説明

熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物及びそれを用いてなるポリウレタン成形物

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、耐溶剤性及び耐加水分解性に優れる硬化性ポリウレタン樹脂組成物、及びそれを用いてなるポリウレタン成形物を提供することである。
【解決手段】 ポリエステルポリオール(1−1)とポリイソシアネート(1−2)から得られるポリウレタン樹脂(1)と、ラジカル硬化剤(2)と、を含有し、
前記ポリエステルポリオール(1−1)が、多価カルボン酸(A)と多価アルコール(B)とを反応させて得られる、酸価が2.0mgKOH/g以下であるものであり、
前記多価カルボン酸(A)が、不飽和多価カルボン酸(a1)と飽和多価カルボン酸(a2)とからなり、前記(a1)と(a2)とのモル%比率が(a1)/(a2)=5〜45/95〜55であることを特徴とする熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐溶剤性及び耐加水分解性に優れる熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物、及びそれを用いてなるポリウレタン成形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂組成物を用いて得られる成形物は、現在、自動車部品、家電部品、包装材、皮革様シート、印刷ロール等、様々な用途で使用されている。
【0003】
前記成形物には、その適用用途に対応した様々な特性が求められる。例えば、前記成形物が印刷ロールの弾性部材として使用される場合においては、印刷に使用されるインキがこれまで有機溶剤型インキが主流であったため、該成形物表面の溶解や変形、変色等を引き起こす場合があり、産業界からは耐溶剤性に優れるポリウレタン成形物の開発が求められてきた。
前記耐溶剤性に優れるポリウレタン成形物としては、コハク酸系ポリエステルポリオールと、トリレンジイソシアネートを含有するウレタンエラストマー(例えば、特許文献1の実施例参照。)が開示されている。
しかしながら、環境調和が謳われる昨今においては、前記有機溶剤型インキの代わりに、水性型インキの使用が増加しているのが現状であるため、耐加水分解性に優れる成形物の開発が重視されてきている。
しかしながら、水性型インキにおいても、少量の溶剤や洗浄溶剤が使用されているため、従来と同様、耐溶剤性も求められているのが現状である。
【0004】
前記成形物の他の用途としては、例えば、前記成形物を各種製品の所定の位置に固着する場合がある。かかる際には、一般に、接着剤を用いることが多く、例えば自動車部品や家電部品を製造する際には、所定の形状をした成形品からなる部材同士の接着に、有機溶剤型接着剤を使用することがあった。
しかし、前記有機溶剤型接着剤中に含まれる有機溶剤は、ポリウレタン成形物の表面を侵し、該成形物表面の溶解や変形、変色等を引き起こす場合があったため、産業界からは耐溶剤性に優れるポリウレタン成形物の開発が求められてきた。
このような用途においても、環境調和が謳われる昨今においては、前記有機溶剤型接着剤に代わり、水性型接着剤の使用が増加しているのが現状であるため、耐加水分解性に優れる成形物の開発が求められている。
また、水性型接着剤においても、少量の溶剤や洗浄溶剤が使用されているため、従来と同様、耐溶剤性も求められているのが現状である。
【0005】
このように、産業界からは耐溶剤性及び耐加水分解性とを併せ持つ成形用ポリウレタン材料及び成形物が強く求められているものの、未だ見出されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−301335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、耐溶剤性及び耐加水分解性に優れる熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物、及びそれを用いてなるポリウレタン成形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究を進める中で、ポリエステルポリオールのエステル基濃度及び架橋基点の構築に着目し、耐溶剤性及び耐加水分解性とを両立し得る熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物を研究した。
その結果、不飽和多価カルボン酸と、飽和多価カルボン酸と、を特定の割合で使用し得られるポリエステルポリオールを用いた場合に、耐溶剤性及び耐加水分解性に優れる熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物及びポリウレタン成形物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、ポリエステルポリオール(1−1)とポリイソシアネート(1−2)から得られるポリウレタン樹脂(1)と、ラジカル硬化剤(2)と、を含有し、
