熱感知型加速度センサ
【課題】 Z軸方向の加速度による温度変化をより大きな温度変化量として捉えることにより、Z軸方向の感度を向上させるとともに、それぞれの軸方向の温度検出素子において、別方向の加速度による出力が干渉することを軽減してそれぞれの軸方向の加速度の測定精度を向上させる熱感知型加速度センサを提供する。
【解決手段】 センサ基板3に、密封された流体を加熱するためのヒーター4と、センサ基板3平面に対して平行な方向に加わる加速度を求めるためにヒーター4よりも外側の位置で流体の温度を検出する第1温度検出素子6と、センサ基板3平面に対して垂直な方向に加わる加速度を求めるために、ヒーター4よりも内側の位置で流体の温度を検出する第2温度検出素子8とが設けられた熱感知型加速度センサ1であって、第2温度検出素子8は、ヒーター4が配置される平面よりも高い位置に設けられている熱感知型加速度センサ1。
【解決手段】 センサ基板3に、密封された流体を加熱するためのヒーター4と、センサ基板3平面に対して平行な方向に加わる加速度を求めるためにヒーター4よりも外側の位置で流体の温度を検出する第1温度検出素子6と、センサ基板3平面に対して垂直な方向に加わる加速度を求めるために、ヒーター4よりも内側の位置で流体の温度を検出する第2温度検出素子8とが設けられた熱感知型加速度センサ1であって、第2温度検出素子8は、ヒーター4が配置される平面よりも高い位置に設けられている熱感知型加速度センサ1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体に加わる加速度を検出するための加速度センサに関し、特に加熱された流体の温度分布の変化に基づいて物体の加速度を求める熱感知型加速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から物体に加わる加速度を検出するための加速度センサとして、ケース内に密封された流体を加熱し、この加熱した流体の温度分布の変化に基づいて物体の加速度を求める熱感知型加速度センサが知られている。このような熱感知型加速度センサとしては、例えば、カバー部材で覆われることで周囲の空気が密封されてなるセンサ基板に、密封された空気を加熱するためのヒーターと、該ヒーターを挟んで相対向する位置において密封された空気の温度をそれぞれ検出する一対の温度検出素子とを設け、該一対の温度検出素子の検出温度に基づいて、密封された空気に加わった加速度の大きさを求める熱感知型加速度センサが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、この特許文献1では、加速度のZ軸方向成分を検出するために、ヒーターを挟んで上下方向に一対の温度検出素子を配置することが開示されている。
【0003】
また、X軸、Y軸、Z軸の3軸方向の加速度を求めるために、密封された流体を加熱するためのヒーターと同一平面上にX軸用、Y軸用、及びZ軸用の温度検出素子(温度センサ)をそれぞれ設けた熱感知型加速度センサが開示されている(例えば、特許文献2参照)。更に、この特許文献2では、ヒーターの外側にX軸用、Y軸用、及びZ軸用の温度検出素子をそれぞれ設けるとともに、Z軸用の温度検出素子をヒーターよりも高い位置に配置した熱感知型加速度センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−285996号公報
【特許文献2】米国特許公開2007/0101813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の熱感知型加速度センサでは、Z軸方向の加速度を求めるために、ヒーターを挟んで上下方向に一対の温度検出素子を配置することが開示されているものの、ヒーターの上下に温度検出素子を設けるため、構造が複雑になるとともに、Z軸方向の加速度を精度良く検出することは難しい。また、特許文献2のように同一平面上にそれぞれの温度検出素子を配置した場合には、加速度が生じた場合でも検知される温度変化量が小さく、特にZ軸方向の感度が良くないという問題がある。また、特許文献2では、Z軸用の温度検出素子をヒーターよりも高い位置に設けることが開示されているが、X軸用、Y軸用、及びZ軸用のいずれの温度検出素子も外側に設けられているので、それぞれの温度検出素子において、別方向の加速度による温度変化も検出してしまうため、本来検出すべき方向の加速度による温度変化の出力と干渉し、それぞれの軸方向の加速度を精度良く測定することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、Z軸方向に加わる加速度による温度変化をより大きな温度変化量として捉えることにより、Z軸方向の感度を向上させるとともに、それぞれの軸方向の温度検出素子において、別方向の加速度による出力が干渉することを軽減することにより、それぞれの軸方向の加速度の測定精度を向上させることができる熱感知型加速度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の熱感知型加速度センサは、カバー部材で覆われることで周囲の流体が密封されてなるセンサ基板に、密封された前記流体を加熱するためのヒーターと、前記センサ基板平面に対して平行な方向に加わる加速度を求めるために、前記ヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第1温度検出素子と、前記センサ基板平面に対して垂直な方向に加わる加速度を求めるために、前記ヒーターよりも内側の位置で前記流体の温度変化を検出する第2温度検出素子とが設けられた熱感知型加速度センサであって、前記第2温度検出素子は、前記ヒーターが配置される平面よりも高い位置に設けられていることを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の熱感知型加速度センサは、前記第1温度検出素子が、前記第2温度検出素子と同一の高さに設けられていることを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の熱感知型加速度センサは、前記センサ基板に、前記第1温度検出素子が検出する前記流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向と前記第2温度検出素子が検出する前記流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向のそれぞれに直交する方向の加速度を求めるために、前記第1温度検出素子と同一の高さ且つ前記ヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第3温度検出素子が設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項4記載の熱感知型加速度センサは、前記第2温度検出素子が設けられる高さは、当該第2温度検出素子から前記第1温度検出素子又は/及び前記第3温度検出素子までの距離及び前記ヒーターから得られる熱量に基づいて決定されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の熱感知型加速度センサによれば、第2温度検出素子を密封された流体を加熱するヒーターよりも内側且つ上方に設けているので、センサ基板平面に対して垂直な方向(Z軸方向)に加わる加速度による温度変化をより大きな温度変化量として検出することにより、Z軸方向の感度を向上させることができるとともに、Z方向に加速度が生じた場合とセンサ基板平面に対して平行な方向に加速度が生じた場合の出力の干渉を軽減し、加速度の測定精度を向上させることができる。また、センサ基板平面に対して平行な方向に加わる加速度による温度変化量を検出する第1温度検出素子は、ヒーターの外側に設けているので、センサ基板平面に対して平行な方向に加速度が生じた場合とZ方向に加速度が生じた場合との出力の干渉を軽減し、加速度の測定精度を向上させることができる。
