説明

熱転写印刷装置

【課題】 印画時にインクリボンに対して一定のテンションをかけることが可能な熱転写印刷装置を簡易な機構により安価に実現することを目的とする。
【解決手段】 搬送されるインクリボン105をロール紙RPに熱押圧することで該ロール紙RPに印画を行う印刷ヘッド101を備える熱転写印刷装置であって、印画時にインクリボン105をロール紙RPに押圧させ、非印画時に押圧を解除するように印刷ヘッド101を動かす動作手段(109、111、112)と、印刷ヘッド101の手前側に配され、インクリボン105を介して対向する位置に設けられた2つのローラ(106、107)と、を備え、該2つのローラのうちの少なくとも1つ(107)は前記動作手段に連動し、印画時に該2つのローラがインクリボン105を狭持するように動作することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶融式記録や熱昇華式記録を行う熱転写方式の印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱溶融式記録や熱昇華式記録を行う熱転写方式の印刷装置(熱転写印刷装置)は、ロール紙等の記録媒体にインクリボンを重畳させた状態で、印刷ヘッドによりインクリボンのインクを昇華または溶融させることで当該記録媒体への印画を行う。
【0003】
記録媒体への印画にあたっては、インクリボンに適切な張力(テンション)をかけ、かつ、印画中は、該テンションが一定に保たれていることが望ましい。インクリボンにかかるテンションが強すぎると、印画結果に濃度むらや掠れ、色ずれが発生することとなり、また、逆にインクリボンにかかるテンションが弱すぎると、インクリボンが記録媒体に張り付いたまま記録媒体の搬送系に巻き込まれ、ジャムを起こすこととなるからである。
【0004】
このような問題を回避するための手段として、例えば、インクリボンの供給側ローラと巻取側ローラの各回転軸にそれぞれトルクリミッタを配し、回転軸トルクを制御することで、印画中のインクリボンに適切なバックテンションをかける技術が一般に知られている。かかる技術によれば、供給側ローラの回転軸に配されたトルクリミッタを適切に設定することで、巻き取り時にインクリボンに適切なバックテンションをかけることができる。
【0005】
しかし、供給側ローラの回転軸にトルクリミッタを配することでバックテンションを与えることとすると、供給側ローラに巻き回されているインクリボンの巻径によって、インクリボンにかかるバックテンションが変化することになる。
【0006】
この結果、例えば、印画開始時であって、供給側ローラに巻き回されているインクリボンの巻径が大きい場合に、適切なバックテンションが加えられるようにトルクリミッタを設定すると、印画が進み、供給側ローラに巻き回されているインクリボンの巻径が小さくなるにつれて、インクリボンにかかるバックテンションが大きくなってしまい、バンディングやインクリボン切れ等を引き起こすことにもなる。つまり、上記方法ではインクリボンに対して常時一定のバックテンションをかけることができないという問題がある。
【0007】
そこで、例えば特許文献1及び特許文献2では、インクリボンの巻径を計測しながら、回転軸の回転速度を制御する技術が提案されている。同文献によれば、インクリボンの供給ローラのモータと巻き取りローラのモータの回転をパルスエンコーダでそれぞれ検出し、そのパルス周期TsとTtに基づいてインクリボンの巻径Rs及びRtを算出したうえで、回転速度を制御することとしているため、巻径によらず一定のテンションをかけることができる。
【特許文献1】特開平6−312568号公報
【特許文献2】特開平6−316139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1、2の場合、供給ローラを駆動させるためのモータを新たに配する必要があり、コストがかかるうえ、制御が複雑になるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、供給側ローラに巻き回されているインクリボンの巻径の変化によらず、印画時に印画位置においてインクリボンに対して一定のテンションをかけることが可能な熱転写印刷装置を簡易な機構により安価に実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明に係る熱転写印刷装置は以下のような構成を備える。即ち、
搬送されるインクリボンを記録媒体に熱押圧することで該記録媒体に印画を行う印刷ヘッドを備える熱転写印刷装置であって、
