説明

熱転写シート、加飾シートおよび成形体

【課題】 高い解像度で被転写物に熱転写することができ、接着信頼性が高く、かつ帯電しにくい熱転写シートを提供する。
【解決手段】 熱転写シート14は、基材シート2の一方の面に、離型層4、第1樹脂層6、金属層8、および第2樹脂層10が順次積層されてなる。第1樹脂層6、金属層8、および第2樹脂層10は、併せて熱転写層12を構成する。金属層8は、金属微粒子16の核の成長の初期段階で蒸着を止めることにより、金属微粒子16が第1樹脂層6に不連続に付着した状態となっている。金属微粒子16が不連続に付着しているため、熱転写印刷時には箔切れが良くなり、印刷物の解像度を向上させることができる。また、金属層8が不連続であるため、表面抵抗が高くなることにより電流が流れにくくなり、静電気が帯電しにくくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シート、加飾シートおよび成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属光沢をもつ印字物等を得る方法として、熱転写プリンタにより熱転写シートを加熱し、印字等を転写する手法が行われている。熱転写シートとしては、基材シート上に、合成樹脂からなる保護層、アルミニウム等からなる金属蒸着層、および合成樹脂からなる接着層が積層方向に順次積層された構造を有するものがある。そして、このような熱転写シートは、サーマルヘッド等の加熱装置を持つ熱転写プリンタで加熱され、金属光沢をもつ印字等が、紙や合成樹脂等のシート状の被転写物に熱転写されて加飾シートが製造される(例えば、特許文献1参照)。このような加飾シートは、3次元形状に立体成形されて、携帯電話のキー等に用いられる成形体とされることもある。
【特許文献1】特開平10−16415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような加飾シートや成形体において、視認性の良い文字を表現するためには、300dpi(ドット・パー・インチ)以上の解像度が一般的に要求されている。そして、熱転写プリンタのサーマルヘッドに1ドットづつ設けられた発熱体も、300dpi以上の解像度で熱転写できる密度で配置されている。しかし、上記のような熱転写シートは、熱転写プリンタにより印字等を熱転写すると、金属蒸着層の箔切れが悪いため、熱転写プリンタの解像度に見合った解像度の印字等を被転写物に熱転写することができなかった。また、上記のような3層構造の熱転写シートの場合、それぞれ樹脂からなる保護層と接着層の間に金属蒸着層があるので、この金属蒸着層と隣接する各層との接着力が弱く、被転写物がクロスカットテープ剥離試験に耐えられない接着信頼性の悪いものになることが多かった。また、従来の金属層を有する熱転写シートは、金属層自体に導電性があるため、静電気が帯電し易かった。そのため、このような熱転写シートを熱転写して得られた加飾シートを携帯電話等の電子機器に組み込むと、組み込んだ電子機器に静電破壊等による不具合が生じるという問題があった。
【0004】
本発明は、斯かる実情に鑑み、高い解像度で被転写物に熱転写することができ、接着信頼性が高く、かつ帯電しにくい熱転写シートを提供しようとするものである。また、高い解像度で熱転写された加飾シートおよび成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、被転写物に金属加飾層を熱転写するための熱転写シートであって、基材シートの一方の面側に、第1樹脂層と、金属層と、第2樹脂層とを順次備え、金属層は、金属微粒子が不連続に存在してなる不連続構造を有するものであることを特徴とする。
【0006】
また本発明は、被転写物に金属加飾層を熱転写するための熱転写シートであって、基材シートの一方の面側に、第1樹脂層と、金属層と、第2樹脂層とを順次備え、熱転写シートの金属層を備える面側の表面抵抗が、10Ω/□以上であることを特徴とする。
【0007】
この構成においては、金属層は金属微粒子が不連続に存在してなる不連続構造を有するものであるため、熱転写時に金属微粒子が存在していない箇所から箔切れしやすい。そのため、高い解像度で被転写物に熱転写することができる。また、金属層は部分的に不連続なため、第1樹脂層と第2樹脂層との樹脂層同士の接触面積が増え、接着信頼性が良好となる。さらに導電率が低くなるため、静電気がより帯電しにくい。

【0008】