【0012】
請求項2記載の熱感知型加速度センサによれば、第1温度検出素子を第2温度検出素子と同一の高さに設けることにより、センサ基板平面に対して平行な方向に加わる加速度に対してもより測定精度を向上させることができる。
【0013】
請求項3記載の熱感知型加速度センサによれば、第1温度検出素子が検出する流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向と第2温度検出素子が検出する流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向のそれぞれに直交する方向の加速度を求めるために、第1温度検出素子と同一の高さ且つヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第3温度検出素子を設けているので、3軸方向の加速度を精度良く求めることができる。
【0014】
請求項4記載の熱感知型加速度センサによれば、第2温度検出素子が設けられる高さを第2温度検出素子から第1温度検出素子又は/及び第3温度検出素子までの距離とヒーターから得られる熱量に基づいて決定するので、様々な条件に応じて第2温度検出素子を適切な高さに設けることができ、応用性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサの一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサの各温度検出素子の位置関係を説明するための概略模式図である。
【図3】ヒーターと温度検出素子の位置関係を示す概略模式図であって、(a)はX軸用の温度検出素子とヒーターの位置関係を示しており、(b)はZ軸用の温度検出素子とヒーターの位置関係を示している。
【図4】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサの作製工程毎の状態を示す概略説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサの作製の流れの一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサと従来の加速度センサとのヒーター及び各温度検出素子の位置関係を示す概略模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサにより得られる温度変化の分布を示す図である。
【図8】従来の加速度センサにより得られる温度変化の分布を示す図である。
【図9】Z方向への加速度と温度変化の関係を示す図である。
【図10】X方向への加速度と温度変化の関係を示す図である。
【図11】ヒーター及び各温度検出素子の構造の一例を示す拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る熱感知型加速度センサの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係る熱感知型加速度センサ1は、図1に示すように、空洞部2が形成されてなるセンサ基板3と、空洞部2上に設けられセンサ基板3の周囲の流体を加熱するヒーター4と、該ヒーター4をセンサ基板3上に支持するヒーター支持梁5と、センサ基板3の平面に対して平行なX軸方向の温度変化を検出するための一対のX軸方向用温度検出素子(第1温度検出素子)6と、該一対のX軸方向用温度検出素子6と同一平面上でX軸に対して直交するY軸方向の温度変化を検出するための一対のY軸方向用温度検出素子(第3温度検出素子)7と、センサ基板3の平面に対して垂直なZ軸方向の温度変化を検出するための4つのZ軸方向用温度検出素子(第2温度検出素子)8とを備えている。この熱感知型加速度センサ1では、ヒーター4によって加熱された流体は、熱塊となり、各温度検出素子6〜8がそれぞれの位置にてその温度を検出する。そして、熱感知型加速度センサ1に加速度が加わった場合には、加熱されて軽くなった流体が加速度と同じ方向へと移動し、その移動に伴う温度変化を各温度検出素子6〜8が検出し、その温度変化に基づいて加速度を算出する。また、センサ基板3は、詳しくは図示しないが、ガラス等からなるカバー部材によって覆われることで周囲の流体が密封されている。この密封される流体としては、例えば、空気、ヘリウム等の気体や液体等の流体を用いることができる。
【0017】
センサ基板3は、シリコン等の半導体からなる板状部材であって、図1に示すように、XY平面方向から見た場合に略正方形状の基板に円形状の空洞部2が形成されている。この空洞部2は、図2及び図3に示すように、センサ基板3の厚み方向(Z軸方向)に貫通されており、下方に向かうに従って、径が小さくなるように傾斜部21を有している。尚、センサ基板3の形状は、これに限定されるものではなく、適宜設計変更が可能である。
【0018】
ヒーター4は、詳しくは図示しないが、所定の電気回路を介して電源に接続されており、電力供給のON/OFF(開始/停止)を切り替えることにより、流体の温度制御を行うものである。熱感知型加速度センサ1では、図1に示すように、4つのヒーター4が、センサ基板3の中心部から所定距離離れたX軸方向及びY軸方向にそれぞれ等間隔で配置されている。この4つのヒーター4は、それぞれ基端側がセンサ基板3上に固定された2本のヒーター支持梁5の先端に固定されることにより空洞部2上に配置される。尚、ヒーター支持梁5の数及び形状は、これに限定されるものではなく、ヒーター4を空洞部2上に安定して支持可能であれば良い。
【0019】
一対のX軸方向用温度検出素子6は、X軸方向成分の加速度を求めるために、図1〜図3に示すように、ヒーター4を挟んで対向するように当該ヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置されており、X軸方向に加速度が加わることによる流体の温度変化を検出する。同様に一対のY軸方向用温度検出素子7は、Y軸方向成分の加速度を求めるために、ヒーター4を挟んで対向するように当該ヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置されており、Y軸方向に加速度が加わることによる流体の温度変化を検出する。また、4つのZ軸方向用温度検出素子8は、Z軸方向成分の加速度を求めるために、図1〜図3に示すように、それぞれヒーター4よりも内側の空洞部2上にそれぞれ配置されており、Z軸方向に加速度が加わることによる流体の温度変化を検出する。尚、本実施形態では、図1に示すように、X軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7をそれぞれ一対ずつ、Z軸方向用温度検出素子8を4つ設けている例を示しているが、これらの数は特に限定されるものではなく、適宜変更しても良い。
【0020】
各温度検出素子6〜8は、図1及び図3に示すように、それぞれ基端側がセンサ基板3上に固定されており、先端のセンサ部分が空洞部2上に位置するように配置されている。尚、図2では、ヒーター4及び各温度検出素子6〜8の位置を示すために、それぞれのセンサ基板3上へ固定される部分については省略して図示している。また、各温度検出素子6〜8の形状は、これらに限定されるものではなく、X軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7がヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置され、Z軸方向用温度検出素子8がヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置されるように固定できる構造であれば良い。
【0021】
