説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐油性、特に耐ガソリン性、耐衝撃性、導電性に優れた熱可塑性樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリアミド30〜80質量部と、熱可塑性フッ素樹脂20〜70質量部(ただし、ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の合計が100質量部である。)と、炭素繊維とを含有し、前記ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の合計100質量部に対して、前記炭素繊維の含有量が5〜50質量部であり、かつ、前記熱可塑性フッ素樹脂の引張伸びが450%以上であり、引張応力が5MPa以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガソリンタンクなどに用いられる部材には、耐油性、耐衝撃性、静電気などによる引火を防ぐため導電性を有する熱可塑性樹脂が用いられる場合が多い。
熱可塑性樹脂に導電性を付与するには、導電性フィラーを添加すればよいが、導電性フィラーを添加すると、熱可塑性樹脂から成形される部材の耐衝撃性が低下しやすかった。
【0003】
このような問題に対し、耐油性を有するポリアミドと、耐衝撃性を有するポリフェニレンエーテル(PPE)やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)と、導電性フィラーとを併用することで、耐油性、耐衝撃性、導電性に優れた熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4162201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SEBSは耐油性が低く、PPEは一般的に耐油性に優れるとされているがガソリンに対する耐性が低く、油(特にガソリン)存在下では外観が悪化しやすい。そのため、特許文献1に記載のように、PPEやSEBSを用いた熱可塑性樹脂組成物は、油(特にガソリン)が存在する環境下で使用する装置の外装部品としては十分に満足するものではなかった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、耐油性、特に耐ガソリン性、耐衝撃性、導電性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリアミドと、熱可塑性フッ素樹脂と、導電性フィラーとして炭素繊維とを併用することで、ガソリンを含む耐油性、耐衝撃性、導電性の全てを満足する熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド30〜80質量部と、熱可塑性フッ素樹脂20〜70質量部(ただし、ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の合計が100質量部である。)と、炭素繊維とを含有し、前記ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の合計100質量部に対して、前記炭素繊維の含有量が5〜50質量部であり、かつ、前記熱可塑性フッ素樹脂の引張伸びが450%以上であり、引張応力が5MPa以上であることを特徴とする。
また、前記炭素繊維の平均繊維径が0.01〜50μmであり、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10〜200であることが好ましい。
さらに、前記熱可塑性フッ素樹脂がポリアミド中に分散した海島状の相分離構造を有し、その熱可塑性フッ素樹脂の平均粒径が10μm以下であることが好ましい。
また、前記熱可塑性フッ素樹脂とポリアミドとで共連続構造を形成した相分離構造を有し、そのポリアミドの平均相間距離が10μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐油性、特に耐ガソリン性、耐衝撃性、導電性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】海島構造の一例を模式的に示す模式図である。
【図2】共連続構造の一例を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミドと、熱可塑性フッ素樹脂と、炭素繊維とを含有する。
【0012】
(ポリアミド)
ポリアミドは、熱可塑性樹脂組成物に耐油性を付与する役割を主に果たす。
ポリアミドとしては、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミドなどが挙げられる。
脂肪族ポリアミドとしては、例えばナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610などが挙げられる。
芳香族ポリアミドとしては、例えば脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンとを縮合して得られるポリアミドなどが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などが挙げられる。一方、芳香族ジアミンの具体例としては、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミンなどが挙げられる。
