説明

熱物性測定用試料表面処理方法及び熱物性測定方法

【課題】試料表面に均一で再現性が高く、試料との粘着性が高く安定性がある黒化膜を表面に形成し、それにより正確な熱物性の測定が行われる試料とし、その試料を用いることにより正確な熱物性の測定が可能な熱物性測定方法とする。
【解決手段】熱物性測定用試料の表面に、最初必要に応じて金属膜スピンコートし、その上に液体墨等のカーボンブラックを含む液体を用いたスピンコーティングにより黒化膜を形成する。その際、消しゴム材や紙粘土等の弾性素材からなる弾性板を試料より僅かに小さくくり抜いて孔を形成し、くり抜きにより抜き取られた部材を前記孔の下方の一部に挿入して孔の上方に試料挿入部を形成し、孔の試料挿入部に試料を圧入保持して試料保持部材を形成する。この試料を光加熱し、赤外線検出素子等により温度測定を行い、熱物性を測定する。

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術の分野】
【0001】
本発明は、光加熱時の試料の温度応答を光検出素子により非接触で観測して熱物性値を算出する熱物性測定に際して、薄くて均一な良質の黒化膜を形成し、観測用光検出素子の対応波長に充分な感度をもつ試料を得ることができるようにした熱物性測定用資料表面処理方法及びその方法により得られた試料、並びにその方法を用い或いは試料を用いた熱物性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルス加熱等の加熱を行うレーザフラッシュ法や周期加熱法、更にはステップ加熱法等に代表される、被測定試料に対して光加熱を行う際の試料の温度応答を、光検出素子により非接触で観測して熱物性値を算出する手法が、熱物性測定手法として広く用いられている。これらの熱物性測定に際しては、加熱光を吸収できて、かつ、観測用光検出素子の対応波長に十分な感度をもつ試料が測定対象となる。
【0003】
しかしながら、上記の光加熱・非接触観測による熱物性値の測定を必要とする材料は多種多様であり、加熱光の吸収や観測波長に対する感度の条件を満たすものは必ずしも多くない。そのため、可視光〜赤外光を用いる測定に対しては、試料の表面や裏面を黒色ペイントを塗布することにより黒化して測定を行っている。その表面処理に際しては、耐熱潤滑用途の市販品であるカーボンスプレーを流用して塗布することが広く採用されている。
【0004】
なお、被測定物体としての試料をレーザにより加熱し、試料の温度変化を光学的に測定する手法は、本件発明者等による下記の特許文献が知られている。
【特許文献1】特開2005−249427号公報
【特許文献2】特開2005−315762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、試料に対してスプレーの塗布により黒化膜を形成する際には、手作業で行うこととなるために塗布量や均一性の制御が難しく、塗料容器のスプレー剤の残量によっても塗布が変わることも経験的に知られており、再現性に不安がある。また、材料や試料の表面状態に依存して黒化膜の接着性も変わるため、加熱光に耐え得る強度の不安定要素があった。
【0006】
また、カーボンスプレーによる黒化膜は、黒鉛粒子が吹き付けられただけなので、緻密ではなくふわふわした様なものであり、厚さを決定することも難しい。したがって、黒化膜の熱物性値も不明であり、不確かさ評価も難しく、測定結果の精度も向上しない。
【0007】
このように、カーボンスプレーによる黒化膜の形成は均一性、再現性、安定性、及び評価が困難という問題があるが、これに変わる方法がなかったことと簡便性から、この手法が長年用いられてきた。
【0008】
一方、光の透過がある試料の場合には、黒化だけでなく、光の透過を防止する、主に金属コーティングの膜形成も併用される。この金属コーティングに際しては、スパッタリングや蒸着などの成膜装置を用いて行われることが多い。このような成膜装置は、大掛かりで高価なものが多く、熱物性測定の表面処理のためだけに用意することは不経済である。
【0009】
それに対して近年、熱物性値の需要が高まり、測定結果に精度も求められるようになってきており、これらに代わる黒化膜とその成膜技術が求められている。
【0010】
以上のように、
1.条件を満たさない試料に対する従来の、例えばカーボンスプレーの塗布等の表面処理方法では、手作業での処理であるために試料表面で均一な塗布や再現性が難しく、安定性のある黒化膜が存在しなかった点。