また、これらの温度検出素子6〜8は、図2及び図3に示すように、それぞれヒーター4が配置されている平面よりも所定高さHだけ上方に配置される。本実施形態では、Z軸方向用温度検出素子8からX軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7までの距離Wを約600μmとし、各温度検出素子6〜8の高さHを100μmに設定している。尚、この温度検出素子6〜8が設けられる高さHは、熱感知型加速度センサ1全体の大きさ、Z軸方向用温度検出素子8からX軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7までの距離W、及びヒーター4によって得られる熱量等の条件に応じて適宜決められることが望ましいが、少なくともX軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7をヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置し、Z軸方向用温度検出素子8をヒーター4よりも外側の空洞部2上且つヒーター4が配置されている平面よりも上方に配置していれば良い。また、温度検出素子6〜8としては、例えば、温度が変化することにより抵抗値が変化することを利用したサーミスタや白金薄測温抵抗体、その他熱電対を用いたサーモパイル等の従来公知の温度センサを用いることができる。
【0022】
次に、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1の作製方法の流れの一例について、図4及び図5のフローチャートを用いて説明する。本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、まず図4(a)に示すように、センサ基板3となるシリコンウエハ(Si)3a上に酸化ケイ素(SiO2)を塗膜し、酸化ケイ素膜9を形成する(S101)。
【0023】
そして、図4(b)に示すように、例えば、エッチング処理を施すことにより、この酸化ケイ素膜9から不要な部分を除去して、シリコンウエハ3a上の所定箇所にヒーター4部分を残す(S102)。次に、図4(C)に示すように、シリコンウエハ3a及びヒーター4部分の上にフォトレジストを塗膜し、フォトレジスト膜10を形成する(S103)。
【0024】
更に、図4(d)に示すように、このフォトレジスト膜10上に酸化ケイ素を塗膜し、酸化ケイ素膜9を形成する(S104)。そして、図4(e)に示すように、エッチング処理等を施すことにより、酸化ケイ素膜9から不要な部分を除去することにより、ヒーター4が形成されている平面よりも所定距離(ここではフォトレジスト膜10の厚み分)高い位置に各温度検出素子(センサ)6〜8部分を残す(S105)。尚、この際、X軸方向用温度検出素子6部分及びY軸方向用温度検出素子7部分については、ヒーター4部分よりも外側に配置されるように酸化ケイ素膜9から不要な部分を除去し、Z軸方向用温度検出素子8部分については、ヒーター4部分よりも内側に配置されるように酸化ケイ素膜9から不要な部分を除去する。
【0025】
そして、最後にフォトレジスト膜10及び不要なシリコンウエハ3a部を除去することにより(S106)、センサ基板3の厚み方向に貫通形成された空洞部2上にヒーター4及び各温度検出素子6〜8が設けられた熱感知型加速度センサ1を作製することができる。このように、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、1枚のシリコンウエハ3a上に順番にヒーター4及び各温度検出素子6〜8を作製することができ、従来のように2枚のシリコンウエハ上に別々にヒーターと温度検出素子を作製する必要がないので、製造効率を向上させることができるとともに、装置の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0026】
以下、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1と従来例として米国特許公開2007/0101813号公報(以下、刊行物1とする)に記載されている加速度センサとの構成の違い及び加速度の検出精度等について図6〜10及び表1、2を参照しつつ説明する。
【0027】
図6は、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1と従来例の加速度センサとのヒーター4及び各温度検出素子6〜8の位置関係を示すものである。図6に示すように、P1はヒーター4と同一平面を示しており、P2はヒーター4が配置される平面P1より所定距離Hだけ高い平面を示している。また、Aはヒーター4より内側且つ平面P2上の位置、Bはヒーター4より内側且つ平面P1上の位置、Cはヒーター4より外側且つ平面P2上の位置、Dはヒーター4より外側且つ平面P1上の位置をそれぞれ示している。また、下記の表1は、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1のX方向用温度検出素子6、Y方向用温度検出素子7、及びZ方向用温度検出素子8の図6上での位置と刊行物1に記載されている加速度センサ(従来例1〜3)に設けられる各温度検出素子の図6上での位置を示している。
【表1】
【0028】
表1に示すように、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、X軸方向用温度検出素子6、Y軸方向用温度検出素子7は、図6上のCに位置し、Z軸方向用温度検出素子8は、図6上のAに位置している。一方、刊行物1に記載の従来例1は、X,Y方向用温度検出素子が図6上のDに位置し、Z方向用温度検出素子も図6上のDに位置するものである。従来例2は、X,Y方向用温度検出素子が図6上のDに位置し、Z方向用温度検出素子は図6上のCに位置するものである。従来例3は、X,Y方向用温度検出素子が図6上のDに位置し、Z方向用温度検出素子は図6上のBに位置するものである。尚、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、X軸方向用温度検出素子6、Y軸方向用温度検出素子7が位置する図6上のCからZ軸方向用温度検出素子8が位置する図6上のAまでの距離Wは約600μm、ヒーター4が配置される平面P1から各温度検出素子6〜8が配置される平面P2までの距離(高さ)Hは約100μmとしている。
【0029】
次に、ヒーター4によって密封された流体を加熱した状態で、熱感知型加速度センサ1及び従来例1〜3にそれぞれX方向に1gの加速度を与えた場合とZ方向に1gの加速度を与えた場合について説明する。尚、X方向に1gの加速度を与えたとは、(シミュレーションにおいて)流体に1gの加速度運動を与えたことを意味しており、これは熱感知型加速度センサ1を−1gの加速度で動かすことに対応している。
【0030】
図7は、図6上の位置A及び位置Cに温度検出素子が配置されている熱感知型加速度センサ1により得られる温度変化の分布を示すものであり、横軸がセンサ基板3の中心(X=0)からの距離、縦軸が温度変化(T−T0)を示している。但し、T0は加速度が0のときの温度であり、Tは加速度を与えた際の温度である。図8は、図6上の位置B及び位置Dに温度検出素子が配置された加速度センサにより得られる温度変化の分布を示すものである。また、下記の表2は、Z方向に1gの加速度を与えた場合とX方向に1gの加速度を与えた場合の交差感受性(Cross-sensitivity)について示している。この交差感受性とは、例えば、X方向の加速度による温度変化を検出したいときに、Z方向の加速度による変化を検出する干渉度合いを示すものであり、上記のように加速度を与えた際にこの干渉度合いが少ない程、精度良く加速度を求めることができる。
【表2】
【0031】
