説明

熱転写シート、被転写シート及び熱転写方法

【課題】暗所保存性に優れた印画物を生成することが可能な熱転写シート、被転写シート及び熱転写方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る熱転写シートは、基材の一方の面に設けられ、インドアニリン系染料を含む染料層と、前記基材の前記染料層が形成されている面に設けられ、被転写シートに熱転写された転写物を被覆する転写物被覆層と、を備え、前記転写物被覆層は、所定の構造を有する化合物とバインダ樹脂とを含み、前記所定の構造を有する化合物の含有量は、前記バインダ樹脂100質量部に対して0.5〜8質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シート、被転写シート及び熱転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、染料拡散熱転写方式のプリンタにおける即時印画性の高さにより、銀塩方式の写真に取って代わり、端末機器であるコンピュータにより写真画像を選択し、上記染料拡散熱転写方式のプリンタにより選択した写真画像を出力する、フォトキオスク等の設置が拡がっている。かかる染料拡散熱転写方式のプリンタにおいて、シアン用染料として、感度、印画物保存性、色相等の観点から、インドアニリン系染料が使用されることが多い。
【0003】
ところで、インクジェット方式や上記染料拡散熱転写方式を用いた画像印画方法において、印画物の画質を維持することは重要な課題であり、従来、様々な方法が提案されている。
【0004】
例えば、以下に示した特許文献1には、インクジェット用の印画紙に、水酸基のオルト位の少なくとも一方が3級アルキルで置換されているフェノール誘導体を染料画像褪色防止剤として含有させることで、インクジェット用染料の耐光性の劣化を防止する技術が記載されている。
【0005】
また、以下に示した特許文献2には、感熱昇華転写材料用受像要素に特定の化合物を含有させることで、印画物の耐光性を改善させる技術が記載されている。
【0006】
更に、以下に示した特許文献3には、昇華転写用被転写シートに対して特定構造のヒンダードフェノール骨格を持った酸化防止剤を添加することで、耐光性を改善する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭62−26319号公報
【特許文献2】特公平5−36779号公報
【特許文献3】特許第2714659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、印画物の画質を維持するための技術について、上記特許文献1〜3に記載のように様々な方法が検討されているが、本発明者らは、染料拡散熱転写方式のプリンタについて検討を進めるうちに、シアン系染料として多く用いられているインドアニリン染料には暗所での保存性に難点があるという問題点を見い出すに至った。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、暗所保存性に優れた印画物を生成することが可能な、新規かつ改良された熱転写シート、被転写シート及び熱転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、基材の一方の面に設けられ、インドアニリン系染料を含む染料層と、前記基材の前記染料層が形成されている面に設けられ、被転写シートに熱転写された転写物を被覆する転写物被覆層と、を備え、前記転写物被覆層は、所定の構造を有する化合物とバインダ樹脂とを含み、前記所定の構造を有する化合物の含有量は、前記バインダ樹脂100質量部に対して0.5〜8質量部である熱転写シートが提供される。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、インドアニリン系染料が熱転写される受容層を備え、前記受容層は、所定の構造を有する化合物とバインダ樹脂とを含み、前記所定の構造を有する化合物の含有量は、前記バインダ樹脂100質量部に対して0.5〜8質量部である被転写シートが提供される。
【0012】
ここで、前記所定の構造を有する化合物は、下記の構造式(1)又は構造式(2)で示される1又は複数種類の化合物であってもよい。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、A1は、カルボン酸エステル及びエーテルを含む置換基、アリール、並びにチオエーテルのうち少なくとも1つで置換されたアルキル基、又は、アリールで置換されたチオール基である。
【0015】
【化2】

【0016】
ここで、A2は、チオエーテルで置換されたアルキル基、ヘテロ環で置換されたアミノ基、又は、アリールで置換されたチオール基である。
【0017】
前記所定の構造を有する化合物は、下記構造式(1−1)〜構造式(2−3)のいずれか1つで示される1又は複数種類の化合物であってもよい。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】