2.従来の方法による黒化膜は、基板との粘着性や強度に不安がある点。
3.黒化膜の厚さが決定できないことなどから、表面処理に起因する不確かさ(誤差)を分析的に評価することが出来ず、測定精度が向上しなかった点。
4.黒化膜と併用する金属コーティングを行うためには、スパッタリングや蒸着など、大掛かりな成膜装置が必要となる点。
等の種々の問題点があった。
【0011】
5.また、物質の表面処理技術として、試料の表面に処理物質を滴下し、その後この試料を回転させることにより試料表面に均一に表面処理を行うスピンコートの手法が知られているが、従来から用いられている一般のスピンコーターでは、主として数インチのウエハへの塗布用であるため、本発明が対象としているような、直径5〜10mm程度の熱物性測定用の小さい試料に均一に塗布することは困難であり、更に他の表面処理手法に関しても、小さな試料に均一に塗布する適切な手法が見つかっていない。
したがって本発明は上記の各種の課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、前記のようなカーボンスプレーの塗布に変わる黒化処理方法を開発した。その開発に際しては簡便な材料と方法、再現性、均一な黒化膜(金属コーティングも含む)をコンセプトに開発を行った。手法としては、液体塗料(黒化膜の材料の微粉末を主成分とする液体)をスピンコーティングで塗布するものである。黒化処理方法として、一般的に湿式を避ける傾向があるが、本件の方法では敢えて湿式を採用しており、その点でも新しい発想である。
【0013】
スピンコーティングは、半導体業界においてレジスト塗布などで実績(製造ラインでも用いられている)があり、均一な塗布と再現性の高さという利点も知られている。それによって作成される膜は、μmオーダーの厚さが多く、フラッシュ法に代表される熱物性測定にも最適な黒化膜の厚さに対応する。また、スピンコーターで成膜した膜は、比較的緻密であり、形状(厚さ)も決定できる利点がある。これらの理由から、熱物性測定用の黒化処理にスピンコーティングを採用したものである。
【0014】
それにより、前記の各課題に対して、
1.スピンコーティングで成膜される膜の均一性、再現性は、塗料の原料の粒径と粘度、スピンコーターの回転数に依存する。これらの条件を整えることで、均一性と再現性が確保し、本発明による手法により安定な黒化膜を作成できる。
2.スピンコートで作成すると、スプレーよりも緻密で強度があり、安定な黒化膜が作成できる。
3.スピンコーティングで作成した膜は、均一性、再現性、形状の面で優れていることから、黒化膜の物性値の評価と不確かさ評価を行うことができる。その評価により、これまで精度良く測定することが困難であった試料の熱物性値を、十分に精度良く測定することを可能とする。
4.スピンコートは、液体塗料であれば塗布可能であるので、黒化膜も金属コーティングも1台で両方を行うことができ、設備も簡単である。
5.液体を吸収できる材料(消しゴム材や紙粘土)で試料の側面と裏面を囲むようにする試料保持方法により、大きい試料を対象とするスピンコーターでも小さい試料に均一に塗布できる。
という理由により前記各課題を解決することができた。
【0015】
本発明について、前記課題を解決するためより具体的には次のような手法を採用し、また次のような試料を用い、更に次のような熱物性測定を行う。即ち、本発明に係る熱物性測定用試料表面処理方法は、熱物性測定用試料の表面にカーボンブラックを含む液体を用いたスピンコーティングにより黒化膜を形成したことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る他の熱物性測定用試料表面処理方法は、前記熱物性測定用試料表面処理方法において、前記カーボンブラックを含む液体として液体墨を用いたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る他の熱物性測定用試料表面処理方法は、前記熱物性測定用試料表面処理方法において、前記黒化膜形成の前処理として、金属コーティングを行ったことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る他の熱物性測定用試料表面処理方法は、前記熱物性測定用試料表面処理方法において、前記金属コーティングが、金属微粒子を含む液体を用いてスピンコーティングにより形成したことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