説明

熱転写シート

【課題】耐光性等の諸堅牢性に優れ、キャタリティックフェイディングが生じにくい印画物が形成可能な熱転写シートを提供する。
【解決手段】基材シート上に、バインダー樹脂を含有する染料層として少なくともイエロー染料層とマゼンタ染料層とを形成した熱転写シートにおいて、上記イエロー染料層が含有するイエロー染料は、キノフタロン系化合物及び/又はその互変異性体を含有し、上記マゼンタ染料層が含有するマゼンタ染料は、アゾ化合物、並びに、アントラキノン系化合物よりなる群から選ばれる2種の化合物を含有する熱転写シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写を利用した画像形成方法における熱転写シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱転写を利用した画像形成方法における熱転写シートとして、基材フィルムの一方の面上に、色材層として、昇華性染料とバインダーからなる昇華転写型インク層を設けた昇華型熱転写シートや、該昇華転写型インク層の代わりに顔料とワックスからなる熱溶融転写型インク層を設けた熱溶融型の熱転写シートが知られている。
昇華型熱転写方式は、一般的に三原色(イエロー、マゼンタ、シアンの3色。必要に応じてブラックを加えてもよい。)を順次重ねて階調印画することにより、フルカラー表現を行っている。
【0003】
感熱昇華転写方式において得られる画像は、銀塩写真と同様に高画質なものが形成可能となっており、それにつれて、画像の光・熱・湿度等の因子による画質劣化防止への要求が極めて高くなってきている。
従来から、画像保存性を改良するために好適な染料の組合せを選択することが提案されているが(例えば、特許文献1参照。)、中間色の耐光性を向上する効果は具体的に示されていない。
【0004】
感熱昇華転写方式において得られる画像について、単一染料を用いて画像を形成した際には耐光性が十分であっても、画像層内で他の染料と組み合わされた際の耐光性が劣る現象(触媒性光褪色。いわゆるキャタリティックフェイディング。)が問題となることがある。
これに対して、熱転写シートから、中間転写媒体の2箇所以上に各色染料を熱転写し、被転写体に再転写する際に、中間転写媒体の別箇所に転写された各色染料を重ね合わせて画像を形成する熱転写記録方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法は、熱転写シート自体を改良したものではない。
【特許文献1】特開平8−11450号公報
【特許文献2】特開2005−88515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、耐光性等の諸堅牢性に優れ、キャタリティックフェイディングが生じにくい印画物が形成可能な熱転写シートの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材シート上に、バインダー樹脂を含有する染料層として少なくともイエロー染料層とマゼンタ染料層とを形成した熱転写シートにおいて、
上記イエロー染料層が含有するイエロー染料は、下記一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Xは、水素原子又はハロゲン原子を表し、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、水素原子、アルキル基及び/若しくはベンゼン環を有する総炭素数6〜10のアシル基、又は、エーテル酸素を有してもよい炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基を表す。)で表されるキノフタロン系化合物及び/又はその互変異性体を含有し、上記マゼンタ染料層が含有するマゼンタ染料は、下記一般式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2以上のアルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるアゾ化合物、並びに、下記式(3)及び(4)
【0011】
【化3】

【0012】
で表される各アントラキノン系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物を含有することを特徴とする熱転写シートである。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0013】
まず、本発明の熱転写シートを構成する各層毎に詳述する。
(基材シート)
本発明における基材シートとしては、従来公知のある程度の耐熱性と強度を有するものであれば何れのものでもよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルフィドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリサルホンフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム、ポリイミドフィルム、アイオノマーフィルム等の樹脂フィルム;コンデンサー紙、パラフィン紙、合成紙等の紙類;不織布;紙や不織布と樹脂との複合体;等が挙げられる。
上記基材シートは、厚さが一般に約0.5〜50μmであり、好ましくは約3〜10μmである。
上記基材シートは、必要に応じ、その一方の面又は両面に接着層(プライマー層)を設ける等、接着処理を行ったものであってもよい。
上記接着処理としては、コロナ放電処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、プライマー処理、グラフト化処理等、公知の表面改質方法が挙げられる。
【0014】
(染料層)
本発明の熱転写シートは、バインダー樹脂を含有する染料層として、少なくともイエロー染料層とマゼンタ染料層とを形成したものである。
上記熱転写シートは、染料層として、更に従来公知のシアン染料層、ブラック染料層を形成することもできる。
上記熱転写シートは、面順次に各染料層を形成しているものであってもよい。例えば、基材シート上にイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等複数の染料層を面順次に繰り返し設けたもの、上記複数の染料層および転写性保護層を面順次に設けたもの等が挙げられる。なお、ブラックは熱溶融性インキ層でも染料層でもかまわない。
【0015】
上記イエロー染料層が含有するイエロー染料は、下記一般式(1)
【0016】
【化4】

