脂垂れ、糸引きなど成形性が劣る等という問題がある。
【0003】
一方、スチレン系樹脂は、高剛性かつ良外観で寸法安定性、成形性が良く、吸水性が低いことから汎用熱可塑性樹脂として広く利用されている。また、塗装性、めっき特性などの二次加工性に優れるため、各種内装・外装部品として利用されている。しかし、スチレン系樹脂は非晶性樹脂であるため、耐薬品性、耐摩耗性及び耐熱性が十分ではなく、エンジニアリングプラスチックのような過酷な条件下での使用が限定されるという問題がある。
【0004】
そこで、ポリアミドとスチレン系樹脂それぞれの長所を兼ね備えたポリマーアロイが開発されているが、元来、ポリアミドとスチレン系樹脂の相容性は悪く、単純ブレンド系では、界面剥離が発生し、耐衝撃性が大幅に低下するなど、互いの特性を十分に活かすことができない。
【0005】
この問題を解決するために、スチレン系樹脂にアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)を添加させることにより、ポリアミドのアミド基とABS中のANセグメントのニトリル基間に水素結合を形成させ、ポリアミドとスチレン系樹脂との間にある程度の相互作用を発現させるポリアミド/ABSなどが開発されている。
【0006】
このポリアミド/ABSを更に改良し、樹脂の主成分であるアクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)中へ無水マレイン酸をグラフトしたものや、ABS樹脂中へ無水マレイン酸をグラフトした反応性ポリマーを添加することによって、ポリアミドとの相容化を高めることが検討されている(特許文献1)。
【0007】
更に、メタクリル酸メチルと無水マレイン酸が相容性に富む性質を利用し、メタクリル酸エステル単量体に芳香族ビニル単量体と無水マレイン酸を共重合させたアクリル系ランダム共重合体を相容化剤として用いる方法(特許文献2)や、スチレン−アクリロニトリル−無水マレイン酸共重合体を相容化剤として用いる方法(特許文献3)なども、相容化効果を高めて耐衝撃性を改良する方法として開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−161940号公報
【特許文献2】特開平04−255756号公報
【特許文献3】特開昭62−11760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した組成物等は、上記した相容化剤等を添加することにより、ポリアミドとスチレン系樹脂の相容性が上がり、耐衝撃性は向上するが、組成物全体の耐熱性が不十分であるという問題がある。更に、これらの組成物を成形し製品化するにあたり、成形後に塗装処理がなされるため、塗装性に優れていることも求められている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、耐熱性及び塗装性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)ポリアミドと(B)特定範囲の含有量のゴム質重合体に、スチレン系単量体及びこれと共重合可能な単量体とのグラフト重合体と、不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な単量体との共重合体と、からなるスチレン系樹脂と(C)不飽和カルボン酸無水物、マレイミド単量体及び芳香族ビニル単量体を含むからなる共重合体と、を所定の割合で含む熱可塑性樹脂組成物とすることで、耐熱性及び塗装性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕
(A)ポリアミド10〜90質量部と、
(B)ゴム質重合体にスチレン系単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体を共重合してなる共重合体と、からなるスチレン系樹脂であって、前記ゴム質重合体を全体の5〜50質量%、アセトン可溶分中に不飽和ニトリル単量体を30〜50質量%含むスチレン系樹脂90〜10質量部と、
(C)前記(A)と前記(B)との合計100質量部に対して、不飽和カルボン酸無水物、マレイミド単量体及び芳香族ビニル単量体を含む共重合体1〜50質量部と、
を含む熱可塑性樹脂組成物。
〔2〕
前記(B)の前記ゴム質重合体の質量平均粒子径が、300nm以上500nm未満と、100nm以上250nm未満とにそれぞれ分布を有する上記〔1〕の熱可塑性樹脂組成物。
〔3〕
前記(B)の前記ゴム質重合体において、質量平均粒子径300nm以上500nm未満である成分の含有量:100nm以上250nm未満である成分の含有量=40:60〜60:40(質量比)である上記〔1〕又は〔2〕の熱可塑性樹脂組成物。
〔4〕
前記(B)の前記スチレン系樹脂に、アクリル酸アルキル単量体を含む共重合体を1〜20質量%含む上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一の熱可塑性樹脂組成物。
〔5〕
前記(A)が、ポリアミド6、ポリアミド66及びポリアミド(66/6I)コポリマーからなる群から選ばれる1つを含む、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一の熱可塑性樹脂組成物。
〔6〕
下記(A)と下記(C)とを混練して混練物とし、前記混練物に下記(B)を更に加えて混練する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法;
(A)ポリアミド10〜90質量部、
(B)ゴム質重合体にスチレン系単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体を共重合してなる共重合体と、からなるスチレン系樹脂であって、前記ゴム質重合体を全体の5〜50質量%、アセトン可溶分中に不飽和ニトリル単量体を30〜50質量%含むスチレン系樹脂90〜10質量部、
