説明

熱応動弁装置

【課題】 複数の熱交換器を備えた内燃機関の冷却システムにおいて、小型軽量で簡単かつ安価な構成でありながら、内燃機関の暖機性能を向上させると共に、各熱交換器への冷却水の流通を要求に応じて適宜に制御することができる熱応動弁装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係る熱応動弁装置は、周囲の流体温度に応じて熱応動する共通の熱応動素子により駆動され、前記周囲の流体温度に応じて所定領域と複数の流体通路のそれぞれとの連通度合いを制御する前記複数の流体通路に対応して設けられる複数の弁体であって、そのうち1つがラジエータと所定領域との連通度合いを制御する主弁体を含む複数の弁体を備えた熱応動弁装置であって、前記主弁体以外の複数の弁体の何れか1つが、前記所定領域と、対応する流体通路と、の連通度合いの制御を開始してから、前記主弁体の連通度合いの制御が開始されるまでを遅延させる遅延機構が備えられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱応動弁装置に関する。例えば、冷却システムを備えた内燃機関等の燃焼装置の冷媒である冷却水の循環系に適用できる熱応動弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の冷却システムとして、例えば、特許文献1には、ラジエータ、ATF(Automatic Transmission Fluid)クーラ、オイルクーラ、インタークーラ、EGR(Exhaust Gas Recirculation)クーラなどの複数の熱交換器が介装された内燃機関等の冷却システムにおいて、暖機優先順位の高い熱交換器から順に冷却水を循環させるように冷却水の循環経路を切り換えるように構成したものが記載されている。
【0003】
このものは、複数のサーモスタットS1〜S3を用いて、冷却水の循環経路を切り換えることにより、暖機優先順位の高い熱交換器から順に冷却水を循環させるように構成されている。
【0004】
また、図54、図55に示したように、導入側連通孔56aが開口されたピストン56をサーモワックス57aの膨張・収縮を利用して軸線方向に移動させ、当該移動に応じて前記導入側連通孔56aと連通する循環経路が切り換えられる熱循環通路切換装置5を含んで構成し、これにより、暖機優先順位の高い熱交換器から順に冷却水を循環させるように構成したものが記載されている。
【特許文献1】特開2007−198206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、複数のサーモスタットが必要であり、構成が複雑化すると共にシステムが大型化して重量が嵩むと共に、コスト面や搭載レイアウト面などで不利となるといった惧れがある。
【0006】
また、図54、図55に示したような循環通路切換装置5においては、導入側連通孔56aが開口されたピストン56を軸線方向に移動させる所謂スライドバルブが採用され、その移動に応じて軸線方向に並んで配設された循環経路の連通状態を切り換えるものであるため、熱循環通路切換装置5が軸線方向に長くなりシステムが大型化して重量が嵩むと共に、コスト面や搭載レイアウト面などで不利となるといった惧れがある。
【0007】
更に、所謂スライドバルブをこのような冷却システムの循環通路切換装置に用いる場合には、シール性の問題や異物等の混入による性能低下や固着などについての配慮が必要になるが、かかる配慮がなく、実用上採用し難いといった問題がある。
【0008】
加えて、冷却システムにおいては、循環通路切換装置にリリーフ機能を持たせて過大圧力による熱交換器の破損や連結ホース抜けなどを抑制することが求められるが、特許文献1に記載のような所謂スライドバルブにこのようなリリーフ機能を持たせることは構成が複雑化するなど実用上採用し難いといった問題がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の各システムは、システムの構成上、逆止弁12、13が必要になるため、システムが複雑化・大型化して重量が嵩むと共に、コスト面や搭載レイアウト面などで不利となるといった惧れがある。
【0010】
更に、特許文献1に記載の各システムは、暖機性能に主眼を置いているため、高負荷時、高水温時などにおいては、熱交換器で回収された熱は放熱されることなくエンジン内部へ進入することになるため、エンジンの熱負荷が大きくなるといった惧れがある。
【0011】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、複数の熱交換器を備えた内燃機関の冷却システムにおいて、小型軽量で簡単かつ安価な構成でありながら、内燃機関の暖機性能を向上させると共に、各熱交換器への冷却水の流通を要求に応じて適宜に制御することができる熱応動弁装置を提供することを目的とする。また、当該熱応動弁装置を備えた冷却システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため、本発明に係る熱応動弁装置は、
周囲の流体温度に応じて熱応動する共通の熱応動素子により駆動され、前記周囲の流体温度に応じて所定領域と複数の流体通路のそれぞれとの連通度合いを制御する前記複数の流体通路に対応して設けられる複数の弁体であって、そのうち1つがラジエータと所定領域との連通度合いを制御する主弁体を含む複数の弁体を備えた熱応動弁装置であって、
前記主弁体以外の複数の弁体の何れか1つが、前記所定領域と、対応する流体通路と、の連通度合いの制御を開始してから、前記主弁体の連通度合いの制御が開始されるまでを遅延させる遅延機構が備えられたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る熱応動弁装置において、前記所定領域と、対応する流体通路と、の連通度合いの制御の開始が、要求される前記流体温度に応じて、前記複数の弁体毎に設定されることを特徴とすることができる。
【0014】
本発明に係る熱応動弁装置において、前記遅延機構は、前記主弁体に前記共通の熱応動素子の熱応動動作が伝達されるまでの遅延量に基づいて遅延させることを特徴とすることができる。
【0015】
本発明に係る熱応動弁装置において、前記遅延機構は、前記共通の熱応動素子の熱応動動作に従って前記主弁体が移動して当該主弁体が開弁されるまでの移動量に基づいて遅延させることを特徴とすることができる。
【0016】
本発明に係る熱応動弁装置において、前記複数の流体通路から独立した流体通路と、当該流体通路を開閉する弁体と、が備えられ、当該弁体が前記共通の熱応動素子により駆動されることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の熱交換器を備えた内燃機関の冷却システムにおいて、小型軽量で簡単かつ安価な構成でありながら、内燃機関の暖機性能を向上させると共に、各熱交換器への冷却水の流通を要求に応じて適宜に制御することができる熱応動弁装置を提供することを目的とする。また、当該熱応動弁装置を備えた冷却システムを提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る熱応動弁装置の実施例を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施例により、本発明が限定されるものではない。
また、以下で説明する実施例に係る熱応動弁装置が制御の対象とする流体は、冷却水等の冷媒に限定されるものではないと共に、非圧縮性流体、圧縮性流体のいずれにも適用可能であり、水道水、純水等の液体は勿論、気体にも適用可能である。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1に係るサーモスタット(熱応動弁装置)100は、図1に示すように、例えば自動車等に搭載される或いは定置式のエンジン1などに採用される(ガソリン、軽油、アルコール等の他、種々の雑燃料を燃料とする内燃機関や外燃機関などの熱機関の他、動力等を取り出さない燃焼装置の冷却回路や燃料電池のセル冷却回路などの冷却システムにも本発明は適用可能である)。
【0020】
図1に示したように、エンジン1にはクランク軸等により駆動されるメカニカル駆動のウォータポンプ2がエンジン1の内部の冷却通路(図示せず)の入口側に接続され、エンジン1の内部の冷却通路の出口側には、サーモスタット100が配設され、当該サーモスタット100には、エンジン1の冷却水の放熱用の熱交換器であるラジエータ3が介装されウォータポンプ2に接続されるラジエータ通路200が接続されると共に、ヒータシステム用の熱交換器であるヒータコア4が介装されウォータポンプ2に接続されるヒータコア通路300が接続されている。
【0021】
また、サーモスタット100には、前記ラジエータ3をバイパスしウォータポンプ2に接続されるバイパス通路400が接続されると共に、EGRガスの冷却用の熱交換器であるEGRクーラ5が介装されウォータポンプ2に接続されるEGRクーラ通路500、エンジンオイルやトランスミッションオイル等の冷却用の熱交換器であるオイルクーラ6が介装されウォータポンプ2に接続されるオイルクーラ通路600が接続されている。
【0022】
ここで、本実施例に係るサーモスタット100は、例えば図5に示すように、内部にサーモエレメント180(熱応動素子)の温度感知部181側を収容するハウジング部101を備えて構成されている。また、サーモエレメント180のピストンロッド181aを支持する支持部102と、前記ラジエータ通路200が接続されるラジエータ側接続部120と、が備えられている。
【0023】
前記ハウジング部101には、ウォータポンプ2の出口側(すなわち、エンジン1の内部の冷却通路の出口側)に接続されるエンジン側接続部110と、前記ヒータコア通路300に接続されるヒータコア通路接続部130と、前記EGRクーラ通路500に接続されるEGRクーラ通路接続部150と、前記オイルクーラ通路600に接続されるオイルクーラ通路接続部160と、が設けられている。
【0024】
なお、前記ハウジング部101の図5中下方には、前記温度感知部181の延在部であるロッド183の下方部分を収容するハウジング部104が配設され、当該ハウジング部104には前記バイパス通路400に接続されるバイパス通路接続部140が設けられている。
【0025】
ここで、サーモエレメント180は、ハウジング部101内の冷却水の温度を感知して膨張収縮するワックス等の熱膨張体を内封した温度感知部181を備え、この温度感知部181から、当該温度感知部181内部の熱膨張体の熱膨張収縮に応じて図5中上下方向に沿って伸縮するピストンロッド181aが突出している。