印画時に前記インクリボンを前記記録媒体に押圧させ、非印画時に押圧を解除するように前記印刷ヘッドを動かす動作手段と、
前記インクリボンの印画時の搬送方向に対して、前記印刷ヘッドの手前側に配され、該インクリボンを介して対向する位置に設けられた2つのローラと、を備え、
前記2つのローラのうちの少なくとも1つは前記動作手段に連動し、印画時に該2つのローラが前記インクリボンを狭持するように動作することを特徴とする。
【0011】
また、前記動作手段は、
前記印刷ヘッドを保持する第1のアーム部材と、
前記第1のアーム部材を回動させる回動機構と、を備え、
前記2つのローラのうちの少なくとも1つは、前記回動機構により前記第1のアーム部材と連動して回動する第2のアーム部材により保持されていることを特徴とする。
【0012】
また、前記回動機構は、前記第1のアーム部材の回動角度を任意に設定可能であることを特徴とする。
【0013】
さらに、前記第2のアーム部材を前記インクリボンの方向へ押圧するバネと、該第2のアーム部材の回動範囲を規制するストッパーを更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、供給側ローラに巻き回されているインクリボンの巻径の変化によらず、印画時に印画位置においてインクリボンに対して一定のテンションをかけることが可能な熱転写印刷装置を簡易な機構により安価に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
<昇華型プリンタの印画部の構成>
本発明の第1の実施形態にかかる熱転写印刷装置(昇華型プリンタ)の印画部の構成について説明する。図1は、昇華型プリンタの印画部の構成を示す図である。同図において101は印刷ヘッドで、インクリボン105を重畳させたロール紙RPをプラテンローラ102との間で熱押圧することにより、インクリボン105のインクを昇華させ、ロール紙RPへの印画を行う。
【0017】
印刷ヘッド101はアーム部材回転軸111に回動自在に取り付けられたアーム部材109に支持されている。アーム部材109の回動は、ステッピングモータ112を用いて行うものとし、回動角度はステッピングモータ112のステップ数を制御することで自由に設定することができるようになっている。これにより、インクリボン105を重畳させたロール紙RPをプラテンローラ102との間で押圧する際の印刷ヘッド101の押圧力は、自由に設定されうる。
【0018】
そして、印画時には当該アーム部材109が図面左回りに回動することで、印刷ヘッド101が印画する位置(以下、「印画位置」と称す)に移動しインクリボン105を重畳させたロール紙RPを押圧する一方、インクリボン105の頭出しの際には当該アーム部材109が図面右回りに回動することで印刷ヘッド101が所定量退避することとなる(当該所定量退避した位置を、以下「中間位置」と称す。図2参照)。また、インクリボン105交換時には、さらに図面右回りに回動し、インクリボンカセットの取り出し/取り付けが容易に行えるように構成されている(当該位置を、以下「交換位置」と称す。図3参照)。
【0019】
107は軸受け部にトルクリミッタ113を備えたテンションローラであり、印画時のインクリボン105搬送方向(図1中の矢印)に対して印画ヘッド101の手前側に配されている。テンションローラ107は、印刷ヘッド101と同様に、アーム部材回転軸111に回動自在に取り付けられたアーム部材110に支持されており、さらにアーム部材109に配されたバネ114及びストッパー115によりインクリボン105の方向に押圧されつつ、回動範囲が規制されている。つまり、アーム部材110は、アーム部材109の回動と連動(機械的に連動)して動作することとなる。
【0020】
そして、印画時には当該アーム部材110が図面左回りに回動することで、テンションローラ107がガイドローラ106との間で、インクリボン105を狭持する。このとき、一定の力で、テンションローラ107がガイドローラ106との間でインクリボン105を押圧することで、巻取ローラ104によって巻き取られるインクリボン105に一定のバックテンションをかけることができる。
【0021】
つまり、従来の昇華型プリンタでは、供給ローラの回転軸に一定の回転軸トルクをかける構成としていたため、供給ローラに巻き回されたインクリボンの巻径が変動すると、バックテンションが変動することとなっていたところ、本実施形態では、印刷ヘッド101の手前において、インクリボンに直接負荷をかける構成としているため、インクリボンの巻径の影響を受けることなく、一定のバックテンションをかけることが可能となる。
