説明

熱感知型加速度センサ

【課題】 カバー部材で周囲の空気が密封されたセンサ基板に、密封された空気を加熱するためのヒータと、該ヒータを挟んで相対向する位置で空気の温度を検出する温度検出素子とが設けられてなる熱感知型加速度センサにおいて、温度検出素子が熱応力の影響を受けにくくすることにより、加速度の検出精度を向上させる手段を提供する。
【解決手段】 本熱感知型加速度センサ1は、カバー部材で覆われることで周囲の空気15が密封されてなるセンサ基板3に、密封された空気15を加熱するためのヒータ4と、該ヒータ4を挟んだ相対向する位置において密封された空気15の温度をそれぞれ検出する一対の温度検出素子6とが設けられ、該一対の温度検出素子6の検出温度差に基づいて、密封された空気15に加わった加速度の大きさを検出するものであって、各温度検出素子6は、熱変形自在な状態でその一部がセンサ基板3に固定されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体に加わる加速度の大きさを検出するための加速度センサに関し、特に、密封された空気をヒータで加熱してヒータを挟んだ対向位置で温度を検出し、その検出温度差に基づいて加わった加速度の大きさを検出する熱感知型加速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
物体に加わる加速度の大きさを検出するための加速度センサとしては、センサ基板上に、可撓性を有する梁部材で錘体を揺動可能に支持し、梁部材に生じた歪量を検出することで加わった加速度の大きさを測定するものが従来用いられている(例えば特許文献1参照)。このタイプの加速度センサは、重みのある錘体を肉薄な梁部材で支持することで良好な応答速度が得られる反面、高い位置から落下した場合等に梁部材が破損しやすく耐衝撃性に劣る、という問題がある。
【0003】
一方、従来用いられている他のタイプの加速度センサとして、いわゆる熱感知型加速度センサがある。図6は、従来例に係る熱感知型加速度センサ70を示す概略平面図である。図に示すように、熱感知型加速度センサ70は、空洞部71が形成されてなるセンサ基板72と、該センサ基板72の四隅から中央に向かって架設された4本の梁部材73と、この4本の梁部材73によって支持されることで空洞部71上に配置されたヒータ74と、ヒータ74を挟んだ相対向する位置の温度を測定する2対の温度検出素子75と、を備えるものである。ここで、各温度検出素子75は、その基端側がセンサ基板72に固定される一方、先端側が固着部76を介して左右の梁部材73にそれぞれ固定されている。また、図6に詳細は示していないが、センサ基板72はカバー部材によって覆われることで周囲の空気が密封されている。
【0004】
このように構成される熱感知型加速度センサ70では、ヒータ74がONされると、密封された空気は、ヒータ74近傍の空気が加熱されて高温に、またヒータ74から離れるに従って温度が低下する温度分布状態となる。ここで、加速度が加わっていない状態では、ヒータ74を挟んで相対向する位置に設けられた一対の温度検出素子75は同じ温度を検出している。しかし、加速度が加わると、加熱されて軽くなったヒータ74近傍の空気が加速度と同じ方向へ移動するが、ヒータ74から離れた位置にある低温で重い空気は直ぐには追従しない。これにより、一対の温度検出素子75による検出温度に差が生じ、この温度差に基づいて加速度が検出されるものとなっている。
【0005】
この熱感知型加速度センサ70は、そのヒータ74が前記錘体と比較して非常に軽いものであって、しかも梁部材73に可撓性が必要とされず肉厚に形成することも可能であるため、錘体を梁部材で支持するタイプの加速度センサよりも耐衝撃性に優れている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−045044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の熱感知型加速度センサ70は、温度検出素子75に生じる熱応力の影響を受けて加速度の検出精度が低下するという問題がある。すなわち、図6に示すように、各温度検出素子75は、その先端側が左右の梁部材73にそれぞれ固定されている。従って、温度検出素子75がヒータ74で加熱されると、伸び方向への熱変形が規制されているため、その内部には圧縮方向への熱応力が発生する。逆に、温度検出素子75の温度が低下した場合、縮み方向への熱変形が規制されているため、その内部には引っ張り方向への熱応力が発生する。この熱応力の影響を受けて温度検出素子75による温度の検出精度が低下し、これにより加速度の検出精度も低下する。