(C)前記(A)と前記(B)との合計100質量部に対して、不飽和カルボン酸無水物、マレイミド単量体及び芳香族ビニル単量体からなる共重合体1〜50質量部。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性及び塗装性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0015】
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂は
(A)ポリアミド10〜90質量部と、
(B)ゴム質重合体に、スチレン系単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体を共重合してなる共重合体と、からなるスチレン系樹脂であって、前記ゴム質重合体を全体の5〜50質量%、アセトン可溶分中に不飽和ニトリル単量体を30〜50質量%含むスチレン系樹脂80〜20質量部と、
(C)前記(A)と前記(B)との合計100質量部に対して、不飽和カルボン酸無水物、マレイミド単量体及び芳香族ビニル単量体を含む共重合体1〜50質量部と、
を含む。相容化剤として(C)成分を用いることで、(A)ポリアミドと(B)スチレン系樹脂との相容性を優れたものにでき、耐熱性と塗装性に優れる熱可塑性樹脂組成物とすることができる。
【0016】
(A)ポリアミド
本実施の形態で使用することのできる(A)成分のポリアミドの種類としては、ポリマー主鎖に、アミド結合を有するものであれば、いずれのものも使用することができる。一般にポリアミドは、ラクタム類の開環重合、ジアミンとジカルボン酸の重縮合、アミノカルボン酸の重縮合などによって得られるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
ジアミンとしては、以下のものに限定されないが、大別して脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン及び芳香族ジアミン等が挙げられ、具体的には、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルナノメチレンジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンなどが挙げられる。
【0018】
ジカルボン酸としては、以下のものに限定されないが、大別して脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸等が挙げられ、具体的には、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,1,3−トリデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマ−酸などが挙げられる。
【0019】
ラクタム類としては、具体的には、ε−カプロラクタム、エナントラクタム、ω−ラウロラクタムなどが挙げられる。
【0020】
また、アミノカルボン酸としては、以下のものに限定されないが、具体的には、ε−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、13−アミノトリデカン酸などが挙げられる。
【0021】
上記のジアミン、ジカルボン酸、ラクタム類及びアミノカルボン酸は、1種単独あるいは2種以上の混合物を重縮合することにより得られる共重合ポリアミド類として用いてもよい。また、上記のジアミン、ジカルボン酸、ラクタム類及びアミノカルボン酸を重合反応器内で低分子量のオリゴマ−の段階まで重合させ、押出機等で高分子量化したものも好適に使用することができる。
【0022】
本実施の形態で好適に用いることのできる(A)ポリアミドとしては、以下のものに限定されないが、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/66、ポリアミド6/612、ポリアミドMXD6(MXD:m−キシリレンジアミン)、ポリアミド6/MXD6、ポリアミド66/MXD6、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド6/6T、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6T、ポリアミド66/6I、ポリアミド6/6T/6I、ポリアミド66/6T/6I、ポリアミド6/12/6T、ポリアミド66/12/6T、ポリアミド6/12/6I、ポリアミド66/12/6Iなどが挙げられ、複数のポリアミドを押出機等で共重合化したポリアミド類も用いることができる。これらは、もちろん2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、加工の容易性の点から、ポリアミド6、ポリアミド66及びポリアミド(66/6I)コポリマーのうち少なくとも1種以上を含むことが特に好ましい。
【0023】
本実施の形態で使用される(A)ポリアミドの好ましい数平均分子量は5,000〜100,000であり、より好ましくは10,000〜30,000である。(A)ポリアミドは、分子量の異なる複数のポリアミドの混合物であってもよい。例えば、数平均分子量10,000以下の低分子量ポリアミドと、30,000以上の高分子量ポリアミドとの混合物、数平均分子量10,000以下の低分子量ポリアミドと、15,000程度の一般的なポリアミドとの混合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、異種のポリアミドで分子量の異なるものを混合しても、もちろん構わない。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、求められた値を指す。