【0022】
【化7】

【0023】
【化8】

【0024】
【化9】

【0025】
【化10】

【0026】
【化11】

【0027】
【化12】

【0028】
前記インドアニリン系染料は、下記の構造式(3)で表される化合物であってもよい。
【0029】
【化13】

【0030】
ここで、上記構造式(3)において、置換基R1,R2,R4及びR5は、互いに独立に炭素数が1〜3のアルキル基であり、置換基R3は、水素又は炭素数が1〜3のアルキル基であり、置換基Xは、水素又は塩素である。
【0031】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、インドアニリン系染料を含む染料層と、被転写シートに熱転写された転写物を被覆する転写物被覆層とを備える熱転写シートから、被転写シートの受容層に対して前記インドアニリン系染料を熱転写するステップと、前記インドアニリン系染料が熱転写された前記受容層に対して、前記転写物被覆層を熱転写するステップと、を含み、前記転写物被覆層及び前記受容層の少なくとも何れか一方は、所定の構造を有する化合物とバインダ樹脂とを含み、前記所定の構造を有する化合物の含有量は、前記バインダ樹脂100質量部に対して0.5〜8質量部である熱転写方法が提供される。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように本発明によれば、所定の構造を有する化合物が、熱転写シートの転写物被覆層及び被転写シートの受容層の少なくとも何れかに対して特定量含有されているため、暗所保存性に優れた印画物を生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る熱転写シートを示す断面図である。
【図2】同実施形態に係る被転写シートを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0035】
また、以下の説明において、「部」という記載は、質量部を意味するものとする。
【0036】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
(1)インドアニリン系染料に対する検討
(2)第1の実施形態
(2−1)熱転写シートの構成について
(2−2)被転写シートの構成について
(2−3)添加化合物について
(3)実施例及び比較例
(3−1)熱転写シートの製造例
(3−2)被転写シートの製造例
(3−3)印画方法について
(3−4)評価
【0037】
(インドアニリン系染料に対する検討)
まず、本発明の実施形態に係る熱転写シート、被転写シート及び熱転写方法について説明するに先立ち、インドアニリン系染料を利用した染料拡散熱転写方式のプリンタについて本発明者らが行った検討について、詳細に説明する。
【0038】
本発明者らは、シアン用染料としてインドアニリン系染料を使用した熱転写方式のプリンタについて、インドアニリン系染料に導入された官能基等を操作することで、染料の高感度化、高耐光性化を図る検討を行ってきた。かかる検討を行ってきた結果、本発明者らは、インドアニリン系染料には暗所保存性に難点があるという、未だ知られていない未解決の問題点が存在することに想到した。
【0039】
かかる暗所保存性の問題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を行った結果、インドアニリン系染料を用いた印画を実施する際、被転写シートの受容層及び/又は熱転写シートのラミネート層に所定の構造を有する化合物を添加することで、暗所保存性が改善可能であることに想到した。
【0040】
ここで、化合物の添加という観点では、上記特許文献2においても、受容要素に特定の構造を有する化合物を添加することが記載されている。また、上記特許文献2では、特に感熱昇華転写法において、様々な色素が列挙されており、その中でも、アゾメチン色素、インドアニリン染料において、上記特許文献2に記載されている化合物を添加することで、画像の耐光性を向上させる効果が顕著であるとの記載も存在する。
【0041】
しかしながら、上記特許文献2において実際に効果が確認されているインドアニリン染料は1例のみであり、しかも、かかる染料は、以下で説明する本発明の実施形態で用いるインドアニリン系染料とは異なるものである。また、画像の耐光性を向上させるために添加する化合物も、以下で説明する本発明の実施形態で使用する化合物とは異なるものである。更に言及すれば、上記特許文献2においては、本発明者らが見いだすこととなった暗所保存性については、認識すらされていない。
【0042】
また、上記特許文献2に記載されているような、酸化反応に起因する劣化を防止するための添加剤は、通常添加量に最適値が存在し、また、少量では効果がなかったり、多量では逆の効果を呈したりといったことが多く、適量の確認が重要となる。
【0043】
また、上記特許文献3では、前述のように、特定構造のヒンダードフェノール骨格を有する酸化防止剤を添加することで、耐光性の改善を図る技術が開示されているが、上記特許文献3において効果が確認されているものは、アントラキノン系染料であるカヤセットブルー714のみであり、本発明の実施形態で着目しているインドアニリン系染料については、言及されていない。また、使用する酸化防止剤の添加量は、マトリックスとなる樹脂に対して約10重量部と、極めて多い値となっている。
【0044】
以下で説明する本発明の実施形態は、上記のような技術とは異なるものである。
すなわち、本発明の実施形態は、少なくとも一種のインドアニリン系染料を用いて被転写シートに画像を形成し、更に、ラミネート層を形成する熱染料転写方式において、被転写シートの受容層及び/又は熱転写シートのラミネート層の一部に、特定の構造を有する化合物を少量添加することによって、インドアニリン系染料の暗所保存性を改善するものである。
【0045】
なお、以下で説明する本発明の実施形態においては、インドアニリン系染料を用いた画像の耐光性について、ほとんど改善効果は見られておらず、画像の耐光性が向上することと暗所保存性が改善することとは、全く異なるものである点に注意されたい。
【0046】
(第1の実施形態)
<熱転写シートの構成について>
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る熱転写シート10の構成について説明する。
【0047】
本実施形態に係る熱転写シート10は、熱転写シート基材101と、熱転写シート基材101の一方の面に形成される耐熱滑性層103と、熱転写シート基材101において耐熱滑性層103が形成される面とは逆側の面に形成される染料層107、ラミネート層109及びセンサマーク層111と、を主に備える。また、図1に示したように、熱転写シート基材101と、染料層107、ラミネート層109及びセンサマーク層111との間には、プライマー層105が形成されていてもよい。
【0048】
このプライマー層105は、図1に示したように、熱転写シート基材101の耐熱滑性層103が設けられている面とは逆側の面全体に設けられていてもよく、熱転写シート基材101と、特定の層との間にのみ設けられていてもよい。例えば、プライマー層105は、熱転写シート基材101と、染料層107及びセンサマーク層111との間にのみ設けられ、熱転写シート基材101とラミネート層109との間には設けられていなくともよい。
【0049】
[熱転写シート基材]
熱転写シート基材101は、0.5μm〜50μm、好ましくは1μm〜10μmの厚さの平板形状を有している。熱転写シート基材101を構成する樹脂は、公知の熱転写シート基材を構成する樹脂であり、かつ、ある程度の耐熱性と強度を有するものであればいずれのものでも良い。
【0050】
このような樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルフィドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリサルホンフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム、ポリイミドフィルム、アイオノマーフィルム等が挙げられる。
【0051】
[耐熱滑性層]
耐熱滑性層103は、サーマルヘッドの熱によるスティッキングや印画シワ等の悪影響を防止するために、熱転写シート基材101の一方の面に設けられるもので、樹脂及び滑り性付与剤や、所望により添加される充填剤からなるものである。
【0052】
耐熱滑性層103を構成する樹脂としては、公知の耐熱滑性層を構成する樹脂であればどのようなものであってもよい。このような樹脂としては、例えば、ポリビニルブチルアセタール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン又はエポキシのプレポリマー、ニトロセルロース樹脂、セルロースナイトレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートヒドロジエンフタレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0053】
滑り性付与剤は、耐熱滑性層103に添加あるいは上塗りされるものである。このような滑り性付与剤としては、例えば、高級脂肪酸及びその塩、高級脂肪酸グラフトポリマー、ナイロン系フィラー等の有機微粒子、グラファイトパウダー等の無機微粒子、リン酸エステル、シリコーンオイル、シリコーン系グラフトポリマー、フッ素系グラフトポリマー、アクリルシリコーングラフトポリマー、アクリルシロキサン、アリールシロキサン等のシリコーン重合体等が挙げられる。
【0054】
耐熱滑性層103は、ポリオール、例えば、ポリアルコール高分子化合物とポリイソシアネート化合物及びリン酸エステル系化合物からなる層であってもよい。
【0055】
耐熱滑性層103は、以下の方法により形成される。すなわち、まず、樹脂、滑り性付与剤、及び所望により添加される充填剤を所定の溶剤に溶解又は分散させることで、耐熱滑性層組成物(組成液)を調製する。ついで、この組成物を、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の形成手段により熱転写シート基材101の裏面に塗布し、乾燥する。これにより、耐熱滑性層103が形成される。耐熱滑性層103は、乾燥時の膜厚が0.1g/m〜3.0g/mとなることが好ましい。
【0056】
[プライマー層]
プライマー層105は、熱転写シート基材101の表面(耐熱滑性層103とは逆側の面)に形成され、熱転写シート基材101と、後述する染料層107、ラミネート層109及びセンサマーク層109との接着力を強化するものである。プライマー層105を構成する樹脂は、公知のプライマー層を構成する樹脂であればどのようなものであってもよい。このような樹脂としては、特に、異常転写抑制のために熱転写シート基材101と染料層107との接着力が強く、かつ印画濃度の低下を抑制するために染料がプライマー層105へ染着しにくいものが好ましい。
【0057】
このような好ましい樹脂としては、具体的には、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレンアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂や、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂あるいはポリビニルピロリドン樹脂等のビニル系樹脂や、ポリビニルアセトアセタールあるいはポリビニルブチルアセタール等のポリビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。
【0058】
プライマー層105は、例えば以下のように形成される。すなわち、樹脂を所定の溶剤に溶解又は分散させることでプライマー層用組成物(組成液)を調製する。ついで、この組成物を例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の形成手段により熱転写シート基材101に塗布し、乾燥する。これにより、プライマー層105が形成される。また、プライマー層用組成物(組成液)には、蛍光増白剤などの添加剤やフィラーなどを適宜添加しても良い。プライマー層105は、乾燥時の膜厚が0.01〜2.0g/mとなるように塗布するようにする。また、プライマー層105は、熱転写シート基材101の形成時に、熱転写シート基材101の延伸前に熱転写シート基材101上に塗布し、その後熱転写シート基材101と一緒に延伸することにより形成されるようにしても良い。
【0059】
なお、熱転写シート基材101の表面に、熱転写シート基材101と、後述する染料層107、ラミネート層109及びセンサマーク層111との接着力を強化するための層としてプライマー層105を形成する場合について説明したが、プライマー層形成処理に変えて各種の接着処理を実施することも可能である。かかる接着処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、低温プラズマ処理、グラフト化処理等公知の樹脂表面改質技術をそのまま適用することができる。また、接着処理は、上記処理を二種以上併用したものであってもよい。
【0060】
[染料層]
染料層107は、プライマー層105上に順次形成された染料層107Y、107M、107Cを有している。染料層107Y、107M、107Cは、染料と、当該染料を担持するバインダ樹脂とを含む。ここで、染料層107Yは、イエローの色相を有する染料が含まれる染料層であり、染料層107Mは、マゼンタの色相を有する染料が含まれる染料層であり、染料層5Cは、シアンの色相を有する染料が含まれる染料層である。染料層107に添加される染料は、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料であれば、公知のものを利用可能である。
【0061】
このような公知の染料としては、例えばジアリールメタン系、トリアリールメタン系、チアゾール系、メロシアニン、ピラゾロンメチン等のメチン系、インドアニリン、アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチンに代表されるアゾメチン系、キサンテン系、オキサジン系、ジシアノスチレン、トリシアノスチレンに代表されるシアノメチレン系、チアジン系、アジン系、アクリジン系、ベンゼンアゾ系、ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラゾールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジズアゾ等のアゾ系、スピロピラン系、インドリノスピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系、ナフトキノン系、アントラキノン系、キノフタロン系染料が挙げられる。また、染料層107Y、107M、107Cは、上述の染料以外にも熱転写方法に使用される他の公知の染料をさらに含んでもよい。
【0062】
染料層107Y、107M、107Cに添加される染料は、これらの染料の色相、印画濃度、耐光性、保存性、バインダへの溶解度等の特性を考慮して決定される。
【0063】
また、本実施形態に係る染料層107Cには、シアン用染料として、少なくとも以下の構造式(3)で示されるインドアニリン系染料が添加されている。
【0064】
【化14】

【0065】
ここで、上記構造式(3)において、置換基R1,R2,R4及びR5は、互いに独立に炭素数が1〜3のアルキル基であり、置換基R3は、水素又は炭素数が1〜3のアルキル基であり、置換基Xは、水素又は塩素である。
【0066】
なお、染料層107Y、107M、107Cの各々におけるバインダ樹脂と染料全体との質量比は、熱転写シートの染料層として通常適用されている値を適用することが可能であるが、例えば、乾燥時に、バインダ樹脂100質量部に対し、染料全体が30〜300質量部となるようにすればよい。
【0067】
染料層107を構成するバインダ樹脂は、特に限定されるものではなく、公知の染料層に使用されるバインダ樹脂であれば、どのようなものであってもよい。このような公知のバインダ樹脂としては、例えば、セルロース付加化合物、セルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸-ポリ塩化ビニル共重合体、ポリアクリルアミド、スチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸系エステル、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸共重合体等のビニル系樹脂、ゴム系樹脂、アイオノマー樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられ、特にポリビニルアセタール樹脂が好ましい。
【0068】
ポリビニルアセタール樹脂とは、ポリビニルアルコール樹脂をアルデヒド類と反応させ、アセタール化して得られる樹脂である。アルデヒド成分としては特に制限はなく、例えば、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等を選択することができる。また、このポリビニルアセタール樹脂は、2種類以上のアルデヒド成分を同時にアセタール化反応させたものや、2種類以上のポリビニルアセタール樹脂の混合物からなるものでもよい。
【0069】
上記ポリビニルアセタール樹脂としては、例えば、エスレックBL−S、エスレックBX−1、エスレックBX−5、エスレックKS−1、エスレックKS−3、エスレックKS−5、エスレックKS−10(いずれも商品名、積水化学工業株式会社製)、デンカブチラール#5000−A、デンカブチラール#5000−D、デンカブチラール#6000−C、デンカブチラール#6000−EP、デンカブチラール#6000−CS、デンカブチラール#6000−AS(いずれも商品名、電気化学工業株式会社製)等が用いられる。
【0070】
ポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度は、60〜110℃であることが好ましい。ガラス転移温度が60℃未満の場合、保存中のブロッキングや染料層における染料再結晶化が促進され保存性が低下するので、好ましくない。また、ガラス転移温度が110℃を超える場合は、印画記録時の染料放出性が低下するため好ましくない。なお、かかるガラス転移温度は、例えば、示差走査熱量測定法(Differential Scanning Calorimetry:DSC)を用いて測定可能である。
【0071】
染料層107に添加できるその他の樹脂成分としては、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸・酪酸セルロース等のセルロース樹脂;ポリ酢酸ビニル、塩ビ酢ビ共重合樹脂(塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂)、スチレン樹脂、ポリビニルピロリドン等のビニル系樹脂;ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド等のアクリル系樹脂;ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂等が例示できる。また、上記成分に限らず、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂成分を適宜添加することができる。
【0072】
また、染料層107には、必要に応じて公知の各種添加剤を加えてもよい。その添加剤として、例えば、ポリエチレンワックス、アクリル、シリコーン、ベンゾグアナミン系樹脂等の有機微粒子、炭酸カルシウム、シリカ、雲母等の無機粒子、シリコーン樹脂、シリコーンオイル、リン酸エステルなどが挙げられる。このような添加剤は、後述する被転写シート20との離型性や染料の塗布適性を向上させるために、染料層107に添加される。
【0073】
以上説明したような染料層107Y、107M、107Cは、以下のように形成される。すなわち、まず、染料、バインダ樹脂、及び必要に応じて所望の添加剤を所定の溶剤に加え、各成分を溶解または分散させることで、染料層組成物(組成液)を調製する。ついで、この組成物(組成液)を熱転写シート基材101の上に塗布、乾燥させる。これにより、染料層107Y、107M、107Cが形成される。塗布方法としては、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等の公知の手段が挙げられる。また、これら以外の各種の塗布方法を適用することも可能である。染料層107Y、107M、107Cの膜厚は、乾燥時に0.1〜6.0g/m、好ましくは0.2〜3.0g/mとなることが好ましい。
【0074】
なお、本実施形態では、染料層107がそれぞれ色相の異なる染料層107Y、107M、107Cを有する場合について述べたが、単一の色相からなる染料層を有していてもよい。
【0075】
[ラミネート層]
ラミネート層109は、後述する被転写シート20に熱転写された画像を保護するためのものである。すなわち、被転写シート20に染料を含む画像を熱転写させただけだと、染料が被転写シート20の表面に露出した状態になり、印画物(被転写シート20の受容層207に染料を熱転写させたもの)の耐光性、耐擦過性、耐薬品性等が不十分となる可能性がある。そこで、被転写シート20の受容層207に染料含む画像を熱転写させた後に、ラミネート層109の少なくとも一部を被転写シート20の受容層207に熱転写して印画物を被覆させることで、印画物上に透明樹脂からなる印画物保護層を形成し、被転写シート20を保護する。
【0076】
本実施形態に係るラミネート層109は、図1に示したように、離型性層151と、転写物被覆層153と、を備える。サーマルヘッド等の加熱手段により加熱されると、ラミネート層109のうち転写物被覆層153が剥離し、被転写シート20上に転写された画像を被覆して、当該転写された画像を保護する透明な樹脂層(印画物保護層)となる。
【0077】
ここで、本実施形態に係る転写物被覆層153は、図1に示したように、保護層155及び接着層157からなる。
【0078】
離型性層151は、サーマルヘッド等の加熱手段により加熱された際に、プライマー層105に残存し、後述する転写物被覆層153(保護層155及び接着層157)を熱転写シート10から剥離させる層である。離型性層151は、例えば、シリコーンワックス等の各種ワックス類、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、水溶性樹脂、セルロース誘導体樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸系ビニル樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アクリルビニルエーテル系樹脂、無水マレイン酸樹脂等の各種樹脂等やこれらの混合物で構成されている。離型性層151を構成する樹脂としては、ポリビニルアセタール系樹脂、セルロース誘導体樹脂を用いることが、良好な記録特性を得るうえで好ましい。
【0079】
転写物被覆層153を構成する保護層155は、熱転写性を有しており、サーマルヘッド等の加熱手段により加熱された際に被転写シート20に転写された染料を含む画像上に熱転写されて、印画物保護層として被転写シート20を保護する透明な樹脂層である。図1において、本実施形態に係る保護層155は単一層として図示されているが、保護層155は、複数の層から構成されていてもよい。
【0080】
保護層155を構成する樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、これらの各樹脂のエポキシ変性樹脂、これらの樹脂をシリコーン変性させた樹脂、これらの各樹脂の混合物、電離放射線硬化性樹脂、紫外線遮断性樹脂等が挙げられる。好ましい樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ変性樹脂が挙げられる。中でもスチレン、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、塩ビ−酢ビ(塩化ビニル及び酢酸ビニルの共重合体)、塩化ビニル、セルロースエステル誘導体から選ばれる少なくとも1種の共重合体は、非転写時には接密着性を有し、熱転写時には剥離性を有し、良好な光沢を有するため好ましく、ポリスチレン樹脂及びその変性体や共重合体、あるいは、アクリル系樹脂及びその変性体や共重合体であることが最も好ましい。
【0081】
転写物被覆層153を構成する接着層157は、サーマルヘッド等の加熱手段により加熱された際に、被転写シート20に転写された染料を含む画像上に保護層155とともに熱転写されて、保護層155を被転写シート20に接着させる透明な樹脂層である。接着層157を構成する樹脂としては、公知である粘着剤、感熱接着剤等が配合されている樹脂をいずれも使用することが可能であるが、ガラス転移温度(Tg)が30〜80℃の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。このような熱可塑性樹脂の具体例として、例えば、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。
【0082】
この接着層157には、所定の構造を有する化合物が添加されることが好ましい。また、所定の構造を有する化合物に加えて、各種の酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、有機フィラー、無機フィラー等を接着層157に適宜添加してもよい。この所定の構造を有する化合物については、以下で改めて詳細に説明する。
【0083】
以上、本実施形態に係るラミネート層109について、詳細に説明した。
なお、本実施形態では、ラミネート層109が、離型性層151、保護層155及び接着層157の3層構造である場合について説明したが、ラミネート層109の構造が上述の例に限定されるわけではない。すなわち、保護層155及び接着層157からなる転写物被覆層153が、サーマルヘッド等の加熱手段による加熱で熱転写シート10から容易に剥離可能なのであれば、離型性層151は形成しなくともよい。また、サーマルヘッド等の加熱手段による加熱で熱転写シート10から容易に剥離可能なのであれば、ラミネート層109として、接着層157の機能も兼ねた保護層155のみを形成してもよい。この場合において、以下で説明する所定の構造を有する化合物は、接着層157の機能も兼ねた保護層155に添加されることとなる。
【0084】
[センサマーク層]
センサマーク層111は、熱転写を行うプリンタが、染料層107及びラミネート層109の位置を認識するために設けられる。
【0085】
以上、図1を参照しながら、本実施形態に係る熱転写シート10の構成について、詳細に説明した。
【0086】
<被転写シートの構成について>
次に、図2を参照しながら、本実施形態に係る被転写シート20の構成を説明する。被転写シート20は、被転写シート基材201と、バックコート層203と、中間層205と、受容層207と、を主に備える。
【0087】
[被転写シート基材]
被転写シート基材201は、後述する受容層207を保持するという役割を有する。また、被転写シート基材201は、熱転写時には加熱されるものであるため、加熱された状態でも、取り扱い上支障のない程度の機械的強度を有することが好ましい。
【0088】
被転写シート基材201を構成する材料としては、公知の被転写シート基材に使用される材料であれば特に限定されない。このような材料としては、例えば、コンデンサーペーパー、グラシン紙、硫酸紙、又はサイズ度の高い紙、合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、壁紙、裏打用紙、合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、板紙等、セルロース繊維紙、或いはポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、セルロース誘導体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン(ポリサルフォン)、ポリエーテルサルホン(ポリエーテルサルフォン)、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン・エチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド等のフィルムが挙げられる。被転写シート基材201としては、これらの合成樹脂に白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルム又は発泡させた発泡シートを使用することもできる。
【0089】
また、被転写シート基材201として、上記の材料からなる層を任意に組み合わせた積層体を使用することもできる。代表的な積層体の例として、セルロース繊維紙と合成紙との積層体、又は、合成紙とプラスチックフィルムとの積層体が挙げられる。被転写シート基材201の厚みは、適宜設定可能であるが、例えば10μm〜300μm程度とすることができる。また、被転写シート201上に、微細空隙を有する断熱クッション層を塗布等により設けても良い。
【0090】
[バックコート層]
バックコート層203は、被転写シート基材201の裏面に設けられ、熱転写を行うプリンタ内での被転写シート20の搬送性を向上させ、また、被転写シート20のカールを防止するために、適宜設けられる層である。
【0091】
バックコート層203を構成する樹脂としては、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ハロゲン化ポリマー等の樹脂中に、添加剤として、アクリル系フィラー、ポリアミド系フィラー、フッ素系フィラー、ポリエチレンワックス等の有機系フィラー、及び、二酸化ケイ素や金属酸化物等の無機フィラーを加えたものが挙げられる。その他、上述の樹脂を各種硬化剤により硬化したものを利用することも可能である。
【0092】
[中間層]
中間層205は、被転写シート基材201と後述する受容層207との間に適宜設けられる層であり、単一の層であってもよく、複数の層が積層されたものであってもよい。この中間層205には、被転写シート基材201と受容層207とを接着する接着層(プライマー層等のいわゆるアンカーコート層)、被転写シート基材201を保護するバリア層、被転写シート基材201の帯電を防止する帯電防止層、白色隠蔽層等の各種の機能が必要に応じて付与される。このように、本実施形態に係る中間層205は、被転写シート基材201と受容層207との間に設けられる全ての層を意味するものであり、公知のものは、必要に応じて何れも使用可能である。
【0093】
中間層205を構成する樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、或いは官能基を有する熱可塑性樹脂を、各種の添加剤その他の手法を用いて硬化させたものが挙げられる。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエステル、塩素化ポリプロピレン、変性ポリオレフィン、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、アイオノマー、単官能及び/又は多官能水酸基含有のプレポリマーをイソシアネート等で硬化させた樹脂等が挙げられる。中間層205は、乾燥状態で0.5〜30g/m程度の厚みを有することが好ましい。
【0094】
[受容層]
受容層207は、熱転写シート上に形成された染料層に含まれる染料が熱転写される層であり、バインダ樹脂を主体に形成されている。受容層207を形成するバインダ樹脂としては公知の樹脂を利用可能であるが、その中でも染料が染着しやすいものを用いることが好ましい。
【0095】
このような好ましい樹脂としては、具体的には、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、ポリスチレンアクリロニトリル等のポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノキシ樹脂、エチレンやプロピレン等のオレフィンと他のビニル系モノマーとの共重合体、ポリウレタン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アイオノマー、セルロース誘導体等の単体又は混合物を用いることができ、これらの中でもアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂及びセルロース誘導体が好ましい。
【0096】
かかる受容層207には、熱転写シート上に形成された染料層との熱融着を防止する目的で、離型剤を添加することが好ましい。離型剤としては、リン酸エステル系可塑剤、フッ素系化合物、シリコーンオイル(反応硬化型シリコーンを含む。)等を使用することができ、この中でもシリコーンオイルが好ましい。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンをはじめ各種の変性シリコーンを用いることができる。具体的には、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、ビニル変性シリコーン、ウレタン変性シリコーン等を用いることができる。さらに、これらのシリコーンをブレンドまたは各種の反応を用いて重合させたものを用いることもできる。離型剤は、1種でも、又は2種以上のものを併せて用いてもよい。
【0097】
また、離型剤の添加量は、受容層207を構成するバインダ樹脂100質量部に対し、0.5〜30質量部とすることが好ましい(乾燥時)。離型剤の添加量を0.5〜30質量部とすることによって、熱転写シートと被転写シート10の受容層207との融着、印画感度の低下等が生じることを防止できる。なお、これらの離型剤は、受容層207に添加することに限らず、受容層207上に別途離型性層を設け、離型性層中に含有させても良い。
【0098】
更に、本実施形態に係る受容層207には、所定の構造を有する化合物が添加されることが好ましい。また、所定の構造を有する化合物に加えて、各種の酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、有機フィラー、無機フィラー、硬化剤等を受容層207に適宜添加してもよい。この所定の構造を有する化合物については、以下で改めて詳細に説明する。
【0099】
<添加化合物について>
続いて、本実施形態に係る熱転写シート10に設けられた接着層157、及び、被転写シート20上に設けられた受容層207の少なくとも何れかに添加される、所定の構造を有する化合物について、詳細に説明する。以下の説明では、接着層157及び受容層207の少なくとも何れかの層に添加される所定の構造を有する化合物のことを、添加化合物と称することとする。
【0100】
本実施形態に係る添加化合物は、以下の構造式(1)又は構造式(2)で示される1又は複数種類の化合物である。
【0101】
【化15】

【0102】
ここで、A1は、カルボン酸エステル及びエーテルを含む置換基、アリール、並びにチオエーテルのうち少なくとも1つで置換されたアルキル基、又は、アリールで置換されたチオール基である。
【0103】
【化16】

【0104】
ここで、A2は、チオエーテルで置換されたアルキル基、ヘテロ環で置換されたアミノ基、又は、アリールで置換されたチオール基である。
【0105】
より具体的には、本実施形態に係る添加化合物は、以下の構造式(1−1)〜構造式(2−3)のいずれか1つで示される1又は複数種類の化合物であることが好ましい。
【0106】
【化17】

【0107】
【化18】

【0108】
【化19】

【0109】
【化20】

【0110】
【化21】

【0111】
【化22】

【0112】
【化23】

【0113】
【化24】

【0114】
【化25】

【0115】
【化26】

【0116】
かかる添加化合物の含有量(添加量)は、添加化合物が含有される層に含まれるバインダ樹脂100質量部に対して、0.5〜8質量部(好ましくは、1〜5質量部)である。なお、この質量部は、添加化合物が添加される層の乾燥時における質量部である。なお、添加化合物の添加量が0.5質量部未満である場合には、十分な効果が得られず好ましくない。また、添加化合物の添加量が8質量部を超えると、十分な効果が得られなかったり、暗所保存性、耐光性等の特性が低下したりして好ましくない。
【0117】
なお、本実施形態に係る添加化合物として、複数の化合物を組み合わせて使用する場合には、組み合わせて利用する添加化合物の総質量が、上記の質量部の条件を満たすこととなる。
【0118】
以上、本実施形態に係る添加化合物について、詳細に説明した。
【0119】
このように、本実施形態では、熱転写シート10の接着層157及び被転写シート20の受容層207の少なくとも何れかの層に、上記添加化合物を添加することによって、インドアニリン系染料との組み合わせにおいて、長期画像暗所保存性に優れた画像を形成することが可能となる。
【実施例】
【0120】
(実施例及び比較例)
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、以下に示す実施例及び比較例中、「部」又は「%」とあるのは、特に断りのない限り、質量基準である。
【0121】
本実施例及び比較例では、熱転写シート10及び被転写シート20の組を、インドアニリン系染料の構造、添加化合物の添加部位、添加化合物の構造、添加化合物の質量部を変えて、複数製造した(実施例1〜17、比較例1〜10)。
【0122】
まず、熱転写シート10及び被転写シート20の製造方法等を示す。なお、以下の説明では、熱転写シート10等の製造に用いられる組成物(組成液)ごとに、その組成物を構成する材料と、その材料の質量部とを示す。各材料の質量部は、その材料が含まれる組成物の総質量に対する質量部を示す。
【0123】
<熱転写シートの製造>
まず、熱転写シート基材101として、表面を接着処理してプライマー層105を形成した、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)(三菱樹脂(株)製 K604E 4.5W)を用意した。ついで、熱転写シート基材101の裏面に、下記組成の耐熱滑性層組成物をグラビアコーティングにより、乾燥後の塗布量が1.0g/mになるように塗布、乾燥することで、耐熱滑性層103を形成した。なお、かかる耐熱滑性層103が形成された熱転写シート基材101に対して、50℃、5日間の加熱硬化処理を実施した。
【0124】
ついで、熱転写シート基材101の表面に、下記組成の染料層組成物をワイヤーバー#8により、乾燥厚0.5μmになるように塗布、乾燥することで、染料層107を形成した。なお、乾燥条件は、100℃で60秒間とした。また、シアン用染料として使用したインドアニリン系染料は、特開2008−248125号公報に記載されている合成方法に則して、適宜合成した。
【0125】
このようにして製造した熱転写シート基材101の表面に、下記組成の離型性層組成物をグラビアコーティングにより乾燥後の厚さが0.3μmとなるよう塗布、乾燥することで、離型性層151を形成した。
【0126】
また、離型性層151の表面に、下記組成の保護層組成物をべーカーアプリケーター(YOSHIMITU SEIKI製 YBA−5型)を用いて乾燥後の厚さが1μmとなるよう塗布、乾燥することで、保護層155を形成した。なお、乾燥条件は100℃で60秒間とした。
【0127】
更に、保護層155の表面に、下記組成の接着層組成物をべーカーアプリケーター(YOSHIMITU SEIKI製 YBA−5型)を用いて乾燥後の厚さが1μmとなるよう塗布、乾燥することで、接着層157を形成した。なお、乾燥条件は100℃で60秒間とした。このようにして、熱転写シート10を形成した。
【0128】
○耐熱滑性層組成物
ポリビニルアセタール樹脂 3.0部
(積水化学工業製 エスレックBX−1)
ポリイソシアネート 2.0部
(日本ポリウレタン製 コロネートL )
リン酸エステル 1.0部
(プライサーフA208S 第一工業製薬製)
メチルエチルケトン 47.0部
トルエン 47.0部
【0129】
○染料層組成物
インドアニリン染料 5部
ポリビニルアセタール樹脂 5部
(電気化学工業製 エスレックBX−1)
トルエン 45部
メチルエチルケトン 45部
【0130】
○ラミネート層 離型性層組成物
ポリビニルアセタール樹脂 5部
(積水化学工業製 エスレックBX−1)
トルエン 50部
メチルエチルケトン 45部
【0131】
○ラミネート層 保護層組成物
ポリスチレン樹脂 18部
(Mw=100000)
紫外線吸収剤 2部
(チバスペシャルティケミカルズ製 TINUVIN320)
トルエン 80部
【0132】
○ラミネート層 接着層組成物
アクリル樹脂 10部
(メチルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルメタクリレート/フェノキシエチルメタクリレート=1/1/8,Mw=20000)
トルエン 45部
メチルエチルケトン 45−x部
添加化合物 x部
【0133】
<被転写シートの製造>
まず、被転写シート基材201として、合成紙FGS200(厚さ200μm:ユポコーポレーション製)を用意した。ついで、被転写シート基材201の表面に、下記受容層組成物を、ワイヤーバー#14により乾燥厚3μmとなるように塗布、乾燥することで、受容層207を形成した。なお、乾燥条件は100℃、60秒とした。乾燥後に、45℃、48時間の加熱硬化を行った。このようにして、被転写シート20を形成した。なお、本実施例及び比較例では、中間層205の製造を省略した。
【0134】
○受容層組成物
アクリル樹脂 18.5部
(メチルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルメタクリレート/フェノキシエチルメタクリレート=1/1/8、Mw=100000)
カルビノール変性シリコーンオイル 0.5部
(東レダウコーニング製 SF8427)
ポリイソシアネート 1部
(日本ポリウレタン工業製 コロネートL)
トルエン 40部
メチルエチルケトン 40−y部
添加化合物 y部
【0135】
各実施例及び比較例にて製造された熱転写シート10及び被転写シート20の構成等を、表1に示した。なお、表1では、インドアニリン系染料の構造が、(3−1)〜(3−3)という分類で示される。これらの分類と実際の構造との関係を、表2に示した。表1に示すように、例えば実施例1では、インドアニリン系染料の構造は(3−2)となり、添加化合物は被転写シート20の受容層207に添加され、構造式(1−1)で示される構造を有する。また、添加化合物の質量部は0.5となる。
【0136】
なお、比較例1〜3では、添加化合物として以下の構造式(5−1)〜構造式(5−3)で示される物質を使用した。
【0137】
【化27】