なお、本明細書において、「金属微粒子が不連続に存在してなる不連続構造」とは金属微粒子が第1樹脂層と第2樹脂層との間に島状に存在している状態をいう。すなわち、後述の図2(b)の右図(断面図)に示すように、金属微粒子が層の厚さ方向に堆積しているが、図2(b)の左図(平面図)に示すように金属層を平面視すると、金属微粒子が堆積して作られた個々の島同士が接していない状態をいう。
【0009】
また、金属層の厚さは、20〜70nmであることが好適である。この構成によれば、確実に上記本発明の熱転写シートとなる。なお、本願明細書において、「金属層の厚さ」とは、金属層の全面における平均厚さをいう。
【0010】
また、金属層は、スズおよびインジウムの少なくともいずれかを含むことが好適である。この構成によれば、容易に不連続構造の金属層を有する熱転写シートとすることができる。
【0011】
また、本発明の別の態様は、本発明の熱転写シートを用いてシート状の被転写物に金属加飾層が熱転写されたことを特徴とする加飾シートである。この構成によれば、解像度の高い印字等がなされた加飾シートとすることができる。
【0012】
また、本発明の別の態様は、本発明の加飾シートが3次元形状に成形されたことを特徴とする成形体である。この構成によれば、解像度の高い印字等がなされた成形体とすることができる。さらに金属層は、金属微粒子が第1樹脂層に不連続に付着して形成されたものであるため、金属層自体に外観に影響を与える大きさのクラックが生じにくく、結果として金属層の白化等の不具合が生じず、良好な外観を有する成形体が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による熱転写シートによれば、高い解像度で被転写物に熱転写することができ、接着信頼性が高く、かつ帯電しにくい。また、本発明の加飾シートおよび成形体によれば、高い解像度で熱転写されたものとできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る熱転写シートの積層構造を示す図である。本実施形態の熱転写シート14は、基材シート2の一方の面に、離型層4、第1樹脂層6、金属層8、および第2樹脂層10が順次積層されてなる。第1樹脂層6、金属層8、および第2樹脂層10は、併せて熱転写層12を構成する。以下、各層について説明する。
【0016】
基材シート2は、熱転写層12を支持する層である。熱転写シートの基材シート2としては、転写印刷時のサーマルヘッドから受ける熱に対する強度が必要とされる。そのため、基材シート2は、好ましくは、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PE(ポリエチレン)等から成る。より好ましくは、厚みが、4.5μm〜50μm程度の2軸延伸PETフィルムが用いられる。
【0017】
離型層4は、必要に応じ基材シート2上に形成される。離型層4は、熱転写印刷時、加熱された熱転写層12の基材シート2からの剥離を容易にする。離型層4は、熱転写時には、その厚み方向の全部または一部が被印刷物に転写移行するようにすることができる。あるいは、被印刷物に全く転写移行しないようにすることもできる。離型層4は、ワックス等の樹脂を主成分とすることが好ましい。具体的には、パラフィンワックス、カルナバワックス等から成るものとできる。
【0018】
第1樹脂層6は、熱転写シート製造工程においては、金属層8を基材シート2に付着させる層となる。また熱転写印刷時には、熱転写層12が基材シート2から剥がれ、被印刷物に固着し、金属層8を保護するという機能を持つ。第1樹脂層6の主成分としては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン系樹脂などの1種または2種以上を使用できる。
【0019】
金属層8は、インジウム、スズ、アルミニウム、亜鉛、クロム、金、銀のいずれかの金属を含む。金属層8は、より好ましくはインジウムおよびスズのいずれかを含む。金属層8は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着法や、化学蒸着法、電着、化学めっき等により製膜される。より好ましくは、金属層8は真空蒸着法により製膜される。
【0020】