熱感知型加速度センサ1では、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に実線で示すように、位置AにおいてZ軸方向用温度検出素子8が約0.08℃の値を検出する。また、X方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に一点鎖線で示すように、Z軸方向用温度検出素子8は約0.001℃の値を検出する。つまり、Z方向用温度検出素子8では、交差感受性は、表2に示すように、1.2%となる。また、位置CにおけるX軸方向温度検出素子6では、X方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に一点鎖線で示すように、X軸方向温度検出素子6は約0.13℃の値を検出し、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に実線で示すように、約−0.005℃の値を検出する。つまり、X軸方向温度検出素子6では、交差感受性は表2に示すように、3.8%となる。尚、Y軸方向用温度検出素子7については、X軸方向用温度検出素子6を同一平面上で90°回転させたものであり、交差感受性はX軸方向用温度検出素子6と同様であるので、省略している。
【0032】
一方、従来例3のようにZ軸方向用温度検出素子を位置Bに設けた状態で、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図8に実線で示すように、Z軸方向用温度検出素子は約0.04℃の値を検出し、X方向に1gの加速度を与えた場合には、図8に一点鎖線で示すように、約−0.007℃の値を検出する。つまり、従来例3のZ軸方向用温度検出素子では、交差感受性は表2に示すように、17.5%となる。また、従来例1及び3のようにX軸方向温度検出素子を位置Dに設けた状態で、X方向に1gの加速度を与えた場合には、図8に一点鎖線で示すように、X軸方向温度検出素子は約0.11℃の値を検出し、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図8に実線で示すように、約−0.012℃の値を検出する。つまり、従来例1及び3のX軸方向温度検出素子では、交差感受性は表2に示すように、10.9%となる。
【0033】
また、従来例2は、X,Y方向用温度検出素子が図6上のDに位置し、Z方向用温度検出素子がヒーター4より外側且つヒーター4より上方である図6上のCに位置するものである。この従来例2においては、各温度検出素子のいずれもヒーター4の外側に配置されている。従来例2のようにZ方向用温度検出素子を位置Cに設けた状態で、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に実線で示すように、Z方向用温度検出素子が検出する値は非常に小さくなる(0℃近傍の値となる)。また、X方向に1gの加速度を与えた場合には、位置Dに設けられているX方向用温度検出素子は、図8に一点鎖線で示すように、大きな値(約0.11℃)を検出するが、同時に位置Cに配置されるZ方向用温度検出素子も図7に一点鎖線で示すように、大きな値(約0.13℃)を検出する。つまり、従来例2のように各温度検出素子のいずれもヒーター4の外側に配置した場合には、感度及び精度ともに著しく悪化する。
【0034】
以上のように、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、図6に示すように、X軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7をヒーター4よりも外側且つヒーター4が配置される平面より上方の位置Cに配置し、Z軸方向用温度検出素子8をヒーター4よりも外側且つヒーター4が配置されている平面よりも上方の位置Aに配置することにより、表2に示すように、従来よりも各温度検出素子6〜8において、別方向の加速度による温度変化が検出されること(出力の干渉度合い)を大幅に軽減することができる。これにより、各軸方向の加速度を高精度に求めることが可能となる。
【0035】
次に、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1のように各温度検出素子6〜8をヒーター4より上方に設けた場合と従来例3のように各温度検出素子をヒーター4と同一平面上に設けた場合の感度について説明する。図9は、Z方向に加速度を与えた際の熱感知型加速度センサ1のZ軸方向用温度検出素子8及び従来例3のZ軸方向用温度検出素子が検出する温度変化を示すものであり、横軸はZ方向に与えられる加速度、縦軸は検出される温度変化(T−T0)を示している。また、図10は、X方向に加速度を与えた際の熱感知型加速度センサ1のX軸方向用温度検出素子6及び従来例3のX軸方向用温度検出素子が検出する温度変化を示すものである。
【0036】
図9及び図10に示すように、Z方向及びX方向のいずれに加速された場合においても、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1の方が従来例3よりも温度変化量が大きい。つまり、熱感知型加速度センサ1の方が従来例3に比べて感度が良いことが示されている。
【0037】
また、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、図9及び図10に示されるように、Z軸方向用温度検出素子8が検出する温度変化は、X軸方向用温度検出素子6が検出する温度変化の約半分の値となるので、図11に示すように、Z軸方向用温度検出素子8の長さをX軸方向用温度検出素子6に対して2倍になるように形成している。また、図11(a)はヒーター4の構造の一例を示している。
【0038】
尚、本発明の実施の形態は上述の形態に限るものではなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る熱感知加速度サンサは、例えば、携帯電話、カーナビゲーションシステム、ロボット、及び人工衛星等の位置制御や姿勢制御を伴うような装置に備えられる高精度な加速度センサとして有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 熱感知型加速度センサ
2 空洞部
3 センサ基板
4 ヒーター
6 X軸方向用温度検出素子(第1温度検出素子)
7 Y軸方向用温度検出素子(第3温度検出素子)
8 Z軸方向用温度検出素子(第2温度検出素子)
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体に加わる加速度を検出するための加速度センサに関し、特に加熱された流体の温度分布の変化に基づいて物体の加速度を求める熱感知型加速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から物体に加わる加速度を検出するための加速度センサとして、ケース内に密封された流体を加熱し、この加熱した流体の温度分布の変化に基づいて物体の加速度を求める熱感知型加速度センサが知られている。このような熱感知型加速度センサとしては、例えば、カバー部材で覆われることで周囲の空気が密封されてなるセンサ基板に、密封された空気を加熱するためのヒーターと、該ヒーターを挟んで相対向する位置において密封された空気の温度をそれぞれ検出する一対の温度検出素子とを設け、該一対の温度検出素子の検出温度に基づいて、密封された空気に加わった加速度の大きさを求める熱感知型加速度センサが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、この特許文献1では、加速度のZ軸方向成分を検出するために、ヒーターを挟んで上下方向に一対の温度検出素子を配置することが開示されている。
【0003】