【0026】
このピストンロッド181aの一端(図5中上端)部は前記支持部102に支持されており、他端側は前記温度感知部181に収容されている。
【0027】
前記温度感知部181には、ピストンロッド181a側に当該温度感知部181と略一体的にスプリングシート182が取り付けられており、当該スプリングシート182は前記ラジエータ側接続部120側と前記ハウジング部101の内部とを連通或いは遮断する弁としての機能を奏することが可能な弁形状を有して構成されている。なお、当該スプリングシート182が、本発明に係る主弁体に相当する。
【0028】
また、前記ハウジング部101(前記支持部102)と略一体的なスプリングサポート部103が前記スプリングシート182に対向して前記ハウジング部101に設けられており、スプリングサポート部103と前記スプリングシート182との間には、前記スプリングシート182を閉弁側(図5上方)に付勢するコイルスプリング185が配設されている。なお、スプリングサポート部103の中心部分には通路141が設けられ、当該通路141には前記温度感知部181の延在部であるロッド183が挿通されるようになっている。
【0029】
このように、本実施例では、前記温度感知部181の下端部には、図5中下側にロッド183が延在しており、このロッド183はその最上部で最も大径のロッド183Aと、その中間部で中間の径を有するロッド183Bと、その最下部で最も小径のロッド183Cと、により構成されている。
【0030】
また、ロッド183Cの下端部にはスプリングシート184Cが取り付けられている。このスプリングシート184Cは、ロッド183Cに対して摺動自在に嵌挿され、例えば、ロッド183Cの下端部に配設されたスナップリング等の位置規制部材189を介して下方への移動を規制されつつ、当該位置規制部材189に対してスプリング187により付勢されている。
【0031】
前記スプリングシート184Cは、前記バイパス通路接続部140と前記ハウジング部101、104の内部とを連通或いは遮断する弁としての機能を奏することが可能な弁形状を有して構成されている。
【0032】
そして、前記スプリングシート184Cと、前記ロッド183Bと前記ロッド183Cとの間の段部に突き当て可能に構成されるスプリングシート184Bと、の間には、前記コイルスプリング187が配設されており、これによりスプリングシート184Cは前記ロッド183の下端部側の位置規制部材189に対して付勢される一方で、スプリングシート184Bが閉弁方向に付勢されることになる。
【0033】
また、前記スプリングシート184Bと、前記ロッド183Aと前記ロッド183Bとの間の段部に突き当て可能に構成されるスプリングシート184Aと、の間には、コイルスプリング186が配設されており、これによりスプリングシート184Aは前記ロッド183Aと前記ロッド183Bとの間の段部方向に付勢されることになる。なお、図5の状態においては、当該段部に突き当たる前の状態で、通路141の周囲に設けられているオイルクーラ通路接続部160の開口部に着座して閉塞した状態となっている。
【0034】
そして、前記スプリングシート184Aの中央部には対応するロッド183Bを摺動自在に嵌挿可能な開口部が設けられていると共に、その周囲に冷却水を流通させるための開口部が設けられ、更にその外周側は前記オイルクーラ通路接続部160を閉塞するための弁体として機能するように構成されている。
【0035】
また、前記スプリングシート184Bの中央部には対応するロッド183Cを摺動自在に嵌挿可能な開口部が設けられていると共に、その周囲に冷却水を流通させるための開口部が設けられ、更にその外周側は前記EGRクーラ通路接続部150を閉塞するための弁体として機能するように構成されている。
【0036】
なお、スプリング188は、前記ハウジング部104と前記スプリングシート184Bとの間に配設され、図5中上方にスプリングシート184Bを押し上げることで、スプリングシート184Bを前記EGRクーラ通路接続部150の開口部に着座させて閉塞させるように付勢するものである。
【0037】
上述したような構成を備えた本実施例に係るサーモスタット100の動作について、以下で説明する。
なお、前記ハウジング部101の内部が本発明に係る所定領域に相当し、前記ラジエータ通路200、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600などが本発明に係る流体通路の一例に相当し、弁体として機能する前記スプリングシート182、184A〜184Cが本発明に係る複数の弁体に相当する。
【0038】
(デフォルト(初期:バイパス循環)状態:図1、図5)
図1及び図5は、冷却水温度が低く温度感知部181が初期位置にある状態を示しており、かかる初期状態においては、図5に示したように、スプリングシート(弁体)182、184A、184Bが閉弁され、スプリングシート(弁体)184Cが開弁している状態となっている。
【0039】
従って、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、エンジン1の内部の冷却通路の出口側に接続されるエンジン側接続部110からサーモスタット100のハウジング101内に導かれ、図5に示すようにサーモスタット100内を流れ、図1に示したように、前記ヒータコア通路300と前記バイパス通路400とを介してウォータポンプ2に戻されることになる。
これにより、冷却水から外部へ持ち去られる熱量が低減され、エンジン1の暖機が促進されることになる。
【0040】
(第1開弁状態:図2(実線矢印)、図6)
図1及び図5の状態から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が所定に上昇すると、サーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が熱膨張してピストンロッド181aを伸張させるため、図6に示すように、前記スプリングシート182は、前記コイルスプリング185の付勢力に抗して図6中下方に移動される。
【0041】
しかしながら、かかる第1開弁状態においては、スプリングシート182が図6中下方に移動しても、図11に示すように、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部との連通は遮断された状態が維持されるように構成されている。これにより、エンジン1の暖機促進に寄与することができる。
【0042】
すなわち、スプリングシート182は、図10〜図14に示すように、サーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が熱膨張してピストンロッド181aが伸張するに従って各図中下方に移動するが、その移動量が所定の開弁温度調整代A(本発明に係る遅延量に相当する)を越えた状態(図13、図14がかかる状態に相当する)になるまでは、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部との連通を遮断した状態が維持される構成となっている。例えば、スプリングシート182に配設されているリップ状のゴム(ラバー)部がハウジング部101の内壁と円周方向に亘って当接して密封状態を維持するようになっている。
ここで、サーモエレメント180の熱応動動作が開始しても、所定の開弁温度調整代A(本発明に係る遅延量に相当する)により、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部との連通を遮断した状態を維持する構成が、本発明に係る遅延機構に相当する。
【0043】
この一方で、図6に示したように、前記温度感知部181と一体のロッド183も図6中下方に移動されるが、これに伴いスプリングシート184Bがロッド183Bによって図6中下方に押し下げられて開弁された状態となる。
【0044】
なお、スプリングシート184Aは、ロッド183Aと当接して開弁されるものであるが、図5や図15に示した開弁温度調整代Xの存在により、前記スプリングシート184Bの開弁温度より所定温度だけ高温で開弁されるように調整されており、従ってロッド183(ロッド183A)が図6中下方に移動しても当該スプリングシート184Aは開弁せず、前記オイルクーラ側接続部160延いては前記オイルクーラ通路600と前記ハウジング部101の内部との連通は遮断された状態が維持されるように構成されている。
【0045】
ところで、スプリングシート184Cの開弁量(前記バイパス通路接続部140の図6中上端面(弁座)との距離)は、ロッド183が図6中下方に移動した分だけ小さくなっている。
【0046】
これにより、図6に示すように、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記EGRクーラ通路接続部150延いては前記EGRクーラ通路500に流入することになり、図2の実線矢印で示すように、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0047】
従って、EGR通路500に介装されているEGRクーラ5によりEGRガスの冷却を行うこと、或いはEGRガス温度が低い場合には昇温させて低温時における燃焼改善を図ること、更にはある程度温まった冷却水を供給することで、EGRガス中の水分の結露等を防ぐことなどが可能となる。
【0048】
(第2開弁状態:図2(実線矢印+破線矢印)、図7)
図2(実線矢印)及び図6の状態から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が更に上昇すると、サーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が更に熱膨張してピストンロッド181aを伸張させるため、図7に示すように、前記スプリングシート182は、前記コイルスプリング185の付勢力に抗して図7中下方に移動される。
【0049】
しかしながら、かかる第2開弁状態においても、上述のように前記スプリングシート182が図7中下方に移動しても、図12に示したように、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部との連通は遮断された状態が維持されるように構成されている。
【0050】