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、カバー部材で周囲の空気が密封されたセンサ基板に、密封された空気を加熱するためのヒータと、該ヒータを挟んで相対向する位置で密封された空気の温度を検出する温度検出素子とが設けられてなる熱感知型加速度センサにおいて、温度検出素子が熱応力の影響を受けにくくすることにより、加速度の検出精度を向上させる手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1記載の熱感知型加速度センサは、カバー部材で覆われることで周囲の空気が密封されてなるセンサ基板に、密封された空気を加熱するためのヒータと、該ヒータを挟んだ相対向する位置において密封された空気の温度をそれぞれ検出する一対の温度検出素子とが設けられ、該一対の温度検出素子の検出温度差に基づいて、密封された空気に加わった加速度の大きさを検出する熱感知型加速度センサにおいて、前記各温度検出素子は、熱変形自在な状態でその一部が前記センサ基板に固定されたものである。
【0010】
請求項2記載の熱感知型加速度センサは、前記各温度検出素子がpn接合からなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3記載の熱感知型加速度センサは、前記各温度検出素子が、横断面円弧形状であって、その凹側を前記ヒータに向けて配置されたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱感知型加速度センサによれば、各温度検出素子はその先端側が梁部材に固定されていないので、ヒータに加熱された場合は伸張するように、またヒータによる加熱が停止した場合は収縮するように、自在に熱変形することができる。従って、温度検出素子の内部に熱応力が発生しにくく、密封された空気の温度を精度良く検出することができ、これにより加速度の大きさを精度良く検出することができる。
【0013】
また、本発明に係る熱感知型加速度センサによれば、温度検出素子がpn接合からなるので、従来型のサーモパイル方式等と比較して精度良く加速度を検出することができる。
【0014】
また、本発明に係る熱感知型加速度センサによれば、温度検出素子が横断面円弧形状であって、その凹側をヒータに向けて配置されたので、加熱されて高温となったヒータを中心とする球形の空気の塊を温度検出素子全体で追従することができる。これにより、空気の温度を精度良く検出することができ、ひいては加速度を精度良く検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例に係る熱感知型加速度センサ1を図面に基づいて説明する。図1は、熱感知型加速度センサ1の外観を示す概略斜視図である。熱感知型加速度センサ1は、空洞部2が形成されてなるセンサ基板3と、空洞部2上に設けられセンサ基板3の周囲の空気を加熱するヒータ4と、該ヒータ4をセンサ基板3上に支持する4本のヒータ支持梁5と、ヒータ4を挟んだ相対向する位置において空気の温度を検出する2対の温度検出素子6と、各温度検出素子6をセンサ基板3上に支持する4本の素子支持梁7と、を備えるものである。また、図1に詳細は示していないが、センサ基板3は、ガラス等からなるカバー部材によって覆われることで周囲の空気が密封されている。
【0016】
センサ基板3は、シリコン等の半導体からなる所定厚さの板状部材であって、図1に示すように、横断面略矩形に形成されている。このセンサ基板3には、平面視略矩形の空洞部2が厚み方向に貫通形成されている。そして、センサ基板3の内側面には、その四隅をセンサ基板3の中央側に向かって若干突出して形成した4個の梁受け突起8がそれぞれ形成されるとともに、各梁受け突起8の間の中間位置には、センサ基板3の中央に向かって延びる4個の梁受けリブ9がそれぞれ突設されている。尚、センサ基板3の形状は、本実施例に限られず適宜設計変更が可能である。
【0017】
ヒータ4は、図1に詳細は示さないが、所定の電気回路を介して電源に接続され、そのON/OFF、すなわち電力供給の開始/停止を切り替えることにより、前記密封された空気の温度制御を行うものである。このヒータ4は、図1に示すように、4本のヒータ支持梁5で4方向から支持されることにより、センサ基板3の空洞部2上に配設されている。ヒータ支持梁5は、略矩形の取付部10と、長手形状の梁部11とが一体成型されたものであって、その取付部10がセンサ基板3上の隅部に固定される一方、梁部11の先端がヒータ4に固定されることにより、空洞部2上に架設されている。ここで、ヒータ支持梁5は、梁部11の根元部分がセンサ基板3の梁受け突起8によって下方から支持されることにより、衝撃等が加わった時にヒータ4の重みで破損しないよう補強されている。尚、ヒータ支持梁5の数は、4本に限られず、ヒータ4を安定して支持可能な範囲で適宜増減が可能である。