また、X軸、Y軸、Z軸の3軸方向の加速度を求めるために、密封された流体を加熱するためのヒーターと同一平面上にX軸用、Y軸用、及びZ軸用の温度検出素子(温度センサ)をそれぞれ設けた熱感知型加速度センサが開示されている(例えば、特許文献2参照)。更に、この特許文献2では、ヒーターの外側にX軸用、Y軸用、及びZ軸用の温度検出素子をそれぞれ設けるとともに、Z軸用の温度検出素子をヒーターよりも高い位置に配置した熱感知型加速度センサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−285996号公報
【特許文献2】米国特許公開2007/0101813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の熱感知型加速度センサでは、Z軸方向の加速度を求めるために、ヒーターを挟んで上下方向に一対の温度検出素子を配置することが開示されているものの、ヒーターの上下に温度検出素子を設けるため、構造が複雑になるとともに、Z軸方向の加速度を精度良く検出することは難しい。また、特許文献2のように同一平面上にそれぞれの温度検出素子を配置した場合には、加速度が生じた場合でも検知される温度変化量が小さく、特にZ軸方向の感度が良くないという問題がある。また、特許文献2では、Z軸用の温度検出素子をヒーターよりも高い位置に設けることが開示されているが、X軸用、Y軸用、及びZ軸用のいずれの温度検出素子も外側に設けられているので、それぞれの温度検出素子において、別方向の加速度による温度変化も検出してしまうため、本来検出すべき方向の加速度による温度変化の出力と干渉し、それぞれの軸方向の加速度を精度良く測定することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、Z軸方向に加わる加速度による温度変化をより大きな温度変化量として捉えることにより、Z軸方向の感度を向上させるとともに、それぞれの軸方向の温度検出素子において、別方向の加速度による出力が干渉することを軽減することにより、それぞれの軸方向の加速度の測定精度を向上させることができる熱感知型加速度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の熱感知型加速度センサは、カバー部材で覆われることで周囲の流体が密封されてなるセンサ基板に、密封された前記流体を加熱するためのヒーターと、前記センサ基板平面に対して平行な方向に加わる加速度を求めるために、前記ヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第1温度検出素子と、前記センサ基板平面に対して垂直な方向に加わる加速度を求めるために、前記ヒーターよりも内側の位置で前記流体の温度変化を検出する第2温度検出素子とが設けられた熱感知型加速度センサであって、前記第2温度検出素子は、前記ヒーターが配置される平面よりも高い位置に設けられていることを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の熱感知型加速度センサは、前記第1温度検出素子が、前記第2温度検出素子と同一の高さに設けられていることを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の熱感知型加速度センサは、前記センサ基板に、前記第1温度検出素子が検出する前記流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向と前記第2温度検出素子が検出する前記流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向のそれぞれに直交する方向の加速度を求めるために、前記第1温度検出素子と同一の高さ且つ前記ヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第3温度検出素子が設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項4記載の熱感知型加速度センサは、前記第2温度検出素子が設けられる高さは、当該第2温度検出素子から前記第1温度検出素子又は/及び前記第3温度検出素子までの距離及び前記ヒーターから得られる熱量に基づいて決定されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の熱感知型加速度センサによれば、第2温度検出素子を密封された流体を加熱するヒーターよりも内側且つ上方に設けているので、センサ基板平面に対して垂直な方向(Z軸方向)に加わる加速度による温度変化をより大きな温度変化量として検出することにより、Z軸方向の感度を向上させることができるとともに、Z方向に加速度が生じた場合とセンサ基板平面に対して平行な方向に加速度が生じた場合の出力の干渉を軽減し、加速度の測定精度を向上させることができる。また、センサ基板平面に対して平行な方向に加わる加速度による温度変化量を検出する第1温度検出素子は、ヒーターの外側に設けているので、センサ基板平面に対して平行な方向に加速度が生じた場合とZ方向に加速度が生じた場合との出力の干渉を軽減し、加速度の測定精度を向上させることができる。
【0012】
請求項2記載の熱感知型加速度センサによれば、第1温度検出素子を第2温度検出素子と同一の高さに設けることにより、センサ基板平面に対して平行な方向に加わる加速度に対してもより測定精度を向上させることができる。
【0013】
請求項3記載の熱感知型加速度センサによれば、第1温度検出素子が検出する流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向と第2温度検出素子が検出する流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向のそれぞれに直交する方向の加速度を求めるために、第1温度検出素子と同一の高さ且つヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第3温度検出素子を設けているので、3軸方向の加速度を精度良く求めることができる。
【0014】
請求項4記載の熱感知型加速度センサによれば、第2温度検出素子が設けられる高さを第2温度検出素子から第1温度検出素子又は/及び第3温度検出素子までの距離とヒーターから得られる熱量に基づいて決定するので、様々な条件に応じて第2温度検出素子を適切な高さに設けることができ、応用性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサの一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサの各温度検出素子の位置関係を説明するための概略模式図である。
【図3】ヒーターと温度検出素子の位置関係を示す概略模式図であって、(a)はX軸用の温度検出素子とヒーターの位置関係を示しており、(b)はZ軸用の温度検出素子とヒーターの位置関係を示している。
【図4】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサの作製工程毎の状態を示す概略説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサの作製の流れの一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサと従来の加速度センサとのヒーター及び各温度検出素子の位置関係を示す概略模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係る熱感知型加速度センサにより得られる温度変化の分布を示す図である。
【図8】従来の加速度センサにより得られる温度変化の分布を示す図である。
【図9】Z方向への加速度と温度変化の関係を示す図である。
【図10】X方向への加速度と温度変化の関係を示す図である。