この一方で、図7に示したように、前記温度感知部181と一体のロッド183も図7中下方に移動されるが、これに伴い前記開弁温度調整代X分が消失して、スプリングシート184Aがロッド183Aによって図7中下方に押し下げられて開弁された状態となる。
【0051】
なお、スプリングシート184Bは、開弁状態が維持され、その開弁量(前記EGRクーラ通路接続部150の図7中下端面(弁座)との距離)がロッド183が図7中下方に移動した分だけ増大されている。
【0052】
また、スプリングシート184Cの開弁量(前記バイパス通路接続部140の図7中上端面(弁座)との距離)は、ロッド183が図7中下方に移動した分だけ小さくなっている。
【0053】
これにより、図7に示すように、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記オイルクーラ通路接続部160延いては前記オイルクーラ通路600にも流入することになり、図2の実線矢印及び破線矢印で示すように、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0054】
このため、オイルクーラ通路600に介装されているオイルクーラ6により、例えば、エンジンオイルやトランスミッションオイル等の温度が低い場合には早期に昇温させて低フリクション化を実現すること、或いはエンジンオイルやトランスミッションオイル等の冷却を行うことなどが可能となる。
【0055】
(第3開弁状態:図3、図8)
図2(実線矢印+破線矢印)及び図7の状態から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が更に上昇すると、サーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が更に熱膨張してピストンロッド181aを伸張させるため、図8に示すように、前記スプリングシート182は、前記コイルスプリング185の付勢力に抗して図8中下方に移動されて開弁し、図13に示したように、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部とが連通された状態となる。
【0056】
また、前記スプリングシート184A、184Bは、開弁状態が維持され、その開弁量がロッド183が図8中下方に移動した分だけ増大されている。
【0057】
また、スプリングシート184Cの開弁量(前記バイパス通路接続部140の図8中上端面(弁座)との距離)は、ロッド183が図8中下方に移動した分だけ小さくなっている。
【0058】
これにより、図8に示すように、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200にも流入することになり、図3に示すように、前記ラジエータ通路200、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0059】
このため、前記ラジエータ通路200に介装されているラジエータ3により、エンジン1の冷却水の冷却を行うことが可能となる。
【0060】
(温調状態:図3、図8)
上記の第3開弁状態により、前記スプリングシート182が開弁されると、冷却水の温度変化に応じてサーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が熱膨張或いは収縮してピストンロッド181aが伸張或いは収縮されることによって、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部との連通度合い(すなわち、前記スプリングシート182の開弁量)が調整され、以ってラジエータ3による冷却水からの放熱量が制御され、延いては冷却水の温度を所定の温度に制御することができることになる。
【0061】
更に、ピストンロッド181aの伸張或いは収縮と連動するロッド183の動きに応じてスプリングシート184A、184Bの開弁量が制御されるため、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600へ流入する冷却水量が制御されることになるため、EGRクーラ5によるEGRガスの温度状態やオイルクーラ6によるエンジンオイルやトランスミッションオイル等の温度状態を要求に応じて好適に維持することが可能となる。
【0062】
(バイパスバルブ閉弁状態:図4、図9)
上記の温調状態から、冷却水の温度が更に上昇してサーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が更に熱膨張してピストンロッド181aが伸張されると、図9に示すように、前記スプリングシート182(図14参照)、184A、184Bの開弁状態を維持しつつ、ロッド183Cに取り付けられているスプリングシート184Cが図9中下方に移動して、前記バイパス通路側接続部140延いては前記バイパス通路400と前記ハウジング部101の内部との連通を遮断した閉弁状態となる。
【0063】
すなわち、スプリングシート184Cが閉弁に近づくに連れてバイパス通路400へ流入する冷却水を徐々に減量し、前記ラジエータ通路200へ流入する冷却水を増加させるように機能し、閉弁後は、図4に示したように、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記バイパス通路側接続部140延いては前記バイパス通路400への流入が遮断され、前記ラジエータ通路200、前記ヒータコア通路300、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0064】
このため、前記ラジエータ通路200に介装されているラジエータ3を通過する冷却水流量を増加させることができるため、エンジン1の冷却水が所定以上に高温となることなどを効果的に抑制することが可能となる。
【実施例2】
【0065】
実施例2は、実施例1に対して、図16〜図19に示すように、サーモスタット100をウォータポンプ2の吸込側(エンジン1の内部の冷却通路の入口側)に配設した場合の一例を示している。
【0066】
なお、サーモスタット100の動作については実施例1と同様であるので、ここでは詳細な説明は省略する。但し、実施例1に対して、実施例2においては、スプリング188は、前記ハウジング部104と前記スプリングシート184Bとの間に配設され、図5中上方にスプリングシート184Bを押し上げることで、当該スプリングシート184Bと当接するロッド183B延いてはロッド183(すなわち、温度感知部181)を図5中上方に押し上げて、温度感知部181を初期位置(元位置)へ復帰させるように付勢するリターンスプリングとして機能することになる。
そして、当該スプリング188は、このようなリターン機能と共に、スプリングシート184Bを前記EGRクーラ通路接続部150の開口部に着座させて閉塞させるように付勢することになる。
【0067】
また、サーモスタット100内の冷却水の流れ方も、図16〜図19に示したように、方向を考慮すれば、実施例1で説明した図5〜図9と同様と考えることができるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0068】
すなわち、本実施例のように、サーモスタット100をウォータポンプ2の吸込側(エンジン1の内部の冷却通路の入口側)に配設した場合においても、実施例1と同様の作用効果を奏することができるものである。
【0069】
なお、実施例2においては、実施例1と同様のサーモスタット100を用いることができるが、実施例1、実施例2共に、図20〜図24に示すようなサーモスタット1200を用いることができる。
【0070】
すなわち、スプリングシート182がサーモエレメント180の温度感知部181に対して一体的に取り付けられているのではなく、図20〜図24に示すように、例えば、スプリングシート182と温度感知部180の間に、密封状態を維持しつつスライド可能な弾性体(Oリング等)が配設されて、スプリングシート182がサーモエレメント180の温度感知部181に対して摺動自在に取り付けられている。なお、図5〜図9に示したものと同様の要素には同一符号を付して説明は省略する。
【0071】
そして、エンジン1の熱を受けて冷却水温が上昇すると、サーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が熱膨張してピストンロッド181aを伸張させるため、図20の状態(デフォルト状態)から図21〜図24の状態に移行するが、図21(第1開弁状態)、図22(第2開弁状態)においては、前記スプリングシート182は、図20に示す開弁温度調整代Y(本発明に係る遅延量に相当する)の存在により、ピストンロッド181aが冷却水温に応じて伸張しても、スプリングシート182は下方に移動せず、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部との連通は遮断された状態が維持されるように構成されている。これにより、エンジン1の暖機促進に寄与することになる。
ここにおいて、かかる構成が、本発明に係る遅延機構に相当する。
【0072】
また、図23(第3開弁状態)、図24(バイパス閉弁状態)においては、ピストンロッド181aが冷却水温に応じて所定以上に伸張して開弁温度調整代Yが消失し、前記スプリングシート182は開弁されることとなり、冷却水温に応じた開弁量で前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部とを連通させるように構成されている。
【0073】
従って、かかる構成を備えたサーモスタット1200によっても、図5〜図9で説明したサーモスタット100と同様の作用効果を奏することができるものである。
【実施例3】
【0074】
本発明の実施例3においては、実施例1で説明した図1に対して、図25に示すように、ラジエータ通路200を通過後に分岐される分岐通路210が配設され、当該分岐通路210は、EGRクーラ5の冷却水流れの上流側に接続される通路510と、オイルクーラ6の冷却水流れの上流側に接続される通路610と、に分岐されている。
【0075】
また、本実施例におけるスプリングシート184Cの配置が、図29に示すように、実施例1のものと異なっている。すなわち、スプリングシート184Cが、通路141の上流側(ロッド183の図29中上部)に配設されており、通路141を開放・遮断する弁体として機能するように構成されている。