前記ポリエステルポリオール(1−1)が、多価カルボン酸(A)と多価アルコール(B)とを反応させて得られる、酸価が2.0mgKOH/g以下であるものであり、
前記多価カルボン酸(A)が、不飽和多価カルボン酸(a1)と飽和多価カルボン酸(a2)とからなり、前記(a1)と(a2)とのモル%比率が(a1)/(a2)=5〜45/95〜55であることを特徴とする熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物、及び、それを用いてなるポリウレタン成形物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物は、不飽和多価カルボン酸と、飽和多価カルボン酸と、を特定の割合で使用し得られるポリエステルポリオールを用いることにより、耐溶剤性及び耐加水分解性に優れる熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物、及び、ポリウレタン成形物を得られることから、自動車部品、家電部品、包装材、皮革様シート、印刷ロール等の耐溶剤性及び耐加水分解性が求められる用途に好適に使用することができる。なかでも、印刷ロールの弾性部材として特に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
はじめに、前記ポリエステルポリオール(1−1)について説明する。
【0011】
前記ポリエステルポリオール(1−1)は、多価カルボン酸(A)と多価アルコール(B)とを反応させて得られる、酸価が2.0mgKOH/g以下であるものであり、前記多価カルボン酸(A)が、不飽和多価カルボン酸(a1)と飽和多価カルボン酸(a2)とからなり、前記(a1)と(a2)とのモル%比率が(a1)/(a2)=5〜45/95〜55である、ポリエステルポリオールである。
【0012】
前記多価カルボン酸(A)は、前記不飽和多価カルボン酸(a1)と飽和多価カルボン酸(a2)とからなる。
【0013】
前記不飽和多価カルボン酸(a1)とは、重合性不飽和基を有し、2価以上であるカルボン酸をいう。前記不飽和多価カルボン酸(a1)としては、例えば、シトラコン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、アコニット酸等の脂肪族不飽和トリカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ノルボルネンジカルボン酸等の環構造含有不飽和ジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独または2種以上併用して使用することができる。これらの中でも、脂肪族不飽和ジカルボン酸を使用することが好ましく、原料入手の容易性と良好な反応性を具備する観点から、フマル酸を使用することがより好ましい。なお、前記(a1)中の重合性不飽和基は、ポリウレタン成形物を成形する際の架橋基点となり、熱硬化により、優れた耐溶剤性と耐加水分解性とを発現する。
【0014】
前記飽和多価カルボン酸(a2)とは、重合性不飽和基を有さず、2価以上であるカルボン酸を言い、前記(a1)とは区別されるものをいう。前記飽和多価カルボン酸(a2)としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸等の芳香族飽和多価カルボン酸や、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、グルタル酸、3−メチル−2−ペンテン・二酸、2−メチル−2−ペンテン・二酸、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アジピン酸、アゼライン酸、2−エチルヘキサン酸等の脂肪族飽和ジカルボン酸等が挙げられ、これらは単独または2種以上併用して使用することができる。これらの中でも、脂肪族飽和ジカルボン酸を使用することが好ましく、原料入手の容易性の観点からアジピン酸、コハク酸を使用することがより好ましく、耐溶剤性が特に求められる用途においては、耐溶剤性が良好な点で、コハク酸を使用することが特に好ましい。
【0015】
前記多価カルボン酸(A)における前記(a1)と前記(a2)とのモル%比率は、耐溶剤性と耐加水分解性とを両立させる観点から、(a1)/(a2)=5〜45/95〜55であり、10〜30/90〜70であることがより好ましく、15〜25/85〜75であることが特に好ましい。前記(a1)の比率が5を下回ると、ポリウレタン成形物を成形する際に熱硬化による十分な架橋が進行せず、十分な耐溶剤性及び耐加水分解性が得られない点で好ましくなく、45を超えると、エステル化反応が200℃以上の高温下で行われるため、前記(a1)の重合性不飽和基が、エステル化反応時に互いに重合し、ゲル化しやすくなるため、ポリエステルポリオールの製造が著しく不安定になるので好ましくない。
【0016】