【0024】
ポリアミドの末端基は、後述する相容化剤との反応に関与する。ポリアミドは末端基として一般にアミノ基、カルボキシル基等を有しているが、一般的にカルボキシル基濃度がアミノ基濃度を上回ると、耐衝撃性が低下し、流動性が向上し、逆にアミノ基濃度がカルボキシル基濃度を上回ると耐衝撃性が向上し、流動性が低下するという傾向が見られる。このような傾向を効果的にコントロールする点から、アミノ基とカルボキシル基の比率が、アミノ基/カルボキシル基=9/1〜1/9であり、より好ましくはアミノ基/カルボキシル基=8/2〜1/9、更に好ましくはアミノ基/カルボキシル基=6/4〜1/9である。
【0025】
また、ポリアミド中におけるポリアミド末端のアミノ基の濃度としては、少なくとも10ミリ当量/kg以上であることが好ましく、更に好ましくは30ミリ当量/kg以上である。これらポリアミドの末端基の調整方法は、特に限定されないが、例えば、ポリアミドの重合時にジアミン類、ジカルボン酸類、モノカルボン酸等の添加などが挙げられる。
【0026】
本実施の形態における(A)ポリアミドは、末端基濃度の異なる複数のポリアミドの混合物であってももちろん構わない。(A)ポリアミド添加量範囲は10〜90質量部が好ましいが、より好ましくは30〜80質量部、更に好ましくは40〜70質量部である。
【0027】
(B)スチレン系樹脂
(B)スチレン系樹脂は、ゴム質重合体にスチレン系単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体を共重合してなる共重合体と、からなるものである。(B)スチレン系樹脂は、従来公知の方法により作製でき、例えば、乳化重合、塊状重合あるいは塊状・懸濁重合により合成できる。
【0028】
(ゴム質重合体にスチレン系単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体)
(B)スチレン系樹脂を構成するグラフト共重合体に含まれるゴム質重合体としては、以下のものに限定されないが、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、エチレン系ゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリブタジエン、ポリ(アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ポリ(エチレン−イソプレン)、ポリ(エチレン−アクリル酸メチル)などが挙げられる。これらのゴム質重合体は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐衝撃性の点から、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリアクリル酸ブチルが好ましい。
【0029】
ゴム質重合体の質量平均粒子径は、100nm以上500nm未満が好ましい。100nm以上であると、耐衝撃性の改良効果が大きくなり、500nmより小さければ、耐衝撃性に加えて良好な塗装性時の外観を保持する傾向にある。ゴム成分の平均粒子径は、その粒子径により、耐衝撃性と塗装時の外観をコントロールすることができるため、小粒子径と大粒子径の両方を併用することが、どちらの効果もより高く保持するための好ましい組成となる。ここで指すゴム質重合体の質量平均粒子径は、動的光散乱法等により求められる値を指す。
【0030】
併用するゴム質重合体の質量平均粒子径の範囲は、100nm以上250nm未満と、300nm以上500nm未満とにそれぞれ分布を有することが好ましく、より好ましくは150nm以上200nm以下と、300nm以上400nm以下とにそれぞれ分布を有すること、更には150nm以上180nm以下と、300nm以上350nm以下とに分布を有することが好ましい。
【0031】
ゴム質重合体の質量平均粒子径の分布は、必ずしも上記範囲のみに存在することに限定されないが、耐衝撃性や塗装時の外観がより優れる傾向にあるため、上記範囲のゴム質重合体を使用することが好ましい。
【0032】
ゴム質重合体の質量平均粒子径が100nm以上250nm未満である成分(小径成分)の含有量と300nm以上500nm未満である成分(大径成分)の含有量の質量比は、小径成分/大径成分=20/60〜60/40が好ましく、45/55〜55/45がより好ましい。小径成分と大径成分の含有量を上記質量比とすることで、得られる成形体の耐衝撃性及び塗装時の外観等の物性バランスを更に良好なものとすることができる。
【0033】
ゴム質重合体は、(B)スチレン系樹脂中に5質量%以上50質量%以下含まれている。ゴム質重合体の含有量を上記範囲とすることにより、耐衝撃性を保持しながら、混練中のゲル分発生などを最小限に抑えることができる。その結果、耐衝撃性のみならず、良好な流動性や機械物性をより高く保持することが可能となる。
【0034】
ゴム質重合体を含むグラフト共重合体におけるグラフト率は、好ましくは10〜150%、より好ましくは20〜110%、更に好ましくは25〜60%である。ここで、グラフト率とは、ゴム質重合体にグラフト共重合した単量体の、ゴム質重合体に対する重量割合を表す値であり、上記範囲にすることにより、耐衝撃性に優れ、成形加工性の良好な組成物を得ることが可能となる。グラフト率は、重合反応により生成した重合体をアセトンに溶解し、遠心分離機によりアセトン可溶分と不溶分とに分離し、不溶分を秤量することにより求められる。
【0035】