【図11】ヒーター及び各温度検出素子の構造の一例を示す拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る熱感知型加速度センサの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係る熱感知型加速度センサ1は、図1に示すように、空洞部2が形成されてなるセンサ基板3と、空洞部2上に設けられセンサ基板3の周囲の流体を加熱するヒーター4と、該ヒーター4をセンサ基板3上に支持するヒーター支持梁5と、センサ基板3の平面に対して平行なX軸方向の温度変化を検出するための一対のX軸方向用温度検出素子(第1温度検出素子)6と、該一対のX軸方向用温度検出素子6と同一平面上でX軸に対して直交するY軸方向の温度変化を検出するための一対のY軸方向用温度検出素子(第3温度検出素子)7と、センサ基板3の平面に対して垂直なZ軸方向の温度変化を検出するための4つのZ軸方向用温度検出素子(第2温度検出素子)8とを備えている。この熱感知型加速度センサ1では、ヒーター4によって加熱された流体は、熱塊となり、各温度検出素子6〜8がそれぞれの位置にてその温度を検出する。そして、熱感知型加速度センサ1に加速度が加わった場合には、加熱されて軽くなった流体が加速度と同じ方向へと移動し、その移動に伴う温度変化を各温度検出素子6〜8が検出し、その温度変化に基づいて加速度を算出する。また、センサ基板3は、詳しくは図示しないが、ガラス等からなるカバー部材によって覆われることで周囲の流体が密封されている。この密封される流体としては、例えば、空気、ヘリウム等の気体や液体等の流体を用いることができる。
【0017】
センサ基板3は、シリコン等の半導体からなる板状部材であって、図1に示すように、XY平面方向から見た場合に略正方形状の基板に円形状の空洞部2が形成されている。この空洞部2は、図2及び図3に示すように、センサ基板3の厚み方向(Z軸方向)に貫通されており、下方に向かうに従って、径が小さくなるように傾斜部21を有している。尚、センサ基板3の形状は、これに限定されるものではなく、適宜設計変更が可能である。
【0018】
ヒーター4は、詳しくは図示しないが、所定の電気回路を介して電源に接続されており、電力供給のON/OFF(開始/停止)を切り替えることにより、流体の温度制御を行うものである。熱感知型加速度センサ1では、図1に示すように、4つのヒーター4が、センサ基板3の中心部から所定距離離れたX軸方向及びY軸方向にそれぞれ等間隔で配置されている。この4つのヒーター4は、それぞれ基端側がセンサ基板3上に固定された2本のヒーター支持梁5の先端に固定されることにより空洞部2上に配置される。尚、ヒーター支持梁5の数及び形状は、これに限定されるものではなく、ヒーター4を空洞部2上に安定して支持可能であれば良い。
【0019】
一対のX軸方向用温度検出素子6は、X軸方向成分の加速度を求めるために、図1〜図3に示すように、ヒーター4を挟んで対向するように当該ヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置されており、X軸方向に加速度が加わることによる流体の温度変化を検出する。同様に一対のY軸方向用温度検出素子7は、Y軸方向成分の加速度を求めるために、ヒーター4を挟んで対向するように当該ヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置されており、Y軸方向に加速度が加わることによる流体の温度変化を検出する。また、4つのZ軸方向用温度検出素子8は、Z軸方向成分の加速度を求めるために、図1〜図3に示すように、それぞれヒーター4よりも内側の空洞部2上にそれぞれ配置されており、Z軸方向に加速度が加わることによる流体の温度変化を検出する。尚、本実施形態では、図1に示すように、X軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7をそれぞれ一対ずつ、Z軸方向用温度検出素子8を4つ設けている例を示しているが、これらの数は特に限定されるものではなく、適宜変更しても良い。
【0020】
各温度検出素子6〜8は、図1及び図3に示すように、それぞれ基端側がセンサ基板3上に固定されており、先端のセンサ部分が空洞部2上に位置するように配置されている。尚、図2では、ヒーター4及び各温度検出素子6〜8の位置を示すために、それぞれのセンサ基板3上へ固定される部分については省略して図示している。また、各温度検出素子6〜8の形状は、これらに限定されるものではなく、X軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7がヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置され、Z軸方向用温度検出素子8がヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置されるように固定できる構造であれば良い。
【0021】
また、これらの温度検出素子6〜8は、図2及び図3に示すように、それぞれヒーター4が配置されている平面よりも所定高さHだけ上方に配置される。本実施形態では、Z軸方向用温度検出素子8からX軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7までの距離Wを約600μmとし、各温度検出素子6〜8の高さHを100μmに設定している。尚、この温度検出素子6〜8が設けられる高さHは、熱感知型加速度センサ1全体の大きさ、Z軸方向用温度検出素子8からX軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7までの距離W、及びヒーター4によって得られる熱量等の条件に応じて適宜決められることが望ましいが、少なくともX軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7をヒーター4よりも外側の空洞部2上に配置し、Z軸方向用温度検出素子8をヒーター4よりも外側の空洞部2上且つヒーター4が配置されている平面よりも上方に配置していれば良い。また、温度検出素子6〜8としては、例えば、温度が変化することにより抵抗値が変化することを利用したサーミスタや白金薄測温抵抗体、その他熱電対を用いたサーモパイル等の従来公知の温度センサを用いることができる。
【0022】
次に、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1の作製方法の流れの一例について、図4及び図5のフローチャートを用いて説明する。本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、まず図4(a)に示すように、センサ基板3となるシリコンウエハ(Si)3a上に酸化ケイ素(SiO2)を塗膜し、酸化ケイ素膜9を形成する(S101)。
【0023】
そして、図4(b)に示すように、例えば、エッチング処理を施すことにより、この酸化ケイ素膜9から不要な部分を除去して、シリコンウエハ3a上の所定箇所にヒーター4部分を残す(S102)。次に、図4(C)に示すように、シリコンウエハ3a及びヒーター4部分の上にフォトレジストを塗膜し、フォトレジスト膜10を形成する(S103)。
【0024】
更に、図4(d)に示すように、このフォトレジスト膜10上に酸化ケイ素を塗膜し、酸化ケイ素膜9を形成する(S104)。そして、図4(e)に示すように、エッチング処理等を施すことにより、酸化ケイ素膜9から不要な部分を除去することにより、ヒーター4が形成されている平面よりも所定距離(ここではフォトレジスト膜10の厚み分)高い位置に各温度検出素子(センサ)6〜8部分を残す(S105)。尚、この際、X軸方向用温度検出素子6部分及びY軸方向用温度検出素子7部分については、ヒーター4部分よりも外側に配置されるように酸化ケイ素膜9から不要な部分を除去し、Z軸方向用温度検出素子8部分については、ヒーター4部分よりも内側に配置されるように酸化ケイ素膜9から不要な部分を除去する。