これらの中でも、加工性、原料合成、伸び柔軟性の点から、脂肪族ポリアミドが好ましく、ナイロン11やナイロン12が特に好ましい。
これらポリアミドは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
(熱可塑性フッ素樹脂)
熱可塑性フッ素樹脂は、熱可塑性樹脂組成物に耐衝撃性を付与する役割を主に果たす。
本発明に用いる熱可塑性フッ素樹脂は、引張伸びが450%以上であり、引張応力が5MPa以上である樹脂である。
熱可塑性フッ素樹脂の引張伸びが450%以上であれば、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。引張伸びは500%以上が好ましい。
熱可塑性フッ素樹脂の引張伸びは、ASTM D638に準じて測定される値である。
【0014】
また、熱可塑性フッ素樹脂の引張応力が5MPa以上であれば、耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。引張応力は10MPa以上が好ましい。
熱可塑性フッ素樹脂の引張応力は、ASTM D638に準じて測定される値である。
【0015】
このような熱可塑性フッ素樹脂としては、例えばテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン単独重合体(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FPE)、クロロトリフルオロエチレン単独重合体(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ビニリデンフルオライド単独重合体(PVDF)などが挙げられる。
これらの中でも、引張伸びと引張応力の点から、THVやETFEが好ましい。
これら熱可塑性フッ素樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
(炭素繊維)
炭素繊維は、熱可塑性樹脂組成物に導電性を付与する役割を主に果たす。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中に存在する炭素繊維は、平均繊維径が0.01〜50μmであることが好ましく、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10〜200であることが好ましい。
炭素繊維の平均繊維径が0.01μm以上であれば、アスペクト比を極端に低下させることなく容易に熱可塑性樹脂組成物を製造することが可能になる。一方、炭素繊維の平均繊維径が50μm以下であれば、少ない添加量で導電性を得ることが可能になり、導電性と耐衝撃性を容易に両立することが可能になる。平均繊維径は0.1〜10μmであることさらに好ましい。
【0017】
また、熱可塑性樹脂組成物中の炭素繊維のアスペクト比が10以上であれば、少ない添加量で導電性を得ることが可能になる。一方、炭素繊維のアスペクト比が200以下であれば熱可塑性樹脂組成物を容易に製造可能である。アスペクト比は20〜80であることがさらに好ましい。
炭素繊維の平均繊維径、アスペクト比は、熱可塑性樹脂組成物中に存在する炭素繊維を走査型電子顕微鏡等で観察し、市販の画像解析装置等で解析することにより求められる値である。
【0018】
炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
これら炭素繊維は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(その他の成分)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、難燃剤、離形剤、顔料等が挙げられる。
【0020】
(配合割合)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド30〜80質量部と、熱可塑性フッ素樹脂20〜70質量部(ただし、ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の合計が100質量部である。)を含有する。
ポリアミドの割合が30質量部未満、熱可塑性フッ素樹脂の割合が70質量部超であると、炭素繊維を熱可塑性樹脂組成物中に分散させることが困難となり、加工性・成形性が低下する。一方、ポリアミドの割合が80質量部超、熱可塑性フッ素樹脂の割合が20質量部未満であると、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する。
【0021】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の合計100質量部に対して、炭素繊維を5〜50質量部含有する。
炭素繊維の含有量が上記範囲内であれば、表面抵抗率が1×10Ω/□以下の熱可塑性樹脂組成物が得られるので、優れた導電性を発現できる。
なお、炭素繊維の含有量が5質量部未満であると、熱可塑性樹脂組成物の導電性が低下する。一方、炭素繊維の含有量が50質量部を超えると、熱可塑性樹脂組成物全体に占める熱可塑性フッ素樹脂の割合が必然的に少なくなるため、熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する。