前記多価アルコール(B)とは、2個以上の水酸基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂環族ジオール、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,3−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロオクタン−1,4−ジオール、2,5−ノルボルナンジオール等の脂環式ジオール、p−キシレンジオール、4,4’−メチレンジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,5−ナフタレンジオール等の芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロ−ルプロパン、1,2,6−ヘキサントリオ−ル等のトリオール等を使用することができ、これらは単独または2種以上併用して使用することができる。これらの中でも、良好な機械物性を与える観点から、脂肪族ジオールを使用することが好ましく、優れた耐溶剤性と耐加水分解性とを両立させる観点から、脂肪族ジオールとトリオールを併用して使用することが特に好ましい。
【0017】
また、前記脂肪族ジオールとトリオールを併用して使用する場合は、両者のモル%比率は、脂肪族ジオール/トリオール=85〜99.5/15〜0.5が好ましく、90〜99/10〜1であることがより好ましい。
【0018】
前記ポリエステルポリオール(1−1)は、前記多価カルボン酸(A)と、前記多価アルコール(B)と、を従来公知の方法で重縮合反応させて得られる。前記重縮合反応としては、例えば、前記(A)成分と、前記(B)成分と、を反応容器に仕込み、必要に応じてキシレン等の高沸点溶剤、エステル化触媒、重合禁止剤を添加し、脱水縮合させることにより、エステル化反応を進行させる方法が挙げられる。前記重縮合反応の反応温度は、140〜240℃、より好ましくは、170〜230℃、反応時間は10〜20時間、より好ましくは、13〜17時間である。
【0019】
前記エステル化触媒としては、例えば、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化バナジウム等の金属酸化物、パラトルエンスルホン酸、硫酸、リン酸等のブレンステッド酸、三フッ化ホウ素錯体、四塩化チタン、四塩化スズ等のルイス酸、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、ステアリン酸亜鉛、アルキルスズオキサイド、チタンアルコキサイド等の有機金属化合物等が挙げられ、これらは単独または2種以上併用して使用することができる。なかでも、得られるポリエステル成形物の酸化安定性の点で、モノブチルチンオキサイドを使用することが好ましい。
【0020】
前記エステル化触媒の使用量は、前記多価カルボン酸(A)と、前記多価アルコール(B)との合計質量に対し、0.001〜0.1質量%であることが好ましく、0.005〜0.03質量%であることがより好ましい。
【0021】
また、前記重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、モノメチルエーテルハイドロキノン、トルハイドロキノン、ジ−tert−4−メチルフェノール、トリモノメチルエーテルハイドロキノン、フェノチアジン、tert−ブチルカテコール等を挙げられ、これらは単独または2種以上併用して使用することができる。
【0022】
前記重合禁止剤の使用量は、前記多価カルボン酸(A)と、前記多価アルコール(B)との合計質量に対し、0.001〜0.3質量%であることが好ましく、0.005〜0.07質量%であることがより好ましい。
【0023】
また、前記ポリエステルポリオール(1−1)は、酸価が2.0mgKOH/g以下であり、0.0〜1.0mgKOH/gであることがより好ましく、0.20〜0.80mgKOH/gであることが特に好ましい。前記ポリエステルポリオール(1−1)の酸価が2.0mgKOH/gを超えると、前記ポリエステルポリオール(1−1)と、前記ポリイソシアネート(2)と、のウレタン化反応が遅延する問題があるため好ましくない。なお、前記ポリエステルポリオール(A)の酸価は、JIS K1557−5に準拠して測定を行った値である。
【0024】
また、前記ポリエステルポリオール(1−1)は、水酸基価が30〜200mgKOH/gであることが好ましく、50〜100mgKOH/gであることがさらに好ましく、50〜70mgKOH/gであることが特に好ましい。なお、前記ポリエステルポリオール(A)の水酸基価は、JIS K0070に準拠して測定を行った値である。
【0025】
また、前記ポリエステルポリオール(1−1)のエステル基濃度は、優れた耐溶剤性の観点から、30〜70質量%であることが好ましく、50〜60質量%が特に好ましい。なお、前記ポリエステルポリオール(1−1)のエステル基濃度は、前記多価カルボン酸(A)と前記多価アルコール(B)との合計質量に対する、前記原料中に占めるエステル結合構造の質量割合である。