【0017】
で表されるキノフタロン系化合物及び/又はその互変異性体を含有するものである(以下、本染料を「特定イエロー染料」ということがある)。
上記特定イエロー染料は、上記一般式(1)で表されるキノフタロン系化合物及び/又はその互変異性体を、1つの染料層において1種のみ含有するものであってもよいし、2種以上含有するものであってもよい。
【0018】
上記一般式(1)において、Xは水素原子又はハロゲン原子を表す。
上記ハロゲン原子としては、F、Cl、Br、I等が挙げられるが、中でも、Cl、Brが好ましい。
上記一般式(1)において、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、水素原子、アルキル基及び/若しくはベンゼン環を有する総炭素数6〜10のアシル基、又は、エーテル酸素を有してもよい炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基を表す。
上記Rとしてのアルキル基及びアルコキシカルボニル基は、それぞれ直鎖又は分岐鎖の何れであってもよい。
上記Rとしてのアルキル基の誘導体としては、例えば、水素原子の一部が窒素、上述のハロゲン原子等で置換されたアルキル基が挙げられる。
上記Rとしてのアシル基は、ベンゾイル基等のアロイル基をも含む概念である。上記アロイル基としては、芳香環における1〜5個の水素原子が独立して炭素数1〜3のアルキル基により置換されたものであってもよく、アロイル基を構成する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられるが、ベンゼン環が好ましい。
上記Rとしては、水素原子が好ましい。
【0019】
上記一般式(1)としては、下記式で表されるものが好ましい。
【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
上記特定イエロー染料としては、例えば、Disperse Yellow54、Disperse Yellow64、Disperse Yellow149、更に特開平10−287818公報記載のキノフタロン染料等が挙げられる。
上記一般式(1)で表されるキノフタロン系化合物及びその互変異性体は、一般に、従来公知のキノフタロン系化合物と同様の方法で合成することができる。
上記特定イエロー染料が特定イエロー染料インキに含有される場合、上述の一般式(1)で表されるキノフタロン系化合物は、その互変異性体を形成し得る。本発明は、そのような互変異性体も含むものである。
【0024】
上記特定イエロー染料は、発色性の点で、トルエン中の吸光係数が10000〜150000ml/g・cmであることが好ましい。
本明細書において、上記吸光係数は、0.0002wt%の染料を含有するトルエン溶液を調製し、(株)島津製作所 UV−3100PCにて最大吸収波長λmax時の吸光係数を測定した値である。
【0025】
上記マゼンタ染料層が含有するマゼンタ染料は、下記一般式(2)
【0026】
【化8】

【0027】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2以上のアルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるアゾ化合物、並びに、下記式(3)及び(4)
【0028】
【化9】

【0029】
で表される各アントラキノン系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物を含有するものである(以下、本染料を「特定マゼンタ染料」と総称することがある)。
本明細書において、「少なくとも2種を含有する」とは、互いに異なる式で表される化合物を少なくとも2種含有すること、すなわち、上記式(2)、(3)及び(4)の何れかで表される化合物のうち、式(2)で表されるアゾ化合物と式(3)で表されるアントラキノン系化合物、式(3)で表されるアントラキノン系化合物と式(4)で表されるアントラキノン系化合物、又は、式(4)で表されるアントラキノン系化合物と式(2)で表されるアゾ化合物、を少なくとも含有することを意味する。
上記特定マゼンタ染料は、上記式(2)、(3)及び(4)の何れかで表される化合物を少なくとも2種含有するものであれば、1つの染料層において、同じ式で表される染料を、1種のみ含有するものであってもよいし、2種以上含有するものであってもよい。
上記特定マゼンタ染料は、式(3)及び式(4)で表される各アントラキノン系化合物を含有する場合、耐光性を向上させることができ、一般式(2)で表されるアゾ化合物のうち少なくとも1つと、式(3)又は式(4)で表されるアントラキノン系化合物の少なくとも1つとを含有する場合、耐光性と印画濃度とを向上させることができると考えられる。
上記特定マゼンタ染料は、一般式(2)で表されるアゾ化合物のうち少なくとも1つと、式(3)又は式(4)で表されるアントラキノン系化合物の少なくとも1つとを含有することが好ましく、上記3種の化合物を含有するものがより好ましい。
【0030】
上記一般式(2)において、上記R及びRとしては、それぞれ炭素数2〜8の直鎖又は分岐アルキル基が好ましく、炭素数3〜5の直鎖又は分岐アルキル基、とりわけ炭素数3〜5の分岐アルキル基が特に好ましい。
上記Rとしては、炭素数1〜5の直鎖又は分岐アルキル基が好ましく、炭素数1〜3の直鎖又は分岐アルキル基が特に好ましい。
上記Xのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。上記Xとしては、塩素原子又は臭素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
上記一般式(2)で表されるアゾ化合物は、R及びRが炭素数2〜8のアルキル基であり、Rが炭素数1〜5のアルキル基であり、Xが塩素原子又は臭素原子であることが好ましい。
上記アゾ化合物としては、例えば、
【0031】
【表1−1】