図2(a)〜(c)は、真空蒸着により第1樹脂層6に金属微粒子16が付着する様子を示す図である。真空蒸着では、高真空炉の中で金属片を蒸発させ、蒸発した金属が金属微粒子となり第1樹脂層6に付着する。図2(a)に示すように、蒸着の初期の段階は、金属微粒子16が点在して第1樹脂層6に付着する。蒸着が進行すると、図2(b)の左図(平面図)および右図(断面図)に示すように、点在して付着した金属微粒子16を核に新たな金属微粒子16が付着し3次元的に成長する。さらに、蒸着が進むと、図2(c)に示すように、隙間のない一様な連続膜まで成長してしまう。本実施形態の金属層8は、図2(b)に示すような金属微粒子16の核の成長の初期段階で蒸着を止めることにより、金属微粒子16が第1樹脂層6に不連続に付着した状態となっている。金属微粒子16が不連続に付着しているため、熱転写印刷時には箔切れが良くなり、印刷物の解像度を向上させることができる。また、金属層8が不連続であるため、表面抵抗が高くなることにより電流が流れにくくなり、静電気が帯電しにくくなる。
【0021】
より好適には、金属層8がインジウムまたはスズを含むものとすることにより、その金属の性質上、均一な皮膜を形成せず、不連続な金属層を得られ易いという特性がある。金属層8は、十分な金属光沢を得るために、厚さが20nm以上とされる。さらに確実に要求される金属光沢を得るために、好適には金属層8は厚さが30nm以上とされる。また金属層8は、図2(c)に示すような連続膜とならないため、厚さが70nm以下とされる。さらに金属層8は、確実に図2(b)に示すような金属微粒子が不連続に付着した状態とするため、好適には厚さが50nm以下とされる。
【0022】
図1に戻って、第2樹脂層10は、熱転写シート製造工程においては、金属層8を保護する機能を持つ。また熱転写印刷時には、第2樹脂層10が隣接する金属層8と被転写物を接着する機能を持つ。材料としては、各種ワックス、またはアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体などの1種または2種以上を主成分とするものが挙げられる。
【0023】
本実施形態においては、金属層8は不連続構造に形成されているため、金属層8の表面には微細な凹凸があり、金属層8の表面積は大きい。そのため、第1樹脂層6及び第2樹脂層10の金属層8との接触面積は大きくなり、接着強度は高くなる。また部分的には第1樹脂層6と第2樹脂層10とが直接強固に接着し、金属層を包み込むように一体化するので、第1樹脂層6と第2樹脂層10との間はより強固に接着し、剥離することがない。また、本実施形態の熱転写シート14を用いて熱転写印刷を行うことにより得られた加飾シートについても箔が剥がれ難く信頼性の高い加飾シートが得られる。
【0024】
以下、具体的に本実施形態に係る熱転写シートを製造する方法について説明する。図3(a)〜(e)は、本発明の実施形態に係る熱転写シートの製造工程を示す図である。まず、図3(a)にあるように、厚さ4.5μm〜50μm程度の2軸延伸PETフィルム等からなる基材シート2を用意する。
【0025】
図3(b)に示すように、基材シート2の一方の面に離型層4を形成する。離型層4の形成は、ワックス類または樹脂を水やアルコール類により溶解した塗工液を用意し、この塗工液を基材シート2に塗布した後、乾燥することにより行う。
【0026】
図3(c)に示すように、離型層4に第1樹脂層6を形成する。第1樹脂層6の形成は、ポリエステル樹脂等をアルコール類等により溶解した塗工液を用意し、この塗工液を離型層4に塗布した後、乾燥することにより行う。
【0027】
図3(d)に示すように、第1樹脂層6に金属層8を形成する。本実施形態の金属層8は、金属微粒子が第1樹脂層6に不連続に付着したものとする。このような金属層8を形成するためには、例えば、金属層がインジウムやスズから成る場合、金属層8の厚みが70nm以下となる条件で真空蒸着を行うことにより、金属微粒子が第1樹脂層に不連続に付着した金属層8を形成することができる。特にインジウムにより金属層8を形成する場合、金属層8の厚さが20nm未満では所望の金属光沢感がでにくい。また、金属層8の厚さが70nmより厚いと不連続構造のまま厚くなるため、表面が乱反射を起こすため光沢がでにくくなる。そのため、インジウムにより金属層8を形成する場合、所望の金属光沢感を得るように真空蒸着を行うことにより、確実に不連続構造の金属層を得ることができる。さらに確実に金属微粒子が第1樹脂層に不連続に付着した金属層8を形成するためには、金属層8の厚みが50nm以下となるような条件で真空蒸着を行うことが好適である。
【0028】
より具体的には、真空蒸着における真空度、温度、蒸着処理速度等の蒸着条件を変化させた試料で予め真空蒸着の実験を行っておき、形成された金属層の検査結果に基づいて、金属層が不連続となる条件で製膜を行うことにより、確実に金属微粒子が第1樹脂層6に不連続に付着した金属層8を形成することができる。この場合の金属層8の検査は、電子顕微鏡で金属層8の表面を検査することにより行うことができる。あるいは、金属層8の表面抵抗を測定することによっても行うことができる。
【0029】
図3(e)に示すように、金属層8に第2樹脂層10を形成する。第2樹脂層10の形成は、各種ワックス等の樹脂をアルコール類等の溶剤に溶解させた塗工液を用意し、この塗工液を金属層8に塗布した後、乾燥することにより行う。以上のようにして、金属微粒子が第1樹脂層に不連続に付着した金属層8を有する本実施形態の熱転写シート14を製造することができる。
【0030】
図4は、本発明の実施形態に係る加飾シートを示す斜視図である。本実施形態に係る加飾シート22は、本実施形態の熱転写シートを用いてシート状の加飾基材シート18(被転写物)に金属加飾層20が熱転写されたものである。加飾基材シート18としては、各種用紙、合成紙、フィルム、シート、板、布、成形品、ガラス、陶器、基板などとすることができ、特に材質や用途が限定されるものではない。あるいは、後述するように3次元形状に成形して成形体とする場合は、加飾基材シート18は、PET、PEN、アクリル、PC(ポリカーボネート)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PE、PP(ポリプロピレン)、ポリウレタン、PVC(ポリ塩化ビニル)等のプラスティックシートおよびそれらの複合物等から成るものとできる。本実施形態に係る熱転写シートは、箔切れが良いため、高解像度の加飾シートとすることができる。
【0031】
図5(a)は加飾シートを製造する熱転写プリンタを示す図であり、図5(b)は熱転写プリンタのサーマルヘッドを示す断面図であり、図5(c)はサーマルヘッドを示す平面図である。図5(a)に示すように、熱転写プリンタ30は、熱転写シート14をスクロールさせる一対の熱転写シートローラ24と、加飾基材シート18をスクロールさせる一対の加飾シートローラ26を備える。一対の熱転写シートローラ24と、一対の加飾シートローラ26の中間位置には、熱転写シート14を加熱して加飾基材シート18に金属加飾層20を熱転写するためのサーマルヘッド28が設けられている。
【0032】
図5(b)(c)に示すように、サーマルヘッド28は、発熱体支持部32に個々の発熱体34が線状に並んでいる。発熱体34の配置密度は300〜2400dpiとなるように配置される。線状に並んだ発熱体34のライン長は任意であるが、例えば100〜1000mm程度が一般的である。印刷速度は任意であるが、例えば、0.5〜20msec/ラインとされる。サーマルヘッド28にかける電圧は、例えば5〜200mW/ドットとなり、この結果、発熱体34は、120〜400℃程度に瞬間的に加熱される。
【0033】
図5(a)に戻り、熱転写時には、熱転写シートローラ24が回転して熱転写シート14をスクロールさせ、同時に加飾シートローラ26が回転し、加飾基材シート18をスクロールさせる。そして、サーマルヘッド28が熱転写シート14を加熱して、加飾基材シート18に圧接させることにより、加飾基材シート18に金属加飾層20が熱転写され、図4に示すような加飾シート22が製造される。本実施形態においては、熱転写シートの箔切れが良いため、熱転写された加飾シートも解像度の優れたものとできる。また、熱転写シートの表面抵抗が大きいため、熱加飾シートの帯電が生じにくく、静電気障害を防止することができる。
【0034】
図6は本実施形態に係る成形体を示す斜視図である。本実施形態の成形体38は、本実施形態の加飾シート22が3次元形状に成形されてなるものである。成形体38は、加飾シート22の金属加飾層20に対応して3次元成形部36が設けられている。これらの3次元成形部36は、圧空成形、真空成形、圧縮成形等により所定の形状に成形される。成形時に、金属層8は第1樹脂層6に金属微粒子が不連続で付着された構造であるため、成形時のヒビ割れ、微細なクラックが生じにくく、良好な外観が得られる。
【0035】
図7(a)〜(c)は、本実施形態に係る成形体の製造工程を示す図である。この図では、本実施形態の加飾シート22を圧縮成形により成形する様子を示している。図7(a)に示すように、加飾シート22の金属加飾層20に対応して凸部が設けられた凸型40と凹型42が用意される。次に図7(b)に示すように、凸型40と凹型42が上下から加飾シート22を挟んで合わさり、加飾シート22を圧縮成形する。そして、図7(c)に示すように、凸型40と凹型42が外されると、所望の形状に成形された成形体38が形成される。この製品とする場合は、例えば成形体38の3次元成形部36の裏側から、充填材(芯材)となる樹脂を射出成形し、押釦スイッチ用カバー部材を完成させる。
【0036】
以下、実際に本実施形態に係る熱転写シート、加飾シートおよび成形体を製造し、その特性を測定する実験を行った。基材シートである2軸延伸PETフィルムの一方の面に第1樹脂層としてアクリルからなる層をコーティングした。また、その上に金属層として真空蒸着により50nmのインジウム膜を形成させた。このインジウム膜は、インジウムの金属微粒子が第1樹脂層に不連続に付着されたものとした。基材はバッチ処理ではなく、連続蒸着装置のロールで処理した。金属を溶融する坩堝の温度は300℃とした。装置内の真空度は、1.0×10−4torr(1.33×10−2Pa)とした。さらに、金属層の上にポリエステルからなる第2樹脂層をコーティングし、本実施形態の熱転写シートを得た。
【0037】
次に、この熱転写シートを用いて、アクリルフィルムに大きさ8ポイントのアルファベット文字を抜き文字で熱転写印刷して加飾シートを製造した。このとき、印刷に用いた熱転写プリンタは、解像度600dpi、サーマルヘッドライン長150mmのものを用いた。熱転写の条件は、印刷速度10msec/ライン、電圧50mW/ドットの条件で印刷した。
【0038】
得られた加飾シートは、アクリルフィルムの上に金属光沢を持った8ポイントサイズ(約2.8mm四方のサイズに相当)の抜き文字が熱転写印刷されており、その外観は、光沢が良好で、文字の輪郭も鮮明でなめらかな高品位なものであった。
【0039】
600dpiの1ドット1辺の長さは、25.4mm(1インチ)/600=0.042mmである。したがって、600dpiは、1ドットのサイズ=熱転写シートの最小印刷サイズ単位が0.042mm角となる。図8は、熱転写された斜め線部分における600dpiの1ドットを示す模式図である。図8に示すように、顕微鏡で印刷輪郭部44を観察すると、斜め線部分に約0.042mmの階段状の形状が観察され、ほぼ600dpiの解像度が実現されていることが確認された。
【0040】
さらに、図6に示すような携帯電話のキー形状を掘り込んだ凹型、凹型に対応する形状の凸型を準備し、転写面を凹型に向けて、加飾シートをセットし、金型温度140℃、圧縮成形により押釦スイッチに用いる成形体を得た。成形後も箔の剥がれ、箔のヒビ割れは確認されず、文字・記号の輪郭も鮮明で、十分な金属光沢を有する、外観の良好な成形体が得られた。
【0041】
次に熱転写シートの金属層の厚みを変化させて、上記と同様の方法で複数の加飾シートを製作した。金属層の蒸着処理速度は、10〜20m/minとして膜厚を制御した。膜厚の測定には蛍光X線膜厚計を用いた。その後、製作した複数の加飾シートのそれぞれについて、金属光沢度、実質解像度、金属層の金属微粒子の不連続状態を評価した。また、金属層としてアルミニウムを蒸着させたものも製作し、同様に各項目について評価した。
【0042】
〈金属光沢度の評価方法〉
得られた加飾シートの金属光沢度(JIS Z7841)をグロスメータ(ハンディ型光沢計、商品名:PG−1M、株式会社シロ産業製)で入射角60°の条件で測定した。
【0043】
〈実質解像度の評価方法〉
前述のように600dpiの1ドット1辺の長さは0.042mmである。したがって、600dpiは、1ドットのサイズが0.042mm角となる。この場合、図8に示すように、顕微鏡で印刷輪郭部44を観察すると、斜め線部分に約0.042mmの階段状の形状が観察される。このように0.042mmの階段形状が観察される場合を「良好な解像度」と判定した。一方、箔切れの悪く解像度の悪い熱転写シートの場合は、1ドット単位で解像せず、2ドット分の大きさで転写されたり、転写されるべきところに転写されなかったりすることにより、あたかも見た目は2ドット分の単位で印刷されたかのようになり、300dpi解像度のように観察される。この300dpi解像度のように観察される場合を「解像度不良」と判定した。
【0044】
〈不連続状態の評価方法〉
不連続状態は表面の金属薄膜の連続性・不連続性の評価は、表面抵抗値で判断し、表面抵抗10Ω/□(Ω/cm)以上を不連続と判断し、表面抵抗10Ω/□(Ω/cm)未満を連続と判断した。表面抵抗率値の測定は、デジタル超高抵抗/微少電流計(商品名:R8340、株式会社アドバンテスト製)により測定した。
【0045】
〈結果〉