なお、実施例3では、実施例1で説明したと同様の要素については同一の符号を付して詳細な説明は省略することとする。
【0076】
上述したような構成を備えた本実施例に係るサーモスタット1300の動作について、以下で説明する。
【0077】
(デフォルト(初期)状態:図25、図29)
図25及び図29は、冷却水温度が低く、前記温度感知部181が初期位置にある状態を示しており、かかる初期状態においては、図29に示したように、スプリングシート182、184A、184Bが閉弁され、スプリングシート184Cが開弁された状態となっている。
【0078】
従って、実施例1と同様、冷却水は、図29に示すようにサーモスタット100内を流れ、図25に示したように、前記ヒータコア通路300と前記バイパス通路400とを介してウォータポンプ2に戻されることになる。
これにより、冷却水から外部へ持ち去られる熱量が低減され、エンジン1の暖機が促進されることになる。
【0079】
(第1開弁状態:図26(実線矢印)、図30)
図25及び図29の状態から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が所定に上昇すると、実施例1と同様、図30に示したように、スプリングシート182、184Aが閉弁され、スプリングシート184B、184Cが開弁された状態となる。
【0080】
従って、実施例1と同様、冷却水は、図30に示すようにサーモスタット100内を流れ、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記EGRクーラ通路接続部150延いては前記EGRクーラ通路500に流入することになり、図26の実線矢印で示したように、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0081】
これにより、EGR通路500に介装されているEGRクーラ5によりEGRガスの冷却を行うこと、或いはEGRガス温度が低い場合には昇温させて低温時における燃焼改善を図ること、更にはある程度温まった冷却水を供給することで、EGRガス中の水分の結露等を防ぐことなどが可能となる。
【0082】
(第2開弁状態:図26(実線矢印+破線矢印)、図31)
図26(実線矢印)及び図30の状態から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が所定に上昇すると、実施例1と同様、図31に示したように、スプリングシート182が閉弁され、スプリングシート184A、184B、184Cが開弁されている状態となっている。
【0083】
従って、実施例1と同様、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、オイルクーラ通路接続部160延いては前記オイルクーラ通路600に流入することになり、図26の実線矢印及び破線矢印で示したように、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0084】
このため、実施例1と同様、オイルクーラ通路600に介装されているオイルクーラ6により、エンジンオイルやトランスミッションオイル等の冷却を行うこと、或いはエンジンオイルやトランスミッションオイル等の温度が低い場合には早期に昇温させて低フリクション化を実現することなどが可能となる。
【0085】
(第3開弁状態:図27、図32)
図26(実線矢印+破線矢印)及び図31の状態から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が更に上昇すると、実施例1と同様、図32に示すように、前記スプリングシート182は図32中下方に移動されて開弁し、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部とが連通された状態となる。
【0086】
また、前記スプリングシート184A、184Bは開弁状態が維持され、その開弁量がロッド183が図32中下方に移動した分だけ増大されている。
【0087】
一方、スプリングシート184Cの開弁量(前記通路141の図31中上端面(弁座)との距離)は、ロッド183が図37中下方に移動した分だけ小さくなっている。
【0088】
これにより、図32に示すように、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200にも流入することになり、図32に示すように、前記ラジエータ通路200、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0089】
また、本実施例においては、図32に示すように、ラジエータ3を通過した冷却水が、分岐通路210に流入し、EGRクーラ5へ接続される通路510と、オイルクーラ6へ接続される通路610と、を通って、それぞれEGRクーラ5、オイルクーラ6を通過した後、ウォータポンプ2に戻される冷却水経路も形成されることになる。
【0090】
このため、前記ラジエータ通路200に介装されているラジエータ3により、エンジン1の冷却水の冷却を行うことが可能となる。
更に、本実施例によれば、ラジエータ3を通過して冷却された冷却水を、EGRクーラ5やオイルクーラ6へ流通させることができるので、EGRガスや冷却対象のオイルをより一層効果的に冷却することができることになる。
【0091】
(温調状態:図27、図32)
実施例1と同様に、上記の第3開弁状態により、前記スプリングシート182が開弁されると、冷却水の温度変化に応じてサーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が熱膨張或いは収縮してピストンロッド181aが伸張或いは収縮されることによって、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部との連通度合い(すなわち、前記スプリングシート182の開弁量)が調整され、以ってラジエータ3による冷却水からの放熱量が制御され、延いては冷却水の温度を所定の温度に制御することができることになる。
【0092】
更に、実施例1と同様に、ピストンロッド181aの伸張或いは収縮と連動するロッド183の動きに応じてスプリングシート184A、184Bの開弁量が制御されるため、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600へ流入する冷却水量が制御されることになるため、EGRクーラ5によるEGRガスの温度状態やオイルクーラ6による冷却対象のオイルの温度状態を要求に応じて好適に維持することが可能となる。
【0093】
(バイパスバルブ閉弁状態:図28、図33)
上記の温調状態から、冷却水の温度が更に上昇してサーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が更に熱膨張してピストンロッド181aが伸張されると、図33に示すように、前記スプリングシート182、184A、184Bの開弁状態を維持しつつ、スプリングシート184Cが図33中下方に移動して、前記通路141を遮断した閉弁状態となる。
【0094】
すなわち、スプリングシート184Cが閉弁に近づくに連れて前記通路141延いては前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600へへ流入する冷却水を徐々に減量しながら、前記ラジエータ通路200へ流入する冷却水を増加させるように機能し、閉弁後は、図33に示すように、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600への流入が遮断され、前記ラジエータ通路200、前記ヒータコア通路300を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0095】
このため、前記ラジエータ通路200に介装されているラジエータ3を通過する冷却水流量を増加させることができるため、エンジン1の冷却水が所定以上に高温となるのを効果的に抑制することが可能となる。
【0096】
また、かかるバイパスバルブ閉弁状態において、ラジエータ3を通過しない比較的高温の冷却水が前記EGRクーラ5や前記オイルクーラ6へ直接流れ込むことが停止されると共に、ラジエータ3を通過して冷却された冷却水を、EGRクーラ5やオイルクーラ6へ流入させることができるので、EGRガスや冷却対象のオイルをより一層効果的に冷却することができることになる。
【0097】
なお、本実施例における所定領域の冷却水温度に対する、上記各状態と、EGRクーラ5を通過する「ラジエータ3からの冷却水の流量」と「サーモスタット1300からの冷却水の流量」との関係を、図35に示しておく。
【0098】
また、冷却水温度に対する、上記各状態と、オイルクーラ6を通過する「ラジエータ3からの冷却水の流量」と「サーモスタット1300からの冷却水の流量」との関係を、図36に示しておく。
【実施例4】
【0099】
実施例4は、実施例3に対して、図37〜図40に示すように、サーモスタット1300をウォータポンプ2の吸込側(エンジン1の内部の冷却通路の入口側)に配設した場合の一例を示している。
【0100】
なお、サーモスタット300の動作については実施例3と同様であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0101】
また、サーモスタット300内の冷却水の流れ方も、図37〜図40に示したように、方向を考慮すれば、実施例3と同様と考えることができるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0102】
ところで、本実施例のように、サーモスタット300をウォータポンプ2の吸込側(エンジン1の内部の冷却通路の入口側)に配設した場合においては、実施例3(エンジン出口側装着の例)が「熱交換器にラジエータ3を通過して冷却された冷却水を供給する」のに対して、「熱交換器で加熱された冷却水をラジエータ3で冷却する」ことになるため、熱交換器を通ってエンジン1に戻していた熱をラジエータ3で放熱できるといった利点がある。
【0103】
なお、本実施例における冷却水温度に対する、上記各状態と、EGRクーラ5を通過する「ラジエータ3への冷却水の流量」と「サーモスタット1300への冷却水の流量」との関係は、実施例3で示した図35に同時に示されている。
【0104】
また、冷却水温度に対する、上記各状態と、オイルクーラ6を通過する「ラジエータ3への冷却水の流量」と「サーモスタット1300への冷却水の流量」との関係は、実施例3で示した図36に同時に示されている。