【0032】
【表1−2】

【0033】
で表される化合物が挙げられるが、なかでも、下記式(I)
【0034】
【化10】

【0035】
により表される化合物が好ましい。
【0036】
上記一般式(2)で表されるアゾ化合物は、(i)下記一般式(II):
【0037】
【化11】

【0038】
(式中、Xは、上記定義に同じ。)
のジアゾ化を行い、(ii)得られたジアゾ液を下記一般式(III)
【0039】
【化12】

【0040】
(式中、R、R及びRは、上記定義に同じ。)
で示される化合物とカップリング反応させ、(iii)更にアルカリ水溶液を加え、析出物を濾取、水洗、乾燥し、下記一般式(IV)
【0041】
【化13】

【0042】
(式中、R、R、R及びXは、上記定義に同じ。)
で示されるアゾ化合物を得た後、(iv)上記一般式(IV)のアゾ化合物の臭素原子をシアノ化する方法により得ることができる。
上記(i)のジアゾ化は、上記一般式(II)で示されるアニリン類を、硫酸、リン酸等の酸溶媒に溶解した後、ニトロシル硫酸を滴下し、ジアゾ化を行い、ジアゾ液を得る。上記酸溶媒の使用量は、上記アニリン類の重量に対し同量〜10倍重量、好ましくは同量〜5倍重量であり、上記ニトロシル硫酸の使用量は、上記一般式(II)で示されるアニリン類のモル量に対し0.8〜1.2倍モル、好ましくは0.95〜1.1倍モルである。
上記アニリン類のジアゾ化において、滴下温度及び反応温度は、一般に−10〜30℃、好ましくは−5〜10℃であり、反応時間は、一般に0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
【0043】
上記(ii)のカップリング反応は、例えば、硫酸、リン酸、塩酸、酢酸、プロピオン酸又はこれらの酸の混合物等を含有する水性溶媒中、上記一般式(III)で示される化合物を溶解又は分散し、上記ジアゾ液を混合することにより実施される。
上記一般式(III)で示される化合物の使用量は、上記一般式(II)で示されるアニリン類のモル量に対し一般に0.9〜1.3倍モル、好ましくは1.0〜1.2倍モルである。
上記カップリング反応において、上記ジアゾ液の滴下温度及び反応温度は、一般に−10〜30℃、好ましくは−5〜10℃であり、反応時間は0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間である。
【0044】
上記(iii)の工程において使用するアルカリ水溶液としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液が挙げられる。
【0045】
上記(iv)のシアノ化反応は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒中、シアン化銅(I)を反応させて行う。
上記シアン化銅(I)の使用量は、一般に、上記一般式(IV)で示されるアゾ化合物のモル量に対し2.0〜2.5倍モルである。
上記シアノ化反応において、反応温度は一般に50〜150℃、好ましくは70〜90℃であり、反応時間は、一般に1〜5時間である。
更に、上記シアノ化反応液を水中に排出し、析出物を濾取、水洗した後、トルエン等の有機溶媒で抽出後、抽出液を濾過することにより金属分を除き、有機層を濃縮し、n−へプタン等の脂肪族炭化水素類で分散処理することにより、目的の上記一般式(I)で表されるアゾ化合物を精製、回収することができる。
【0046】
上記式(3)で表される化合物としては、Disperse Red60等のアントラキノン系染料が挙げられ、上記式(4)で表される化合物としては、Disperse Violet26等のアントラキノン系染料が挙げられる。
【0047】
上記特定マゼンタ染料は、発色性の点で、トルエン中の吸光係数が10000〜100000ml/g・cmであることが好ましい。
本明細書において、上記吸光係数は、イエロー染料と同様に測定した値である。
【0048】
上記各染料層は、それぞれ上記特定の染料に加え、バインダー樹脂をも含有するものである。
上記バインダー樹脂としては、特に限定されず、従来公知のものを使用することができ、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂;ポリエステル系樹脂;フェノキシ樹脂;等が挙げられる。
【0049】
上記バインダー樹脂としては、更に、離型性グラフトコポリマーも挙げられる。上記離型性グラフトコポリマーは、離型剤として配合することもできる。
上記離型性グラフトコポリマーは、ポリシロキサンセグメント、フッ化炭素セグメント、フッ化炭化水素セグメント及び長鎖アルキルセグメントから選択された少なくとも1種の離型性セグメントを、上述のバインダー樹脂を構成するポリマー主鎖にグラフト重合させてなるものである。
上記離型性グラフトコポリマーとしては、なかでも、ポリビニルアセタールからなる主鎖にポリシロキサンセグメントをグラフトさせて得られるグラフトコポリマーが好ましい。
【0050】
上記染料層は、所望により、離型剤、無機微粒子、有機微粒子等の添加剤を使用してもよい。
上記離型剤としては、上述の離型性グラフトコポリマー、シリコーンオイル、リン酸エステル等が挙げられる。
上記無機微粒子としては、カーボンブラック、アルミニウム、二硫化モリブデン等が挙げられる。
上記有機微粒子としては、ポリエチレンワックス等が挙げられる。
【0051】
上述の各染料層は、それぞれ各特定の染料、バインダー樹脂及び所望により添加する添加剤と、溶剤とを含有する染料インキから形成されるものである。
