説明

熱膨張性マイクロカプセルの製造方法

【課題】優れた発泡性能を確保しながら、凝集を抑制して生産性よく熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、前記重合性モノマーを重合させて、コアシェル粒子が分散したスラリーを得る工程と、前記スラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位の符号を反転させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた発泡性能を確保しながら、凝集を抑制して生産性よく熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック発泡体は、発泡体の素材、形成された気泡の状態等に応じて遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等の機能を発現できることから、様々な用途で用いられている。プラスチック発泡体を製造する方法として、例えば、熱可塑性樹脂等のマトリックス樹脂に、発泡剤又は発泡剤を含有するマスターバッチを配合した樹脂組成物等を用いて、射出成形、押出成形等の成形方法により成形を行い、成形時の加熱により発泡剤を発泡させる方法が挙げられる。
【0003】
このような発泡剤として、例えば、熱可塑性のシェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性液体を内包して得られる熱膨張性マイクロカプセルが用いられる。例えば、特許文献1には、熱可塑性ポリマーシェル及びその中に閉じ込められた噴射剤を含む熱発泡性微小球体であって、前記ポリマーシェルが85重量%以上のニトリル含有モノマーを含むエチレン性不飽和モノマーからのホモポリマー又はコポリマーからつくられ、かつ前記噴射剤が少なくとも50重量%のイソオクタンを含む熱発泡性微小球体が記載されている。
また、特許文献2には、主成分となるモノマーがアクリロニトリルであり、カルボキシル基を含有するモノマー、カルボキシル基と反応する基を持つモノマーを必須成分として重合して得られたポリマーを外殻とし、該ポリマーの軟化温度以下の沸点を有する液体を内包する熱膨張性マイクロカプセルが記載されている。
【0004】
熱膨張性マイクロカプセルは、例えば、水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体、重合開始剤等からなる油性物質を懸濁させた状態で重合性モノマーを重合させることにより、製造される。このような重合性モノマーには、一般に、シェルポリマーにガスバリア性等の性能を持たせるために、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル系モノマーが用いられることが多い(例えば、特許文献1及び2)。また、シェルポリマーの耐熱性を高めるために、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーも用いられている(例えば、特許文献2)。
【0005】
しかしながら、ニトリル系モノマー、カルボキシル基含有モノマー等の水溶性のモノマーは水相中に溶出しやすく、溶出したモノマーが原因となって熱膨張性マイクロカプセルの洗浄液に泡立ちが生じたり、乾燥時に凝集が生じたりして、生産性が低下することが問題である。熱膨張性マイクロカプセルの凝集を抑制する方法として、例えば、水性分散媒体に塩化ナトリウムを添加する、塩析効果を利用した方法が挙げられるが、このような従来の方法では、未だ充分に凝集を抑制するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3659497号公報
【特許文献2】国際公開第99/43758号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた発泡性能を確保しながら、凝集を抑制して生産性よく熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、前記重合性モノマーを重合させて、コアシェル粒子が分散したスラリーを得る工程と、前記スラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位の符号を反転させる工程とを有する熱膨張性マイクロカプセルの製造方法である。
以下、本発明を詳述する。
【0009】
水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体、重合開始剤等からなる油性物質を懸濁させた状態で重合性モノマーを重合させると、水相中に溶出したモノマーが原因となって、重合後のスラリーには、低分子量ポリマー、未反応モノマー等からなる微小粒子が存在することとなる。そして、このような微小粒子が存在することにより、熱膨張性マイクロカプセルの洗浄液に寿命の長い固形泡が生じたり、乾燥時にブロック状の凝集体が生じたりしてしまう。このような問題に対し、本発明者は、重合後のスラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位の符号を反転させることにより、目的とする熱膨張性マイクロカプセルを凝集させることなく微小粒子のみを凝集させて除去し、洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集を抑制できることを見出した。
また、本発明者は、これまでに、ニトリル系モノマー及びカルボキシル基含有モノマーを含有するモノマー組成物を重合させてなる重合体に、所定の熱硬化性樹脂を含有させたシェルを用いることで、高い発泡倍率を維持しつつ、高温における破裂や収縮を抑制できることを見出し、特願2011−513566として出願している。本発明者は、このようにシェルに熱硬化性樹脂を用いた場合には、優れた発泡性能を実現できる一方で洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集が顕著となること、また、重合後のスラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位の符号を反転させることにより、熱硬化性樹脂を用いた場合であっても洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、まず、水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程を行う。
