説明

熱転写シート

【課題】新規な熱転写シートの提供。
【解決手段】基材1の一方の面に熱転写染料層2,3,4を有している。熱転写染料層2,3,4のうちの1層は、インドアニリン系染料を少なくとも1種含有している。基材1の他方の面に耐熱滑性層6を有している。耐熱滑性層6は積層構造をなし、耐熱滑性層6のうち基材1に接している下層6aが、酸型リン酸エステルを少なくとも1種含有し、下層6aの上に形成される上層6bが、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルまたは特定グリセリン脂肪酸エステルを含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱転写シートに関し、特に保存性に優れた熱転写シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年多く採用されている、昇華染料を用いた熱転写方式は、きわめて短時間の加熱によって多数の色ドットを被転写材に転写させ、この多色の色ドットにより原稿のフルカラー画像を再現している。この際の加熱は熱転写シートの背面によりサーマルヘッドにて行うが、熱転写シートがサーマルヘッドに融着することを防止し、熱転写シートにスムーズな走行性を付与するために、熱転写染料層が設けられた面の反対面に耐熱滑性層が設けられる。
【0003】
熱転写シートを印画紙に印画する際、サーマルヘッドから耐熱滑性層へ熱を加え反対の面の熱転写染料層中の染料を印画紙に転写させるが、その発色濃度は熱量に比例しサーマルヘッドの表面温度は数百度単位の範囲で変化する。そのため熱転写シートがサーマルヘッド上を移動する際、温度変化によってサーマルヘッド−耐熱滑性層間の摩擦係数が変化しやすい。サーマルヘッド−耐熱滑性層間の摩擦係数が変化すると、一定の速度で熱転写シートが移動しにくくなり、鮮明な画像が得られない。
【0004】
例えば、摩擦が大きい時は熱転写シートの移動が一時的に遅くなり、その部分だけ濃度が高くなる“スティッキング”と呼ばれる線状の印画ムラが発生する。このような“スティッキング”を防止するためには特に高温での摩擦係数を低減させる必要があるが、この高温下の摩擦係数を低減させる滑剤として酸型リン酸エステルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
一方、熱転写染料層には良好な色再現範囲を得るために、アゾ系、アントラキノン系、メチン系等の各種染料が使用されているが、シアン系染料としてインドアニリン系染料が広く使用されるようになっている。熱転写染料層にシアン色としてインドアニリン系染料を使用する時、耐熱滑性層にリン酸エステル等の酸性度の強い滑剤を同時に使用すると、巻き層状態において両層が接することにより酸性下で分解しやすいインドアニリン系染料が劣化し、発色濃度が低下する。
【0006】
この問題を解決すべく、新たな熱転写シートの開発がなされている(例えば、特許文献2参照。)。これは、基材シートの一方の面に熱転写染料層を有するとともに、他方の面に耐熱滑性層を有する熱転写シートであり、耐熱滑性層はグリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルとの混合物を含有している。グリセリン脂肪酸エステルやリン酸エステルは、優れた潤滑性を示し、低摩擦係数が達成される。また、これらを併用することで、染料層への悪影響が小さくなっている。
【特許文献1】特開平06−155940号公報
【特許文献2】特開平11−58989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の熱転写シートでは、耐熱滑性層がグリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルとの混合物を含んでいるので、リン酸エステルの影響を受けることが避けられない。すなわち、熱転写染料層にシアン色としてインドアニリン系染料を使用する時、耐熱滑性層にグリセリン脂肪酸エステルとリン酸エステルとの混合物を使用すると、巻き層状態において両層が接することにより酸性下で分解しやすいインドアニリン系染料が若干劣化し、発色濃度が低下するという問題がある。
