説明

熱機器構造体

【課題】クロムとカルシウム等の化学反応が抑制され、かつコストに優れる熱機器構造体を提供する。
【解決手段】熱機器構造体は、少なくともクロムを含む金属部材と、前記金属部材上に形成され、金属からなるシートと、前記金属からなるシート上に形成され、カルシウム,カリウム,マグネシウム,ナトリウムの中から選ばれる少なくとも1種を含む本材と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス燃焼炉,廃棄物焼却炉,火力発電機器,化学プラント等の熱機器を構成する熱機器構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の熱を利用した熱機器(例えば,バイオマス燃焼炉,廃棄物焼却炉,火力発電機器,化学プラント)が用いられている。例えばバイオマス燃焼炉では、家畜排泄物や生ゴミ,木くずなどの動植物から生まれた再生可能な有機性資源(バイオマス)を利用して発電等を行う試みがなされている。
【0003】
一般的に、これらの熱機器の燃焼室を構成する構造材料として、耐熱性,耐酸化性,耐食性,高温強度,コスト等の観点からステンレス鋼等のクロムを含有する金属が多く用いられる。また、燃焼室で発生した熱を外へ逃がさないためにステンレス鋼の外側に保温材が配置され、発生した熱の有効利用が図られる。
【0004】
従来、燃焼室の保温材としては、アスベストが使用されてきた。アスベストは断熱性(保温特性),耐熱性,耐食性,電気絶縁性などに優れ、かつ安価であるため広く使用されてきた。しかし、現在では健康被害を引き起こす確率が高いとされ使われなくなっている。
【0005】
現在では、燃焼室等の保温材として、主としてカルシウムシリケート(酸化カルシウムと酸化シリコンの複合酸化物)を主成分とする保温材が用いられる。カルシウムシリケートは安全であるとともに断熱性(保温特性),耐熱性,耐食性に優れ、またコストにおいても安価であることによる。
【0006】
しかしながら燃焼室等において、ステンレス鋼等のクロムを含有する金属と保温材を接触させて長期間使用した場合、六価クロムが形成される可能性があると指摘されている(例えば,非特許文献1参照)。即ち、ステンレス鋼等の表面Cr皮膜と保温材のカルシウム成分が次のように反応し、六価クロムが形成される。
2Cr+4CaO+3O → 4CaCrO
【0007】
この六価クロムの形成はバイオマス燃焼炉に限らず、廃棄物焼却炉,火力発電機器や配管装置の高温部、化学プラント等多くの高温機器において発生する。即ち、クロムを含有する構造部材とそれに接触し、カルシウムを含む保温材とが存在すれば六価クロムが形成される可能性がある。この現象(六価クロムの形成)は、クロム含有量の多い金属部材においてより顕著となる。
なお、この現象はカルシウムを含む保温材に限定されず、カリウム,マグネシウム,ナトリウムを含む保温材についても認められる。
【0008】
これに対し例えば、次のような対策が検討されている。(1)使用する材料を変更する。例えば、クロムに替え、モリブデンやシリコン等を添加して耐食性を向上させる(実質的にクロムを含まない金属を使用する)。あるいは、カルシウム等を含む保温材に替えて耐熱性の高いセラミックスを使用する。(2)冷却システムを設け、金属部材と保温材の界面が高温にならないようにする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「腐食センターニュース」,No.034,2005年6月1日,腐食防食協会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記の対策はいずれも十分とは言えず、いずれも実用化に至っていないのが現状である。即ち、(1)モリブデンやシリコン等の添加,セラミックスの使用は、コストを上げることになる。(2)冷却システムを設ける場合、コストを上げると同時に機器システムの効率も下がる。
【0011】
本発明は、クロムとカルシウム等の化学反応が抑制され、かつコストに優れる熱機器構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る熱機器構造体は、少なくともクロムを含む金属部材と、前記金属部材上に形成され、金属からなるシートと、前記金属からなるシート上に形成され、カルシウム,カリウム,マグネシウム,ナトリウムの中から選ばれる少なくとも1種を含む本材と、を具備する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、クロムとカルシウム等の化学反応が抑制され、かつコストに優れる熱機器構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る構造体10を模式的に表す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、熱機器における金属部材と保温材との反応により生じる六価クロムの発生を抑えるための方法について鋭意研究を重ねた。その結果、金属部材の表面に金属からなるシートを形成することにより、金属部材表面に存在するクロム成分と保温材中のカルシウム成分とを隔離し、六価クロムの発生を抑制できることを見出した。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る構造体10を模式的に表す横断面図である。構造体10は、バイオマス燃焼炉,廃棄物焼却炉,火力発電機器や配管装置の高温部、化学プラント等の熱機器(特に,その燃焼室)を構成し、金属部材11,金属シート12,保温材13を有する。
【0017】
金属部材11は、少なくともクロムを含有する。金属部材11はステンレス鋼が望ましい。これは、ステンレス鋼は耐熱性,耐食性,高温強度が優れると同時にコストについても比較的安価であるためである。ここで、ステンレス鋼とはクロムを11%以上含む鋼と定義され、マルテンサイト系ステンレス鋼,フェライト系ステンレス鋼,オーステナイト系ステンレス鋼,オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼,析出硬化ステンレス鋼に分類される。
【0018】