上記溶剤としては、染料インキの材料として従来公知のものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、メタノール、水、メチルエチルケトン、トルエン、エタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド〔DMF〕、酢酸エチル、これらの溶剤の混合溶剤等が使用でき、なかでも、メチルエチルケトンとトルエンとの混合溶剤が好ましい。
【0052】
上記特定イエロー染料を含有する染料インキ(以下、「特定イエロー染料インキ」と略すことがある。)において、上記特定イエロー染料は、バインダー樹脂100質量部に対し、一般に50〜300質量部、好ましくは150〜250質量部である。
上記染料インキは、一般に、上記イエロー染料を上記バインダー樹脂及び溶剤中に分散させるものであり、上記イエロー染料の含有量a質量%と、上記イエロー染料の上記溶剤に対する20℃での溶解度s質量%とが式a>sで表される関係を満たすことが好ましい。
【0053】
上記特定イエロー染料インキにおいて、上記染料は、溶剤に溶解する限度の2倍以上の量で存在することが可能であるし、バインダー樹脂の溶剤溶解液に溶解する限度をはるかに超えた量で存在することも可能である。
本明細書において、「分散」とは、染料インキを20〜25℃の温度下に168時間(7日間)静置後、染料粒子の沈降を目視で確認できない状態であることを意味する。上記特定イエロー染料に関し、溶剤に溶解する限度とは、染料が溶剤100g中に20℃の温度下で最大限に溶解する場合における該染料の質量を意味し、バインダー樹脂の溶剤溶解液に溶解する限度とは、染料がバインダー樹脂1wt%を溶解させた溶剤100g中に20℃の温度下で染料が最大限に溶解する場合における該染料の質量を意味する。
【0054】
本発明の熱転写シートにおいて、イエロー染料層の形成に使用する特定イエロー染料インキは、上記溶剤がバインダー樹脂を溶解するものであり、上記イエロー染料の粒度分布はD50粒径が0.1〜5.0μm、及び、D90粒径が0.3〜10.0μmであることが好ましい。
上記D50粒径が0.1μm未満であると、得られる染料層の地肌汚れ等の原因となることがあり、5.0μmを超えると、得られる染料層が転写感度不足となるおそれがある。上記D50粒径は、より好ましい下限が0.3μm、より好ましい上限が3.0μmである。
上記D90粒径が0.3μm未満であると、上記地肌汚れ等が起こるおそれがあり、10.0μmを超えると、得られる染料層に起因して地肌汚れ(サーマルヘッドで加熱しなくても着色する現象)等の問題が生じるおそれがある。
【0055】
本明細書において、上記D50粒径は、粒径累積体積50%となる粒径であり、平均粒径の指標となるものであり、上記D90粒径は、粒径累積体積90%となる粒径を表し、粗大粒子の存在状態を理解するための指標となる値である。
上記D50粒径及びD90粒径は、それぞれ日機装(株)製マイクロトラック粒度分布計UPA−150を用い、固形分濃度8.75質量%(このうち染料濃度5.25質量%、バインダー樹脂濃度3.5質量%)溶液について各測定条件下で測定した粒度分布から算出した値である。
(測定条件)
・測定原理:動的光散乱法
・光源:半導体レーザ
・波長:780nm
・サンプルセル:SUS316
【0056】
従来、上述の一般式(1)で表されるキノフタロン系化合物及び/又はその互変異性体は、溶剤に対する溶解性が低いので、染料インキとして実用化されていなかった。これに対し、本発明における特定染料インキは、溶剤溶解性の低い上記特定イエロー染料であっても、熱転写シートにおける染料層の材料として実用的なレベルで染料として含有することができるので、塗工面のムラ等がなく、優れた品質の印画物が形成可能な熱転写シートの染料層とすることができる。
【0057】
上記特定イエロー染料インキは、特定イエロー染料の含有量aが一般に1質量%以上であり、上記範囲内であれば20質量%程度以下であってもよい。
上記特定イエロー染料の含有量aは、好ましい下限が1質量%であり、好ましい上限が15質量%である。
上記特定イエロー染料インキは、特定イエロー染料等の染料とバインダー樹脂との合計量、すなわち固形分が質量基準で2〜30質量%程度であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
本明細書において、特定イエロー染料インキが2種以上の染料化合物を含有するものである場合、上記特定イエロー染料の含有量a及び固形分量は、何れも各染料化合物の合計に関する範囲を表す。
【0058】
上記特定マゼンタ染料を含有する染料インキ(以下、「特定マゼンタ染料インキ」と略すことがある。)において、上記特定マゼンタ染料の合計量は、バインダー樹脂100質量部に対し、一般に50〜300質量部、好ましくは150〜250質量部が適当である。
上記特定マゼンタ染料インキは、特定マゼンタ染料とバインダー樹脂との合計量、すなわち固形分が質量基準で2〜30質量%程度であることが好ましく、15〜20質量%であることがより好ましい。
【0059】
上記各染料インキは、例えば、ペイントシェーカー、プロペラ型攪拌機、ディゾルバー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、2本ロールミル、3本ロールミル、超音波分散機、ニーダー、ラインミキサー、2軸押出機等の従来公知の製造方法を用いて調製することができる。
上記特定イエロー染料インキは、特定イエロー染料を均一に分散させる点で、ビーズミル、ボールミル等の分散機を用いて調製することが好ましい。
上記ビーズミル又はボールミルにおけるビーズ及びボールとしては、ガラス、セラミック、スチール、ジルコニア等が挙げられる。
ビーズミル、ボールミルのビーズ径は、特定イエロー染料の初期粒径に応じてビーズ径を選定すればよいが、一般に0.05〜2.0mmであることが好ましい。
【0060】