【0011】
上記水性分散媒体には、分散安定剤を添加してもよい。分散安定剤は、油性物質からなる液滴の表面に付着して、液滴を安定させる働きをする。
上記分散安定剤は特に限定されず、例えば、コロイダルシリカ等のシリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0012】
上記分散安定剤の添加量は特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径に応じて適宜決定することができる。例えば、上記分散安定剤としてコロイダルシリカを用いる場合、上記分散安定剤の添加量は、重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。添加量が1重量部未満であると、分散安定剤としての効果が充分に得られないことがある。添加量が20重量部を超えると、上記分散安定剤が油性物質からなる液滴の表面に付着しなかったり、余分に存在する上記分散安定剤の固体粉末が、凝集又は異常反応の起点となったりすることがある。添加量のより好ましい下限は2重量部、より好ましい上限は10重量部である。
【0013】
上記水性分散媒体には、必要に応じて、補助安定剤を添加してもよい。
上記補助安定剤は特に限定されず、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、水溶性窒素含有化合物、ポリエチレンオキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0014】
上記水溶性窒素含有化合物は特に限定されず、例えば、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリジメチルアミノエチルアクリレート等のポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミド等のポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。また、上記水溶性窒素含有化合物として、例えば、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等も挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0015】
上記補助安定剤の添加量は特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルの平均粒子径に応じて適宜決定することができる。例えば、上記補助安定剤として上記縮合生成物又は上記水溶性窒素含有化合物を用いる場合、上記補助安定剤の添加量は、重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0016】
上記分散安定剤と上記補助安定剤との組み合わせは特に限定されず、例えば、コロイダルシリカと上記縮合生成物との組み合わせ、コロイダルシリカと上記水溶性窒素含有化合物との組み合わせ、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムと上記乳化剤との組み合わせ等が挙げられる。これらのなかでは、コロイダルシリカと上記縮合生成物との組み合わせが好ましく、該縮合生成物として、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、ジエタノールアミンとアジピン酸との縮合生成物、ジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が特に好ましい。
【0017】
上記水性分散媒体のpHは、使用する分散安定剤及び補助安定剤の種類に応じて適宜決定することができる。例えば、上記分散安定剤としてコロイダルシリカを用いる場合には、必要に応じて塩酸等の酸を加えることにより上記水性分散媒体のpHを3〜4に調整し、後述する重合性モノマーを重合させる工程では、酸性条件下で重合を行う。また、上記分散安定剤として水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムを用いる場合には、上記水性分散媒体をアルカリ性に調整し、後述する重合性モノマーを重合させる工程では、アルカリ性条件下で重合を行う。
【0018】
上記水性分散媒体には、必要に応じて、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。水性分散媒体に無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルを製造することができる。上記無機塩の添加量は特に限定されないが、重合性モノマー100重量部に対する好ましい上限が100重量部である。
また、上記水性分散媒体には、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0019】
上記重合性モノマーは、カルボキシル基含有モノマーを含有することが好ましい。重合性モノマーにカルボキシル基含有モノマーを含有させることにより、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性を向上させることができる。
上記カルボキシル基含有モノマーは特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸等が挙げられる。また、これらの塩又は無水物を用いてもよい。これらのなかでは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましく、より耐熱性に優れた熱膨張性マイクロカプセルを製造できることから、メタクリル酸が特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
また、上記カルボキシル基含有モノマーは、カルボキシル基の反応性を高いまま保持するために、カルボキシル基がブロック化されていないことが好ましい。なお、ブロック化とは、例えばブロック化剤との反応等により、反応性官能基の反応性を抑えることを意味する。
【0021】
上記重合性モノマー中の上記カルボキシル基含有モノマーの含有量は、好ましい下限が1重量%、好ましい上限が50重量%である。含有量が1重量%未満であると、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性が低下することがある。含有量が50重量%を超えると、熱膨張性マイクロカプセルのガスバリア性を確保することができず、熱膨張しなくなることがある。含有量のより好ましい下限は3重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0022】
上記重合性モノマーは、ニトリル系モノマーを含有することが好ましい。重合性モノマーにニトリル系モノマーを含有させることにより、熱膨張性マイクロカプセルに高い耐熱性及びガスバリア性を付与することができる。
上記ニトリル系モノマーは特に限定されず、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマルニトリル等が挙げられる。これらのなかでは、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが特に好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
上記重合性モノマー中の上記ニトリル系モノマーの含有量は、好ましい下限が50重量%、好ましい上限が99重量%である。含有量が50重量%未満であると、熱膨張性マイクロカプセルのガスバリア性が低下することがある。含有量が99重量%を超えると、上記重合性モノマー中の上記カルボキシル基含有モノマーの含有量が相対的に低下して、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性が低下することがある。
【0024】
なお、上述したカルボキシル基含有モノマー及びニトリル系モノマーは水溶性が高く水相中に溶出しやすいため、重合後のスラリーに、洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集の原因となる微小粒子を生じさせやすい。しかしながら、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法によれば、後述する工程において重合後のスラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位の符号を反転させることにより、カルボキシル基含有モノマー又はニトリル系モノマーを用いた場合であっても洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集を抑制することができる。
【0025】
上記重合性モノマーは、上記カルボキシル基含有モノマー、上記ニトリル系モノマー等と共重合することのできる他のモノマー(以下、単に、他のモノマーともいう)を含有してもよい。
上記他のモノマーは特に限定されず、目的とする熱膨張性マイクロカプセルに必要とされる特性に応じて適宜選択することができる。上記他のモノマーとして、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、分子量が200〜600のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリアリルホルマールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、上記他のモノマーとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、ジシクロペンテニルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、イソボルニルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等も挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記重合性モノマー中の上記他のモノマーの含有量は特に限定されないが、好ましい上限は50重量%である。含有量が50重量%を超えると、上記重合性モノマー中の上記カルボキシル基含有モノマー、上記ニトリル系モノマー等の含有量が相対的に低下して、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性、ガスバリア性等が低下することがある。
【0027】
上記揮発性液体は特に限定されないが、低沸点有機溶剤が好ましく、具体的には、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、イソオクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。これらのなかでは、熱膨張性マイクロカプセルが速やかに発泡を開始でき、また、高発泡倍率で発泡できることから、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテルが好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
また、上記揮発性液体として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いてもよい。
【0028】
上記揮発性液体の含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限は10重量部、好ましい上限は50重量部である。含有量が10重量部未満であると、熱膨張性マイクロカプセルのシェルが厚くなりすぎ、高温でないと発泡できないことがある。含有量が50重量部を超えると、熱膨張性マイクロカプセルのシェルの強度が低下し、高発泡倍率で発泡できないことがある。
【0029】
上記重合開始剤は特に限定されず、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が挙げられる。
上記過酸化ジアルキルは特に限定されず、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド等が挙げられる。
【0030】
上記過酸化ジアシルは特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0031】
上記パーオキシエステルは特に限定されず、例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α,α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0032】
上記パーオキシジカーボネートは特に限定されず、例えば、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピル−パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等が挙げられる。
【0033】
上記アゾ化合物は特に限定されず、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。
【0034】
上記重合開始剤の含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限は0.1重量部、好ましい上限は5重量部である。含有量が0.1重量部未満であると、上記重合性モノマーの重合反応が充分に進行せず、熱膨張性マイクロカプセルを製造できないことがある。含有量が5重量部を超えると、上記重合性モノマーの重合反応が急激に開始することにより、凝集が生じやすくなったり、重合が暴走して安全上問題となったりすることがある。
【0035】
上記油性物質は、更に、金属カチオン塩を含有してもよい。油性物質に金属カチオン塩を含有させることにより、カルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基と金属カチオンとの間にイオン架橋を形成させることができる。これにより、熱膨張性マイクロカプセルは、シェルの架橋効率が上がって耐熱性が向上し、また、高温でもシェルの弾性率が低下しにくく、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形方法を用いた発泡成形に用いられる場合でも、破裂又は収縮が生じにくく、高発泡倍率で発泡することができる。
【0036】
上記金属カチオン塩を形成する金属カチオンは、上記カルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基とイオン架橋を形成することができれば特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2〜3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、Znのイオンが特に好ましい。また、上記金属カチオン塩は、上記金属カチオンの水酸化物であることが好ましい。これらの金属カチオン塩は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記金属カチオン塩を2種以上併用する場合、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンからなる塩と、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンからなる塩とを組み合わせて用いることが好ましい。上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオンは、カルボキシル基を活性化して、カルボキシル基と上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属以外の金属カチオンとの間のイオン架橋の形成を促進することができる。
上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Ca、Ba、Sr等が挙げられる。これらのなかでは、塩基性の強いNa、K等が好ましい。
【0038】
上記金属カチオン塩の含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が5.0重量部である。含有量が0.1重量部未満であると、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性を向上させる効果が充分に得られないことがある。含有量が5.0重量部を超えると、熱膨張性マイクロカプセルが高発泡倍率で発泡できないことがある。
【0039】
上記重合性モノマーが上記カルボキシル基含有モノマーを含有する場合、上記油性物質は、更に、熱硬化性樹脂を含有してもよい。油性物質に熱硬化性樹脂を含有させることにより、熱膨張性マイクロカプセルの加熱発泡時にカルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基と熱硬化性樹脂とを反応させ、硬化させて、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性及び耐久性を更に向上させることができる。
なお、油性物質が熱硬化性樹脂を含有する場合には、優れた発泡性能を実現できる一方で洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集が顕著となるが、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法によれば、後述する工程において重合後のスラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位の符号を反転させることにより、熱硬化性樹脂を用いた場合であっても洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集を抑制することができる。
【0040】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が好ましい。
【0041】
上記エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
上記フェノール樹脂としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ベンジリックエーテル型フェノール樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、ノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0042】
上記熱硬化性樹脂は、ラジカル重合性の二重結合を有しないことが好ましい。ラジカル重合性の二重結合を有しない場合、熱硬化性樹脂は、重合性モノマーを重合させてなるポリマーの主鎖とは直接結合しないこととなる。このような場合、熱膨張性マイクロカプセルの加熱発泡前にはシェルの柔軟性を高く保つことができ、熱膨張性マイクロカプセルの加熱発泡時にはじめて、カルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基と熱硬化性樹脂とを反応させ、硬化させることができる。
【0043】
また、上記熱硬化性樹脂は、カルボキシル基と反応する官能基を1分子中に2個以上有することが好ましい。カルボキシル基と反応する官能基を1分子中に2個以上有することで、熱硬化性樹脂は、より強固な硬化性を有することができ、これにより、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性及び耐久性を大幅に向上させることができる。
上記カルボキシル基と反応する官能基としては、例えば、エポキシ基、フェノール基、メチロール基、アミノ基等が挙げられる。これらのなかでは、エポキシ基が好ましい。1分子中の2個以上のカルボキシル基と反応する官能基は、同種であってもよく、2種以上の官能基であってもよい。
【0044】
また、上記カルボキシル基と反応する官能基は、カルボキシル基との反応性を高いまま保持するために、ブロック化されていないことが好ましい。
【0045】
ラジカル重合性の二重結合を有さず、かつ、カルボキシル基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、デナコールEX−622)、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−622)、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−421)、グリセロールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−313)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−411)、レソルシノールジグリシジルエーテル(デナコールEX−201)、1,6−ヘキサネジオールジグリシジルエーテル(デナコールEX−212)、エチレン,ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(デナコールEX−810)等が挙げられる。
【0046】
上記熱硬化性樹脂の含有量は、熱硬化性樹脂を除いた油性物質全体に対する好ましい下限が0.01重量%、好ましい上限が30重量%である。含有量が0.01重量%未満であると、加熱発泡時に熱硬化特性が現れないことがある。含有量が30重量%を超えると、熱膨張性マイクロカプセルのシェルのガスバリア性が低下し、発泡が阻害されることがある。含有量のより好ましい下限は0.1重量%、より好ましい上限は15重量%である。
【0047】
また、上記カルボキシル基含有モノマーと上記熱硬化性樹脂との比率(重量)は、1000:1〜1:1であることが好ましく、100:1〜4:1であることがより好ましい。このような範囲とすることで、熱硬化性樹脂の未反応部分を低減しながら、硬化性を確保することができる。
【0048】
上記油性物質は、更に、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、シランカップリング剤、色剤等を含有してもよい。
【0049】
上記水性分散媒体に上記油性物質を懸濁させる方法は特に限定されず、例えば、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法、ラインミキサー、エレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には、上記水性分散媒体と上記油性物質とを別々に供給してもよく、予め上記水性分散媒体と上記油性物質とを攪拌混合し、得られた懸濁液を供給してもよい。
【0050】
また、上記重合性モノマー、上記揮発性液体及び上記重合開始剤を別々に上記水性分散媒体に添加して、上記水性分散媒体中で油性物質を調製してもよいが、通常は、予め上記重合性モノマー、上記揮発性液体及び上記重合開始剤を混合して油性物質としてから、上記水性分散媒体に添加する。この場合には、上記水性分散媒体と上記油性物質とを予め別々の容器で調製しておき、更に別の容器で攪拌しながら混合することにより、上記水性分散媒体に上記油性物質を分散させた後、重合反応容器に添加してもよい。
なお、上記重合開始剤は、予め上記油性物質に添加してもよく、上記水性分散媒体と上記油性物質とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよい。
【0051】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、次いで、上記重合性モノマーを重合させて、コアシェル粒子が分散したスラリーを得る工程を行う。
【0052】
上記重合性モノマーを重合させる方法は特に限定されず、例えば、加熱により上記重合性モノマーを重合させる方法等が挙げられる。
上記重合性モノマーを重合させることにより、上記重合性モノマーを重合させて得られる重合体からなるシェルに、コア剤として上記揮発性液体を内包するコアシェル粒子が形成され、このようなコアシェル粒子が分散したスラリーが得られる。
【0053】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、次いで、上記スラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位の符号を反転させる工程を行う。
このような工程を行うことにより、目的とする熱膨張性マイクロカプセルを凝集させることなく微小粒子のみを凝集させて除去し、洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集を抑制することができる。なお、重合性モノマーの重合前に2価以上の金属塩を添加しても、本発明の効果を得ることはできない。
【0054】
ゼータ電位の符号を反転させるとは、2価以上の金属塩を添加する前のスラリー中に分散したコアシェル粒子のゼータ電位がマイナスの値である場合には、ゼータ電位をプラスの値にすることを意味し、2価以上の金属塩を添加する前のスラリー中に分散したコアシェル粒子のゼータ電位がプラスの値である場合には、ゼータ電位をマイナスの値にすることを意味する。
なお、ゼータ電位は、Particle Sizing Systems社製NiComp 380 DLS等の装置を用いて測定することができる。
【0055】
上記2価以上の金属塩は、20℃における溶解度の好ましい下限が20である。上記溶解度が20未満であると、洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集を充分に抑制できないことがある。上記溶解度のより好ましい下限は25である。
なお、20℃における溶解度とは、溶質を水に添加して20℃における飽和水溶液を調製したとき、20℃の飽和水溶液100g中に含まれる溶質のグラム数を意味する。
【0056】
上記2価以上の金属塩を形成する金属として、例えば、アルミニウム、スズ、カルシウム、マグネシウム、鉄、チタン、ジルコニウム、ハウニウム、モリブデン、クロム、マンガン、バナジウム、ルテニウム、オスミウム、レニウム、タンタル、タングステン等の2価又は3価の金属が挙げられる。これらのなかでは、アルミニウム等の3価の金属が好ましい。
上記2価以上の金属塩の塩の種類は特に限定されず、例えば、塩化物、硫酸塩、炭酸塩等が挙げられる。
【0057】
上記2価以上の金属塩として、具体的には、例えば、(ポリ)塩化アルミニウム(20℃における溶解度45.8)、硫酸アルミニウム(20℃における溶解度87.0)、塩化スズ(20℃における溶解度27.0)、塩化カルシウム(20℃における溶解度42.7)、炭酸カルシウム(20℃における溶解度0.91)、塩化マグネシウム(20℃における溶解度35.3)、硫酸マグネシウム(20℃における溶解度25.2)、塩化鉄(II)(20℃における溶解度38.5)、塩化鉄(III)(20℃における溶解度47.9)等が挙げられる。これらのなかでは、溶解度が高く、取り扱い性の良い(ポリ)塩化アルミニウム(20℃における溶解度45.8)、硫酸アルミニウム(20℃における溶解度87.0)及び塩化スズ(20℃における溶解度27.0)が好ましい。
なお、上述のような各2価以上の金属塩の20℃における溶解度の値は、「化学便覧 基礎編II 改訂3版」に記載されている値である。
【0058】
上記2価以上の金属塩の添加量は、上記スラリー100重量部に対する好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が10重量部である。添加量が0.1重量部未満であると、洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集を充分に抑制できないことがある。添加量が10重量部を超えると、未溶解の金属塩が増え、このような金属塩の固体粉末が、凝集又は異常反応の起点となることがある。添加量のより好ましい下限は0.3重量部、より好ましい上限は5重量部であり、更に好ましい下限は0.5重量部、更に好ましい上限は3重量部である。
【0059】
上記2価以上の金属塩を添加する方法は特に限定されず、例えば、必要に応じて加熱を行いながら、上記2価以上の金属塩の粉末を上記スラリーに直接添加する方法、上記2価以上の金属塩を水に溶解した水溶液を上記スラリーに添加する方法等が挙げられる。
なお、2価以上の金属塩を添加した後、攪拌を行うことが好ましい。攪拌する方法は特に限定されず、例えば、マグネチックスターラー、ホモジナイザー等を用いた従来公知の攪拌方法が挙げられる。
【0060】
上記スラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位を反転させる方法は、使用する分散安定剤、補助安定剤、2価以上の金属塩を添加する前のゼータ電位等に応じて適宜決定することができる。例えば、上記分散安定剤としてコロイダルシリカを用いる場合には、2価以上の金属塩として(ポリ)塩化アルミニウム(20℃における溶解度45.8)、硫酸アルミニウム(20℃における溶解度87.0)及び塩化スズ(20℃における溶解度27.0)を用いる方法等が挙げられる。なかでも、(ポリ)塩化アルミニウム(20℃における溶解度45.8)を用いることが好ましく、ポリ塩化アルミニウム(PAC)(20℃における溶解度45.8)を用いることが特に好ましい。
【0061】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、更に、熱膨張性マイクロカプセルから微小粒子等の不純物を除去するために、得られた熱膨張性マイクロカプセルの洗浄とろ過とを繰り返し行う工程を行うことが好ましい。また、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、得られた熱膨張性マイクロカプセルを脱水する工程、乾燥する工程等を行ってもよい。
【0062】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、重合後のスラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位の符号を反転させる工程を行うことにより、目的とする熱膨張性マイクロカプセルを凝集させることなく微小粒子のみを凝集させて除去し、洗浄液の泡立ち及び乾燥時の凝集を抑制できる。従って、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法によれば、優れた発泡性能を確保しながら、生産性よく熱膨張性マイクロカプセルを製造することができる。
【0063】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により得られる熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限が35μm、好ましい上限が80μmである。体積平均粒子径が35μm未満であると、熱膨張性マイクロカプセルを基材樹脂に配合して成形する場合に、発泡成形体の気泡が小さすぎ、クッション性、制振性等の性能又は軽量化が不充分となることがある。体積平均粒子径が80μmを超えると、発泡成形体の気泡が大きすぎ、繰り返し圧縮に対する耐疲労性、又は、強度が不充分となることがある。体積平均粒子径のより好ましい下限は40μm、より好ましい上限は60μmである。
なお、体積平均粒子径は、粒度分布計(例えば、堀場製作所社製「LA−950」)を用いて測定することができる。
【0064】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により得られる熱膨張性マイクロカプセルの最大発泡温度(Tmax)は特に限定されないが、好ましい下限が200℃である。最大発泡温度が200℃未満であると、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性が低くなり、高温において破裂及び収縮を生じやすく、発泡倍率が低下することがある。また、例えば、熱膨張性マイクロカプセルを用いてマスターバッチペレットを製造する場合に、ペレット製造時の剪断力により発泡が生じてしまい、未発泡のマスターバッチペレットを安定して製造できないことがある。最大発泡温度のより好ましい下限は210℃である。
なお、最大発泡温度とは、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルが最大変位量となったときの温度を意味する。
【0065】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により得られる熱膨張性マイクロカプセルの発泡開始温度(Ts)は、好ましい下限が130℃、好ましい上限が200℃である。発泡開始温度が200℃を超えると、熱膨張性マイクロカプセルを基材樹脂に配合して成形しようとしても、特に射出成形の場合には発泡倍率が上がらないことがある。上記発泡開始温度のより好ましい上限は180℃である。
【0066】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により得られる熱膨張性マイクロカプセルの用途は特に限定されない。例えば、本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法により得られる熱膨張性マイクロカプセルを基材樹脂に配合し、射出成形、押出成形等の成形方法を用いて成形することで、遮熱性、断熱性、遮音性、吸音性、防振性、軽量化等を備えた発泡成形体を製造することができる。
【発明の効果】
【0067】
本発明によれば、優れた発泡性能を確保しながら、凝集を抑制して生産性よく熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0069】
(実施例1)
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)25重量部と、補助安定剤としてポリビニルピロリドン(BASF社製)0.8重量部と、1N塩酸1.8重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1に示した配合比の重合性モノマー100重量部と、熱硬化性樹脂としてJER−828US(三菱化学社製、ラジカル重合性二重結合の数:0、カルボキシル基と反応する官能基の数:2)2.0重量部と、重合開始剤1重量部と、揮発性液体としてイソペンタン10重量部及びイソオクタン20重量部とからなる油性物質を水性分散媒体に添加し、懸濁させて、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で6時間、80℃で5時間反応させることにより、コアシェル粒子が分散したスラリー(ゼータ電位:−10)を得た。得られたスラリー100重量部に、ポリ塩化アルミニウム(PAC)(20℃における溶解度45.8)1.5重量部を添加し、マグネチックスターラーを用いて5分間攪拌することにより、ゼータ電位を+15とした。次いで、コアシェル粒子のろ過と水洗を繰り返した後、乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
なお、ゼータ電位は、Particle Sizing Systems社製NiComp 380 DLSにより測定した。
【0070】
(実施例2〜4)
使用した金属塩の種類を表1に示すように変更し、ゼータ電位が表1に示す値であったこと以外は実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0071】
(比較例1)
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)25重量部と、補助安定剤としてポリビニルピロリドン(BASF社製)0.8重量部と、1N塩酸1.8重量部と、ポリ塩化アルミニウム(PAC)(20℃における溶解度45.8)1.5重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。次いで、表1に示した配合比の重合性モノマー100重量部と、熱硬化性樹脂としてJER−828US(三菱化学社製、ラジカル重合性二重結合の数:0、カルボキシル基と反応する官能基の数:2)2.0重量部と、重合開始剤1重量部と、揮発性液体としてイソペンタン10重量部及びイソオクタン20重量部とからなる油性物質を水性分散媒体に添加し、懸濁させて、分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で6時間、80℃で5時間反応させることにより、コアシェル粒子が分散したスラリー(ゼータ電位:−2)を得た。次いで、コアシェル粒子のろ過と水洗を繰り返した後、乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0072】
(比較例2)
コアシェル粒子が分散したスラリーにポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0073】
(比較例3〜4)
使用した金属塩の種類を表1に示すように変更し、ゼータ電位が表1に示す値であったこと以外は実施例1と同様にして、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0074】
<評価>
実施例及び比較例で得られた熱膨張性マイクロカプセル又は洗浄液について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(1)洗浄液の泡立ち
コアシェル粒子のろ過と水洗を繰り返す工程において、コアシェル粒子が分散したスラリーをろ過し、得られたコアシェル粒子のウェットケーキにスラリーと同量の純水を加えて攪拌後、ろ過し、得られたコアシェル粒子のウェットケーキに再びスラリーと同量の純水を加えて攪拌後、ろ過した。このとき得られたろ液について、30分を超えても泡が消えなかった場合を「×」と、泡が消えた時間が5分を超えて30分以内であった場合を「△」と、1分を超えて5分以内であった場合を「○」と、1分以内であった場合を「◎」として評価した。
【0076】
(2)凝集性
熱膨張性マイクロカプセル100gを5分間篩(目開き150μm、線径100μm、東京スクリーン社製)にかけ、篩の目開きをとおった熱膨張性マイクロカプセルの重量を測定した。下記式(1)により熱膨張性マイクロカプセルの篩効率を算出し、篩効率が70%以下であった場合を「×」と、70%を超えて80%以下であった場合を「△」と、80%を超えて90%以下であった場合を「○」と、90%を超えた場合を「◎」として評価した。
篩効率=(篩の目開きをとおった熱膨張性マイクロカプセルの重量)/(篩にかける前の熱膨張性マイクロカプセルの重量)×100 (1)
【0077】
(3)発泡倍率
熱膨張性マイクロカプセルを約0.1g秤量し、10mLのメスシリンダーに入れた。このメスシリンダーを160℃、180℃、200℃又は220℃に加熱したオーブンに5分間投入し、膨張した熱膨張性マイクロカプセルのメスシリンダー内での容積を測定した。
【0078】
(4)耐熱性
熱膨張性マイクロカプセルを約0.1g秤量し、10mLのメスシリンダーに入れた。このメスシリンダーを180℃に加熱したオーブンに5分間投入し、膨張した熱膨張性マイクロカプセルのメスシリンダー内での容積を測定した。その後、220℃に加熱したオーブンに更に10分間投入し、膨張した熱膨張性マイクロカプセルのメスシリンダー内での容積を測定した。
180℃で5分間処理した直後の膨張した熱膨張性マイクロカプセルのメスシリンダー内での容積をL、更に220℃で10分間処理した後の膨張した熱膨張性マイクロカプセルのメスシリンダー内での容積をHとしたとき、H/Lが0.4未満であった場合を「×」と、0.4以上0.6未満であった場合を「△」と、0.6以上0.8未満であった場合を「○」と、0.8以上であった場合を「◎」として評価した。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明によれば、優れた発泡性能を確保しながら、凝集を抑制して生産性よく熱膨張性マイクロカプセルを製造することのできる熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性分散媒体に、重合性モノマー、揮発性液体及び重合開始剤を含有する油性物質を懸濁させる工程と、
前記重合性モノマーを重合させて、コアシェル粒子が分散したスラリーを得る工程と、
前記スラリーに2価以上の金属塩を添加し、ゼータ電位の符号を反転させる工程とを有する
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
重合性モノマーは、カルボキシル基含有モノマーを含有し、かつ、油性物質は、熱硬化性樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
熱硬化性樹脂は、ラジカル重合性の二重結合を有さず、かつ、カルボキシル基と反応する官能基を1分子中に2個以上有することを特徴とする請求項2記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
2価以上の金属塩は、20℃における溶解度が20以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。

【公開番号】特開2013−71075(P2013−71075A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212984(P2011−212984)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】