炭素繊維の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の導電性および耐衝撃性がより向上する点で、10〜35質量部であることが好ましい。
【0022】
(製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、種々の慣用の方法で製造することができ、例えばポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂と炭素繊維と、必要に応じてその他の成分とを、二軸ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混合することで得られる。
【0023】
このようにして得られた熱可塑性樹脂組成物は、図1に示すように、ポリアミドA中に熱可塑性フッ素樹脂Fが分散した海島状の相分離構造、あるいは図2に示すように、ポリアミドAと熱可塑性フッ素樹脂Fとで共連続構造を形成した相分離構造を有するのが好ましい。上記のような相分離構造を有していれば、衝撃を受けた際に相分離構造の界面が衝撃エネルギーを吸収するため、耐衝撃性がより向上する。
【0024】
ポリアミド(連続相)中に熱可塑性フッ素樹脂(分散相)が分散した海島状の相分離構造において、熱可塑性フッ素樹脂(分散相)の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、0.01〜10μmであることがより好ましい。分散相の平均粒径が10μm以下であれば、ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の界面面積が大きくなるため、耐衝撃性がより向上する。一方、熱可塑性フッ素樹脂の平均粒径が0.01μm以上であれば、熱可塑性樹脂組成物を容易に製造可能になる。
【0025】
ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂とで共連続構造を形成した相分離構造において、ポリアミドの平均相間距離は10μm以下であることが好ましく、0.01〜10μmであることがより好ましい。ポリアミドの平均相間距離が10μm以下であれば、ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の界面面積が大きくなるため、耐衝撃性がより向上する。一方、ポリアミドの平均相間距離が0.01μm以上であれば、熱可塑性樹脂組成物を容易に製造可能になる。
【0026】
熱可塑性フッ素樹脂の平均粒径およびポリアミドの平均相間距離は、成形品の樹脂断面を走査型電子顕微鏡等で観察し、市販の画像解析装置等で解析することにより求められる値である。
なお、相分離構造は、熱可塑性樹脂組成物の製造過程において、高せん断混練すると発現しやすい。また、相分離構造の状態は、熱可塑性フッ素樹脂やポリアミドの配合割合を調整することで制御できる。例えば、ポリアミドの配合割合が多くなると、海島状の相分離構造が形成されやすくなり、熱可塑性フッ素樹脂の配合割合が多くなると、ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂とで共連続構造を形成しやすくなる。
【0027】
以上説明した本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミドと特定の熱可塑性フッ素樹脂と炭素繊維とを特定量含有するので、耐油性、特に耐ガソリン性、耐衝撃性、導電性の全てに優れる。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出し成形等の通常の成形方法により、所望の形状の成形品に成形される。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は各種用途に使用できるが、耐油性(特に耐ガソリン性)、耐衝撃性、導電性に優れるので、特にガソリンタンクや、ガソリン等の引火性ガス存在下で使用する設備・装置などの部材の材料として好適である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例および比較例で用いた原料、および評価方法は以下の通りである。
【0030】
[原料]
<ポリアミド>
・PA11−A:ナイロン11(アルケマ社製、型番:リルサンB BMN 0TLD)。
・PA11−B:ナイロン11(アルケマ社製、型番:MB3000)。
・PA12:ナイロン12(アルケマ社製、型番:リルサンA AMN)。
・PA66:ナイロン66(東レ株式会社製、型番:アミラン CM3001−N)。
・PA6:ナイロン6(東レ株式会社製、型番:CM1017)。
【0031】
<熱可塑性フッ素樹脂>
・THV−1:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(住友スリーエム株式会社製、型番:THV221GZ、引張伸び:600%、引張応力:20MPa)。
・THV−2:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(住友スリーエム株式会社製、型番:THV500、引張伸び:500%、引張応力:28MPa)。