【0022】
なお、バックテンションはテンションローラ107がガイドローラ106との間でインクリボンを押圧する際の押圧力を微調整することで、任意に調整することができる。上述したように、アーム部材110はステッピングモータ112のステップ数を制御することで自由に回動角度を変えることができることから、当該回動角度を適切に設定することで、適切なバックテンションをかけることができる。
【0023】
また、印刷ヘッド101と同様に、インクリボン105の頭出しの際にはアーム部材110が図面右回りに回動することで、テンションローラ107は中間位置まで退避する(図2参照)。このとき、テンションローラ107に押圧されていないインクリボン105には、バックテンションがかからないため、頭出しをスムーズに行うことができる。さらに、印刷ヘッド101と同様に、インクリボン105交換時には、交換位置まで回動し、インクリボンカセットの取り出し/取り付けの際に干渉しないように構成されている(図3参照)。
【0024】
図1に戻る。108は搬送ローラであり、ロール紙RPを搬送する。103、104は供給ローラ及び巻取ローラであり、それぞれインクリボン105が巻き回され、供給ローラ103と巻取ローラ104との間に張架されたインクリボン105は、巻取ローラ104が巻き取ることにより、ガイドローラ106に沿って搬送される。
【0025】
<昇華型プリンタの印画処理>
図4は、昇華型プリンタの印画処理の流れを示すフローチャートである。ステップS401では、インクリボン105の頭出しが行われる。このとき、印刷ヘッド101とテンションローラ107は中間位置(図2参照)にあり、インクリボン105の搬送を妨げることはない。
【0026】
同様にステップS402では、ロール紙RPを所定の印画位置まで搬送する。ステップS401及び402により、インクリボン105及びロール紙RPがそれぞれ所定の位置まで搬送されると、アーム部材109、110が回動し、印刷ヘッド101及びテンションローラ107が下降する(ステップS403)。これにより、印画位置にてインクリボン105とロール紙RPとが重畳された状態で搬送されることとなり、印刷ヘッド101の熱押圧によりインクリボン105のインクが昇華され、ロール紙RPに印画されることとなる(ステップS404)。このとき、テンションローラ107がガイドローラ106との間でインクリボン105を狭持しているため、巻取ローラ104により巻き取られることで搬送されるインクリボン105には、適切なバックテンションがかかっている。
【0027】
なお、カラー印刷の場合、インクリボン105には、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色のインク層と、保護層となるオーバーコート層とが長手方向に所定単位で繰り返し施されており、搬送ローラ108の正転、逆転を繰り返してロール紙RPを往復動させることにより、各色の印刷およびオーバーコートが行われる。このため、各色の印刷およびオーバーコートのたびにインクリボン105及びロール紙RPのの頭出しが必要となるが、このときも印刷ヘッド101とテンションローラ107は中間位置まで上昇し、インクリボン105及びロール紙RPの搬送を妨げないようになっている。
【0028】
印画処理が終了すると、ステップS405にて、印刷ヘッド101及びテンションローラ107が中間位置まで上昇し、使用済みのインクリボン105は、巻取ローラ104によって順次巻き取られることとなる。
【0029】
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、インクリボンの印画時の搬送方向に対して印刷ヘッドの手前側に、インクリボンを狭持するためのテンションローラを配し、印画時のインクリボンに直接的にバックテンションを与える構成とすることで、供給ローラに巻き回されたインクリボンの巻径に影響されることなく、インクリボンに一定のバックテンションを与えることが可能となる。
【0030】
また、本実施形態によれば、テンションローラが回動自在なアーム部材に取り付けられ、テンションローラの押圧力によりバックテンションを調整することとしているため、従来のように、複雑な制御調整が不要で、当該アーム部材の回動角度を調整するだけでインクリボンのバックテンションを適切に調整することができる。また、従来のようにインクリボンの供給側ローラに駆動用モータを配する必要がなく簡易な機構で実現できるため、熱転写印刷装置を安価に提供することが可能となる。
【0031】