結果を図9に示す。図9より、金属層の表面抵抗値が10Ω/□以上である不連続の熱転写シートについては、加飾シートの解像度評価が良好であることが判る。一方、金属層が連続の熱転写シートについては、加飾シートの解像度が不良となることが判る。さらに、加飾シートの金属光沢度については、金属層の厚みが20nm以上のときは、光沢度がほぼ良好となることが判る。また、アルミニウムからなる金属層のものについても同様の結果が得られていることが判る。ただしインジウムの場合は、金属層の厚みが80nmのときは光沢度が減少していることが判る。これはインジウムの乱反射によるものと思われる。
【0046】
尚、本発明の熱転写シート、加飾シートおよび成形体は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、上記実施形態では、熱転写シートを熱転写プリンタのサーマルヘッドにより加熱して、熱転写を行う態様を中心に説明した。しかし本発明は、ロール式熱転写、金型箔押し(ホットスタンプ)、インモールド成形等に適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る熱転写シートの積層構造を示す図である。
【図2】(a)〜(c)は、真空蒸着により第1樹脂層に金属微粒子が付着する様子を示す図である。
【図3】(a)〜(e)は、本発明の実施形態に係る熱転写シートの製造工程を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る加飾シートを示す斜視図である。
【図5】(a)は加飾シートを製造する熱転写プリンタを示す図であり、(b)は熱転写プリンタのサーマルヘッドを示す断面図であり、(c)はサーマルヘッドを示す平面図である。
【図6】本実施形態に係る成形体を示す斜視図である。
【図7】(a)〜(c)は、本実施形態に係る成形体の製造工程を示す図である。
【図8】熱転写された斜め線部分における600dpiの1ドットを示す模式図である。
【図9】実験の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0048】
2…基材シート、4…離型層、6…第1樹脂層、8…金属層、10…第2樹脂層、12…熱転写層、14…熱転写シート、16…金属微粒子、18…加飾基材シート(被転写物)、
20…金属加飾層、22…加飾シート、24…熱転写シートローラ、26…加飾シートローラ、28…サーマルヘッド、30…熱転写プリンタ、32…発熱体支持部、34…発熱体、36…3次元成形部、38…成形体、40…凸型、42…凹型、44…印刷輪郭部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被転写物に金属加飾層を熱転写するための熱転写シートであって、
基材シートの一方の面側に、第1樹脂層と、金属層と、第2樹脂層とを順次備え、
前記金属層は、金属微粒子が不連続に存在してなる不連続構造を有するものであることを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
被転写物に金属加飾層を熱転写するための熱転写シートであって、
基材シートの一方の面側に、第1樹脂層と、金属層と、第2樹脂層とを順次備え、
前記熱転写シートの前記金属層を備える面側の表面抵抗が、10Ω/□以上であることを特徴とする熱転写シート。
【請求項3】
前記金属層の厚さは、20nm〜70nmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱転写シート。
【請求項4】
前記金属層は、スズおよびインジウムの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の熱転写シート。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の熱転写シートを用いてシート状の被転写物に金属加飾層が熱転写されたことを特徴とする加飾シート。
【請求項6】
請求項5に記載の加飾シートが3次元形状に成形されたことを特徴とする成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−27026(P2006−27026A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207764(P2004−207764)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】