説明

熱転写シート

【課題】 昇華性染料を使用する熱転写方法において、特に発色濃度及び耐光性に優れたフルカラー画像を与える熱転写シートを提供する。
【解決手段】 該基材シートの一方の面に形成された染料担持層が下記一般式(1)のイエロー染料を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の熱転写記録方法が知られているが、それらの中でも、昇華転写用染料を適当なバインダーで担持させた染料層を基材シート上に有する熱転写シートから昇華染料で染着可能な被転写材からなる染料受容層を有する熱転写受像シート上に昇華染料を熱転写し、各種のフルカラー画像を形成する方法が提案されている。この昇華転写による熱転写記録方式は、一般に、プリンターのサーマルヘッドを加熱手段とする加熱によって、3色又は4色の多数の加熱量が調整された色ドットを熱転写受像シートの染料受容層に転移させ、該多色の色ドットにより原稿のフルカラーを再現するものである。このように形成された画像は、使用する色材が染料であることから、非常に鮮明で、かつ透明性に優れているため、得られる画像は中間色の再現性や階調性に優れ、従来のオフセット印刷やグラビア印刷による画像と同様であり、かつフルカラー写真画像に匹敵する高品質画像の形成が可能である。
【0003】
このような昇華転写による熱転写記録方式に関し、熱転写プリンターの印字速度の高速化が進むに従って、今までの熱転写シートでは充分な印字濃度が得られないという問題が生じてきた。また、熱転写による画像の印画物に対し、より高濃度で鮮明なものが要求されてきている。
一方、キノフタロン系染料は、鮮明性及び諸堅牢性に優れ、特に発色濃度及び耐光性に優れており、従来より熱転写シートに使用されている。しかしながら、従来のキノフタロン染料は、染料インキ中の溶剤への溶解性が低いので、更なる感度向上を目的として熱転写シートの染料層における染料/樹脂(Dye/Binder)比を大きくしようとした場合、常温で析出するので多量に添加できず、染料/樹脂比を上げにくい。
【0004】
これらの問題を克服するため、有機溶剤への溶解性を改良したキノフタロン系化合物が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。しかしながら、特許文献1のキノフタロン系化合物は、トルエン等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル系溶剤、ポリエチレングリコール等のグリコール系溶剤及びこれらの混合溶剤に対する溶解度が依然として不充分である。また、特許文献2のキノフタロン系化合物は、トルエンに対する溶解性が高いものの、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、グリコール系溶剤、トルエンとケトン系溶剤との混合系溶剤に対する溶解度が低い。このため、汎用されるこれらの溶剤全般について、キノフタロン系染料を用いて染料/樹脂比が高い染料層を得ることは困難であると考えられていた。
【特許文献1】特開平5−229268号公報(実施例11及び実施例68)
【特許文献2】特開2000−229945号公報(実施例1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、昇華性染料を使用する熱転写方法において、鮮明性及び諸堅牢性に優れており、特に発色濃度及び耐光性に優れたフルカラー画像を与え得る熱転写シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材シート及び該基材シートの一方の面に形成された染料担持層からなり、該染料担持層が含有するイエロー染料が下記一般式(1):
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは、2個以上の酸素原子をエーテル結合の形で含むアルキル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して芳香環を形成してもよい。)
で表されるキノフタロン化合物を含むことを特徴とする熱転写シートである。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の熱転写シートは、基材シート及び該基材シートの一方の面に形成された染料担持層からなるものである。
本発明の熱転写シートは、該染料担持層として、後述のキノフタロン化合物又はその混合物を含有するものを少なくとも1つ有していれば、それ以外の構成は従来公知の熱転写シートの構成と同様でよい。
上記染料担持層は、例えば、図1に示すように、基材シートの片面に単一の染料担持層を設けたもの(実施形態5)であってもよいし、同一基材シート上にイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック等、複数の染料担持層を面順次に繰り返し設けたもの(実施形態3)であってもよいし、1つまたは複数の染料担持層並びに転写性保護層積層体及び/又は熱溶融性インキ層を面順次に設けたもの(実施形態1,2及び4)であってもよい。
【0010】
(染料担持層)
上記染料担持層は、染料をバインダーにより担持してなる層である。
本発明の熱転写シートは、上記一般式(1)で表されるキノフタロン化合物をイエロー染料として含む層を少なくとも1つ有するものであれば、同一基材シート上に複数の染料担持層を有する場合は所望の染料を含有する層を1種のみ有するものであってもよいし、所望の染料を含有する層を2種以上有するものであってもよい。
【0011】
上記一般式(1)において、Rは、2個以上の酸素原子をエーテル結合の形で含むエーテル酸素含有アルキル基を表す。
上記Rが含むエーテル結合としての酸素の数は、好ましくは2〜5個、より好ましくは2〜4個である。
上記Rとしては、好ましくは総炭素数3〜16、より好ましくは総炭素数4〜14の直鎖、分岐又は環状アルキル基であり、とりわけ下記一般式(2):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rは、1個以上の酸素原子をエーテル結合の形で含んでいてもよい総炭素数1〜6のアルキレン基を表し、環Aは1個以上の酸素原子をエーテル結合の形で含む5〜7員環の環状エーテルを表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は総炭素数2〜8のアルコキシアルキル基を表す。)で表されるアルキル基等、環状エーテル部分を有するものが好ましい。
【0014】
上記一般式(2)において、Rは好ましくは酸素原子をエーテル結合の形で1〜2個含んでいてもよい総炭素数1〜4のアルキレン基であり、環Aは好ましくは1〜3個の酸素原子をエーテル結合の形で含む5〜6員環の環状エーテルである。
上記R及びRは、それぞれ独立して、好ましくは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は、総炭素数2〜6のアルコキシアルキル基である。
【0015】
の具体例としては、メトキシメトキシメチル基、メトキシメトキシエチル基、メトキシエトキシエチル基、エトキシエトキシエチル基、メトキシエトキシエトキシエチル基、エトキシエトキシエトキシエチル基、
【0016】
【化3】