【実施例5】
【0105】
本発明の実施例5においては、実施例4の図37に対して、図41に示すように、サーモスタット1400が備えられ、当該サーモスタット1400には、蓄熱タンク7及び電動式ウォータポンプ8が介装された蓄熱タンク通路700が接続されている。この蓄熱タンク通路700の他端側は、バイパス通路400に合流し、エンジン1の内部の冷却通路の出口側に接続されている。
【0106】
なお、本実施例は、エンジン1の運転中に高温となった冷却水を運転中(或いは停止直後)に所謂魔法瓶状の蓄熱タンク7に移送して貯留する一方、次回エンジン始動前に電動ポンプ8を駆動して前記蓄熱タンク7に貯留しておいた比較的高温の冷却水をエンジン1に供給して暖め(プレヒート)、始動性や始動後の燃焼特性を改善すると共にエンジン1の暖機完了までの時間を短縮して、未燃物質の排出量の低減等を図ることができるようにした蓄熱システムに本発明に係るサーモスタットを適用した一例を示したものである。
【0107】
具体的には、
本実施例では、プレヒートの際には、エンジン始動前に電動式ウォーターポンプ8を駆動して蓄熱タンク7に貯留しておいた比較的高温の冷却水をエンジン1に供給して暖機を図るが、かかるプレヒートモードにおいては、エンジン1の冷間始動の際にスタータによるクランキングを行なう前に電動式ウォーターポンプ8が駆動されると、電動式ウォーターポンプ8の吐出側の冷却水圧力が昇圧され、図42に示したサーモスタット1400のエンジン側接続部110から冷却水がサーモスタット1400のハウジング部101内へ流入しようとする。
【0108】
このとき、前記蓄熱タンク通路接続部750と前記電動式ウォーターポンプ8との間の蓄熱タンク通路700は、電動式ウォーターポンプ8の吸込側であり、かかる部分の冷却水圧力は低下しているため、ハウジング部101内の冷却水圧力により生じる押力が、蓄熱タンク通路700側の冷却水圧力により生じる押力とコイルスプリング153の付勢力との合計を上回ることとなって、逆止弁751が図42中右側に移動されて開弁(切欠752が開通)され、ハウジング部101側から蓄熱タンク通路700側への冷却水の通過が許容されることになる。
【0109】
従って、電動式ウォーターポンプ8により吐出される蓄熱タンク7内の比較的高温な冷却水が、エンジン1内の停止中に冷やされた冷却水を蓄熱タンク7側へ押し出し、エンジン1内の図示しない冷却通路(ウォータージャケット等も含む)が蓄熱タンク7に貯留されていた比較的高温の冷却水によって満たされることとなって、エンジン始動前においてエンジン1の暖機が図られることになる(プレヒート)。
これにより、エンジン1の冷間始動時における始動性や始動後における燃焼特性が改善され、特に未燃物質の排出量を効果的に低減することが可能となる。
そして、エンジン始動後は、サーモスタット1400は、以下のように動作することになる。
【0110】
(デフォルト(初期)状態:図42)
図42は、冷却水温度が低く、前記温度感知部181が初期位置にある状態を示しており、かかる初期状態においては、図42に示したように、スプリングシート182、184A、184Bが閉弁され、スプリングシート184Cが開弁された状態となっている。なお、逆止弁751は閉弁された状態となっている。
【0111】
従って、実施例3や実施例4と同様に、冷却水は、前記ヒータコア通路300と前記バイパス通路400とを介してウォータポンプ2に戻されることになる。
これにより、冷却水から外部へ持ち去られる熱量が低減され、エンジン1の暖機が促進されることになる。
【0112】
(第1開弁状態:図43)
図42の状態から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が所定に上昇すると、実施例3や実施例4と同様、図43に示したように、スプリングシート182、184Aが閉弁され、スプリングシート184B、184Cが開弁された状態となっている。なお、逆止弁751は閉弁された状態となっている。
【0113】
従って、実施例3や実施例4と同様、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
これにより、EGR通路500に介装されているEGRクーラ5によりEGRガスの冷却を行うこと、或いはEGRガス温度が低い場合には昇温させて低温時における燃焼改善を図ること、更にはある程度温まった冷却水を供給することで、EGRガス中の水分の結露等を防ぐことなどが可能となる。
【0114】
(第2開弁状態:図44)
図43から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が所定に上昇すると、実施例3や実施例4と同様、図44に示したように、スプリングシート182が閉弁され、スプリングシート184A、184B、184Cが開弁されている状態となっている。なお、逆止弁751は閉弁された状態となっている。
【0115】
従って、実施例3や実施例4と同様、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0116】
このため、実施例3や実施例4と同様、オイルクーラ通路600に介装されているオイルクーラ6により、エンジンオイルやトランスミッションオイル等の温度が低い場合には早期に昇温させて低フリクション化を実現すること、或いはエンジンオイルやトランスミッションオイル等の冷却を行うことなどが可能となる。
【0117】
(第3開弁状態:図45)
図44の状態から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が更に上昇すると、実施例3や実施例4と同様、図45に示すように、前記スプリングシート182が開弁された状態となると共に、前記スプリングシート184A、184Bは開弁状態が維持され、その開弁量がロッド183が図45中下方に移動した分だけ増大されている。
【0118】
また、スプリングシート184Cの開弁量(前記通路141の図45中上端面(弁座)との距離)は、ロッド183が図45中下方に移動した分だけ小さくなっている。
【0119】
これにより、実施例3や実施例4と同様、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記ラジエータ通路200、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0120】
また、本実施例においては、通路510と、通路610と、を介してウォータポンプ2に戻される冷却水経路も形成されることになる。
【0121】
更に、本実施例では、図45に示したように、サーモエレメント180の温度感知部181(例えばスプリングシート182)に略一体的に取り付けられたガイド部材710の形状に倣って、逆止弁751が、コイルスプリング753に抗して、図45中右方向に移動され開弁されることになる。
【0122】
このように、逆止弁751が開弁されると、ハウジング部101内へ、逆止弁651の切欠752、蓄熱タンク通路接続部750、蓄熱タンク通路700を介して冷却水が流入されるようになる。よって、蓄熱タンク通路700に介装される蓄熱タンク7では、先に貯留されていた低温の冷却水を、新たに流入してくる比較的高温の冷却水によって入れ替えて貯留することができることになる。なお、逆止弁751の開弁のタイミングは、第3開弁状態(スプリングシート182の開弁)とは関係なく、任意に設定することができるものである。
【0123】
(温調状態:図45)
実施例3や実施例4と同様に、上記の第3開弁状態により、前記スプリングシート182が開弁されると、冷却水の温度変化に応じてサーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が熱膨張或いは収縮してピストンロッド181aが伸張或いは収縮されることによって、前記ラジエータ側接続部120延いては前記ラジエータ通路200と前記ハウジング部101の内部との連通度合い(すなわち、前記スプリングシート182の開弁量)が調整され、以ってラジエータ3による冷却水からの放熱量が制御され、延いては冷却水の温度を所定の温度に制御することができることになる。
【0124】
更に、実施例3や実施例4と同様に、ピストンロッド181aの伸張或いは収縮と連動するロッド183の動きに応じてスプリングシート184A、184Bの開弁量が制御されるため、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600へ流入する冷却水量が制御されることになるため、EGRクーラ5によるEGRガスの温度状態やオイルクーラ6による冷却対象のオイルの温度状態を要求に応じて好適に維持することが可能となる。
【0125】
また、逆止弁751も開弁されているため、蓄熱タンク7への高温の冷却水への導入が継続され、高温の冷却水を蓄熱タンク7へ送ることで、次回始動時に備えてできるだけ高温の冷却水を蓄熱タンク7へ貯留させることが可能となっている。
【0126】
(バイパスバルブ閉弁状態:図46)
上記の温調状態から、冷却水の温度が更に上昇してサーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が更に熱膨張してピストンロッド181aが伸張されると、図46に示すように、前記スプリングシート182、184A、184B、逆止弁751の開弁状態を維持しつつ、スプリングシート184Cが図46中下方に移動して、前記通路141を遮断した閉弁状態となる。
【0127】
これにより、実施例3や実施例4と同様に、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記バイパス通路400、前記EGRクーラ通路500、前記オイルクーラ通路600への流入が遮断され、前記ラジエータ通路200、前記ヒータコア通路300を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0128】
このため、前記ラジエータ通路200に介装されているラジエータ3を通過する冷却水流量を増加させることができるため、エンジン1の冷却水が所定以上に高温となるのを効果的に抑制することが可能となる。
【0129】
また、ラジエータ3を通過しない比較的高温の冷却水が前記EGRクーラ5や前記オイルクーラ6へ直接流れ込むことが停止されると共に、ラジエータ3を通過して冷却された冷却水を、EGRクーラ5やオイルクーラ6へ流通させることができるので、EGRガスや冷却対象のオイルをより一層効果的に冷却することができることになる。