【0025】
そして、最後にフォトレジスト膜10及び不要なシリコンウエハ3a部を除去することにより(S106)、センサ基板3の厚み方向に貫通形成された空洞部2上にヒーター4及び各温度検出素子6〜8が設けられた熱感知型加速度センサ1を作製することができる。このように、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、1枚のシリコンウエハ3a上に順番にヒーター4及び各温度検出素子6〜8を作製することができ、従来のように2枚のシリコンウエハ上に別々にヒーターと温度検出素子を作製する必要がないので、製造効率を向上させることができるとともに、装置の小型化及び軽量化を図ることができる。
【0026】
以下、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1と従来例として米国特許公開2007/0101813号公報(以下、刊行物1とする)に記載されている加速度センサとの構成の違い及び加速度の検出精度等について図6〜10及び表1、2を参照しつつ説明する。
【0027】
図6は、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1と従来例の加速度センサとのヒーター4及び各温度検出素子6〜8の位置関係を示すものである。図6に示すように、P1はヒーター4と同一平面を示しており、P2はヒーター4が配置される平面P1より所定距離Hだけ高い平面を示している。また、Aはヒーター4より内側且つ平面P2上の位置、Bはヒーター4より内側且つ平面P1上の位置、Cはヒーター4より外側且つ平面P2上の位置、Dはヒーター4より外側且つ平面P1上の位置をそれぞれ示している。また、下記の表1は、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1のX方向用温度検出素子6、Y方向用温度検出素子7、及びZ方向用温度検出素子8の図6上での位置と刊行物1に記載されている加速度センサ(従来例1〜3)に設けられる各温度検出素子の図6上での位置を示している。
【表1】
【0028】
表1に示すように、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、X軸方向用温度検出素子6、Y軸方向用温度検出素子7は、図6上のCに位置し、Z軸方向用温度検出素子8は、図6上のAに位置している。一方、刊行物1に記載の従来例1は、X,Y方向用温度検出素子が図6上のDに位置し、Z方向用温度検出素子も図6上のDに位置するものである。従来例2は、X,Y方向用温度検出素子が図6上のDに位置し、Z方向用温度検出素子は図6上のCに位置するものである。従来例3は、X,Y方向用温度検出素子が図6上のDに位置し、Z方向用温度検出素子は図6上のBに位置するものである。尚、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、X軸方向用温度検出素子6、Y軸方向用温度検出素子7が位置する図6上のCからZ軸方向用温度検出素子8が位置する図6上のAまでの距離Wは約600μm、ヒーター4が配置される平面P1から各温度検出素子6〜8が配置される平面P2までの距離(高さ)Hは約100μmとしている。
【0029】
次に、ヒーター4によって密封された流体を加熱した状態で、熱感知型加速度センサ1及び従来例1〜3にそれぞれX方向に1gの加速度を与えた場合とZ方向に1gの加速度を与えた場合について説明する。尚、X方向に1gの加速度を与えたとは、(シミュレーションにおいて)流体に1gの加速度運動を与えたことを意味しており、これは熱感知型加速度センサ1を−1gの加速度で動かすことに対応している。
【0030】
図7は、図6上の位置A及び位置Cに温度検出素子が配置されている熱感知型加速度センサ1により得られる温度変化の分布を示すものであり、横軸がセンサ基板3の中心(X=0)からの距離、縦軸が温度変化(T−T0)を示している。但し、T0は加速度が0のときの温度であり、Tは加速度を与えた際の温度である。図8は、図6上の位置B及び位置Dに温度検出素子が配置された加速度センサにより得られる温度変化の分布を示すものである。また、下記の表2は、Z方向に1gの加速度を与えた場合とX方向に1gの加速度を与えた場合の交差感受性(Cross-sensitivity)について示している。この交差感受性とは、例えば、X方向の加速度による温度変化を検出したいときに、Z方向の加速度による変化を検出する干渉度合いを示すものであり、上記のように加速度を与えた際にこの干渉度合いが少ない程、精度良く加速度を求めることができる。
【表2】
【0031】
熱感知型加速度センサ1では、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に実線で示すように、位置AにおいてZ軸方向用温度検出素子8が約0.08℃の値を検出する。また、X方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に一点鎖線で示すように、Z軸方向用温度検出素子8は約0.001℃の値を検出する。つまり、Z方向用温度検出素子8では、交差感受性は、表2に示すように、1.2%となる。また、位置CにおけるX軸方向温度検出素子6では、X方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に一点鎖線で示すように、X軸方向温度検出素子6は約0.13℃の値を検出し、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に実線で示すように、約−0.005℃の値を検出する。つまり、X軸方向温度検出素子6では、交差感受性は表2に示すように、3.8%となる。尚、Y軸方向用温度検出素子7については、X軸方向用温度検出素子6を同一平面上で90°回転させたものであり、交差感受性はX軸方向用温度検出素子6と同様であるので、省略している。
【0032】
一方、従来例3のようにZ軸方向用温度検出素子を位置Bに設けた状態で、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図8に実線で示すように、Z軸方向用温度検出素子は約0.04℃の値を検出し、X方向に1gの加速度を与えた場合には、図8に一点鎖線で示すように、約−0.007℃の値を検出する。つまり、従来例3のZ軸方向用温度検出素子では、交差感受性は表2に示すように、17.5%となる。また、従来例1及び3のようにX軸方向温度検出素子を位置Dに設けた状態で、X方向に1gの加速度を与えた場合には、図8に一点鎖線で示すように、X軸方向温度検出素子は約0.11℃の値を検出し、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図8に実線で示すように、約−0.012℃の値を検出する。つまり、従来例1及び3のX軸方向温度検出素子では、交差感受性は表2に示すように、10.9%となる。
【0033】
また、従来例2は、X,Y方向用温度検出素子が図6上のDに位置し、Z方向用温度検出素子がヒーター4より外側且つヒーター4より上方である図6上のCに位置するものである。この従来例2においては、各温度検出素子のいずれもヒーター4の外側に配置されている。従来例2のようにZ方向用温度検出素子を位置Cに設けた状態で、Z方向に1gの加速度を与えた場合には、図7に実線で示すように、Z方向用温度検出素子が検出する値は非常に小さくなる(0℃近傍の値となる)。また、X方向に1gの加速度を与えた場合には、位置Dに設けられているX方向用温度検出素子は、図8に一点鎖線で示すように、大きな値(約0.11℃)を検出するが、同時に位置Cに配置されるZ方向用温度検出素子も図7に一点鎖線で示すように、大きな値(約0.13℃)を検出する。つまり、従来例2のように各温度検出素子のいずれもヒーター4の外側に配置した場合には、感度及び精度ともに著しく悪化する。