このようなことから、この問題を解決する新たな熱転写シートの開発が望まれている。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な熱転写シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の熱転写シートは、基材の一方の面に熱転写染料層を有し、前記熱転写染料層が酸性下で分解する染料を含有し、前記基材の他方の面に耐熱滑性層を有する熱転写シートにおいて、前記耐熱滑性層が積層構造をなし、前記耐熱滑性層のうち前記基材に接している下層が、酸型リン酸エステルを含有し、前期下層の上に形成される上層が、中性の滑剤を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の熱転写シートによれば、熱転写シートが巻き層状態にあり熱転写染料層と耐熱滑性層が接していても、中性の滑剤を含有する上層が下層の上に形成されているので、下層に含まれる酸型リン酸エステルの耐熱活性層表面への染み出しが抑制される。
【0011】
本発明の熱転写シートは、基材の一方の面に熱転写染料層を有し、前記熱転写染料層が、インドアニリン系染料(化4)を少なくとも1種含有し、前記基材の他方の面に耐熱滑性層を有する熱転写シートにおいて、前記耐熱滑性層が積層構造をなし、前記耐熱滑性層のうち前記基材に接している下層が、酸型リン酸エステルを少なくとも1種含有し、前期下層の上に形成される上層が、ポリグリセリン脂肪酸エステル(化5)またはグリセリン脂肪酸エステル(化6)を少なくとも1種含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の熱転写シートによれば、熱転写シートが巻き層状態にあり熱転写染料層と耐熱滑性層が接していても、ポリグリセリン脂肪酸エステル(化5)またはグリセリン脂肪酸エステル(化6)を少なくとも1種含有する上層が下層の上に形成されているので、下層に含まれる酸型リン酸エステルの耐熱活性層表面への染み出しが抑制される。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
本発明は、基材の一方の面に熱転写染料層を有し、前記熱転写染料層が酸性下で分解する染料を含有し、前記基材の他方の面に耐熱滑性層を有する熱転写シートにおいて、前記耐熱滑性層が積層構造をなし、前記耐熱滑性層のうち前記基材に接している下層が、酸型リン酸エステルを含有し、前期下層の上に形成される上層が、中性の滑剤を含有するので、新規な熱転写シートを提供することができる。
【0014】
本発明は、基材の一方の面に熱転写染料層を有し、前記熱転写染料層が、インドアニリン系染料(化4)を少なくとも1種含有し、前記基材の他方の面に耐熱滑性層を有する熱転写シートにおいて、前記耐熱滑性層が積層構造をなし、前記耐熱滑性層のうち前記基材に接している下層が、酸型リン酸エステルを少なくとも1種含有し、前期下層の上に形成される上層が、ポリグリセリン脂肪酸エステル(化5)またはグリセリン脂肪酸エステル(化6)を少なくとも1種含有するので、新規な熱転写シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、熱転写シートにかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明の熱転写シートの断面を模式的に表したものであり、図2〜6はその上面図である。ここで、基材1の一方の面に熱転写染料層2、3、および4がある。熱転写染料層は、少なくとも染料とバインダから構成される。また、熱転写染料層の他に、シート位置を検知するための検知マーク9などを設けても良い。一方、基材1の他方の面に耐熱滑性層6がある。耐熱滑性層6は、積層構造(2層構造)になっている。耐熱滑性層6のうち下層6aは、基材1に接している。下層6aの上に上層6bが形成されている。
【0017】
熱転写染料層2、3、および4は、イエロー、マゼンタ、シアン色に相当するが、イエロー、マゼンタ、シアン色の順序は必ずしもこのとおりでなくても良い。また、図3のように熱転写染料層はブラック色だけでも良く、さらに、図4のようにイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色でも良い。
【0018】
また、熱転写染料層の他に、図5のように印画後に印画面に転写して印画面を保護するための透明な転写保護層8を設けても良い。さらに、図6のように、普通紙に転写するための熱転写受容層10を設けても良い。
【0019】
熱転写シートの熱転写染料層のうち少なくとも1層は、酸性下で分解する染料を含有している。酸性下で分解する染料としては、インドアニリン系染料を挙げることができる。熱転写染料層は、インドアニリン系染料(化4)を少なくとも1種含有している。
【0020】
【化4】

【0021】
この場合、シアン染料として単一あるいは複数のインドアニリン系染料を用いても良いし、インドアニリン系染料に加えて従来公知の染料、例えばアントラキノン系、ナフトキノン系、複素環系アゾ染料等を使用しても良い。
【0022】
なお、酸性下で分解する染料は、インドアニリン系染料に限定されるものではない。酸性下で分解するこのほかの染料を採用することができる。
【0023】