さらに、インクリボンにバックテンションをかけるためのテンションローラを、印刷ヘッドの回動に連動して回動する構成とすることで、インクリボンの頭出しをスムーズに行うことも可能となる。
【0032】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、印刷ヘッド101を支持するアーム部材109とテンションローラ107を支持するアーム部材110とを同じアーム部材回転軸111において、同じステッピングモータ112を用いて機械的に連動して回動させることとしたが特にこれに限られるものではない。ステッピングモータ112のみならず、さらに、印刷ヘッド101を支持するアーム部材109とテンションローラ107を支持するアーム部材110とを共通化することで、印刷ヘッド101とテンションローラ107とを連動して動作させるようにしてもよい。
【0033】
また、逆に、印刷ヘッド101を支持するアーム部材109とテンションローラ107を支持するアーム部材110とをそれぞれ独立したステッピングモータを用いて別個に制御する構成としてもよい。なお、この場合には、アーム部材109とテンションローラ107とが連動するようにソフト的に制御されることとなる。
【0034】
あるいは、図面左回りの場合(印刷ヘッド101及びテンションローラ107の印画位置への回動の際)には機械的に連動して回動させ、図面右回り(印刷ヘッド101及びテンションローラ107の中間位置あるいは交換位置への回動の際)には、ソフト的に連動して回動するように構成してもよい。
【0035】
なお、上記第1の実施形態では熱転写印刷装置として昇華型プリンタを一例に挙げて説明したが、特にこれに限られるものではなく溶融型プリンタであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態にかかる昇華型プリンタの印画部の構成(印刷ヘッドが印画位置にある場合)を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる昇華型プリンタの印画部の構成(印刷ヘッドが中間位置にある場合)を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる昇華型プリンタの印画部の構成(印刷ヘッドが交換位置にある場合)を示す図である。
【図4】昇華型プリンタの印画処理の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
RP ロール紙
101 印刷ヘッド
102 プラテンローラ
103 供給ローラ
104 巻取ローラ
105 インクリボン
106 ガイドローラ
107 テンションローラ
108 搬送ローラ
109 アーム部材(第1のアーム部材、動作手段)
110 アーム部材(第2のアーム部材)
111 アーム部材回転軸(動作手段、回動機構)
112 ステッピングモータ(動作手段、回動機構)
113 トルクリミッター
114 バネ
115 ストッパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されるインクリボンを記録媒体に熱押圧することで該記録媒体に印画を行う印刷ヘッドを備える熱転写印刷装置であって、
印画時に前記インクリボンを前記記録媒体に押圧させ、非印画時に押圧を解除するように前記印刷ヘッドを動かす動作手段と、
前記インクリボンの印画時の搬送方向に対して、前記印刷ヘッドの手前側に配され、該インクリボンを介して対向する位置に設けられた2つのローラと、を備え、
前記2つのローラのうちの少なくとも1つは前記動作手段に連動し、印画時に該2つのローラが前記インクリボンを狭持するように動作することを特徴とする熱転写印刷装置。
【請求項2】
前記動作手段は、
前記印刷ヘッドを保持する第1のアーム部材と、
前記第1のアーム部材を回動させる回動機構と、を備え、
前記2つのローラのうちの少なくとも1つは、前記回動機構により前記第1のアーム部材と連動して回動する第2のアーム部材により保持されていることを特徴とする請求項1に記載の熱転写印刷装置。
【請求項3】
前記回動機構は、前記第1のアーム部材の回動角度を任意に設定可能であることを特徴とする請求項2に記載の熱転写印刷装置。
【請求項4】
前記第2のアーム部材を前記インクリボンの方向へ押圧するバネと、該第2のアーム部材の回動範囲を規制するストッパーを更に備えることを特徴とする請求項2に記載の熱転写印刷装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate