説明

熱転写インクリボンの印刷方法及び装置

【課題】 低コストにて高速印刷時でもインキミストの基材フィルムへの付着を抑制し、印刷汚れのない熱転写インクリボンを生産性よく製造することを可能とする。
【解決手段】 走行中の基材フィルム2に版胴5と圧胴7を用いて転写層3Mを印刷するに際し、圧胴7の圧胴本体7aに定電圧発生装置10で電圧を印加しておくことで、圧胴7と版胴5の間を通過する基材フィルム2の印刷される側の面を、印刷点で発生するインキミストに生じている電荷と同極性に帯電させ、基材フィルム2とインキミストに静電斥力を生じさせて互いに反発させ、インキミスト付着による印刷汚れを防止する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写インクリボンの印刷方法及び装置に関し、特に、印刷時に発生するインキミストによる汚れを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
最近普及したデジカメから昇華転写方式により写真プリントする際、熱転写インクリボンが使用される。図5に示すように、カラー写真プリントに使用される熱転写インクリボン1は、基材フィルム2の一方の面に、ベヒクルに昇華性染料を溶解、分散した複数色のインキ、例えば、Y、M、Gの3色のインキを所定の領域に所定の順序にパターン状に印刷して転写層3Y、3M、3Gを形成したものである。このような熱転写インクリボン1は、基材フィルム2上に多色グラビア輪転印刷により形成される。よって、印刷機の各色の印刷ユニットに用いているグラビア版を備えた版胴は、画線部と非画線部を持つ。グラビア印刷によって印刷する場合、図6に誇張して示すように、版胴5と圧胴7のニップ点において基材フィルム2が版胴5から離れる瞬間に基材フィルム2と版胴5との間の液だまり(版胴5から基材フィルム2に転移するために両者につながった状態となっているインキ)が破断し、微小なインキミスト15を発生することがあり、特に画線部と非画線部の境界においてインキミスト15の発生が多い。発生したインキミスト15が、基材フィルム2の表面に付着すると印刷汚れとなる。この印刷汚れが他の色の印刷領域に付着すると、熱転写時に画像の欠陥となり、写真品質を低下させる。従って、このような印刷汚れは防止しなければならない。
【0003】
印刷汚れ防止対策としては、版胴の画線部から非画線部への境界を基材フィルムが通過する際に破断する液溜まり量を削減すべく、画線部終端付近のセル体積を徐々に縮小させておくことが、特許第3336483号公報に提案されている。この公報に提案の対策は、インキミスト発生を抑制する効果は十分にあるものの、高速化に対応しきれないという問題があった。すなわち、印刷を高速化すると、セル体積を徐々に縮小させておく部分の長さを延長する必要が生じるが、長さは色同士の間隔として製品仕様により既に決まっており、途中変更することは困難であり、結果として高速では製品を製造できないという問題を抱えていた。また、セル体積を徐々に縮小させた構造の版胴は製造がむつかしく、設備費が高くなるという問題もあった。
【特許文献1】特許第3336483号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、低コストにて高速印刷時でもインキミストの基材フィルムへの付着を抑制し、印刷汚れのない熱転写インクリボンを印刷することを可能とする技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはインキミストの付着による印刷汚れを防止すべく種々検討の結果、基材フィルムと版胴との間の液だまりの破断によって生じるインキミストは自然帯電しており、基材フィルムの印刷される側の面を、インキミストと同極性に帯電させておけば、基材フィルムとインキミストとの間に静電斥力による反発力が発生し、インキミストの基材フィルムへの付着を防止できることを見出した。本願発明はかかる知見に基づいてなさたもので、請求項1に係る発明は、走行中の基材フィルムに、グラビア版を備えた版胴と圧胴を用いて転写層を色別にパターン状に印刷する工程と、前記版胴と圧胴による印刷点の下流に位置する前記基材フィルムの印刷される側の面を、前記印刷点で発生するインキミストに生じている電荷と同極性に帯電させる工程を有する熱転写インクリボンの印刷方法を要旨とする。
【0006】
本願請求項2に係る発明は、インキミストの自然帯電を利用する代わりに、インキミストを強制的に帯電させ、更に、前記印刷点の下流に位置する前記基材フィルムの印刷される側の面を、前記インキミストと同極性に帯電させることを特徴とするものである。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明の方法を実施するための装置を提供するもので、グラビア版を備えた版胴と、基材フィルムを前記版胴に押し付ける圧胴であって、表面を絶縁材で被覆した導電性材料製の圧胴本体を備えた圧胴と、前記圧胴本体に電圧を印加する定電圧発生装置を備え、前記定電圧発生装置が前記圧胴に印加する電圧の極性を、前記圧胴と版胴の間を通過する基材フィルムの印刷される側の面を、前記版胴と圧胴による印刷点で発生するインキミストの帯電特性と同極性に帯電させるように設定していることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4に係る発明も、請求項1に係る発明の方法を実施するための装置を提供するもので、グラビア版を備えた版胴と、基材フィルムを前記版胴に押し付ける圧胴と、前記版胴と圧胴による印刷点の下流において前記基材フィルムを帯電させる帯電手段を備え、該帯電手段が、前記基材フィルムの印刷される側の面を、前記版胴と圧胴による印刷点で発生するインキミストの帯電特性と同極性に帯電させる構成としていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、印刷点の下流にある基材フィルムの印刷される側の面を、インキミストと同極性に帯電させる構成としたことにより、基材フィルムとインキミストとの間に静電斥力による反発力を発生させ、インキミストの基材フィルムへの付着を防止し、印刷汚れの発生を防止できる。このように本発明では、基材フィルムを帯電させるのみで、或いは基材フィルムとインキミストを帯電させるのみで印刷汚れを防止できるので、前記した従来例のようにグラビア版の画線部終端付近のセル体積を徐々に縮小させる構造とする必要はなく、このため、グラビア版の製作費が増大するということはない。また、高速印刷時においても良好に印刷汚れの発生を防止できるので、印刷速度を上げて生産性よく熱転写インクリボンを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に示す本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の好適な実施の形態に係る熱転写インクリボンの印刷装置の一つの印刷ユニットを示す概略斜視図であり、2は基材フィルム、3Mは図示した印刷ユニットで基材フィルム2に印刷された転写層、5はグラビア版を備えた版胴、6はインキパン、7は基材フィルム2を版胴5に押し付ける圧胴である。版胴5は、走行中の基材フィルム2に転写層3Mを一定間隔をあけて帯状に印刷しうるよう画線部5aと非画線部5bを備えている。画線部5aに形成しているセルは、特許第3336483号公報に記載のように、画線部終端付近のセル体積を徐々に縮小させる構造とする必要はなく、画線部全体に渡って一定のセル体積としてよく、これにより、版胴5を低コストで製造できる。圧胴7は、導電性材料例えば鉄材で形成された円筒状の圧胴本体7aの表面を絶縁材であるゴム層7bで被覆した構造を有しており、絶縁性を備えた軸受装置(図示せず)によって回転可能に保持されている。この圧胴本体7aには、定電圧発生装置10が接続され、圧胴本体7aにプラス又はマイナスの電圧を印加可能としている。印加電圧の極性については後述する。圧胴本体7aは、絶縁カップリング11を介してモータ等の駆動装置12に連結されている。なお、印刷装置を構成する他の印刷ユニットも上記したもとの同様な構造を有しており、基材フィルム2に対して転写層を色別にパターン状に印刷することができるように配列されている。
【0011】
次に、上記構成の印刷装置による動作を説明する。印刷は、通常のグラビア印刷機と同様に、基材フィルム2を版胴5と圧胴7にてニップし、インキパン6のインキ13を版胴5より基材フィルム2に供給することで行う。また、共通の基材フィルム2に対して複数の印刷ユニットが各色の印刷を行うことで、基材フィルム2に転写層を色別にパターン状に印刷する。各印刷ユニットにおける印刷の際、図2に拡大して示すように、印刷点(版胴5と圧胴7とのニップ点)において基材フィルム2が版胴5から離れる瞬間に基材フィルム2と版胴5との間の液だまり(版胴5から基材フィルム2に転移するために両者につながった状態となっているインキ)が破断し、微小なインキミスト15が発生する。このインキミスト15は多くの場合自然帯電しており、その極性はインキの特性によって定まっている。そこで、例えば、インキの帯電特性がマイナスであって、発生するインキミスト15がマイナスに帯電する場合には、定電圧発生装置10よりマイナス電圧を発生させ、圧胴7の圧胴本体7aにマイナス電圧(例えば、10〜40kV程度)を印加しておく。これにより、圧胴7と版胴5の間を通過する基材フィルム2には、圧胴本体7aのマイナス電圧によって分極が生じ、圧胴7とは反対側の面である印刷される側の面はマイナスに帯電する。このため、印刷点を通り過ぎた基材フィルム2の印刷される側の面と印刷点で発生したインキミスト15とは共にマイナスに帯電した状態となっており、両者に静電斥力が発生し、インキミスト15と基材フィルム2とは互いに反発する。かくして、インキミスト15が基材フィルム2に近づくことはほとんどなく、画線部から非画線部に基材フィルム2が通過する時のようにインキミストの発生が多い時であってもインキミストが基材フィルム2に付着せず、印刷汚れを防止できる。
【0012】
ここで、インキミストの付着防止効果は、定電圧発生装置10の極性及び電圧、インキの帯電特性、粘度や比重、液溜まりのサイズ、印刷速度、重力方向、及び基材フィルム2の位置などにより異なるので、所望の操業条件に応じて所望の付着防止効果が得られるように、定電圧発生装置10の極性及び電圧を定めることで、高速印刷時においても印刷汚れを防止できる。かくして、この印刷装置では、製品仕様である色同士の間隔を変更することなく、高速印刷によるインクリボンの製造が可能となる。
【0013】
上記した実施の形態では、基材フィルム2の印刷される側の面を帯電させるための手段として、圧胴7の圧胴本体7aに電圧を印加する構成としているが、基材フィルム2の帯電はこれに限らず、他の手段を用いてもよい。図3はその場合の実施の形態に係る熱転写インクリボンの印刷装置の一つの印刷ユニットを示す概略断面図であり、図1に示す印刷装置と同一又は同様な部品には同一符号を付している。図3に示す印刷装置では、版胴5と圧胴7による印刷点の下流において基材フィルム2を非接触で帯電させる帯電極等の帯電手段17を設けている。この帯電手段17は、基材フィルム2の印刷される側の面を、版胴5と圧胴7による印刷点で発生するインキミスト15の帯電特性と同極性に帯電させるように、極性が定められている。なお、圧胴7には、図1に示す定電圧発生装置10は接続していない。また、圧胴を支持する軸受装置や回転を伝達するカップリングには絶縁機能を付与しておく必要はない。図3に示す印刷装置においても、印刷直後の基材フィルム2の印刷される側の面が、インキミスト15と同極性に帯電しているため、基材フィルム2とインキミスト15の間に静電斥力が作用して互いに反発し、高速印刷時においても、インキミスト付着による印刷汚れを防止できる。
【0014】
図1、図3に示す実施の形態ではいずれも、インキミスト15の自然帯電を利用しているが、本発明はこれに限らずインキミスト15を強制的に帯電させる構成としてもよい。図4はその場合の実施の形態に係る熱転写インクリボンの印刷装置の一つの印刷ユニットを示す概略斜視図であり、図1、図3に示す印刷装置と同一又は同様な部品には同一符号を付している。図4に示す印刷装置では、版胴5と圧胴7による印刷点の下流において基材フィルム2を非接触で帯電させる帯電極等の帯電手段17を設け、更に印刷点で発生したインキミスト15に非接触で帯電させる帯電極等の帯電手段18を設けている。これらの帯電手段17、18は、基材フィルム2の印刷される側の面とインキミストとを同一極性に帯電させることができるように、極性が定められている。なお、圧胴7には、図1に示す定電圧発生装置10は接続していない。また、圧胴を支持する軸受装置や回転を伝達するカップリングには絶縁機能を付与しておく必要はない。図4に示す印刷装置においても、印刷直後の基材フィルム2の印刷される側の面と、インキミスト15が同極性に帯電しているため、基材フィルム2とインキミスト15の間に静電斥力が作用して互いに反発し、高速印刷時においても、インキミスト付着による印刷汚れを防止できる。この実施の形態は、インキミストの自然帯電が弱い場合にきわめて有効である。なお、この場合においても基材フィルムの帯電には図1の実施の形態のように、圧胴本体7aに電圧を印加する構成を用いてもよい。
【0015】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載の範囲内で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係る印刷装置の一つの印刷ユニットを示す概略斜視図
【図2】版胴と圧胴のニップ部分及びその近傍を拡大して示す概略断面図
【図3】本発明の他の実施の形態に係る印刷装置における版胴と圧胴のニップ部分及びその近傍を拡大して示す概略断面図
【図4】本発明の更に他の実施の形態に係る印刷装置における版胴と圧胴のニップ部分及びその近傍を拡大して示す概略断面図
【図5】熱転写インクリボンの一部を示す概略斜視図
【図6】従来の印刷装置における版胴と圧胴のニップ部分及びその近傍を拡大して示す概略断面図
【符号の説明】
【0017】
1 熱転写インクリボン
2 基材シート
3M、3Y、3G 転写層
5 版胴
5a 画線部
5b 非画線部
6 インキパン
7 圧胴
7a 圧胴本体
7b ゴム層
10 定電圧発生装置
11 絶縁カップリング
12 駆動装置
13 インキ
15 インキミスト
17、18 帯電手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の基材フィルムに、グラビア版を備えた版胴と圧胴を用いて転写層を色別にパターン状に印刷する工程と、前記版胴と圧胴による印刷点の下流に位置する前記基材フィルムの印刷される側の面を、前記印刷点で発生するインキミストに生じている電荷と同極性に帯電させる工程を有する熱転写インクリボンの印刷方法。
【請求項2】
走行中の基材フィルムに、グラビア版を備えた版胴と圧胴を用いて転写層を色別にパターン状に印刷する工程と、前記版胴と圧胴による印刷点で発生するインキミストを帯電させる工程と、前記印刷点の下流に位置する前記基材フィルムの印刷される側の面を、前記インキミストと同極性に帯電させる工程を有する熱転写インクリボンの印刷方法。
【請求項3】
グラビア版を備えた版胴と、基材フィルムを前記版胴に押し付ける圧胴であって、表面を絶縁材で被覆した導電性材料製の圧胴本体を備えた圧胴と、前記圧胴本体に電圧を印加する定電圧発生装置を備え、前記定電圧発生装置が前記圧胴に印加する電圧の極性を、前記圧胴と版胴の間を通過する基材フィルムの印刷される側の面を、前記版胴と圧胴による印刷点で発生するインキミストの帯電特性と同極性に帯電させるように設定していることを特徴とする熱転写インクリボンの印刷装置。
【請求項4】
グラビア版を備えた版胴と、基材フィルムを前記版胴に押し付ける圧胴と、前記版胴と圧胴による印刷点の下流において前記基材フィルムを帯電させる帯電手段を備え、該帯電手段が、前記基材フィルムの印刷される側の面を、前記版胴と圧胴による印刷点で発生するインキミストの帯電特性と同極性に帯電させる構成としていることを特徴とする熱転写インクリボンの印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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