【0018】
温度検出素子6は、p型半導体とn型半導体を接合したいわゆるpn接合からなるものである。この温度検出素子6としては、pn接合に代えて、例えば、物体から放射される赤外線を受け取ってそのエネルギー量に応じた熱起電力を発生する、いわゆるサーモパイル等を用いることも可能である。しかし、本実施例のようにpn接合を用いた方が、より高い感度での温度検出が可能になるという利点がある。
【0019】
この温度検出素子6は、図1に示すように、横断面略円弧形状を有し、その長手方向中央部が前記素子支持梁7によって支持されることにより、空洞部2上におけるヒータ4から所定距離だけ離れた位置に、その凹側をヒータ4に向けるようにして配設されている。ここで、温度検出素子6は、図2に示すように、長手方向両端部6A,6Bがヒータ支持梁5やセンサ基板3に固定されることなく自由端とされるとともに、温度検出素子6の長手方向両端部6A,6Bと左右のヒータ支持梁5との間には、所定幅の間隙12がそれぞれ形成されている。これにより、温度検出素子6は、ヒータ4がONされてその熱を受けた場合には、図2に破線で示すように、長手方向に伸張するように熱変形し、ヒータ4がOFFされて温度が低下した場合には、長手方向に収縮するように熱変形することが可能となっている。このように、温度検出素子6に熱変形を許容することにより、温度検出素子6の内部に熱応力が発生するのを防ぎ、精度良い温度検出ひいては精度良い加速度検出を可能としている。
【0020】
尚、温度検出素子6の形状は、本実施例以外に、例えば、横断面略矩形に形成することも可能である。しかし、この場合、ヒータ4で加熱されて高温となった球形の空気の塊が温度検出素子6と接触する際に、まず温度検出素子6の中央部のみが球形の空気に接触し、その後徐々に中央部以外の部分に球形の空気が接触することとなり、検出温度の精度に問題がある。この点、温度検出素子6の形状を本実施例のように横断面略円弧形状とすれば、球形の空気の塊に対して、温度検出素子6全体を略同時に接触させることができるので、より正確な温度検出が可能となる。また、温度検出素子6は、その長手寸法を任意に設定可能であるが、長手寸法を短くし過ぎると、素子支持梁7やセンサ基板3の温度変化の影響を受けやすく、精度良く空気の温度を検出することができない。従って、温度検出素子6は、長手寸法をある程度長くして、素子支持梁7から離間した部分を多くした方が、素子支持梁7やセンサ基板3の温度変化の影響を受けにくく、精度良く空気の温度を検出することができる。
【0021】
この温度検出素子6は、図1に示すように、ヒータ4を挟んで相対向する位置、すなわちヒータ4を中心とした略対称な位置に一対が配置されるとともに、この一対と同一平面内であって略90°の角度をなす方向にも、ヒータ4を挟んで相対向するようにして他の一対が配置されている。これにより、ヒータ4を包囲するように配置された2対計4個の温度検出素子6によって、加速度のX軸方向成分とY軸方向成分の検出が可能となっている。尚、本実施例では、加速度の2軸方向成分を検出可能とすべく2対の温度検出素子6を設けているが、本発明に係る温度検出素子6は、少なくとも1対が設けられていれば足りるものである。また、図に詳細は示さないが、ヒータ4を挟んで上下方向にも一対の温度検出素子6を配置して、加速度のZ軸方向成分を検出することも可能である。
【0022】
素子支持梁7は、図1に示すように、略矩形の取付部13と、長手形状の梁部14とが一体成型されたものであって、その取付部13が、センサ基板3上における前記梁受けリブ9の位置に固定される一方、梁部14の先端が温度検出素子6の長手方向中央部に固定されることにより、空洞部2上に架設されている。ここで、素子支持梁7は、その梁部14が長手方向に渡って梁受けリブ9によって下方から支持されることにより、衝撃等で破損しないように補強されている。尚、本実施例では、素子支持梁7の長手方向両端を自由端として熱変形を許容すべく、梁部14の先端を温度検出素子6の長手方向中央部に固定しているが、温度検出素子6に熱変形を許容できる範囲であれば、温度検出素子6における任意の位置に梁部14の先端を固定することが可能である。
【0023】
以下、熱感知型加速度センサ1による加速度の検出原理について、図3乃至図5に基づいて説明する。図3乃至図5には、図1におけるA−A断面を示す概略縦断面図とその温度分布を示すグラフを示している。まず、図3は、ヒータ4がOFFされた状態を示している。この状態では、A−A断面図に一点鎖線で示す密封された空気15は、センサ基板3の全ての位置において一定の温度T1である。
【0024】
次に、図4は、図3に示す状態からヒータ4がONされた状態であって、加速度が加わっていない状態を示している。この状態では、A−A断面図に一点鎖線で示す密封された空気15は、ヒータ4で加熱されることにより、ヒータ4が配置されたセンサ基板3の中心位置を最高温度T2として、そこからセンサ基板3の外側に向かって徐々に温度が低下する温度分布となる。この場合、ヒータ4を挟んで相対向する位置に設けられた一対の温度検出素子6は共に温度T3を検出し、一対の温度検出素子6の検出温度に差がないことにより、加速度の大きさが0であることが検出される。尚、図4のA−A断面図に示す二点鎖線は、ヒータ4による加熱を受けて高温となった空気の塊16を仮想的に示したものである。
【0025】
次に、図5は、図4に示す状態から所定の大きさの加速度が紙面に向かって右向きに加わった状態を示している。尚、図5のA−A断面図には図4に示した高温の空気の塊16を破線で示し、図5の温度分布グラフには図4の温度分布を一点鎖線で示している。加速度が加わると、高温の空気の塊16は、その他の低温部分と比較して軽いため、加速度の向きと同方向に移動し、図5に破線で示す位置から二点鎖線で示す位置へと移動する。その結果、図5のA−A断面図に示す密封された空気15は、図5の温度分布グラフに示す温度分布となる。図5に示す温度分布は、ヒータ4の配置されたセンサ基板3の中心位置を最高温度T2として、そこからセンサ基板3の外側に向かって徐々に温度が低下する点では図4の温度分布と同様である。しかし、センサ基板3における紙面に向かって右半分は、T2からの温度低下が図4と比較してなだらかである一方、紙面に向かって左半分は、T2からの温度低下が図4と比較して急激となっている。
【0026】
密封された空気15が図5に示す温度分布になると、ヒータ4を挟んで相対向する位置に設けられた一対の温度検出素子6は、センサ基板3における紙面に向かって右半分側に配置された温度検出素子6が温度T4を検出し、センサ基板3における紙面に向かって左半分側に配置された温度検出素子6が温度T5を検出する。これにより、一対の温度検出素子6の検出温度差ΔT(=T4−T5)に基づいて、加わった加速度の大きさが検出されるものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、密封された空気をヒータで加熱してヒータを挟んだ対向位置で温度を検出し、その検出温度差に基づいて加わった加速度の大きさを検出する熱感知型加速度センサに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例に係る熱感知型加速度センサ1の外観を示す概略斜視図。
【図2】図1においてある1個の温度検出素子6について拡大した部分拡大斜視図。
【図3】図1におけるA−A断面を示す概略縦断面図とその温度分布を示すグラフ。
【図4】図1におけるA−A断面を示す概略縦断面図とその温度分布を示すグラフ。
【図5】図1におけるA−A断面を示す概略縦断面図とその温度分布を示すグラフ。
【図6】従来例に係る熱感知型加速度センサ70を示す概略平面図。
【符号の説明】
【0029】
1 熱感知型加速度センサ
3 センサ基板
4 ヒータ
6 温度検出素子
15 密封された空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー部材で覆われることで周囲の空気が密封されてなるセンサ基板に、密封された空気を加熱するためのヒータと、該ヒータを挟んだ相対向する位置において密封された空気の温度をそれぞれ検出する一対の温度検出素子とが設けられ、該一対の温度検出素子の検出温度差に基づいて、密封された空気に加わった加速度の大きさを検出する熱感知型加速度センサにおいて、
前記各温度検出素子は、熱変形自在な状態でその一部が前記センサ基板に固定されたことを特徴とする熱感知型加速度センサ。
【請求項2】
前記各温度検出素子が、pn接合からなることを特徴とする請求項1に記載の熱感知型加速度センサ。
【請求項3】
前記各温度検出素子が、横断面円弧形状であって、その凹側を前記ヒータに向けて配置されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱感知型加速度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−285996(P2007−285996A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116634(P2006−116634)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)