【0017】
等が挙げられる。
【0018】
上記一般式(1)において、Rは水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。
上記Rが炭素数1〜8のアルキル基であるものの具体例としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、neo−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−メチルペンチル基、n−へプチル基、イソヘプチル基、tert−へプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、2−エチルへキシル基等が挙げられる。
上記Rとしては、好ましくは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であり、より好ましくは水素原子、イソプロピル基、イソブチル基又はt−ブチル基である。
【0019】
上記一般式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。
上記R及びRがハロゲン原子であるものの例として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられるが、塩素、臭素がより好ましい。
及びRが炭素数1〜8のアルキル基であるものの例としては、上記Rが炭素数1〜8のアルキル基である例と同様の例が挙げられるが、炭素数1〜5のアルキル基が好ましい。
【0020】
上記一般式(1)において、R及びRは、互いに結合して芳香環を形成してもよい。
上記RとRとが結合してR、Rが置換する位置の炭素原子とともに形成される芳香環であるものとしては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられるが、ベンゼン環がより好ましい。
上記一般式(1)のキノフタロン化合物において、R及びRは、好ましくは水素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜5のアルキル基、又は、RとRが結合してR、Rが置換する位置の炭素原子とともに形成されたベンゼン環若しくはナフタレン環であり、より好ましくは水素原子又はRとRが結合してR、Rが置換する位置の炭素原子とともに形成されたベンゼン環である。
【0021】
上記一般式(1)のキノフタロン化合物として、下記一般式(1’)及び(1’’)等の構造の互変異性体が存在するが、これらの互変異性体についても本願の範疇内のものである。
【0022】
【化4】

【0023】
上記一般式(1)のキノフタロン化合物の具体例を表1に示すが、これらの具体例は、本願におけるキノフタロン化合物の範囲を限定するものではない。
【0024】
【表1】




【0025】
(キノフタロン化合物の製造方法)
上記一般式(1)で表されるキノフタロン化合物の製造方法を以下に説明する。
該キノフタロン化合物の代表的な製造方法としては、下記一般式(3):
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、R、R及びRは、上記一般式(1)におけるものと同じものを表す。)
の化合物1モル量に対して、有機溶媒中、アルカリ化合物の存在下、下記一般式(4):
HS−R (4)
(式中、Rは、上記一般式(1)におけるものと同じものを表す。)
の化合物を1〜8モル量、好ましくは1〜4モル量用いて、20〜120℃、好ましくは80〜100℃で1〜48時間、好ましくは4〜24時間反応する。
【0028】
上記製造方法における有機溶媒としては、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン〔DMI〕、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド〔DMF〕、N,N−ジメチルアセトアミド〔DMAC〕、トルエン、酢酸エチル及びこれらの混合物等が挙げられる。
該有機溶媒の使用量は、種類によって異なるが、例えばDMIの場合、上記一般式(3)の化合物1モルに対して重量比2〜50倍、好ましくは5〜20倍である。
【0029】
上記製造方法におけるアルカリ化合物としては、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用される。該アルカリ化合物の使用量は、上記一般式(3)の化合物1モルに対して1〜16モル、好ましくは1〜4モルである。
【0030】
上記反応後、反応液を水に排出し、トルエン、酢酸エチル等の有機溶媒で抽出、水洗し、濃縮後、メタノール、n−へプタン等を添加することにより生成物の結晶を析出させる。更に、必要に応じて生成物をカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、目的とする上記一般式(1)のキノフタロン化合物を得ることができる。
【0031】
また、上記一般式(1)のキノフタロン化合物のRが環状エーテル部分を有する化合物である場合、例えば以下の方法によって製造することもできる。
上記一般式(3)の化合物と、下記一般式(5):
HS−R (5)
(式中、Rは2個の水酸基を有するアルキル基を表す。)
の化合物を上記と同様な反応条件の下で反応させて、下記一般式(6):
【0032】
【化6】

【0033】
(式中、Rは、上記一般式(5)と同じものを表し、R、R及びRは、それぞれ上記一般式(1)と同じものを表す。)
で表される中間体としてのキノフタロン化合物を製造する。
次いで、上記一般式(6)の化合物と下記一般式(7):
【0034】
【化7】

【0035】
(式中、R及びRは上記一般式(2)におけるものと同じものを表す。)の化合物とを、有機溶媒中、酸触媒の存在下に、脱水しながら還流することにより、目的とする上記一般式(1)のキノフタロン化合物を得ることができる。
【0036】
上記還流に使用する酸触媒としては、p−トルエンスルホン酸、硫酸、安息香酸等を用いることができる。
上記還流に使用する有機溶媒としては、上記一般式(3)の化合物と上記一般式(4)の化合物との反応に使用したものと同様のものを用いることができる。
上記還流を行う時間は、6〜72時間、好ましくは12〜48時間であり、反応温度は使用する有機溶媒の種類にもよるが、一般に100〜115℃が好ましい。
上記還流終了後、反応液を上記した後処理法と同様の操作を行って、目的とする一般式(1)のキノフタロン化合物を得ることができる。
【0037】
本発明において、イエロー染料として上記一般式(1)のキノフタロン化合物を含有する染料担持層は、染料として上記一般式(1)のキノフタロン化合物を1種のみ含むものであってもよいし、2種以上含むものであってもよいし、上記キノフタロン化合物に加え、上記一般式(1)以外の構造を有する染料化合物を含むものであってもよい。
【0038】
上記一般式(1)以外の構造を有する化合物からなる染料は、従来公知の昇華転写型熱転写シートに使用可能な染料であって、熱により昇華移行するものであれば特に限定されず、色相、印画感度、耐光性、保存性、バインダーへの溶解性等を考慮して適宜選択することができる。
化合物が上記一般式(1)以外の構造を有する染料としては、例えば、ジアリールメタン系色素;トリアリールメタン系色素;チアゾール系色素;ベンゾチアゾール系色素;メロシアニン系色素;ピラゾロンメチン等のメチン系色素;インドアニリン系色素;アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチンに代表されるアゾメチン系色素;ピリドンアゾ系色素;キサンテン系色素;オキサジン系色素;ジシアノスチレン、トリシアノスチレンに代表されるシアノスチレン系色素;ジシアノスチリル系色素;チアジン系色素;アジン系色素;アクリジン系色素;ベンゼンアゾ系色素;ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジズアゾ等のアゾ系色素;複素環アゾ系色素;スピロピラン系色素;インドリノスピロピラン系色素;フルオラン系色素;ローダミンラクタム系色素;ナフトラクタム系色素;ナフトキノン系色素;アントラキノン系色素;トリシアノスチリル系色素;ピラゾロトリアゾール系色素;インドフェノール系色素;シアノメチレン系色素;上記一般式(1)以外のキノフタロン系色素;等が挙げられる。
【0039】
上記染料担持層におけるバインダー樹脂としては、従来公知のバインダー樹脂のいずれも使用でき、好ましいものを例示すれば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。これらの中で、耐熱性、染料の移行性等の観点から、セルロース系樹脂、アセタール系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリエステル系樹脂及びフェノキシ樹脂等が特に好ましい。
【0040】
本発明では、上述のバインダー樹脂に加え、次のような離型性グラフトコポリマーを離型剤又はバインダーの一部として用いることができる。
上記離型性グラフトコポリマーは、一般に、ポリシロキサンセグメント、フッ化炭素セグメント、フッ化炭化水素セグメント及び長鎖アルキルセグメントからなる群より選択された少なくとも1種の離型性セグメントを上述のバインダー樹脂のポリマー主鎖にグラフト重合させてなるものである。
これらのうち、特に好ましいのはポリビニルアセタール樹脂からなるポリマー主鎖にポリシロキサンセグメントをグラフトさせて得られたグラフトコポリマーである。
【0041】
本発明において、上記染料担持層は、上記染料、バインダーと、その他必要に応じて従来公知の各種添加剤を加えてもよい。
該添加剤として、例えば、受像シートとの離型性やインキの塗工適性を向上させるために添加するポリエチレンワックス等の有機微粒子、無機微粒子、燐酸エステル、シリコーンオイル等の離型剤が挙げられる。
【0042】
本発明において、上記染料担持層は、通常、適当な溶剤中に上記一般式(1)の化合物等の染料、バインダーと、必要に応じて添加剤を加えて、各成分を溶解又は分散させて塗工液を調製し、その後、この塗工液を基材シートの上に塗布、乾燥させて形成することができる。
上記一般式(1)の化合物は、トルエン、メチルエチルケトン、乳酸メチル等、染料担持層塗工液に汎用される有機溶剤の種類を問わず溶解性が高いので、熱転写シートの染料として使用する場合、高い染料/樹脂比の染料担持層にすることができる。この点、本発明の熱転写シートは、上記一般式(1)のキノフタロン化合物を染料として用いることにより、染料/樹脂比が高い染料担持層を有するので、転写時の感度が良く、発色濃度にも優れている。
上記塗工液は、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の公知の手段を用いて塗工することができる。
本発明において、上記染料担持層は、乾燥後塗布量を一般に0.2〜6.0g/m、好ましくは0.3〜3.0g/m程度とすることができる。
【0043】
(基材シート)
本発明の熱転写シートにおける基材シートとしては、従来公知のある程度の耐熱性と強度を有するものであれば何れのものでもよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルフィドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリサルホンフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム、ポリイミドフィルム、アイオノマーフィルム等が挙げられる。
上記基材シートは、一般に0.5〜50μm、好ましくは1〜10μm程度の厚みを有する。
【0044】
上記基材シートにおいて、例えば図2(a)に示すように、染料担持層を形成する面に接着処理を施していてもよい。
上記基材シートであるプラスチックフィルムはその上に染料担持層を塗布して形成する場合、塗工液の濡れ性、接着性等が不足しやすいので、接着処理を施すことが好ましい。
上記接着処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、低温プラズマ処理、プライマー処理、グラフト化処理等、公知の樹脂表面改質技術をそのまま適用することができる。また、それらの処理を二種以上併用することもできる。
【0045】
更に、上記基材シートの接着処理として、基材シート作製後、基材シート上に接着層を塗工により形成することも可能である。
上記接着層は、例えば、以下の有機材料及び無機材料から形成することができる。上記有機材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、スチレンアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂やポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン及びその変性体等のビニル系樹脂、ポリビニルアセトアセタールやポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール系樹脂等が挙げられる。
上記無機材料としては、シリカ(コロイダルシリカ)、アルミナあるいはアルミナ水和物(アルミナゾル、コロイダルアルミナ、カチオン性アルミニウム酸化物又はその水和物、疑ベークマイト等)、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン等のコロイド状無機顔料超微粒子等が挙げられる。
上記接着処理は、基材シート作製時にプラスチックフィルムを延伸処理して使用する際、未延伸フィルムにプライマー液を塗布し、その後に延伸処理をすることで作製することもできる。
【0046】
(耐熱滑性層)
本発明の熱転写シートは、例えば図2(b)に示すように、基材シートの染料担持層と反対側の面にサーマルヘッドの熱によるステッキングや印字しわ等の悪影響を防止するため、耐熱滑性層を設けることができる。
上記耐熱滑性層は、一般に、耐熱性樹脂からなるものである。
上記耐熱滑性層を形成する樹脂としては、従来公知のものであればよく、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエーテル樹脂、ポリブタジエン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリオール高分子化合物、アクリルポリオール、ポリウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタン又はエポキシのプレポリマー、ニトロセルロース樹脂、セルロースナイトレート樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート樹脂、セルロースアセテートヒドロジエンフタレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
耐熱活性層の耐熱性を高めるために架橋剤としてポリイソシアネート化合物等を併用し架橋樹脂層とすることが望ましい。
【0047】
上記耐熱滑性層は、上記耐熱性樹脂に加え、滑り性付与剤をも含有するものであってもよい。
上記滑り性付与剤としては、リン酸エステル、シリコーンオイル、グラファイトパウダー、シリコーン系グラフトポリマー、フッ素系グラフトポリマー、アクリルシリコーングラフトポリマー、アクリルシロキサン、アリールシロキサン等のシリコーン重合体が挙げられる。上記滑り性付与剤は、上記耐熱性樹脂に配合せずに耐熱滑性層に上塗りしてもよい。
上記耐熱滑性層は、更に固形あるいは液状の充填剤を添加することがより好ましい。
上記耐熱滑性層としては、耐熱性樹脂としてポリアルコール高分子化合物を含有し、上記滑り性付与剤として及びリン酸エステル系化合物を含有する層が好ましい。
【0048】
耐熱滑性層は、基材シートの上に、上記耐熱性樹脂、滑り性付与剤、更に充填剤を、適当な溶剤に溶解又は分散させて、耐熱滑性層塗工液を調製し、これを、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の形成手段により塗工し、乾燥して形成することができる。耐熱滑性層は、乾燥後塗布量が0.1〜3.0g/mであることが好ましい。
【発明の効果】
【0049】
本発明の熱転写シートは、上述の一般式(1)で表されるキノフタロン化合物を染料担持層に含有するものであるので、鮮明性及び諸堅牢性に優れ、特に発色濃度及び耐光性に優れたフルカラー画像を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。尚、文中、部又は%とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0051】
実施例1〜2
厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム〔PET〕に下記耐熱滑性層液を1.0g/m(乾燥後塗布量)を塗布し乾燥させて耐熱滑性層を形成し、該PETの耐熱滑性層と反対側の面に、下記組成の染料担持層塗工液をグラビアコーティングにより、乾燥後塗布量が0.7g/mになるように塗布し、80℃で2分間乾燥して染料担持層を形成した。
【0052】
<耐熱滑性層塗工液>
ポリビニルブチラール樹脂(エスレックBX−1、積水化学工業(株)製) 13.6部
ポリイソシアネート硬化剤(タケネートD218、武田薬品工業(株)製) 0.6部
リン酸エステル(プライサーフA208S、第一工業製薬(株)製) 0.8部
メチルエチルケトン〔MEK〕 2.5部
トルエン 42.5部
【0053】
<染料担持層塗工液>
染料(表2に示すもの) 3.0部
ポリビニルアセタール樹脂(エスレックKS−5 積水化学工業(株)製) 3.5部
MEK 6.75部
トルエン 46.75部
【0054】
実施例3
染料担持層塗工液を下記のものに変える以外は実施例1と同様である
<染料担持層塗工液>
染料(表2に示すもの) 6.0部
ポリビニルアセタール樹脂(エスレックKS−5 積水化学工業(株)製) 3.5部
MEK 5.25部
トルエン 45.25部
【0055】
比較例1〜5
染料担持層塗工液における染料の種類を後述の表2のものに代える以外は、実施例1と同様にして熱転写シートを作製した。
なお、比較例1に使用した化合物(A)は、特開2000−229945号公報(実施例1)記載の方法に基づき調製したものであり、比較例2に使用した化合物(B)は、特開平5−229268号公報(実施例11)記載の方法に基づき調製したものである。化合物(A)及び化合物(B)の構造を下記に示す。
【0056】
【化8】