熱転写染料層はシアン色以外イエロー、マゼンタ色を用いるのが一般的であるが、イエロー、マゼンタ色の熱転写染料層に含まれる染料は従来公知の各種染料、例えば、イエロー染料としてはアゾ系、ジスアゾ系、メチン系、スチリル系、ピリドン・アゾ系等およびその混合系、マゼンタ染料としては、アゾ系、アントラキノン系、スチリル系、複素環系アゾ染料等およびその混合系が使用できる。
【0024】
基材1は、従来公知の各種基材を用いることができる。例えば、ポリエステルフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、アラミドフィルムなどである。
【0025】
基材の厚さは1〜30μmの範囲内にあることが好ましい。また、基材の厚さは2〜10μmの範囲内にあることがさらに好ましい。
【0026】
基材の厚さが1μm以上であると、基材が伸びることにより熱じわが発生するのを防止できるという利点がある。基材の厚さが2μm以上であると、この効果がより顕著になる。
【0027】
基材の厚さが30μm以下であると、サーマルヘッドからの熱を適切に伝達し、画像の発色濃度の低下を防止できるという利点がある。基材の厚さが10μm以下であると、この効果がより顕著になる。
【0028】
耐熱滑性層6は、下層6a、上層6bともに、滑剤を含有した樹脂であり、必要に応じて各種充填剤やポリイソシアネート化合物を添加することができる。
【0029】
耐熱滑性層6の下層6a、上層6bの好ましいバインダ樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、スチレンアクリレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルクロリド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アセタール樹脂等が挙げられ、これらの中で特に好ましい樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂およびアセタール樹脂である。さらに、下層6a、上層6bは同じ樹脂である必要はない。
【0030】
耐熱滑性層の下層は、酸型リン酸エステルを少なくとも1種含有している。ここで、酸型リン酸エステルとは、Pに直接-OHが結合している活性水酸基を少なくとも1つ有する化合物である。
【0031】
酸型リン酸エステルとしては、東邦化学工業社製の「PHOSPANOL」シリーズ、第一工業製薬社製の「プライサーフ」シリーズなどを挙げることができる。
【0032】
耐熱滑性層6の上層6bは、中性の滑剤を含有している。中性の滑剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。耐熱滑性層6の上層6bは、ポリグリセリン脂肪酸エステル(化5)またはグリセリン脂肪酸エステル(化6)を少なくとも1種含有している。
【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルとしては、日光ケミカルズ社製の「NIKKOL」シリーズ、花王社製の「ルナック」シリーズ、武田キリン食品社製の「エマルジー」シリーズ、阪本薬品工業社製の「SY グリスター」シリーズなどを挙げることができる。
【0036】
耐熱滑性層6の下層6a、上層6bに含まれる滑剤としては、上記のほかに、有機シリコン、ポリエチレンフェニルポリシロキサン、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、長鎖脂肪族化合物、低分子量ポリプロピレン等が添加されていても良い。
【0037】
耐熱滑性層6の下層6aにおける酸型リン酸エステルの含有量が、下層6aの樹脂100質量部に対してX質量部であり、上層6bにおけるポリグリセリン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、上層6bの樹脂100質量部に対してY質量部であるとしたときに、質量比Y/Xは0.1〜2.0の範囲内にあることが好ましい。また、質量比Y/Xは0.2〜1.0の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0038】
質量比Y/Xが0.1以上であると、熱転写シートが巻き層状態にあり熱転写染料層と耐熱滑性層が接していても、下層に含まれる酸型リン酸エステルの耐熱活性層表面への染み出しが抑制されるという利点がある。質量比Y/Xが0.2以上であると、この効果がより顕著になる。
【0039】
質量比Y/Xが2.0以下であると、耐熱活性層が高温のサーマルヘッドと接触したときに、耐熱活性層の下層の酸型リン酸エステルが耐熱活性層表面に染み出し、滑剤として十分に機能するという利点がある。質量比Y/Xが1.0以下であると、この効果がより顕著になる。