【0026】
また、前記ポリエステルポリオール(1−1)の数平均分子量は、500〜3500が好ましく、800〜3000がさらに好ましく、1000〜2500が特に好ましい。数平均分子量は、ポリスチレンを分子量標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により求めた値である。
【0027】
次に、本発明のポリイソシアネート(1−2)について説明する。
【0028】
前記ポリイソシアネート(1−2)としては、分子中にイソシアネート基を2個以上有
するものであれば、特に限定されないが、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレ
ンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート
等の芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネ
ート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシ
クロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシ
リレンジイソシアネート等の脂肪族または脂肪族環式構造含有ジイソシアネート、キシリ
レンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート
、フェニレンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、メチ
レンジフェニルジイソシアネートのホルマリン縮合体、4,4′−ジフェニルメタンジイ
ソシアネートのカルボジイミド変性体等の芳香族系ポリイソシアネート等が挙げられ、こ
れらは単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。これらの中でも、ジ
イソシアネートを使用することが好ましく、良好な反応性と優れた耐溶剤性、機械的強度
を付与する観点から、メチレンジフェニルジイソシアネートのホルマリン縮合体及び4,
4′−ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体を使用することが特に
好ましい。
【0029】
次に、本発明のポリウレタン樹脂(1)について説明する。
【0030】
前記ポリウレタン樹脂(1)は、前記ポリエステルポリオール(1−1)と前記ポリイ
ソシアネート(1−2)から得られるものである。
【0031】
前記ポリエステルポリオール(1−1)と前記ポリイソシアネート(1−2)との反応は、前記ポリエステルポリオール(1−1)の有する水酸基と、前記ポリイソシアネート(1−2)の有するイソシアネート基の当量割合[イソシアネート基/水酸基]が1.2/1.0〜0.99/1.0の範囲で行うことが好ましく、1.1/1.0〜1.0/1.0の範囲であることがより好ましい。
【0032】
前記ポリウレタン樹脂(1)を製造する際には、必要に応じて三級アミン触媒や有機金属系触媒を使用して反応を促進することができる。
【0033】
なお、前記ポリウレタン樹脂(1)を製造する際には、かかる段階で、ウレタン化反応が完結していないことが好ましい。かかる段階でウレタン化反応を完結させてしまうと、後述するラジカル硬化剤(2)がポリウレタン樹脂(1)中に均一に分散しない等の問題があるため好ましくない。また、かかる段階でウレタン化反応が進行しすぎると、粘度上昇により製造安定性を損なう等の問題があるため好ましくない。
かかる段階では、前記ポリエステルポリオール(1−1)と前記ポリイソシアネート(1−2)とを、混合攪拌し、ウレタン化反応が未反応の状態であることが特に好ましいが、粘度上昇による製造安定性を損なわない範囲であれば、その一部がウレタン化反応していてもよい。
【0034】
前記ポリウレタン樹脂(1)を製造する際は、60〜120℃、好ましくは70〜100℃に溶融した前記ポリエステルポリオール(1−1)に、前記ポリイソシアネート(1−2)を添加し、40〜100℃の条件下で概ね10秒〜20分程度混合、攪拌することが好ましい。
【0035】
次に、本発明のラジカル硬化剤(2)について説明する。
【0036】
前記ラジカル硬化剤(2)は、本発明のポリウレタン成形物の成形時に、前記不飽和多価カルボン酸(a1)成分中の重合性不飽和基をラジカル重合せしめるものである。前記ラジカル重合による硬化方法は熱重合による硬化である。
【0037】
前記熱重合による硬化時に使用される前記ラジカル硬化剤(2)としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセテートパーオキサイド、アセチルアセテートパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド等が挙げられ、これらは単独で使用または2種以上を併用して使用することができる。
【0038】
前記ラジカル硬化剤(2)の使用量は、特に限定されないが、前記ポリエステルポリオール(1−1)と、前記ポリイソシアネート(1−2)との合計質量に対し、0.001〜5.0質量%であることが好ましく、0.05〜3.0質量%であることがより好ましい。なお、本発明において、前記ラジカル硬化剤(2)を使用しない場合は、得られるポリウレタン成形物の耐溶剤性及び/又は耐加水分解性が不十分となる。
【0039】
次に、本発明の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物について説明する。
【0040】
前記熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリエステルポリオール(1−1)とポリイソシアネート(1−2)から得られる前記ポリウレタン樹脂(1)と、ラジカル硬化剤と、を含有するものであるが、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。
【0041】
前記その他の添加剤としては、例えば、充填材、顔料、染料、安定剤、難燃剤等、従来知られている各種添加物を本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0042】
次に、本発明の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物を用いてなるポリウレタン成形物の製造方法について説明する。
【0043】
前記ポリウレタン成形物を製造する方法としては、例えば、前記ポリウレタン樹脂(1)に、前記ラジカル硬化剤(2)を添加、混合し、加熱成形する方法が挙げられる。
【0044】
前記ラジカル硬化剤(2)の混合は、前記ラジカル硬化剤(2)が前記ポリウレタン樹脂(1)中に均一に混合されれば良く、混合方法は特に限定されない。
【0045】
前記加熱成形する方法としては、例えば、均一に混合された前記ポリウレタン樹脂(1)と前記ラジカル硬化剤(2)との混合物を、シート状金型や円柱金型に注入し、熱硬化する方法が挙げられる。
【0046】
前記熱硬化としては、100〜140℃、1〜4時間の一次硬化を施し、次いで、90〜130℃、10〜20時間の二次硬化を施すことが好ましい。
【0047】
熱硬化後は、前記ポリウレタン樹脂(1)のウレタン化反応が完結していることが好ましい。
【0048】
なお、本発明のポリウレタン成形物においては、前記不飽和多価カルボン酸(a1)成分中の重合性不飽和基の架橋反応により、優れた耐溶剤性と耐加水分解性とを両立し得ることから、前記(a1)成分中の重合性不飽和基の全てが熱硬化していることが好ましいが、前記(a1)成分中の重合性不飽和基の一部は、本発明のポリウレタン成形物中に、未反応の状態で存在していても良い。前記(a1)と前記(a2)のモル%比率が前述の範囲内にあり、かつ、前記方法で熱硬化せしめれば、優れた耐溶剤性と耐加水分解性とを具備するポリウレタン成形物が得られる。
【0049】
以上の方法で得られるポリウレタン成形物は、優れた耐溶剤性と耐加水分解性とを両立することから、自動車部品、家電部品、包装材、皮革様シート、印刷ロール等の耐溶剤性及び耐加水分解性が求められる用途に好適に使用することができる。なかでも、印刷ロールの弾性部材として特に好適に使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により、一層具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。
また、本発明では、特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」である。
【0051】
[合成例1]ポリエステルポリオール(1−1−1)の合成
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに、コハク酸206部、フマル酸51部、ジエチレングリコール97部、エチレングリコール85部、トリメチロールプロパン12部を仕込み、その全仕込み量に対して、エステル化触媒としてモノブチルチンオキサイドを0.01%、重合禁止剤としてトルハイドロキノンを0.01%をそれぞれ添加し、220℃で15時間反応させ、ポリエステルポリオール(1−1−1)を得た。得られたポリエステルポリオール(1−1−1)の酸価は0.54mgKOH/g、水酸基価は60.5mgKOH/gであった。
【0052】
[合成例2]ポリエステルポリオール(1−1−2)の合成
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに、コハク酸197部、フマル酸48部、ジエチレングリコール93部、1,3−プロパンジオール100部を仕込み、その全仕込み量に対して、エステル化触媒としてモノブチルチンオキサイドを0.01%、重合禁止剤としてトルハイドロキノンを0.01%をそれぞれ添加し、220℃で15時間反応させ、ポリエステルポリオール(1−1−2)を得た。得られたポリエステルポリオール(1−1−2)の酸価は0.39mgKOH/g、水酸基価は62.8mgKOH/gであった。
【0053】
[合成例3]ポリエステルポリオール(1−1−3)の合成
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに、アジピン酸203部、フマル酸40部、ジエチレングリコール207部を仕込み、その全仕込み量に対して、エステル化触媒としてモノブチルチンオキサイドを0.01%、重合禁止剤としてトルハイドロキノンを0.01%をそれぞれ添加し、220℃で15時間反応させ、ポリエステルポリオール(1−1−3)を得た。得られたポリエステルポリオール(1−1−3)の酸価は0.55mgKOH/g、水酸基価は58.5mgKOH/gであった。
【0054】
[合成例4]ポリエステルポリオール(1−1−4)の合成
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに、コハク酸257部、ジエチレングリコール97部、エチレングリコール85部、トリメチロールプロパン12部を仕込み、その全仕込み量に対して、エステル化触媒としてモノブチルチンオキサイドを0.01%添加し、220℃で15時間反応させ、ポリエステルポリオール(1−1−4)を得た。得られたポリエステルポリオール(1−1−4)の酸価は0.46mgKOH/g、水酸基価は59.0mgKOH/gであった。
【0055】
[合成例5]ポリエステルポリオール(1−1−5)の合成
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに、コハク酸246部、ジエチレングリコール93部、1,3−プロパンジオール100部を仕込み、その全仕込み量に対して、エステル化触媒としてモノブチルチンオキサイドを0.01%添加し、220℃で15時間反応させ、ポリエステルポリオール(1−1−5)を得た。得られたポリエステルポリオール(1−1−5)の酸価は0.22mgKOH/g、水酸基価は59.4mgKOH/gであった。
【0056】
[合成例6]ポリエステルポリオール(1−1−6)の合成
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに、アジピン酸248部、ジエチレングリコール202部を仕込み、その全仕込み量に対して、エステル化触媒としてモノブチルチンオキサイドを0.01%添加し、220℃で15時間反応させ、ポリエステルポリオール(1−1−6)を得た。得られたポリエステルポリオール(1−1−6)の酸価は0.28mgKOH/g、水酸基価は56.9mgKOH/gであった。
【0057】
[合成例7]ポリエステルポリオール(1−1−7)の合成
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を備えた四つ口フラスコに、コハク酸142部、フマル酸114部、ジエチレングリコール97部、エチレングリコール85部、トリメチロールプロパン12部を仕込み、その全仕込み量に対して、エステル化触媒としてモノブチルチンオキサイドを0.01%、重合禁止剤としてトルハイドロキノンを0.01%をそれぞれ添加し、220℃で5時間反応させたところ、ゲル化したため、ポリエステルポリオール(1−1−7)が得られなかった。
【0058】
[実施例1]
合成例1で得られたポリエステルポリオール(1−1−1)とメチレンジフェニルジイソシアネートのホルマリン縮合体(日本ポリウレタン工業(株)製「ミリオネートMR−200」)とをNCO/OHモル比=1.0の配合率で混合、攪拌し、次いで、ラジカル硬化剤として、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油(株)製「パーブチルO」)をポリエステルポリオール(1−1−1)に対して1質量%添加し、混合、攪拌した。得られた混合液を2mm厚のシート状金型、及び、直径4.0cm×厚み1.2cmの円柱金型に注入した。それら金型を120℃で2時間一次硬化させ、さらに110℃で17時間二次硬化させ、シート状、及び、円柱状のポリウレタン成形物を得た。
【0059】
[実施例2−3、比較例1−5]
使用するポリエステルポリオール、ポリイソシアネート及びラジカル硬化剤を表1〜3に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてウレタン樹脂塗工液及びフィルムを得た。
【0060】
[比較例6]
合成例7で、ゲル化し、ポリエステルポリオールが合成できなかったため、ポリウレタン成形物が得られなかった。
【0061】
なお、本発明で用いた測定方法及び評価方法は、以下の通りである。
【0062】
[JIS−A硬度の測定方法]
実施例1−3、及び、比較例1−5で得られた円柱状のポリウレタン成形物を試験体とし、JIS−K−6253に規定の硬度測定法にてJIS−A硬度を測定した。
なお、ポリウレタン成形物が得られず、JIS−A硬度を評価できなかったものは「−」とした。