【0130】
更に、本実施例では、逆止弁751が開弁されているため、蓄熱タンク7への高温の冷却水への導入が継続され、高温の冷却水を蓄熱タンク7へ送ることで、次回始動時に備えてできるだけ高温の冷却水を蓄熱タンク7へ貯留させることが可能となっている。
【0131】
ところで、本実施例のように、サーモスタット1300をウォータポンプ2の吸込側(エンジン1の内部の冷却通路の入口側)に配設した場合においては、実施例3のようにサーモスタットをエンジン1の出口側に配設した場合の「熱交換器にラジエータ3を通過して冷却された冷却水を供給」するのに対して、熱交換器で加熱された冷却水をラジエータ3で冷却することになるため、熱交換器を通ってエンジン1に戻していた熱をラジエータ3で放熱できるといった利点がある。
【実施例6】
【0132】
実施例6を、図47、図48〜図51に基づいて説明する。
本実施例に係るサーモスタット1500には、図47に破線で示したように、エンジンオイルをエンジン1に供給するオイルポンプ9により循環されるエンジンオイルを冷却するオイルクーラ6が介装されたエンジンオイル通路900が接続されている。
なお、他の実施例と同様の要素については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0133】
本実施例に係るサーモスタット1500は、図48に示すように、他の実施例において備えられているスプリングシート184A、184Bが省略され、新たにスプリングシート184Dが備えられている。
【0134】
かかるスプリングシート184Dは、ロッド183の下端部に略一体的に取り付けられており、通路141の内壁に所定のシール性をもって摺動自在に嵌挿される円筒部184D1と、当該円筒部184D1の図48中下端部に接続されて大径の通路143に所定のシール性をもって摺動自在に嵌挿される円盤状のスプリングシート部184D2と、を含んで構成されている。例えば、スプリングシート184D1の外周に配設されているリップ状のゴム(ラバー)部が通路141の内壁と円周方向に亘って当接して密封状態を維持しつつ摺動するようになっている。また、例えば、スプリングシート184D2の外周に配設されているリップ状のゴム(ラバー)部が通路143の内壁と円周方向に亘って当接して密封状態を維持しつつ摺動するようになっている。
【0135】
また、スプリングシート184Dの円筒部184D1の図48中上端面には冷却水を流通させる開口部が設けられている。
【0136】
かかる構成を有するスプリングシート184Dは、ハウジング部101内における冷却水との混合を抑制しつつ、サーモスタット1500のハウジング部101に配設されるエンジンオイル等が流れるエンジンオイル通路900を開閉するための弁体として機能するもので、図48に示すように、スプリングシート部184D2と、弁座部901と、が当接することで、図48中右側と左側のエンジンオイル通路900が遮断され、スプリングシート部184D2と、弁座部901と、が離間することで、図48中右側と左側のエンジンオイル通路900が連通されるようになっている。
【0137】
そして、かかる構成を有するサーモスタット1500は、以下のように動作する。
(デフォルト(初期)状態:図48)
図48は、冷却水温度が低く、前記温度感知部181が初期位置にある状態を示しており、かかる初期状態においては、図48に示したように、スプリングシート182、184Dが閉弁され、スプリングシート184Cが開弁された状態となっている。
【0138】
従って、冷却水は、前記ヒータコア通路300と前記バイパス通路400とを介してウォータポンプ2に戻されることになる。また、前記エンジンオイル通路900は閉塞されており、前記オイルクーラ6へのエンジンオイルの流通は停止されている。
【0139】
このため、冷却水及びエンジンオイルからラジエータ3及びオイルクーラ6を介して外部へ持ち去られる熱量が低減され、エンジン1の暖機が促進されることになる。
【0140】
(第1開弁状態:図49)
図48の状態から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が所定に上昇すると、図49に示したように、スプリングシート182が閉弁され、スプリングシート184D、184Cが開弁された状態となっている。
【0141】
従って、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400を介してウォータポンプ2に戻され、エンジンオイルはエンジンオイル通路900を流通することになる。
【0142】
これにより、エンジンオイル通路900に介装されているオイルクーラ6によりエンジンオイルの冷却を行うことが可能となる。
【0143】
(第2開弁状態及び温調状態:図50)
図49から、エンジン1の熱を受けて冷却水温が所定に上昇すると、図50に示したように、スプリングシート182が開弁され、スプリングシート184Dが更に開弁された状態となっている。なお、スプリングシート184Cも開弁されており、その開弁量は、第1開弁状態に較べて減少されている。
【0144】
従って、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記ラジエータ通路200、前記ヒータコア通路300、前記バイパス通路400を介してウォータポンプ2に戻され、エンジンオイルはエンジンオイル通路900を流通することになる。
【0145】
これにより、前記ラジエータ通路200に介装されているラジエータ3により、エンジン1の冷却水の冷却を行うことが可能となると共に、エンジンオイル通路900に介装されているオイルクーラ6によりエンジンオイルの冷却を行うことが可能となる。
【0146】
(バイパスバルブ閉弁状態:図51)
図50の状態から、冷却水の温度が更に上昇してサーモエレメント180の温度感知部181内の熱膨張体が更に熱膨張してピストンロッド181aが伸張されると、図51に示すように、前記スプリングシート182、184Dの開弁状態を維持しつつ、スプリングシート184Cが図51中下方に移動して、前記通路141を遮断した閉弁状態となる。
【0147】
これにより、ウォータポンプ2により給送される冷却水は、前記バイパス通路400への流入が遮断され、前記ラジエータ通路200、前記ヒータコア通路300を介してウォータポンプ2に戻されることになる。
【0148】
このため、前記エンジンオイル通路900に介装されているオイルクーラ6によりエンジンオイルを効率的に冷却しながら、前記ラジエータ通路200に介装されているラジエータ3を通過する冷却水流量を増加させることができるため、エンジン1の冷却水が所定以上に高温となるのを抑制することが可能となる。
【実施例7】
【0149】
実施例7は、実施例6に対して、図53に示すように、サーモスタット1500をウォータポンプ2の吸込側(エンジン1の内部の冷却通路の入口側)に配設した場合の一例を示している。
【0150】
なお、サーモスタット1500の動作については実施例6と同様であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
【0151】
また、サーモスタット1500内の冷却水の流れ方も、方向を考慮すれば、実施例6と同様と考えることができるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0152】
すなわち、本実施例のように、サーモスタット1500をウォータポンプ2の吸込側(エンジン1の内部の冷却通路の入口側)に配設した場合においても、実施例6と同様の作用効果を奏することができるものである。
【0153】
以上説明したように、上記各実施例に係るサーモスタットによれば、複数の熱交換器を備えた内燃機関の冷却システムにおいて、小型軽量で簡単かつ安価な構成でありながら、内燃機関の暖機性能を向上させると共に、各熱交換器への冷却水の流通を要求に応じて適宜に制御することができる。
【0154】
ところで、上述した各実施例においては、薄板状のスプリングシートに弁体としての機能を持たせる構成とし、また弁体の周囲にシール性を持たせる場合にはゴム状のリップ部などによりシール性を持たせる構成としたので、特許文献1に記載のような従来の移動方向に長く伸びたスライドバルブを利用して流路を切り換える構成のように、移動方向に長いスライドバルブ(ピストン)の外周とスライドバルブを収容するシリンダ間のクリアランスを小さくしてシール性を持たせる必要があるものに比べて、簡単かつ安価な構成かつ品質管理も容易にしながらシール性の問題や異物等の混入による性能低下や固着などの問題を発生し難くすることができるといった利点がある。
【0155】
更に、上述した各実施例においては、薄板状のスプリングシートに弁体としての機能を持たせ弾性スプリングにより閉弁付勢する構成としたので、該弁体の前後差圧が所定以上となったときに、当該弁体が開弁されるようにその付勢力を設定することで圧力のリリーフ機能を持たせることが可能であり、これにより過大圧力による熱交換器の破損や連結ホース抜け、更には所謂キャビテーションの発生などを抑制することが可能であり、特許文献1に記載のような所謂スライドバルブを利用したものに比べて、簡単かつ安価な構成でリリーフ機能を持たせて装置の高信頼性化を図ることができるものである。
【0156】
なお、上述した各実施例において、EGRクーラ通路500、オイルクーラ通路600の配置を入れ替えた配置とすることができると共に、要求に応じて別の通路(例えば、トルクコンバータやトルクコンバータオイルを冷却するための熱交換器に供給される冷却水の通路、給気を冷却するためのインタークーラに供給される冷却水の通路など)に置き換えることも可能である。
【0157】
また、各実施例では、ヒータコア4とヒータコア通路400とが接続される場合について説明したが、ヒータシステムについては独立の制御システムにより制御可能であり、従って、ヒータコア4とヒータコア通路400とが接続されない場合についても、本発明は適用可能である。
【0158】
更に、上述した各実施例では、熱応動素子であるサーモエレメント180のワックス等の熱膨張体を内封した温度感知部181を、ハウジング部101(所定領域)内の冷却水の温度を感知する位置に配設して説明したが、これに限定されるものではなく、所望の制御したい冷却水の温度を感知することができるように、サーモエレメント180のワックス等の熱膨張体を内封した温度感知部181を、前記ハウジング部101(所定領域)内とは異なる部位に配設するような構成とすることもできる。