上記各染料層は、例えば、ワイヤーバーコーティング、グラビア印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の従来公知の方法で上述の各染料インキを塗工することにより形成することができる。
上記塗工方法としては、グラビアコーティングが好ましい。
上記塗工において、特に限定されないが、60〜120℃の温度にて1秒〜5分程度乾燥することが好ましい。
上記染料インキの乾燥が不充分であると、地汚れや巻取りにした際に染料インキが裏移りし、更にその裏移りした染料インキが巻き返した際に異なる色相である染料層に再移転する、いわゆるキックバックが生じることがある。
上記染料インキは、乾燥塗布量が好ましくは0.2〜3.0g/m程度、より好ましくは0.4〜1.0g/m程度となるよう塗布すればよい。
【0061】
本発明の熱転写シートは、染料層として、上述の特定イエロー染料を含有するイエロー染料層と、上述の特定マゼンタ染料を含有するマゼンタ染料層とを有するものなので、各染料層を組み合わせて印画を行っても、耐光性に優れ、キャタリティックフェイディングが少ない印画物を得ることができる。
【0062】
(その他の層)
1.耐熱滑性層
本発明の熱転写シートは、更に、上述の染料層を形成する面と反対側の基材シート面上に、耐熱滑性層を設けてなるものであってもよい。
上記耐熱滑性層は、ステッキングや印画しわ等、熱転写時にサーマルヘッドの熱が原因で生じる問題を防止するために設けるものである。
【0063】
上記耐熱滑性層は、主に耐熱性樹脂からなるものである。
上記耐熱性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン又はエポキシのプレポリマー、ニトロセルロース樹脂、セルロースナイトレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテート−ヒドロジエンフタレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0064】
上記耐熱滑性層は、耐熱性樹脂に加え、滑り性付与剤、架橋剤、離型剤、有機粉末、無機粉末等の添加剤を配合してなるものであってもよい。
【0065】
上記耐熱滑性層は、一般に、上述の耐熱性樹脂、並びに、所望により添加する上記滑り性付与剤及び添加剤を溶剤中に加えて、各成分を溶解又は分散させて耐熱滑性層塗工液を調製した後、該耐熱滑性層塗工液を基材の上に塗工し、乾燥させて形成することができる。
上記耐熱滑性層塗工液における溶剤としては、上述の染料インキにおける溶剤と同様のものを使用することができる。
上記耐熱滑性層塗工液の塗工法としては、例えば、ワイヤーバーコーティング、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等が挙げられるが、なかでもグラビアコーティングが好ましい。
上記耐熱滑性層塗工液は、乾燥塗布量が好ましくは0.1〜3g/m、より好ましくは1.5g/m以下となるよう塗布すればよい。
【0066】
2.下引き層等
本発明の熱転写シートは、基材シート上に上述の染料層を有するものであれば、上記基材シートと染料層との間に下引き層等を設けてなるものであってもよい。
本発明において、下引き層は、特に限定されず、基材と染料層との接着性を向上させる組成を適宜選択して設けることができる。
本発明の熱転写シートは、上述の染料層の基材シートと反対側の面に離型層を設けたものであってもよい。
上記離型層としては、上述の離型性グラフトコポリマー等、離型性に優れた樹脂からなるものが好ましい。
【0067】
本発明の熱転写シートは、画像形成後に画像面を保護する保護層を転写できるよう、更に、上述の染料層と面順次に転写保護層を形成したものであってもよい。
上記保護転写層の構成及び調製は、特に限定されず、使用する基材シート、染料層等の特徴に応じて、従来公知の技術より選択することができる。
上記転写保護層は、基材フィルムが離型性でない場合、基材フィルムと転写保護層との間に剥離層を設けて、転写保護層の転写性を向上させることが好ましい。
【0068】
本発明の熱転写シートは、上述の基材フィルムの染料層と反対側にサーマルヘッド等により所定箇所を加熱・加圧し、染料層のうち印字部に相当する箇所の染料を被転写材に転写させて印字することができる。
上記被転写材として熱転写受像シート等を使用することができる。
上記熱転写受像シートとしては、記録面が染料受容性を有するものであれば特に限定されず、例えば、紙、金属、ガラス、合成樹脂等の基材の少なくとも一方の面に染料受容層を形成したものを挙げることができる。
上記熱転写を行う際に使用するプリンターとしては、特に限定されず、公知の熱転写プリンターを使用することができる。
【発明の効果】
【0069】
本発明の熱転写シートは、上述の構成よりなるものであるので、耐光性、耐湿性、耐熱性等の諸堅牢性に優れ、キャタリティックフェイディングが少ない印画物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳述する。なお、文中、部又は%とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0071】
実施例1
(イエロー染料インキの調製)
1.200mlカップサイズのガラス瓶に下記の量の染料、バインダー樹脂及び溶剤更に平均粒径0.3mmのジルコニアビーズを約250部投入し、ペイントシェーカー(浅田鉄工(株)製)で3時間染料を分散させて、イエロー染料インキを調製した。
<イエロー染料インキ組成>
染料Y−1 5.25部
ポリビニルアセタール樹脂(エスレックKS−5、積水化学工業社製) 3.5部
メチルエチルケトン 45.635部
トルエン 45.635部
【0072】
染料Y−1の化学式は以下の通り。
【0073】
【化14】