【0057】
【化9】

【0058】
試験例
各実施例及び各比較例に使用した染料並びに各実施例及び各比較例から得られた熱転写シートについて、以下の試験を行った。
【0059】
染料溶解性
トルエン/MEK=1/1(質量比)に、各染料を3w/v%の量となるよう添加し、50℃にて加熱攪拌し完全に溶解させた。得られた液を25℃にて60時間放置した後、染料析出の有無を目視で判断し、溶解性を決定した。
(評価基準)
○: 析出無し
×: 析出有
【0060】
熱転写記録テスト(発色濃度)
被転写体としてオリンパス(株)製、デジタルカラープリンタ P−400専用A4サイズスタンダードペーパーを用いた。
各熱転写シートの染料担持層と染料受容面とを対向させて重ね合せ熱転写シートの裏面からヘッド引加エネルギー0.2mJ/dotの条件にてサーマルヘッドにて熱転写記録を行い、更に保護層としてオリンパス(株)製、デジタルカラープリンタ P−400専用インクリボンパックの保護層を0.15mJ/dotにて転写して、後述の濃度色相と同条件にて発色濃度を測定した。
(評価基準)
◎:発色濃度が2.0超
○:発色濃度が2.0以下、1.5超
△:発色濃度が1.5以下、1.0超
×:発色濃度が1.0以下
【0061】
耐光性テスト
上記熱転写記録テストで得られた印画物をキセノンウェザオメター(アトラス社製、Ci4000:ブラックパネル温度45℃、フィルターCIRA,ソーダライム)にて96時間照射を行い、照射前後の色相変化(照射前OD=1のΔE*ab=((照射後L*−照射前L*)+(照射後a*−照射前a*)+(照射後b*−照射前b*)1/2;式中L*,a*,b*は、CIE1976L*a*b*表色系(JISZ8729−(1980))に基づく)。
(評価基準)
◎:ΔE*abが4以下
○:ΔE*abが4以上、7未満
△:ΔE*abが7以上、10未満
×:ΔE*abが10以上
【0062】
濃度色相の測定
上記濃度、色相の測定にはグレタグマクベス社製分光測定器SpectroLinoを用いて測定した(測定条件、濃度:ANSI Status A、色相:光源D65、視野角2°)。
【0063】
各試験の結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例1〜3に使用した染料は、上述の一般式(1)のキノフタロン化合物であるが、比較例1、2、4及び5に使用した従来の染料に比べ溶剤溶解性に優れていることが分かった。更に、実施例1〜3の熱転写シートは、発色濃度及び耐光性の何れにも優れているが、比較例3の熱転写シートは発色濃度に劣り、比較例4及び5の熱転写シートは耐光性に劣ることが分かった。また、染料の含有量が高い実施例3は、発色性に加え耐光性にも特に優れていた。以上より、一般式(1)のキノフタロン化合物を染料として使用する熱転写シートは、溶剤溶解性に優れた染料を使用しているので、発色濃度及び耐光性の何れにも優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の熱転写シートは、上記構成からなるので、鮮明性及び諸堅牢性に優れ、特に発色濃度及び耐光性に優れたフルカラー画像を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明における染料担持層の実施形態を表す図である。
【図2】本発明の熱転写シートの実施形態を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート及び該基材シートの一方の面に形成された染料担持層からなり、
該染料担持層が含有するイエロー染料が下記一般式(1):
【化1】

(式中、Rは、2個以上の酸素原子をエーテル結合の形で含むアルキル基を表し、Rは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して芳香環を形成してもよい。)
で表されるキノフタロン化合物を含む
ことを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
一般式(1)で示されるキノフタロン化合物は、Rが下記一般式(2):
【化2】

(式中、Rは、1個以上の酸素原子をエーテル結合の形で含んでいてもよい総炭素数1〜6のアルキレン基を表し、環Aは1個以上の酸素原子をエーテル結合の形で含む5〜7員環の環状エーテルを表し、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は総炭素数2〜8のアルコキシアルキル基を表す。)で表されるエーテル酸素含有アルキル基であるものである請求項1記載の熱転写シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−98694(P2007−98694A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289439(P2005−289439)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】