【0040】
耐熱滑性層6の下層6aにおける酸型リン酸エステルの含有量は、下層6aの樹脂100質量部に対して3〜60質量部の範囲内にあることが好ましい。また、酸型リン酸エステルの含有量は、下層6aの樹脂100質量部に対して5〜40質量部の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0041】
酸型リン酸エステルの含有量が、下層6aの樹脂100質量部に対して3質量部以上であると、耐熱活性層が高温のサーマルヘッドと接触したときに、耐熱活性層の下層の酸型リン酸エステルが耐熱活性層表面に染み出し、滑剤として十分に機能するという利点がある。酸型リン酸エステルの含有量が、下層6aの樹脂100質量部に対して5質量部以上であると、この効果がより顕著になる。
【0042】
酸型リン酸エステルの含有量が、下層6aの樹脂100質量部に対して60質量部以下であると、熱転写シートが巻き層状態にあり熱転写染料層と耐熱滑性層が接していても、下層に含まれる酸型リン酸エステルの耐熱活性層表面への染み出しが抑制されるという利点がある。酸型リン酸エステルの含有量が、下層6aの樹脂100質量部に対して40質量部以下であると、この効果がより顕著になる。
【0043】
耐熱滑性層6の下層6a、上層6bに含まれる充填剤としては、シリカ、タルク、クレー、ゼオライト、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボン等の無機充填剤や、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等からなる有機充填剤が使用できる。
【0044】
耐熱滑性層6の下層6a、上層6bに含まれるポリイソシアネート化合物としては、分子中に少なくとも2つ以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物であれば特に限定されず、例えばトリレンジイソシアネート、4、4’−ジフェニルメタンジイシシアネート、4、4’−キシレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4、4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2、4(または2、6)−ジイソシアネート、1、3−ジ(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、トリメチル・ヘキサメチレンジイソシアネート等や、ジイソシアネートとポリオールとを部分的に付加反応させたポリイソシアネートのアダクト体(ポリイソシアネートプレポリマー)、例えばトリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンとを反応させたアダクト体を使用することができる。
【0045】
耐熱滑性層6の下層6a、上層6bのそれぞれの厚さは、0.1〜5.0μmの範囲内にあることが好ましい。また、下層6a、上層6bのそれぞれの厚さは、0.2〜1.0μmの範囲内にあることがさらに好ましい。
【0046】
下層6a、上層6bの厚さが0.1μm以上であると、印画時において耐熱滑性層とサーマルヘッドの摩擦を低減できるという利点がある。下層6a、上層6bの厚さが0.2μm以上であると、この効果がより顕著になる。
【0047】
下層6a、上層6bの厚さが5.0μm以下であると、サーマルヘッドからの熱を適切に伝達し、画像の発色濃度の低下を防止できるという利点がある。下層6a、上層6bの厚さが1.0μm以下であると、この効果がより顕著になる。
【0048】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、基材の一方の面に熱転写染料層を有し、前記熱転写染料層が酸性下で分解する染料を含有し、前記基材の他方の面に耐熱滑性層を有する熱転写シートにおいて、前記耐熱滑性層が積層構造をなし、前記耐熱滑性層のうち前記基材に接している下層が、酸型リン酸エステルを含有し、前期下層の上に形成される上層が、中性の滑剤を含有するので、熱転写シートが巻き層状態にあり熱転写染料層と耐熱滑性層が接していても、下層に含まれる酸型リン酸エステルの耐熱活性層表面への染み出しが抑制される。その結果、新規な熱転写シートを提供することができる。
