説明

熱転写シート

【課題】 基材フィルムの一方の面に熱転写性色材層が形成され、他方の面に耐熱滑性層が形成された熱転写シートで、耐熱滑性層の硬化皮膜を形成するための長期の熱処理を行うことなく、染料のキックバックもなく、熱転写時に印画カスの発生を充分に抑制することができ、色抜けのない高品位の印画物を得ることができる熱転写シートを提供する。
【解決手段】 基材フィルム1の一方の面に熱転写性色材層3を有し、該基材フィルム1の他方の面に耐熱滑性層2が形成されている熱転写シートにおいて、該耐熱滑性層2がメチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマー25〜100質量部を共重合した樹脂を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写シ−トに関し、更に詳しくは基材フィルムの一方の面に熱転写性色材層が形成され、他方の面に耐熱滑性層が形成されている熱転写シートにおいて、耐熱滑性層の硬化皮膜を形成するための長期の熱処理(エージング)を行うことなく、染料のキックバックの問題もなく、熱転写時に印画カスの発生を充分に抑制することができ、色抜けのない高品位の印画物を得ることができる熱転写シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱転写シートとしては、基材フィルムとしてポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムを使用し、該基材フィルムの一方の面に昇華性染料とバインダー樹脂からなる熱転写色材層である染料層を設けた昇華型熱転写シートと、該染料層の代わりに着色剤を含む熱溶融性組成物からなる熱溶融性インキ層を熱転写色材層として設けた熱溶融型の熱転写シートがある。これらの熱転写シートはその背面からサーマルヘッドによって画像状に加熱され、染料層又は熱溶融性インキ層を被転写材に転写させて画像を形成する。
【0003】
更に従来の熱転写シートで、基材フィルムのプラスチックフィルムに、プラスチックの持つ融点以上の高温がサーマルヘッドから加えられる場合に、サーマルヘッドにプラスチックフィルムが融着したり、印画カスが付着することで剥離性、スリップ性が損なわれたり、基材フィルムが破れたりする問題がある。このために、耐熱性の高い熱硬化性樹脂等からなる耐熱層を形成する方法が提案されているが、この方法により耐熱性は向上するものの、サーマルヘッドのスリップ性は改善されず、また架橋剤等の硬化剤の使用が必要であることから、塗工液として2液タイプとなってしまう。更に基材が高温処理の出来ないプラスチック薄膜フィルムであることから、充分な硬化皮膜を得るために塗工後に比較的低温度で数十時間に及ぶ長期の熱処理(エージング)が必要とされる。これは、工程上煩雑であるばかりでなく、厳格な温度管理をしないと、熱処理中にシワが発生したり、塗工面と接触する反対面とが接着してしまい、ブロッキングしてしまうという問題がある。
【0004】
スリップ性の向上のために、シリコーンオイル、低融点WAX、界面活性剤等の滑剤を耐熱層に添加して、耐熱滑性層とすることが提案されているが、不適当なこれらの滑剤を使用した場合には、熱転写シートを巻き取った際に反対面に移行したり、印画時にサーマルヘッドを汚染するという問題がある。また、これら付着物を除去するためにフィラーを添加する方法があるが、不適当なものを使用した場合にはサーマルヘッドとの摩擦係数が増加して印画時にシワが発生したり、サーマルヘッドを摩耗させたりする問題がある。
【0005】
また、上記の耐熱滑性層を基材フィルムの背面に設けた熱転写シートは、製造後に巻き取り状態で保管した際、色材層と耐熱滑性層とが接することにより、色材層から耐熱滑性層へ染料が移行する(キック)という問題があった。そして、この耐熱滑性層へ移行した染料が巻き返されることにより、他の色の色材層、保護層等へ再転移し(バック)、この汚染された層が受像シートへ熱転写されることにより指定された色と異なる色相となり印画精度を著しく損なってしまうという問題もあった。これが、キックバックの問題である。更に、耐熱滑性層と色材層の長期接触により、色材層表面に染料がブリードし、印画の際に未印画部(サーマルヘッドからの加熱がない領域)が着色する地汚れが生じることがあった。
【0006】
一方、近年のプリンターの高速化に伴い、サーマルヘッドの熱エネルギーの増加、熱転写シートの高感度化、色材層における染料含有率の増加等が求められるが、これらの変更は、色材層から耐熱滑性層への染料の移行や、この移行に起因した熱転写時の問題発生の可能性を高めるものである。このため、キックバックの防止性能が良好な耐熱滑性層への要求は更に大きくなってきている。
【0007】
このようなキックバックの防止性能を改良した熱転写シートとして、例えば、特許文献1には、耐熱滑性層に用いるポリビニルアセタール樹脂のTgを80℃以上に、滑剤として使用するリン酸エステルの融点を35℃以上に限定し、染料の再転写(バック)を抑制した熱転写シートが提案され、また特許文献2には、耐熱滑性層の粗度(SRz)を3.0μm以上に限定して、基材の他方の面に、染料層とラミネート層を設けた熱転写シートにして、ラミネート層への着色(バック)を抑制することが提案されている。また、特許文献3には、耐熱性樹脂と、融点が33℃以上でありIO値(有機概念図により有機性・無機性を産出した数値)が0.23以上である滑剤と、分子中に2つ以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物の混合物から形成した耐熱滑性層を備えた熱転写シートで、染料の再転写が少なく、ブロッキングの発生もなく、熱ジワも発生しないことが提案されている。
【0008】
ところが、近年の熱転写シートを用いた熱転写記録方式では、印画速度を高速化することや、より高濃度で鮮明な画像を出力するため、サーマルヘッドの熱エネルギーは、増加の一途をたどっている。このようなサーマルヘッドの熱エネルギーの増加に伴い、熱転写時にサーマルヘッド部分に背面層の耐熱樹脂がかき取られることによりヘッドカス(以下、印画カスともいう)が溜まり、この印画カスが溜まった部分で染料等が転写されず、得られる印画物に色抜けや色ムラが発生するという問題が顕在化してきた。特に、上述のようなキックバック性能の向上を図った熱転写シートにおいて、このような印画カスの発生が顕著に見られる問題がある。
【0009】
【特許文献1】特開平9−300827号公報
【特許文献2】特開2000−225775号公報
【特許文献3】特開2002−11967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、上記の問題を解決するために本発明の目的は、基材フィルムの一方の面に熱転写性色材層が形成され、他方の面に耐熱滑性層が形成されている熱転写シートにおいて、耐熱滑性層を形成するための長期の熱処理を行うことなく、染料のキックバックの問題もなく、熱転写時に印画カスの発生を充分に抑制することができ、色抜けのない高品位の印画物を得ることができる熱転写シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、基材フィルムの一方の面に熱転写性色材層を有し、該基材フィルムの他方の面に耐熱滑性層が形成されている熱転写シートにおいて、該耐熱滑性層がメチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマー25〜100質量部を共重合した樹脂を含有することを特徴とする。
【0012】
また、前記の耐熱滑性層は、更に滑剤及びフィラーを含有することが好ましく、染料のキックバックの問題をより防止し、サーマルヘッドに付着するカスのクリーニング性、滑性が向上し、また巻取りにおけるブロッキング防止にも有効である。
【発明の効果】
【0013】
上記に記載した本発明の熱転写シートは、メチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマー25〜100質量部を共重合した樹脂を含有する構成とした。
本発明では、耐熱滑性層について、ポリメチルメタアクリレート(メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=100/0)を構成成分とした場合、基材フィルムとの接着性が高く、耐熱性もあるので、サーマルヘッドへのカス付着を抑制できるが、耐熱滑性層の皮膜における残留溶剤量が多く、染料のキックバックが生じやすい問題がある。
【0014】
それに対し、耐熱滑性層における構成樹脂として、親水性を有するメチルメタアクリレートモノマーに、疎水性モノマー(疎水性基を有する重合性モノマーである)を共重合させることで、上記の残留溶剤量が抑えられ、さらに基材フィルムとの接着性を確保できるメチルメタアクリレートモノマーと疎水性モノマーとを混合する適正な範囲を見出したものである。上記の耐熱滑性層の構成をとることにより、耐熱滑性層を形成するための長期の熱処理を行うことなく、染料のキックバックの問題もなく、熱転写時に印画カスの発生を充分に抑制することができ、色抜けのない高品位の印画物を得ることができた。
【0015】
また、前記の耐熱滑性層は、更に滑剤及びフィラーを含有することが好ましく、染料のキックバックの問題をより防止し、サーマルヘッドに付着するカスのクリーニング性、滑性が向上し、また巻取りにおけるブロッキング防止にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、発明の実施の形態について、詳述する。
図1に本発明の熱転写シートである一つの実施形態を示す。基材フィルム1の一方の面に、熱転写性色材層3を設け、基材フィルム1の他方の面に、耐熱滑性層2が形成されている。また、図2に本発明の熱転写シートである他の実施形態を示す。基材フィルム1の一方の面に、熱転写性色材層3として、イエロー色材層31、マゼンタ色材層32、シアン色材層33を面順次に繰り返し設け、基材フィルム1の他方の面に、耐熱滑性層2が形成された構成である。
以下に、本発明の熱転写シートを構成する各層について、詳しく説明する。
【0017】
(基材フィルム)
本発明の熱転写シートを構成する基材フィルム1としては、従来公知のある程度の耐熱性と強度を有するものであればいずれのものでも良く、例えば、0.5〜50μm、好ましくは1.5〜10μm程度の厚さのポリエチレンテレフタレートフィルム、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリサルホンフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム、ポリイミドフィルム、アイオノマーフィルム等の樹脂フィルムの他に、コンデンサー紙、パラフィン紙等の紙類や不織布等、又は紙や不織布と樹脂との複合体であってもよい。
【0018】
上記基材フィルムは、隣接する層との接着性を向上させるため、表面処理を施してもよい。上記表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理、プラズマ処理、グラフト化処理等、公知の樹脂表面改質技術を適用することができる。上記表面処理は、1種のみ行ってもよいし、2種以上行ってもよい。本発明では上記表面処理の中でも、コストが低い点で、コロナ処理又はプラズマ処理が好ましい。また、必要に応じ、その一方の面又は両面に下引き層(プライマー層)を形成するものであってもよい。
【0019】
(耐熱滑性層)
耐熱滑性層2は、印画時におけるサーマルヘッドの走行性、耐熱性等を向上させる目的で、形成される。本発明では、耐熱滑性層がメチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマー25〜100質量部を共重合した樹脂を含有するものである。上記の疎水性モノマーとしては、例えばアルキル基、アリール基、アラルキル基等を有する重合性モノマーが挙げられ、特に長鎖のアルキル基のものが好ましく用いられる。耐熱滑性層を構成する樹脂において、上記のメチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマーが25質量部未満であると、耐熱滑性層の皮膜における残留溶剤量が多くなり、染料のキックバックが生じやすくなる。また、一方で、メチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマーが100質量部を超えると、基材フィルムとの接着性が低下してくる。
【0020】
上記のメチルメタアクリレートモノマーと疎水性モノマーを共重合させる合成方法としては、例えば、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法などの公知の重合方法が挙げられる。なかでも、懸濁重合法が好適である。上記のメタアクリレートモノマーと疎水性モノマーの共重合体である耐熱滑性層用樹脂を懸濁重合法で製造する際の具体的な方法としては、例えば、水性媒体中に、モノマー混合物、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤などを添加して懸濁化し、その懸濁液を加熱して重合させ、重合後の懸濁液を濾過、洗浄、脱水、乾燥することにより製造することができる。
【0021】
懸濁重合法で製造する際に使用する分散剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマー、あるいはこれらモノマーの組み合わせからなるコポリマーや、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコ−ル、メチルセルロ−ス等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。なかでも、懸濁重合時の分散安定性が良好な(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルのコポリマーが好ましい。
【0022】
また、懸濁重合法で製造する際に懸濁重合時の分散安定性の向上を目的として、無機電解質を併用することができる。無機電解質としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マンガンなどが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。また上記耐熱滑性層用樹脂を製造する際に使用する重合開始剤としては、例えば、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2´−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物;ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;などが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0023】
上記耐熱滑性層用樹脂を製造する際に使用する連鎖移動剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、sec−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)等のチオグリコール酸エステル類;β−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸3−メトキシブチル、トリメチロールプロパントリス(β−チオプロピオネート)等のメルカプトプロピオン酸エステル類;などが挙げられる。これらは、単独で用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記耐熱滑性層用樹脂を製造する際の重合温度は、50〜150℃であることが好ましく、60〜130℃であることがより好ましい。50℃未満であると、重合速度が遅く、生産性が悪い傾向にあり、150℃を超えると、重合速度が速く、重合温度の制御が困難になる傾向がある。
【0025】
本発明では、耐熱滑性層に滑り性を向上させるために、滑剤を添加することが好ましい。滑剤として金属石鹸、シリコーンオイル、シリコーン変性樹脂及びリン酸エステルよりなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。本発明の熱転写シートは、滑剤として一種の滑剤を含むものであっても、添加量の最適化によって充分な滑性を発現させることが可能であるが、滑剤として複数の滑剤を併用することにより、低印画エネルギーから高印画エネルギー領域に至るまで、より安定な滑性を得ることができる。
【0026】
上記金属石鹸としては、例えば、アルキルリン酸エステルの多価金属塩、アルキルカルボン酸の金属塩等が挙げられる。上記アルキルリン酸エステルの多価金属塩としては、プラスチック用添加剤として公知のものを使用することができる。上記アルキルリン酸エステルの多価金属塩は、一般に、アルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩を多価金属で置換することによって得られ、種々のグレードのものが入手可能である。このアルキルリン酸エステルにおけるアルキル基としては、炭素数12以上が好ましく、特にステアリル基が滑性に優れ、好ましい。またアルキルリン酸エステルの多価金属塩における金属塩は、亜鉛またはアルミニウム塩が好ましい。また、上記の金属石鹸のアルキルカルボン酸の金属塩に関しては、アルキル基としては、炭素数11以上が好ましく、特にドデシル基、ヘプタデシル基が好ましく、その金属塩として、マグネシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩が好ましい。上記の金属石鹸は、耐熱滑性層の全固形分に対し、3〜10%の含有割合が好ましい。その金属石鹸の含有割合が少なすぎると、耐熱滑性層に十分な滑り性を付与することができず、また一方で、その含有割合が多すぎると、耐熱滑性層の物理的強度等が低下するので好ましくない。
【0027】
上記シリコーンオイルを滑剤として使用した場合、低印画エネルギーから高印画エネルギー領域に至るまで優れた滑性を発現させることができる。上記シリコーンオイルとしては、従来公知の何れのものを使用してもよい。上記シリコーンオイルは、耐熱滑性層の全固形分に対し、1〜10%の含有割合が好ましい。上記シリコーンオイルの含有割合が少なすぎると、サーマルヘッドとの離型性を得ることができず、サーマルヘッドと融着しやすくなる。また一方で、その含有割合が多すぎると、染料移行性が増大したり、印画時にサーマルヘッドを汚染してしまうことがある。
【0028】
上記リン酸エステルを滑剤として使用した場合、低印画エネルギーから高印画エネルギー領域に至るまで優れた滑性を発現させることができる。上記リン酸エステルとしては、例えば、(1)炭素数6〜20の飽和又は不飽和高級アルコールのリン酸モノエステル又はジエステル、(2)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル又はポリオキシアルキレンアルキルアリルエーテルのリン酸モノエステル又はジエステル、(3)上記飽和又は不飽和高級アルコールのアルキレンオキシド付加物(平均付加モル数1〜8)のリン酸モノエステル又はジエステル、(4)炭素数8〜12のアルキル基を有するアルキルフェノール又はアルキルナフトールのリン酸モノエステル又はジエステル等が挙げられる。
【0029】
上記(1)及び(3)における飽和又は不飽和高級アルコールとしては、例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等が挙げられる。上記(3)におけるアルキルフェノールとしては、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、ジフェニルフェノール等が挙げられる。上記リン酸エステルは、耐熱滑性層の全固形分に対し、1〜10%の含有割合が好ましい。上記リン酸エステルの含有割合が少なすぎると、充分な滑り性が得られないことがあり、またその含有割合が多すぎると、染料汚染性が増大することがある。
【0030】
上記シリコーン変性樹脂を滑剤として使用した場合、低印画エネルギー領域で優れた滑性を発現させることができるとともに、高印画エネルギー領域においても好適に滑性を発現でき、印画シワの発生を好適に防止することができる。上記シリコーン変性樹脂としては、その分子の一部にポリシロキサン基を有する樹脂を意味する。上記シリコーン変性樹脂は、従来公知の方法、例えば、ポリシロキサン基含有ビニルモノマーと別の種類のビニルモノマーとの共重合、熱可塑性樹脂と反応性シリコーンとの反応等により調製することができる。
【0031】
上記シリコーン変性樹脂としては、熱可塑性樹脂とポリシロキサン基含有ビニルモノマーをブロック共重合させる方法、熱可塑性樹脂とポリシロキサン基含有ビニルモノマーをグラフト共重合させる方法、又は、熱可塑性樹脂に反応性シリコーンを反応させる方法により調製したものが挙げられる。上記シリコーン変性樹脂を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができ、なかでも、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が好ましく、色材層から耐熱滑性層への染料移行を低減させる点で、アクリル樹脂がより好ましい。
【0032】
上記反応性シリコーンとは、主鎖にポリシロキサン構造を有し、片末端又は両末端に熱可塑性樹脂の官能基と反応する反応性官能基を有する化合物である。上記反応性官能基としては、アミノ基、水酸基、エポキシ基、ビニル基、カルボキシル基等が挙げられる。上記シリコーン変性樹脂は、耐熱滑性層の全固形に対し、1〜20%の含有割合が好ましい。上記シリコーン変性樹脂の含有割合が少なすぎると、熱印加時におけるサーマルヘッドとの滑性不足、離型性不足により融着を引き起こす傾向がある。またその一方、その含有割合が多すぎると、染料汚染性が増大することがある。
【0033】
また耐熱滑性層には、サーマルヘッドへのクリーニング性を向上させるためと、キックバック防止性能を向上させるために、無機または有機のフィラーを添加することができる。無機フィラーとしては、例えば、タルク、カオリン等の粘土鉱物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物、硫酸カルシウム等の硫酸塩、シリカ等の酸化物、グラファイト、硝石、窒化ホウ素等の無機フィラーが挙げられる。有機フィラーとしては、アクリル樹脂、テフロン(登録商標)樹脂、シリコーン樹脂、ラウロイル樹脂、フェノール樹脂、アセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂等からなる有機樹脂フィラー、またはこれらを架橋剤と反応させた架橋樹脂フィラー等が挙げられる。
【0034】
上記の無機または有機フィラーは、いずれも粒径として、平均粒径で0.5〜5.0μm程度が好ましく用いられる。また上記の無機または有機のフィラーは、耐熱滑性層の全固形分に対して、3%〜10%の含有割合が好ましい。そのフィラーの添加量が少なすぎると滑り性が不十分であり、一方多すぎると形成される耐熱滑性層の可撓性や被膜強度が低下する。
【0035】
耐熱滑性層を基材フィルム上に設けるには、上記の成分をアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の適当な溶媒に溶解して、耐熱滑性層用組成物(インキ、あるいは塗工液)を用意して、これをグラビアコーター、ロールコーター、ワイヤーバー等の慣用の適切な印刷方法、塗布方法により基材フィルム上に形成する。次いで30℃〜80℃の温度に加熱することによって乾燥して、耐熱滑性層を形成すればよい。本発明の耐熱滑性層は、架橋剤等の硬化剤を用いていないので、硬化皮膜を形成するための長期の熱処理(エージング)が不要であり、製造工程が効率的に実施でき、また熱処理によるシワやブロッキング等の問題も無い。
【0036】
耐熱滑性層の厚さは、固形分の塗工量で、0.5g/m2〜5.0g/m2、好ましくは1.0g/m2〜2.0g/m2である。この膜厚が0.5g/m2よりも薄い場合は、耐熱滑性層としての効果が十分ではなく、また5.0g/m2よりも厚いと、熱転写性色材層へのサーマルヘッドからの熱伝達が悪くなり、印字濃度が低くなるという欠点を生じる。基材フィルム上に耐熱滑性層を設ける場合は、熱転写性色材層に熱の影響を及ぼさないようにするために、耐熱滑性層を基材シート上に設けた後で、熱転写性色材層を設けることが好ましい。
【0037】
(熱転写性色材層)
基材フィルムの耐熱滑性層の設けられている面の他方の面に形成する熱転写性色材層3は、昇華型の熱転写シートである場合には昇華性染料を含む層を形成し、熱溶融型の熱転写シートである場合には顔料などで着色した熱溶融性インキで層を形成する。以下、昇華型の熱転写シートを代表例として詳述するが、本発明は昇華型の熱転写シートのみに限定されるものではない。
【0038】
昇華型の熱転写性色材層に用いられる染料としては、従来、公知の熱転写シートに使用されている染料は、いずれも本発明に使用可能であり、特に限定されない。これらの染料としてはジアリールメタン系、トリアリールメタン系、チアゾール系、メロシアニン等のメチン系、インドアニリン系、アセトフェノンアゾメチン,ピラゾロアゾメチン,イミダゾルアゾメチン,ピリドンアゾメチン等のアゾメチン系、キサンテン系、オキサジン系、ジシアノスチレン,トリシアノスチレンに代表されるシアノメチレン系、チアジン系、アジン系、アクリジン系、ベンゼンアゾ系、そしてピリドンアゾ,チオフェンアゾ,イソチアゾールアゾ,ピロールアゾ,ピラゾールアゾ,イミダゾールアゾ,チアジアゾールアゾ,トリアゾールアゾ,ジスアゾ等のアゾ系、スピロピラン系、インドリノスピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系、ナフトキノン系、アントラキノン系、キノフタロン系等があげられる。具体的には次のような染料が用いられる。
【0039】
C.I.(Color Index)ディスパースイエロー51,3,54,79,60,23,7,141,201,231
C.I.ディスパースブルー24,56,14,301,334,165,19,72,87,287,154,26,354
C.I.ディスパースレッド135,146,59,1,73,60,167
C.I.ディスパースオレンジ149
C.I.ディスパースバイオレット4,13,26,36,56,31
C.I.ソルベントイエロー56,14,16,29
C.I.ソルベントブルー70,35,63,36,50,49,111,105,97,11
C.I.ソルベントレッド135,81,18,25,19,23,24,143,146,182
C.I.ソルベントバイオレット13
C.I.ソルベントブラック3
C.I.ソルベントグリーン3
【0040】
例えばイエロー染料としてフォロンブリリアントイエローS−6GL(サンド社製、ディスパースイエロー231)、マクロレックスイエロー6G(バイエル社製、ディスパースイエロー201)、マゼンタ染料としてMS−RED−G(三井東圧化学株式会社製、ディスパースレッド60)、マクロレックスレッドバイオレットR(バイエル社製、ディスパースバイオレット26)、シアン染料はカヤセットブルー714(日本化薬株式会社製、ソルベントブルー63)、フォロンブリリアントブルーS−R(サンド社製、ディスパースブルー354)、ワクソリンブルーAP−FW(ICI社製、ソルベントブルー36)等があげられる。
【0041】
次に、上記の染料を担持するためのバインダー樹脂としては、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース,酢酸セルロース、酢酸・酪酸セルロース等のセルロース樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルピロリドン等のビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド等のアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等があげられるが、これらの中ではセルロース系、ポリウレタン系、ビニル系、アクリル系およびポリエステル系の樹脂が耐熱性、染料移行性などの点で好ましく用いられる。
【0042】
昇華型の熱転写性色材層である染料層は、前記基材フィルムの一方の面に、これらの染料及びバインダー樹脂、必要に応じて添加剤(例えば、離型剤など)やフィラー等を加えて、トルエン、メチルエチルケトン、エタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノン、DMF等の適当な有機溶剤に溶解したり、あるいは有機溶剤や水等に分散させて、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、リバースロールコーティング印刷法等の手段により塗工および乾燥して塗膜を形成することができる。このようにして形成する染料層は、塗工量の厚さで、乾燥状態で、0.2〜5.0g/m2好ましくは0.4〜2.0g/m2程度の厚さであり、また染料層中の昇華性染料は、染料層の質量の5〜90質量%好ましくは10〜70質量%の量で存在するのがよい。希望する熱転写性色材層の画像がモノカラーである場合は、イエロー、マゼンタ、シアン等の染料層の中から1種を選んで形成し、またフルカラー画像である場合には適当なイエロー、マゼンタ、およびシアン(必要に応じて、ブラックも追加する)の各染料層を選んで形成する。
【0043】
上記に説明した熱転写性色材層は、基材フィルムに単一の色相の色材層を設けて、モノカラーの印画物を形成することが可能であるが、少なくとも2つ以上の異なる色相の熱転写性色材層を基材フィルムに面順次に形成することが好ましく行なわれる。昇華性染料を用いた染料層を2つ以上形成したり、染料層と熱溶融性インキの熱転写性色材層の組み合わせや、また熱溶融性インキの熱転写性色材層が2つ以上であっても良い。本発明では特に、基材フィルムに昇華性染料を含む熱転写性色材層として、イエロー染料層、マゼンタ染料層、シアン染料層を面順次に形成して、フルカラー写真画像に匹敵する高品質の熱転写画像を形成することが好ましい。尚、黒色の文字やパターンの熱転写画像の場合、上記の染料層のイエロー色材層、マゼンタ色材層、シアン色材層の3色を重ねて、黒色を得ることは可能であるが、カーボンブラックの着色剤を使用した黒色の熱溶融性インキからなる色材層を基材フィルムに追加して、設けることが好ましい。これにより、黒色濃度が高く、鮮明な画像を得ることが出来る。
【0044】
また本発明の熱転写シートは、基材フィルムの一方の面に熱転写性色材層を設け、該基材フィルムの他方の面に耐熱滑性層を設けてなるものであれば、転写保護層や下引き層やその他の層を設けてなるものであってもよい。上記転写保護層を上述の熱転写性色材層と面順次に形成した場合、画像形成後に画像面を保護する保護層を転写することができ、有用なものである。上記転写保護層の層構成及び組成は特に限定されず、使用する基材フィルム、熱転写性色材層等の特徴に応じて、従来公知の技術より選択することができる。また、上記下引き層は、基材フィルムと染料層または基材フィルムと耐熱滑性層の接着性を考慮し、特に染料層と基材フィルムの間に設ける場合は染料の転写効率を向上させる組成などを従来公知の技術より適宜選択して設けることができる。
【0045】
本発明の熱転写シートは、染料の再移行に起因する保護層等への色移り(バック)が非常に少ないだけでなく、耐熱滑性層への染料移行(キック)が少なく、色再現性に優れ、保存後に使用しても低濃度領域も好適に色相を再現することができる。本発明の耐熱滑性層のバインダー樹脂は、メチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマー25〜100質量部を共重合した樹脂であり、長期の熱処理(エージング)を行うことなく、耐熱滑性層用組成物の塗工、乾燥工程である耐熱滑性層の形成工程のみで、耐熱滑性層を形成することができる。耐熱滑性層の形成された巻取りを、オフラインでエージング工程を経ることなく、効率的に基材フィルムの上に、耐熱滑性層を形成することができる。
【0046】
本発明の熱転写シートは、上述の基材フィルムの耐熱滑性層側にサーマルヘッド等により所定箇所を加熱・加圧し、熱転写性色材層のうち印字部に相当する箇所の染料等の色材を被転写材に転写させて印字することができる。本発明の熱転写シートが熱昇華型の熱転写シートである場合、上記被転写材として熱転写受像シート等を使用することができる。上記熱転写受像シートとしては、記録面が染料受容性を有するものであれば特に限定されず、例えば、紙、金属、ガラス、合成樹脂等の基材の少なくとも一方の面に染料受容層を形成したものを挙げることができる。上記熱転写シートは、熱溶融型の熱転写シートである場合、通常の紙、プラスチックフィルム等を被転写材として使用することもできる。上記熱転写を行う際に使用するプリンターとしては、特に限定されず、公知の熱転写プリンターを使用することができる。
【実施例】
【0047】
次に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。以下、特に断りのない限り、部又は%は質量基準である。
(実施例1)
厚さ6μmの易接着処理済みポリエチレンテレフタレートフィルム(ダイヤホイルK203E、三菱ポリエステルフィルム(株)製)の基材フィルムの一方の面に、ワイヤーバーコーターを用いて、下記耐熱滑性層用組成物1を固形分換算で0.5g/m2の割合で塗布し、100℃のオーブン内で1分間乾燥処理し、耐熱滑性層を形成した。
【0048】
<耐熱滑性層用組成物1>
・メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=100/25(質量部)で共重合したアクリル樹脂 8.5部
・ステアリン酸亜鉛(ジンクステアレート GF−200、日本油脂(株)製)0.5部
・タルク(ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)製) 1.0部
・メチルエチルケトン 45.0部
・トルエン 45.0部
上記の疎水性モノマーは、長鎖のアルキル基を有する重合性モノマーであり、また、以下に示す実施例及び比較例における疎水性モノマーについても、同様である。
【0049】
上記の基材フィルムの他方の面に(易接着処理面に)、グラビアコーターにより、下記シアン染料層(C)用組成物を、乾燥塗布量が0.8g/m2になるように、塗布し、乾燥して、熱転写性色材層であるマゼンタ染料層を形成し、実施例1の熱転写シートを作製した。
【0050】
<シアン染料層(C)用組成物>
・C.I.ソルベントブルー63 3.0部
・ポリビニルブチラール樹脂 3.0部
(BX−1、積水化学工業(株)製)
・メチルエチルケトン 41.0部
・トルエン 41.0部
【0051】
(実施例2)
実施例1における耐熱滑性層用組成物1を、下記の耐熱滑性層用組成物2にした他は、実施例1と同様にして、実施例2の熱転写シートを作製した。
<耐熱滑性層用組成物2>
・メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=100/100(質量部)であるアクリル樹脂 8.5部
・ステアリン酸亜鉛(ジンクステアレート GF−200、日本油脂(株)製)0.5部
・タルク(ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)製) 1.0部
・メチルエチルケトン 45.0部
・トルエン 45.0部
【0052】
(実施例3)
実施例1における耐熱滑性層用組成物1を、下記の耐熱滑性層用組成物3にした他は、実施例1と同様にして、実施例3の熱転写シートを作製した。
<耐熱滑性層用組成物3>
・メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=100/100(質量部)であるアクリル樹脂 8.5部
・シリコーンオイル(X−22−173DX、信越化学工業(株)製) 0.5部
・タルク(ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)製) 1.0部
・メチルエチルケトン 45.0部
・トルエン 45.0部
【0053】
(実施例4)
実施例1における耐熱滑性層用組成物1を、下記の耐熱滑性層用組成物4にした他は、実施例1と同様にして、実施例4の熱転写シートを作製した。
<耐熱滑性層用組成物4>
・メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=100/100(質量部)であるアクリル樹脂 8.5部
・リン酸エステル(プライサーフA208S、第一工業製薬(株)製) 0.5部
・タルク(ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)製) 1.0部
・メチルエチルケトン 45.0部
・トルエン 45.0部
【0054】
(実施例5)
実施例1における耐熱滑性層用組成物1を、下記の耐熱滑性層用組成物5にした他は、実施例1と同様にして、実施例5の熱転写シートを作製した。
<耐熱滑性層用組成物5>
・メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=100/100(質量部)であるアクリル樹脂 8.5部
・シリコーン変性樹脂(サイマックUS−380、東亞合成(株)製 NV30%)
1.7部
・タルク(ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)製) 1.0部
・メチルエチルケトン 44.4部
・トルエン 44.4部
【0055】
(比較例1)
実施例1における耐熱滑性層用組成物1を、下記の耐熱滑性層用組成物6にした他は、実施例1と同様にして、比較例1の熱転写シートを作製した。
<耐熱滑性層用組成物6>
・メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=100/0(質量部)であるポリメチルメタアクリレート樹脂
(ダイヤナールBR−80、三菱レイヨン(株)製) 8.5部
・ステアリン酸亜鉛(ジンクステアレート GF−200、日本油脂(株)製)0.5部
・タルク(ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)製) 1.0部
・メチルエチルケトン 45.0部
・トルエン 45.0部
【0056】
(比較例2)
実施例1における耐熱滑性層用組成物1を、下記の耐熱滑性層用組成物7にした他は、実施例1と同様にして、比較例2の熱転写シートを作製した。
<耐熱滑性層用組成物7>
・メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=100/11.1(質量部)であるアクリル樹脂 8.5部
・ステアリン酸亜鉛(ジンクステアレート GF−200、日本油脂(株)製)0.5部
・タルク(ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)製) 1.0部
・メチルエチルケトン 45.0部
・トルエン 45.0部
【0057】
(比較例3)
実施例1における耐熱滑性層用組成物1を、下記の耐熱滑性層用組成物8にした他は、実施例1と同様にして、比較例3の熱転写シートを作製した。
<耐熱滑性層用組成物8>
・メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=100/150(質量部)であるアクリル樹脂 8.5部
・ステアリン酸亜鉛(ジンクステアレート GF−200、日本油脂(株)製)0.5部
・タルク(ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)製) 1.0部
・メチルエチルケトン 45.0部
・トルエン 45.0部
【0058】
(比較例4)
実施例1における耐熱滑性層用組成物1を、下記の耐熱滑性層用組成物9にした他は、実施例1と同様にして、比較例4の熱転写シートを作製した。
<耐熱滑性層用組成物9>
・メチルメタアクリレートモノマー/疎水性モノマー=0/100(質量部)であるアクリル樹脂
(ダイヤナールBR−100、三菱レイヨン(株)製) 8.5部
・ステアリン酸亜鉛(ジンクステアレート GF−200、日本油脂(株)製)0.5部
・タルク(ミクロエースP−3、日本タルク工業(株)製) 1.0部
・メチルエチルケトン 45.0部
・トルエン 45.0部
【0059】
上記の各実施例と比較例の熱転写シートについて、耐熱滑性層の残留溶剤量、キックバック防止性、基材フィルムとの接着性、さらに印画時の摩擦係数/非印画時の摩擦係数から見た摩擦挙動について、評価した。評価方法について、以下に説明する。
評価方法
(残留溶剤量)
上記の各実施例と比較例の熱転写シートで、基材フィルム上に耐熱滑性層が設けられていて、熱転写性色材層であるシアン染料層を設けていないものを試料とした。残留溶剤量は、先ず基材フィルムとなるポリエチレンテレフタレートフィルム上に耐熱滑性層を形成したものの全体の溶剤量を測定し、次に基材フィルムのみの溶剤量を測定し、その差として求めた。測定機器としては、島津製作所製のガスクロマトグラフィー GC14−Aを用いて120℃・15分間の条件で行なった。
【0060】
残留溶剤量の評価は、以下の基準にて行なった。
◎:0mg/m2
○:5mg/m2未満
△:5mg/m2以上、10mg/m2未満
×:10mg/m2以上
【0061】
(キックバック防止性)
5cm×5cmの大きさに切断し、染料転移させた耐熱滑性層面と保護層面を重ね合わせ、定荷重圧縮試験機((株)東洋精機製作所製)を用いて、20kgf/cm2の荷重をかけ、60℃、湿度20%RHの環境下で強制的に染料を再転移させる(転移時間:24時間)。但し、保護層はキャノン(株)製カラーインク/ペーパーセットKP−36IP(商品名)の保護層部分を使用した。但し、耐熱滑性層に染料転移させる条件は、上記の各実施例及び比較例の熱転写シートで、耐熱滑性層面と染料層面を重ね合わせ、上記の荷重条件と同様に、20kgf/cm2の荷重をかけ、60℃、湿度20%RHの環境下で24時間放置して、強制的に染料を転移させた。
【0062】
染料再転移した保護層面と受像紙の受像面とを重ね合わせ、ラミネート試験機(ラミパッカーLPD2305PRO、フジプラ(株)製)を用いて、105℃、4mm・sec/lineにて転写を行った。更に、受像紙から保護層を剥がし、転写部の色相をGRETAG Spectrolino(D65光源、視野角2°;グレタグ社製)を用いて、JIS Z 8722の条件aに準拠して測定した。受像紙はキャノン(株)製カラーインク/ペーパーセットKP−36IP(商品名)を使用した。
【0063】
(評価基準)
○:染料再転移させた保護層の転写物と、染料再転移させていない保護層の転写物の色差ΔE*abが1.5未満である。
△:染料再転移させた保護層の転写物と、染料再転移させていない保護層の転写物の色差ΔE*abが1.5以上、2未満である。
×:染料再転移させた保護層の転写物と、染料再転移させていない保護層の転写物の色差ΔE*abが2以上である。
【0064】
(接着性)
基材フィルムに耐熱滑性層が形成された各熱転写シートで、耐熱滑性層の表面にメンディングテープ( 住友スリーエム(株)製、Scotch 18mm幅)を親指で3往復擦り付けて、一瞬の間に90°剥離で剥離したときの耐熟滑性層の剥離状態を以下のように評価した。
○:剥離なし
△:一部に剥離あり。
×:大きく剥離あり。
【0065】
(摩擦挙動)
京セラ(株)製サーマルヘッドKST−105−13FANを用い、これに4kgWの荷重、印画エネルギー0.11W/dotでベタ(階調値255/255:濃度マックス)と白部(階調値0/255)を印圧30Nで印画し、サーマルヘッドと耐熱滑性層の動摩擦力を測定した。動摩擦力を印圧で割ることにより摩擦係数を求めた。
受像紙はキャノン(株)製カラーインク/ペーパーセットKP−36IP(商品名)を使用し、受像紙幅は7cmとした。
【0066】
(評価基準)
ベタ印画部における摩擦係数(μ255)と白印画時における摩擦係数(μ0)の比をμ255/μ0について、以下の基準に基づき評価した。
○:0.7≦μ255/μ0<1.2
×:μ255/μ0≧1.2又はμ255/μ0<0.7
【0067】
上記残留溶剤量、キックバック防止性、接着性、さらに摩擦挙動の各評価結果を表1に示す。
【表1】

【0068】
実施例1〜実施例5における熱転写シートでは、耐熱滑性層がメチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマー25〜100質量部を共重合した樹脂を含有するもので、残留溶剤量、キックバック防止性、接着性、さらに摩擦挙動の全ての評価結果が良好であった。それに対し、比較例1における熱転写シートでは、耐熱滑性層がメチルメタアクリレートモノマーのみで、疎水性モノマーを用いないで、共重合した樹脂を含有するもので、残留溶剤量とキックバック防止性に大きな問題がある。また、比較例2における熱転写シートでは、耐熱滑性層がメチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマー11.1質量部を共重合した樹脂を含有するもので、疎水性モノマーの割合が少なく、残留溶剤量とキックバック防止性に問題がある。
【0069】
比較例3における熱転写シートでは、耐熱滑性層がメチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマー150質量部を共重合した樹脂を含有するもので、疎水性モノマーの割合が多すぎ、接着性と摩擦挙動に問題がある。比較例4における熱転写シートでは、耐熱滑性層がメチルメタアクリレートモノマーを用いず、疎水性モノマーのみで共重合した樹脂を含有するもので、接着性と摩擦挙動に大きな問題がある。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の熱転写シートである一つの実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の熱転写シートである他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 基材フィルム
2 耐熱滑性層
3 熱転写性色材層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面に熱転写性色材層を有し、該基材フィルムの他方の面に耐熱滑性層が形成されている熱転写シートにおいて、該耐熱滑性層がメチルメタアクリレートモノマー100質量部に対し、疎水性モノマー25〜100質量部を共重合した樹脂を含有することを特徴とする熱転写シート。
【請求項2】
前記の耐熱滑性層は、更に滑剤及びフィラーを含有することを特徴とする請求項1に記載の熱転写シート。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−82861(P2010−82861A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252291(P2008−252291)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】