る他の熱物性測定用試料表面処理方法は、弾性素材からなる弾性板を試料より僅かに小さくくり抜いて孔を形成し、前記孔に試料を圧入保持して試料保持部材を作成し、前記試料保持部材をスピンコーターに固定して試料表面に黒化膜または金属コーティングを形成することを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る他の熱物性測定用試料表面処理方法は、前記熱物性測定用試料表面処理方法において、前記くり抜きにより抜き取られた部材を前記孔の下方の一部に挿入して孔の上方に試料挿入部を形成し、前記孔の試料挿入部に試料を圧入保持したことを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る他の熱物性測定用試料表面処理方法は、前記熱物性測定用試料表面処理方法において、前記弾性素材として消しゴム材、または紙粘土を用いたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る熱物性測定用試料は、前記いずれかの熱物性測定用試料表面処理方法により作成された試料であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る熱物性測定方法は、前記熱物性測定用試料を用い、該試料表面を加熱した際の試料表面または裏面の温度応答から熱物性値を算出することを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る熱物性測定方法は、前記熱物性測定方法において、前記試料の温度応答を、光または赤外線検出素子用いて非接触で測定したことを特徴とする。
【0025】
また、本発明に係る熱物性測定方法は、前記熱物性測定方法において、前記試料表面の加熱を、光を試料表面に照射する光加熱により行ったことを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係る熱物性測定方法は、前記熱物性測定方法において、前記試料表面の加熱を、パルス加熱、周期加熱、ステップ加熱、フラッシュ加熱のいずれかにより行ったことを特徴とする
【発明の効果】
【0027】
試料の表面や裏面を均一にかつ再現性がある黒化処理することにより、
1.理想的な条件での測定を実現し、測定結果の高度化が期待できる。
2.黒化処理の効果を含めて不確かさ評価を十分に評価することができるので、測定結果の信頼性が向上する。
3.スプレーよりも安定な膜が作れるので、加熱光強度などの測定条件が広がる。
4.黒化処理できる材料が広いので、測定可能な材料の範囲が広がる。
5.小さい試料へのスピンコーターの適用を可能にした。
更にその他の効果として、
6.実験室で容易に作成出来る。
7.光透過防止用の金属コーティングも1台の装置で処理できる。
8.コーティング材料の調整が可能であり、黒鉛や金属の微粒子、溶剤の組合せを、材料によって選択・調整ができる。
等の種々の効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は前記各種の課題を解決するため、熱物性測定用試料の表面にカーボンブラックを含む液体を用いたスピンコーティングにより黒化膜を形成する表面処理を行った試料を用い、熱物性の測定を行うことができるようにしたものである。
【実施例1】
【0029】
本件で提案するスピンコーティングによる熱物性測定用黒化膜を試作した。試作では、黒化膜の材料として、液体墨(いわゆる墨汁など)を用いた。非常に身近な材料であり、購入が容易である。主成分は、カーボンブラック等なので、試料表面に塗布することで、光加熱・非接触測定の熱物性測定に適応する。材料との化学的反応性も不活性であり、安定である。親水性であるが速乾性で染込みも少ない。また、濃度を水で調整することもでき、扱いも容易である。
【0030】
試作の結果、黒化膜は、試料表面に均一に作成され、湿式ではあるが、乾燥も比較的速く良好であった。また、同じ手順で繰り返し行ったが、コーティング量を重量変化と厚さ測定から見積もって、図10の表に示すように、従来の方法よりも再現性が良いことが確認された。
【0031】
さらに、同様の手法を用いて、黒化処理の前処理として金属コーティングも試みた。測定に用いる光の透過性が強い試料に対しては、光の透過を防止する目的で、黒化処理の前処理にしばしば金属コーティングが用いられる。一般には、スパッタリングや蒸着で成膜するが、本件では、黒化膜同様にスピンコーティングで行った。
【0032】
金属コーティングの材料は、金属微粒子を主成分とするペーストを希釈したものやインクを用いる。試作した金属コーティングは、測定に影響が無い程度の膜厚で均一に塗布され、光の透過防止の役割を十分に果たすことを確認した。また、このコーティングも、再現性が良いことが確認できた。
【0033】
実際にスピンコーターを用いて、液体墨、熱物性値を測定する材料(試作では、アルミナ、ガラス)を用い試作を行った。試作では、数種類の液体墨、数種類の試料を試した結果、特にカーボンブラックを含む合成墨を主成分とする液体墨が良好であることが分かった。
【0034】
実際に均一な黒化膜を作成するため、図1に示すような手法を用いて行った。図1(a)のような、黒化したい試料よりも少し厚い板状の、例えばプラスチック消しゴムの材料のような弾性材の板からなる弾性板1を用意する。次に同図(b)のような、試料の直径よりも若干小さい直径を備えた円筒部2を形成している孔開け部材3を用い、同図(c)の斜視図及び同図(d)の断面図のように、弾性板1の中央を試料の直径よりも若干小さくくり抜き、同図(e)のようにくり抜き孔4を開けた試料保持部材5とする。このようにしてくり抜いたくり抜き孔4に、図1(f)及び(g)のように前記のようにしてくり抜かれた前記弾性板1の抜き取り部6を嵌め込む。その後更に同図(g)及び(h)のように、くり抜き孔4よりも若干大きな直径を有する試料7をくり抜き孔4内に嵌め込む。
【0035】
その後これを図2(a)に略示するようにスピンコーター8にセットし、固定するとともに、同図(b)に示すように試料7の上に、カーボンブラックを含む液体としての液体墨9を1滴乗せる。次いで同図(c)のようにスピンコーター8を回転させて、遠心力により試料7の表面に液体墨9を塗布する。その後スピンコーター8からこれらを外して、液体墨を乾かした後、弾性板1のくり抜き孔4から試料7を外すことにより、表面に均一にカーボンブラックが塗布された試料を得ることができた。
【0036】
上記のように、試料を支持する部材としての弾性板として実際には消しゴムの素材を用いて実験を行ったが、その他に紙粘土を整形して乾かしたもの等種々の弾性板を用いることができる。また、スピンコーターに試料を単体で乗せて塗布すると、黒化膜は試料の淵が厚くなってしまう。これを防止するために、試料の周辺を余分な液を適度に吸い取るもので囲むと均一な膜ができることを見出した。
【0037】
また、試料裏面も同材料で覆うことにより、裏面への回り込み防止とスピンコーターへの塗料の吸い込み防止効果が得られることも見出した。前記のような余分な塗料を吸い取る素材としては、紙やゴム板、紙粘土なども試みたが、消しゴムが、スピンコーターへの固定も容易で最も良好であった。このスピンコート手法は、一般にインチサイズのウエハへの塗布を前提とするスピンコーターで小さい試料にレジスト(液体)を塗布する手順としても非常に有効である。
【0038】
図3に試作品と従来の方法で作成した試料の写真を示す。同図(a)は各種黒化処理前後の試料を示し、(1)は黒化前の試料(ガラス)、(2)はカーボンスプレー塗布(従来の方法)、(3)は本発明による方法を用いて液体墨をスピンコートしたもの、(4)は本発明による方法を用いてメタルインクをスピンコートしたものを示す。
【0039】
また、図3(b)は拡大写真であり、(1)はカーボンスプレー塗布(従来の方法)、(2)は本発明による液体墨をスピンコートしたもの、(3)は本発明による方法を用いてメタルインクをスピンコートしたものを示す。図3の写真から、(1)においてはカーボンスプレーは粉っぽくまだらな様子が伺える。また(2)の液体のスピンコートの方が、マットにコートされていることが分かる。メタルインクは、拡大写真は荒れている様にも見えるが、非常に薄いので、測定にはあまり影響しなかった。
【0040】
試作した黒化膜の特徴は図3(a)に示す出願用写真からは必ずしも明瞭ではないが、生成されたカーボンスプレーの膜は、ガサガサしていて粉っぽく、スピンコーターで成膜したものは、平らで付きも良い。また図3(b)の写真に示すように、金属コーティングでも可能であった。更に、スピンコーターで成膜したものに関しては、φ10mmの試料内で厚さの分布が少なく均一であった。また、同条件で3回試作して、重量による塗布量が一定であり、このことから再現性が高いことが分かった。また、高出力パルスレーザの照射に対して耐久性があることを確認し、安定性が高いことがわかった。更に塗布回数を重ねることで、好みの厚さの膜ができ、各種条件に広く対応することができることが分かった。