【0049】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、基材の一方の面に熱転写染料層を有し、前記熱転写染料層が、インドアニリン系染料(化4)を少なくとも1種含有し、前記基材の他方の面に耐熱滑性層を有する熱転写シートにおいて、前記耐熱滑性層が積層構造をなし、前記耐熱滑性層のうち前記基材に接している下層が、酸型リン酸エステルを少なくとも1種含有し、前期下層の上に形成される上層が、ポリグリセリン脂肪酸エステル(化5)またはグリセリン脂肪酸エステル(化6)を少なくとも1種含有するので、熱転写シートが巻き層状態にあり熱転写染料層と耐熱滑性層が接していても、下層に含まれる酸型リン酸エステルの耐熱活性層表面への染み出しが抑制される。その結果、新規な熱転写シートを提供することができる。
【0050】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0051】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0052】
実施例1〜7
熱転写シートの作成方法について説明する。
まず、厚さ6μmのポリエステルフィルム(東レ社製、ルミラー)を基材とし、その基材の一方の面に下記インク組成物を乾燥厚1μmとなるように塗布した。
【0053】
インク組成
化7および表1,2のインドアニリン系染料 100質量部
BX−1 100質量部
(積水化学社製 ポリビニルブチラール樹脂)
メチルエチルケトン 900質量部
トルエン 900質量部
【0054】
【化7】

【0055】
【表1】

【0056】
つぎに、上述の基材の他方の面に、下記組成物よりなる耐熱滑性層を下層の乾燥厚を0.5μm、上層の乾燥厚を0.5μmとなるように塗布して評価用の熱転写シートを得た。
【0057】
下層
表2の樹脂 100質量部
コロネート−L 10質量部
(日本ポリウレタン工業社製、イソシアネート)
表2の酸型リン酸エステル X質量部
Nipsil E−200A 10質量部
(日本シリカ工業社製、シリカ)
メチルエチルケトン 940−X/2質量部
トルエン 940−X/2質量部
【0058】
上層
表2の樹脂 100質量部
コロネート−L 10質量部
(日本ポリウレタン工業社製、イソシアネート)
表2のポリグリセリン脂肪酸エステル等 Y質量部
Nipsil E−200A 10質量部
(日本シリカ工業社製、シリカ)
メチルエチルケトン 940−Y/2質量部
トルエン 940−Y/2質量部
【0059】
比較例1〜7
実施例と同様の方法で、表2に示す比較例1〜7の評価用の熱転写シートを得た。
【0060】
【表2】

【0061】
表2において、ポリグリセリン脂肪酸エステル等は、NIKKOL:日光ケミカルズ社製、ルナック:花王社製である。酸型リン酸エステルは、PHOSPANOL:東邦化学工業社製である。樹脂は、デンカブチラール:電気化学工業社製、エスレック:積水化学工業社製である。ここで、樹脂のうち、デンカブチラール6000AS、エスレックKS−5は、アセタール樹脂であり、これら2種類以外はポリビニルブチラール樹脂である。
【0062】
以上の実施例1〜7、比較例1〜7について、得られた熱転写シートをUP−D7000(ソニー社製、フルカラープリンタ)にてUPC7010(ソニー社製、UP−7000用プリントメディア)の印画紙に階調印画(16STEP)し、目視にてスティッキングを調べた。
【0063】
また、染料保存性については、得られた2枚の熱転写シートの熱転写染料層と耐熱滑性層を重ね合わせ(20×20cm)、2枚のガラス板にはさみ、上から5Kgの重りで荷重をかけ50℃のオーブン(タバイ社製、PHH−200)に入れ48時間保存した。得られた熱転写シートをUP−D7000(ソニー社製、フルカラープリンタ)にてUPC7010(ソニー社製、UP−7000用プリントメディア)の印画紙に階調印画(16STEP)し、保存前と保存後のシアン色の最高濃度をマクベス濃度計TR−924(Redフィルタ)による反射濃度測定で染料保存性を評価した。
【0064】
評価結果は、表3に示すとおりである。スティッキングの評価においては、スティッキングが発生しなかったものを○とし、スティッキングが発生したものを×とした。ここで、○のものを満足できるものとした。
【0065】
染料保存性の評価においては、染料保存性をつぎの式で定義した。
染料保存性(%)=(保存後最高濃度/保存前最高濃度)×100
染料保存性が90%以上のものを○とし、90%未満のものを×とした。ここで、○のものを満足できるものとした。
【0066】
【表3】

【0067】
表3の結果から、実施例1〜7はいずれも摩擦増加に伴うスティッキングが確認されず、鮮明な画像が得られた。また、染料保存性も発色濃度の低下はほとんど見られず、全て90%以上の値が得られた。
【0068】
一方、比較例1,2においては、酸型リン酸エステルの含有量が、下層の樹脂100質量部に対して4.0質量部と少ないため、耐熱活性層が高温のサーマルヘッドと接触したときに、耐熱活性層の下層の酸型リン酸エステルが耐熱活性層表面に充分染み出すことができず、滑剤として十分に機能していない。この結果、スティッキングが発生している。