【0159】
なお、本発明は上述した各実施例で説明した構造には限定されず、サーモスタット(熱応動弁)装置100、600〜900を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【0160】
また、熱応動弁のアクチュエータとしては、上述した各実施例で説明した温度を感知して膨張収縮するワックス等の熱膨張体を内封したサーモエレメントに限らず、バイメタルや形状記憶合金といった温度に応じて変形する部材などを用いたものも採用可能である。
【0161】
また、上述した各実施例に係る各サーモスタットは、エンジン冷却水回路においてエンジン1の入口側に配設しても、出口側に配設してもよいものである
【0162】
更に、本発明に係るサーモスタット(熱応動弁)装置は、内燃機関の冷却システムに適用される場合に限定されるものではなく、冷媒の分配を必要とする車両、機器等、燃料電池自動車の冷却装置、その他暖機を必要とする冷却装置、液体ライン等にも適用可能である。
【0163】
以上で説明した一実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明の実施例1に係る冷却系システム(バイパス循環状態)(サーモスタットエンジン出口側配置)の一例を概略的に示す全体構成図である。
【図2】実施例1のサーモスタットの第1開弁状態及び第2開弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図3】実施例1のサーモスタットの第3開弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図4】実施例1のサーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図5】実施例1のサーモスタットのデフォルト(バイパス循環)状態における作動状態を説明する断面図である。
【図6】実施例1のサーモスタットの第1開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図7】実施例1のサーモスタットの第2開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図8】実施例1のサーモスタットの第3開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図9】実施例1のサーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図10】実施例1のサーモスタットのデフォルト状態におけるメインバルブ(スプリングシート182)の様子を示す部分拡大断面図である。
【図11】実施例1のサーモスタットの第1開弁状態におけるメインバルブ(スプリングシート182)の様子を示す部分拡大断面図である。
【図12】実施例1のサーモスタットの第2開弁状態におけるメインバルブ(スプリングシート182)の様子を示す部分拡大断面図である。
【図13】実施例1のサーモスタットの第3開弁状態におけるメインバルブ(スプリングシート182)の様子を示す部分拡大断面図である。
【図14】実施例1のサーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態におけるメインバルブ(スプリングシート182)の様子を示す部分拡大断面図である。
【図15】実施例1のサーモスタットの一部断面を示す斜視図である。
【図16】本発明の実施例2に係る冷却系システム(バイパス循環状態)(サーモスタットエンジン入口側配置)の一例を概略的に示す全体構成図である。
【図17】実施例2のサーモスタットの第1開弁状態及び第2開弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図18】実施例2のサーモスタットの第3開弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図19】実施例2のサーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図20】本発明で利用可能なサーモスタットの他の構成例のデフォルト(バイパス循環)状態における作動状態を説明する断面図である。
【図21】同上サーモスタットの第1開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図22】同上サーモスタットの第2開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図23】同上サーモスタットの第3開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図24】同上サーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図25】本発明の実施例3に係る冷却系システム(バイパス循環状態)(サーモスタットエンジン出口側配置)の一例を概略的に示す全体構成図である。
【図26】実施例3のサーモスタットの第1開弁状態及び第2開弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図27】実施例3のサーモスタットの第3開弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図28】実施例3のサーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図29】実施例3のサーモスタットのデフォルト(バイパス循環)状態における作動状態を説明する断面図である。
【図30】実施例3のサーモスタットの第1開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図31】実施例3のサーモスタットの第2開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図32】実施例3のサーモスタットの第3開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図33】実施例3のサーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図34】実施例3のサーモスタットの一部断面を示す斜視図である。
【図35】実施例3における、冷却水温度に対する、上記各状態と、EGRクーラ5を通過する「ラジエータ3からの冷却水の流量」と「サーモスタット1300からの冷却水の流量」との関係を示す図である。
【図36】実施例3における、冷却水温度に対する、上記各状態と、オイルクーラ6を通過する「ラジエータ3からの冷却水の流量」と「サーモスタット1300からの冷却水の流量」との関係を示す図である。
【図37】本発明の実施例4に係る冷却系システム(バイパス循環状態)(サーモスタットエンジン入口側配置)の一例を概略的に示す全体構成図である。
【図38】実施例4のサーモスタットの第1開弁状態及び第2開弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図39】実施例4のサーモスタットの第3開弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図40】実施例4のサーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態における冷却系システムの冷却水の流れを示す図である。
【図41】本発明の実施例5に係る冷却系システム(サーモスタットエンジン入口側配置)の一例を概略的に示す全体構成図である。
【図42】実施例5のサーモスタットのデフォルト(バイパス循環)状態における作動状態を説明する断面図である。
【図43】実施例5のサーモスタットの第1開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図44】実施例5のサーモスタットの第2開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図45】実施例5のサーモスタットの第3開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図46】実施例5のサーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図47】本発明の実施例6に係る冷却系システム(サーモスタットエンジン出口側配置)の一例を概略的に示す全体構成図である。
【図48】実施例6のサーモスタットのデフォルト(バイパス循環)状態における作動状態を説明する断面図である。
【図49】実施例6のサーモスタットの第1開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図50】実施例6のサーモスタットの第2開弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図51】実施例6のサーモスタットのバイパスバルブ閉弁状態における作動状態を説明する断面図である。
【図52】実施例6のサーモスタットの一部断面を示す斜視図である。
【図53】実施例6のサーモスタットをエンジン出口側に配置した場合の冷却系システムを概略的に示す全体構成図である。
【図54】従来の内燃機関等の冷却システムの一例を示す図である。
【図55】従来の熱循環通路切換装置(スライドバルブ)の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0165】
1 エンジン(燃焼装置に相当)
2 ウォータポンプ
3 ラジエータ
4 ヒータコア
5 EGRクーラ
6 オイルクーラ
100 サーモスタット(熱応動弁装置)
180 サーモエレメント
181 温度感知部
182 スプリングシート(弁体)
184A スプリングシート(弁体)
184B スプリングシート(弁体)
184C スプリングシート(弁体)
200 ラジエータ通路
300 ヒータコア通路
400 バイパス通路
500 EGRクーラ通路
600 オイルクーラ通路
1200 サーモスタット(熱応動弁装置)
1300 サーモスタット(熱応動弁装置)
1400 サーモスタット(熱応動弁装置)
1500 サーモスタット(熱応動弁装置)
A 開弁温度調整代
X 開弁温度調整代
Y 開弁温度調整代