(B)スチレン系樹脂中のグラフト共重合体におけるスチレン系単量体としては、以下のものに限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどが挙げられる。それらの中でも、ゴム質重合体との反応性の容易性より、スチレン、α−メチルスチレンが好適である。これらのスチレン系単量体は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(B)スチレン系樹脂中のグラフト共重合体における、ゴム質重合体及びスチレン系単量体とグラフト重合可能なその他の単量体としては、以下のものに限定されないが、上記の他、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル組成物やN−フェニルマレイミド、無水マレイン酸などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0037】
(不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体を共重合してなる共重合体)
(B)スチレン系樹脂中の不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体を共重合してなる共重合体における、不飽和ニトリル単量体としては、以下のものに限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でも、汎用性の点から、アクリロニトリルが好ましい。
【0038】
(B)スチレン系樹脂中の不飽和ニトリル系単量体の含有量が高くなるほど、(A)ポリアミドと混練した際に相容性が高くなり、均一なモルフォロジー構造がとりやすくなる。また、含有量が高くなると不飽和ニトリル系単量体を含む共重合体における耐熱性や耐薬品性が高くなり、高温化での使用や塗装性などの二次加工性がより高くなる。一方においては、粘度が高くなり、ポリアミドとの粘度差が大きくなるために、混練中に均一なストランドにならないサージング現象が発生し、その結果、均等な物性が発現しないなどの問題が生じる傾向がある。
【0039】
以上の点から、(B)スチレン系樹脂における不飽和ニトリル系単量体の含有量は、アセトン可溶分として、耐熱特性と塗装性などの二次加工性のバランスの点から、30〜50質量%の範囲が好ましく、32〜45質量%がより好ましく、35〜45質量%が更に好ましい。30質量%より少ないと、相容効果や耐熱性を得ることができず、多すぎれば押出性が低下し、機械物性の低下を引き起こす。不飽和ニトリル単量体の含有量は、アセトン可溶分の赤外吸収分析(IR)測定によって求められるが、ここで挙げるアセトン可溶分量はIR測定により、濃度既知の不飽和ニトリル成分を含む標準化合物を用いて検量線を作成し、計算させた値を指す。
【0040】
(B)スチレン系樹脂中の不飽和ニトリル単量体と共重合可能なその他単量体としては、以下のものに限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル及び(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、N−フェニルマレイミド、無水マレイン酸などが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中で好ましいのは、スチレン及びアクリル酸メチルである。
【0041】
上記の中でも、相容性の点から、不飽和ニトリル単量体及びスチレン系単量体の共重合体や、不飽和ニトリル、スチレン系単量体及びアクリル酸エステルの共重合体が好ましい。成形性をより向上させる点から、不飽和ニトリル単量体及びスチレン系単量体の共重合体と、不飽和ニトリル単量体、スチレン系単量体及びアクリル酸エステルの共重合体とを併用することが更に好ましい。
【0042】
不飽和ニトリル単量体、スチレン系単量体及びアクリル酸エステルの共重合体を添加する場合、共重合体におけるアクリル酸エステルの添加量としては、耐熱性の点から、1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。また、組成物全体における不飽和ニトリル単量体、スチレン系単量体及びアクリル酸エステルの共重合体の添加量としては、耐熱性の点から、1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。
【0043】
(B)スチレン系樹脂におけるアセトン可溶分の数平均分子量は、10000〜150000が好ましく、30000〜120000がより好ましい。上記範囲の数平均分子量のアセトン可溶分を添加することにより、物性と成形加工性のバランスを保持することが可能となる。ここで述べる数平均分子量は、GPCにて、標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、求められた値を指す。
【0044】
(C)相容化剤
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、(C)不飽和カルボン酸無水物、マレイミド単量体及び芳香族ビニル単量体を含む共重合体を含む。(C)成分は相容化剤として機能し、(A)ポリアミドと(B)スチレン系樹脂とを相容化させるのみならず、耐熱性の低下を防ぐことができる。
【0045】
(C)成分として、不飽和カルボン酸無水物を含むことにより(A)ポリアミドとの反応性を高め、芳香族ビニル単量体を含むことにより、スチレン系樹脂との相容性を高めることができる。更に、マレイミド単量体を含むことにより耐熱性を高めることができる。
【0046】
不飽和カルボン酸無水物としては、以下のものに限定されないが、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられるが、反応性の容易性より、好ましくは無水マレイン酸である。
【0047】