【0074】
(マゼンタ、シアン染料インキの調製)
2.超音波分散機を20分間操作することにより完全溶解させ、マゼンタ染料インキ及びシアン染料インキを用いて混合して調製した。
<マゼンタ染料インキ組成>
染料M−1 2.08部
染料M−2 1.84部
染料M−3 2.72部
ポリビニルアセタール樹脂(エスレックKS−5、積水化学工業社製) 3.5部
メチルエチルケトン 45部
トルエン 45部
【0075】
染料M−1〜染料M−3の化学式は以下の通り。
【0076】
【化15】

【0077】
<シアン染料インキ組成>
染料C−1 3.0部
染料C−2 3.5部
ポリビニルアセタール樹脂(エスレックKS−5、積水化学工業社製) 3.5部
メチルエチルケトン 45部
トルエン 45部
【0078】
染料C−1〜染料C−2の化学式は以下の通り。
【0079】
【化16】

【0080】
(熱転写シートの作成)
基材シートとして、厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレート〔PET〕フィルム上に、グラビアコーティングにより、乾燥塗布量が0.6g/mになるように上述の各染料インキを塗布し、80℃、2分間乾燥して各染料層を形成させて、実施例1の熱転写シートを作製した。
なお、上記基材シートの他方の面に、予め下記組成の耐熱滑性層塗工液をグラビアコーティングにより、乾燥塗布量が1.0g/mになるように塗布、乾燥して、耐熱滑性層を形成しておいた。
【0081】
<耐熱滑性層塗工液組成>
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBX−1、積水化学工業社製) 13.6部
ポリイソシアネート硬化剤(タケネートD218、武田薬品工業社製) 0.6部
リン酸エステル(プライサーフA208S、第一工業製薬社製) 0.8部
メチルエチルケトン 42.5部
トルエン 42.5部
【0082】
実施例2
イエロー染料インキにおいて、イエロー染料を下記式で表される染料Y−2に変える以外は実施例1と同様にして、実施例2の熱転写シートを作製した。
【0083】
【化17】