【0034】
以上のように、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、図6に示すように、X軸方向用温度検出素子6及びY軸方向用温度検出素子7をヒーター4よりも外側且つヒーター4が配置される平面より上方の位置Cに配置し、Z軸方向用温度検出素子8をヒーター4よりも外側且つヒーター4が配置されている平面よりも上方の位置Aに配置することにより、表2に示すように、従来よりも各温度検出素子6〜8において、別方向の加速度による温度変化が検出されること(出力の干渉度合い)を大幅に軽減することができる。これにより、各軸方向の加速度を高精度に求めることが可能となる。
【0035】
次に、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1のように各温度検出素子6〜8をヒーター4より上方に設けた場合と従来例3のように各温度検出素子をヒーター4と同一平面上に設けた場合の感度について説明する。図9は、Z方向に加速度を与えた際の熱感知型加速度センサ1のZ軸方向用温度検出素子8及び従来例3のZ軸方向用温度検出素子が検出する温度変化を示すものであり、横軸はZ方向に与えられる加速度、縦軸は検出される温度変化(T−T0)を示している。また、図10は、X方向に加速度を与えた際の熱感知型加速度センサ1のX軸方向用温度検出素子6及び従来例3のX軸方向用温度検出素子が検出する温度変化を示すものである。
【0036】
図9及び図10に示すように、Z方向及びX方向のいずれに加速された場合においても、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1の方が従来例3よりも温度変化量が大きい。つまり、熱感知型加速度センサ1の方が従来例3に比べて感度が良いことが示されている。
【0037】
また、本実施形態に係る熱感知型加速度センサ1では、図9及び図10に示されるように、Z軸方向用温度検出素子8が検出する温度変化は、X軸方向用温度検出素子6が検出する温度変化の約半分の値となるので、図11に示すように、Z軸方向用温度検出素子8の長さをX軸方向用温度検出素子6に対して2倍になるように形成している。また、図11(a)はヒーター4の構造の一例を示している。
【0038】
尚、本発明の実施の形態は上述の形態に限るものではなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る熱感知加速度サンサは、例えば、携帯電話、カーナビゲーションシステム、ロボット、及び人工衛星等の位置制御や姿勢制御を伴うような装置に備えられる高精度な加速度センサとして有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 熱感知型加速度センサ
2 空洞部
3 センサ基板
4 ヒーター
6 X軸方向用温度検出素子(第1温度検出素子)
7 Y軸方向用温度検出素子(第3温度検出素子)
8 Z軸方向用温度検出素子(第2温度検出素子)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー部材で覆われることで周囲の流体が密封されてなるセンサ基板に、密封された前記流体を加熱するためのヒーターと、前記センサ基板平面に対して平行な方向に加わる加速度を求めるために、前記ヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第1温度検出素子と、前記センサ基板平面に対して垂直な方向に加わる加速度を求めるために、前記ヒーターよりも内側の位置で前記流体の温度変化を検出する第2温度検出素子とが設けられた熱感知型加速度センサであって、
前記第2温度検出素子は、前記ヒーターが配置される平面よりも高い位置に設けられていることを特徴とする熱感知型加速度センサ。
【請求項2】
前記第1温度検出素子は、前記第2温度検出素子と同一の高さに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱感知型加速度センサ。
【請求項3】
前記センサ基板に、前記第1温度検出素子が検出する前記流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向と前記第2温度検出素子が検出する前記流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向のそれぞれに直交する方向の加速度を求めるために、前記第1温度検出素子と同一の高さ且つ前記ヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第3温度検出素子が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱感知型加速度センサ。
【請求項4】
前記第2温度検出素子が設けられる高さは、当該第2温度検出素子から前記第1温度検出素子又は/及び前記第3温度検出素子までの距離及び前記ヒーターから得られる熱量に基づいて決定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の熱感知型加速度センサ。
【請求項1】
カバー部材で覆われることで周囲の流体が密封されてなるセンサ基板に、密封された前記流体を加熱するためのヒーターと、前記センサ基板平面に対して平行な方向に加わる加速度を求めるために、前記ヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第1温度検出素子と、前記センサ基板平面に対して垂直な方向に加わる加速度を求めるために、前記ヒーターよりも内側の位置で前記流体の温度変化を検出する第2温度検出素子とが設けられた熱感知型加速度センサであって、
前記第2温度検出素子は、前記ヒーターが配置される平面よりも高い位置に設けられていることを特徴とする熱感知型加速度センサ。
【請求項2】
前記第1温度検出素子は、前記第2温度検出素子と同一の高さに設けられていることを特徴とする請求項1に記載の熱感知型加速度センサ。
【請求項3】
前記センサ基板に、前記第1温度検出素子が検出する前記流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向と前記第2温度検出素子が検出する前記流体の温度変化に基づいて求められる加速度の方向のそれぞれに直交する方向の加速度を求めるために、前記第1温度検出素子と同一の高さ且つ前記ヒーターよりも外側の位置で前記流体の温度変化を検出する第3温度検出素子が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱感知型加速度センサ。
【請求項4】
前記第2温度検出素子が設けられる高さは、当該第2温度検出素子から前記第1温度検出素子又は/及び前記第3温度検出素子までの距離及び前記ヒーターから得られる熱量に基づいて決定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の熱感知型加速度センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−96936(P2013−96936A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242107(P2011−242107)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
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