芳香族ビニル単量体としては、以下のものに限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。汎用性の点から、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。
【0048】
マレイミド単量体の種類としては、以下のものに限定されないが、例えば、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリルマレイミドなどが挙げられる。スチレン系樹脂との相容性の点から、N−フェニルマレイミドが好ましい。
【0049】
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、(A)成分を10〜90質量部と、(B)成分を30〜50質量部とを含み、かつ前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して(C)成分を1〜50質量部含むものである。
【0050】
(A)成分の添加量の範囲は10〜90質量部であり、好ましくは30〜80質量部、より好ましくは40〜70質量部であり、上記範囲の添加量とすることで、耐熱と塗装時の外観及び諸物性のバランスを得ることができる。(C)成分の添加量は、(A)ポリアミドと(B)スチレン系樹脂の合計100質量部に対して1〜50質量部であり、好ましくは2〜30質量部であり、耐熱と諸物性のバランスより、より好ましくは2.5〜10質量部である。
【0051】
本実施の形態における樹脂組成物は、上述した(A)〜(C)成分を配合・混合し、混練することにより得ることができる。混合・混練方法としては特に限定されないが、(A)成分と(C)成分とを混合して混練して混合物とし、前記混合物に(B)成分を更に加えて混練する工程を含むことが、相容化効果を更に向上させる点から好ましい。
【0052】
混合工程においては、従来公知の混合機器が使用できる。例えば、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ドラムタンブラーなどが挙げられる。また、混練工程においても、従来公知の混練装置が使用できる。例えば、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、二軸ローター付の連続混練機、多軸スクリュー押出機、オープンローラ、バンバリーミキサーなどが挙げられる。
【0053】
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物では(A)ポリアミドと(B)スチレン系樹脂を(C)相容化剤と反応させる。(A)と(B)の相容性を更に向上させる点から、押出時、混練時間及び樹脂同士の接触頻度を上げることが好ましい。具体的には、混練時に、スクリューの回転数を高くしたり、押出機シリンダー内スクリューに混練ゾーンを増やすことによって樹脂混練力を上げたり、吐出量を下げてシリンダー内に樹脂を滞留させて混練時間を増やしたり、押出機のL/D(スクリュー径に対する長さ)を大きくする方法等が採用できる。L/Dの大きくない押出機を用いる場合は、(A)ポリアミドと(C)相容化剤を先に混練、ペレタイズし、その後、他の組成物と混練する方法をとると、相容性効果を高めることが可能となる。
【0054】
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物では、その物性に大きく影響しない範囲で、上記した成分以外にも、各種組成物を添加することができる。その他の組成物としては、例えば、充填材、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、難燃助剤、耐候(光)性改良剤、耐衝撃性改良剤、結晶核剤、スリップ剤、各種着色剤、離型剤、摺動性改良剤などが挙げられる。
【0055】
充填材としては、特に限定されず、最終的に目的とする熱可塑性樹脂組成物の物性に応じて、材料及び形態(繊維状、粉粒状、板状等)を選択することができる。
【0056】
繊維状充填材としては、以下のものに限定されないが、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、テトラポット型酸化亜鉛、ゾノトライト、硫酸マグネシウムウィスカー、ウォラストナイト、針状ベーマイト、セピオライト、アタバルジャイトや、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属繊維等の各種無機質繊維状物が挙げられる。上記の中でも、ガラス繊維及びウォラストナイトが汎用性に優れているため好ましい。また、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維状物質も用いることができる。
【0057】
粉粒状無機充填材としては、以下のものに限定されないが、例えば、カーボンブラック;シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、クレー、珪藻土等の珪酸塩;酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ等の金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;その他、炭化珪素、窒化珪素、窒化ホウ素、各種金属粉末などが挙げられる。
【0058】
板状充填材としては、以下のものに限定されないが、例えば、タルク、マイカ、セリサイト、板状ベーマイト、カオリン、焼成カオリン、ベントナイト、ガラスフレーク、各種金属材料などが挙げられる。
【0059】