【0084】
実施例3
イエロー染料インキにおいて、イエロー染料を上記染料Y−1(4.2部)及び上記染料Y−2(1.05部)に変える以外は、実施例1と同様にして、実施例3の熱転写シートを作製した。
【0085】
実施例4
イエロー染料インキにおいて、イエロー染料を下記式で表される染料Y−3に変える以外は、実施例1と同様にして、実施例4の熱転写シートを作製した。
【0086】
【化18】

【0087】
実施例5
イエロー染料インキにおいて、イエロー染料を上記染料Y−1(4.2部)及び上記染料Y−2(1.05部)に変え、マゼンタ染料インキにおいて、マゼンタ染料を上記染料M−1(2.08部)及び上記染料M−2(1.84部)に変える以外は、実施例1と同様にして、実施例5の熱転写シートを作製した。
【0088】
実施例6
イエロー染料インキにおいて、イエロー染料を上記染料Y−1(4.2部)及び上記染料Y−2(1.05部)に変え、マゼンタ染料インキにおいて、マゼンタ染料を上記染料M−1(2.08部)及び上記染料M−3(2.72部)に変える以外は、実施例1と同様にして、実施例6の熱転写シートを作製した。
【0089】
実施例7
イエロー染料インキにおいて、イエロー染料を上記染料Y−1(4.2部)及び上記染料Y−2(1.05部)に変え、マゼンタ染料インキにおいて、マゼンタ染料を上記染料M−2(1.84部)及び上記染料M−3(2.72部)に変える以外は、実施例1と同様にして、実施例7の熱転写シートを作製した。
【0090】
比較例1
マゼンタ染料インキにおいて、マゼンタ染料を染料M−1(5.25部)に変える以外は、実施例1と同様にして、比較例1の熱転写シートを作製した。
【0091】
比較例2
イエロー染料インキにおいて、イエロー染料を上記染料Y−2に変え、更に、マゼンタ染料インキにおいて、マゼンタ染料を染料M−1(5.25部)に変える以外は、実施例1と同様にして、比較例2の熱転写シートを作製した。
【0092】
比較例3
イエロー染料インキにおいて、イエロー染料を上記染料Y−1(4.2部)及び染料Y−2(1.05部)に変え、更に、マゼンタ染料インキにおいて、マゼンタ染料を染料M−1(5.25部)に変える以外は、実施例1と同様にして、比較例3の熱転写シートを作製した。
【0093】
比較例4
イエロー染料インキにおいて、イエロー染料を下記式で表される染料Y−4に変え、更に、マゼンタ染料インキにおいて、マゼンタ染料を染料M−1(5.25部)に変える以外は、実施例1と同様にして、比較例4の熱転写シートを作製した。
【0094】
【化19】