【0041】
金属試料(Mo)に、従来のカーボンスプレーによる黒化処理および本件提案の方法である液体墨をスピンコートした黒化処理を行って、レーザフラッシュ法で熱拡散率を測定した結果を図4に示す。カーボンスプレーは、一回の塗布量がスピンコートよりも多いことから、黒化処理の影響により熱拡散率が小さく見積もられたり、塗布量のばらつきも大きいため、測定結果のばらつきも大きいかったりする傾向が見える。一方、スピンコーティングの場合は、黒化処理の影響が少なく、測定結果のばらつきも小さく、改善が見られる。
【0042】
図5〜図7に試作試料をレーザフラッシュ法で測定した結果を示す。同図のように、測定の生データ(信号)が非常に綺麗に得られることがわかる。即ち図4は液体墨を用いた例であり、本発明の方法により塗布した薄くて均一な黒化膜を用いた場合の測定信号を示している。このときの信号はS/N比も良好であり、測定結果への影響もない様子であるが、レーザの透過が見られる。なお、試料によっては、このレーザの透過で本来の信号が影響される場合もある。
【0043】
図6はメタルインク+液体墨を用いた例であり、本発明の方法によりメタルインクと液体墨を薄く均一に塗布した場合の測定信号を示す。この信号も良好で、レーザの透過もない。測定結果への表面処理の影響もみられない。
【0044】
図7は本発明の方法により液体墨を3重に重ね塗りした場合の測定信号を示す。即ち、厚さ約30μmのレーザ信号が見えなくなるまで重ね塗りしたものであり、この測定結果は、表面処理の影響で、約5%過小評価されている。
【0045】
このようにして得られた熱拡散率の変化を図8に示す。各測定データのゼロ外挿値が、測定した熱拡散率に対応し、黒化膜が厚い場合は、測定結果への影響があり、メタルインクと液体墨の組合せでは、薄い膜でも十分に精密な測定が出来ていることがわかった。
【0046】
また、金属コーティングと黒化膜を併用することで、薄くて均一な黒化処理で非常に綺麗なデータを得ることができ、測定結果も良好であり、ばらつきも少ないほか、測定に対する耐久性があることを確認した。
【0047】
図9に黒化膜の耐熱評価(熱重量変化)の結果を示す。同図(a)は熱処理前後の試料を示し、(1)は黒化処理前試料(アルミナ)、(2)は液体墨でスピンコートした試料(ガラス)、(3)は液体墨でスピンコートした試料を真空中で1000℃まで昇温した後の状態を示す。
【0048】
昇温前後で、目視で見る限りは黒化膜の変化(劣化など)は見られず、1000℃に耐え得ることが分かった。
【0049】
また、図9(b)に前記(3)の試料について、真空中で1000℃まで昇温した時の熱重量変化を示す。ここでカーボンスプレーと液体墨スピンコートは傾向が非常に似ていることがわかる。液体墨は、カーボンスプレーと比べて重量の減少が多い様に見えるが、湿式の成膜であるために、昇温時に昇華する溶剤が多く含まれているためと考えられる。前記図9(a)の説明で述べたように、昇温しても膜の質感は変化しないこともあり、1000℃までの耐熱性が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
上記のような本発明は、エレクトロニクスなどの産業分野における材料の熱的性質の評価に際し、
1.黒化膜を必要とする熱物性測定、
2.フラッシュ法を用いた熱拡散率測定および比熱容量測定、
3.光による表面加熱(パルス加熱や周期加熱)、および表面または裏面温度応答を赤外放射検出により観測し、熱物性値を算出する手法を用いた測定等に用いることができる。
【0051】
また、試料表面や裏面を光加熱・非接触観測するような各種熱物性測定手法における試料の表面処理において、
・黒化処理を必要とする材料の標準物質化が期待できる(標準物質:熱物性測定装置の校正用の試験片)。
・実績と認知度が上がれば、試料表面や裏面を光加熱・非接触観測するような各種熱物性測定手法のJISやISO規格への適用の可能性もある。
・信頼性の高い熱物性データが得られ、それにより熱物性データを用いたシミュレーションなどに貢献できる。
・本件に基づき、最適なスピンコーターと塗料を開発すれば、製品化が容易であり、広く普及させることができる。また、今後は、レーザフラッシュ法以外にも、黒化膜を必要とする測定装置が開発される見込みもあり、そのような分野にも有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明において、試料にスピンコートを行うために採用する試料の保持方法を順に示す説明図である。