上述した充填材の中でも、熱可塑性樹脂組成物の耐熱性及び物理的強度の点から、繊維状充填材が好ましい。一方、厳密な寸法精度を重視する場合には、充填材としてはアスペクト比の小さい粉粒状や板状のものが好ましい。特に、外観の良さを重視する場合には、アスペクト比の小さい微粒子状の充填材が好ましい。
【0060】
本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、各種部品に成形して利用することができる。成形方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適用できる。例えば、プレス成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、溶着成形、押出成形、吹込成形、フィルム成形、中空成形、多相成形、発泡成形等のいずれを用いてもよい。また、射出成形法においては、金属とのインサート成形、アウトサート成形、ガスアシスト成形等を組み合わせて使用してもよい。使用する金型についても特に限定されるものではなく、ゲート形状についてもピンゲート、タブゲート、フィルムゲート、サブマリンゲート、ファンゲート、リングゲート、ダイレクトゲート、ディスクゲート等のいずれの種類であってもよい。
【0061】
このようにして得られる本実施の形態の熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性に優れると共に、塗装性にも優れるため、幅広い用途に用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。尚、各実施例及び各比較例には下記成分を用いた。
【0063】
(A)ポリアミド
(a−1)ポリアミド6 宇部興産社製、UBEナイロン 1015B
【0064】
(B)スチレン系樹脂
(b−1)ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)
グラフト共重合体の製造
質量平均粒子径160nmと330nmのポリブタジエンラテックスを25.5質量部:26.28質量部に、t−ドデシルメルカプタン0.1質量部、及び脱イオン水100質量部を加え、気相部を窒素置換し、脱イオン水25質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.0801質量部、硫酸第一鉄0.0030質量部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.0207質量部を溶解してなる水溶液を加えた後、55℃に昇温した。続いて、1.25時間かけて70℃まで昇温しながら、アクリロニトリル17質量部、スチレンを33質量部、t−ドデシルメルカプタン0.4質量部、クメンハイドロパーオキシド0.1質量部よりなる単量体混合液、及び脱イオン水15質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.045質量部を溶解してなる水溶液を5時間にわたり添加した。添加終了後にクメンハイドロパーオキシド0.02質量部を加えた後、更に4時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させ、ABSラテックスを得た。
このようにして得られたABSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤、及びフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、固形分濃度が10質量%となるように脱イオン水を加えて調整し、70℃に加温した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、スクリュープレス機にて固液分離を行った。この時の含水率は10質量%であった。これを乾燥させてグラフト共重合体を得た。
【0065】
共重合体の製造
アクリロニトリル26質量部、スチレン39質量部、トルエン35質量部に重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを用いた他は、特許第3664576号公報の実施例1に記載の方法にて共重合体を得た。
【0066】
スチレン系樹脂の製造
上記で得たグラフト共重合体と共重合体を、グラフト共重合体/共重合体=60/40(質量比)で混ぜ合わせ、二軸押出し機(Werner&Pfleiderer社製、ZSK−40)にて混錬を行い、(B)スチレン系樹脂として(b−1)ABS樹脂を得た。200〜240℃、回転数200rpmの条件で溶融混練を行った。その物性を以下に示す。
ゴム質重合体の質量平均粒子径 160nm :330nm =1:1(質量比)
ゴム質重合体の含有量:30質量% ゴム質重合体のグラフト率:45%
アセトン可溶分中の不飽和ニトリル含有量:40質量% 数平均分子量:57000
【0067】
(b−2)ABS樹脂
質量平均粒子径260nmのポリブタジエンラテックスをゴム質重合体として用い、かつ以下に示す成分組成となるように共重合体を製造した点以外は実施例1と同様の条件で(B)スチレン系樹脂を製造した。これにより、(b−2)ABS樹脂を得た。その物性を以下に示す。
ゴム質重合体の質量平均粒子径 260nm 100%
ゴム質重合体の含有量:26質量% ゴム質重合体のグラフト率:40%
アセトン可溶分中の不飽和ニトリル含有量:40質量% 数平均分子量:40000
【0068】
(b−3)ABS樹脂
質量平均粒子径160nmのポリブタジエンラテックスと質量平均粒子径330nmのポリブタジエンラテックスを1:3の質量比で混練したものをゴム質重合体として用い、かつ以下に示す成分組成となるように共重合体を製造した点以外は実施例1と同様の条件で(B)スチレン系樹脂を製造した。これにより、(b−3)ABS樹脂を得た。その物性を以下に示す。
ゴム質重合体の質量平均粒子径 160nm :330nm =1:3(質量比)