金属シート12は、鉄またはニッケル等の金属からなるシートであり、金属部材11の表面に配置される。金属シート12は緻密質でも良いが、多孔質(気孔を有する)でも良い。金属シート12を多孔質とすることで金属部材11から保温材13に至る(金属シート12内の)クロムの拡散の経路長が長くなり、緻密質とする場合よりも金属シート12の厚さを低減可能となる。
【0019】
ここで、金属シート12の厚さは1μm以上、1mm以下であることが好ましい。金属シート12の厚さが1μmより小さいと次のような問題が発生する可能性がある。即ち、金属シート12の強度が弱く、金属シート12を金属部材上に配置する際に破れ等が発生する可能性がある。また、クロムの拡散距離(金属シート12の厚み)が短く十分な反応抑制効果が得られ難くなる。一方、金属シート12の厚さが1mmより厚いと曲面等の複雑形状に適用できず、実質的に反応抑制機能を果たし難くなる。
【0020】
保温材13は、熱機器内で発生する熱の外部への移動を制限するための部材(断熱部材)である。このため保温材13は、その内部に多数の空孔を有する。保温材13の空孔率(保温材13の体積中に空孔が示す割合,気孔率とも言う)は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
【0021】
保温材13は、カルシウム,カリウム,マグネシウム,ナトリウムから選ばれる少なくとも1種を含み、金属シート12と接触して配置される。ここで保温材13は、酸化カルシウムと酸化シリコンの複合酸化物を主成分とするものが望ましい。これは、酸化カルシウムと酸化シリコンの複合酸化物を主成分する保温材は、保温効果に優れると同時に耐熱性,耐酸化性,高温強度等が優れており、さらにコストにおいても比較的安価であるためである。
【0022】
次に構造体10の形成方法について説明する。
構造体10は、金属部材11上への金属シート12の配置、金属シート12上への保温材13の配置によって形成される。
【0023】
金属シート12(金属部材11)に、保温材13が固定される。即ち、金属シート12の表裏それぞれに金属部材11および保温材13が配置され、金属シート12によって金属部材11と保温材13の接触が防止される。この固定には機械的な手法を採用できる。金属部材11上に金属シート12を配置し、さらに金属シート12上に保温材13を配置し、例えばニッケル等の耐熱性の金属からなる針金等を巻きつけることで金属部材11に保温材13が固定される。
【実施例】
【0024】
以下,本発明の実施例を説明する。
【0025】
(実施例1)
寸法50×50×10mmのSUS304角板試験体の表面全体に厚さ200μmの純ニッケルシートを配置した。さらに酸化カルシウムと酸化シリコンの複合酸化物を主成分とする保温材(商品名:ロックウール)を準備し、これを50×50×10mmの寸法に加工した後ニッケルシート上に配置した。これを大気中にて熱処理した。熱処理条件は、600℃,500時間とした。
【0026】
熱処理を行った後、ステンレスSUS304鋼角板試験体及び酸化カルシウムと酸化シリコンの複合酸化物を主成分する保温材の両者の接触表面を目視により観察した。その結果、反応生成物等による色の変化は認められなかった。
【0027】
(実施例2)
保温材の材質を商品名撥水性パーライト(SiOを主成分とし,NaOを約7%含む)とした他は実施例1同様の方法で評価した。この結果、反応生成物等による色の変化は認められなかった。
【0028】
(実施例3)
保温材の材質を商品名ケイカルエース・スーパーシリカ(ケイ酸カルシウムを主成分とし、少量のカリウムを含む)とした他は実施例1と同様の方法で反応を評価した。この結果、反応生成物等による色の変化は認められなかった。
【0029】
(比較例1)
実施例1において、ニッケルシートを介せず直接SUS304角板試験体と酸化カルシウムと酸化シリコンの複合酸化物を主成分とする保温材(商品名:ロックウール)を接触させた以外はまったく同じ条件にて熱処理を行った。
【0030】
熱処理を行った後、ステンレスSUS304鋼角板試験体及び酸化カルシウムと酸化シリコンの複合酸化物を主成分する保温材の両者の接触表面を目視により観察した。その結果、保温材側に黄色の物質が確認された。この黄色の物質を採取しX線回折により分析したところ、六価クロムであることが確認された。
【0031】
(比較例2)
保温材の材質を商品名撥水性パーライト(SiOを主成分とし、NaOを約7%含む)とした他は比較例1同様の方法で評価した。この結果、X線回折によりクロムとナトリウムの複合酸化物が認められた。
【0032】
(比較例3)
保温材の材質を商品名ケイカルエース・スーパーシリカ(ケイ酸カルシウムを主成分とし、少量のカリウムを含む)とした他は比較例1同様の方法で評価した。この結果、X線回折によりクロムとカルシウムの複合酸化物が認められた。また、クロムとカリウムの複合酸化物も微量検出された。
【0033】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず、拡張,変更可能であり、拡張,変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
10 構造体
11 金属部材
12 金属シート
13 保温材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともクロムを含む金属部材と、
前記金属部材上に形成され、金属からなるシートと、
前記金属からなるシート上に形成され、カルシウム,カリウム,マグネシウム,ナトリウムの中から選ばれる少なくとも1種を含む保温材と、
を具備する熱機器構造体。
【請求項2】
前記保温材の気孔率が、80%以上であることを特徴とする請求項1記載の熱機器構造体。
【請求項3】
前記金属部材が、ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱機器構造体。
【請求項4】
前記保温材が、酸化カルシウムと酸化シリコンの複合酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱機器構造体。
【請求項5】
前記金属からなるシートは、鉄,またはニッケルを主成分とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の熱機器構造体。

【図1】
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