【0069】
比較例3,4においては、上層に脂肪酸エステルまたは脂肪酸を用いたが、スティッキングが発生している。したがって、脂肪酸エステル、脂肪酸は、滑剤として充分機能しないことが分かる。
【0070】
比較例5においては、ポリグリセリン脂肪酸エステル等と酸型リン酸エステルの質量比Y/Xが1.05と高いため、耐熱活性層が高温のサーマルヘッドと接触したときに、耐熱活性層の下層の酸型リン酸エステルが耐熱活性層表面に充分染み出すことができず、滑剤として十分に機能していない。この結果、スティッキングが発生している。なお、比較例2においても、ポリグリセリン脂肪酸エステル等と酸型リン酸エステルの質量比Y/Xが1.25と高いため、比較例5と同様な結果となっている。
【0071】
比較例6においては、ポリグリセリン脂肪酸エステル等と酸型リン酸エステルの質量比Y/Xが0.15と低いため、熱転写シートが巻き層状態にあり熱転写染料層と耐熱滑性層が接している場合、下層に含まれる酸型リン酸エステルの耐熱活性層表面への染み出しを抑制するのが困難である。この結果、染料保存性は満足できるものが得られない。
【0072】
比較例7においては、酸型リン酸エステルの含有量が、下層の樹脂100質量部に対して45質量部と高いので、熱転写シートが巻き層状態にあり熱転写染料層と耐熱滑性層が接している場合、下層に含まれる酸型リン酸エステルの耐熱活性層表面への染み出しを抑制するのが困難である。この結果、染料保存性は満足できるものが得られない。
【0073】
以上のことから、本実施例によれば、熱転写シートがサーマルヘッド上を一定速度で移動し鮮明な画像が得られ、かつ巻き層状態における染料の劣化による濃度低下が起こらない熱転写シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の熱転写シートを模式的に表した断面図である。
【図2】本発明の熱転写シートを模式的に表した平面図である。
【図3】本発明の熱転写シートを模式的に表した平面図である。
【図4】本発明の熱転写シートを模式的に表した平面図である。
【図5】本発明の熱転写シートを模式的に表した平面図である。
【図6】本発明の熱転写シートを模式的に表した平面図である。
【符号の説明】
【0075】
1‥‥基材、2〜4‥‥熱転写染料層、6‥‥耐熱滑性層、6a‥‥下層、6b‥‥上層、7‥‥熱転写染料層、8‥‥転写保護層、9‥‥検知マーク、10‥‥熱転写受容層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に熱転写染料層を有し、
前記熱転写染料層が、酸性下で分解する染料を含有し、
前記基材の他方の面に耐熱滑性層を有する
熱転写シートにおいて、
前記耐熱滑性層が積層構造をなし、
前記耐熱滑性層のうち前記基材に接している下層が、酸型リン酸エステルを含有し、
前期下層の上に形成される上層が、中性の滑剤を含有する
ことを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
基材の一方の面に熱転写染料層を有し、
前記熱転写染料層が、インドアニリン系染料(化1)を少なくとも1種含有し、
前記基材の他方の面に耐熱滑性層を有する
熱転写シートにおいて、
前記耐熱滑性層が積層構造をなし、
前記耐熱滑性層のうち前記基材に接している下層が、酸型リン酸エステルを少なくとも1種含有し、
前期下層の上に形成される上層が、ポリグリセリン脂肪酸エステル(化2)またはグリセリン脂肪酸エステル(化3)を少なくとも1種含有する
ことを特徴とする熱転写シート。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項3】
下層における酸型リン酸エステルの含有量が、下層の樹脂100質量部に対してX質量部であり、
上層におけるポリグリセリン脂肪酸エステルおよびグリセリン脂肪酸エステルの含有量が、上層の樹脂100質量部に対してY質量部であり、
質量比Y/Xが、0.2〜1.0の範囲内にある
ことを特徴とする請求項2記載の熱転写シート。
【請求項4】
下層における酸型リン酸エステルの含有量が、下層の樹脂100質量部に対して5〜40質量部の範囲内にある
ことを特徴とする請求項3記載の熱転写シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−281602(P2006−281602A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104489(P2005−104489)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】