【0063】
[耐加水分解性の評価方法]
耐加水分解性の評価は、ポリウレタン成形物の硬度保持率で判断した。実施例1−3、及び、比較例1−5で得られた円柱状のポリウレタン成形物を試験体とし、該試験体を75℃、湿度95%の雰囲気下に7日間養生し、養生前後のポリウレタン成形物のJIS−A硬度を下記式に代入し、硬度保持率を算出し、以下のように評価した。
硬度保持率(%)=(養生後のJIS−A硬度/養生前のJIS−A硬度)×100
耐加水分解性の評価:90%以上 ◎
80%以上90%未満 ○
80%未満 ×
なお、ポリウレタン成形物が得られず、耐加水分解性を評価できなかったものは「−」とした。
【0064】
[耐溶剤性の評価方法]
耐溶剤性の評価は、ポリウレタン成形物を溶剤に浸漬させた前後の質量変化で判断した。実施例1−3、及び、比較例1−5で得られたシート状のポリウレタン成形物を5.0cm×2.5cmに打ち抜き、試験体とした。該試験体をブチルセロソルブ、トルエン、MEKにそれぞれ浸漬させ、浸漬前後の試験体の質量を下記式に代入して質量変化率を算出し、以下のように評価した。
質量変化率(%)=(浸漬後の質量/浸漬前の質量)×100
耐溶剤性の評価:
(耐ブチルセロソルブ性)
10%未満 ◎
10%以上25%未満 ○
25%以上30%未満 △
30%以上 ×
(耐トルエン性)
20%未満 ◎
20%以上45%未満 ○
45%以上60%未満 △
60%以上 ×
(耐MEK性)
50%未満 ◎
50%以上75%未満 ○
75%以上100%未満 △
100%以上 ×
なお、ポリウレタン成形物が得られず、耐溶剤性を評価できなかったものは「−」とした。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
なお、表1〜3中の用語について説明する。
表中、多価アルコールとカルボン酸組成物における数字はmol%を示す。
「DEG」:ジエチレングリコール
「EG」:エチレングリコール
「1,3PDO」:1,3−プロパンジオール
「TMP」:トリメチロールプロパン
「ScuA」:コハク酸
「AA」:アジピン酸
「FA」:フマル酸
「NCO−1」:メチレンジフェニルジイソシアネートのホルマリン縮合体(日本ポリウレタン工業(株)製「ミリオネートMR−200」)
「NCO−2」:4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体(日本ポリウレタン工業(株)製「コロネートMX」)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルポリオール(1−1)とポリイソシアネート(1−2)から得られるポリウレタン樹脂(1)と、ラジカル硬化剤(2)と、を含有し、
前記ポリエステルポリオール(1−1)が、多価カルボン酸(A)と多価アルコール(B)とを反応させて得られる、酸価が2.0mgKOH/g以下であるものであり、
前記多価カルボン酸(A)が、不飽和多価カルボン酸(a1)と飽和多価カルボン酸(a2)とからなり、前記(a1)と(a2)とのモル%比率が(a1)/(a2)=5〜45/95〜55であることを特徴とする熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記多価カルボン酸(A)における、前記(a1)と前記(a2)とのモル%比率が(a1)/(a2)=10〜30/90〜70である、請求項1に記載の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリエステルポリオール(1−1)のエステル基濃度が30〜70質量%である、請求項1又は2に記載の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
前記不飽和多価カルボン酸(a1)が脂肪族不飽和ジカルボン酸である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
前記飽和多価カルボン酸(a2)が脂肪族飽和ジカルボン酸である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項6】
前記脂肪族不飽和ジカルボン酸がフマル酸である、請求項4に記載の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
前記脂肪族飽和ジカルボン酸がコハク酸及びアジピン酸からなる群より選ばれる1種以上である、請求項5に記載の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱硬化性ポリウレタン樹脂組成物を用いてなるポリウレタン成形物。

【公開番号】特開2012−17356(P2012−17356A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153854(P2010−153854)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】