【0095】
各実施例及び各比較例に使用したイエロー染料の溶解性及び粒度分布を表2に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
表中、染料溶解性は、トルエン/MEK=1/1(質量比)に各染料を3w/v%にて添加し、50℃にて加熱攪拌して、25℃にて60時間放置した後、染料析出の有無を目視で判断したものであり、イエロー染料溶解度は、20℃の温度下で5質量%の染料をメチルエチルケトン/トルエン=1/1でイエロー溶液20gを作製後40℃で2時間攪拌し、72時間放置した後、溶液の上積み部分を5g採取して直径185mmのフィルターペーパー(東洋濾紙(株)製)でろ過した溶液を60℃、5時間乾燥することにより溶剤を揮発させて、残った染料の量から溶解度を算出したものであり、粒度分布測定は、日機装(株)製マイクロトラック粒度分布計UPA−150を用いて測定したインキ中の粒度分布から算出したものである。なお、染料溶解性、イエロー染料溶解度及び粒度分布測定を実施したイエロー染料インキは、実施例1〜4及び比較例4のものである。
【0098】
各実施例及び比較例に関し、以下に示す方法で評価を行った。
【0099】
<耐光性>
1.印画物の作成
OLYMPUS社製P−400プリンター専用のA4サイズスタンダードペーパーを被転写体として用いた。各熱転写シートの染料層と上記被転写体の染料受容面とを対向させて重ね合わせ、熱転写シートの裏面からテストプリンター(ウェッジ社製)を用いて下記条件でイエロー染料層、マゼンタ染料層、シアン染料層の順に印画を行い、0/255〜255/255(濃度Max)の階調パターン18stepのブラック(3Bk)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブルー(B)、グリーン(G)、レッド(R)の印画パターンを形成し、各階調ごとに測色した。
(印字条件)
・サーマルヘッド:F3598(東芝ホクト電子株式会社製)
・発熱体平均抵抗値:5176(Ω)
・主走査方向印字密度:300dpi
・副走査方向印字密度:300dpi
・印字電力:0.12(W/dot)
・1ライン周期:2(msec.)
・パルスDuty:85%
・印字開始温度:35.5(℃)
【0100】
2.色相変化の測定
上記印加により得られたフルカラー画像をキセノンウェザオメター(アトラス社製、Ci4000:照度120000lux、ブラックパネル温度45℃、フィルターCIRA、ソーダライム、槽内環境30℃、20%)にて96時間照射を行い、照射前後の色相変化(ΔE*ab=((照射後L*−照射前L*)+(照射後a*−照射前a*)+(照射後b*−照射前b*)1/2;(式中、Lは明度を表し、a、bは知覚明度指数を表す。また、L*、a*、b*は、CIE1976L*a*b*表色系に基づくものである。)を測定した。また、その時のレッドの濃度残存率(%)(照射後濃度/照射前濃度)も測定した。
(測色条件)
・測色器:分光測定器SpectroLino(Gretag Macbeth社製)
・光源:D65
・フィルター:ANSI Status A
・視野角:2°
3.イエロー、マゼンタ濃度の測定
グレタグマクベス社製分光測定器SpectroLinoを用いて測定した(測色条件、濃度:ANSI Status A、色相:光源D65、視野角2°)。
【0101】
測定結果を表2に示す。ΔE*abは、各色のstepの中で最も高い値を表し、その時のレッドの濃度残存率(%)のうち、“R−Y”は、レッド色相変化測定時におけるイエローの濃度残存率を、“R−M”は、レッド色相変化測定時におけるマゼンタの濃度残存率を表す。
【0102】
【表3】

【0103】
上記結果より、実施例1〜7から得られた印画物は、イエロー、マゼンタで耐光性の優れた印画物を形成することができ、更にレッドにおいても濃度残存率が高く、キャタリティックフェイディングが生じにくいことが分かった。一方、マゼンタ染料を1種しか使用しなかった各比較例から得られた印画物は、特にレッドに関し、色相変化が大きく、その濃度残存率が低いので、キャタリティックフェイディングが生じ易いことが分かった。マゼンタ染料として、染料M−1と上述のアントラキノン系化合物とを共存させた染料層を有する実施例1〜6の熱転写シートは、耐光性が良好であるのみならず、マゼンタ最大濃度2.0以上の印画物を得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の熱転写シートは、上述の構成よりなるものであるので、耐光性等の諸堅牢性に優れ、キャタリティックフェイディングが少ない印画物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート上に、バインダー樹脂を含有する染料層として少なくともイエロー染料層とマゼンタ染料層とを形成した熱転写シートにおいて、
前記イエロー染料層が含有するイエロー染料は、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Xは、水素原子又はハロゲン原子を表し、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、水素原子、アルキル基及び/若しくはベンゼン環を有する総炭素数6〜10のアシル基、又は、エーテル酸素を有してもよい炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基を表す。)で表されるキノフタロン系化合物及び/又はその互変異性体を含有し、
前記マゼンタ染料層が含有するマゼンタ染料は、下記一般式(2)
【化2】

(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数2以上のアルキル基を表し、Rはアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるアゾ化合物、並びに、下記式(3)及び(4)
【化3】

で表される各アントラキノン系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも2種の化合物を含有する
ことを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
前記マゼンタ染料は、前記アゾ化合物のうち少なくとも1つと、前記アントラキノン系化合物のうち少なくとも1つとを含むことを特徴とする請求項1記載の熱転写シート。
【請求項3】
前記アゾ化合物は、下記式(I)
【化4】

で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱転写シート。
【請求項4】
イエロー染料層は、前記一般式(1)で表されるキノフタロン系化合物及び/又はその互変異性体からなるイエロー染料と、バインダー樹脂と、溶剤とを含有する染料インキから形成するものであり、
前記染料インキにおいて前記イエロー染料を前記バインダー樹脂及び前記溶剤中に分散させることにより、前記イエロー染料インキに占める前記イエロー染料の含有量a質量%と、前記イエロー染料の前記溶剤に対する20℃での溶解度s質量%とが、式a>sで表される関係を満たすことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の熱転写シート。

【公開番号】特開2007−290343(P2007−290343A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257538(P2006−257538)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】