【図2】本発明において、図1で示すようにして保持された試料にスピンコートを行う説明図である。
【図3】本発明による試作品と従来の方法で作成した試料の写真を示す。
【図4】本発明による試作品と従来の方法で作成した試料をレーザフラッシュ法で測定した熱拡散率の結果を示すグラフである。
【図5】本発明により液体墨を塗った試作品を、レーザフラッシュ法で測定した結果を示す生データである。
【図6】本発明によりメタルインクと液体墨の成膜をした試作品を、レーザフラッシュ法で測定した結果を示す生データである。
【図7】本発明により液体墨を3重に重ね塗りした試作品を、レーザフラッシュ法で測定した結果を示す生データである。
【図8】図4〜6の各測定データにより熱拡散率を得たグラフである。
【図9】黒化膜の耐熱評価の説明図であり、(a)は熱処理前後の写真を示し、(b)は真空中で1000℃まで昇温したときの熱重量変化を示す図である。
【図10】本発明による試作品と従来の方法で作成した試料の塗布量の再現性を比較した表である。
【符号の説明】
【0053】
1 弾性板
2 円筒部
3 孔開け部材
4 くり抜き孔
5 試料保持部材
6 抜き取り部
7 試料
8 スピンコーター
9 液体墨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱物性測定用試料の表面にカーボンブラックを含む液体を用いたスピンコーティングにより黒化膜を形成したことを特徴とする熱物性測定用試料表面処理方法。
【請求項2】
前記カーボンブラックを含む液体は、液体墨であることを特徴とする請求項1記載の熱物性測定用試料表面処理方法。
【請求項3】
前記黒化膜形成の前処理として、金属コーティングを行ったことを特徴とする請求項1記載の熱物性測定用試料表面処理方法。
【請求項4】
前記金属コーティングは、金属微粒子を含む液体を用いてスピンコーティングにより形成したことを特徴とする請求項3記載の熱物性測定用試料表面処理方法。
【請求項5】
弾性素材からなる弾性板を試料より僅かに小さくくり抜いて孔を形成し、
前記孔に試料を圧入保持して試料保持部材を作成し、
前記試料保持部材をスピンコーターに固定して試料表面に黒化膜または金属コーティングを形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の熱物性測定用試料表面処理方法。
【請求項6】
前記くり抜きにより抜き取られた部材を前記孔の下方の一部に挿入して孔の上方に試料挿入部を形成し、
前記孔の試料挿入部に試料を圧入保持したことを特徴とする請求項5記載の熱物性測定用試料表面処理方法。
【請求項7】
前記弾性素材として消しゴム材、または紙粘土を用いたことを特徴とする請求項5記載の熱物性測定用試料表面処理方法。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれかにより作成された熱物性測定用試料。
【請求項9】
請求項8記載の熱物性測定用試料を用い、該試料表面を加熱した際の試料表面または裏面の温度応答から熱物性値を算出することを特徴とする熱物性測定方法。
【請求項10】
前記試料の温度応答を、光または赤外線検出素子用いて非接触で測定したことを特徴とする請求項9記載の熱物性測定方法。
【請求項11】
前記試料表面の加熱は、光を試料表面に照射する光加熱であることを特徴とする請求項9記載の熱物性測定方法。
【請求項12】
前記試料表面の加熱は、パルス加熱、周期加熱、ステップ加熱、フラッシュ加熱のいずれかであることを特徴とする請求項9記載の熱物性測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図8】
image rotate

【図10】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−327851(P2007−327851A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159100(P2006−159100)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)/ナノ計測基盤技術」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】