ゴム質重合体の含有量:30質量% ゴム質重合体のグラフト率:37%
アセトン可溶分中の不飽和ニトリル含有量:20%
【0069】
(b−4)ABS樹脂
ゴム質重合体として、質量平均粒子径160nmのポリブタジエンラテックスと質量平均粒子径520nmのポリブタジエンラテックスを1:1の質量比で混練したもの用い、かつ以下に示す成分組成となるように(B)スチレン系樹脂を製造した点以外は実施例1と同様の条件で(B)スチレン系樹脂を製造した。これにより、(b−4)ABS樹脂を得た。その物性を以下に示す。
ゴム質重合体の質量平均粒径 160nm :520nm =1:1(質量比)
ゴム質重合体の含有量:30質量% ゴム質重合体のグラフト率:45%
アセトン可溶分中の不飽和ニトリル含有量:40質量% 数平均分子量:57000
【0070】
(b−5)ABS樹脂
質量平均粒子径160nmのポリブタジエンラテックスと平均粒子径330nmのポリブタジエンラテックスを1:1の質量比で混練したものをゴム質重合体として用い、かつアクリロニトリル22.75質量部、スチレン42.25質量部、トルエン35質量部を用いて共重合体を製造した点以外は実施例1と同様の条件で(B)スチレン系樹脂を製造した。これにより、(b−5)ABS樹脂を得た。その物性を以下に示す。
ゴム質重合体の質量平均粒径 160nm :330nm =1:1(質量比)
ゴム質重合体の含有量:30質量% ゴム質重合体のグラフト率:45%
アセトン可溶分中の不飽和ニトリル含有量:35質量% 数平均分子量:55000
【0071】
(b−6)BAAS樹脂(ブチルアクリレート−アクリロニトリル−スチレン共重合体)
アクリロニトリル40質量部、スチレン50質量部、ブチルアクリレート10質量部、トルエン35質量部用いて、特許第3664576号公報の実施例14に記載の方法にて(b−6)BAAS樹脂を得た。その物性を以下に示す。
アセトン可溶分中の不飽和ニトリルの含有量:40質量% ブチルアクリレートの含有量:10質量%
【0072】
(b−7)AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)
アクリロニトリル26質量部、スチレン39質量部、トルエン35質量部用いた他は、実施例1に記載の方法にて共重合体を製造した。これにより、(b−7)AS樹脂を得た。その物性を以下に示す。
アセトン可溶分中の不飽和ニトリルの含有量:40質量% 数平均分子量:57000
【0073】
なお、上記の各物性は以下の方法によって測定した。
【0074】
不飽和ニトリル含有量の測定方法
各試料1gにアセトン20mL加え、振とう機にて可溶成分が完全に溶解するまで振とうした。この溶液を20000rpmで40分間遠心分離後、可溶成分のみをろ別した後、80℃で4時間乾燥してアセトンを除去し、さらに100℃で1時間減圧乾燥してアセトン可溶成分を得た。そして、日本分光社製、IR−410を用いて測定し、濃度既知の不飽和ニトリル単量体を含むサンプルのピーク値を用いて作成された検量線を使用して、不飽和ニトリル単量体の割合を求めた。
【0075】
グラフト率の測定方法
重合反応により生成した重合体をアセトンに溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分と不溶分とに分離した。この時、アセトンに溶解する成分は重合反応した共重合体のうちグラフト反応しなかった成分(非グラフト成分)であり、アセトン不溶分はゴム状重合体、及びゴム状重合体にグラフト反応した成分(グラフト成分)である。アセトン不溶分の質量からゴム状重合体の質量を差し引いた値よりグラフト率を求めた。
【0076】
ブチルアクリレートの含有量の測定方法
各原料1gにアセトン20mL加え、振とう機にて完全に溶解するまで浸透した。この溶液をAgilent社製、GC−6890を用いて定量した。
測定方法:熱分解(py)GC
検出器:FID
使用カラム:J&W DB−1、長さ30m、孔径0.32mmφ、膜厚5μm
温度条件:INJ、DET共に280℃
使用パイロホイル:590℃
熱分解炉温度:200℃
ニードル温度:280℃
熱分解時間 :10秒
【0077】
アセトン可溶分の分子量測定
各試料1gにアセトン20mL加え、振とう機にて可溶成分が完全に溶解するまで振とうした。この溶液を20000rpmで40分間遠心分離後、可溶成分のみをろ別した後、80℃で4時間乾燥してアセトンを除去し、さらに100℃で1時間減圧乾燥してアセトン可溶成分を得、固化させた可溶成分のうち、20mgをテトラヒドロフラン(THF)10mLに完全に溶解させ、分子量既知のポリスチレンを用いて、GPC分子量測定を行った。
使用機器:東ソー社製、HLC−8228GPC
使用カラム:TOSOH TSK−GEL G6000HXL−G5000HXL−G4000HXL−G3000HXL
溶離液:THF 1級
【0078】
(C)相容化剤
(c−1)電気化学工業社製、「MS−L2A」
フェニルマレイミド−無水マレイン酸−スチレン共重合体
(c−2)電気化学工業社製、「MS−CP」
フェニルマレイミド−無水マレイン酸−スチレン共重合体
(c−3)旭化成ケミカルズ社製、「デルペット980N」
フェニルマレイミド−無水マレイン酸−メタクリル酸メチル共重合体
【0079】
表1に示す組成で(A)ポリアミド、(B)スチレン系樹脂、(C)相容化剤を配合し、二軸押出し機(Werner&Pfleiderer社製、ZSK−40)を用いて押出し機のトップフィーダー及びサイドフィーダーより材料を供給して溶融混練し、樹脂組成物を得た。混練は全ての材料を一段で混練したもの(一段法)と、混練程度を上げるために、最初にポリアミドと相容化剤を混練し、その後スチレン系樹脂と合わせて混練する方法(二段法)の両方により実施した。その際の溶融混練条件は、温度250〜270℃、回転数150〜250rpmで行った。