【0138】
【化28】

【0139】
【化29】

【0140】
【表1】

【0141】
【表2】

【0142】
なお、表1に示した各構造式で表される添加化合物は、以下のものを使用した。
(1−1):株式会社ADEKA製 アデカスタブAO−80
(1−2):株式会社エーピーアイコーポレーション製 ヨシノックスBB
(1−3):BASF社製 IRGANOX 245
(1−4):シプロ化成株式会社製 SEENOX 336
(1−5):シプロ化成株式会社製 SEENOX BCS
(2−1):BASF社製 IRGANOX 1035
(2−2):BASF社製 IRGANOX 565
(5−1):BASF社製 IRGANOX 1010
(5−2):BASF社製 IRGANOX 1520L
(5−3):シプロ化成株式会社製 SEENOX 224M
【0143】
<印画方法について>
実施例1〜17、比較例1〜10で製造された熱転写シート10及び被転写シート20の組を、それぞれ純正メディア(ソニー株式会社製、UPC−R204)に切り貼りし、これにより作成されたシートをプリンタ(ソニー株式会社製、UP−DR200)にセットし、16階調の印画パターンで印画を行った。この際、製造した熱転写シート10は、純正メディアのシアンパネル部及びラミネート層パネル部の部分に切り貼りした。この印画の過程において、熱転写シートの染料層107に含まれるインドアニリン系染料が、被転写シートの受容層207に転写され、その後、受容層207にラミネート層109の一部(より詳細には、保護層155及び接着層157)が転写される。印画は、温度23℃、湿度60%の環境下で行われた。
【0144】
<評価>
上記の印画により得られた印画物を、温度70℃、湿度50%の恒温恒湿槽(暗所)に入れて7〜21日間保存し、OD(Optical Density)が約1.0となる部位の濃度低下を測定した。測定は、測色色差計(マクベスグレタグ社製、SPM100−II)を用いて行われた。測定された値を保存日数に対してプロットし、劣化速度の傾きを求めた。結果を表1にあわせて示す。
【0145】
表1にあわせて示した結果について、同一のインドアニリン系染料を利用し、添加化合物を同一の部位に添加したものについて、実施例と比較例とを互いに比較する。このような実施例と比較例との比較から明らかなように、実施例の傾きの方が、比較例の傾きよりも小さくなっていることがわかる。この結果は、本発明の実施形態に係る添加化合物を、熱転写シート10の接着層157及び被転写シートの受容層207の少なくとも何れかに添加することにより、暗所保存性が向上することを示している。
【0146】
以上のように、本発明の実施形態によれば、熱転写シート10の接着層157及び被転写シート20の受容層207の少なくとも何れかの層に、上記添加化合物が添加されることによって、インドアニリン系染料との組み合わせにおいて、長期画像暗所保存性に優れた画像を形成することが可能となる。
【0147】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0148】
10 熱転写シート
20 被転写シート
101 熱転写シート基材
103 耐熱滑性層
105 プライマー層
107 染料層
109 ラミネート層
151 離型性層
153 転写物被覆層
155 保護層
157 接着層
201 被転写シート基材
203 バックコート層
205 中間層
207 受容層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に設けられ、インドアニリン系染料を含む染料層と、
前記基材の前記染料層が形成されている面に設けられ、被転写シートに熱転写された転写物を被覆する転写物被覆層と、
を備え、
前記転写物被覆層は、
所定の構造を有する化合物とバインダ樹脂とを含み、
前記所定の構造を有する化合物の含有量は、前記バインダ樹脂100質量部に対して0.5〜8質量部である、熱転写シート。
【請求項2】
前記所定の構造を有する化合物は、下記構造式(1)又は構造式(2)で示される1又は複数種類の化合物である、請求項1に記載の熱転写シート。
【化1】

ここで、A1は、カルボン酸エステル及びエーテルを含む置換基、アリール、並びにチオエーテルのうち少なくとも1つで置換されたアルキル基、又は、アリールで置換されたチオール基である。
【化2】

ここで、A2は、チオエーテルで置換されたアルキル基、ヘテロ環で置換されたアミノ基、又は、アリールで置換されたチオール基である。

【請求項3】
前記所定の構造を有する化合物は、下記構造式(1−1)〜構造式(2−3)のいずれか1つで示される1又は複数種類の化合物である、請求項2に記載の熱転写シート。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【請求項4】
前記インドアニリン系染料は、下記の構造式(3)で表される化合物である、請求項1又は2に記載の熱転写シート。
【化13】

ここで、置換基R1,R2,R4及びR5は、互いに独立に炭素数が1〜3のアルキル基であり、
置換基R3は、水素又は炭素数が1〜3のアルキル基であり、
置換基Xは、水素又は塩素である。
【請求項5】
インドアニリン系染料が熱転写される受容層を備え、
前記受容層は、所定の構造を有する化合物とバインダ樹脂とを含み、
前記所定の構造を有する化合物の含有量は、前記バインダ樹脂100質量部に対して0.5〜8質量部である、被転写シート。
【請求項6】
前記所定の構造を有する化合物は、下記構造式(1)又は構造式(2)で示される1又は複数種類の化合物である、請求項5に記載の被転写シート。
【化14】

ここで、A1は、カルボン酸エステル及びエーテルを含む置換基、アリール、並びにチオエーテルのうち少なくとも1つで置換されたアルキル基、又は、アリールで置換されたチオール基である。
【化15】

ここで、A2は、チオエーテルで置換されたアルキル基、ヘテロ環で置換されたアミノ基、又は、アリールで置換されたチオール基である。
【請求項7】
前記所定の構造を有する化合物は、下記構造式(1−1)〜構造式(2−3)のいずれか1つで示される1又は複数種類の化合物である、請求項6に記載の被転写シート。
【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

【化22】

【化23】

【化24】

【化25】

【請求項8】
前記インドアニリン系染料は、下記の構造式(3)で表される化合物である、請求項5又は6に記載の被転写シート。
【化26】

ここで、置換基R1,R2,R4及びR5は、互いに独立に炭素数が1〜3のアルキル基であり、
置換基R3は、水素又は炭素数が1〜3のアルキル基であり、
置換基Xは、水素又は塩素である。
【請求項9】
インドアニリン系染料を含む染料層と、被転写シートに熱転写された転写物を被覆する転写物被覆層とを備える熱転写シートから、被転写シートの受容層に対して前記インドアニリン系染料を熱転写するステップと、
前記インドアニリン系染料が熱転写された前記受容層に対して、前記転写物被覆層を熱転写するステップと、
を含み、
前記転写物被覆層及び前記受容層の少なくとも何れか一方は、所定の構造を有する化合物とバインダ樹脂とを含み、
前記所定の構造を有する化合物の含有量は、前記バインダ樹脂100質量部に対して0.5〜8質量部である、熱転写方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−101361(P2012−101361A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248830(P2010−248830)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】