・THV−3:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(住友スリーエム株式会社製、型番:THV610、引張伸び:500%、引張応力:28MPa)。
・THV−4:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(住友スリーエム株式会社製、型番:THV810、引張伸び:430%、引張応力:29MPa)。
・ETFE:テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ダイキン工業株式会社製、型番:ネオフロンEP521、引張伸び:550%、引張応力:25MPa)。
【0032】
<熱可塑性フッ素樹脂の代替品>
・SEBS:スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(旭化成株式会社製、型番:タフテックH1053、引張伸び:550%、引張応力:24.6MPa)。
・ゴム:クロロピレンの重合により得られた合成ゴム(クロロピレンゴム)。
【0033】
なお、熱可塑性フッ素樹脂およびその代替品の引張伸びと引張応力は、ASTM D638に準じて測定した。
【0034】
<炭素繊維>
・炭素繊維−1:ポリアクリロニトリル系炭素繊維(三菱レイヨン株式会社製、商品名:パイロフィル、平均繊維径:7μm)。
・炭素繊維−2:ピッチ系炭素繊維(三菱樹脂株式会社製、商品名:ダイアリード、平均繊維径:11μm)。
・炭素繊維−3:カーボンナノチューブ(昭和電工株式会社製、商品名:VGCF−X、平均繊維径:0.012μm)。
【0035】
<炭素繊維の代替品>
・炭素粉:導電性カーボンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製、商品名:ケッチェンブラック)。
・金属粉:ステンレス鋼粉(JFEテクノリサーチ社製、商品名:SUSテック)。
【0036】
[測定・評価]
<相分離構造の確認>
熱可塑性樹脂組成物の相分離構造は、熱可塑性樹脂組成物をJIS K 7139により規定された多目的試験片形状に射出成形し、その中央直線部分の断面を測定サンプルとして操作型電子顕微鏡で観察することにより確認した。
ポリアミド中に熱可塑性フッ素樹脂が分散した海島状の相分離構造を「海島構造」とし、熱可塑性フッ素樹脂とポリアミドとで共連続構造を形成した相分離構造を「共連続構造」とする。
【0037】
<海島構造を示す熱可塑性樹脂組成物における、熱可塑性フッ素樹脂の平均粒径の測定>
熱可塑性樹脂組成物の相分離構造が図1に示すように海島構造であった場合、測定サンプル上のランダムに選択した点を中心に低倍率から徐々に倍率を上げ、熱可塑性フッ素樹脂の島構造(分散相)が50個以上100個未満観察されたときに、島構造の粒径を測定した。この操作を10点で繰り返し行い、その平均値を熱可塑性フッ素樹脂の平均粒径とした。
【0038】
<共連続構造を示す樹脂組成物における、ポリアミドの平均相間距離の測定>
熱可塑性樹脂組成物の相分離構造が図2に示すように共連続構造であった場合、測定サンプル上のランダムに選択した点を中心に低倍率から徐々に倍率を上げ、一辺の長さaの正方形の範囲にポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂が合計4層存在したとき、ポリアミドの相間距離bをb=a/2として求めた。この操作を10点で繰り返し行い、その平均値をポリアミドの平均相間距離とした。
【0039】
<炭素繊維の平均繊維径およびアスペクト比の測定>
熱可塑性樹脂組成物をJIS K 7139により規定された多目的試験片形状に射出成形し、その中央直線部分から樹脂0.5〜1gの範囲で切り出し、ヘキサフルオロイソプロパノール、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル等を用いて樹脂成分を溶解したのち、炭素繊維のみを分離した。分離した炭素繊維を走査型電子顕微鏡で観察してその繊維径と繊維長を測定した。任意に採取した10本の炭素繊維について繊維径と繊維長を測定し、それらの平均値を炭素繊維の平均繊維径および平均繊維長とし、アスペクト比を求めた。
【0040】
<耐油性の評価>
厚さ0.1mmのシルボン紙を10枚重ねて、幅10mmのPTFEブロックに巻きつけ試験ジグとした。試験サンプル上に試験ジグをのせ、シルボン紙にJIS K 2202号に適合したガソリンを十分染み込ませた後に、試験ジグの上に200gの錘をのせて試験ジグを試験サンプルの長手方向へ3000回摺動させた。3000回摺動後の試験サンプルの表面状態を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。なお、シルボン紙が乾かないように、ガソリンは適宜追加した。
○:変化が見られず、外観が良好である。
×:表面に白色析出物が析出した。
【0041】
<耐衝撃性の評価>
ASTM D256に準拠し(23℃、ノッチ付)、試験サンプルのアイゾット衝撃強度を測定し、以下の評価基準にて評価した。
◎:アイゾット衝撃強度が500J/m以上。
○:アイゾット衝撃強度が300J/m以上、500J/m未満。
×:アイゾット衝撃強度が300J/m未満。
【0042】
<導電性の評価>
表面抵抗計(シムコジャパン株式会社製、製品名:ST−3)を用いて表面抵抗値を測定し、以下の評価基準にて評価した。