【0080】
上記手法により得られた熱可塑性樹脂組成物は、射出成形機(日本製鋼所製、J−100EPI)を用いて、ISO294−1に規定される4mm厚のマルチダンベル試験片(TYPE B)を成形し、(シリンダー温度:250℃、金型温度:80℃)そのダンベル試験片を用いて以下のテストを行った。各実施例及び各比較例の評価結果を表2に示す。
【0081】
(1)耐熱性
ISO75に基づいたテスト方法で荷重たわみ温度を測定した。荷重は1.8MPa
判定基準 75℃以上:○ 75℃未満:×
【0082】
(2)シャルピー衝撃試験
ISO2818に基づいてノッチA付き試験片を作成し、ISO179に基づき、シャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2)を測定した。
【0083】
(3)メルトボリュームレート(MVR)
ISO1133に基づいたテスト方法でMVRを測定した。
測定条件 温度:265℃ 荷重:10kg 単位:cm3/10分
【0084】
(4)塗装性及び塗装時の外観確認
東芝機械(株)製射出成形機 EC−60Nを用いて50mm×90mm×2.5mmtのプレートを成形し(シリンダー温度:250℃、金型温度:80℃)、油性マジック(magic INK No.500 赤色)で二度塗りを行い、マルチクロスカッターにて1mm×1mmの碁盤目を100マス作成後、セロハンテープにて碁盤目剥離試験を行った。
判定基準 70%以上剥離無し:○、剥離無し20%以上70%未満:△、剥離なし20%未満:×
【0085】
また、同プレートを使用し、スガ試験機製デジタル変角光沢計を用いてJIS K7150に準じて鏡面光沢度(Gs60°)を測定し、外観を確認した。
判定基準 測定値90以上:◎、70以上90未満:○、50以上70未満:△、50未満:×
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
各実施例の熱可塑性樹脂組成物は、少なくとも耐熱性、塗装性に優れていることが確認された。また、成分を一段法にて混練した実施例1の熱可塑性樹脂組成物に比して、二段法で混練した実施例2の熱可塑性樹脂組成物は、シャルピー衝撃強さとMVR値が大幅に向上したことが確認された。
【0089】
一方、比較例1では、サージングが発生し、押出機が円滑に作動せず、樹脂組成物を得ることができなかった。比較例2及び比較例3の樹脂組成物では、耐熱性と塗装性の少なくとも一方が不良であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、自動車分野、各種工業分野、住設分野、E&E分野、OA機器分野等、さまざまな用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド10〜90質量部と、
(B)ゴム質重合体にスチレン系単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体を共重合してなる共重合体と、からなるスチレン系樹脂であって、前記ゴム質重合体を全体の5〜50質量%、アセトン可溶分中に不飽和ニトリル単量体を30〜50質量%含むスチレン系樹脂90〜10質量部と、
(C)前記(A)と前記(B)との合計100質量部に対して、不飽和カルボン酸無水物、マレイミド単量体及び芳香族ビニル単量体を含む共重合体1〜50質量部と、
を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)の前記ゴム質重合体の質量平均粒子径が、300nm以上500nm未満と、100nm以上250nm未満とにそれぞれ分布を有する請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)の前記ゴム質重合体において、質量平均粒子径300nm以上500nm未満である成分の含有量:100nm以上250nm未満である成分の含有量=40:60〜60:40(質量比)である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)の前記スチレン系樹脂に、アクリル酸アルキル単量体を含む共重合体を1〜20質量%含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)が、ポリアミド6、ポリアミド66及びポリアミド(66/6I)コポリマーからなる群から選ばれる1つを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
下記(A)と下記(C)とを混練して混練物とし、前記混練物に下記(B)を更に加えて混練する工程を含む、熱可塑性樹脂組成物の製造方法;
(A)ポリアミド10〜90質量部、
(B)ゴム質重合体にスチレン系単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体と、不飽和ニトリル単量体及びこれと共重合可能な1種又は2種以上の単量体を共重合してなる共重合体と、からなるスチレン系樹脂であって、前記ゴム質重合体を全体の5〜50質量%、アセトン可溶分中に不飽和ニトリル単量体を30〜50質量%含むスチレン系樹脂90〜10質量部、
(C)前記(A)と前記(B)との合計100質量部に対して、不飽和カルボン酸無水物、マレイミド単量体及び芳香族ビニル単量体からなる共重合体1〜50質量部。

【公開番号】特開2011−57836(P2011−57836A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208539(P2009−208539)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】