【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の流体温度に応じて熱応動する共通の熱応動素子により駆動され、前記周囲の流体温度に応じて所定領域と複数の流体通路のそれぞれとの連通度合いを制御する前記複数の流体通路に対応して設けられる複数の弁体であって、そのうち1つがラジエータと所定領域との連通度合いを制御する主弁体を含む複数の弁体を備えた熱応動弁装置であって、
前記主弁体以外の複数の弁体の何れか1つが、前記所定領域と、対応する流体通路と、の連通度合いの制御を開始してから、前記主弁体の連通度合いの制御が開始されるまでを遅延させる遅延機構が備えられたことを特徴とする熱応動弁装置。
【請求項2】
前記所定領域と、対応する流体通路と、の連通度合いの制御の開始が、要求される前記流体温度に応じて、前記複数の弁体毎に設定されることを特徴とする請求項1に記載の熱応動弁装置。
【請求項3】
前記遅延機構は、前記主弁体に前記共通の熱応動素子の熱応動動作が伝達されるまでの遅延量に基づいて遅延させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱応動弁装置。
【請求項4】
前記遅延機構は、前記共通の熱応動素子の熱応動動作に従って前記主弁体が移動して当該主弁体が開弁されるまでの移動量に基づいて遅延させることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の熱応動弁装置。
【請求項5】
前記複数の流体通路から独立した流体通路と、当該流体通路を開閉する弁体と、が備えられ、当該弁体が前記共通の熱応動素子により駆動されることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1つに記載の熱応動弁装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate

【図43】
image rotate

【図44】
image rotate

【図45】
image rotate

【図46】
image rotate

【図47】
image rotate

【図48】
image rotate

【図49】
image rotate

【図50】
image rotate

【図51】
image rotate

【図52】
image rotate

【図53】
image rotate

【図54】
image rotate

【図55】
image rotate


【公開番号】特開2010−121455(P2010−121455A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293198(P2008−293198)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(391026287)富士精工株式会社 (25)