◎:表面抵抗値が1×10Ω以下。
○:表面抵抗値が1×10Ω超、1×10Ω以下。
×:表面抵抗値が1×10Ω超。
【0043】
[実施例1]
スクリュー径20mmのスクリューを備えた二軸混練機に、表1に示す配合組成に従って各成分を投入し、温度240℃の条件で溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物の相分離構造を確認し、熱可塑性フッ素樹脂の平均粒径またはポリアミドの平均相間距離を測定し、さらに、熱可塑性樹脂組成物中の炭素繊維の平均繊維径およびアスペクト比を測定した。結果を表1に示す。
ついで、得られた熱可塑性樹脂組成物をJIS K 7139により規定された多目的試験片形状に射出成形し、成形品(試験片)を得た。得られた試験片の直線部位(長さ40mm、幅10mm、厚み4mm)を切り出して試験サンプルとし、耐油性、耐衝撃性の評価を行った。なお、試験面には長さ40mmと幅10mmの面を使用した。結果を表1に示す。
別途、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて縦150mm、横150mm、厚さ5mmの試験片を射出成形し、得られた試験片を用いて導電性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2〜19、比較例1〜8]
各成分の配合組成を表1、2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製し、試験片を製造し、各測定・評価を行った。結果を表1、2に示す。
なお、比較例4については、熱可塑性樹脂組成物中の炭素繊維のアスペクト比を求めなかった。
【0045】
[比較例9]
ポリアミドと変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)と炭素繊維の混合物(SABIC社製、商品名:ノイルGTX974)を用いた以外は、実施例1と同様にしてシート状の成形品(試験片)を製造し、各測定・評価を行った。結果を表2に示す。
なお、比較例9については、混合物中の炭素繊維の平均繊維径およびアスペクト比を求めなかった。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表1から明らかなように、各実施例で得られた成形品は、耐油性、耐衝撃性、導電性に優れていた。
一方、表2から明らかなように、炭素繊維の配合量が70質量部と多い比較例1で得られた成形品は、耐衝撃性に劣っていた。
ポリアミドの配合量が90質量部と多く、熱可塑性フッ素樹脂の配合量が10質量部と少ない比較例2で得られた成形品は、耐衝撃性に劣っていた。
引張伸びが430%である熱可塑性フッ素樹脂(THV−4)を用いた比較例3で得られた成形品は、耐衝撃性に劣っていた。
熱可塑性フッ素樹脂の代わりにSEBSを用いた比較例4で得られた成形品は、耐油性に劣っていた。
熱可塑性フッ素樹脂の代わりにゴムを用い、かつ炭素繊維を含有しない比較例5で得られた成形品は、耐油性および導電性に劣っていた。
熱可塑性フッ素樹脂の代わりにゴムを用いた比較例6で得られた成形品は、耐衝撃性に劣っていた。
炭素繊維の代わりに炭素粉または金属粉を用いた比較例7、8で得られた成形品は、耐衝撃性に劣っていた。
ポリアミドと変性ポリフェニレンエーテルと炭素繊維の混合物を用いた比較例9で得られた成形品は、耐油性および耐衝撃性に劣っていた。
【符号の説明】
【0049】
A:ポリアミド
F:熱可塑性フッ素樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド30〜80質量部と、熱可塑性フッ素樹脂20〜70質量部(ただし、ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の合計が100質量部である。)と、炭素繊維とを含有し、
前記ポリアミドと熱可塑性フッ素樹脂の合計100質量部に対して、前記炭素繊維の含有量が5〜50質量部であり、
かつ、前記熱可塑性フッ素樹脂の引張伸びが450%以上であり、引張応力が5MPa以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記炭素繊維の平均繊維径が0.01〜50μmであり、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10〜200であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性フッ素樹脂がポリアミド中に分散した海島状の相分離構造を有し、その熱可塑性フッ素樹脂の平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性フッ素樹脂とポリアミドとで共連続構造を形成した相分離構造を有し、そのポリアミドの平均相間距離が10μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−14656(P2013−14656A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147169(P2011−147169)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】